博 士 ( 工 学 ) 清 水 久 恵
学 位 論 文 題 名
ELF 電界の生体作用機序に関する基礎的研究 学位論文内容の要旨
超高圧送電や高出 力電気機器の出現により,我々は史上未経験の強度の人工電磁界に曝 されるようになってきた。近年,電磁界の生体影響が疑われ,活発な研究が行われている。
こ のよ うな 中, 国際 的安 全基準設 定の要請が高まり,国連WHOを中心に国際的安全基準 設定に向け努カが続けられている。
本研究では,種々の人工電磁界のうち,とくにELF (Extremely Low Frequency: 0〜300Hz) 電界の生体作用を対 象とした。電界の安全基準設定にあたっては,その生体作用を明らか にする必要がある。 電界の生体作用については,これまでさまざまな調査研究が行われて きた。しかしその作 用機序については不明の点も多く,各国の安全基準は統一されてはい な い 。 わ が 国 で は , 電 界 感 知 閾 値 を も と に 法 的 規 制 値 が 設 定 さ れ て い る 。 本研究は,このよ うな状況を背景に,ELF電界 の生体作用機序の一端を明らかにすると ともに,安全基準設 定に資することを目的としている。電界の生体作用としては,体表電 界刺激と体内誘導電 流によるものの二種が考えられる。本論文では,これらのうち明確な 反 応 の 見 ら れ る 体 表 刺 激 に 着 目 し , 理 論 的 お よ び 実 験 的 検 討 を 行 っ た 。 本 論 文 は , 全8章 か ら 構 成 さ れ て お り , 主 た る 内 容は 以下 の よう に要 約さ れる 。 第1章では,本研究の目的と論文構成について述べている。
第2章では,研究の背景として, これまでのELF電界の生体影 響に関する研究,電界の 安全基 準設定の動き,さらに電界感知閾値の季節依存性の問題 について紹介している。
第3章では,電界感知の機序について考察して いる。理論的検討を通し、電界の体表刺 激が生体作用機序として有カであることが示された。また実験的検討を通し,この体表刺激 が体毛の動きを介したものであることが確かめられた。さらに,直流電界・交流電界の感知 閾 値 の 違 い も , こ の 機 序 に 基 づ き 説 明 で き る こ と が 明 ら か と を っ た 。 第4章では,体毛に働く電気カの理論解析にっ いて述べている。すなわち,体毛の動き を引き起こす電気カについて理論的に解析し,体毛に働くカを表わす式を得た。その結果,
電気カが体毛の誘電率に直接比例することが理論的に明らかになった。またこの結果より,
感 知閾 値の 季節 変動 の原 因と して ,次 の 推論 の筋 道が得られ た。っまり,季節変化→
湿 度 変 化 → 誘 電 率 変 化 → 電 気 カ 変 化 → 運 動 変 化 → 感 知 閾 値 変 化 と い う 連 鎖 の 仮 説 である。
第5章で は ,前 章仮 説の 妥当性を次のように順次検証した結 果について述べている。
(1)体 毛の 誘 電率 計測 法を 新た に開 発し ,誘 電率 が湿 度に 依存 する こ とを 見出 した。
(2)体毛に働くカを計測する方法を開発し,湿度 により電気カや体毛の動きが変化するこ とを確認した。
(3)電界感知閾値を計測する方法を考案し,湿度 により感知閾値が変化することを新たに 見出した。
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これ らの結果 より, 感知閾値 の季節 変動に対 する第4章の 仮説の妥 当性が実証された。
第6章では ,感知閾値の個人差について行った実験的検討にっき述べている。前章の実 験を通し,感知閾値に個人差があることが認められた。これは,安全基準における許容幅を 議論する上で重要な問題である。そこで感知閾値の個人差にっき実験的検討を行った。そ の結果,体毛の物理的条件,被験者の心理的条件により感知閾値が変化すること,および その変化の程度が明らかとなった。ただしこれら変化の程度は,湿度変化に伴う閾値の変 化に比べると小さいものであった。
第7章では ,安全基準の根拠をより妥当なものにするため,電界感知と生理的変化の関 係について検討している。その結果,多くの場合電界感知に伴って体表血流が一時的に増 加する現象が見出された。また皮膚電位活動についても,電界曝露に伴って変化する傾向 が認められた。これらは,個人差の範囲を超えた一般的生理作用の可能性を示唆するもの である。
最後 の8章 では,ELF電界 の生体 作用機序 に関する基礎的研究についてまとめるととも に,今後の展望を述べている。
本研究は,これまで定性的な議論の多かった電界の生体影響の研究に対し,感知閾値と いう定量的パラメータを導入することにより新たな方法論的展開を見たものである。その 結果,次のような成果が得られた。まず,本研究により,体毛の動きに起因する皮膚感覚 が,ELF電界 の生体作用機序のーっであることが確かめられた。それを受け,これまで原 因不明であった電界感知閾値の季節変動の原因が,一連の因果関係の連鎖として明らかと なった。また,本研究をとおし,感知閾値における個人差の原因についても新たな知見が 得られた。さらに,電界感知に伴って生理的変化が生じる可能性を示唆する結果も新たに得 られた。これらの結果はすべて,電界の安全基準設定に際し,有用な情報を提供するものと 考えられる。
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学位論文審査の要旨 主査 教 授 清水 孝一 副査 教 授 下澤 楯夫 副査 教授 三田村好矩
学 位 論 文 題 名
ELF 電界の生体作用機序に関する基礎的研究
超 高圧 送電や高 出力電 気機器の 出現に より、我 々は史上 未経験 の強度の 人工電 磁界 に 曝さ れるよう になっ てきた。 近年、電 磁界の 生体影響 が疑わ れ、活発 な研究 が行わ れ てい る 。 この よ う な中 、 国 際的 安全基 準設定の 要請が高 まり、 国連WHOを中心 に国 際的安全基準設定に向け努カが続けられている。
本 研究 では、種 々の人 工電磁界 のうち 、とくにELF (Extremely Low Frequency:0‑
300Hz)電界の 生体作 用を対象 としてい る。電 界の安全 基準設 定にあた っては 、その生 体 作用 を明らか にする 必要があ る。電界 の生体 作用につ いては 、これま でさま ざまな 調 査研 究が行わ れてき ている。 しかしそ の作用 機序につ いては 不明の点 も多く 、各国 の 安全 基準は統 一され てはいな ぃ。わが 国では 、電界感 知閾値 をもとに 法的規 制値が 設定されている。
本 研 究 は、 こ の よう な 状 況を 背景 に、ELF電界の 生体作 用機序の ー端を明 らかに す るとともに、安全基準設定に資することを目的としている。電界、の生体作用としては、
体 表電 界刺激と 体内誘 導電流に よるもの の二種 が考えら れてい る。本論 文では 、これ ら のう ち明確な 反応の 見られる 体表刺激 に着目 し、理論 的およ び実験的 検討を 行って いる。
本 論 文は 、 全8章 か ら 構成 さ れ てお り 、 主た る 内 容は 以 下 の よう に 要 約さ れ る 。 第1章では、本研究の目的と論文構成について述べている。
第2章 では 、 研 究の 背 景 とし て 、 これ ま で のELF電 界の 生 体影響に 関する 研究、電 界 の安 全基準設 定の動 き、さら に電界感 知閾値 の季節依 存性の 問題につ いて紹 介して いる。
第3章では、 電界感 知の機序 につい て考察し ている。 理論的 検討を通し、電界の体表 刺激が 生体作用 機序と して有カ である ことが示されている。また実験的検討を通し、こ の 体表 刺激が体 毛の動 きを介し たもので あるこ とが確か められ ている。 さらに 、直流 電 界・ 交流電界 の感知 閾値の違 いもこの 機序に 基づき説 明でき ることを 明らか にして いる。
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第4章では、体毛に働く電気カの理論解析について述べている。すなわち、体毛の 動きを引き起こす電気カについて理論的に解析し、体毛に働くカを表わす式を得てい る。その結果、電気カが体毛の誘電率に直接比例することを理論的に明らかにしてい る。またこの結果より、感知閾値の季節変動の原因として、次の推論の筋道が得られ て いる 。 っ まり、季 節変化→ 湿度変化→ 体毛の誘 電率変化 →体毛へ の電気カ 変 化 → 体 毛 の 運 動 変 化 → ヒ ト の 感 知 閾 値 変 化 と い う 連 鎖 の 仮 説 で あ る 。 第5章では、前章仮説の妥当性を次のように順次検証した結果について述べている。
まず、体毛の誘電率計測法を新たに開発し、誘電率が相対湿度に依存することを見出 している。次に、体毛に働くカを計測する方法を開発し、湿度により電気カや体毛の 動きが変化することを確認している。最後に、電界感知閾値を計測する方法を考案し、
湿度により感知閾値が変化することを新たに見出している。これらの結果より、感知 閾 値 の 季 節 変 動 に 対 す る 第 4章 の 仮 説 の 妥 当 性 を 実 証 し て い る 。 第6章では、感知閾値の個人差について行った実験的検討にっき述べている。前章 の実験を通し、感知閾値に個人差があることが認められた。これは、安全基準におけ る許容幅を議論する上で重要な問題である。そこで感知閾値の個人差にっき実験的検 討を行っている。その結果、体毛の物理的条件、被験者の心理的条件により感知閾値 が変化すること、およびその変化の程度を明らかにしている。ただしこれら変化の程 度は、湿度変化に伴う閾値の変化に比べると小さいものであることも示している。
第7章では、安全基準の根拠をより妥当なものにするため、電界感知と生理的変化 の関係について検討している。その結果、多くの場合電界感知に伴って体表血流が一 時的に増加する現象を見出している。また皮膚電位活動についても、電界曝露に伴つ て変化する傾向を認めている。これらは、個人差の範囲を超えた一般的生理作用の可 能性を示唆するものである。
最後の8章では、ELF電界の生体作用機序に関する基礎的研究についてまとめると ともに、今後の展望を述べている。
本論文の著者は、これまで定性的な議論の多かった電界の生体影響の研究に対し、
感知閾値という定量的パラメータを導入することにより新たな方法論的展開を行って いる。その結果、次のような成果が得られた。まず、本研究により、体毛の動きに起 因する皮膚感覚がELF電界の生体作用機序のーっであることが確かめられた。それを 受け、これまで原因不明であった電界感知閾値の季節変動の原因が、一連の因果関係 の連鎖として明らかにされた。また、本研究を通し、感知閾値における個人差の原因 についても新たな知見が得られた。さらに、電界感知に伴って生理的変化が生じる可 能性を示唆する結果も新たに得られた。これらの結果はすべて、電界の安全基準設定 に際し、有用な情報を提供するものであり、環境電磁工学とりわけ電磁界の生体影響 研究の進歩に寄与するところ大なるものがある。よって、著者は北海道大学博士(工 学)の学位を授与される資格のあるものと認める。