⚑.本セッション企画の経緯
2017年10月27日㈮から29日㈰にかけて,日本保険学会と日本リスク研究学 会(SRAJ: The Society for Risk Analysis Japan)が,初めて連携大会を開催 した(会場は滋賀大学経済学部)。この連携大会とは,同一日程・同一場所 で学会が開催されるだけでなく,両学会員は相互に他方の学会報告等に参加 することができ,かつ,両学会が連携したセッション等を設定するものであ った。
この連携セッションの一つとして,本セッションが企画された。テーマと しては,両学会による更なる取り組みが期待されているエマージング・リス ク(emerging risk)を取り上げることとした。また,メンバーは両学会か ら集まっていただいた。すなわち,日本リスク研究学会員である岸本充生教 授(大阪大学)と平井祐介氏(資源エネルギー庁),日本保険学会会員であ る重原正明氏(第一生命経済研究所)および日本保険学会賛助会員会社の社 員である石原康史氏(東京海上日動火災保険)である。なお,座長を務めさ せていただいた吉澤卓哉(京都産業大学),および,裏方としてずっと支援 いただいた久保英也教授(滋賀大学)は,数少ない両学会への加入会員であ る。
平成29年度大会 日本保険学会・日本リスク研究学会連携特別セッション
日本保険学会・日本リスク研究学会 連携特別セッション総括
われわれは近時のエマージング・リスク にどう向き合うべきか
座長:吉 澤 卓 哉
⚒.本セッションの意義
両学会は,リスクおよびリスクに対する対処を取り扱う点において共通性 を有している。けれども,両学会共に所属する会員が僅かながら存在するも のの,学会間の直接的な交流は従来なかった。
本セッションでは,両学会共通の課題であるエマージング・リスクを取り 上げた。特に近時において,エマージング・リスクへの内容や対処方法に関 する研究が求められていると考えられるからである。
そして,こうした研究の中心となるべき学会に位置づけられるのが日本保 険学会と日本リスク研究学会である。そして,両学会には次のような特徴が ある。すなわち,日本保険学会の賛助会員である各保険会社においては,従 来,多くのエマージング・リスクについて保険商品化を実施してきた実績が あり(エマージング・リスクの出現は近時に始まったことではない),保険 契約者と保険者のリスク分担方法に関して独自の保険技術を生み出してきた。
その一方で,ことエマージング・リスクに関しては,リスクの洗い出しやリ スク評価に関して,必ずしも十分な学術的裏付けを有する方法が採用されて いる訳ではないという弱点を有している。
他方,日本リスク研究学会においては,リスク・プロファイリングやリス ク評価やリスク・コミュニケーションについて,これまで相当の研究業績を 蓄積している。その一方で,リスクの洗い出し(リスク・プロファイリング よりも前段階の作業)について洗練された学術的方法を未だ提案できていな いし,リスク評価の先にある保険商品化について十分な関心を払ってこなか ったように思われる。
本セッションは,こうした特徴を持つ両学会が一つの問題を取り上げるこ とによって,両学会の強みを生かしつつ,いかに弱みを克服していくかの試 金石とすることに意義がある。
⚓.本セッションの内容
セッションの全体構成は次のとおりである。
まず,吉澤が,本セッションでとりあげる⽛エマージング・リスク⽜の概 念を説明したうえで,エマージング・リスクの特徴と近時の傾向を紹介した。
そして,岸本教授が,過去のエマージング・リスクの実例に触れたうえで,
規制の在り方について論じた。すなわち,エマージング・リスクについても 規制が必要となり得るが,事前規制・事後規制のそれぞれについて,規制の 根拠となるエビデンスやロジックが求められること等を指摘した。
導入的・概括的な説明に続いて,エマージング・リスクに関する保険業界 の具体的な取り組みを披露した。石原氏は,財産リスクに関するエマージン グ・リスクの例としてサイバーリスクを取り上げ,サイバーリスク保険の開 発に至る経緯や諸論点について報告した。また,重原氏は,人リスクに関す るエマージング・リスクの例として,がんの粒子線治療を取り上げ,民間医 療保険として担保する際の諸論点について報告した。
平井氏は,こうした保険業界におけるエマージング・リスクへの具体的な 対応に対してコメントを行った。また,エマージング・リスクの認知から始 まって,当該エマージング・リスクの発生結果や発生確率を調査・検証して 確定していく作業を経て,狭義の⽛リスク⽜に確定させていく一連の工程等 について報告した。
以上の各メンバーの報告に引き続いて,セッション・メンバーによるディ スカッションに入った。ディスカッションにおいては,まずは,リスクの洗 い出しを取り上げた。上述のとおり,リスク洗い出しについては洗練された 方法が確立していないからである。これについては,種々の主体(政府,民 間企業や事業者団体,非営利団体等)が様々な角度から洗い出しを行い,そ の結果を公表することが重要であることが確認された。また,岸本教授より,
次に,リスク評価を取り上げた。従来,日本リスク研究学会においてはリ スク評価に関する研究が進んでいるものの,それは一定の分野に限定されて おり,特にエマージング・リスクについては十分なデータが存在しないため リスク評価が困難であるとされ,研究が後回しになっているように見受けら れるからである(日本リスク研究学会が本格的にリスク評価を行う時点では,
もはや当該リスクはエマージング・リスクではなくなっていることがある)。
しかしながら,社会はエマージング・リスクについても何らかの対応を求め ているのであり,あるいは,むしろエマージング・リスクだからこそ何らか の対応を求めているのである。したがって,両学会としては,不十分なデー タしか存在しない,あるいは,ほとんどデータ蓄積が存在しない状況におい て,いかにリスク評価を実施するかが求められていることが確認された(も ちろん,そのような状況下におけるリスク評価においては,求められる精度 は高くない)。また,リスク評価においては,人の悪意が関与するリスク
(たとえば,サイバーリスク)の評価が特に難しいことが指摘された。
セッション・メンバーによるディスカッションに続いて,フロアとの対話 を行った。そこでは,ディスカッションと同様に有益な提言や質疑がなされ た。
当然のことながら,本セッションの評価は参加者が行うものである。ただ,
本セッション終了後には,セッション・メンバーそれぞれが高揚感で満たさ れていたことを付言しておきたい(非常に貴重な経験をさせていただいたこ とに感謝する)。
⚔.セッション・メンバーによる論文
以下に,セッション・メンバーの論文を掲載する。本セッション報告内容 に基づくものであるが,必ずしも報告内容どおりではないことをお断りして おく。
⚕.最後に
本セッションを契機として,エマージング・リスクのみならず,様々な分 野で両学会の共同研究等が進展してくことを願ってやまない。
(筆者は京都産業大学法学部教授)