奈良教育大学学術リポジトリNEAR
視聴覚教材(理科)の製作と実践
著者 松村 佳子, 川西 賢侍
雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告
巻 9
ページ 15‑26
発行年 1986‑03‑16
その他のタイトル Manufacture and Use of Audio‑Visual Aids of Science Education
URL http://hdl.handle.net/10105/4582
視聴覚教材(理科)の製作と実践
松 村 佳 子・川 西 賢 侍
(物理教室)
Manufacture and Use of Audio‑Visual Aids of Science Education
Keiko Matsumura and Kenji Kawamshi (Department of Physics)
We Produced, by way of trial, a VTR film of Science teaching materials of the elementary school on brightness of a mimture bulb. We used this film with a Science class of the 4'th and 5'th grades of the elementary school. Through a questionaire, we obtained information concerning the interest of the children on the brightness of a miniture bulb. We found that the use of a self making VTR
film for the Science class produced good result for study.
Key words '・ VTR film, mmiture bulb, Science class
I は じめ に
教育工学機器の発達は、教育の形態やシステム、方法に大きく影響を与えてきた。我が国で も教育情報システムの整備がはかられているが、欧米の国々でも各所で遠隔地にいながら、さ まざまの必要な教育情報を通信手段の助けを借りて入手できるシステムが充実しつつある。そ れにより、遠隔教育による学習が可能になり、公開大学、放送大学などにより、成人教育が花 ざかりである1)といわれている。中でも放送メディアの果たす役割は非常に大きなものがある。
とりわけ、テレビの普及と共に一般放送、教育放送の両方からその影響は幼児・青少年・成人 に大きく及んでいる。
我が国のテレビ放送は1953年に開始され、それと共にテレビによる学校放送が始まり、年を 追ってその内容は拡充されてきている。テレビがあれば電波の届くところ全国どこでも学校放 送を同時に受信することができる。学校放送は、慎重な教育的配慮のもとに、資料の正確さや構 成の適正さを十分検討したうえで製作されている。しかしながら、放送は利用者の意向にかか
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わりなく、定時に始まり定時に終り、後には何も残さない。しかも、番組の内容についての情 報を事前に得ることが困難である。そのため、学校放送を利用しようとすれば、学校現場では 時間割や指導計画、授業内容を放送と合わせなければならず、実際には十分な活用が不可能で ある。これらの欠点を補うのがVTRである。学校放送を録画しておけば、都合のよい時間に、
学習の進度や内容に合ったものを見ることができ、必要な場面はくり返し何回でも見ることが できる。最近では学校放送を録画したもののみでなく、市販されている既製のビデオ教材も利 用されているようである。それでもなお解決されない問題が残る。それは現場の実態や学習内 容と、学校放送や市販教材の内容とのズレである。これを解決するためには、教師自らの手で クラスの実態や学習内容に合わせた教材を製作することが必要になる。
上記の観点から、小学校4年生の理科「まめ電球の明かるさ」についてのビデオ教材を試作 した。実際にこの試作教材を小学校4年生と5年生とに見せ、その効果について調査したので、
その結果をも合わせて述べる。
Ⅱ ビデオ教材の製作
このビデオ製作にあたって、児童に次の3つのこと
○電子の存在に気づかせる。
○まめ電球が光る理由について理解させる。
○まめ電球や乾電池の直列っなぎ、並列っなぎによるまめ電球の明かるさのちがいは何による のかを気づかせる。
をねらいとした。
そこで先ず、電子が次郎君という男の子と対話をしていく形の「電子くん」という台本を作 った。内容は、
○電子は身のまわりに存在すること。
○電流は電子の流れであること。
○電流と電圧・抵抗との関係を水の流れで説明し、まめ電球と乾電池のつなぎ方をバケツとホ ースをつないだモデル実験により説明すること。
○抵抗の中を電流が流れると発熱し、高温になると光を出すこと。
○まめ電球と乾電池のつなぎ方により、まめ電球の明かるさにちがいが生じること。
などのことを電子君が説明し、電子のはたらきはその他にもいろいろあることを告げて終りに した。台本作りには、文部省指導要領等2ト4)を参考にした。
次に台本をもとにして、具体的に撮影するためのカット数や、その時問などを示す絵コンテ
(図1)を作製した。そしてそれに基づいて、セットを作り、撮影を行った。セットの例を写 真1〜5に示す。
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視聴覚教材(物理)の製作と実践
時 間 画 面 効 果 立 こ Eヨ 戸I 土ご 備 考
(秒 )
9
9
13
10
\ \ 1 日 / 一 ・ ′
\ 阜油 ク ー
、 \
/ 計
で ゾ
電
次
次
電
豆 電 球 が 明 る く光 り だ す の で す 。
へ ェ ー そ う だ っ た の か 。 電 子 く ん は 電 気 の こ と を 何 で も 知
〕
■ ヽ
\、_ノ/
っ て い る ん だ ね 。
そ れ じ ゃ あ さ 、 豆 電 球 の 並 列 つ な ぎ と 直 列 つ な ぎ は ど う して 明 る
さ が 違 うん だ い 。
ハ イ そ の 説 明 は タ ン ク を 使 っ て 説 明 し ま し ょ う 。
図1絵コンテの例
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同一のカットについても、照明、カメラの位置、物の配置などを変えていくつかの場面を撮 影した。それらの中から適当なものを選び、台本に合うようにつなぎ、音を入れ、字幕を入れ
て編集し、約20分の教材にした。撮影にはSONYベータームービを用い、編集は、教育工学 センター閉回路調整室にあるSONY−J9およびSONY−J7でダビングし、編集デッキ SL0−383および自動編集コントローラーRM−440を使用した。
Ⅲ 実践 と調査
試作した教材はおとなが考え、おとなの目で撮影したものである。これが子どもたちにどう 受けとめられるであろうか。このビデオ教材を視聴することによる子供たちの学習効果はどう であろうか。これらのことを調査するために、御所市立葛城小学校第4学年と第5学年の各1 クラスをお借りした。調査の時には第4学年は「まめ電球の明かるさ」についてまだ学習前で あり、第5学年はすでに前年度に学習している。この単元をすでに学習している児童と学習前 の児童とによって、このビデオ教材が与える効果にちがいがあるかどうかについても調査する ことにした。
調査は、ビデオ視聴前と後とにアンケートに答えてもらう方法をとった。内容は、
(1)まめ電球と乾電池のつなぎ方による明かるさのちがいについて5問,
(2)電気教材に対するイメージについて6項目,
を視聴前後とも同じ問題にして、視聴後には、
(3)このビデオを見て思ったこと、5項目をつけ加えた。
次に調査用紙を示す。破線で囲んだ(3)の項目は一 視聴前の調査用紙には書かれていない。
年
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(2)あなたは、豆電球や乾電池の勉強について、どんな感じを持ちますか。
〔れい〕のように自分の考えにいちばん近いものに○をつけなさい。
と す なとど す 言 E い豊吉 E
〔れい〕 はやい
(1) 好き
(2) おもしろい
(3) らくな
(4) かんたんな
(5) 親しみやすい
(6) たんじゎんな
おそい きらい たいくつな つらい むずかしい 親しみにくい ふくざつな
(3)このビデオを見て患ったことに○をつけなさい。
とてもよく すこし どちらとも すこし
ぜんぜん
わから わかった わかった言えない わからない竃rく(1)乾電池の説明にタンクを使うのは
(2)豆電球の直列っなぎの説明は
(3)豆電球の並列っなぎの説明は
(4)乾電池の直列つなぎの説明は
(5)乾電池の並列っなぎの説明は
☆ みんなどうもありがとう
この紙のうらに、このビデオを見て思ったこと、感じたことを何でもいいから 書いて下さい。
0
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視聴覚教材(物理)の製作と実践
Ⅳ 調査結果とまとめ
ビデオを1本しかも1回視聴するだけで、子供たちの学習効果があることがわかった。ビデ オ視聴前と後とにおける設問(1)に対する正答率を表1(第4学年)と表2(第5学年)に示す。
表1「豆電球の明かるさ」に対する正答率(第4学年)
正答率(%)
設 問 (1 ) (2 ) (3 ) (4 ) (5 ) 計
調 査 1 調 査 2 調 査 1 調 査 2 調 査 1 調 査 2 調 査 1 調 査 2 調 査 1 調 査 2 調 査 1 調 査 2 男 子 4 6 .2 8 4 .6 5 3 .8 2 3 .1 2 3 .1 6 1 .5 1 0 0 .0 1 0 0 .0 2 3 .1 3 0 .8 4 9 .2 6 0 .0
女 子 6 8 .8 9 3 .8 2 5 .0 5 6 .3 5 6 .3 4 3 .8 6 8 .8 8 1 .3 3 1 .3 5 0 .0 5 0 .0 6 5 .0 計 5 8 .6 8 9 .7 3 7 .9 4 1 .4 4 1 .4 5 1 .7 8 2 .8 8 9 .7 2 7 .6 4 1 .4 4 9 .7 6 2 .8
調査1はビデオ視聴前、調査2は視聴後を示す
表2 「豆電球の明かるさ」に対する正答率(第5学年)
正答率(%)
設 問 (1 ) (2 ) (3 ) (4 ) (5 ) 計
調 査 1 調 査 2 調 査 1 調 査 2 調 査 1 調 査 2 調 査 1 調 査 2 調 査 1 調 査 2 調 査 1 調 査 男 子 5 7 .1 8 1 .0 2 3 .8 6 1 .9 3 8 .1 6 1 .9 7 6 .2 8 5 .7 3 8 .1 6 6 .7 4 6 .7 7 1 .4 女 子 6 2 .5 7 5 .0 1 2 .5 3 7 .5 6 2 .5 5 0 .0 8 7 .5 1 0 0 .0 2 5 .0 6 2 .5 5 0 .0 6 5 .0 計 5 8 .6 7 9 .3 2 0 .7 5 5 .2 4 4 .8 5 8 .6 7 9 .3 8 9 .7 3 4 .5 6 5 .5 4 7 .6 6 9 .7
調査1はビデオ視聴前、調査2は視聴後を示す
第4学年では、正答率が全体として視聴前には49.7%であったのが62.8%へと上昇し、第5 学年では47.6%から69.7%へと上昇している。第4学年と第5学年とで、正答率が上昇した 割合に差があるのは、この電気教材をすでに学習しているかいないかの違いによるものであろ う。第5学年の子供たちはすでに学習しているので、このビデオの内容を理解しやすく、第4 学年の子供たちには、初めてきく言責や、内容に難解なものがあったのではなかろうか。
ここで視聴前に調査したもの(調査1)をみると、第4学年の方が第5学年よりも全体とし て正答率が高くなっている。第4学年はまだ学校で学習していないのに、なぜこのような結果 になったのであろうか。これは、第2学年で学習した電気教材について、子供たちが自分自身 で発展させ学習した結果ではなかろうか。そして、それは子供たちの電気教材に対する興味の 大きさを示すものであろう。第5学年の子供たちはすでに、まめ電球の直列つなぎ、並列つな
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松村佳子・川西賢侍
ぎを学習しているが、その学習の折に何らかの原因で電気教材について興味を失い、学習に無 理があったのではなかろうか。
これらのことは、第4学年・第5学年に対する視聴前に行った調査の設問(2)の結果で裏付さ れると言ってよいであろう。これらの項目は、次のようにして整理した。項目(1)好きを例にと ると、下に示すように左から順に5,4,3,2,1の数をあてはめ、各項目ごとに○のついた数 字を加え、平均をとった。そして、その数値の高いものはこの教材を学習することに対してよ
い感じをもっていると判断した。イメージを数値で処理した結果を表3(ビデオ視聴前)と表 4(ビデオ視聴後)に示す。表3をみると、第4学年の方が第5学年よりも高い数値を示して おり、全体的に良好な感じをもっているとみてよい。
と す て こ も し
どちら とも言 えない すこし
(1)好き
5 4 3
表3 豆電球や乾電池の勉強についての感じ(視聴前)
第 4 学 年
項 目 (1 ) (2 ) (3 ) (4 ) (5 ) (6 ) 男 子 4 .4 6 4 .3 1 4 .3 1 4 .0 0 4 .3 8 3 .3 8 女 子 4 .0 6 4 .5 6 3 .6 9 3 .0 0 3 .9 4 3 .6 3 計 4 .2 4 4 .4 5 3 .9 7 3 .4 5 4 .1 4 3 .5 2
第 5 学 年
項 目 (1 ) (2 ) (3 ) (4 ) (5 ) (6 ) 男 子 3 .5 7 4 .0 5 3 云 8 3 .2 0 3 .5 2 3 .2 9 女 子 3 .8 8 3 .8 8 3 .3 8 3 .5 0 3 .5 0 3 .1 3 計 3 .6 6 4 .0 0 3 .4 5 3 .2 9 3 .5 2 3 .2 4
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視聴覚教材(物理)の製作と実践
表4 豆電球や乾電池の勉強についての感じ(視聴後)
第 4 学 年
項 目 (1 ) ( 2 ) ( 3 ) ( 4 ) ( 5 ) ( 6 )
男 子 4 . 5 4 4 . 6 2 3 .7 7 4 ,3 1 4 .2 3 3 . 4 6
女 子 4 . 1 3 4 . 5 0 3 .6 9 3 . 2 5 3 . 5 0 3 . 5 6
計 4 . 3 1 4 . 5 5 3 . 7 2 3 .7 2 3 . 8 3 3 . 5 2
第 5 学 年
項 目 (1 ) ( 2 ) ( 3 ) ( 4 ) ( 5 ) ( 6 )
男 子 3 . 8 6 4 . 1 0 3 .5 2 3 . 4 8 4 .1 0 3 . 5 2
女 子 4 .1 3 4 . 3 8 3 . 7 5 3 . 7 5 3 . 5 0 3 . 6 3
計 3 . 9 3 4 . 1 7 3 . 5 9 3 .5 5 3 . 9 3 3 . 5 5
表3と表4とを比較すると、第4学年よりも第5学年の方が、視聴後には高い数値へと変化 している項目が多い。子供たちにとって電気教材は本釆興味のあるものであるが、第4学年の 子供にとっては、内容が少しむずかしかったので、その興味がいくらかうすれ、イメージとし て少し悪い方へと変化したのであろう。
調査用紙の設問(3)の結果と、設問(1)の結果とを各子供ごとに比べてみたが、視聴後このビデ オ教材に対していい感じをもった子供でも、設問(1)の正答率が低かったり、正答率の高い子供 でも、ビデオに対する評価は悪い場合があったりで、まちまちであった。最後に子供たちが書
いてくれたことばの中には、
「大学生のお兄さんありがとう、こんどはまめでんきゅうとちがうビデオを見せてください。」
「まめでんきゅうのことはあまり好きではありませんでしたが、このビデオを見てから好きに なりました。」
などいろいろなことが書かれてあり、テレビの学校放送の番組よりも面識のある者が自作し たビデオ教材の方により親しみを感じ、興味をもって見てくれたことが感じられた。いろいろ なことに敏感な子供たちは、教師の愛情と熱意とを肌で感じとるものであることもわかった。
これらのことからも自作教材製作の意義があることを感じた。
実際の授業でビデオを使用したのは、1校の第4、5学年各1クラスずつで、調査対象数が 少ない。又、質問事項・形式の適否および結果の処理方法など、今後検討すべき問題は残る。
しかしながら、このわずかな経験と実践事例から、ビデオ教材を自作することは、実際の教育 現場において効果的であり、これらを利用することによって子供たちの能力をたかめ、教師と 生徒間のつながりを高めることもできると実感した。
最後に、貴重な授業時間をさいてこ協力下さった御所市立葛城小学校の山本雅祥先生、幸田 全代先生に心からお礼を申しあげます。
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松村佳子・川西賢侍
参考文献
1)坂本 昂;科学教育研究 vol.6,Nn3(1982)P.93.
2)小学校学習指導要領、文部省(1977)。
3)黒田弘行; 理科をどう教えるか(電気と磁気) 新生出版.
4)戸田盛和; 理科教養の物理学 朝倉書店.