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水素結合の視覚教材化

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水素結合の視覚教材化

著者 山邊 信一, 山崎 祥子

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

10

ページ 69‑75

発行年 2001‑03‑31

その他のタイトル Visual Teaching Materials for Hydrogen Bonds URL http://hdl.handle.net/10105/4158

(2)

水素結合の視覚教材化

山 遠 信 一・山 崎 祥 子

(奈良教育大学 教育実践研究指導センター・化学教室)

Visual Teaching Materials for Hydrogen Bonds

Shinichi YAMABE・Shoko YAMAZAKI

(Center for Educational Research and Development and Department of Chemistry, Nara University of Education)

Abstract:The title materials have been developed by means of computational chemistry. First, geometries of hydrogen‑bond systems are constructed qualitatively in terms of the bond directionality. Second, the hydrogen‑

bond strength is assessed by the Coulombic and charge‑transfer interactions. Third, various geometric isomers of hydrogen‑bond systems are obtained, and the stable and favorable one is determined as the lowest energy minimum. The quantitative computational result is consistent with the prediction of a molecular model extended to the intermolecular interactions. The teaching materials may be used to demonstrate the important character of hydrogen bonds, i.e. the bond directionality. Familiar dimer systems, (HiO)i, (HF)2, (CH3COOH)2, are investigated, and the computed hydrogen bond energies are compared with the experimental ones where available.

The high boiling point (100℃) of water and the lower density of ice (than that of water) are explicable intuitively by our materials. Macroscopic phenomena should be described by microscopic behavior, i.e. interactions of

molecules. In this respect, the present materials are thought to be useful for education of general chemistry.

Computational chemistry is now of reliable accuracy, and can be applied to chemical education. The development of teaching materials for hydrogen bonds is the first step towards systematic compilation of new ones in the microscopic world.

キーワード:水素結合hydrogen bond,計算機化学computational chemistry,視覚教材visual teaching material, 構造と安定性structure and stability

1.はじめに

計算機化学の発達により、理科の化学の分野の分子 や分子集団の定量的記述が可能となりつつある。高校 化学への計算機化学の成果を導入する必要がある。こ の成果は、高校化学IBでの単元間の"厚い壁〝 を縦 断し、系統的な現象の理解を促進すると期待できる。

本論文では、 「水素結合」を軸に、作成された視覚教 材がどのような教育的意義を持っかを議論し、今後の その活用の指針を提案する。この項目は、化学結合論、

物質の成り立ち、物質の三態、熱とエネルギー、無機 化合物、有機化合物等、多くの単元と関係し、いわば 化学の総合問題的性格がある。計算機化学が与える二 つの大事な量、構造とェネルギ一、によりこの項目で

の教材化が進められる1)0

2.水素結合の意味

「水素結合」の一般的な定義は、電気陰性度の大き な原子Ⅹ, Yと水素原子が直線上に並ぶことである。

n

かつ、 Yの孤立電子対(nv)が、この直線上にある ことである。

(3)

⊂>x

Ⅹ−Hの反結合性軌道がに、最も有効に電荷移動を 起こすためには、αⅠ内の逆符号成分とn,との重なり を避ける必要があるからである。

非直線構造で、電荷移動の程度が落ちる。

0★

⊂>x

非直線構造で 荷移動の程 が落ちる

α.がn,よりの電荷を受けると、Ⅹ−Hの反結合的 性格が顧在化し、Ⅹ−Hの結合距離が延びる。つまり、

H−Yの水素結合がより強くなる。よって、より「強 い水素結合」とは、構造上は次の条件にかなっている

ことである。

(1)直線性が良い。

(2)Ⅹ−Hの共有結合距離が、水素結合形成でよく延 びること。

(3)H…Yの距離が、より短いこと。この観点で分子 模型的に、水分子2個より水素結合の構造を作成する。

ステップ1

定義に従い3つの原子を直線上に並べる。

0−日一一℃>0

ステップ2

見易いよう左側の水分子の面を紙面に合わせる。

H

0−H一一七>0

ステップ3

水分子がメタン分子と同じ電子数(10個)を有する ことより、水素結合右側の水分子の配置を完成する。

A,Bいずれのモデルも、紙面内に2組の孤立電子 対の軌道を置いている。Aより、 Staggered型〝 の Bの方が、0−H軸同士の反発が小さくて有利であろう。

Bで右側の水分子を、メタン型の正四面体型結合の手 を出していると見なしたので、右上のBの図中で 約 109.5。〝 と付記した。メタン分子での∠HCHは正確

1   H

o_H_●C>占JH。r

b

A

H

もーH一二感

B

に109.50 であるが、水分子での結合角度∠HCHは 1050 なので、 約109.50〝はきっちりした角度では 予測できない事を示している。

3.水素結合の構造

分子模型的に水素結合を予測した。図1で計算結果 を見る2)。確かに、Bと予測した直線的な構造が求まっ た。水素結合に関わらない〇一H距離は0.947(または 0.948)Åであるのに対して、関わる距離は0.952Åで 延びている。また 約109.50〝 は、図1で107.40 と 求まった。水素結合が非直線(172.40)である結果

は、小さな副次的な相互作用のためである。

(梱・42)  水素結合エネルギー(AE)5.62kcal加l

(岨) (実測4.1kc〟mol)

図1 水分子2個の水素結合構造。かっこ内の数字は電荷分布(プラ スが陽イオン性を示す)。かっこ及びアンダーライン付数字は 原子間蓄積電子密度である。小さい白マルは水素原子を表わす。

実際、下図の引力と書いた原子間には、僅かである が(1.38×10−3)電子密度が蓄積している。

H

♂綜二㌢′H

引力 6+

(4)

水素結合の視覚教材化

図1で使っている括弧内アンダーライン付数値は原 子間蓄積電子密度である。図1で〇一H共有結合沿い には約0.5の電荷(本来、共有結合は電子2個分の電 荷であるが、原子間と原子内と分類するため原子間の 値が小さくなっている)である。対して、水素結合沿 いには、(+0.05)の電子密度が蓄積している。静電 引力は、本来、球対称的なポテンシャルであり方向性 を持たないが、n,→α.の電荷移動が方向性を要求す る。この方向性の制約が氷の正四面体的3次元構造を 要求し、固体の規則正しい構造で、隙間の大きなもの が出来上がってしまう。氷(六万品)の構造で水2分 子つながった部分を切り取れば、図1の二量体の形に なっていることがわかる。もし、電荷移動が存在しな いと仮定すると、(誤った)橋かけ構造となる。2箇 所の静電引力による安定化が得られる構造である。

図1に戻って、括弧内でアンダーラインの付いてい ない原子上の電子密度を見る。n,→αⅠの電荷移動で 0.03の電子密度が移動している(左側の水分子上:+

0.47十0.42−0.93=一0.03(四捨五入のため);右側 の水分子上:+0.45+0.45−0.87=+0.03)。左側の水 分子で、水素結合の矢面に立っている水素原子上の電 荷(+0.47)が、左端の水素原子のそれ(+0.42)よ り大きい、すなわち、前者の方が陽イオン性が高い点、

注目される。右側の水分子よりもらった電子密度は分 極効果により、左側水分子の酸素原子上に大きく蓄積 する。1個の水分子では、0(−0.84)とH(+0.42)

の電荷を持っているので、左水分子の酸素が一番、電 荷移動と分極の恩恵を受けて電子密度が大きく(−

0.93)なった。この水の二量体での電子密度からは、

三量体は下の直線型が考えられる。

H

′安打H…守′HH

6+

二量体形成時でのn,→αネの電荷移動の重要性が指 摘された直後であるので、二量体での電子供与性を調 べて、3つ目の水分子の水素結合形成方向を吟味しな

ければならない(後述)。

図2に硫化水素二量体の構造を示した。どの程度の 水素結合力と構造を持つのか、水分子のそれと比較す

る。

3周期M殻では、相対論的効果で3Sと3p原子軌 道のエネルギー準位に差ができて、2周期L殻2Sと 2p軌道のようなsp3混成軌道をとりにくくなる。こ

(−0.26)

177.30

(+0.13)

(辿)

ll■.−.−.−

AE=0.88kcaI/mol

卜0.24)

2°8糾こ.5°

1.349Å

(+0.13)

図2 硫化水素2分子の水素結合構造。2つの硫黄原子を結ぶ直線を

Ⅹ軸とする。

のため、硫黄原子最外殻では、3p軌道の直交した方 向のまま、水素原子の1S軌道と重なりを持っ。

X

そして、単独の硫化水素分子は、90。に近い結合角,

94.43。を持っ。H2Sでの孤立電子対は3Sと3px軌 道の2線であるが、方向性を有する後者の軌道が左側 のH2S分子のS−H軸と水素結合で向かい合ってい る。図2の構造は、確かにS−H…Sがほぼ直線上で、

右側の硫黄原子上の分子面外の孤立電子対の方向(Ⅹ 軸方向)にも沿っているので、水素結合が形成されて いるように見える。しかし、水素結合沿いの電子密度 は(−0.004)と、かえって二量体形成で減少してい る。対応するH…S間距離も2.834Åと、かなり長く なってしまっている。計算で求められた水素結合エネ ルギーは0.88kcal/molであり、水二量体での5.62kcal

/molに比べてはるかに小さい。もちろん、このエネ ルギー差が沸点−60.4℃(H2S)と100℃(H20)の 差につながる。H20とH2Sの水素結合形成能力の差 はそれぞれの分子での電荷分布、すなわち極性に由来 する。双方の分子の二量体も電荷移動相互作用の型に 沿った構造を持っ。しかし、単独のH2Sでは水素結 合に関与するべき水素原子の電荷密度の偏りが小さい

(∂性小、+0.11に対して、水分子中の水素原子では

(5)

+0.42)。他方のH2Sの硫黄原子上の孤立電子対と反 発(交換斥力)してしまう。(負の分子間電子密度−

0.004)。かすかにvanderWaals力でつながっている 程度なので、H2S分子間の距離は長く、分子間結合

エネルギーも小さい。

4.多量体構造形成

二量体は水素結合の基本形であった。この基本形よ り、多量体形成のパターンが予測できる。有名な対比 がある。氷の結晶は、ダイアモンドの如く、正四面体 構造の拡張した構造を持つ。これに対して、フッ化水 素は一次元的ジグザグ鎖状構造である。この対比を、

H20およびHF二量体への3個目の分子の付き方の 有利不利で調べる。

(H20)2

(HF)2

HOMO

_三Il二.

◎ J H

︒ M ︒

図3 二量体のHOMOと、HOMOの1つ下の準位のHO M0−1の軌道の空間的ひろがり。HOMOは紙面外の 軌道で、ちょうど紙面が節面となる。よって、0.5Å 上の断面での等高線が措いてある。HOM0−1は紙面

内での等高線である。ここで、HOMOとは、最高被 占軌道(highestoccupiedmolecularorbital)で、

HOM0−1とはそれの1つ下の分子軌道である。

図3には、電子供与性のフロンティア軌道3)HOMO とHOM0−1の形を措いた。(HF)2および(H20)2 とも、HOMOは面外の2p原子軌道である。形式上 は、この直交方向への3番目の分子の水素原子配位が 予想される。しかし、この直交配位では、二つの分子 同士が近すぎて不安定な構造である。

次に、フッ化水素二量体のHOM0−1を調べる。

二量体末端のフッ素原子上の面内2p軌道である。よっ て、第3番目のHF分子の水素原子を二量体末端のフッ

素原子への水素結合でくっ付くことが宿命づけられて いる。この傾向は、HF三量体から四量体へ変化する 時も同じである。つまり、水素結合鎖末端フッ素原子 の孤立電子対が標的となって、どんどんHF分子が付 着する。これがフッ素水素鎖の原因である。他方、図 3で水分子二量体のHOM0−1の形を見る。フッ化 水素二量体のHOM0−1の形と明らかに異なる。二 つの酸素原子上の孤立電子対の組み合わせになってお

り、どちらの酸素原子も第3番目の水分子の0−H配 位を受け入れる。この二重0−H軸配位受け入れが、

氷の構造形成の基になっている事がわかる。以上、フッ 化水素多量体におけるプロトン受容性の高い孤立電子 対の局在性が一次元的鎖状構造に至った。対して、水 分子二量体での二方向孤立電子対軌道のひろがりが 全方位的〝結晶生長の可能性に対応した。

A,Bとも可能⊂=⇒ 全方位的  ⊂⇒ 氷の六方品の結晶 水分子の配位

二量体

什LH・餉−F\H、、

一方向の付加のみ ⊂==ラ フツ化水素の一次元的鎖状構造

上図の氷の六万品構造では、すき間が大きい。水素 結合の方向性が突っぼって、最密充填的な分子の配列 を取れない。このため、氷は水よりも密度が小さくなっ てしまう。これは、通常の物質ではあり得ない。それ は規則正しく粒子が配列される固体の方が乱雑な配列 の液体より密度が大きいからである。この水の特異な 性質の結果、湖や海では密度のより小さな氷は表面か らできる。このため、水中の動物は厳寒下でも冬眠で きる。

(6)

水素結合の視覚教材化

5.C=0二重結合が関与する水素結合 水分子のようなsp3孤立電子対(非共有電子対)を 有する分子の水素結合を見てきた。次にsp2孤立電子 対が関与する水素結合系として、アセトンと水分子の 組み合わせを調べる。なお、アセトンは、有機溶媒と

して、また他の化学薬品の製造原料に用いられる。水、

アルコールと混ざる特異臭のある無色の液体である。

アセトンの母体のホルムアルデヒドH2COはエチレ ンと同じ電子数を有する。よって、エチレンの二本の C−H結合を孤立電子対に変えればよく、この方向に沿っ

て水素結合が予想される。

HH

\酔200

H/C\H

II

/C\

H H エチレン     ホルムアルデヒド

0

11

H3C/C\cH3 アセトン

H

II

H3C/C\cH3

図4に求められた構造を示すが、上の予想通りである。

図4 アセトン分子と水分子の水素結合構造 水素結合角度∠0−H一一一0=169.940 で、かつSp2混 成の方向を持っている。図1の水二量体の構造と比較 する。わずかであるが、図4の0鈷一一〇距離2.016Å は図1の2.025Åより短い。対応して、水素結合エネ ルギーはアセトンー水で5.96kcal/molと、少し、水 二量体の5.62kcal/molより大きい。一般に、Sp3孤立 電子対よりsp2のそれの方が水素結合力が強い。ここ で教材としてホルムアルデヒド(H2C=0)一水(ホ ルマリンに対応)の水素結合系でなく、アセトンー水

系を挙げた理由を述べる。H2C=〇一一一H−OH系では、

CH一一一〇の余計な引力が発生して、このため水素結合 の直線性が損なわれてしまう(∠0−H一一一0=147.70)。

この結果、水素結合エネルギーも小さくなり(5.281【C al/mol)、本来の水素結合の構造を説明するためには 良くない題材である。

払g0

♂・●

147.7

亀と夢二0

II

C_   /

J′

H/ ̄\H/緋な引力

酢酸(食酢の成分)は、沸点118℃より少し高い温 度では二量体の気体となる。普通は、気体では個々の 分子がバラバラに離れるので、この酢酸二量体は珍し い例である。水素結合が強いためであるが、確かに図 5の構造で、この強さが了解できる。

芋善業

AE=8.86kcaI/mol(実測7.6kcah/moI)

図5 酢酸二量体の水素結合構造。長さ、Å単位。

プロトン受容性の高い酸素原子上の孤立電子対が、

二カ所ほとんど直線上にH一〇基と水素結合を形成し ている。環構造形成は、一般に歪みを伴うが、酢酸二 量体には殆どそれが無く、理想型と言える。

Me竃(澤

0−−−日一〇水素結合沿いの 相互電荷移動

6、サリチル酸の分子内水素結合

構造上、水素結合のⅩ一H一一一Yの直線性が成立しな い場合でも、分子の安定性に寄与している例がある。

芳香族化合物、サリチル酸を例にとる。なお、サリチ

(7)

ル酸は消毒、防腐剤として、また種々の医薬品の原料 として、よく知られている。

分子内水素結合の取り方で、次の3つの構造異性体

(TypeI,Ⅱ及びⅢ)がある。

I

許苗:\HH/訝

TypeJ Typell TypeIll それぞれの構造を図6に示す。

ト0.48のHは

図6 サリチル酸の3つの構造異性体。かっこ内のkcal/mol単位の エネルギーは相対安定性を示し、マイナス値を持っ構造の方が より安定。

図4でのアセトンー水系の水素結合エネルギーの方 が、図1での水二量体より安定であった事を考慮する と、TypeⅢが有利と予想された。実際、教科書にも その図が描かれている4)。しかし、計算結果では、

TypeIが最も安定だった。理由は、分子内水素結合 で環状構造が生じるが、この環の歪みのため、水素結 合の理想形からずれる。このずれ方がTypeⅡでは著 しい。カルポニル基C=0のsp2混成の1200 に対し、

図6TypeⅢでの∠C=0 rH=101.310 と無理がかかっ ている。他方、TypeIでは、∠C=0−−−H=105.840 であって、Sp3混成角度109.50 より少し小さい程度で

ある。ちなみに、サリチル酸の電離定数(プロトン Hヰの放出し易さ)=1.1×10 ̄3は、安息番酸C6H5CO OHのそれ=6.6×10 ̄5より大きい。TypeIでのカル

プロトン性が高まる。

2つの坤3孤立 電子対より、

d 電荷移動

Type川

孤立電子対の 向きが電荷 受容体の H一〇結合の 方向からずれ てしまっている。

ポキシル水素Hl。のプロトン性が分子内水素結合で高 められたためである。

7.本教材の実践利用に向けて

現行の高校化学IBの教科書は概観すれば、物質の 種類と性質が扱われている。各単元問の有機的なっな がりが希薄である。「水素結合」は、程度の差こそあ れ「化学結合」、「物質の三態」、「水溶液」、「有機化合 物」の各単元で記述されている。分子間力の中でも、

特に大事であり、いろいろな現象(水への物質の溶解 から生命現象まで)を制御する「水素結合」は単元を 横断した系統的教育が必要であり、今回の微視的世界 の新規教材は生徒達の物質概念形成に寄与できると期 待される。今回の教材は、すべて本研究で開発された が5)、「水素結合の基礎」の範囲であった。この基礎 が押さえられると、その後の多種多様な現象が統一的 に理解、説明される。目に見える巨視的現象と、それ を構成する分子・分子集団の挙動という微視的世界を 橋渡しする目的でこの教材の位置付けと意義を述べる。

「なぜ、そのような現象が起きるのか」の説明の際に 用いられる教材である。高校化学IBでの単元、「物質 の三態と気体の法則」で 水の三態〝が挙げられてい る。この授業展開での、本論文の「2.水素結合の意 味」より「4.多量体構造形成」の教材の組み入れに より、水素結合について定量的な観点が育成できると 期待される。また、単元「基礎的な有機化合物」での、

有機化合物の溶解や電離で、今回の「5.C=0二重 結合が関与する水素結合」及び「6.サリチル酸の分 子内水素結合」の教材利用が適当と考える。この利用 を通じて、有機化合物の三次元的構造の正しい把握、

及び、単元「化学結合」での共有結合、分子間力との 指導内容上の接続が図れるからである。以上、本研究 の趣旨は、「水素結合」にも分子模型を拡張した三次 元構造の教材が必要であり、この開発と実践利用が化 学教育の系統化に寄与できるとの主張であった。

引用文献

1)本研究は、一部、科学研究費プロジェクト「ネッ トワーク・マルチメディアによる理科系教材の理 解支援システムの開発研究」代表松村竹子 平成 10,11年度基盤研究但)10480046の下で、行なわれ

た。

2)分子軌道計算では、RHP/6−31GIの方法で実行 され、構造化学プログラムGAUSSIAN98が用い られた。Gaussian98,ReuisionA.7,M.J.Frisch,

G.W.Trucks,H.B.Schlegel,G.E.Scuseria,

M.A.Robb,J.R.Cheeseman,Ⅴ.G.Zakrzews

ki,J.A.MolltgOmery,JrリR.E.Stratmanf】,J.

(8)

水素結合の視覚教材化

C.Burant,S.Dapprich,J.M.Millam,A.D.

Daniels,K.N.Kudin,M.C.Strain,0.Farkas,

J.Tomasi,V.Barone,M.Cossi,R.Cammi,B.

Mennucci,C.Pomelli,C.Adamo,S.Clifford,

J.Ochterski,G.A.Petersson,P.Y.Ayala,Q.

Cui,K.Morokuma,D.K.Malick,A.D.Rabuck,

K.Raghavachari,J.B.Foresman,J.Cioslowski,

J.Ⅴ.Ortiz,A.G.Baboul,B.B.Stefanov,G.

Liu,A.Liashenko,P.Piskorz,I.Komaromi,R.

Gomperts,R.L.Martin,D.J.Fox,T.Keith,

M.A.AトLaham,C.Y.Peng,A.Nanayakkara,

C.Gonzalez,M.Challacombe,P.M.W.Gill,

B.Johnson,W.Chen,M.W.Wong,J.LAndres,

C.Gonzalez,M.Head−Gordon,E.S.Replogle,

andJ.A.Pople,Gaussian,IncリPittsburghPA,

1998.

3)フロンティア軌道論,KenichiFukui,〟Theory

Of orientation and stereoselection ,Springer,

BerlinHeidelbergNewYork(1970年).

4)「化学概論」−物質の基礎一杉浦俊男、中谷純一、

山下茂、吉田毒勝 共著、化学同人、1986年,112

ページ。

5)図1から図6の立体構造図は、文献2)の計算機 化学のプログラムを用いての数値計算により作成 された。分子や分子同士の向き等について、適当 な初期構造が仮定される。この仮定は化学的知識 と判断力が求められるが、妥当であれば、エネル ギー的に最安定な点として最適化構造が上記プロ グラムで算出される。次に、その数値結果が、可 視化プログラムに移植され、教材としてのわかり 易さ、訴え易さを考慮しながら、注意深く、立体 構造の表示方向が定められる。これらの構造が示 す一般性・共通性を訴えるための表示の工夫が一 つの教材研究と言える。

参照

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