2019年度
博 士 論 文 要 旨
専修科目 : 経営戦略論 指導教員 : 柴田 高 教授
論文題名: 「群れ」の概念化の研究
― 日本生まれの(日本らしい)企業組織と経営 ―
英文題名: A Study on Conceptualization of “MURE”
― Corporate Organization with Japanese Origin Management ―
東京経済大学大学院
経営学研究科博士後期課程
学籍番号 17DB001 氏名 大森 慶晄
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博士論文要旨
1.本論文の題名
本論文の主題は「『群れ』の概念化の研究」であり、副題は「日本生まれの(日本らしい)
企業組織と経営」とする。
2.問題意識
「はじめに」で述べたように、企業組織の中に生まれ、トップ・マネジメント・チームの 意思決定に影響を与える「群れ」の概念の掘り下げは、修士論文では十分ではなかった。そ のような認識の下で、本論文では次の三つの問題意識を持っている。
第一に、「群れ」の概念化を進めること。
第二に、「日本生まれの(日本らしい)企業組織と経営」とはどのようなものかを考察し、
その中で「群れ」が生まれやすいという推定を行うこと。
第三に、修士論文で結論づけた「大倉商事の衰亡 と破綻の実像」とはどのようなもので あったかを再確認することである。
3.本論文の構成
本論文の構成は次のとおりである。
はじめに 問題意識
序 章 論文の構成と仮説の提起
第1章 修士論文の概要 「群れ」の基礎的理解のために 第2章 さまざまな生物の「群れ」
第3章 ヒトの「群れ」
第4章 四つのヒトの「群れ」の例示 「群れ」の三要素、10の特質とその図示 第5章 大倉商事以外の企業組織に生まれた「群れ」 「群れ」の四つの類型と特定の
「群れ」への傾斜
第6章 日本軍の失敗に見る「群れ」 組織進化論的な観点を含めて 第7章 ヒトの社会性と権力志向から見る「群れ」
第8章 組織進化論から見る「群れ」
第9章 リーダーシップから見る「群れ」
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第10章 離脱・発言・忠誠 企業組織の衰退への反応から見る「群れ」
第11章 「群れ」の概念 (中間的まとめ)
第12章 日本生まれの(日本らしい)企業組織と経営の土壌 第13章 日本生まれの(日本らしい)企業組織と経営の姿 第14章 結論
おわりに
尚、第2章から10章は「群れ」に関する先行研究、また、第12章と第13章は「日本 生まれの(日本らしい)企業組織と経営」に関する先行研究の分析と考察である。第11章 では、「群れ」の概念の中間的なまとめを行い、第14章では主題と副題に関する結論を述 べ、加えて、大倉商事の衰亡と破綻の実像に関する再確認を行う。
4.各章の要約
・はじめに 企業組織の「盛衰」は稀ではない。企業組織の成功に関する研究は多く、衰 亡に関する研究は少ない。なぜなら成功を求める企業組織は成功の先例に倣おうとするの に対して、正常であり、または衰退をまだ認知していない企業組織は、失敗例を敢えて 求 めようとしない。成功の研究について情報は得やすく、衰退の研究について情報は得にく い。成功者は自ら積極的に情報を開示し、失敗者は情報を開示することを躊躇し隠蔽する。
そのため、研究者が自ら研究対象である企業組織の内部情報に接することができるかどう かが重要となる。はじめにでは、上記のような企業組織の衰亡の研究の実態について述べ、
筆者の経歴と問題意識を述べる。
・序章 論文の構成を示し、本論を展開するための仮説を提起する。
・第1章 筆者の修士論文の概要を述べる。企業組織の衰亡や企業組織内に生まれる「群 れ」の影響力に関する研究は少ないため、「群れ」の概念は取りつきにくいものとなる。筆 者の修士論文の概要を述べて「群れ」について基礎的な理解を求めたい。なお、修士論文で は、大倉商事の衰亡と破綻の原因を述べている。
・第2章 アリ、ミツバチ、シロアリ、ムクドリ、サカナ、バッタなど「さまざまな生物 の『群れ』」について述べ、簡単なルールに基づく自己組織化を述べる。自己組織化のルー ルとは、アリの摂餌行動におけるフェロモンの痕跡、シロアリが作るアリ塚という実体、
バッタが群生相に相転移するときに分泌するセロトニンなどである。
・第3章 知能を持つヒトの「群れ」について述べる。ヒトは、知能がある故にSafety
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in numbers (みんなで渡れば怖くない)と考える傾向を示す。また、ヒトは、自己組織化
に拠らず知能に基づいて「群れ」を作る。ヒトの「群れ」は、最善を否定し、自らリスクを 呼び寄せることがる。
・第4章 四つのヒトの「群れ」を例示する。「烏合の衆」、「Herd(模倣)」,「 企業組 織内に生まれる『群れ』」、「派閥」である。「群れ」の出現には、「共感」、「同調」、「協働意 欲」という三要素が必要であり、また「群れ」は一般的に10の特質を持つ。四つの「群 れ」の姿を図示したが、10の特質それぞれの強弱によって、「群れ」の変化をみることが できる。
・第5章 大倉商事以外の企業組織に生まれた「群れ」を分析し、考察する。対象とした 企業組織は5社である。安宅産業では、「社賓」と呼ばれた安宅英一とその取り巻きが築い た見えない「群れ」と「権力」が生まれ、創業者一族が同社の戦略をゆがめたこと。DEC では、オルセンと技術者が築いた「群れ」と強烈な「企業文化」が、企業組織の自滅を招い たこと。三菱自動車工業では、社内に正常な「伝達」が失われており、「欠陥」がある企業 組織が不正や隠蔽を招き寄せ、同社の実質倒産を招いたこと。オリンパスでは、一握りの
「権力」者たちが財テクの失敗による損失処理を先送りし、隠蔽し、同社は破たんしたこ と。山一證券は、四大証券の一つに上り詰めたが、「一任勘定」や「にぎり」から生じた巨 額の損失処理を先送りし、「飛ばし」により損失を隠蔽し、累積した簿外債務が同社の倒産 を招いた。
また、企業組織内に生まれる「群れ」には四つの類型がある。「繁栄志向型の群れ」、「衰 亡脱却型の群れ」、「(繁栄志向と衰亡脱却」双方向型の群れ」、「群れの(利益の)ための群 れ」である。「群れ」は、ヒトが持つ「権力志向」によって「群れの(利益の)ための群れ」
に傾斜する傾向を示す。
・第6章 「日本陸軍」と「日本海軍」という巨大な二つの組織の「群れ」について考え る。軍という完成した官僚組織は平時には完璧に機能したが、戦時には二つの巨大な組織 の「群れ」は並存して、戦力を統合しようとせず、第一次世界大戦という国家総力戦のため の自己革新を怠り、「群れの(利益の)ための群れ」となって、組織の進化を自ら否定し敗 戦を招いた。
・第7章 企業組織内に生まれる「群れ」を、ヒトが持つ「社会性」と「権力志向」とい う観点から考える。ヒトは「社会性」を持ち、自然に「群れよう」とする。また、より良い 待遇と力を得るために「権力志向」を併せ持つ。このようなヒトの「本性」は、「群れ」を
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出現させやすく、また、「群れの(利益の)ための群れ」になりやすくする。
・第8章 オルドリッチの「組織進化論」から「群れ」を考える。企業組織は、「変異」、
「選択」、「保持」、「闘争」という過程をたどり、組織の「転換」を図って「進化」する。筆 者がいう企業組織内に生まれる「群れ」は「組織」ではなく「集団」であって、「境界」は 明確ではない。「群れ」は、企業組織の繁栄、または衰退からの脱却のために「提言」を行 う。「群れ」の出現は企業組織内に生じた「変異」である。衰退する企業組織は、「群れ」の 出現、すなわち変異を重視せず、上記の組織進化の過程をたどろうとしない。進化を怠り、
否定し、退化する企業組織は消滅する運命にある。
・第9章 コッターの『変革するリーダーシップ』から「群れ」を考える。リーダーは通 常一人であると考えがちだが、コッターは、複数のリーダーがいることは稀ではないとい う。また、複数のリーダーシップが総合されると、解決不能な 重大な課題も解決できると 主張する。そして、社内にはフォーマルなネットワーク以外に、緊密なインフォーマル・ネ ットワークの存在が重要だという。企業組織内に生まれる「群れ」は、インフォーマル・ネ ットワークであり、その行動は小さなリーダーシップとなる。小さなリーダーシップの統 合は企業組織のために大きな力を生む。「群れ」の統合は、成功した「群れ」に他の「群れ」
が共振し、協力することに始まる。企業組織は、上記の「変革するリーダーシップ」を活用 し進化しているかを問われる。
・第10章 ハーシュマンの『離脱・発言・忠誠』から「群れ」を考える。衰退する企業 組織では、企業組織内のある者(発言主体)が回復のために発言する。企業組織が「発言」
に対して適切に「反応」しなければ発言主体は組織を「離脱」してしまう。筆者が言う企業 組織内に出現する「群れ」は、「提言」をするが、提言は「発言」に該当する。企業組織が
「群れ」の提言に反応しなければ、「群れ」は企業組織の繁栄、または衰退からの脱却のた めの努力をやめてしまう。発言主体も「群れ」も、企業組織が反応しなければ、自身の存在 価値を確認することができずに組織を離脱し、または活動の場から退出する。このような 場合には、バーナードがいう「貢献と分配」の均衡が崩れてしまっているのである。
第11章については第14章で述べる。
・第12章 「日本生まれの(日本らしい)企業組織と経営」の土壌を考察 する。和辻哲 郎がいう世界の三つの風土のうち、日本はモンスーンの風土にいる。その風土は湿潤で、
変化が大きく、台風、豪雨、豪雪などをもたらし、酷暑、厳寒が現出する。日本人は風土に 耐え、抵抗せず、困難に遭遇したとき、激しい怒りを示してもやがて忘れる。日本人は忍従
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的であり、状況主義の生き方をするのである。丸山真男は、このような日本人は、柔軟であ るが、確立した思想を持たないと主張する。柔軟な思考の下では、天皇に象徴されるよう な「権威」は末端まで統率することはなく、古くは秀吉や家康、現代では企業組織の役員な どが「権威」をまつり上げて、権威を利用して「実質的な権力(実権)」を行使することが 自然である。「権威と権力の分離と並存」は先行研究の中で繰り返して指摘されており、日 本の歴史の中で脈々と受け継がれている。野中郁次郎のアメリカ海兵隊に関する研究があ るが、海兵隊の指揮官は、戦争の目的は示すが方法は任せるという。戦場では逸脱があっ ても現場のリーダーに判断を任せるという手法は、日本の意思決定に相似している と考え られる。
・第13章 「日本生まれの(日本らしい)企業組織と経営」の姿を考察する。イエモ ト、日本のイエ、日本人の標準型行為、日本特有の稟議制度、集団主義、情報などの資源の 分散シェアリングなどには、第12章で述べた「権威と権力の分離と並存」や「権威の間接 的行使」が明確に現れている。すなわち第13章で考察した日本の企業組織や経営の姿は、
第12章で考察した土壌に生まれた姿なのである。そのような中間職位や実権者の自由が 許容される日本の社会では、「群れ」が出現しやすいと容易に推定でき るのである。
・おわりに 筆者は、大倉商事に育てられた。同社の自然消滅のごとき倒産を黙許でき なかった筆者は、倒産の原因を解明するため本学、東京経済大学大学院経営学研究科に入 学した。修士論文を提出した後、同論文で述べた大倉商事の倒産の原因はそれが全てであ ったのか、また、企業組織内に生まれる「群れ」の概念化は十分であったのかという疑問が 徐々に大きくなった。その疑問が本論文を書く根底にある。
本論文を提出した後もさまざまな問題意識が生まれると思う。年齢と体力に相談しなが ら、欧米の企業組織と経営、そして欧米に「群れ」はあるのかなどについて研究を進めたい と考えている。
5. 第14章 結論 第11章の「群れ」の概念(中間的まとめ)を参考にして
・企業組織内に生まれる「群れ」の概念
①「群れ」は本来「性善」だが、複数の「群れ」が対立したとき、またヒトが持つ逃れられ ない「権力志向」のために、「群れ」は常に「性善」ではなく、「悪しき群れ」となる可能性 を持つ。
②「群れ」には出現のための三つの要素、10の特質、四つの類型、三つの水準がある。
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③「群れ」の四つの類型のなかでは、「群れの(利益の)ための群れ」への傾斜が見られる。
④「群れ」の出現は、組織進化論的に考えれば、「組織内に生じた『変異』」なのである。企 業組織は「群れ」の出現を認知し、企業組織にとって有益かどうかを選択し、有益な提言を 認容し、企業組織の繁栄、または衰亡からの脱却に活用しなければならない。「群れ」とそ の提言が企業組織にとって無益または有害であれば、制約し、排除する。このような「『群 れ』の『統御』」は企業組織にとって非常に重要である。
・日本生まれの(日本らしい)企業組織と経営
①日本には、アメリカ生まれ(アメリカらしい)姿ではなく、日本の風土や土壌に育まれた 企業組織と経営がある。
②日本では、権威のまつりあげと実権の行使、権力の分離と並存が長い歴史の中で認めら れる。そのような中間職位や実権者の自由がある社会では、「群れ」の出現は容易であると 推定できる。
・大倉商事の衰亡と破綻の実像の再確認
修士論文では、長期的視野に立たず、組織風土を含めた自己改革を行わず、TMTがリー ダーシップを失って「群れ」の影響を受け、状況の好転をただ待つ無為・無策に陥って大倉 商事は自然消滅したと断じた。本研究の結果、同社は、企業組織が進化し尽くしたと誤認 し、企業組織は繁栄しており「つぶれはしない」という根拠のない自信を持つに至った。そ のため、さらなる組織進化への努力を行わず、進化の過程を経ようとせず、進化を停止し た組織となった。同社の衰亡と破綻そして消滅は、無為・無策の結果という側面に加えて 組織進化の停止による消滅という側面があることが強く指摘される。
参考文献は本文に添付のとおりである。
以上が本論文の要旨である。