博 士 ( 水 産 学 ) 平 野 穣
学 位 論 文 題 名
DopamlnereCeptorSinflShretinae : MOleCularStudieS OfreCeptorSubtypeeXpreSS10nlnretinae (魚 類網 膜 のド ーパ ミ ン受 容体 : 網膜 にお け る受 容体 サ ブ タ イ プ 発 現 に 関 す る 分 子 生 物 学 的 研 究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
数多くの動物はその生活において外界からの視覚情報に多分に依存している。
脊 椎動 物の 網膜 は、 外界の 光の 強度 に応じてその光感度を順応させることがで き 、 そ の 調 節 の 幅 は 、 常用 対 数 単 位 で10に お よ ぶ ( っ ま り10億 倍 以 上 の 幅 を カパ ーす る) 。こ の網膜 の明 暗順 応は、網膜神経活動の連続的な変化によっ て行われ、多くの因子がその順応過程を制御していることが知られている。ドー バ ミン はそ のな かで も最も 効果 の強 い因子のーっとして知られており、特に明 所 視で の明 暗順 応に おいて 明信 号と しての効果を持つ。また、ドーバミンは網 膜 にお いて 神経 伝達 物質な らび に神 経制御因子として、ほぼ全ての網膜神経細 胞 に対 する 効果 を持 つ。ド ーバ ミン の網膜における効果は、特に冷血脊椎動物
( 魚類 、両 生類 )に おいて 最も よく 研究されており、細胞レベルでの効果の機 構 が解 明さ れて いる 。それ らの 効果 は、網膜運動反応における錐体視細胞の明 期 縮小 、水 平細 胞間 ギャッ プ結 合の 脱共役、視細胞から水平細胞への入力(グ ル タミ ン酸 )の 増強 、水平 細胞 シナ プスにおける小突起の形成等があり、どれ も が ド ー バ ミ ン と 網 膜 明 暗 順 応 の 密 接 な 関 係 を 示 唆 し て い る 。 ドー バミ ンの 細胞 に対す る効 果は 、大 きく 分け て2種 ある ドー パミン受容体 (Dユ‑likeおよびD 2‑like)によって介在される。これら2種の。ドーバミン受容体 ―1020ー
は 、 一 般 に 細 胞 内 酵 素 ア デ ニ ル 酸 シ ル ラ ー ゼ に 対 し て 相 反 す る 薬 理 学 的 な 効 果 に よ っ て 分 類 さ れ る 。 す な わ ち 、D1‑like受 容 体 はGsク ラ ス のG夕 ン パ ク 質 を 介 し 、 ア デ ニ ル 酸 シ ル ラ ー ゼ を 活 性 化 し て 細 胞 内cAMPの 濃 度 を 上 昇 さ せ る 。 一 方 、Drl永e受 容 体 はGi/Goク ラ ス のG夕 ン パ ク 質 を 介 し 、 ア デ ニ ル 酸 シ ル ラ ー ゼ の 活 性 を 抑 制 し て 細 胞 内 必MPの 濃 度 を 低 下 さ せ る 。 ま た 、 脊 椎 動 物 に お い て それ ぞれDエ‐likeおよ びD: ‐1弧に 分類 されるいくっかの受容体サブタイプの存 在 が 報 告 さ れ 、 そ れ ら の 受 容 体 は ド ー バ ミ ン に 対 す る 感 受 性 の 差 や 、 そ の 細 胞 内 情 報 伝 達 機 構 に も 異 な る 性 質 を 持 つ こ と が 知 ら れ て い る 。 現 在 ま で5つ の サ ブ タ イ プ が 脊 椎 動 物 で は 単 離 さ れ 、 そ の 性 質 が 調 ぺ ら れ て い る 。 そ れ ら は2サ ブタイプ(DlA/I)ユ,DlB/I冫5冫がDl―1永e、3サブタイプ(D2 D3 D4)がD2―likeに属 し て い る 。 近 年 さら にDl‐1永eの2サブ タイ プ(D1c D。 ) が魚 類、 両生 類、 鳥類 か ら 単 離 さ れ 、 ま た 、 別 の サ ブ タ イ プ の 存 在 も 示 唆 さ れ て い る 。 こ の よ う に 、 近 年 の 分 子 生 物 学 の 発 展 と と も に 、 多 数 の ド ー バ ミ ン 受 容 体 サ ブ タ イ プ が 単 離 同 定 さ れ 、 そ れ ら の 神 経 系 に お け る 分 布 、 薬理 学的 な効 果 が解 明さ れつ っあ る。
し か し 、 細 胞 レ ベ ル で の ド ー バ ミ ン 効 果 に お け る 受 容 体 サ ブ タ イ プ の 役 割 に つ い て は 、 依 然 と し て 不 明 な 点 が 多 い 。 ま た 、 網 膜 に お い て は ド ー パ ミ ン 効 果 に 関 す る 詳 細 な 知 見 は あ る が 、 受 容 体 サ ブ タ イ プ に 関 す る 分 子 生 物 学 的 知 見 は 少 ない。
本 研 究 で は 、 脊 椎 動 物 視 覚 系 モ デ ル と し て 詳 細 に 研 究 さ れ て い る 魚 類 網 膜 に 注 目 し 、 ド ー バ ミ ン 受 容 体 サ ブ タ イ プ の 情 報 伝 達 系 に お け る 機 能 、 お よ び 網 膜 明 暗 順 応 機 構 に お い て ド ー バ ミ ン 受 容 体 サ ブ タ イ プ が 果 た す 制 御 の 役 割 を 明 ら か に す る 事 を 目 的 と し 、 網 膜 に お い て 発 現 され るド ーノ ヾ ミン 受容 体サ ブタ イプ の 単 離 同 定 、 発 現 細 胞 な ら び に 発 現 調 節 機 構 に 関 す る 研 究 を 行 い 、 以 下 の 知 見 を得た。
(1) コ イ 網 膜 よ り8ド ー パ ミ ン 受 容 体 様cDNAク 口 ー ン を 、 ヨ ー 口 ッ パ ウ −1021一
ナ ギ 網 膜 よ り4ド ー バ ミン 受 容体 様cDNAク 口ー ン を単 離 し た。DNA塩基 配 列 よ り 推測 さ れ たア ミ ノ酸 配 列 の解 析の結果 、これら のcDNAク口ー ンはこれ ま でに 単離同定 されてい るドーパ ミン受容 体サブタイ プと非常に高い相同性を示 し た 。こ れ ら のド ー バミ ン 受 容体 様cDNAク口ー ンは、ア ミノ酸配 列の類似 性 および分子系統樹を用いた解析から、コイ網膜からの5サブタイプ(DIA3 DIA4 DIB Dic Dix)およびウナギ網膜からの4サブタイプ(DIA1,DIA2 DIB,Dユc)は、
D1‑likeドーノヾミン受容体、コイ網膜の3サブタイプ(D2 D4A D。)はD:−1永eドー バミ ン受容体 と推定さ れた。ウナギ網膜からはD211ikeドーバミン受容体は単離 されなかった。これらの受容体サブタイプの中で、コイDエ心とDlA4`コイD4Aと D4B丶ウナギDlAlとDユA2の対は非常に高い相同性を示した。コイD从の第3細胞質 ループは他のDl‐1永eと異なり、異なる細胞内情報伝達系と共役する可能性が示 唆された。
(2) (1) で 単 離 同 定さ れ たド ー パ ミン 受 容体 サ ブ タイ プ のmRNAを 発 現 する 網膜神経 細胞を同 定するた め、これ ら受容体サ ブタイプの附岨プ口ーブを 用い インシ卜 ウハイプ リダイゼーションをコイ網膜凍結切片上で行った。Dい D1B Dエ。受容体サブタイプのハイブリダイゼーションシグナルは、全ての網膜顆 粒 層 に検出さ れた。Dよ のハイブ リダイゼー ションシ グナルは 内顆粒層 に細胞 体 を 持つ一部 の細胞に 見られ、D2 D4AのmRNAは強い ハイブリ ダイゼー ション シグ ナルが外 顆粒層で 検出され た。この 結果、ほぼ 全ての網膜神経細胞におい て 、 少な く と も1サ ブ タ イプ の ド ーバ ミ ン受 容 体mRNAが発 現 され ているこ と が明 らかとな った。以 上の結果 は、これ までに知ら れている網膜におけるドー バミンの効果が、数多くの受容体サブタイプによって介在されているとともに、
これ まで効果 の詳細が 不明であ ったアマ クリン細胞 や神経節細胞も直接ドーバ ミンの影響下にあることが示唆された。
(3) 脊椎動物 の神経系 において 、ドーパミ ン産生細 胞の破壊 はドーパ ミン ―1022―
受 容 体 の 反 応 性 を 高 め る こ と が 知 ら れ て お り 、 こ の 現 象 は ¨receptor upregulation¨と呼ばれる。網膜においてもこの現象は報告されているが、その
メカニズ ムに関する 知見は乏 しい。そ こでドーバミン産生細胞を選択的に破壊 す る 神 経 毒(6‑OHDA)を 眼 球 内 注 射 し て 、 ド ー バ ミ ン 受 容 体mRNAの 発 現 量 をQuantitative PCR法を用い定量的分析を行った。その結果、発現量を検出する ことに成 功した全て の受容体 サブタイ プのmRNA発現量に有意な差はなかった。
しかし、DエA4とDAサブタイプは増加の傾向を示し、サブタイプによって異なる 発現調節機構の存在の可能性が示唆された。
(4)魚類 網膜におけ るドーパ ミンの明 暗順応に 対する様 々な効果 は、数多 くの受容 体サブタイ プにより 介在され ていることが示唆された。本研究の結果 およびこ れまでに報 告されて いる知見 を基に、網膜の明暗順応における神経細 胞間のギ ャップ結合 の役割、 ドーパミ ンの制御因子のとしての性質、各網膜神 経 細 胞 に 対 す る ドー バ ミン の 効 果と 受 容体 サ ブ タイ プ の役 割 を 考察 し た 。 以上の結 果から、本 研究では これまで 不明であった網膜におけるドーバミン 受容体サ ブタイプの 多様性を 明らかに したのみでなく、脊椎動物神経系全体に お け る ド ー バ ミ ン の 効 果 を 調 べ る 上 で 新 た な 知 見 を 提 供 し た 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 教授
島崎健二 山崎文雄 麦谷泰雄
MustafaB.A.Djamgoz
学位論文題名
DopamlnereCeptorSinflShretinae : MOleCularStudieS OfreCeptorSubtypeeXpreSSlonlnretinae (魚類網膜のドーパミン受容体:網膜における受容体 サ ブ タ イ プ 発 現 に 関 す る 分 子 生 物 学 的 研 究 )
脊椎動 物の網膜 は、外界 の光の強度に応じてその光感度を順応させる。この明暗順応は、
多く の因子よ り制御さ れており 、ドーバ ミンはその なかでも 最も効果 の強い因 子のーっ と して 知られて おり、特 に明所視 での明暗 順応におい て明信号 としての 効果を持 つ。ドー バ ミン の脊椎動 物網膜に おける効 果は、網 膜運動反応 における 錐体視細 胞の明期 縮小、水 平 細胞 間ギャッ プ結合の 脱共役、 視細胞か ら水平細胞 への入力 (グルタ ミン酸) の増強、 水 平細 胞シナプ スにおけ る小突起 の形成等 があり、ど れもがド ーパミン と網膜明 暗順応の 密 接な関係を示唆している。
ドー バミンの 細胞に対 する効果 は、大き く分けて2種 あるドー バミン受 容体(Dユ‑likeお よびD2‑Iike)に よって介 在される 。Dユ‑like受容体は、アデニル酸シルラーゼを活性化して 細胞 内c蝴Pの濃 度を上昇 させ、D2・like受容体は 、アデニル 酸シルラ ーゼの活 性を抑制 し て 細胞 内a揃Pの 濃度 を 低 下さ せ る。現在 まで5つのサ ブタイプ が脊椎動 物では単 離され、
その性質が調べられている。4サブタイプ(D1Apユ,DユBゆ5.D1c DユD)がDユ‐like、3サブタイ プ(D2,D3,D4)がD2‐likeに属している。また、別のサブタイプの存在も示唆されている。
多数 のドーパ ミン受容 体サブタ イプが単 離同定され 、それら の神経系 における 分布、薬 理 学的 な効果は 解明され つっある が、細胞 レベルでの ドーバミ ン効果に おける受 容体サブ タ イプ の役割に ついては 、依然と して不明 な点が多い 。また、 網膜にお いてはド ーバミン 効 果に 関する知 見はある が、受容 体サブタ イプに関す る分子生 物学的知 見は極め て少ない 。 本研究 では、脊 椎動物視 覚系モデルとして詳細に研究されている魚類網膜に注目し、ドー
パミン受 容体サブ タイプの 情報伝達系における機能、および網膜明暗順応機構においてドー バミン受 容体サブ タイプが 果たす制御 の役割を 明らかに する事を 目的とし 、網膜に おいて 発現され るドーバ ミン受容 体サブタイ プの単離 同定、発 現細胞な らびに発 現調節機 構に関 する研究を行い、以下の知見を得た。
(1) コ イ 網 膜 よ り8、 ヨ ー 口 ッ バ ウ ナ ギ 網 膜 よ り4ド ー パ ミ ン受 容 体様cDNAク 口 ー ンを 単 離 した 。 アミ ノ 酸 配列 の 解析 の 結 果、 こ れら のcDNAク 口ーンは これまで に単離同 定されて いるドー パミン受 容体サブタ イプと非 常に高い 相同性を 示した。 これらの ドーパ ミン受容 体様cDNAク口 ーンは、 コイ網膜か らの5サブ タイプ(DIA3,DIA4 DIB, Dic Dix) およびウナギ網膜からの4サブタイプ(DIA1 DIA2 DIB Dic)は、D1‑likeドーバミン受容体、
コイ網膜の3サブタイ
プ(Dz D4A,D4B)はD2‑Iikeドーバミ ン受容体 と推定され た。特にコイD拭の第3細胞質ルー プは 他 のD1‑likeと 異 なり 、 異 なる 細 胞内 情 報 伝達 系 と共 役 す る可 能 性が 示 唆 され た 。 (2) (1) で 単 離 同 定 さ れ たコ イ 網 膜ド ー パ ミン 受 容体 サ ブ タイ プ のmRNAを 発 現 す る網 膜 神 経細 胞 を同 定 す るた め 、こ れ ら 受容 体 サブ タ イ プのRNAプ 口ー ブ を用 い イ ンシ トゥハイ ブリダイ ゼーショ ンを行った 。受容体 サブタイ プのハイ ブリダイ ゼーショ ンシグ ナルは、 全ての網 膜顆粒層 に検出され た。以上 の結果は 、これま でに知ら れている 網膜に おけるド ーパミン の効果が 、数多くの受容体サブタイプによって介在されているとともに、
これまで 効果の詳 細が不明 であったア マクリン 細胞や神 経節細胞 も直接ド ーパミン の影響 下にあることが示唆された。
(3)網膜におけるドーバミン受容体の receptor upregulation¨現象は報告されているが、
そのメカ ニズムに 関する知 見は乏しい 。そこで ドーバミ ン産生細 胞を選択 的に破壊 する神 経 毒(6‑OHDA)を 眼 球 内 注 射 し て 、 ドー パ ミ ン受 容 体mRNAの 発 現 量をQuantitative PCR 法を 用 い 定量 的 分析 を 行 った 。 その 結 果 、受 容 体サ ブ タ イプのmRNA発 現量に有 意な差は なか っ た もの の 、DIA4とD4Aサブタ イプは増加 の傾向を 示し、サ ブタイプ によって 異なる 発現調節機構の存在の可能性が示唆された。
(4) 魚 類網 膜 にお け る ドー パミンの明 暗順応に 対する様 々な効果 は、数多 くの受容 体 サブタイ プにより 介在され ていること が示唆さ れた。本 研究の結 果および これまで に報告 されてい る知見を 基に、網 膜の明暗順 応におけ る各網膜 神経細胞 に対する ドーバミ ンの効 果と受容体サブタイプの役割を考察した。
以上の分 子生物学 的解析に 基づく研究 成果は、 これまで 不明であ った網膜 における ドー パミン受 容体サブ タイプの 多様性を明 らかにし たのみで なく、脊 椎動物神 経系全体 におけ るドーパ ミンの効 果を調べ る上で新た な視点を もたらし たものと 高く評価 され、本 論文が 博 士 ( 水 産 学 ) の 学 位 請 求 論 文 と し て 相 当 の 業 績 で あ る と 認 定 し た 。