Title
尿路感染の原因となる腸内細菌へ及ぼす尿素の影響( 内容と
審査の要旨(Summary) )
Author(s)
藤原, 正俊
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(獣医学) 甲第383号
Issue Date
2013-03-13
Type
博士論文
Version
none
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/48009
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氏名(本(国)籍) 主 指 導 教 員 名 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号
学位授与年月
日 学位授与の要件 研究科及び専攻研究指導を受けた大学
学位
論 文 題 目審
査 委 員 藤 原 正 俊(北海道) 岩手大学 教授 原 澤 亮 博士(獣医)獣医博甲第383号
平成25年3月13日学位規則第3条第1項該当
連合獣医学研究科 獣医学専攻 岩手大学尿路感染の原因となる腸内細菌へ及ぼす尿素の影響
主査 岩 手 大 学 副査 帯広畜産大学 副査 岩 手 大 学 副査東京農工大学
副査岐阜
大 学 副査 岐阜 大 学教
授 古濱
和 久 教 授 猪 熊 寿教
授 原 澤 亮教
授藤
川 浩 教 授 福 士 秀 人教
授 五十君 静 信論
文 の 内容
の要
旨 噂乳類・両生類・軟骨魚類において過剰摂取窒素は尿素回路によりアンモニアから尿素に合成さ れ尿中に大量に排泄される。尿素は強い親水性によるタンパク質変性作用を示すことが知られてお り,また,真核生物の細胞膜を容易に通過し,DNAを傷害することなくアポトーシスを誘導する。 しかし,原核生物に対する尿素の影響についてはほとんど知られていない。著者はこれまでにヒト の尿中と同程度の尿素を添加した液体培地に発育させた細菌が菌体の伸展を伴う形態的変化を示 すこと報告してきた。そこで本研究では,ヒトの尿路感染の病原体となるア和Jg∽椚frd摘ね, 励c血zrfc肋coノブおよび助J椚0乃e肋Abonyの3菌種を尿素添加液体培地で発育させて,尿中に相当す る条件下におけるこれら細菌種の動態を調べた。 伽ねび椚血鋸揖はウレアーゼ活性を有する尿路病原菌で,ヒトの感染性ストラバイト尿石症の 原因の約70%を占める。また,PmirabilLsは液体培地中では短いswimmer細胞として増殖するが, 寒天培地上に発育させると伸展し,多核でべん毛を多数発現したswarmer細胞へ分化する。Swimmer 細胞からswa皿er細胞への分化は寒天培地などの粘桐な環境条件によりべん毛の回転運動が抑制 されることが引き金になるとされている。 第l章では尿素添加酸性液体培地で約2%の月例血∂血が多核で多数のべん毛を発現した swamer様細胞に分化することを発見し,ヒトの膀胱がん由来培養細胞系m4への細胞傷害性が中性および塩基性条件に比べ有意に高かった。この結果は尿pHの違いによるP椚frα占〟由の病原性の 違いを示唆するものであると考えられ,また,酸性尿を排泄する動物においてもP〝7かα占iJf∫感染に より尿pHが上昇することから尿路感染症における経時的な菌の動態を調べる必要性を示すもので あると考えられた。 第2章では他の腸内細菌科,E.coliFDA株とS.AbonyKlO3株に対する尿素の影響を調べた。こ れらの菌はウレアーゼ活性を欠くことからpH7.1の尿素添加試験培地を用いた。P椚ぬ古壷では認 められなかったが,両菌株において尿素の添加によって増殖速度が遅延した。また,対数増殖期に は伸展した菌が多く出現した。伸展した菌を形態学的に調べたところ,P mirabiZisのswaremer細 胞とは異なり,核分裂を完了しておらず,べん毛の発現も増強していなかった。細胞分裂装置であ るFtsZが核分裂部に集合していたことから,菌の伸展は細胞分裂の初期,核分裂が遅延している ことに起因していると考えられた。 第3章ではマイクロアレイ法によって尿素添加培地における且coJ‖乙12(W3110)株の発現を網羅 的に探索した。その結異7.3%(299/4099)の遺伝子が2倍以上発現上昇し,7.1%(290/4099)の遺伝 子が1/2以下に低下していた。全遺伝子の機能分類において顕著に増減があった機能はなかったが, キーワード抽出ではSOS応答に関する遺伝子群のうち,24%(7/29)の遺伝子が2倍以上発現上昇し ていた。SOS応答の主要な遺伝子であるrecA,1kxAおよびsuL4遺伝子についてはsemi-quantitative RTPCR法によっても発現上昇を確認した。SOS応答はDNAに傷害を受けたときに発現が増強す るとされているが,飢餓や高水圧などDNA傷害を伴わない条件でも誘導されることが近年報告さ れている。SOS応答においてはsuL4の発現によってFtsZの集合が阻害され,細菌細胞が伸展する と考えられてきたが,∫〟班欠損株でも菌は伸展することが報告され,また,本研究においてもFtsZ の集合には影響がなかったことから,他の未知の機序によって菌が伸展したと推測され,今後の検 討課題である。 第4章において尿路病原性大腸菌に対する尿素の影響を調べたが,第3章で用いたK12(W3110) 株と比べ増殖速度および菌体長に影響を及ぼさなかった。尿路病原性大腸菌はその高い鉄キレート 能により尿素ストレスを軽減している可能性が考えられた。そこで鉄キレート剤デフェラシロクス を用いて尿素添加培地から鉄イオンを除去した培地での培養を試みたところ,菌体長には大きな影 響を与えなかったものの増殖速度を著しく低下させることが判明した。さらに三価鉄イオンを相補 したところ増殖速度が回復したことから,尿中の鉄イオンか尿路病原性大腸菌の増殖に重要な役割 を担っていることが示唆された。 第5章では第1章での実験成績に基づいて,尿素添加酸性培地における月別かα摘ぉのswamer 様細胞への分化がSOS応答に起因するのかをマイトマイシンCの添加によって形態学的に検索し た。マイトマイシンCの添加によって月椚frα鋸揖は伸展したが,寒天培地上で見られるswamer 細胞のように多核でべん毛を多数発現した菌は出現しなかった。
-162-以上,本研究では詳細な機序の解明には至らなかったものの液体培地への尿素の添加が尿路病原 体の菌体を伸展させ,SOS応答を誘導することを明らかにした。これらの結果は尿路感染症におけ る細菌の経時的な動態を調べることの重要性を示した。
審
査
結 果 の要
旨 本研究はヒトの尿中と同程度の尿素を添加した液体培地に発育した細菌細胞が伸展することを 見い出したことから,尿路感染症を引き起す病原菌の尿中における動憶を解明することを目的に行 われたものである。 第1章では尿素添加酸性液体培地に月〝め血兄厄を発育させると多核のswamer様細胞へ分化する ものがあることを明らかにし,ヒトの膀胱がん由来培養細胞系T24への細胞傷害性が中性および塩 基性条件に比べ有意に高いことを明らかにした。このことは宿主の尿pHの違いにより,細菌の挙 動に違いをもたらすことを示唆していた。 第2章では尿素添加培地で発育させた他の腸内細菌である励c力erfc肋coノブFDA保と助肋0乃e∠血 AbonyKlO3株が菌体を伸展させることを明らかにした。伸展した菌体を形態学的に調べたところ, P mirabilisのswaremer細胞とは異なり,核分裂が完了しておらず,べん毛の発現も増強していな かった。細胞分裂装置FtsZは核分裂部に集合していたことから,著者は菌体の伸展が核分裂の遅 延に起因するものであると考えた。 第3章ではマイクロアレイ法によって尿素添加培地における且coJ‖こ12(W3110)株の発現を網羅 的に探索した。その結果SOS応答に関する遺伝子群の中で,24%(7/29)が2倍以上に発現上昇して いた。SOS応答と菌体の伸展との関連を示す報告は存在するが,菌体の伸展の詳細な機序を解明す るには至っていなかった。 第4章では尿路病原性大腸菌に対する尿素の影響を調べた。第3章で用いたK12(W3110)株では 尿素の添加により菌の増殖速度が著しく低下し,多くの伸展した菌が認められたが,尿路病原性大 腸菌では増殖速度および菌体長に大きな影響を及ぼさなかった。尿路病原性大腸菌はその高い鉄キ レート能により尿素ストレスを軽減している可能性が考えられたことから鉄キレート剤を用いて 鉄イオンを除去した培地での培養したところ増殖速度を著しく低下させた。三価鉄イオンにより相 補したところ増殖速度は回復したことから尿路病原性大腸菌においては鉄イオンが尿中での増殖 に重要な役割を担っていることを示唆した。 第5章では第1章の尿素添加酸性培地において数%のP椚jrα鋸肋がswmer様細胞へ分化するの はSOS応答に起因するのかをマイトマイシンCの添加によって形態学的に検索した。マイトマイ シンCの添加によって月椚frα占〟由は伸展したが,寒天培地上で見られるswamer細胞のように多 核でべん毛を多数発現した菌は認められなかった。 以上,本研究では液体培地への尿素の添加が菌を伸展させることを発見し,大腸菌K12株にお・いてSOS応答を誘導することを明らかにしたもので,これらの成果は尿路感染症における経時的 な菌の動態を調べることの重要性を初めて示したものである。 以上について審査委貞全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合猷医学研究科の学位論文として 十分価値があると認めた。 基礎となる学術論文 1) 題 目: Acidicenvironmentsinducediffbrentiationof伽teusmLtTabi友s intoswarmermorphotypes 著 者 名: Fujihara,M.,Obara,H.,Watanabe,Y,Ono,H.K.,Sasaki,J., Goryo,M.and.Harasawa,R. 学術雑誌名: MicrobiologyandImmunology 巻■号・頁・発行年: 55(7):489-493,2011