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報 農鍛 冶 に よる漆掻 き道具 の製作

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Academic year: 2021

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(1)

教科 「 技術・ 家庭」における伝統技術の教材化 に関する研究 第

3

報 農鍛 冶 に よる漆掻 き道具 の製作

StudiesontheTeachingofTraditionalTechnologies intheSubject"IndustrialArtsandHomemaking"

3.TheManufactureofScratchingToolsfortheGatheringof LacquerSapbyaBlacksmithinaRuralCommunity

志村 元 ・肥 田野 豊 ・佐藤 武司 ・照井 透 *

HashimeSHIMURA YutakaHIDANO TakejiSATO ToruTERUI

論 文 要 旨

我々の祖先が残 して くれた数多 くの伝統技術 は先人 たちのす ぼ らしい技術 と知恵, そ して人 間の心 を伝 えようとしているように思われ る。現在,脚光 を浴 びている先端技術 は,人類発生 以来,先人が残 して くれた ものの延長線上 に成 り立 ってい るものであることは言 うを待 たない。

そ こで我々 は青森 県に存在 している伝統技術 について実地 に調査 し, その保存,活用,伝承 を してい く上で必要である教材化 をめざ した取 り組 を行 った もので ある。 ここで は失われつつあ る漆掻 き道具 の製作工程 について現場調査 をもとに報告 した ものであ る。

キー ワー ド :伝統技術,実地調査,漆掻 き道具,製作工程

1

.は じめに

伝統技術 は全国各地 に多数存在 してお り,人々の生活用具, 日用品の製作,加工 にかかわ っ て きた多 くの技術者が いる。 その技術,技能 は地域 に根 ざ した無形 の民俗文化 の財産 と考 えら れ る。 しか しなが ら,近年の急激 な工業技術 の普及や生活様式 の変化 によって,生活 に根 ざ し た伝統的な技術 は失われ ようとしている。 そこで我々 は東北地 区技術教育 デー タベースの開発 研究 グループの一員 として青森県の伝統技術 の調査研究 を行 って きた。前報

1)

において,伝統 技術 の教育的意義 について述べたが,ここで は,漆掻 き道具

2)

〜4 ) の製作工程 についてふれ,失 われつつある伝統技術 の保存,活用等 について考 え, その教材化 について検討 した ものである。

2. 漆掻 き道具 について

漆 の木 か ら効率的 に漆 を採取 す るために漆掻 き道具が使 用 され る。 ウル シ属植物 は傷 をつけ ると漆 と呼 ばれ る樹脂 を溶出す る性質 を有 し,アジアの照葉樹林帯 の地域 で古 くか ら塗料 や接 着剤 として使用 されて きた。 日本で もすでに青森県の三 内丸山遺跡 をはじめ縄文時代前期 の遺 跡か ら漆 を塗 った器物 な どが多数 出土 してお りその利用の歴史 は長 い。 その中で,漆 を採取す る作業,すなわ ち漆掻 きについて も長年の経験 をふ まえて,漆掻 き道具 とい うべ き,特殊 な遣

*弘前大学教育学部技術科教室

DepartmentofTechnology,FacultyofEducation,HirosakiUniversity

(2)

74

志村 元 ・肥 田野 豊 ・佐藤 武司 ・照井 透

具が創 り出 され使 用 され て きた。 その主 な もの は「 皮 む き」

,

「 掻 き鎌」

,

「 掻 きべ ら」

,

「え ぐ り」

お よび 「たが っぽ う」であ る。 これ らの うち, 「たが っぽ う」は漆掻 きに従事 す る人 たち ( 漆掻 き職人)が 自作 して用 いた よ うだが,他 の鉄製 の道具類 は, いわ ゆ る 「 農鍛 冶」 と呼 ばれ る職 人 が農具類等 と共 に製作 し供給 して きた。 これ らの形態 や機能 は漆掻 き職人 たちの求 めに応 じ て工夫 が重 ね られ,特殊 な用途 に対応 した完壁 な もの となってい る。 図 1はこれ らの道具類 の うち掻 き鎌,掻 きべ ら, え ぐりの形状 を示 した ものであ る。

形成 層

W

R

掻き鎌 掻きべら えぐり 図

1

漆積き道具

樹皮 ( 外部方向)∈ ‑ 木部( 内部方向) 表 皮 外樹皮 内樹皮 ( 生皮)

淡褐色 褐色 白色 淡灰色 黄色

溝 導

2

漆の木縦断面模式図

( 1 ) 皮 む き( 皮 は ぎ鎌)一漆 の木 の樹皮 は, 図

2

に模式的 に示す よ うに表面 はすで に機能 を失 っ た表皮 とこの内側 の外樹皮, さ らにその内側 の生 きた細胞組織 を持 つ乳 白色 の内樹皮 に分 け ら れ る。この内樹皮部 に漆溝樹脂道 が縦 方向 に並んでい る。なお,胸 高直径

100mm

の漆 の木 の樹皮 部 の厚 さは約 5mであった。皮 む きはこの表皮 だけ削 り取 って外樹皮 の表面 をなめ らか に し, 掻 き鎌 での掻 き溝付 け と漆 の掻 き取 りを容易 に し, さ らに採取す る漆 に不純物 が混 じらない よ

うにす るための道具 で,先端部 がわん曲 した刀の ような鎌 であ る。

3

播き鎌先端表裏のスケッチ図

. 」

掻き鎌 えぐり

4

掻き鎌とえぐりの鋪口部

(2)

掻 き鎌 ( か んな)一漆 の木 に切 り溝 を付 ける道具で,漆 を採取 す る道具 の中で最 も大切 な も

のであ り,先端部 が二股 に加工 され てい るのが特徴 であ る。 図

3

は掻 き鎌先端部表裏 のスケ ッ チ図で

U

字型 の鎌 口 と先端 が とが った 目さ し (目刺 し)の

2

つの部分 か ら成 り,全長

150mm

, 中 央部 での厚 み と幅 は

3mm,12D

l

m

であ るO鎌 口で漆 の木 の内樹皮 までむ きと り,次 に目き しで漆 溝 を切 断 してや る と乳 白色 の漆 が渉 出 して くる。 この ように刃物 として使 うので先端部 にはや す き鋼 を鍛 接 してい る。鎌 口の幅 は図

4

に示 してい るが約

4mm

であ る。

(3)

掻 きべ ら( へ ら)一惨 出 した漆 を掻 き取 る道具 で掻 きべ らの先端 は掻 き鎌 で付 けた溝 に合 う

(3)

形 に加工 され る。材料 は地鉄 を鍛造 によ り板状 に加工 し,全長 は約

160

m 皿である。

(4)

え ぐり一秋 になると漆 の樹皮 も硬 くなるので,皮 む きを使わ ないで, え ぐりで表皮 か ら外 樹皮 まで削 り, その後掻 き鎌 で掻 き溝 を付 けやす くす る。 これ も鎌 口部 にやす さ鋼 を鍛接 を し てい る。全長 は掻 き鎌 とほぼ同 じであ るが 目さ しが無 く,鎌 口の幅 は図

4

に示 すように大 きく 約

16mm

であ る。 なお,図

1

に示 した道具塀 に漆掻 き職人 たちは各 自の手 に合 う形 と大 きさの柄

を付 けて使用す る

3

.掻 き鎌 の製作工程

この工程 は後述す るように概略す ると

(1)

か ら( 1 如こ分 け られ るが,図

5

はこれ らの工程 の幾 つ か をスケ ッチ図で示 した ものである。 これ は青森 県三戸郡 田子町 の中畑文利鍛冶場 において調 査 した ものである。

(1

) 地金づ くり ・地鉄 とやす さ鋼 の鍛接

市販 の地鉄 とやす さ鋼 を使用 し,鍛接用 のクス リ ( 鉄 を加熱 した とき出 る青錆 とホウ酸 を重 量比で等 し く混ぜた物) を地鉄 とやす き鋼 の間 に入れ, これ をホ ド ( 火床)で加熱 した後,ハ ンマー とム コウヅチ ( 大ハ ンマー)で交互 に鍛 えて鍛接す る。 ホ ドで使用 され る燃料 はコー ク スで,送風 はフイ ゴで行 っている。加熱温度 の測定器具 は使用 されず,経験 と勘 によ り加熱色 で判断 してい る。加熱色 よ り約

900oC

以上 の温度 と思われ るO

(2)

伸 ば しと切断

鍛接 した部分 をム コウヅチで薄 くしてい き適 当な厚 み ( 約

3m)

に した後, まだ鍛造 してい ない地鉄部分 をホ ドで加熱 した後, タガネで切 断す る。

(3)

伸 ば しと切 りとり

地鉄部分 を加熱 し,鍛接 した部分の厚 み と等 し くするためム コウヅチで薄 く鍛 えてい き, さ らに地金 の凹凸の調整 のためナラシを用 いてム コウヅチで鍛造す る。 その後サ シガネで 目安 の 線 を引 き, 自作 のキ リバ シで掻 き鎌

4

本分 を切 断す る。

(4)

鎌 口 と目きしの切 りとり

鎌 口 と目さ しとなる部分 を切 り分 ける

。(

川工程で鎌 口部 を曲げて加工 す るため, 日さしが長 くな るので, その先端部 を切 り落 とす。

( 1 ) ( 2) ( 3) ( 4)

や す 静 ♂

( 5)

:

̲

: L

地 鉄

( 9) ( 川

5 掻 き鎌製作工程のスケ ッチ図

(4)

76

志村 元 ・肥 田野 豊 ・佐藤 武司 ・照井 透

(5)

鎌 口 と柄 の加工

烏口の上 でハ ンマーで鎌 口の部分 を水平 に曲げ, さらに金敷 で平 らに加工 し,柄 の先端部 を細 くす るためキ リバ シで切断す る。

(6)

くぎ穴 の加工

くぎ穴部 は加熱後,ハ ンマーで細 くした後,烏 口の上で柄 の先端部分 を曲げて くぎ穴 を作 り, 木製柄 を付 けた ときに固定 され るようにす る。

( 7) 焼 な まし

ホ ドで加熱 した後藁灰 中に入れ,地金 を軟 らかに し

,(9)

工程 の切 削,研 削加工 を容易 にす る ための熱処理 である。

(8)

型 どり

鎌 口部 の整形前で平板上 の型紙 ( 薄 い金属板) をあて,仕上 げの目安 とす るためケ ビキで線 を引 く。

(9)

鎌 口 と目さしの加工

鎌 口部 の刃 はグライ ンダー と棒 ヤス リで薄 くし, 目さ し部分 はグライ ンダーで加工す る。

(10)

焼 な らし

鎌 口 と目さし部 をホ ドでやや赤 みがかるまで加熱 した後空気中で冷却す る。

(ll

) 鎌 口づ くり

ペ ンチ とハ ンマー を用 いて,慎重 に曲げて鎌 口を整形す る。 この工程 が最 も大切 な加工 で熟 練 した技術 や精神 の集中が必要 と言われ る。

(12)

焼入れ

鎌 口 と目さ し部分 に焼入れ用 クス リ ( 黄血塩 と食用酢 を混ぜ た物) を塗 り, こん ろを使 い, 炭火中で焼 き加減 を見なが ら,水 に素早 く焼 き入れ る。 この加熱温度 は鍛接 してい るやす き鋼 の焼入れ温度 に相 当す る約8 0 0 o C前後 と思われ る。

u3)

鎌 口の局面整形

鍛接 をしているため焼入れ によって鎌 口の幅 な どが歪 んで しまうため整形 す る。

6 掻 き鎌製作工程(1)の作業現場

い こな しているのは頼 もしい限 りである。

( 1 4 ) 焼 もどし

弱火で赤 くな らない程度 に加熱 した後,水 で冷や している。

(15)

完成

完成 した掻 き鎌 の重量 は約

25

グラム。

この掻 き鎌 を製作す る鍛冶道具類 は代 々受 け継 が れて きた ものであ り,使用者 の必要 に応 じて希望 の 形 に手作 りされ るのがほ とん どである。

図 6

は工程 ( 1 ) の作業風景 であ り,奥様 が大ハ ンマーを自在 に使

4.おわ りに

今回調査 を行 った中畑文利氏 は現在で は掻 き鎌 の製作 で は日本 で唯一 の人 となっている。 そ

の漆掻 き道具の他,ニ ンニ クの根切 り道具,農具類,刃物類 の製作 や修理 を行 ってい るが,後

継者難 に もかかわ らず,夫婦 で活 き活 きと製作 にあた り,伝統技術 を受 け継 いでい るのが現況

(5)

であ る。伝統技術 を支 えて きたの は製作,加工 にたず さわ って きた多 くの技術者,技能者 で あ り,長年 にわ た る技術 の伝承 のた ま ものであ る。 ここで は,漆器類 に必要 な漆液 を採取 す る道 具 の 1つであ る掻 き鎌 の製作工程 を中心 に実地調査 に もとず き報 告 した もので あ る.優 れ た伝 統技術 の伝承,保存,活用等 について引 き続 き調査 ・研 究 を行 い,漆掻 き道具,漆 を採取 す る 木,漆 を使 用 した漆器 を含 めた金工,木工,栽培領域 の複合教材化 について検討 したい。

本研究 の一部 は平成

7

年度〜平成

9

年度文部省 科学研 究費補助 金 ( 基盤研究

B)

( 課題 番号

0745804

1 )の助成 に よる ものであ り, ここに記 して謝意 を表 す る。 なお, 本稿 は

,1997

年1

2

7

日, 日本産 業技術教育学会第

15

回東北支部 ( 弘前市)大会 で発表 した ものであ る。

参考文献

( 1 ) 肥田野 豊 ・志村 元 ・佐藤武司 ・照井 透 :弘前大学教育学部紀要 第7

9 (1998) (2)

高野徳明 :漆の木 ( 苗木づ くり 植栽 撫育管耳 か き取 り作業) 岩手県林業改良普及協会

(1982)

(3)青森県教育委員会編 二青森県の諸職 (

青森県諸職民俗調査報告書)

(1990)

(4)

橋本芳弘 .佐藤武司 :漆文化

Nn43

漆掻 き道具 づ くり 中畑長次郎氏 日本文化財漆協会

(1986)

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