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理科教育に於ける諸問題
―NIGHT SYSTEMの実践的データを参考にして―
広 瀬 正 美
(1〕序 論
今日まで,科学技術の進歩は人類の幸福に多大の貢献をもらした。今後も,進歩は人類 に継続し貢献するであろう。この貢献を否定する人はないと思う。しかし,最近のテレビ
・新聞等で,科学技術の進歩は人類に不幸を齎す,いわゆる多種な原因による公害事例を 数多く報道している。この問題は昨今重大な社会的関心事となっている。以上,科学技術 の進歩に伴なう,人類に幸福と不幸を齎す二面性が,表裏一体の関係で生じる。
そこで,この関係をもう少し詳細に検討して見よう。まず科学技術の進歩の齎すメリッ トは,科学史をひもどくだけでも簡単に列挙することが出来る。とくに,身近な近代生活 の便利さを考えただけでも,メリットはより一層明確に理解されるであろう。つぎに,進 歩の齎すデメリットを列挙して見よう。まず直接的には,進歩は,例えば原子爆弾・水素 爆弾など主とする人類自爆の原子力兵器を作成させ,戦争との掛り合いをもたらした。さ らに,この地球上の諸々の汚染は,我々の現在の日常生活を脅かしている。それは,人体 の虚伝子上の諸問題までに波及し,長期におよぶ災害を与えようとしている。その結果 は子孫の生存まで犯す脅威になるかも知れない。今日ほど,人類存続の危機が叫ばれる時 代は,未だかつてなかろう。つぎに,間接的には,進歩は人間に不安感や疎外感をもたら し,現在人特有のいら立ちを二つける原因となっている。また,人間中心の既存の思想な らびに宗教をも崩壊にまで至らしめようとしている。
このように,現在の科学技術の進歩の齎す結果は,その基本的価値感を大きく変革す る。このような進歩に伴ない,表裏一体の関係で同時に幸,不幸が生じる。しかし,人類 の幸福のみに貢献する科学技術は,如何なる理念より再構成されなければならないか,検 討すべき問題と言うべきである。科学的理性・良心の育成などを急がなければならない。
常に,教育の基本的理念は人類に幸福を前提にすべきである。それで今日まで,科学技 術の進歩は,地球の無限の資源を利用し,常に人類の幸福につながる。単純な考え方が進 歩と共になされて来た。現在,地球上の有限性が資源・利用度など諸角度から再認識され た。その結果,この単純な考え方は不可能となった。この事は,既存の理念に立脚する科 学技術教育の時代は終りを告げたことを意味する。新しい科学技術教育の基本的理念の再 確立は重大な問題と言うべきである。このような科学技術教育の一環で,理科教育は児童
・生徒の自然観の確立にあたらなければならない。例えば,最近,主に理科教育内で取扱 われる環境教育の部門は,この種の問題であり,新しい自然観で指導をしなければならな いだろう。また,昨今出された教育課程の改革は,社会的関心の持たれる問題であり,新
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長崎大学教育学部教育科学研究報告 第24号
しい理念による問題である。今日ほど,科学技術教育の本質的諸問題を追究する時代はな かろう。
このような現在の情勢下,理科教師の養成上,とくに教員養成学部で出す理科免許上か ら,時代に即応した理科教育は如何にあらねばならないか。さらに,小・中・高校な ど教育現場の理科教育は,如何にあるべきか。これらは古くて新しい重大な問題点であ る。現在,教員養成学部に於ける理科教育学は,多くの問題点をかかえている。
1950年忌,アメリカ合衆国,イギリスなど欧米先進国を主に世界的規模で実施された,
科学技術教育(主に,理科,数学)の改革運動は多くの成果をあげた。しかし反面,この 成果は,多くの問題を教育現場に再提起している。科学技術教育の一環としての理科教育 で,追究すべき内容的問題(基本的科学概念)とその教授的方法等は,この種の解決すべ き問題である。このように,理科教育は基本的諸問題の解決にせばまれているが,その 1つの解決方法は,いわゆるテクノロジー・アセスメントの手法の導入を考えることであ
る。
数年前,本学部は学力の地域格差解消に取組んだ。県下,主に離島の小・中学校の教 育現場と大学を結ぶ通信綱が整備された。いわゆるC.M.1.の機能を持った尾く:NIGHT SYSTEM,,の構想(1)が出された。その教育効果に関する研究が実施された。一応,そ
の成果の集約が行なわれている。このSYSTEMの一部門に小学校・理科が組入れられ た(2)。実施された小学校・理科が,前述のような基本的問題点をかかえ,如何なる 成果をあげたか。また今後に解決しなければならない問題は如何なるものかを提起した。
本論文では,現在の理科教育は如何にあるべきか。また,NIGHT SYSTEMの実践的デ ータを参考にし,解決可能な問題点を討議した。その結果を述べたい。
(2)理科教育に於ける当面の諸問題
1950年代から今日まで,科学技術教育(主に,理科,数学)のカリキュラム改革運動は,
アメリカ合衆国をはじめとする欧米先進諸国で行なわれ,数多くの見るべき成果をあげ た。例えば,物理教育上,「P.S.S.C.物理」はその代表的な成果と見られる。しかし現 在では,この「P.S.S.C.物理」にも,欠点が指摘され,さらに改良・発展した「プロゼ
クト物理」が新しく開発されている。
アメリカ合衆国の科学技術教育の改革運動は,1957年,ソ連のスプートニク打ち上げによ り,加速された(3)。作成されたrP.S.S.C.物理」はM.1.T.のザカリア教授をはじめと する多くの科学者,教育学者および現場教師により編集された。その内容は,非常に系統 立ち,また精選されている。それ故,物理学の美しい体系を理解させるには充分なテキス トであろう。このテキストによって,優秀な生徒は物理学に興味をもつであろう。しか し,普通の生徒が,物理学を理解出来にくいものとしてとらえ,一般教養の物理学として 理解するには困難である。統計上から,アメリカ合衆国に於けるハイスクールでの物理学 の選択率は低下し,物理学の普及に,このテキストは役立たなかったようである。また
「プロゼクト物理」は,ハーバード大学のノーベル物理学賞を受賞したビラ教授を中心に 多くの科学者,教育学者および現場教育の実践家等の協力で作成された。このように,多
くの研究業績を持った有名な科学者が,象牙の塔から出て教育現場と協力し,科学技術教 育の当面の問題解決に努力した。このテキストは前者と比較し,教養物理学とでも言うべ
167 理科教育に於ける諸問題一NIGHT SYSTEMの実践的データを参考にして一(広瀬)
き色彩の濃いものである。将来,広く市民とし巣立って行く生徒に,大切な教養を与える のに役立つであろう。このテキストは,物理学の専門家または特定の物理学に関連した専 門家の養成をすることだけではなく,今日強く言われている科学的理性・良心,豊かな人 間性の育成を達成するものである。
以上のようなカリキュラム改革運動はその影響を我国に大いに与えた。例えば,日本に 於ける,1960年代から今日まで,主に各大学の自然科学系の学部に在籍した科学者を中心 に教育研究所および教育現場での指導的役割を果す教師達が参加した。この科学技術教育 の改革・運動は,かつてその例を見ないほど,大いに発展した。とくに,文部省の科学研 究費特定研究科学教育による研究補助金の支給,民間団体の財政的補助などで,前述の科学 者,教員養成学部の自然科学,教育科学に関係した研究者,教育現場の実践者よりなるチー ムが編成された。この各種チームは,主にカリキュラム改革研究を継続的に行なった(4)。
この研究成果は,昨今,教育課程審議会による抜本的な改善の結論にも少なからず影…響 を与え,我国の科学技術教育改革の基本的理念の確立に貢献したものと思われる。その結 果か,今度の改革は昭和22年の教育課程編成以来の大改革となった。この文部省の補助金 による研究は,科学技術教育の一環としての理科教育の研究に,多大の成果をあげた。そ れにもかからず,この成果は,他の科学分野の研究成果に見られる実証性・系統性に富ん だ発展性のあるものと比較し,我国の教育実情に合った実践的検証のないもの,また独創 性に乏しいものと断定し大した誤りではない。
我国の歴史的な理科教育上の研究結果に影響されたためか,教育現場に関係した理科教 師または教員養成学部の自然科学に掛り合っている方々でも,今日,理科教育学なる概 念の統一的見解・認識がなされているとは断言しがたい。理科教育学なる研究分野は,
主に自然科学の研究業績をあげえない者,または年老いて理論・実験分野の研究でおく れた者より成立しておる。いわば老研究者の隠居部門の如く考えている人も少なくない。
それはやもえずお茶をにごしている人々の集団である。このような傾向が見られないわけ ではないが。さらには,旧制師範学校で実施された教授上の技術的手法,すなわち名人芸 的要素を持った部門であり,体系化された学問ではないかの如く,今日でも,思っている 人もいよう。我国の自然科学に関係した学界でも権威ある研究者達は,前述のような,考 え方をなさっているようだ。これらは大変な間違いである。とくに,教員養成学部の自然 科学の研究者は,自己の専門分野と同様に,重要な研究分野であることを再認識すべきで
あろう。
従来まで,日本の教育は事実判断的なものを強調し実施した。同様に科学技術教育でも 取り上げられた,主にハードウェア(Hardw are)的と呼ぶ事実判断(法則・原理などの 理解をさせる)の指導がなされた。これに対して,ソフトウェア(Software)的と呼 ぶべき価値判断が出来るような児童・生徒の指導をも検討すべきである。科学技術の進 歩が齎す結果の判断は言うに及ばず,価値判断が出来る市民は如何にすれば育成出来る か。そのような科学技術教育体系の開発が早急にせばまれている。このような,我国の実 情にかんがみて,主に小・中・高校で実施される理科教育のあるべき姿の議論を進めよ
う。
まず,従来から行なわれて来た事実判断的見地から,今日,理科教育で問題になる部門
168
長崎大学教育学部教育科学研究報告第 24号
を検討しよう。最初に,理科教育の中で取りあげられる基本的科学概念,すなわちその 科学的内容選択の基準である。もう1つは,科学的な探究方法による指導方法の問題であ
る。これら2つの問題が考えられる。そこで1つには,理科教育での学習理論は, 伝統 的教授・学習理論 ,すなわち学習者の行動を進歩的に変容する,と言ったやり方であ る。もう!つの理論は,1950年代以来の世界的な改革運動と共に生じた,いわゆる 発見 的学習(探究的学習)の理論 ,すなわち自然科学を従来のような固定した知識体系と見 ないで,探究の課程としてとらえる理論である。
従来の伝統的な教授・学習理論は,その内容をテキストにより教授する。すなわち,児 童・生徒に刺激を与える。その刺激が期待される反応を得るまで行なわれる。試行錯誤的 な過程は避けようとする。そこには,基本的科学概念の内容基準は,何んらないわけであ る。今日,科学の進歩はその内容を豊富にする。すなわち,知識量は爆発的に増加する。
それ故,小・中・高校の現場に於ける理科の授業時間内では,消化不可能な実情にあり,
何んらかの取捨選択をしなければならない。その結果今日までに,理科教育界で叫ばれて 来た現代化・構造化の問題点がここにある。これは内容を選定する基準の設定である。し かし,古い伝統的教授・学習の理論では,この基準は解決出来ない。教育学,教育心理 学の発達によって,如何なる基本的・科学的概念を選択しておけば,この概念は他に転 移するのか。ここに重大な問題点がある。
つぎに,もう一つの理論は発見的学習理論である。その基本的科学的概念,すなわち内 容とその教授方法は,一体として考える理論である。例えば,従来の原子・分子の概念 は,小・中学校の段階で学習させるのは無理であると言われて来た。しかし,その教授方 法を開発すれば,原子・分子の概念の理解が可能である。学習は学習の仕方を学ぶことで ある。以上のような学習理論が存在する。
このような現状で,理科教育は基本的科学概念をどんな基準により選定するか,すなわ ち内容の問題とそれの教授方法との同時的開発の積み上げた研究成果が必要である。その 他,実験用機器の開発,理科教育評価など問題が残ってはいるが。
つぎに,遅れている価値判断的見地から考えて見よう。最近,理科教育の中で価値判断 の必要性が強く言われだした。その動向は数多くの実例で見出せる。まず第一に,昨秋出 された教育課程審議会「中間まとめ」で見られる改善の基準の内,その1つ 人間性豊か な児童・生徒の育成 がこれである。前述のように,科学技術の進歩は大きな利益をもた
らした。これに反して,現在の地球,すなわち我々の住む環境は,選択吟味している余裕 をさせないほど,悪化の一途をたどり深刻化して来た。人間生きるために,1人1人は 環境そのものを理解し,対処していくことが先決問題となって来た。このような情勢下,
理科教育の中で環境教育が取り上げられて来た。今日のいわゆる公害は,我々に直接的災 害をもたらす部門と人間の感覚を越えた間接的災害をもたらす2つの部門がある。この種 の問題解決の唯一の方法は,環境に対する認識を深めることが,第一の問題であろう。そ のような意味から,児童・生徒は環境に対する認識を深め,科学的理性・良心の育成によ る豊かな人間性を養うべきである。この,環境教育に対する教師の指導性が問われてい
る。
さらに,日教組の教育制度検討委員会より,「のぞましい教育課程のあり方」の中間 報告が出ている。この報告は価値判断の問題を提起している。「自然破壊と公害が深刻な
169 理科教育に於ける諸問題一NIGH:T SYSTEMの実践的デーータを参考にして一(広瀬)
事態を生みだしたことから,自然科学をすべての国民のものにすることが国民的な課題と して強く求められている」。「それにもかかわらず,学校では,理科が 面白くない。
わからない、 ついていけない、という子供を大量に生みだし,学校によっては理科の 授業が成立困難な状態となっているほどである」。これには「生の自然にふれ,その中か
ら問題を見出し,頭と手を使って,自然から直接に学ぶ理科に作り変えていかなければな らない」。これらの主張は,科学技術の進歩の齎す価値判断の問題である。今後は,これ らの指導出来る教科書なり,教師の研修が,是非必要となって来る。総体的には,テクノ ロジー・アセスメントの手法が必要となって来る。
〔3)NIGHT SYSTENでの小学校・理科 1)一斉学習プログラムによる授業結果
以上のような情勢下,NIGHT SYSTEMで実践された小学校・理科の現状を分析して
見よう。
そこで,使用した一斉学習用プログラムは,発見(探究)的学習による立場で小学校5 学年用,単元名「電流による発熱」「物のあたたまり方」,6学年用「水溶液の性質」の 学習プログラムを作成した。まだ価値判断的な指導は実施していない。これら学習プロ グラム構成の基本的考え方は詳細に報告(5)してある。この報告書の附録(1)には,「水溶 液の性質」の実例を最初の2時間分だけ呈示してある。これらの学習プログラムを使っ て,昭和48〜50年度にわたり,実践的データを得るために,離島の小学校で,一斉授業が 実施された。:NIGHT SYSTEMによる学習情報交換を実施するための手法の詳細は先に 報告した通りである(1)。現在,コンピュータ処理から総合解析までの段階に来ている。す なわち離島の教育現場からのデータが返送され,コンピュータによってデータ処理されて
いる。
処理された結果の1例を表1に示す。この表は,いわゆるS−P表と呼ばれているもの である。表中にある実線はP曲線を示し,点線はS曲線を現わす。この場合,これら曲線 から言えることは,P, S曲線が非常に接近していること,いわゆるプログラム学習的で あり,学習が単調になっていることを推察させる。学習プログラム作成当初のねらいであ る発見的探究的学習の様相は見られない。これらのS−P表は各単元毎,学級毎,学校 毎,年度毎で多様な形式をした結果となった。表1に示すものは1学級,1単元の1例で ある。S−P表の多様性から,直ちに言える事は,各教師の指導が強く影響したと考えら れる。理科教育の場合,とくに実験(6)を伴なっているためか,どうもその傾向は顕著で ある。S−P表から,現職教育の問題も充分に研究される。また,理科教育の実験指導の 大切さがうかがえる。
さらに,返送されたデータからいろいろ推測することが可能である。例えば,生徒1人 1人の思考を追究して行くと,そめ児童・生徒が如何なる思考を授業中になしたか。教師 が目標としている発見的思考をなした子供,全く思考しない子供,・など解明可能な生徒を 見出した。しかし,その割合は2〜3割にすぎなかった。まだ,これだけのデータで断定 するのは今日はさしひかえよう。また,3〜4割の児童・生徒は,学習プログラム作成の 当初,目指した目標行動に達成出来ていない。そこで,これら児童・生徒を目標点まで引 き上げる必要を痛感した。
170
長.崎大学教育学部教育科学研究報告 第24号
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表 1
171 理科教育に於ける諸問題一NIGHT SYSTEMの実践的データを参考にして一(広瀬)
2)SYSTENでの理科教育的評価・診断
:NIGH:T SYSTEMの学習情報交換を実施する流れ図が示すように,現場からのデータ をコンピュータ処理した。その結果,S−P原表,選択肢別正答率など多くの資料が作成 出来る。しかし,それらの詳細なデータに論ずいて,児童・生徒を理科教育上の評価・診 断することは未だ出来ていない。さらに,全教科にわたって,総合分析する段階に至って いない。これらは今後の問題となる。
そこで,理科教育的評価・診断の立場だけから考えて見ても,表1に示すようになる。
まず,学習プログラムで一斉授業を実施する。その授業反応データが大学に返送され,コ ンピュータにより処理される。そのデータの理科教育上の評価・診断がなされ,これに基
MI
評価に基ずいて 学習プログラム
(一斉、個別用)
の修正ならびに作成
実施後の単元別データ処理
処理データの理科教育上の評価
評価による処方箋の現場送付
評価に基ずいて 学習プログラム
(一斉、個別用)
の修正ならびに作成
一斉授業、個別学習の実施
実施後の単元別データ処理
M2
地域、学級、個人別データの累績
累績データの理科教育上の評価
評価による処方箴の現場送付
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価 互
形 成 的 評 璽 工
理科の学力評価、およびその学力向上の察知
各教科の学力に基ずく総合解析、ならびに総合評価
表 皿
172
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第24号
つく処方箋の現場送付がなされなければならない。このようなことが可能ならば,評価・
診断に基づく児童・生徒の個々の学力に対応する指導が出来る。次の一斉授業で,個々の 児童・生徒に対する教師の準備ともなる。その上大学側も,一斉・個別学習プログラムの 修正ならびに再作成となる。またそのプログラムに対応する次の教材の準備が行なわれ る。さらに,この処方箋は形成的評価(1)となる。次の単元の一斉授業または前単元の不 充分な学習のたあの個別学習が進行され実施される。同様な処理データの評価・診断が繰 返され,次の単元へと進行する。各単元毎の形成的評価(豆),(皿),……が作成されるわ
けである。この形成的評価(1),(1[),(皿)…を集積し総括的評価となる。
このように,理科の学力評価およびその学力向上度の測定が可能となる。同様にして,
各教科の学力が把握される。この学力に基づいて,NIGHT SYSTEMによる,子供の総 合評価,ならびに総合分析が可能となる。このような児童・生徒の総合評価・診断の考え 方は,まず各教科の評価・診断方法の確立で,可能となる。そのようにして,小学校・理 科各単元毎に,目標行動が達成出来ているか明確にチェックし,学力の評価・診断がなさ れなければならない。
3)個別学習プログラム作成の試案
一斉学習プログラムの学習により,目標行動への到達出来ない児童・生徒のため,補修 的意味の深い個別学習プログラムの開発を試みた。この個別学習は,未だ明確な評価・診 断方法による処方箋が作成されてないので,特定の学力水準にある児童・生徒を対象とし たものではない。あくまで一斉授業に於ける目標行動に到達出来ない児童・生徒を対象と した。小学校5学年用,単元「物のあたたまり方」6学年用,単元「水溶液の性質」の2 単元を実例にし,個別学習プログラムが作成された。生徒自身の学習で,より深い理解が
出来るよう組立てた。終りの附録に,2単元の最初の一部分を記載した。
この個別学習プログラム作成の基本的考え方は,第一に,児童・生徒が自然認識を深め るなかで,科学的能力・態度を養うことを目標にしている。そこで,1単元の学習は,小 学校・理科全体の中でどんな位置を占め,またどんな役割を持つか,明確にしなければな
らない。このような各単元毎の位置づけを明確にした上で,理科3分野(生物とその環境,
物質とエネルギ縞,地球と宇宙)を総合的に考える必要がある。つぎは,各々の児童・生 徒が一方的に同一教材で同一進度で学習させられることである。とくに,実験を伴なう理 科の場合には,この点を考えさせられる(7)。一斉学習の欠点であり,生徒の能力に合っ た個別学習が大切である。以上,2つの観点を充分に考えた上で,個別学習プログラムの 作成を行なった。指導内容,指導目標,具体的目標は一斉学習プログラムを作成するとき と同じ考え方で作成した。
作成方法は,前述の2単元のマトリックスをまず作った。(附録参照)これは,第1段
階で, 内容(事象・原理・法則・概念)
一→
を作成した。
目標行釧 ↓
これを基にし,第2段階で
児童・生徒のわかり方(刺激→反応→認識→一般化)
「
内容(事象・原理・法則・概念)
↓
→
のマトリックスへと再構成した。このように第1,第2段階のマトリックスを作成し,具
173 理科教育に於ける諸問題一NIGHT SYSTEMの実践的データを参考にして一(広瀬)
体的な個別学習の各別学習カードを作成した。これらが附録に実例とし記載された。この シート式よりなる1枚のカードは,最初に学習問題からなり,児童・生徒の発想・予想を 大切にする。児童・生徒が考えながら進んで行くようにしてある。その課程で実験をも組 込んである。このための準備は別途考えなくてはならない。このような考え方で個別学習 を成作すると,一斉学習プログラム作成の基本的考え方が,さらにより深く理解させられ た。また,学習課程を再整理することにより,教材の精選が出来た。未だ完全な個別学習 プログラムとは思わないが,一斉学習プログラムと個別学習プログラムの相関的関係で,
さらにより使いよいものを作成したい。この個別学習プログラムは,実践する中で,も う一度再検討したい。最後に,この研究は文部省科学研究費によるものであり,また本学 習プログラム作成に御協力いただいた長崎市内朝日小,西浦上小,長大附属小の鍬先,中 野,竹森諸先生方に,深く感謝いたします。
参 考 文 献
(1}久保為久麿 大渡敦 広瀬正美::NIGHT SYSTEM I
長崎大学 教育学部 特定研究 科学教育 1971〜ユ972
久保班:N工GHT SYSTEM中間報告(長崎県広域教育工学総合システム)
長崎大学 教育学部 特定研究 科学教育 1972.9
(2)広瀬正美:NIGB:Tシステム学習プログラムによる小学校理科教育について 長崎大学 教育学部 教育工学研究業績報告 第3号(1973)51
(3)佐藤三郎編:ブルーナー理論と授業改造 明治図書 231頁
(4)文部省科学研究i費特定研究総括班:科学教育研究 1971〜1976
⑤ 広瀬正美,竹森軍朗,早舟佐知,中野博之:小学校理科学習プログラムの構成
NIGHT SYSTEM HANDBOOK(∬)
長崎大学 教育学部回附属工学センター 特定研究科学教育久保班 1975.5.30
(6)広瀬正美:実験用機器の性格とあり方(中学校における機器の役割と再検討)
理科の教育、 (日本理科教育学会編)25(1976)18.ノ扮.6
(7)広瀬正美:実験観察・指導上の問題点とその改善/その2(実験観察の指導形態の多様化とその 意義)
理科の教育、 (日本i理科教育学会編)26(1977)9..ルら.3
174長崎大学教育学部教育科学研究報告 第24号
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175 理科教育に於ける諸問題一:NIGHT SYSTEMの実践的データを参考にして一(広瀬)
物のあたたまり方
はじめに
熱と温度について学習しょっ
00 温度のちがう水をふれ合わせ、それぞれの水
の温度はどう変化するだろうか。
つぎのこと がらを考えてみよう。
田ボールに湯を入れ、コップの水をあたためる 湯の量が少ないとき
ボール
水
ぐ
、 ノ
」_ノ『 湯
湯の量が多いとき
一
、9 r陰
、 ,
水
湯
問題1 コップの水のあたたまりかたにちがいはありますか。あなたの考えにあう ものを2つえらんで○をつけなさい。
ア()湯をたくさんいれると、コップの水の温度は、高くなるだろう。
イ()湯をたくさんいれても、コップの水の温度の上がりかたは、変わらないだ ろう。
ウ()湯をたくさんいれると、コップの水の温度の上がりかたは、はやいだろう。
エ()湯と水をまぜなければ、水の温度は変わらないから関係ないだろう。
オ( )わからない。
176
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第24号
01
あなたの考えをたしかめるために、どのよ うな方法で実験したらよいでしょうか。
今日はつぎのようなそうちで調べよう。
02
。2つの水の温度 はどんなに変化 するだろう。
・温度の変化は忘 れないように表 に書いて、あと でグラフにまと
めてみよう。 掬解
温度
_ρ 1
f イ
1齢
実験の結果からどうして温度の変化が おこってきたのか、その原因を考えてみ
よう。
温の三度が下がり、水の温度が上がっ たことをどのように考えますか
(考え)
時間㈲ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 湯100cc
水100cc
はじ 時間がたつと
圃水10Gc㎡、湯100醗の温度変化のグラフ
ec〕
温70 廣60
多
150 40 30 20 10
o
時閥 問題2 上のグラフからわかることを2つ 書きなさい。
(1)はじめの2分間くらいの温度の変化 について
〔 〕
(2)グラフ全体からみた水と湯の温度の 変わりかたについて
〔 〕
あなたの考えはどれとにていますか a 湯が水をあたためた。
b 水が湯をひやした。
c 湯が水をあたため、水が湯をひや し、どちらも温度が変化した。
d 湯のあたたかさと水がまじり合い 温度が変化した。
e 湯のあたたかさが水の方へうつっ たのでどちらも温度が変化した。
a、b、Cの考え
dの考え 1 2 3 4 5 6
・の考え[Z□Z巨正回
答
(1)湯の温度は急に下がり、水の温度は急 に上がっている
(2)時間がたつにつれて湯の温度と水の温 度は近づきやがて同じ温度となり、い っしょに下がっていく
グラフの
見方がちがっている場合
グラフの
見方が(1)(2)に同じ場合 もういちどグラフをみよっ
177 理科教育に於ける諸問題一:N工GHT SYSTEMの実践的データを参考にして一(広瀬)
①
湯と水の間には、ガラスがあって湯と 水とはまじり合うことはできない。
でもなにかがおこっているようですね。
〜一一ノ
、一@水;
湯 rレ
②
もう一度、湯と水の変化をグラフ でくらべてみよう。
・水の温度が上がったとき、湯の温度は
イ。
・湯の温度が下がったとき、水の温度は
口。
[コ
③
。湯の温度が下がった分は、どこへ いったのだろっ。
[==]へ
。水の温度が上がった分は、どこか らきたのだろう。
=]から
④ それは
目にみえないまま、なにかが湯から 水へうつっていったことになりますね。
。温度のちがいはあ
湯.
ポ
ヒ
ガラス
っても物は熱をも っています。
物と物がふれ合う と温度の高い方か ら低い方へうつっ ていくのです。
・湯と水とふれ合うと温度がおたが い変化するわけですね。
⑤
冷える、冷やすということばはその物 の温度が下がること、つまり熱が少な
くなることです。
あたたまる、あたためるということば は、その物の温度が上がることつまり 熱を多くもっということです。
⑥
温度と熱
60℃の湯 200げ
同じ体積で温度がちがう水
「凶
秘 ノ 熱はたくさんある
, 一 ノ 30℃の湯
200㎝r
r 2
同じ温度で体積がちがう水
6・℃の湯 =≦≒
200α㎡
Sこ う
1 望
を(ン
(_
60℃の湯
100〔㎡
178
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第24号
問題3 前の実験方法で、湯の量が水の量の2倍になった時の温度の変わりかたを 予想して、それにあうグラフを1つえらんで○をつけなさい。
ア() 〔℃〕 イ()
切706050403020100
70 U0 T0 S0 R0 Q0 P0
0246810 00246810
、 、 (水100鵠湯200ccLの温度変化のグラフ)
〔℃〕水70の温60度50↑ 40 30 20 10
3二 ,●
一一
(水100㏄.湯100c二の温度変化のグラフ)
問題4 左4
@ がら名
@(1) 左の2
@ えること
@〔 (2) 湯が が、高く f
00246810
→時間〔分〕
〔℃〕
V0
ウ()
60 9
50 S0 R0 Q0 P0
@0
0 2 4 6 8 10
左の2つのグラフを見くらべな がら答えなさい。
(一、……)
左の2つのグラフから、共通に6 えることはなんでしょうか。
) 湯が200耐だったほうの水の温度 が、高くなったのはなぜでしょうか。
〕
問題3、4ができた人はつぎのことも確めてみよう。
温度がちがう物と物をふれ合わせ、熱の多い方から少ない方へうつっていく よっすをいろいろなもので確めてみよっ。
実験材料
自由にえらんで、実験して温度の変化を確めよう。
実験1
}
温度の変化の結果 まとめ
実験2
}
温度の変化の結果 まとめ
179 理科教育に於ける諸問題一NIGHT SYSTEMの実践的データを参考にして一(広瀬)
はじめ予想した問題を熱のうつり方ということから文章でまとめてみよう。
国ボールに湯をいれ、コップの水をあたためる。
1湯の量:が少ないとき
ボール
水
一
。ミ…圭 湯
2湯の量が多いとき
一 、r ≒コ1
、∪二
水
湯
1.の実験について 2.の実験について
1と2の実験をくらべて
教師 診断
:灘:=::=}一
1と2の実験をくらべて・・
一鵜諜二難ll
るか。
…・…Mの量について着目しているか(
)
)
)
180
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第24号
03
まだ、調べたいことと、ぎもんに思うことがあったら、実験用具を そろえ計画をたてて調べましょう。A、 B、 Cは実験例です。
(時間と温度はかりは正しくすること)
A
8δb
^/
P00cc、
水 40℃
^/ノ P00㏄,
量は同じで 温度がちがう
A実験の結果を考え どうなったか(
わけ
)
B
C
〜 {
A
{ 鞠
ろ80Pク 戸200cc.
/80む
水 100αc
()℃
1
温度が同じで 量がちがう
B実験の結果を考え どうなったか(
わけ
)
水 氷水
水と氷水では
C実験の結果を考え どうなったか(
わけ
)
()℃
自分の実験結果からいえることは、どんなことですか。
温度のちがいがあるものがあったまるとき、熱は温度の高い方から低い方え ったわることはわかってきたのですが、ふれ合った部分から、どのようにし てうつっていくか、つまりどんなあたたまり方をするのかが次の問題になり
ますね。
181 理科教育に於ける諸問題一NIGHT SYSTEMの実践的データを参考にして一(広瀬)
10 どこにでもあるやかんを使って考えてみよう。
やかんに熱湯を入れると、えのところまであつくなること
督塀でしょう・繍はどのように伝わっていったのだ
熱は見ることができない。
、つっていくようすはどうして知る アとができるでしょう。
き
今日はポマードをつけたマッチ棒 i半分)で調べよう。
@ か
・熱で変わるもの(ラード・
│マード)(温度計)など く
● お
!・協心解・
え●う● い
自分の予想はどれですか。(番号は落ちる順) 、
ア()7 6 イ()
@20@ 2
@3
ウ() 6
F愈 勲 エ()
4 O 3
@20 1
◎2
@2
痰Q
O
21
1
㌃q『 0 2 へ{}「 1
わけ わけ わけ わけ
↓
1セ3噂\
実験 マッチの落ちる順
@ (ポマードがとける)
l/⑭1.ポマードつけ2.マッチ棒たて1灘そそぐ糠注ぐ
結果 マッチの落ちる順 iポマードがとける)
@ ()
@() く き か。
@() け お
2 2 1
㊦く き o ッこO え
@ う。
@ い●
@ あ●
かお
()
@ ()
i)こ@ え⑧()
@ う●()
@ い⑰()
@ あ㊤ ()
だいたい上のような
@ 順になった
?ネたの予想は
@ ()あたりました
@ ()あたりません
@ ()少しにている
182
長崎大学教育学部教育科学研究報告 第24号
ユ1
マッチ棒の落ち方から、熱の伝わりを考えよう。
問題5
ア(
イ(
ウ(
マッチ棒が落ちたわけとして、正しいものを1つえらんで○をつけなさい。
)湯の熱がやかんに伝わったから、ポマードがとけた。
)湯の熱が空気に伝わったから、やかんが熱くなり、ポマードがとけた。
)湯の熱がやかんと空気に伝わったから、ポマードがとけた。
問題6 マッチ棒の落ち方からどんなこ とがわかるでしょう。
(あなたの考えに○印)
()金物では熱は広いところへうつ っていくのだろう。
()金物の熱も温度の高いところか ら低いところへうつっていくの だろう。
()金物の熱は上にも横にも進んで いくらしい。
?
→ ←。堰か。
うo
l 、、、
1 、い。
↓? あ。
金物では
熱は下やななめには進 まないのだろうか。
ア(○)イ(○) ウ(○)
同時に入れ
↓同時
1 しぼう
熱湯 ひ一
しぼう2
・1の温度と2の温度
を比べてごらん。
・1が高いことから湯 の熱はやかんにうつ り上へうつっていっ たと考えられます。
金物での熱のうつり方 をいろいろな形のもので 確かめてみよう。