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会計規制と資本市場 一SFAS No.19の公開草案の資本市場へのインパクトー

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(1)75. 会計規制と資本市場 一SFAS. No.19の公開草案の資本市場へのインパクトー. 大 1. 塚. 宗. 春. 間題の所在. ユネルギー間題ほど近年人々の関心を集めた話題はないであろう。石油エネ ルギーの潤渇可能性,石油価格の高騰,代替エネルギーの開発讐が間題とされ たが,エネルギー資源の保存.開発に関連して,アメリカでは石油・ガス会杜 の会計方法が議論の対象と汝った。簡単に問題の経緯を述べると以下のように たる。. 1975年12月22日に成立したアメリカのrエネルギー政策と保存法」は,1977 年12月22日迄に,アメリカの原油または天然ガスの生産に従事する企業に適用 される会計基準の制定を証券取引委員会(Securities. Exchange. 以下SECと略す)に要請した。財務会計基準審議会(FhaI1cial. Standards. Commission,. Accomting. Board,以下FASBと略す)は1975年10月に「抽出産業における. 財務会計と報告」と題するプロジェクトを新たに検討議題に加えていたので,. SECはこの間題をFASBにまかせることにLた。FASBは同年12月,当該 問題に関する討議資料(dis㎝ssiOn. memorandOm)の作成を諮間するための. 作業班を命令L,1976年12月23日に討議資料を発表した。翌1977年の3月30日 から4月4日にかけて,この討議資料に関しての公聴会が開催された。そして,. 1977年7月15目付で,「石滴・ガス産出会杜の財務会計と報告」ωと題する公. 開草案をFASBは発表するに至ったのである。 75.

(2) 76. この公開草案の発表は利害関係者を中心とした,これまでにみられなかった ような強い反応を惹起した。反応の大部分は公開草案で主張されていたSu㏄一. essfu1脱orts法の強制に関してであった。石油・ガス会杜における開発コ. ストの会計処理方法としてそれまでSuccessfu−E丘orts法(以下SE法と略. す)とFu1lCost法(以下FC法と略す)が広く用いられていた。FC法は 石油・ガス会社の資源の埋蔵物の発見のために要したコストを資源の埋蔵物の. 発見の有無にかかわらず資産化し,それを相当の年数にわたり償却する方法で. ある。これに対し,SE法は発生したコストの資産化のためには,それが資源 の埋蔵物の発見と緒びついていることが必要であり,埋蔵物の発見の成功と結. びつかなかったコスト(不成功のコスト)は発生時の費用とLて処理すること を要求する。換言すれぱ両者の違いは,不成功に終った埋蔵物の発見のための. コストを資産化するか否かというところにみられる。SE法は大規模な総合石 油会杜で,FC法は中小規模の石油・ガス産出会杜で主として採用されていた。. ところがFASBの公開草案はFC法の採用を認めないで,SE法を強制した。 このためFC法の採用会杜を中心として,公開草案に対する強い不満が表明 されたのである。. すでにFC法を採用している会杜はSE法に変更することにより,報告利 益や自己資本の額が薯しく減少し,長期的にみて,利益の変動性が増す。この ため資本市場や金融市場での資金調達能カが阻害され,新開発がしにくくなり,. 競争カが弱まるという結果になるとFC法採用企業は主張Lた。すなわち, SE法の強割は企業の弱体化,ひいては国力の低下を惹起するゆゆしき事態を 招来するとして反対したのであ乱. FASBならびにその支持者は次のような主張によりこれに対抗した。すな わちr(ユ)SE法はFC法より概念的にみてより妥当である。(2)石油・ガス開発. 会計の統一化は資本市場における非継続性,非比較可能性,誤解の重荷をとり のぞき,資本配分における競争を促進させる。(3)多数の小規模の独立生産老は 76.

(3) 77. 長い間SE法を採用してきたが,これにより資本調達能力や大企業との競争 で明らかに不利となったということはない」②. にステイトメント19号(SFAS. と反論した。そして,同年12月. No.19)r石油・ガス産胱会杜の財務会計と報. 告」個〕を公表し,SE法を強制した。. FC法かSE法かの論争は両方法の概念的優位性の間題を含んでいるとして も,実際はFC法からSE法への変更が資本市場に及ぼすイソバクト,株価へ の影響を中心とLて展開された。それは単たる机上の論議でなく,現実のデー タによる実証研究が可能であるためである。資本市場が少くともセミストロン. グ・フォームで効率的④で,会計方法の変更により経済実体そのものの変動が もたらされない場合であれぱ,資本市場が会計方法の変更の影響を受げること. はないはずである。会計方法の変更は単なる会計技術上の問題であって,その. 変更によって何ら新情報が提供されることはない。ここで論議されているFC. 法からSE法への変更の問題も,それが単なる会計技術上の問題であれぱ,. FASBの公開草案の公表によるSE法の強制という会計規制は,この規制をう ける企業の株価またはリターソに何らインバクトを与えることがないはずであ. る。もしSE法の強制が反対論者のいうように経済実体に影響するのであれば,. それは株価に反映されることにたる。そこでSE法の強制という会計規制・政 策と株価の関係について,いくつかの実証研究が実施されたのである。本稿の 目的はこれらの研究を跡づけ,整理するとともに,意義と間題点を明らかにす ることにある。. 注(1). Financia1Accounting. i皿gbyOiland. Gas. St刮皿dards. Board,. ProduぬgCompanies,. Fil1ancial. Accounting. and. Repo前. ExposureDraft,July1977一この公. 開箪案は7月15日付で発義されているが,この公開草案の内容が資本市場に明らか にされたのは7月18日に至ってであり,童た新聞報道されたのは7月19日であった。 (2)Lev〔1979〕,PP.486−487一. (3)Fi皿ancial. omting. and. Accomting. Repo㎡ing. Standards. byα1a血d. Board,Statement. No・19,. Gas. Co㎜panies,. Producing. Financial. Acc−. December. 77.

(4) 78 1977・本スティトメソトの内容については種山幹夫〔1978〕を参照されたい。. (4)効率栓の定義についてはFama〔1971〕を参照されたい。. 2. DyckmanとSmithの実証研究. DyckmanとSmith〔1979,PP.45−75,以下D&Sとよぶ〕の行った実証 研究を一瞥することから始めよう。. (1)サンプル企業の選択. 間題とたっている公開草案は石油・ガス会杜に適用されるので,まずサンプ. ルとなりうる企業を1975年および1977年6月30目のSECのrDirectory Comp狐ies. Hero1d. Required. to. Inc.の「Report. File. Amual. of. Reports」および1977年2月のJ.H,. Inventory」から抜き出し,SECのコード番号131. 「原油抽出および天然ガス」が企業を確認するために用いられた。これらに記 載されていない企業は,たとえ石油,ガス生産活動に従事しているとしても,. サンプルから除外された。この作業によって308の企業が選択されたが,この うち156杜は次の要因のために排除された。(D&S〔1979〕pp.49−50.)。. ①1976年から1977年にかけての期間の価格と配当に関する十分なデータが 欠けている。. ②会杜の会計方法の決定,その開発・生産活動の程度を明らかにするSEC にファイルされた最近の年次報告が欠けている。. ③サソプル期間中に買収または清算がある。 ④当初のサンプルにあった名前が両方で違っている。. ⑤SE法かFC法かどちらの方法を採用しているか決定できない。 ⑥ニューヨーク証券取引所,アメリカン証券取引所または店頭市場で当該 企業の株式が取引されていない。. 以上のスクリーニソグを通過Lた152杜のうち,開発・生産活動(exp1o蝸tion 78.

(5) 79. and. producti㎝activity,以下EP活動とよぶ)が主である企業(総収益の. 50%以上がEP活動からもたらされる企業)にサンプルを隈定した。それは. FC法からSE法への変更による影響を全面的に受けると考えられている企業 にサンプルを隈定することにより,研究の目的がよりよく達成されると考えた. からである。この結果サソブル企業数は51杜となった(サンプルA)。しかし ながら51杜のサンプルは若干少ないとも思われるので,EP活動が主である企. 業という代りに収益が100万ドル以下であるという基準を設けるとサンプルは 113杜となった(サンプルB)。サ:■プルAに含まれている会杜はサソプルBに. すべて含まれている。このサソプルAおよびサンプルBに含まれる企業はFC 企業かSE企業かのどちらかに分類される。(D&S[1979]PP.50−51・)。. (2)実証研究モデルと結果. D&Sは二つの研究モデルによる実証研究を実施Lている。一つはべ一タの 値が1のポートフォリオ(mit・beta. portfo1io)による方法で,他は市場モデ. ルによる方法である。. (・)べ一タ値が1のポートフォリオによる方法. この研究方法はGonedes[1975],Harrison[1977コ等によって展開された 方法で,以下のように行われる。(D&S[1979]pp.5か57)。. ①サンプル企業をFC企業とSE企業にまずグループわけする。. ②EP活動の割合が高い企業(51杜一サンプルA)か否か,およびFC法 かSE法かという基準によってサンプル企業を分類すると次のようになる。 第1表. サソプル企業の分類と企業数. FCかSEか EP活動. FC法. SE法. 合計. 高(サソプルA). 32杜. 19杜. 51杜. 低. 40杜. 22杜. 62杜. 合計. 1. ・・杜1・・杜い・・杜 79.

(6) 80. ③②で示Lたように全サソプルは四つに分けられる。したがって,四つの ポートフォリオが作成される。. まず各企業のべ一タ値を1976年3月19日から1977年3月25日までのデータに より市場モデルを適用して求める。各々のポートフォリオに含まれる企業をべ. 一タ値によってll1貢位づける。たとえぱ,FC法を用いてEP活動が高い企業か ら成るポートフォリオには32杜が含まれるが,この32杜のべ一タ値によってべ 一タの高いものから低いものへと順位づげる。次に各ポートフォリオについて,. このべ一タ値の高いもの(高べ一タ値ポートフォリオ)と低いもの(低べ一タ. 値ポートフォリオ)との二つのグループに分け,高べ一タ値ポートフォリオの. 平均べ一タと低べ一タ値ポートフォリオの平均べ一タの加重平均が1となるよ うなウニイトづけを行なう。すなわち,. ・一・(÷)、彗糾(・一・)(÷)ぷ、馬. (・). 州:高べ一タ値ポートフォリオに含まれる企業数 。:低べ一タ値ポートフォリオに含まれる企業数. X:高べ一タ値ポートフォリオに適用されるウェイト. これによって四つのポートフォリオについて,べ一タの値が1となるような ウェイトが求められることにたる。. ④テスト期閻である1977年5月2日から1977年9月26日までの21週間,す なわち公開草案の公表前10週間,公表週(7月18日の週),および公表後10週 乃。1 間について各企業のリターンが週別に計算された。リターンは1。一(ただ ハ し乃は彦週末株価)で計算される。. ⑥ポートフォリオのリターンの平均が週別に計算される。ここでポートフ ォリオは八つある。四つのポートフォリオについて高べ一タ値ポートフォリオ と低べ一タ値ポートフォリオに分けられるからである。つまり八つのポートフ. ォリオについて,週次平均リターンが計算される。高べ一タ値ポートフォリオ 80.

(7) 81. と低べ一タ値ポートフォリオのウェイトはすでに③で求められているので,こ. れを適用することにより,四つのポートフォリオ,すなわち,FC・高EP,FC・. 低EP,SE・高EP,SE・低EPのポートフォリオの週別リターソが計算される。 これをそれぞれ見,亙c,商,1〜圭,亙c,低,見,sE,商,見,sE,低,、とあらわす。. ⑥FCポートフォリオとSEポートフォリオの差を高EP活動と低EP活 動について,週別に計算し,平均する(たとえぱ21週全部についての平均とか, 公表後11週の平均というように)。. 1 伽・一亙・・=一Σ(&,・・一見,・・) 〃 〃は週の数. (2). ⑦サンプルのデータにより計算したポートフォリオの平均リターンの結果 をまとめると次の表のようになる。 第2表週別平均ポートフォリオ・リター:■ 公表前10週. ⑧. 公表後10週. 全. 期. 間. F. C,高E. P. 1,14. 一0.49. O.29. S. E,高E. P. 1,18. −1.02. 0,33. F. C,低E. P. 1,25. −O.84. 0,16. S. E,低E. P. 0.63. 0.14. 0.37. Hotte1ling. 丁里 第3表. テストの結果は次のとおりであ孔 Hottellin9. T2. 公表前10週 T2の値 10%での棄却値. テストの結果 公表後10週. 全. 期. 間. 2.016. 4.448. O.148. 5.707. 5.451. 5.O06. したがって10%の有意水準で,いずれの期間についても有意でないというこ とを示しでいる。. (b〕市場そデルによる方法 市場モデルによる方法は次の手順で進められる。(D&S[1979コpp.57イ1っ。. 81.

(8) 82. ①テスト期間以外の期間のデータを用いて,市場そデルのバラメータを推 定する埴1976年3月19日から1977年3月25日までの1年間の週次データをD&S は用いて市場モデルのバラメータを推定している。. ②テスト期聞として,公開草案の発表された前後の10週間が選ぱれた。す. なわち1977年5月9日から9月30目までの21週間である。この21週間について, 各企業別に次の式によって残差が計算される。. 舳=伽一(あ十あ疵伽1). (3). 見生:テスト期間中のま週の{企業の実際のリターン. R肌パテスト期間中の玄週の市場全体のリターン ゐ,あ{:①において最小二乗法を用いて求められた値. ③②で求められた{企業のま週の残差伽の集計は二つの仕方で行われる。 すたわち圭企業の多期間にわたる集計とま週の多企業にわたる集計である。尾ポ. ートフォリオ(尾はFCかSEか)に対する6企業の多数の週のリターンの平 均を伽,尾ポートフォリオのま週の多数の企業のリターンの平均を伽とす る。. ④FC企業とSE企業の問での残差を比較することにより,公開草案で要 求された会計方法の変更のイソパクトを調べる。その検定のため非バラメトリ ック・テストとバラメトリック・テストを行った。非パラメトリック・テスト. とLて次のテストが実施された。 残 ω桃 吻此. 差. テ. ス. ト. Ma㎜一Whitney ①Wa1sh(施が小さいとき) ②Wilcox㎝(勉が大きいとき). WalshとWilcoxonテストは週別のポートフォリオの平均残差の差,すな わち6F泓,。c一軌,sEによって行われた。この結果は第4表に示されている。 またパラメトリック・テストでは次の二つの帰無仮説 82.

(9) 83 自). 勿F0>勿sE,. ㊥. 4≧0. を検定した。伽o(勿SE)は疵,醐(軌,SE)の平均,∂は必の平均である。こ. の結果は第5表に示されている。 第4泰 サソブル A. 期. 非パラメトリック・テスト結果. 間. テ. 工1週. (O週から10週). 21週. ス. テスト統計量. ト. Mam−Whitney(n=51). U二286.5. Walsh. 1/2(d4+dn)=o.o064. (n−11). Ma㎜・Whitney(n:51). U:259. Wilcoxon. (n=21). ΣR=71*. Mam−Whitney(n=113). U=1212*. (一10週週から1⑪週). B. 11週. Walsh. (O週から10週). 21週 (一10週から10週). (n=11). 1/2(d4+d11)=一〇.o015**. Mann−whitney(n=113). U=1300.5. Wilcoxon. ΣR=72*. ‡. 10%水準で有意だが,5劣水準では有意でない。. 帥. 5劣水準で有意だが.4%水準では有意でない鉋. (n=21). 第5表 パラメトリック・テスト結果 サソフル. 帰無仮説. AσFc》σsE ∂≧O. BσFc≧σsE 亙≧0. 期間. ま値. 11週間. 一〇.476. 21遇間. −1,049. u週閻. −O.211. 21週間. −O.380. n週間. 一0,141. 21週閻. −O.966. 21週間. −O.387. 第4表に示されているWalshやWilcox㎝テストの結果は公開草案がSE 企業と比ぺFC企業に強い影響を与えていることを示しているが,それ以外の 83.

(10) 84. 非パラメトリック・テストや第5表のバラメトリック・テストは公開草案の影 響を支持するものではない。. こうした状況に直面して,D&Sは累積残差をSE法採用企業とFC法採用 企業について図示し,検討を加え,公開草案により企業が不利な影響を受ける ことは肢いと結論づけた。. 3. Co11insとDentの研究. Con虹sとDent[1979,PP.34,以下C&Dとよぶ〕はD&Sの研究は サソプル企業選択に問題があると批判した。すなわち,D&Sの研究はサンプ ル企業とLて妥当でたい企業をサンブルに含めているとC&Dは指摘し,不適. 切な企業をサソプルから除去したうえで実証研究を行った。そLて公開草案が FC企業のリターソにインバクトを与えていることを明らかにLた。以下彼等 の研究り概要を説明する。. (1)サソプル企業の選択 サソブル企業は実験企業群とコントロール企業群に分けられるが,実験にお. ける関心事一この場合はFC法かSE法か一によってのみ区別される同質 的母集団から引き出されたものであることを確保しなけれぱならない。従属変. 数(この場合はリターン)に影響する他の要因,実験企業群とコントロール企 業群とで同じでないかまたはラソダムに分布していない他の要因は除去される. か,またばコソトロールされねぱならない。いまD&Sのサンプルをみると,. 72のFC企業のうち16社(22%)がカナダ企業であるのに対し,SE企業41社 のうち2杜(5%)だけがヵナダ企業である。以下述べるヵナダ企業の特性の. ため,カナダ企業をサソプル中に比例的に含まないと,SE企業群とFC企業 群のリターソに有意な差をもたらさないように偏向されると考えられるので, カナダ企業をサソプルから除くことが必要である。(C&D[1979]pp.10イ2)。 84.

(11) 85. ①カナダではFC法もSE法もともに認められた会計方法である。株式が アメリカの証券取引所で取引されている企業はSECに財務諸表をファイルす ることが要求されてはいるが,その作成にあたってはカナダの一般に認められ. た会計手続に従ったものを認めるというのがSECの方針である。公開草案に. よってFC法を採っているカナダ企業がSECへのファイルにおいて,SE法 を強制されるかどうかは目下未定で,不確実である。. ②おそらくカナダの一般に認められた会計手続はFC法もSE法もとも に認めるという方向を堅持するだろう。. ③. カナダ企業はアメリカ資本市場よりもむしろカナダ市場に資金調達を依. 存している。. ④カナダ企業では,テスト期聞中,多くの経済開発や規制が実施されてお り,FC法からSE法への変更の効果だげを抽出するのが困難である。. C&D(1979,P.13)はカナダ企業以外にもアメリカのFC企業のうち6杜 とSE企業のうち2杜をサンプルから除いた。これらの企業はこの時期にカナ ダのウェスト・ペンビナで油田を発見したので,これにより株価がプラスの影 響を受げると考えられるからである。. C&D(1979,pp.1345)はFC企業をカナダ企業群とそれ以外の企業群に 分げ,累積平均・リスク修正リターソを計算し,図示している。これによると,. 公開草案公表前は両企業群にほとんど差がみられなかったが,公表後はカナダ 企業群の累籏リターンは正であるのに対し,それ以外の企業群のリ考一ンは一 貫して下がり続けていることがわかった。すなわちカナダ企業群をサソプルに. 含めることは,リターソが上カヘと修正されることを意味す飢. C&D(1979,p.15)によれぱ,D&Sのサソプルには1977年度中に清算,合. 併または取得にかかわった企業(FC企業3杜とSE企業3杜の計6杜)が含 まれているので,C&Dはこれもサソプルから除去Lた。 さらにC&D(1979,PP.1546)はコソトロール企業群についても精綾化を 85.

(12) 86. 進めた。コソトロール企業群とはこの場合,すでにSE法を採用している企業 であって,公開草案の公表によって報告利益も財政状態も何ら影響されない企. 業から溝成されるべきである。しかし公開草案で示しているSE法とは若干異 なったSE法を採用している企業は,これによって影響を受けるわげであるか らコントロール企業群に含めることは適切でない。こうした理由から16杜がサ ンプルから除外された。. 結局C&DはD&Sのサンプル企業113杜のうち,上述したような理由から いくつかの企業をサンプルから除外し,FC企業として45杜,SE企業として18 杜をサソブル企業として分析を進めた。. (2)研究方法と結果. C&D(1979,PP,21−24)は研究方法として市場モデルによる残差分析を用. いた。1976年5月14日から1977年5月13日までの週次データにより次の市場モ デルのバラメータ伽,あ埋を推定する。 ︵4︶. Rが=αp+ゐ刀R刎十θが. ク={F.C,S.E}. 船パFC(SE)企業の均等加重ポートフォリォのリターソ,すなわち,. 1 柳 一Σ1〃[(P伽十D・1)/Pか・コ. 地㌍1. P={F.C,S,E}である。. これを用いてテスト期間のSEポートフォリオとFCポートフォリオの週次 の残差を次式で計算する。 ヵ昌{FC,SE}. ︵5︶. σが≡R切一[あ十ろ亜R伽コ. 次に両ポートフオリオの残差の差(のを次式で求め,これを検定した。 ︵6︶. 必=σF0,ドσ∫週,. 86.

(13) 87. 公開草案公表後の13遇,28週,および35週の三つの期間をテスト期間として とりあげ,公表前9週間はテスト前期間とした。. 分析結果は公表後13週,28週,および35週のいずれのテスト期間についても,. FC企業の平均・リスク修正リターンはSE企業のそれよりも有意に低いとい うことを示している。この差が偶然に帰せられるのは13週のWalshテストの. 場合には約100分の5,13週,28週および35週のWilcoxonテストの場合には 100分の1.5以下の確率でしかなく,偶然にこうした結果が生じたというのでな く,両者のリターンの差に帰因せしめることができるのである(C&D〔1979コ, pp.24−25)。. また累積・リスク修正リターンを図示すると第1図のようになる。この図か. ら公開草案の公表前には,FCグループとSEグループの間には業績の養はほ とんどみられないが,公開草案の公表後,累積・リスク修正リターンの差は累. 第1図累積・リスク修正リターソ 10% 累. 積. 106. 98102,、110114118122126130134138142. …・. 多. 1. \!ノ\ヘペ. 隻 リー10% タ ↓. 1. 一20%. 一30%. I. 1 1. ;. 、. 1. 週. い〈 l、. 、l. ). ;). 1\/㌔. 〉・・企業群 (I8社). 1. 128二19畔12月5日 SFAS. No.19の採用. 1. 107二1977年7月15日 一40%. 公闘草案公表. FC企業群 (45杜). 87.

(14) 88. 進的に大きくたっており,35週(8か月)後までに逆転(reversa1)が生じて. いる証拠は何らない。換言すればFC企業群の株価の相対的下落はそれ以後逆. 転されないので,公開草案はFC企業の資本調達能力を永久に損ねているとみ なされうるのである。(C&D[1979コ,PP.25−29)。. C&Dは公開草案の公表後,FC企業のリターンがSE企業と比べて薯しく 下落していることを明らかにし,公開章案がFC企業にインパクトを与えたこ とを実証Lたのである。. 4. Levの研究. (1)Levの研究の特徴. D&Sの研究およびC&Dの研究は公開草案の公表後かなりの期間(D&Sの 場合はユ0週間,C&Dの場合は35週問)にわたってのリターンを調査L,FC企 業群とSE企業群のリターソに有意な差がみられるか,ならびにその差はテス ト期間申に逆転するか(永久的であるか)を検定Lた。ところがLev[1979]は,. 資本市場にはたえず新情報が流入しているので,観察された株価の変動を公開 草案という特定の情報源泉にだけ帰因さぜることはきわめて困難であると主張 した。決算利益情報の開示等についてもこのようにある期聞にわたるリターン. の動きを観察するという同様の研究方法が採られているにもかかわらず,この. 公開草案に関してはかかる研究方法がなぜ間題を含んでいるとしているのであ ろうか。この実証研究の場合には,公開草案の公表はある特定の時点であって,. サンプルすべてについて同じである。またすべてのサソプルが同一産業に属し ている。そのため,公表の前後に生じた公開草案以外の情報は,市場全般に影. 響を及ぽす情報でなけれぱ,株価に反映され乱ところが決算情報の公表の場 合には,公表時点が企業により異なるので,多くの企業のデータを集計するこ とにより他の清報の影響は平均化されてしまうと期待される。しかし公開草案 のイソバクトを研究する本研究の場合はかかることは期待され得ない。 88.

(15) 89. これを克服するためLevは次のようにサンプルに工夫をこらした(Lev[19 79],pp.489_490)o. ①リターンのデータとしてD&SやC&Dのように週次データでなく,目 次データを用いる。. ②公開章案の公表効果を詳細に検討する期問を相対的に短くとる。Levは 公開草案公表の2目前から公表後4日までの7日閻をとる。. ③D&SやC&Dの研究は,サンブル平均によって推論がなされたが,Lev の研究は個々の会社のレベルにまで検討を拡張している。. ④公開草案の公表期間に報告された石油,ガスの株価に潜在的含意を有す る事象については特に注意を払い公開草案の株価への効果を他の清報項目の効 果から区別する。. (2)サンプル企業の選択 ニューヨーク証券取引所およびアメリカン証券取引所で株式が敢引されてい る石油・ガス会社の第ユ次リストをいくつかのソースを参照して作成するω。. この第1次リストの会杜について次のチェックを行う。(Lev[1979],PP490− 491)。. ①. 石油,ガス開発に従事している企業のみをサンプル企業とするため,10. −K報告書やMoodyのIndustria1Su岬eyで,企業のビジネス・ラインを 調査した。これらのなかで開発活動を特に言及Lている会杜だけがサンプルに 含められた。. ②1トK報告書のたかで開発コストの会計処理方法を明記している会杜の みがサンプルに含められた。. (3)公開草案の公表前後に,他の重要な情報一たとえぱ利益公表,配当公表,. 株式配当公表等一が公表されていない会杜のみがサンプルに含められた。. これによってサンブルとして49のFC企業と34のSE企業が選ぱれた。D&S 89.

(16) 90. やC&Dの研究の場合店頭株もサンプルに含められたが,Levの場合,店頭株 は取引が少なく,目次データをとることがむずかしいことが多いという理由で, サンプル対象企業から除かれた(Lev[1979コ,P.491)。. (3)研究モデルと結果. 研究モデルとしてLevが採用したのは市場モデルによる残差分析法である。 まず次式の市場モデルが想定された。 ︵7︶. R伽=α・十β疵刎十ε批. 見な=1仰. P批. P批一1. P枇. :6杜のま日の株価. 亙一一・冗(点、)ん1日の…の市場指数. 公開草案公表前45日間のデータ(1977年5月9日から7月12日迄)を通常の 最小二乗法を用いて,(7)式のパラメータを推定した。しかしこの残差には著し. い自已相関があることが残差のチェックから判明したので,これを克服するた. めにCochrane−Orcutt(CORC)手続を用いた。CORC回帰では残差に自己 相関がないことをダービン・ワトソン統計量で確認Lた。(Lev[1979コ,p.492)。. 次に公開草案公表期間(1977年7月13日から7月22日迄の7日問)の実際の 見まと(7)式で求めたパラメータを用いて計算された予測値の差を計算する。 ︵8︶. ひF&一(α・十β疵舳). σパ4企業のま日の残差 (8)式のσ切は6企業のま日の残差を示しているが,これから全企業のま日. 1. 物. の平均を求める(ま日の平均残差=一Σσ{岳)。また累積平均残差も求める。 勿 仁1 第2図は平均残差を公表前期問(一30日から一3日迄)の一部(一22日から 90.

(17) 91 −3目迄)と公表期間(一2日から十4日迄)について図示したものである。. 公開草案公表目は1977年7月18目で,ここでは0目に該当する。この図から. SE企業の平均残差はO日および1日において上向きであるのに対し,FC企業 の平均残差は急激に落ち込んでいる。また公表期間中のSE企業の負の残差は,. 公表前期間と比べて特に大きいものではないが,1目および2日のFC企業の 負の残差は公表前期間のいずれよりも著しく大きい。またFC株式の価格は公. 表期間の最初の31ヨ問に約4,5劣下落したが,SE企業の株価は約1劣しか下落 していない。こうした発見事項は公開草案の公表にFC企業の株価の反応がみ られるという仮説に合致している。(Lev[1979コ,pp.493494)。. 第2図には示されてい抵いが,第5目以降第30日迄の公表後期間の平均残差 と累積残差も計算された。ほとんどの平均残差が負で,平均累積残差は継続L. て下落している。こうした結果はD&SやC&Dの研究結果と首尾一貫するも 第2図. FC企業とSE企業の平均残差の動き. 残差. 公開章案 ■1■■11■1■. .0i5 ,010 苗. 。. ・〈. 、. 、. 、. \、!、戸1㌧・、一・!㌔1. .005 ,. 0. 〜. 、. 一. 、. 、 一. 、. 、. 、 v. 、 、. 、. ︑. 一、005. 、㌧. 一、010 一,015. 一.020 一.025. 一22. −17. 一12. 一7−6−5−4−3−2−1. 0. i. 2. 3. 4. 目 一一一一一一一一Sl≡:企業. FC企業 91.

(18) 92. のであるが,LevはこうLた残差の動きを公開草案の公表と結びつけたいで,. 株価に負のインパクトを与える他の情報のためであるとL,公表後におげる石 油・ガス会杜に関係すると思われる出来事を調べあげ,他の情報の存在を明ら かにし,彼の主張を裏づげている。 注(1〕Levがサソプル企業選択にあたって参照したソースは次のものである。. ①FinancialTimesが発行した. TheOi1andGasIntemationalYearbook,. ユ975_1976. ②petro1eu㎜Pub脆hi㎎Companyが年1回発行する. U,S.A.OilIndustry. Directory(1977). ③S&PCorPOrationが発行する. StandardIndustria1Classi丘cationhdex,. ユ977. ④SECの ange. SecuritiesTradedonExcha㎎es一一UndertheSecuritiesExch−. Act. of1934,as. ⑤LJ.Seiderの nti皿9. 5. of. December31.1976. .. 0ilandGasExposureDraftOut1awsFunCostA㏄ou・. に記載されている企業リスト. 結果の解釈と整理. (1)研究の困難性. 石油・ガス会杜財務会計に関するFASBの公開草案は,開発コストの処理 方法としてSE法を強制するという会計規制を含んでいた。この会計規制によ り資本市場が何らかのインパクトを受けるかどうかの実証研究をこれまで簡単. に紹介してきた。第6表はこれをまとめたものである。FC法使用企業はSE 法の強制により特に影響を受けることがたいことをD&Sの研究は示した。こ. れに対しC&Dの研究とLevの研究は,公開草案公表後FC法使用企業のリ ターンがSE法使用企業と比べ著Lく下落し,FC法使用企業は公開草案によ って影響を受けることを明らかにした。D&Sの研究には,C&Dが指摘してい るようにサソプル企業の一部に適切でないものが含まれており,彼等の実証結. 果にはそれほど信頼性が置けたいと思われる。しかしこのことはC&Dの研究 92.

(19) 93. ○砲・. 縄貞纐無. ○総・︶鋼貞纐佃. 礁 貞愛二織貞綱無. ミ亭o工︑心て崇Q. 鰻Q・ 素弍;■8−事.毛扁彦. 刈へ示百ム︑ て◎. 二貞曇二鎖貞綾枢θ. 一墨珊灘壁蝶鯉. へ呂. 睡匝 トQ匝s〜匝 o〇一囚ト件トト雪. へ1恥気匝. へ−恥も輿Q匝. 匝①只o件トト2. Q匝s興トぶる. ︒〇一與ω埠トきH〜. て. 撚︽︶J刈題. 匝ミ囚ω普竃含. ︵起輿①温 舞温ムK恥︶. 祇−ト鉦璽Q匝. へ. ︵錘煕富志φ︶. 睡 て. 轟㎝帥一. 剥oooo. 轟㎝帥一. 剥︒oΦ. 一縮露一. 剥oo昌因ミト︑奉. 轟塑. 総o無. 熟辮省ミ︑︑令. 匝害只︒o件竃2 お富<ミ︑\令. 蔑囚ooせミ2〜. 匿舞ムKト. Q遜橿興鞘臼. 錘黒〇一. て扶 興畠Q遜猟臼. ム︑. 事昌工︑. へら^ム ︑応て紫. ・饒⊥︑ て◎. 胡↑ Q壱O目婁§O■θ. 咽志握巽想. 恨碧ペエ︑. 艦串Q銀宙Qら■る↓嶋ρ南o.ω毫ρ. ミ恥中郵拒. ○南o. ↑〇一. 吻南o. ミトΨ螂拒. 米饒. ミ爪卯郵担◎. H為蟄へーてθ. 令トエー笑Q. ミト中韻亀. 93.

(20) 94. およびLevの研究結果に全面的信頼を置げるということを意味するものでは ない。. 一般的に,本研究で閲題とされているような会計規制ないしは会計政策決定 (acc0㎜ting. pOlicy. decisiOn)が資本市場に及ぼすインパクトの研究で重要. な点を示してみると以下のようになる。. ①. 事象の決定. 本問題において会計規制決定の時点として公開草案の発表という事象(eY−. ent)を選んだ。公開草案でSE法の強制が始めて示されたからである。公開. 草案そのものは最終的規定(fina1ruling)でないが,FASBの最終的意見書 の内容のすぐれた予測であるため,公開草案の発表をもってSE法の強制とい う情報を提供する事象と考えたのである。しかしかかる会計規制たいし会計政. 策決定は一つのプロセスであってどの事象をもって実質的決定の時点とするか が問題となろう。. もしFASBの議事に石油・ガス会杜の会計がとりあげられた時点でSE法 が採用されることが予測されたならぱ,公開草案の公表はこの問題のための適 切な事象であるとはいえなくなる。しかし石油・ガス会杜の財務報告について. のSE法強制については,公開草案の公表を適切な事象とすることに間題はな. いと思われるo. ②サンプル選択の重要性 会計規制ないしは会計方針決定の資本市場へのインパクトについての研究に 共通に用いられている研究設計は次のとおりである(Foster[1980コ,PP−4243)。. グループA. 01γ. 02. グループB. 03. 04. 0也:時点6での資本市場変数の観察(見積り),ふつう株式のリターン, 異常リターソ,相対的リスク見積り等がとられる。. ズグループを 94. 実験効果. にさらすこと,たとえぱFASB,SECに.

(21) 95 よる情報の公表等。. ここでグループAは実験グループ,グループBはコントロール・グループと. いわれ乱グループAのメンパーもグルーブBのメンバーも実験に先だって同 質的母集団からランダムに選択されたものであれぱ,0・と0・の観察(値)の. 差はxの適用の違いの結果であるといえる可能性が大きい。しかし我々の研究 ではそうでなく,企業は属するグループを自己選択(self−selected)している。. そのためO,と04の観察(値)の差はZの適用の違いの結果というよりはむ しろサソプルの差でありうるという重大な間題をはらんでいる。. グルーブAとグルーブBはγの適用を受げる前はできるだけ同質的でなけれ ぱたらない。そこで企業ブロフィル分析を実施して,グループAとグルーブB に財務的ないしその他の差があるかどうかをテストすることが必要である。. Foster[1980pP.4547]はD&Sの研究,C&Dの研究およびLevの研究で 用いられたサンプルにつきいくつかの財務指標を計算し,Levの研究サンプル. のFC企業群とSE企業群は財務指標の点で有意な差があることを示している。. また01と0・の差と,0望と0・の差を明らかにすることにより,02と04 の差がZの適用を受げる前のO・と03の差より有意に異なっていることを示 すことによりこの間題に対処することも可能であり,C&Dの研究やLe∀の研 究ではこの方法が採られている鉋. ③交絡事象の間題 会計規制ないしは会計政策決定の問題では事象の時点がすべてのサンプル企. 業で同じであるため,他の情報の影響を受げる。Levはこの問題に対処するた め期閻を短くするとともにテスト期聞中に利益公表等を経験Lた企業をサソプ ルから除いている。C&Dの研究ではウェスト・ペンビナで新油田を発見した 企業を除外するなどして種々の工夫をこらしているが,この問題を完全に解決 しているとはいえたい。. 95.

(22) 96. (2)繕果の解釈. C&Dの研究およびLevの研究でFC企業のリター1■は,公開草案公表後 SE企業のリターソと比べて有意に悪化Lていることが示された。この結果は (1)で指摘した研究方法の困難性にゆだねられているとはいえ,何故にかかる結 果が生じたのかが間われねぱならないであろう。. ①ナィーブ投資家理論 この璽論によると,投資家は企業の評価を会計ツステムが生みだす利益数字 にもとづいて行う。たとえば二つ以上の会計処理方法が容認されている場合に,. すべて◎状況が全く同一である二つの企業は会計処理方法の相違のためだけで・. 違った評価を受ける。したがって実体は何ら異ならないとしても,会計方法を 変更して利益数字を操作することによって,企業は投資家から異たった評価を 受げることができる。投資家は実体を認識せず,表面上の利益によって左右さ. れるので,非合理的で無知であるとこの理論は想定してい乱. FC湊からSE法への会計変更は報告利益および自己資本額の下落をもたら すので,この変更の影響を受げる企業の株価の下落をもたらすことになる。. C&DおよびLevの実証結果の説明としてこのナイーブ投資家理論が考えられ る。. ②合理的投資家理論 これまでアメリカで行われてきた数多くの実証結果では投資家はナイーブ投 資家理論が想定するように無知ではなく合理的に行動する,すなわち投資家は. 表面的な利益数字に惑わされないで,その背後にあるキャツシュ・フローを把 握するとする合理的投資家理論が支持されている。株価は予想キャツシュ・フ ローの流列の現在価値であるので,株価の変化は予想キャツシュ・フローが変. 化するか,重たは予想キャツシュ・フローを割引く割引率が変化する場合に生. ずる。FC法からSE法への変更によりこれらが何らかの影響を受けたのであ ろうか竈予想キャツシュ.フローへの影響を説明する理論として契約コスト理 96.

(23) 97 論(cont蘭cthg. cost. スク理論(estimation. theory),割引率への影響を説明する理論として見積リ. risk. theory)を以下,Co11ins,Roze伍and. Dha1iwal. [1981,pp.4248コに従って論述する。. 契約コスト理論は富最大化遇程の一部分として会計方法が選択されると仮定 している。企業の会計方法の選択は投資および財務機会集合の下での株価最大 化の全般的選択間題にくみ込まれているとみなされる。経営著は投資・財務・. 会計方法の組合せの可能な機会集合に直面し,このなかから株主の富を最大化. するような組合せを選択する。こうした枠組のたかで,SFAS 草案は機会集合に拘東制約(binding. No.19の公開. constraint)を課し,それが株価の下落. としてあらわされる厚生の下落をうみだす。投資・財務・会計方法の新しい最. 適結合は予想キャツシュ・7ローを低めるので株価の下落が生じる。予想キャ ツシュ・フローの低下は影響を受ける企業に課されるコストの増加,より具体 的には契約コストとよぱれる情報コスト,ユイジェソシー・コストの増加によ ってもたらされる。. たとえぱ企業は投資家にその株式の潜在的リターンやリスクを説明するため. に資源を消費するので,資本調達のコストが必要である。SFAS. No.19のSE. 法強制によりFC企業の利益が低下するとともにより変動的となるので,これ を現在たらびに将来の投資家に説明するためにより高い清報コストが発生し,. 資本調達費用が増加する。このため見積キャツシュ・フローが低くなり,株価 の下落が生ずると考えられる。. 次に予想キャツシュ・フローのリスクの程度が影響を受けることから株価の. 変動を解明する見積リスク理論の説明を聞いてみよう。SFAS. No.19の採用. によるFC法からSE法への変更の強制は何故に見積リスクに影響を及ぽすの であろうか。. たとえぱ負債契約をしていて,その条件としてある一定の経営比率が維持さ. れない隈り,追加負債の発行が禁じられているとする。SFAS. No.19の公開. 97.

(24) 98. 草案によりFC企業は自己資本を低めるので,負債契約中に含まれている経 営比率を悪化させ,企業の負債発行能力を変える。このため,経営老は負債に よる調達に代え,自己資本による調達に向うか,またはその選択する投資を狭. める。投資・財務ミックスがより確実でなくなるので,投資家の見積リスクは 増加することになる。. SFAS. No.19が経営老の報酬協約に及ぼすイソパクトの結果とLても見積. リスクは増加する。経営者のインセソティブ・プランは会計数字によって書か. れているので,SE会計への強制的変更により企業は一時的に非最適た状態に なる。新Lい最適を達成するため,経営行動の変更や新たなインセソティブ・ プラソの採用がみられるかも知れないが,いずれも将来のキャツシュ・フロー. の分布のパラメータについての投資家の不確実性,すなわち見積リスクを増 す。. 6. むすび. アメリカにおげる石油・ガス産出企業の会計処理方法としてFASBが1977. 年に発表したSFAS. No.19の公開草案は開発コストの会計処理とLてSE法. を強制した。これに対L,FC法採用企業を中心とする多数の反対が寄せられ た。この論争に対する一つの解決方法として実証研究がいくつか実施された。. 一つはFASBの要講で実施されたD&Sの研究である。この研究に対し疑問. を投げかけたのがC&Dの研究である。さらにD&SやC&Dの研究と異っ た視点から実施されたのがLevの研究であった。本稿ではこれらの研究を跡 づけるとともに,会計方法の強制という会計政策決定が資本市場に及ぼす影響. に関する実証研究のもつ困難性を指摘した。最後に公開草案の公表に伴って. FC企業のリターンの低下がみられたというC&DやLevの実証結果を説明 する理論を示した。. FASBの公開草案の発表の13か月後の1978年8月29日に,SECはSFAS 98.

(25) 99. No.19と異なり,FC法もSE法も認めた。このSECの決定は強制的会計政 策の変更がこの政策により影響を受ける企業に実質コストを賦課するかという 間題に関する実証研究の機会をさらに提供するものと一思われるが,これについ ては別の機会で論じることにする。 参考文献 Collins,D.W,and. ounting Market. in. the. W.T.Dent,. Extractive. Consequences,. the. Market. Proposed. Petroluem. E1imination. Industry:An. Reaction. to. and. Cost. Acc−. Assessment. of. the. Mandatory. The. Economic. Accounting. Determinants. Changes. in. the. Oi1. ∫o〃刎1所λむω洲κ惚舳6. (1981),pp.37_37,. Collins,D.W、,Roze岱,M.S.and. No.19:Test. Fu1l. Empirical. D.S.Dwa1iwa1,. Proposed. andGasIndustry,ACross−Sectiona1Analys三s, 万oo拠o〃茗{c53. of. ∫o眺τ勉α主oグλcco眺〃初gα勉d万co勉o刎北∫1(1979),pp・3−44・. Co1lins,D.W,Roze妊,M.S of. The. of. Market. Price. W.K.Salatka,. Reversal,. The. んco舳伽g. SEC. s. Rejecti㎝of. SFAS. Rωξ刎(January1982),pp。. ユー17.. Dyckman,T.R.and. A.J.Smith,. A㏄omting. and. Reporting. ProducingCompa口ies:AStudyofInformationE舵cts, 邊吻∂亙00π0刎{os1. Fama,Eugene. pi此a1work, Financial by. Oil. and. F三nancial. ting. and. (1979). F.,. E丑icient. Capital. Standards. Producing. Accounting. Reporting. by. Markets:A. Board,. Co㎜panies,. Standards. Oi1and. A㏄ourting. 0ブノ1むc0伽拠ガ閉gα閉∂. on. and. Gas. pp,45_75.. Accounting Gas. Gonedes,Nicholas,. Items. Oil. Review. of. Theory. and. Em−. ∫o〃伽1ヴF物α鮒θ(May1970),pp.38μ17.. Foster,George, 10刎粥切1. by. ∫o〃伽1ヴλcω刎〃惚. Po1icy. Producing Decisions. 1;む0施o脇6cs2. (1980). Equilibrium,. and. Accounting. and. Reporting. Draft,JuIy1977.. Board,Statement. Gas. Risk,Information. Capita1Market. Financial. Exposure. No.19,. Financial. Companies, and. Capital. Accoun−. December1977. Market. Research,. pp.29_62.. the. Effects. of. Special. Accounting. ∫o鮒伽1ψλ㏄o舳伽g地∫虐〃励(Autumn. 1975),pp.220_256.. Hanison,Thomas, scretiona町Accounting. Di荷erent Changes,. Mlarket. Reactions. to. Discretiono町and. Nondi・. ∫o鮒伽1研A㏄伽勿ガ惚地∫竃〃むゐ(Spring1977),. PP.84一工07,. Lev,Baruch,. The. Impact. of. Accounting. Regu1ation. on. the. Stock. Market:. 99.

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参照

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