擬一次元水素結合性結晶の電子格子系モデル
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(2) 12. 白崎良演 中川奈都子 寺井章. なぎ留めておくなんらかの力が存在するからである。自然界において物体間に働く力とし て最も有名なものは,重力,電気力,磁力であるが,これらのうち極微粒子の間に働く力 としては電気力,磁力が特に重要である。分子間に働く力は一般にVan der Waals力と呼 ばれ,これは主に弱い分極による電気力などが関係している。このVan der Waals力には 双極子一双極子相互作用,双極子一誘起双極子相互作用,分散力などがある。1)これら以 外に分子間に更に大きな力が働く場合がある。それは分子が水素結合を起こす場合である。 この論文ではその力に着目することにする。. 水素結合では,電気陰性度の高い2原子xyの間に水素原子が存在し,これらを結びつ けている。xyになる原子は酸素,窒素,フッ素の場合が普通である。様々ある水素結合 を持つ物質の中でも最も一般的なものは“水”である。岳0,猛S,猛Sθ,猛7セの4つの水. 素化合物の沸点を考慮してみると,一般に同系統の(族を同じくする)化合物の沸点は分 子量の増大につれて大きくなるが,H,0は例外的に高い沸点を示す。このような異常は融 点についても同じことが言える。このことから品0で分子間力としてVan der Waals力以 外にもっと強い引力が働いていることが分かる。これが水素結合である。. 水素結合を持つ物質は一般に強誘電体になる。それは電気陰性度の強い原子に水素が挟 まれて,局部的に電気双極子が誘起されるからである。水素結合の機構については多くが. 論じられてきたが,1935年頃は,その正体は弱いイオン結合,つまり,誘起分極した電 荷に働くCoulomb力と考えられていた。「0は電気陰性度が3.5とH(2.1)よりも大きく, この二つが結合すると結合電子は0の方へ引き寄せられ,0δ一一Hδ+の様に分極する。δ+. を持つHは,他の分子のδ一を持つ0と静電的に(Coulomb引力により)結合する。」と 言うのである。これ以外に電子軌道の重なりによるσ結合に着目して分子軌道論的に扱う. 方法も考えられる。しかし,本来結合エネルギーはその根源がCoulomb力であるから結 合エネルギーの大きさだけを問題にする場合はCoulomb力を取り入れるだけで充分であ ろう。. この論文では上記の考え方をそのまま適用して水素結合系を研究するための理論的モデ. ルを構築する。特に解析的に扱いやすい擬一次元的な水素結合系を考えてみることにす る。. §2 水素結合を持つ結晶3一ヒドロキシエノン(s一トランス型). 3一ヒドロキシエノンはFigure 1のような分子であり,分子間に水素結合が働く物質とし て知られている。2)3)(分子を構成している原子間の結合は実線で表し,水素結合は破線で. 表している。図で形をジグザグにしているのは,分子の一次元鎖を視覚的に分かりやすく. するためであり,現実の構造は反映していない。)Hの1s軌道の電子は本来は酸素の2ρ軌. 道上の電子1個とσ結合をすることに使われる。しかし,ここでは前の「Coulomb力によ る水素結合」の考えを取り入れて,Eの電子は酸素の強い電気陰性度により分子上に完全 に引き寄せられ,正に帯電したプロトンと負に帯電した分子(のプロトンを取り除いた部 分)がCoulomb力で引き合っているとする。.
(3) 13. 擬一次元水素結合性結晶の電子格子系モデル. 我々はこの擬一次元的な物質を扱うモデルとして次のような1次元鎖モデルを導入し た。. 疹写Lシ臨戦+嚇鰯 Σρ(q浅・。ρ癖+ρん・。ρ聯) 5. +Σ(一α・。0去.、,、。0。+、,・,、+α・。臨。0。,・,、). 5 +(誓鴫+㌻舞+㌻義)}・. (2,1). O C O O C’0 0 C O. !VV\〈〆V\!VNへ!. CCHC.CHCCH. →〉 一レ ・一●〉 μ。一1 μ昂 μ・+1. Hgure 1:3一ヒドロキシエノンの分子構造 式(2.1)において,C嘱,は一次元鎖の第%分子中のノ番目の原子上にスピンsを持った. 電子が存在する状態の消滅演算子であり,’は分子内のC原子のπ軌道が隣のC原子のπ 軌道と重なる大きさを表す重なり積分[eV】である,ここで我・々はC原子と0原子の重なり. 積分も’で近似できると考えた。εはC原子と0原子の持つ電子のエネルギーレベル差 [eV],αは電子とH原子の格子変位の結合定数[eVん4], MはHプロトンの有効質量であ る。3一ヒドロキシエノンは十分に大きいのでこの重心はHに比べ殆ど動かないと考えられ,. 今はプロトンの運動だけを考慮することにする。%.はη番目のH原子の平衡位置からの変. 位を表す[瑚。凡は調和振動子のバネ定数で髭は弾性エネルギーの4次の成分に係わるバ ネ定数である。これらのバネ定数はプロトンと酸素原子核との間の反発力から来ている。. この系では盈が凡よりも重要になる。水素結合の場合にはプロトンの変位は酸素間距離. 程度にまで変化し得る。したがって,プロトンの変位が小さい場合には電子による Coulomb遮へいでお互いの正電荷が見えなくなっていたものが変位が大きくなるにつれ て遮へいが弱まって行き,ある大きさの変位からは急激に反発力が強まると言うわけであ る。式(2.1)の1行目は電子が運動することによって得る(フェルミ面からの)エネル ギー変化を示す。第2行目は電子が酸素原子上に来たときに得るエネルギーの減少を表し,. 第3行目はプロトン原子が平衡位置からずれることによって酸素原子上にある電子の負の. 電荷が得するCoulombエネルギーの大きさを表す。第4行目はHの運動に関係した部分で ある。.
(4) 14. 白崎良演 中川奈都子 寺井章. 以下,電子系のエネルギー固有値を調べる。式(2.1)の中で第%番目の分子内の電子 が係わる部分は 多{ る一Σオ(0裏,、,。0。,、.、,、』+0蓋,ゴ.、,。0。,ゴ,。)一・(0乏,、,。0。,・,。+0護,・,。0・,・,・ゴ=1). +(一α・_、0夷,、,,0。,、,。+α・。0孟,,,、00。,・,。)}, (2.2). となる。式(2.2)は或る行列にベクトルC幅、を左右からかけた形になっている。第π分. 子の電子系のエネルギー固有値λはこの行列を対角化することによって求められる。固有 値λは以下の固有値方程式を解く事によって得られる。 λ5−4オ2λ3+3オ4λ+2ε(_λ4十3オ2λ一匹4) 十(ε2一α2u2)(λ3−2オ2λ)・=0. (2.3). 格子が静止している極限では%.=%=oo競の場合がエネルギー的に安定になるので,上 の式ではこの場合を考えている。. 廓∫ 2 廊∫. 2 一∫ 一∫ 一’ 一∫ !〃’●. 一ε. イ噂”●●≧ご●●●∴ゴ●噂. 一ε. .墨 2 」厘蚤 2 「2’. 毎 #. Figllre2=3一ヒドロキシエノン分子の電子レベル。. 方程式《2.3)から得られる電子レベルの位置とそれに詰まっている電子の模式的な様 子をFigure2に示す。ここでε二tと言う近似を用いた。電子レベルの数は5個であるが, これは電子がプロトンから完全に離れて炭素と酸素の上のみを動くと仮定しているためで ある。パラメータを’=2.5eV,ε=2.3eVと選んだ場合に,%の関数としてレベル位置がど. う変化するかをFigure3a)に示す。24は酸素間距離を表す。一番下のレベルはプロトン の位置が真ん中からずれるのにつれて下がって行くが,下から2番目のレベルは位置が上 昇して行く。下から三番目のレベルはこれらに比べゆっくりした変化をする。6個の電子 が下部の3レベルを占有しているので電子系のエネルギー且の変化はFigure3b)のように なる。この図を見て分かる様にプロトンが二つの酸素の真ん中からずれるにつれて電子系 のエネルギーが下がって行くことが分かる。この振る舞いは%が小さいときには近似的に.
(5) 擬一次元水素結合性結晶の電子格子系モデル. 15. 恥・・・…一二(一)・,1・1<<4 .(2④ の様に表される。ここで妃εであることを使った。%が4程度の大きさの時にはE、は若 干この振舞いからずれる。最適化した二次関数を調べたところ実際には以下のようになっ た。. 恥・・・…一攣( )・,兜蟹乙 (2.5) 格子歪みも加味するとプロトンが断熱的極限(プロトンが電子に比べて十分ゆっくり動 いていると見なせる極限)で全エネルギーは. E、。、ざ1一Σ(凡+㌻暑+㌻の. 一二・+/酷{一(α396箏一善)・ゆア+㌻ぱ} (26) ここでは格子定数をαとして,ηについての和を位置κ=〃αについて積分に置き換えて いる。凡一〇6K危=41eワ7、44の場合に1分子当りのE,。,、1の値が%(κ)に対してどのよう. に変化するかをFigUre4に示した。図を見れば分かるように皿。,。1は左右対称な2連井戸型. をしており,1%ωiが有限の所で極小点があらわれる。これが水素結合を作るときのプロ トンの安定位置である。. 一方,現実の結晶はフォノン振動をしているが,この場合は2量化しているので音響フ ォノン振動が重要になる。フォノン振動をωQとすると音響フォノンの寄与は. のε=2。3eV.t=2.5 eVでの 電子レベル. +E1 −〇一E2 2. 一←E3 1●”. +E4 +E5 く. P一や叫. 。 ・一・. 。1. しL鼻==. 曹2 ・. 。3. 0. 画. 1. 0.5. 1。5. αu/t. b♪ε翻2.3e鳩t=2.5θVでの 全電子エネルギー. 一8 三. ・8.2. 囎8.4 ;. P8.6. く L二Jo. i. … {. −8.8. ・9. −9.2. −9.4. 毛. {. ・.・. }. } …. 99.6. む もら. αu/t・ Figure3:分子内の電子エネルギーをフ。ロトン位置の関数として表した図。.
(6) 16. 白崎良演 中川奈都子 寺井章. 一E total. ε置2.3eV t=2.5 eVでの. @ 分子エネルギー. i l。7,9…一……一・・. 一8. ` 煮1. l i i …… 氏h. 堰@…. … = i一…一与一 } }. Q −8.2. f. 一8.3 ・・一一÷………・÷…一・・, ・8.4・………÷・・…・一・÷・. ÷ } } } … @ } む・§2. 魎1.5 ●1 −O.5 0 0.5 1 1.5 2. αu/t :Figure4:1分子の持つエネルギーをプロトン位置の関数として表した図。. /画{所思Mlωる(∂馨))2} (27) で表される。(APPENDD(A)この寄与も合わせるとプロトンの動力学は下の様な有効 ハミルトニアンで記述できると考えられる。. 興一一/確聯M劉響). 2. 一(q396砦)耐+駒}・. (2.8). §3 現実の物理量とパラメータの関係 以後,我々が選んだパラメータと,前節で求めた有効ハミルトニアンが現実の物質にう まく適合するものかどうかを見てみることにする。. 水などを見てみると,水素結合は酸素一酸素の距離が2.76、4であり,酸素とそれに水 素結合しているプロトンとの距離は1.75.4である。4)5)したがって,安定なプロトン位置 での変位(これをπ。とおく)は今の場合%。=0.37・4である。一方,3一ヒドロキシエノンの. 場合も0−H−0の水素結合であるから,この距離関係はさほど大きな変更はなくそのま ま成り立つと考えられる。3一ヒドロキシエノンでも4=1.38、4,%。=0.37・4として計算を 進める。. 式(2.1)ではプロトン位置の変化に対しては主にクーロンエネルギーが変化するとい う仮定を導入した。したがって電子・格子結合定数αはこのクーロンエネルギーで評価さ. れるべきものである。現実の物質である水などが作る水素結合では水素原子と酸素原子に それぞれ0.3e[クーロン]つつの電荷の偏りが現れる。これらの電荷が1.4.4の距離から1.O. Aにまで近づくとすると. 、一三皆「曙鯉(讐i欝一軒 (a1) だけクーロンエネルギーが下がることになる。この下がりはハミルトニアン(2.1)で導 入した結合定数αに換算すると0.3の70.37A/0.1二8eV/A程度となる。我々はα=6eV/.
(7) 擬一次元水素結合性結晶の電子格子系モデル. 17. Aをつかうことにする。一方,炭素原子間のπ電子の重なり積分は’は2.567程度である ことが知られているが,炭素原子と酸素原子間のπ電子の重なり積分は同じ2ρ軌道にあ る電子同士の重なりであることからこれを’で近似しても第一次の近似としては妥当であ ろう。そこで重なり積分はすべて’=2.5eVとした。. 0とCのエネルギーレベルの差をεと置いたがこれはMullikenの電気陰性度から類推し て与えたものである。この論文ではε=2.3eVとした。. 次に結晶の弾性の強さ盈を考えてみる。前節で導出した有効ハミルトニアン(2.8)で は格子変位の安定点(エネルギー極小点)は. 物一聯・毒・ (32) であり,水の場合の変位をそのまま適用すると%は0.37、4程度であるから,髭=41〃/!14. が必要になる。このときプロトンの変位により0.4θ17だけエネルギーが下がる。また,水 の場合等では酸素にσ結合したフ.ロトンの振動数等は実測値が知られている。‘)(0.4eV程. 度)3一ヒドロキシエノンのプロトン運動の振動数は正確な値が現段階での我々の手元には ないが,ここでは水の場合と同様に鱒∼0.1θ17程度と見なした。この値はプロトンの運動 に対して4次の項凡%4/2,(凡=41θレノA)のみが重要になると考えた場合に平均場近似な. どの近似計算から得られる値と同程度である。. ’一ポリアセチレンなど2量化した一次元電子・格子系では格子歪(ボンド交代)が現. れることが知られている。これは2量化によって現れる格子の2倍周期と電子のフェルミ 波数が一致するためフェルミ面のnestingが起こってエネルギー的に不安定になり,パイ エルス転移を起こして安定化しようとするためと解釈されている。8)9)水素結合の場合は. パイエルス転移と電子レベルの変化を生ぜしめる機構は違うが,格子歪によって電子系の エネルギーが下がり,これが格子の弾性エネルギーの上昇に勝るために格子歪を起こした ほうが安定になると言う点では同様の現象である。ただし,Cπ基一個当りのエネルギー 下がりは約0.03θyであり,水素結合の場合に比べて非常に小さい。パイエルス転移の場. 合はCoulomb相互作用があまり重要ではないので,水素結合に比べて安定化によるエネ ルギーの利得がそれ程大きくならないのである。. 水素結合内で,プロトンが感じる有効ポテンシャルをMorseポテンシャルの重ね合わ せで近似する方法も提案されている。6)7>これはプロトンの変位が大きくなるとそれによ. るポテンシャル変化がむしろ指数関数的に振る舞うことを考慮に入れたものである。この モデルでは様々な物質について,水素結合内でのプロトン位置を系統的に分類することに. 成功している。我々の得た有効ポテンシャルは安定点位置やエネルギー利得をMorseポ テンシャルによるものと大概一致させることができ,我・々の選んだパラメータはMorse ポテンシャルと大きな違いを与えることはない。. §4 水素結合鎖の動的振舞い 一方,式(2.8)で表されるような一次元のハミルトニアンは所謂φ4モデルと同じ形を.
(8) ’. 18. 白崎良演 中川奈都子 寺井章. している。このφ4モデルでは鎖の両端での“変位”φの向きが変わる,いわゆるソリト ン解が現れることが知られている。10)11)12)このソリトンは格子の周期i生を壊すので鎖の中. を比較的自由に動き回ることが出来る。水素結合系ではφ4モデルでいうφがプロトンの 変位%ωに対応し,鎖が十分一次元的と考えられる場合には,水素結合系にもソリトンが 現れることが考えられる。このソリトン解はソリトン中心がκ冒0にある場合には次のよ うな形になる。 u5(コじ) = 七anh(」じ/ξ),. ξ一灘急 (4.1) この解に相当する非線形励起が水素結合鎖の中に実際に存在可能な場合,励起に必要な エネルギーはφ4モデルによると. 瓦一1・砿396垂・燕〉箪 (42) である。式(4.1),(4.2)に前のセクションで決めた各パラメータの値を代入すると,ソ. リトンを作るのに必要なエネルギー且とソリトン幅ξはそれぞれ E8卑0・7 eV; ξ/α蟹0・β, (4.3). 程度になる。. このソリトン幅は格子定数αと同程度であるので,3一ヒドロキシエノンー個でソリトン. を作っていると解釈することが出来る。しかし,今の場合は連続体近似を施したモデル (2.8)を使っていたが,このモデルでは一分子(局部)だけでの励起現象は想定していな. かった。実際の解では格子の離散性が重要になるので正確な励起エネルギーを調べるには 今一度モデル(2.1)に戻る必要がある。モデル(2.1)において第π番目の分子にプロト. ン2個が引き寄せられて分子全体として正の電荷を持っている状態を作っているとしてみ よう。この場合にエネルギーは式(2.2)で伽=一%.=0.37・4としたものを考えなければな. らない。これを対角化することにより,一分子の持つ電子エネルギーが得られるみ実際に 求めてみると臨、=一π.=0.37.Aとした場合に比べて6.83eVもエネルギーが低くなる。第%. 番目の分子からプロトン2個が離れて分子全体として負の電荷を持っている状態を作って いる場合は脇、=一%.=0.37、4と置くことになるが,この場合では一分子の持つエネルギー. は7.44eVだけエネルギーが高くなる。初め系全体は電気的に中性であったのだから,ソ リトンが出来るときには正のソリトンと負ノソリトンが必ず対になって生成されることに なる。したがってソリトン対生成には 7.44−6.83=0.61eV,. (4.4). のエネルギーが必要になる。ソリトンー個当り E5=0.3 eV;. (4.5).
(9) 擬一次元水素結合性結晶の電子格子系モデル. 19. 生成エネルギーが使われることになる。. 一方,現実の物質の中で擬i一次元的な水素結合鎖を作る物質としてビ四角酸が知られて. いるが,この物質は低温から温度を上げていくと約20K付近で誘電率が急激に大きくなる 振舞が見られる。2)この現象は一次元鎖の中にそれぞれ正と負の電荷を担ったソリトンが. 生成し,正負の電荷が鎖の中を動き回ることによって誘電率を増大させると言うメカニズ ムで説明出来る。この実験によるソリトンの生成エネルギーは高々0.001〃程度というこ とになる。このようにソリトンの生成が実際に起こっていると考えられる現実の物質では 我々の理論に比べて生成エネルギーがかなり小さくなっている。 ここでソリトンの生成エネルギーがモデル(2.8)で過大評価された原因を考えてみる。. まずソリトンの生成にはハミルトニアンに現れる式(2.7)の項が重要であるが,この項. はAPPENDD(Aを見て分かるように,調和振動を仮定した議論で得られた音響モードの ハミルトニアンである。これに反し,現実の系は非調和振動をしており,しかも復元力は 格子変位がある程度大きくなる領域で指数関数的に大きくなっている。(我々のモデルは ゆっくり変化する髭π4/2の項でこの振舞いを近似している。)したがって式(2.7)内の振. 動数ωQを過大に評価した可能性がある。また,モデル(2.8)では%、の振舞いを波長の長. いゆっくりした変化と仮定していた。したがって循の急激な変化に対しては有効ポテン シャルが良くない近似になってしまい,実際よりポテンシャルが“深く”見積もられてし まったと考えられる。. 一方,モデル(2.1)を用いても生成エネルギーが過大評価されてしまっている。この モデルでは電子を結晶の中を自由に移動できる物としてではなく,一分子の中に強く束縛 されているものと仮定していた。式(4.4)を見れば分かるようにこのモデルではプロト. ン上に電子が存在することによるCoulomb遮へいの効果を無視しているので各ソリトン の持つエネルギーが異常に高くなったり低くなったりしている。これにより有効ポテンシ ャルが実際より“深く”見積もられていることが推測できる。“深い”ポテンシャルを励 起することにより高い励起エネルギーが必要になる。自由に運動出来ない電荷:を比較的運. 動しやすくするためにソリトンが励起されるということを考えて見れば分かるように,電 子が強く束縛されればされる程ソリトンの生成エネルギーは増大する。そのため我々の仮 定によってE、がかなり大きく見積もられてしまったと考えられる。この問題を改善する ためには電子が分子間をトンネル移動する効果も考慮に入れることが必要である。それに は電子を仲立ちとしたσ結合を正しく評価するようにモデルを改良するのが一つの方法で あろう。これによりプロトンー酸素間の電気相互作用によるエネルギーの評価値が変わり,. 有効ポテンシャルがもっと“浅い”ものになるであろう。 モデル(2.8)を使って計算した場合,安定点%。の周りでのプロトンの振動は振動数が 0.3θy’になる。これは現実の系に比べると同程度の大きさになり,実験と大きな矛盾はな. いと考えられる。しかし,これは水で得られる値よりも多少小さくなっている。主にプロ トンに対する復元力として利くものはプロトンと酸素原子の幽間クーロンカである。電子 による遮へいを受けて弱められたものが実際に働くのであるが,上記のように我’々が作っ. たモデルではプロトンを完全に裸の核と仮定している為,遮へいの効果が正しく評価され.
(10) 20. 白崎良演 中川奈都子 寺井章. ていない。これが格子振動に対する復元力の評価がうまくいかなかった原因だと考えられ る。この難点を解決するには電子を仲立ちとしたσ結合を正しく考慮することが必要であ る。特に水素は最も軽い元素であり,その強い量子性にも注目が集まっている。この量子 的な運動に電子運動がどう係わっているかを調べることは非常に興味深い問題である。 §5 まとめ. 我々は一次元水素結合系を電子・格子モデルに置き換えることによってこの系の振舞い を定量的に議論した。このモデルでは電子は分子の内部のみを動き得ると仮定し,またプ. ロトンと分子の間に働くCoulomb相互作用によって水素結合が引き起こされると言う仮 定も導入した。この論文では擬一次元系である3一ヒドロキシエノンを例に取って理論的モ. デル作り,パラメータを現実の物質に適合するように決定した。そして電子系を繰り込ん で最終的にφ4モデルの形を持った有効ハミルトニアン(2.8)を導出した。φ4モデルと の類似性からこの系でも非線形励起(ソリトン)が生成可能であることが分かった。 §3を見ても分かるように,モデル(2.8)ではプロトンの位置エネルギーの変化を適当. なパラメータを導入することによって議論することが出来た。しかしながら,格子振動や ソリトンなどの非線形励起の動力学を議論する事は定性的には可能であったが定量的には 一致しない点がある。それはπ0間の電子のやり取りによるσ結合の存在を無視したこと. が一つの原因と考えられる。この効果をモデルに取り入れるには0−H−0結合における 電子のダイナミクスの効果を直接考慮しなければならない。これは今後の課題としたい。. APPENDIX A.音響フォノンの分散 2種原子が交互に一次元的に連なっている系では音響フォノンモードが現れる。このモ ードの分散関係は Ωたニω(2sin(たα)製ωQ南α, (A.1). で表されるが,この関係を与えるハミルトニアンは. ∬,一一ノ面{器君(・)・+M讐Q2(∂窪))2}, 低2) の形で与えられる。(式(A.2)にハミルトン方程式を適用することにより分散関係(A.1). を直接導きだすことが出来る。)式(A2)に式(2.6)を加えて全ハミルトニアン(2.8) が出来上がる。. 分散関係(A1)を2量系の問題を解くことによって導いておこう。簡単な問題に置き 換えるために2種原子が交互に一次元的に連なっている系を考える。バネ定数をK,個々 の2種のサイトでの質量をそれぞれM,魏と置くと古典的な原子振動の運動方程式は以下 のようになる。.
(11) 21. 擬一次元水素結合性結晶の電子格子系モデル. M雑一塩…臨・一2嚇 md著饗・一κ(t42π+2→一t42η一2%2π+1), 低3). ここで%は原子を番号付けするために取り入れた整数で偶数サイトに質量Mの原子,奇 数サイトに質量吻の原子があるとした。鎖の中を波数ん,角周波数ωで伝わる振動を考え, この波動を以下のように仮定する。 賜2πニ%ei四一ωり, ・、。+=・・i{鳶(叶α)一ωオ}.. (A.4). これを方程式(A3)に代入すると,方程式は次の代数方程式に帰着する。 一ノしfω2% = 21ぐ(ηcos(たα)一u), 一mω2η := 21((%cos(んα)一u). (A.5). 方程式(A.5)が%,θがゼロの場合以外に解を持つことが必要である。この条件よりω が得られる。. ♂一κ(・一1一坐鯛 低6). 一万 Mm .. ここでμ一誌面/(M+〃z)は有効質量である。この論文では分子とプロトンの2者を扱っ. ている。この場合は一方が他方よりも十分重い場合である。従ってM>〉〃2とおいて,最. 終的に式(A6)は ω・一下,i。・(たα)一ωる・i・・(た・), (八7). m となる。以上で分散関係が導きだされた。. References 【1]. 喜多英明:「化学入門として基礎物理化学」学術図書出版社 1989年. [2]. 菅原 正,持田智行:固体物理30(1995)293.. [3]. YMoritomo, Y Tokura, T Mochida, T SugawaraT. Ohashi, T Kojima, and A Istubo: J.Chem. Phys.,102(1994)1813.. [41. ムーア:「物理化学」東京化学同人 藤代亮一訳. [5]. 国立天文台編:「理科年表」丸善株式会社. [6]. E.Matsushita, and T. Matsubara:Prog.Theor. Phys.67(1982)1.. [71. 松下栄子:固体物理18(1983)737.. [81. W.P. Su, J. R. Schrie丘er, and A. J. Heeger:Phys. Rev. Lett 42(1979)1698.;Phys. Rev.. B22(1980)2099. [9]. H.Takayama, T RLin−Liu, and K Maki:Phys. Rev. B21(1980)2388.. [101. RRajaraman:SOLITON AND INSTANTON North−Holland(1982)..
(12) 22. 白崎良演 中川奈都子 寺井章. [11] R.F. Dashen, B. Hasslacher, and A. Neveu:Phys. Rev. D 10.(1974)4130.. [12] J.Goldstone, and R. Jackiw:Phys. Rev. D 11(1975)4186..
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