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企業権力と立憲制

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企業権力 と 立憲制 17

企業権力と立憲制

桜井克彦

目     次 I 序

Ⅱ 大企業とその権力

1 権力システムとしての大企業 2 社会・文化に対する影響

Ⅲ 権力の基礎的諸概念 1 権力の概念 2 影響力の比較の方法 3 現在の権力と潜在的な権力

Ⅳ 権力と立憲制 1 立憲制の基本原理 2 立憲制の目的 3 立憲制の実践的形態 4 会社立憲制

Ⅴ 企業権力の制御方法 1 伝統的なコントロール 2 新しいコントロール 3 他の方法

Ⅵ 企業立憲制の将来

I 序

資本主義社会における市場競争と技術進歩はいわゆる資本の集砧・集中を もたらし,大企業が現代の産業社会の主要な権力センターとして出現するに 至っている。巨大株式会社企業は社会のひとびとの生活の殆んどあらゆる面 に係わりあっており,かれらに対してかなりに自由裁量的な権力を有してい る。むろん,大企業によるかかる権力の保持と乱用は,社会の側からの反作 用を企業にもたらす傾向にあり,その結果は,一方では,経営者によるいわ

(2)

ゆる社会的責任の自発的受け入れをもたらしているとともに,他方では,企 業権力の中立化と縮少とのための自生的ならびに外生的な諸機構を出現せし めているO

本稿では,現代企業におけるこのような動向に関して,企業権力の特質お よび、権力抑制の機構を中心に若干の検討を試みたい。以下のはじめの二つの 節では,企業権jJの一般的性格に関して,続く二つの節では,権力抑制紋椛

としての企業立志fj討を中心に考察がなされる。

大企業とその権力

権力システムとしての大企業

現代の大企業が強大かっ広範な権力を有しており,かかる拘束されざる権 力の存在が社会的問題となっていることについては,既に多くの論者がさま ざまな角度から検討を加えている1) D 本節では,大企業が権力のシステムで あり,社会に対して直抜・rmj主にさまざまな影響をかなりに自由に及ぼしう

ー ー 2)

るし,また,及ぼしつつあることを,ボタウの所説 のうちに眺めることに するO すなわち,ボタウの所説に従って大会社の権力の全般的情況に関して 述べるなら,以下のようになる。

さてボタウによると,大会社は「私的な統治システム」であり,ここから それは,効率的にして生産的であることに加えて,自由と公正の原口Ijに従わ ねばならない。 権力とは他者の行動lこ対しコントロールもしくは影響を及ぼ す能力であるが,大会社はそωような権力をもっシステムであるO 会社権力 システムの基底は経済での権力であり,上部梢造は多くの他の権力からな Q 経済的権力は大会社への資産の集中に基づいており,かかる集中の主た る原因は近代工業技術であって,この巨大な経済的権力の上に多数の派生的 な権力が築かれているのである3)

そのような権力について具体的にいうならば,従業員に対して企業は大き な権力を有する。伝統的信条では,主要なルールと法の作成者は,それらに よって彩官を受けるものに対しなんらかの形で説明義務をもたされるように

(3)

企 業 権 力 と 立 憲 制 19  されねばならず,被影響者はその支配が受け入れ難い機関から脱退しえねば ならない。そして,理論では会社は従業員に説明義務をもたないし,従業員 も常に移動可能であるとされてきた。しかるに今日では,先イ壬権,年金の権 利,退職金・株式オプション・後払報酬の諸プラン,等がそうした移動可能 性を阻んでおり,ここから従業員の私的権利の保護が問題となっている。ま た,使用者間のコミュニケーションの発展はもし従業員がいわれなき汚名で 解雇された場合に,その再就職を極度に困難にしており,正当な手続が問題 となっているのである。なお,かかる正当な手続きは,顧客,供給者,吏に は,地方工場の突然の閉鎖によって大きな影響を受けるひとびとについても 問題となるのである針。

社会・文化に対する影響

かくの如き企業権力に関してボタウは更に,企業が社会・文化に対して及 ぼしつつあるところの,必ずしも表而化してはいない彩特を重視しており,

つぎのようにいうD

すなわち,かくの如き権力について更にいえば,近代会社をめぐる最も主 要な問題は,権力の直接的行使に関述するそれでなく,大会社のシステムが 文化におよび社会的,政治的な諸概念にもたらしつつある多くの微妙な変化 であるO

長期的には,文化と知識の面での権力の影特は,権力の直践的なj[mω 智よりも主大である5) 。そうした影特としては,新しい中流階級の笠jん 所 有概念の変化,企業の正当性への疑問,を挙げうる。

新しい中流階級についていえば,大企業はその活到jと存続のために,多数 の管理・技術の専門家を嬰討しており, “守系組且回~:決人

ツの男" ‘“‘{他也人;指旨向 Z豆型E型!人|問i司司rγ" でもある大規紋な ~I中iド1 流 l階岱紋人を生み出してい D かれらは,転勤によって移動するのであり,非永住的な,所有なき中流 階級であるO かれらは財産による保障の代わりに会社による保院を有するに 過ぎず,会社から独立した決牲をもたないo1PUらは,リースマンがいうよう に同や州の選不への政治(J'~コミットメントを並立火しており 6) 地l:i~~ への忠誠

(4)

心をもたないのであって,地域の市民でなく「会社の市民」であるD 財産所 有と地域への忠誠心とを基礎とする伝統的な政治シスヂムに対し,かかる変 化は,予期せざる,そして望ましからざる結果をもたらすかもしれない7) 所有の概念の変化についていえば,法的な意味では所有は,財産の保持・

使用・処分・占有・管理とコントローノレの諸権利の束からなるO 会社制度に あっては権利のかかる束は幾っかに分割され,株主は財産使用の成果の幾ら かを受ける権利,会社財産への部分的残余権,および限定された管理権を得 るのであり,経営者は財産の保持,使用,およびコントローノレの権利を得 O しかるに,大会社の出現は,かかる分割を実質化している。かくの如き

.8)

変化はパーリのいつ 如く,所宥νスァムから,権力が財産の支配に伴うよ うな,また,財産の支配が所有主たることよりも重要であるような権力シス テムへの移行を志味するが,かかる移行は幾つかの意味を含むO その幾っか を挙げれば第一は,私的権力が財産の所有によりはむしろ,会社内での地位 に依存している乙と,また,財産のコントローノレの少数者の手への集中であ O 第二は,権力行使者の伝統的な責任と説明義務の消失であるo権力は会 社役員の手にあり,役員一取締役一株主という伝統的な責任の鎖が切断され ている)。

正当性への疑問についていうならば,近代会社は民主々義社会におけるそ の正当性が問題とされているのであるO 正当性を制度がもつには,社会の特 定の目的に対し特定の時点で最適たることを要するが,米国の会社は, 20 紀以前は所有者への実質的な責任によって正当性を得たのであり,また,第 二次大戦以降は繁栄と生活水準の向上がその正当性の問題を表面化せしめて こなかった。しかし,大会社は社会の主要な権力センターであり,経営者の 権力は所有権による正当化をもたないし,所有権も競争市場の拘束による正 当性を減じつつあり,また,所有権の正当性の基礎をなす財産概念も変化し ているのであって,公的権力センターについて正当性,説明義務,および責 任を要求する社会は,私的権力センターがとりわけ人間の自由に影響を及ぼ す場合,同じことをそれに要求するであろう。株主総会の儀式の継続,教育

・公民権・コミュニティ福祉への社会的責任感増大の徴候,正当な手続l乙類

(5)

企業権力と立憲 1~j1J 21  するものの導入は,権力の正当性が問題となりつつあることを経営者も理解

してきていることを示している10)

ボタウは,巨大株式会社の権力をめぐり上述のように説明しているD 現代 の大企業が権力のシステムとして理解されうるととについての,また,所有 概念が変化し会社企業がその伝統的な性格と社会的性当性に関するその根拠 の一端とを喪失しつつある乙とについてのかれの指摘と説明は,必ずしも目 新しいものではない。しかしながら,かれの所説は,現代の大企業の権力に ついて一応の認識を得さしめる点で,いくばくかの意義をもっといえようD

注1) この点については拙稿「現代企業と支配力J,経済科学, 172号,および同「企 業権力と社会的責任J,経営と経済, 522号を参照のとと。

2)  Daw Botaw, Modern Corporation, 1965, p.  85 ff..  3)  Ibid., Pp.  87'"'"'90. 

4)  Ibid., pp.  91'"'"'92.  5)  Ibid., Pp.  92'"'"'93. 

6)  David Riesman, The Lonly Crowd, 1950.  7)  D. Botaw. op.  cit., pp.  94'"'"'96. 

8)  Adolf A. Berle, JrEconomicPower and Free Society, 1957.  9)  D. Botaw, op.  cit., pp.  96.......101. 

10)  Ibid., Pp.  101""103. 

E  権力の基礎的諸概念

1 権 力 の 概 念 i 影 響 力

現代の大企業が強大にして広範な権力を有する乙とは,前節からも明らか である。ところで,企業の権力は,企業が社会に対して有する支配力と影響 力を芯味するといいうるが,しかしながら,それは必ずしも明確な概念では ない。そ乙で本節では,論議を更に進めるjjijに,権力の概念について眺める ことにするD

権力の概念をめぐって検討を試みている論者にダール1)を挙げうるのであ

(6)

り,以下かれの見解を追うことで権力についての理解を深めたい。

ダーjレは権力 (power)を影響力(inf1uence)の一局面とみるが,影響力 とはかれにあっては,以下のように説明される2)

さて, AとBという二者が存在するとき,もし Aが Bにさもなくば Bは行 わないようななにかをなさしめるならば,その程度に従ってAはBIこ影響を 及ぼしていると,常識的にいってよい。二人の行為者の聞の影響力の関係 は,つぎのように図示3)しうるO

影響を及ぼす 行なう 影響を及ぼす 行わない

行なう

されば影響力とは諸佃人や諸グループ,諸団体,諸組織,諸国家の間の

「関係 (relation)Jであって,それは Iそこにおいて一方の行為者が他 のそれらを誘ってさもなくばかれらが行為しないような具合に行為せしめる ところの,諸行為者間の関係である4) Jむろんこの定義はまた, AがB を誘ってBに Bが現在行なっておりAの誘いなかりせば中止するであろう ようなことを継続せしめるような場合を含む。

ii 権 力

影響力とはダールにあっては上述のように解ちれるが,権力についてのか れの説明はつぎのようである5)

さて,影響力については二程のものがときに選び出される。一つは強制 的なそれ (coerciveinf1uence)であり,それは極度に厳しい罰もしくは大 きな損失の,とりわけ肉体的処罰,拷問,投獄,および死といったものの 脅しまたは期待に基づく影響力である。他は信頼l乙 基 づ く そ れ (reliable inf1uence) ,すなわち,服従の確率が非常に高いような影響力であるO

̲ 6) 

強制的影響力はつぎのように図不 しうる。名誉,富,威信,人気のよう な,あるひとAが主要とみなす価値について,その程々の程度を直線は示し

(7)

企 業 権 力 と 立 志 制 23  ているoAの現在の地位はA。であるo Aにとっての利得 (gain),例え ば名誉に関する利得は右方への移動によって表わされ,名誉における損失 (loss)は左方への移動によって表わされる7)。ひとはAに対し,報酬を提 供することで,もしくは罰で脅す乙とで,もしくは両者のなんらかの組み合 わせで影響を与えんとするかもしれない。換言すると,現状よりもかれの状

/ ¥

強 制

¥  

一 一 一 / 一 一 一 一 一 一 、

A̲  A.  A A+ 

損 失 1]1

f患を良くせしめると約束することで(もし行なえば100$の?世間[1),もしく は現状よりも思くすると脅す(行わないなら100~~の罰金) ,もしくは両者

(行なえば100$の報酬。行わねば100.Sの罰金)で, Aを誘ってさもなけれ ば行わないことをばAに行わせしめるかもしれないD 影響力の飢域は, A A +という両局端にわたり,すべての可能な結合を含むといえようoA

からA.というような左端の部分は,最も厳しい罰を表わしている口これが 強制的な影響力の領域であり,かかる影特力はときどき権力と呼ばれるので ある。

しかし,甚だ大きな報酬も,むしろ強制のような役を果しうる。というの ほ,もしAが服従に対し甚だ大きな報酬の捉供の申し出を受け,そしてひと たびかれの期待が乙の報酬に迎合されるならば,かれはもし服従しない切 合,期待に基づく旧失に苦しむのである。 A̲および A+という両何時iにお いては,非服従の担失は非常に高い。乙の芯味で,大きな報酬の操作もま , 同強制的"と考えられうる。 Tif版的な強fl]IJが甚大な利得の見込みに基づ く一方, 1円相的な強制は,村日;jijな処罰の脅しに基づくのである。消抑的な強 制と積回的なそれとの両者がときに, . .*j官 力 " な る 語 に は 合 ま れ る の で あ

8)0

(8)

ダーノレは権力について,以上のように説明するD つまり,極端な報酬や処罰 を約束する乙とで他者を動かしうるような影響力が権力と呼ばれるのである。

影響力の比較の方法

ところでダーノレによると,しばしばひとは,行為者Aが行為者 Bにどれだ け影響力を有しているかを知りたがり,また,呉なる行為者たちが他の行為 者たちに対してもつ影響力の量を比較したがるのであるoそしてダーノレは,

行為者がもっ影響力の大きさをどのようにして比較するかについて述べてい oかれによると,影響力の把握と比較の方法には五程のものが存在するの である9)

さて,影響力の大きさを考える場合,影響力の大きさをば,被影響者の行 動の変化(本来そうであった状態からの変化)の程度もしくは量によって把 握せんとする考えが存在するoAの誘いによる Bの内的もしくはオパートな 行動のある局面の変化が大である程, AのBに対する影響力は大であるとい う考えがそれであるo影響力についてのこの考えは,力学における力の概念 に類示するのであり,図のように示しうる。 xかられへの方向畳 (vector) によって表わされる変化は xかられへの方向量によって表わされるそれ より小である以上, ~ζ 対する A の影響力は,最初のケースよりも,第二の ケースの方が大なのである10)

)ljゾ同43を及ぼす 行わない

日:::Y1 Y2  の影響の量

影響力の基本的な測定基準として以下に挙げるもののうち,はじめの三つ はかかる概念に基づいているのであって,測定基準の第ーのものは r影響 される行為者の状態 (position)における変化の量11) 」であるO 乙の基準で は,ある行為者が第三のそれに対して,他者よりも大きな影響力をもっとい うことは,かれが第三のものがもっ状態に,より大なる変化を生みうるとい

(9)

企 業 権 力 と 立 窓 制 25  うことを意味するo しかしながら,異なる政治的行為者の相互の影響力をこ の方法で測ることは,必ずしも適切ではない。第ーに,具なった行為者たち の最初の状態や,かかる状態の実際の変化の大きさはいつも知りうるとは限 らない。更には,それは変化量にのみ着目し,変化を引き起す際の困難さの 程度を考慮しないのであって,変化に含まれるいわば心理学的距離なる尺度 が必要となる12)

かくて,第二の尺度は i服従の主観的,心理学的コスト13)JであるD

異なった行為者の客観的な状態における,みたところ等しい変化は,実際に は,異なった量の主観的変化を要請しているかもしれない。他のたれかの志 向への服従のコストは,具なったひとびとにとり,かれらの価値と状況によ って甚だ異なりうるのであるo例えば,平和主義者を誘って徴兵に賛成させ る乙とは,軍国主義者をそうさせる場合よりも,より多くの影響力を要す る。異なる個人の聞の,服従の実際の心理学的コストの差は必ずしも知りえ ないがため,この基礎的な尺度は実践で常に適用可能とは限らないが,それ にも拘らず,価値と状況における既知の差異に基づいた推測はしばしばなさ れるのである1

第三は, i服従の確率の差の量15)Jであるo ある交叉点で車が右折する 率が10分のlであるとして,いま,笠官が指示すると,それが1になるとす る。笠宮でないものが右折を命じた場合と,命じない場合との確率の差はゼ ロであるが,警官の場合,確率は10分のlから lへと変化する,つまり, 10  分の9の差を生ずるのであるoこの尺度では確率の差が問題となるのである が,かかる尺度に伴う困難としては,第ーに,確率の十分な見積りには,事 象のランダムたることか,もしくは過去における多数回の事象生起を必要と し,乙こから確率の精微な見積が困難たる乙とを,第二には,程々の参加者 のはじめの状態がしばしば知られていないがために,特定事象の最初の見込 を知ることがしばしば困難たる乙とを,更には,状態の変化の程度および服 従のコストという前述の二つの次元を勘定に入れていないがために,確率の 単なる差は十分に満足しうる尺皮ではないことを挙げうる16)

第四は i反応の範囲における差異17)Jであるo 例えば,上院の委員会

(10)

議長はその委員会の管轄下の問題には最も影響力をもつものの一人である が,与党の指導者は上院に掛けられるいずれの問題にも,高度に影響力をも っ傾向があるが故に,与党指導者は上院で最も影響力のあるひとであるとす る見解は,この尺度の適用を示す口しかしながら,異なった行為者が異なっ た種類の問題に関して他者に影響を及ぼしいる場合,かれらの相対的な影響 力を比較しうるかは問題であって,比較に際しては第一に,それぞれの影響 分野がなんであるのかが認識される必要があり,第二に,分野が異なればそ れぞれの影響力の比較が困難たることを知らねばならない・後者の場合につ いて更にいえば,異なる問題領域に対しウェートを与えることが考えられる が,ウェートは怠志的たらざるをえないのである18)

第五は I反応するひとびとの数日)JであるD もしAが500票を支配しB 1000票を支配するなら BはAよりも選挙で影響力があるというのが,

乙の尺度の一例であるD しかし既述の諸尺度は異なる結論を出しうるのであ り,第五の尺度もまた限界をもっo AはBに比しその有権者を誘って,かれ らの状態により大きな変化をもたらしうるかもしれないし,服従への不利益 が大である場合にも自分の有権者をより支配しうるかもしれない。また,自 分の有権者がAの要求を行なう見込がかなりに確かであるかもしれず,更に は,より広い範囲の問題に関してその有権者を支配しうるかもしれないので ある20)

ダーノレは影響の比較に際しては以上のような尺度が存在することを示す が,要約としてかれは,上述の基本的な尺度はいずれも有益ではあるが,し かしいずれも限界を有すること,そして,前述の分折は政治学徒に以下の命 令を示唆していることを挙げる。すなわち,

1.  影響力の比較を行なうに際してできるだけ多くの尺度を用いることを 得せしめるような情報を求めるべきことO

2.  利用可能な情報の種類に応じて比較をなすべきこと。

3.  明確たるべきこと。権力の比較に関するパラダイムつまり範例は,つ ぎのようであろう。すなわち,一ーは一ーとーーによって測ったとき,一ー に関してーーよりも影響力をもっD

(11)

企 業 権 力 と 立 宮 、 制 27  4.  評価の範囲外に置かねばならなかったことに,絶えず気づいているべ きこと21)

以上が,影響力の比較方法に関するダーノレの見解であるが,かれは更に影 響力および権力に関連して,ポテンシャルな影響力と実際のそれとの相違 や,権力保持者の確定の方法,および権力の分折に際しての陥し穴について 触れており,最後にこれらの点について眺めておこうD

3.  現在の権力と潜在的な権力

まず,ポテンシャノレな影響力とアクチュアノレなそれとの相違に関してはダ ーノレは,はじめに,ある個人もしくは集団が,なんらかの決定領域に対し他 者よりも影響力を獲得する理由として三程のものを挙げるO すなわち,それ

らは以下のものであるO

1.  ある行為者が他のものよりも,より多く政治的資源、を自由にしうるO

もしくは

2.  自由にしうる資源を与えられて,ある行為者はそのより多くを政治的 影智力の獲得に用いる。もしくは

3.  自由にしうる資源を与えられて,ある行為者はそれを他者よりもより 巧妙に,ないし有効に用いるD

かくてダーノレは,行為者の過去もしくは現在の影響力,将来の予想される 影響力 (probablefuture influence) ,および現存の政治的資源のすべて を最適の用具を用いた場合の最大の潜在的影響力とを区別するととが主要で あるとするD かれは,行為者が行使する影智力はめったにその最大の潜在的 影符力には到達しないこと,その理由は第ーに,高度の政治的熟釈をもつも のは極く限られており,第二に政治的影智力の最大化のために資源、をフノレ に用いることを有意義であると感ずるものは限られていることを挙げてい 22)

つぎにダーjレは政治的システムのメンバーの問で権力がどのような具合に 配分されているか,すなわち,たれが支配を行なっているかの把握に関して は,実験宗での方法以外l乙以下の四極の実践的方法が存在することを挙げ

(12)

O

その第一は,公式的もしくは準公式的地位から権力者を推定する方法であ る。この方法の利点は単純さであるが,弱点は,公式的地位は必ずしも権力 と相関しない乙とであるo第二の方法はこの欠点を克服せんとするものであ り,それは評判に,つまり判定に都合の良い状況に置かれたひとびとの判断に 依るものであるD この方法は簡単・迅速にして経済的であるが,判定者まか せになるという欠点をもっ。公式的職務や評判によらない第三の方法は,志 志決定に最もしばしば参加するひとびとを以って権力者とみるものであるo

この方法の欠点は,参加もしくは活動は権力と等しくないことであるD の欠点を回避するものが第四の方法であり,それは,単に意志決定に参加す

る(例えば,提案)のみならず最もしばしば成功をおさめている(例えば実 際の政策として採用)行為者が最も影響力をもつものとみる方法であるO の方法の長所は,単なる職務,評判,活動を超えて操作的テストを用いる点 であり,欠陥は時間を要すること,及び,採作的定義がときに粗雑なものと なることである。

ダーノレは,いずれの方法も明白な長所と短所をもつも,うまく用いれば,

それぞれ高度に有用であるとする23)

終わりに,ダーノレは権力の分折に際して陥りやすい誤ちについて,つぎの ものを指摘するo

l.  決定に参加する乙と,決定に影響を及ぼすこと,および,決定の結果 に影響されることを明確に区別しないこと。

2.  行為者が権力を有しているといわれる領域 (scope)を同定しないこ

3.  異なった程度の権力を識別しないこと(例えば,権力が均等でなく配 分されているという命題と,システムが支配階級によって支配されていると いう命題とを等しくすること)

4.  行為者の適去もしくは現在の権力をその潜在的権力と混同すること (とりわけ,政治的資源が大きな程,権力は大であると想定する乙とで)口

5.  行為者の期待される将来権力と,その潜在的権力を等しいすること

(13)

企 業 権 力 と 立 憲 制 29  (とりわけ,誘因および熟練における相違を無視することで24))

本節では,権力の概念をめぐってのダーノレの見解を順次追ってきたD かれ はまず,影響力一般について論じ,権力を影響力のー局面として定義するo

ついで,影響力の比較の方法を述べ,更に,現在の権力と潜在的なそれとの 相違,権力者の確定の方法,および権力分折に際しての注意点に関して説明 を加えているo

かれの所説は,本節でとり上げたところの乙とに関する限り,企業の権力 を直接には扱わない。しかしながら,影響力と権力についてのかれの分折 は,企業権力というものを明確に理解するにあたって有益であると思われ D すなわち,企業権力は基本的には,ダーノレのいう影響力の概念によっ て,適切に説明されうるであろうD なお,影響力および権力をめぐってのダ jレの他の分析もまた,企業権力に対する検討を試みるに際して,示唆に富 むと乙ろが多いといえよう。

注1) Robert A. Dahl, Modern Political Analysis, 1963.  2)  Ibid., p.  40. 

3)  Ibid., p.  40.  4)  Ibid., p.  40.  5)  Ibid., PP.  50"'51.  6)  Ibid., p.  50. 

7)  なお,不IJIrewardsbenefits, Advantages, inducements, positive  inccntives, indulgences I乙,損失は, penalties, disadvantages, nega‑

tive incentives, deprivations, sanctions I乙等しい。

Si  ダーノレは権力の定義に2程の強制を合めている例として,ラスウェルら (Harold D. Lasswell and Abram Kaplan, Power and Society, 1950)を挙げる。

9)  R. A. Dahl, op.  cit., pp.41....47.  10)  Ibid., PP. 41"'42. 

11)  Ibid., p.  42.  12)  Ibid., pp. 42"'43.  13)  Ibid., p.  43. 

(14)

14)  Ibid., pp. 42.......44.  15)  Ibid., p. 44.  16)  Ibid., PP.  44.......45., 

17)  Ibid., p. 45.  18)  Ibid., pp. 45.......46.  19)  Ibid., p. 46.  20)  Ibid., pp. 46.......47.  21)  Ibid., p. 47.  22)  Ibid., pp. 47.......49.  23)  Ibid., pp. 51.......53.  24)  Ibid., pp. 53.......54. 

IV  権力と立皆、制

立雷、制の基本原理

乙れまでのところでは,企業権力の存在および権力の概念について述べて きた。現代の大企業は社会にさまざまな影響を及ぼしうるし,また及ぼして きているD 乙の乙との一つの結果は,企業権力の抑制と正当化のためのなん らかのシステムの確立への社会の要求であって,権力をチェックし中立化す るための幾つかの試みが企業をめぐって実際に出現しつつあり,企業行動へ の制吋の増大と,株式会社としての企業の本来的性格の変化とをもたらしつ つあるD 放任された企業権力が拘束が受けつつあるという意味では,企業は 一面では立憲化への傾向を辿りつつあるのであって,このことは,多くの論 者が現代企業の立憲化の不可避性を指摘していることのうちにも明らかであ

しからば,企業権力はどのような形でコントローノレされ,また,株式会社 はどのような方向へとその性格を変えるのであろうか。本節では,乙の問題 への手掛りとして,立志制の概念について理解を深める乙とにしたい。立志 制に関してのイーノレズらの所説1)を眺めることは,かかる目的にとり有益で あるD かれらは,立官、{聞について以下のように説明するD はじめに立窓制の

(15)

企 業 権 力 と 立 憲 制 31  根底にある理念についてイーノレズらは,さまざまな立憲制の定義を示してい

2)。それらは,つぎのようであるD

立憲制は支配への法的制限であるoそれは自由裁量的支配のアンチテーゼ である3)

立定、制は支配が,人民により人民のために組織される活動であるが,権力 乱用阻止のための拘束に従うという命題を具体化するo権力分割による立窓 制は有効な拘束を提供する針。

立憲的拘束の基底にある概念は,政府のそれよりも高次にして国家の活動 を限定する法という概念に依存する的O

絶対的な自由裁量的権力,もしくは,固定的な法のない統治は,いずれも 社会の目的と両立しえない的。

人民への依存は支配への第一次的コントローノレであるが,経験は追加的対 策として権力問の相互チェックを示している7)

すべての国家は憲法をもつが,そのことはすべての国家が立志制を守って いることを怠味しない8)

社会の良さは権力保持者の抑制を条件とするのであり,乙の目的は,政治 的権力の行使を制限する固定的規則つまり"芯法"の形で拘束を設ける乙と で最も良く達成されることが判明した。かくて定、法は椛力コントローノレのた めの基本的用兵となった9)

以上が,立官、制についての諸論者の定義の幾っかに関してのイールズらに よる要約である。それは,立志制が法の支配,椛力分散,忍法,といった諸 概念と結びつく概念であることを物語っているD

立志市JIの目的

75、制はなにを目的とするのか。イールズらはそれがー而では権限の付与 と,他而では椛力の拘束というこ主の目的をもつこと,とりわけ後者の国が 強調される傾向にあることを挙げるo この点についてかれらは,つぎのよう に説明する10)

rlr引去の場合,それは"用只"であり Hシムボル"でもあるといわれて

(16)

きた。強力にして効果的な政府によって国家的目的を達成するための用具と して,憲法は権力の授与であるo しかし,それはまた,人民の代理人の手に ある統治権力への制限であり,この点でそれは人民の保留権利のシムボノレで、

11)

ある。コーウィン が不すように,米国の立宮、制の目的の二霊性は,ニュ ー・ディーJレをめぐる論争に現われているoニュー・ディーノレでは,連邦政 府の立法・行政部門は統治権力の積極的局面を主張し,連邦裁判所はそれを はじめ攻撃した。結局,裁判所は憲法を,積極的支配の用具として,広く再 解釈したのであり,事業界の多くのものの意見では政府への制限のシムボノレ

としての憲法は弱められたのであるo

国家の公的支配についてであれ,任意団体の私的支配についてであれ,立 憲制のジムボノレ的局面はその用具的側面に対して均衡させられねばならな い。権力への制約は立憲的必然であるが,適切な権力が存在せねばならな い。乙の原則は,良く統治される組織のいずれにおいても妥当するのであ

「要するに立言、制は,西欧文明の歴史を通して,官僚.における適切な権限 とそのような権限の限界設定というこつの基本的問題を提起してきた。両局 面は,政治思想で旧い伝統を有しているが,西欧世界で立憲制の概念とより 密接に同一視されるようになってきたのは,制限の強調である12)

立雷、制の実践的形態

イーノレズらは,古代の立定、主義者の理論を近代的実践へと移すととは,権 力の分散と責任支配"の諸技術というこつの一般的見出しで要約されう るような形でなされているという。かれらは,米国の場合に焦点を当てつ つ,実践での立憲制を以下のように説明する13)

i  権力の分散

イーノレズらは,適切な権力と権限が存在していると想定するならば,立 憲制の問題はまず第ーに,そうした権力の分散!のそれであり,権力分散 は米国では三つの主要形態をとるというD す な わ ち , そ れ ら は , 地 理 的 territorial)分散,機能的分散,および時間的 (chronological)分散であ

(17)

企 業 権 力 と 立 憲 制 33  って,それぞれ,連邦制,権力分離,および定期的選挙と任期制限という形 で存在するO それぞれについてのイールズらの説明はつぎのようであるO

権力の地理的分散。国家政府と州政府との聞の,権力の地理的な分散 は,立憲、システムの多くや"分権的"企業にみられるような,中央から周辺 の決定センターへの権限移譲と異なるo また,述邦の中央機関もまた,州内 の個人に直接に権限を行使し,中央政府を選ぶものも州代表に限られない。

なお,各州の地位は平等であるD

連邦制は立憲支配のための必要条件ではないが,単一的支配に比して辿邦 制は,公的政策と大衆の感情との対応の増大,立法面での実験の余地の明 大,統治への参加の機会の増大,広域的領域の統治のための適切性,およ び,多数派による政治独占の危険の軽減,の諸点で優るとされる14)。近代 立憲制の発展においての述邦体制の役割はそれが,権力の不当な集中を 地理的に阻止する一一同時に,中央政府の権力もしくは個人の権利が州によ って不当に侵害されないようにしつつ←一手段を捉供しているということで ある15)

b  権力の機能的分散。モンテスキューは,異なった種類の統治権力が存 在すること,および,自由の保護のためにはこうした権力は同じ統治機関に 集中さるべきでないことというこつの命題を提示し,権力の機能的分離を説 く。米国の伝統的な権力分離教義は,立法的,行政的,ならびに司法的な三 種の権力を直視する。権力のこの三分割は,非科学的であるとして,また,

効果的な統治を不可能ならしめる点でワーカフツレでないとして批判されてき てはいるD

なお,統治を広く解するとき,社会全体で権力の機能的分散がみられる。

多元的な社会構造は,多くの権力中心点を維持することでそれ自体として権 力への椛造的制約を提供するが,そのことに加えて多元主義は,社会構造全 体に対する権限についての段能的分散を捉供するのであって,それは近代立 志制での重要な椛造的工夫である16)

権力の時間的分散。権力分割の第三の形態は I!!j間前hI乙沿うもので,と りわけ任期の制限であるO 他の例は,年次予算である。行政の首長と立法府

(18)

代表者の定期的にしてひんぱんな巡挙はすべての立憲システムで,基本的な 必要事とみなされている口一般原則として,統治者の任期は,その代表者的 性格を確保するために限定されるのである17)

ii  責任支配

イーノレズらは,責任支配について以下のように説明する18)。すなわち,

ジェームス l世は神へのみの責任が存在すると主張したが,近代立志制は,

第一に,支配者が選挙民に責任あらしめられる代表ililJ支配を通じて,第二 に 限 定 さ れ た 支 配 " もしくは法の正当な手続の下の支配によって,より 世俗的な責任を要求するのである。

代表 ~ìiJ 支配。人民と責任政府との述接は,程々の代表システムで維持 される。近代立志制度では指導者は,定期的選挙,指導者の行為と考えにつ いての絶えざる公表,および団体化と陳情とを通じての入念な選挙プロセ スで,説明義務があるようにされている。

代表制支配は,公式的な代表システムによってのみならず,支配者への多 くの"圧力"によっても達成されるのであり,実際には,地理的のみならず 機能的な複雑な代表化と,多様な非公式的集団の統治プロセスへの普通的参 加が存在する。なお,説明義務の迎接は政党制度で強化されている19)

b  法の正当な手続。米国では司法的検閲は立憲制の基石となっており,

裁判所が自由の保設者として立法および行政の部門の聞に位置するD 法の正 当な手続についてのより旧い手段的意味は,正当な告知・主張の聴取・弁護 士の権利,等に関しての,訴訟手続上の公正さである20)

イーノレズらは立憲制の実践的形態に関してこのように述べているO なお,

かれらは,法の正当な手続について,つぎのようにもいう。組織化された社 会では,共同でものごとを行なうためにある量の権力が動員されねばなら ず,この権力を用いる権利は少数者の手中に宿らねばならない。されば,組 織化された社会による,人間の権利へのなんらかの侵害は不可避であって,

これが,法の正当な手続なる概念の根底にある考えある,と21)

イーノレズらは,立宮、告JIの実践的形態を以上のように画いている口かれらに あっては,立志詰JIは具体的には権力の分散と"責任支配"というこつの要素

(19)

企 業 権 力 と 立 憲 制 35  から成るとされる。この場合,権力分散は地理的,機能的,時間的な三種の 分散から成り,責任支配は代表制支配と法の正当な手続とから成るとされる のである。

この場合,権力の分散と責任支配の根底に憲法の存在が想定されているこ とは,イーノレズが他の書物で立憲制の内容として,憲法制定による法の支 配,権力の分離,責任支配,および個人の権利の保護を挙げている22)ことか らも明らかである。イーノレズらの所説は米国の立憲制を対象とするものでは あるが,立憲制の基本的形態を理解するに際して有意義であるO

会社立憲制

イーノレズらは,上述のような形で立志制の概念について検討を加えたあ と,会社立憲、制に関して触れている23)

すなわち,かれらによると,立憲主義者の教義は今日,公的支配にのみな らず私的組織の行使する権力,とりわけ労働組合および事業会社のような経 済的団体に拡張される傾向にあり,会社立憲制が経営者と公的な政策々定者 にとり主要な問題のーっとなってきたのであるO

会社は,その内部では,株主,経営者,および従業員の問で権限関係を有 するが,それは対外的にも,近いところでは,労働組合および工場共有体の 諸力に,また,環境のより遠い範囲では,政府機関の財政的ならびに他の諸 要求,年金信託と投資信託の隠然たる権力,国内および国外の市場,更には 政治的権限の世界的パターンでの大きな変化,といったものに直面してい る。結果として,会社における立君、的危機が,企業内外の権限関係の拡大か

ら生じているのである。

会社立憲制における主要な問題は,権力の範囲と正当性に,および権力の コントロールの手段に集中するが,今日の著作ではコントロールに強調が置 かれている。会社権力のコントロールには,二つの主要な可能性が存在す D つまり,外部機関による経営者権力のコントローノレと,責任支配の実現 を目的とする,企業内の制度化された手段によるコントロールとである。企 業内でのかかるj!JIj度化については,その傾向は既に始まっているのであって,

参照

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