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執務参考資料 STEM 教育への女子の参加促進に向けて ~ 初中等理数科教育支援における取り組みの可能性 ~ 社会基盤 平和構築部 ジェンダー平等 貧困削減推進室 STEM 女子教育タスク

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(1)

執務参考資料

STEM 教育への女子の参加促進に向けて

~初中等理数科教育支援における取り組みの可能性~

社会基盤・平和構築部

ジェンダー平等・貧困削減推進室

STEM 女子教育タスク

(2)

目次

はじめに ... 1

第 1 章 STEM 教育における女性の現状 ... 3

1. STEM 教育への参加と専攻・職業選択の現状 ... 3

2. STEM 教育の各分野における学習到達度に関する現状 ... 5

3. STEM 教育と女性の雇用 ... 9

第 2 章 STEM 教育への女性の参加に影響する要因 ... 10

1. 個人レベルの要因 ... 10

2. 家庭・友人レベルの要因 ... 12

3. 学校レベルの要因 ... 13

4. 社会レベルの要因 ... 15

第 3 章 他機関の取組 ... 16

1. 国際援助機関(UNESCO) ... 16

2. 政府援助機関(USAID) ... 17

3. 民間企業 ... 19

第 4 章 JICA 事業における留意点と取り組みアイデア ... 21

1. 事業関係者が認識すべき点 ... 21

2. STEM 学習に関して、具体的に教員が理解しておくべきこと ... 22

3. 留意すべき点と取り入れ可能な活動アイデア ... 22

事例概要 ... 27

参考 ... 32

STEM 女子教育タスクメンバーリスト ... 33

引用文献 ... 34

(3)

図表

図 1 高等数学と高等物理のコースを選択した生徒の男女比 ... 3

図 2 教育および工学、製造、土木分野における女性の割合 ... 4

図 3 高等教育登録時の専攻分野毎の男女比の世界平均値 ... 4

図 4 高等教育に登録した女性の分野別の比率 ... 5

図 5 科学関連キャリアを選択した学生が就業希望している分野 ... 5

図 6 高等数学と高等物理の男女間の成績差の平均値 ... 7

図 7 コンピュータ・情報リテラシーの成績と高等 ICT への自信の男女差 の平均値 ... 8

図 8 科学分野の特定のタスクを容易に出来ると答えた生徒の男女比 ....11

図 9 高等教育を受けた両親を持つ生徒の男女間の成績差の平均値 ... 12

表 1 STEM教育およびキャリアへの女性の参加促進のための優先アクショ ン ... 26

表 2 事例1マラウィ国中等理数科教育強化プロジェクト ... 27

表 3 事例2バングラデシュ国小学校理数科教育強化計画フェーズ2 .... 29

表 4 事例 3 ニジェール国みんなの学校:住民参加による教育開発プロジ ェクト ... 30

(4)

略語表

略語 原文 和文

AI Artificial Intelligence 人工知能 ICT Information and Communications

Technology

情報通信技術

ICILS International Computer and Information Literacy Study

国際コンピュータ情報リテラシ ー調査

IoT Internet of Things モノのインターネット化 JICA Japan International Cooperation

Agency

独立行政法人国際協力機構

OECD Organization for Economic Co- Operation and Development

経済協力開発機構

PASEC Programme d'analyse des systèmes éducatifs de la Confemen

西アフリカ仏語圏学力調査

PISA Programme for International Student Assessment

OECD生徒の学習到達度調査

SACNEQ Southern and Eastern Africa Consortium for Monitoring Educational Quality

南・東アフリカ学力調査

STEM Science, Technology,

Engineering and Mathematics

科学・技術・工学・数学分野の総

TERCE Tercer Estudio Regional Comparativo y Explicativo

中南米地域学力調査

TIMSS Trends in International Mathematics and Science Study

国際数学・理科教育動向調査

UNESCO United Nations for Educational, and Scientific and Cultural Organization

国際連合教育科学文化機関

UIS UNESCO Institute for Statistics UNESCO統計研究所 USAID United States Agency for

International Development

アメリカ合衆国国際開発庁

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1 はじめに

教育におけるジェンダー格差は、ここ数十年で大きな改善が見られたが、科 学・技術・工学・数学(STEM)教育への参加に関しては、依然、大きなジェン ダー格差が残っている。STEM教育における女子の参加は依然低く、専攻や職業 の選択には明確なジェンダーパターンが見られる。多くの国や地域で、STEMは 男性に向いている分野で、男性が活躍する分野だというステレオタイプが支配 的であり、このステレオタイプは、女子生徒自身や周囲の人々の意識を通じて、

女子のSTEM教育参加に否定的に影響し、女子は、継続してSTEM科目を学ぶ 選択をする場合に、男子以上に強い意志が必要となる。また、自らの能力に関す る認識には男女差があり、同程度の成績であっても、女子は男子に比べて、自分 のSTEMに係る能力に自信を持たない傾向がある。STEM教育、STEM関連キ ャリアへの参加のジェンダー格差には、このような女子の自信の欠如が、大きく 影響している。結果的に、女子は男子に比べ、早期に STEM 教育から離脱する ことに繋がりやすい状況がある。

昨今、労働者を取り巻く環境が急速に変化し、今後、単純労働の機会の多くは 失われ、労働者がより高い技能を求められるようになっていくなか、STEM教育 の意義は高まっている。今日、益々需要が高まっている情報サービス分野等の STEM 関連キャリアへの道が、より多くの女性に対して開かれたものとなるた めに、STEM 教育におけるジェンダー格差是正のための取り組みが求められて いる。

このような状況のなかで、理数科教育に関連するODA事業を行う際には、女 子生徒自身、教員や教室環境、また、学校関係者や両親の持つステレオタイプが、

事業効果に大きく影響することを認識することが重要である。事業が男女双方 に等しく学ぶ機会を提供していたとしても、事業の中で、女子生徒自身や周囲の 脱ステレオタイプのための働きかけが欠けている場合、女子生徒の到達度や学 びの継続という点で、事業のインパクトが制限されてしまいかねない1。既存の 教育環境が女子の STEM 学習の継続に不利である場合、より効果的な事業のイ ンパクトを狙い、事業の中で、脱ステレオタイプや、女子への励ましに繋がる活

1 ある研究では、数学について同じような能力と背景を持つ男女の生徒がいる場合、女子生徒は、「女性 は数学が苦手」というステレオタイプがあると男子に比べて成績が悪くなり、ステレオタイプが取り除か れると男子と同じ成績になることが指摘されている。(本執務参考資料p.10, 2章)

Cracking the code: Girls’ and women’s education in science, technology, engineering and mathematics(STEM), UNESCO, 2017

https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000253479

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2

動の実施を検討することは、極めて重要である。

本執務参考資料は、上述の課題を踏まえて、STEM教育への女子の参加を促進 するための取り組みを推進することを目的としている。本執務参考資料では、ま

ず、1. STEM教育における女性の現状(第1章)、2. STEM教育への女性の参加

に影響する要因(第2章)、3. STEM教育、キャリアへの女性の参加促進に向け た他機関の取り組み(第3章)を見た上で、4. 実際のJICA事業(教員研修、教 材開発、学校運営改善)における留意事項および具体的な対応策やプラクティス を検討する(第4章)。なお、第 1~2 章については、全体を通じて UNESCO

(2017)2を引用しているため、個別の脚注を省略している。

本執務参考資料の第4章 JICA 事業における留意点と取り組みアイデアにつ いては、基礎教育課程における主な技術協力プロジェクトを想定しており、JICA 事業全体を対象としていない。本執務参考資料の範囲から外れている部分や、特 に、今回、第4章で扱っていない高等教育、技術教育・職業訓練等における留意 事項および具体的な対応策については、別途検討が必要である。

2 Cracking the code: Girls’ and women’s education in science, technology, engineering and mathematics(STEM), UNESCO, 2017

https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000253479 上記報告書の引用脚注省略。

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3

第1章 STEM教育における女性の現状

1. STEM教育への参加と専攻・職業選択の現状

(1)初等教育から中等教育

全ての教育レベルで、STEM 教育への参加にかかるジェンダー格差は存在し ている。多くの場合、高校の科目選択のタイミングになると、その傾向が顕著に なり、教育レベルが上がるにつれ悪化する。中学校に入り、学齢が上がるにつれ、

女子生徒は、男子生徒よりSTEM教科への興味や関心を失うようになる。また、

STEM 教育からの離脱が多く見られる時期は、男女で異なっている。男子生徒 は、高校に進んだ後に STEM 教科から離脱し始めるのに対して、女子生徒は中 等教育の早い時期に STEM 教科からドロップアウトしてしまう傾向がある。実

際、TIMSS(2015)の結果を表す下記のグラフからも、数学と物理の上級コー

スを選択している生徒の多くは男子生徒であることがわかる。

図 1 高等数学と高等物理のコースを選択した生徒の男女比

(12年生時点)出典:UNESCO(2017)

(2)高等教育

高等教育段階では、専攻に関して次のような明確なジェンダーパターンが見 られる。

男子生徒:工学、製造、建設、情報技術

女子生徒:教育、美術、保健、福祉、社会科学、ジャーナリスム、ビジネス、

法律。

下記のグラフから分かるように、高等教育の科目選択についてのデータのあ る多くの国において、教育を選択する女性は平均68%である一方、工業、製造、

建設を選択する女性は平均25%に留まる。こうした専攻の分離は職業分離に直

(8)

4

結し、雇用や収入のジェンダー格差に結びついている3。こうした職業分離があ る状況は90年代に減少して以来、上昇し続けている4

図 2 教育および工学、製造、土木分野における女性の割合

(高等教育時点)出典:UNESCO(2016)

図 3 高等教育登録時の専攻分野毎の男女比の世界平均値

出典:UNESCO(2016)

また、専攻選択に関する下記のグラフを見ると、STEM関連の研究分野を選択 している女子生徒は約 30%であり、その中でも、特に ICT(3%)、自然科学・

3 World Development Report 2012, World Bank, 2012

4 Gender Review, Global Education Monitoring Report 2016, UNESCO

(9)

5

数学・統計(5%)、工学・製造・建設(8%)分野では、女子生徒が少なく、女 子の選択は健康・福祉(15%)分野に集中していることがわかる。

図 4 高等教育に登録した女性の分野別の比率

出典:UNESCO(2017)

PISA(2015)参加の35か国を見ると、生徒が15歳時点で科学関連キャリア を志望する割合にジェンダー格差は見られなかったが、科学関連分野の中での 志向に男女差が見られた。女子生徒のうち74%が健康に関する職業、男子生徒 の約半数が科学・工学に関する職業を志望する等、科学関連分野のキャリア選択 に関して、明確なジェンダーパターンが見られる5

図 5 科学関連キャリアを選択した学生が就業希望している分野

(15歳時点)出典:UNESCO(2017)

2. STEM教育の各分野における学習到達度7に関する現状

(1) 科学

科学の学習到達度についてのジェンダー格差は、国、地域によって様々である。

5 例えば、教育(女性)、情報通信技術(男性)のように、男女は異なる市場セクターに集中している。

地位や安定性、収入のレベルも異なっている。

Global Education Monitoring Report 2016 et al

7 ここでは、UNESCO(2017)に基づき、初等から後期中等教育までを範囲とする。高等教育、技術教 育・職業訓練については、データの制約により扱っていない。

(10)

6

TIMSS(2015、4年生対象)によれば、半数の国でジェンダー格差はない。残り

の半数の国でジェンダー格差はあるものの、女子優位、男子優位でほぼ半々に分 かれる。たとえば、アラブ諸国では、初等および前期中等教育で、女子の方が男 子より成績が良い。これは、同地域で多く見られる男女別学の学習環境で、女子 生徒と教師とのやり取りが活発化し、質問することを促し、功を奏しているとい う指摘がある。TERCE(2013、6年生対象)によれば、中南米地域では、科学 の学習到達度におけるジェンダー格差は女子優位の国が半数、男子優位の国が 半数であり、両親の期待や母親の教育レベル、教師の慣習等が影響しているとい われている8

TIMSS(1995、2015、8年生対象)の1995年および2015年の結果を比較する と、科学の成績についてのジェンダー格差は、この20年間で大幅に改善してい ることがわかる。男子生徒優位であったのは、16か国中3か国のみであり、そ のスコアの男女差も僅か2ポイント差である(TIMSS2015、8年生)。

(2) 数学

数学の学習到達度についてのジェンダー格差も国、地域によって異なる。

PISA(2015、4年生対象)によれば、約半数の国でジェンダー格差はなく、格 差がある国の中でも、男子優位が37%、女子優位が16%である。地域別で は、科学と同様に数学でも、アラブ諸国で女子の方が男子より成績が高い傾向 が見られる。中南米では、およそ半分ほどの国(15か国中8か国)で大きなジ ェンダー格差が見られる(男子優位、女子優位半々)。この成績差には、両親 の期待、母親の教育等の影響があると指摘されている(TERCE2013、6年生対 象)。仏語圏アフリカ諸国では、男子の方が女子より成績が高い傾向が見ら れ、成績差は初等低学年(2年生)から顕著である(PASEC2014、2年生、6 年生対象)。東、南アフリカ諸国でも同様である(SACMEQ、6年生対象)。

TIMSS(2015、4年生、8年生対象)によれば、初等教育での数学の学習達

成度について、47%の国でジェンダー格差は無いが、格差がある国において は、男子優位37%、女子優位16%である。一方、中等教育での数学の学習到 達度について、67%の国でジェンダー格差は無いが、男子優位が15%、女子 優位が18%である。

このように、TIMSS2015の結果9からは、数学の学習到達度についてのジェ ンダー格差は、前期中等教育(8年生)では初等教育(4年生)に比べ差が小 さいことがわかっている。一方で、男女によって得意な分野が異なる傾向が見 られる(女子:代数、幾何学、男子:数)。下記の表が示す通り、TIMSS

8 UNESCO 2016, TERCE 2016 In Sight. What is Behind Gender Inequality in Learning Achievements?

9 参加国は70か国。サブ・サハラ、中央アジア、南アジア、西アジアのデータは限定的。

(11)

7

Advanced(2015、12年生対象)によれば、後期中等(12年生)での数学の学

習到達度に関して、8割程度(7か国/全参加9か国)の国で、女子生徒に比べ て男子生徒の成績が高く、物理の学習到達度に関しては、9割程度(8か国/9 か国)の参加国で男子生徒の成績が高い。

図 6 高等数学と高等物理の男女間の成績差の平均値

(12年生時点)出典:UNESCO(2017)

(3)ICT

今後、STEM関連の雇用の98%でICT技能が要求され、専門性のある人材 不足のために2020年までに100万人の雇用が見込まれている。ICTはSTEM 関連のキャリアパスとしてのみならず、STEM関連の教育やキャリアにおける ツールとしても重要性を増している。

ICILS(2013、8年生対象)によると、コンピューターと情報リテラシーに

関しては、全ての参加国で、男子生徒に比べて女子生徒の成績が高い(平均18 ポイント)。しかしながら、下記のグラフが示す通り、高度なICTスキルに対 して見られた自己効力感(達成できる自信)10は、総じて女子生徒の方が著し く低い。

10 a person's belief that they can be successful when carrying out a particular task https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/self-efficacy

(12)

8

図 7 コンピューター・情報リテラシーの成績と高等ICTへの自信の男女差の平均値

(8年生時点)出典:UNESCO(2017)

(13)

9 3. STEM教育と女性の雇用

第四次産業革命11が進む中、女性の雇用を取り巻く状況は大きく変化し、女性 にとって STEM 教育の重要性は増している。技術革新の伸展により単純労働の 機会が奪われ、女性の雇用を取り巻く状況が変化していくなか、専攻分離、職業 分離は、益々深刻な課題となる。

近年モノのインターネット化(IoT: Internet of Things)やビッグデータ、人工 知能(AI: Artificial Intelligence)、ロボットなどに代表される第4次産業革命と呼 ばれる産業・技術革新が世界的に進んでおり、生産や消費といった経済活動や社 会経済の在り方が大きく変化している。こうした中、今後数十年のうちに、世界 経済や労働者を取り巻く環境は急速に変化する。オートメーション化が一層進 み、単純労働の雇用機会の多くは無くなっていく。多くのミドルスキルの女性労 働者にとって、雇用機会を得ることが益々困難となることが見込まれる12。 このような環境変化において、雇用獲得のためには、高技能を持つ知識労働者と なることが必須となる。今後、知識労働の多くの職業が、情報技術や電子工学、

機械工学と密接に関係してくることが見込まれており、また、情報サービス業で はさらに雇用の拡大が見込まれている13。女性が雇用を得ようと高い技能を持つ ために、STEM教育の重要性が増している。

今日、職業分離の傾向(コンピューターサイエンス、物理学、工学のような知 識経済のキーセクターでのキャリアを考える女性が非常に少ない現状)が見ら れ、所得のジェンダー格差の一因となっている。こうした職業・専攻分離は喫緊 の課題であり、STEM 分野での活躍においてジェンダー格差が大きい状況を変 えていかなければ、今後数十年のうちに多くの女性は、労働市場から疎外されて しまいかねない。

11 18 世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化である第1次産業革命、20 世紀初頭の分業に基づ く電力を用いた大量生産である第2次産業革命、1970 年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層 のオートメーション化である第3次産業革命に続く、IoT 及びビッグデータ、AI 等の技術革新を指す。

https://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/n16_2_1.html

12 2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する、2012、文芸春秋

2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する、2017、文芸春秋

13 2000年代半ば以降、ITバブル崩壊や世界金融危機に直面するも雇用者数は一貫して増加し高水準を

維持。日本では2010年の546万人から2020年には630万人まで約84万人増加すると試算されてい る。リクルートワークス研究所(2011)

(14)

10

第2章 STEM教育への女性の参加に影響する要因

第1章では、以下の通り STEM教育やキャリアへの参加におけるジェンダー 格差について概観した。これを要約すると、次の通りである。

本章では、ジェンダー格差を生み出す要因について見ていく。女子生徒の STEM 教育やキャリアへの参加、学習到達度、STEM 分野における活躍を妨げ る要因は複数存在するが、ここでは、「個人」、「家庭・友人(ピア)」、「学校」、

「社会」の4つに分け、それぞれのレベルで影響要因を概観する。

1. 個人レベルの要因

(1) 男女の能力差

第1章で見てきたように、後期中等教育の理数科目については、女子生徒に比 べて男子生徒の成績が高い状況であり、大きなジェンダー格差が見られる。しか しながら、こうしたジェンダー格差は男女の能力差によるものではない。近年の 脳科学や遺伝子工学の発展による各種研究において、生物的な性差が STEM 分 野への適性に関係していることは立証されておらず、男女別の能力差は否定さ れている。他方、自信やモチベーションが女子生徒の STEM 分野への参加や活 躍に大きく影響することが分かっており、その中でも、女子生徒が自らジェンダ ーバイアスを内面化し、STEM 分野から離脱してしまう選択バイアスが顕著で ある14

(2) ステレオタイプの内面化と自信

幼少期から固定的性別役割等のステレオタイプを含んだコミュニケーション が蓄積されることにより、子どもたちは、内面化したジェンダーステレオタイプ に従って行動を調整するようになる。STEM分野では「男子は女子よりも数学や 科学が良くできて、科学や工学分野のキャリアは男性の領域である」というステ レオタイプが女子のSTEM学習の到達度やSTEMキャリア志向に否定的に大き

14 成績差は、意欲、動機、自信等と関係しているものであり、性別に基づく能力差はない。

The ABC of Gender Equality in Education, OECD, 2015

教育への参加の格差については、女子の方が早い時期からSTEM教育から の離脱が見られ、後期中等教育よりSTEM教育への参加について顕著なジェ ンダー格差があり、高等教育以降は明確な専攻・職業の分離が見られる。ま た、学習到達度についてのジェンダー格差については、地域によって異なる が、後期中等教育では、著しく男子優位のジェンダー格差が見られる。

(15)

11

く影響している。米国の研究では、6歳の児童でも既にこのバイアスを持ってい ることが確認されている(Bian, L., Leslie, S and Cimpian, A, 2017)15。また、

直接的に本人がバイアスを持たない場合も、バイアスを持つ人が周りにいるこ とが女子生徒の自信を低下させる。

このように、本人が持つバイアスや、周囲の環境を自身のバイアスとして内面 化することで、女子生徒は男子生徒と比較して相対的に自信(Self Efficacy)や意 欲が低い状態が生まれてしまう16。2015 年の PISA の調査では、科学と数学の 分野で、女子生徒は男子に比べ、自信が低いことが分かった17。下記のグラフは、

2016年の PISA の調査結果であるが、科学に関するグラフ内の各質問に対し、

男子生徒の方が「簡単に答えられる」と回答した割合が高い(より高い Self- Efficacyを持つ)。

ある研究では、数学について同じような能力と背景を持つ男女の生徒がいる 場合、女子生徒は、「女性は数学が苦手」というステレオタイプがあると男子に 比べて成績が悪くなり、ステレオタイプが取り除かれると男子と同じ成績にな ることが指摘されている。

図 8 科学分野の特定のタスクを容易に出来ると答えた生徒の男女比

(15歳時点)出典:UNESCO(2017)

15 Bian, L., Leslie, S and Cimpian, A, 2017, Gender Stereotypes about intellectual ability emerge early and influence children’s interests. Science, Vol.355, No.6323,

16 米調査によれば、ジェンダー格差があるのは、①(客観的な到達度が同じであっても)女性は、自己効 力感や、自分の能力について低く見積もる。②女性は男性に比べ、数学・科学への興味・関心が低く、利 用価値があると考えていない傾向がある。

Meeta Banerjee et al, 2018, The Roles of Teachers, Classroom Experiences, and Finding Balance: A Qualitative Perspective on the Experiences and Expectations of Females Within STEM and Non-STEM Careers, http://genderandset.open.ac.uk/index.php/genderandset/article/view/508/953

17 男子に比べ女子の方が数学に対して自信が無く、同程度の成績であっても数学に対して強い不安の感情 を持つ傾向がある。数学への不安感は成績の悪化に結びついている。この自信の欠如や不安が女子の成績 に影響している。自信や不安が同程度の男女では、成績に差はなくなる。ibid

(16)

12 2. 家庭・友人レベルの要因

(1) 両親

両親は、子どものキャリア選択に、大きな影響力がある。特に母親の考えは、

自分の能力や到達度、キャリア選択肢に関する女子生徒の考えに影響する18。 両親に科学者がいる場合や、高等教育を受けた両親の場合、女子生徒は男子 生徒より、科学分野の成績が向上しやすく、STEM分野に進学しやすい傾向が みられている。下記のグラフは、高等教育を受けた両親と生徒の科学分野の成 績の関連を分析したものであるが、女子生徒の方が、両親の、特に母親の影響 を受けやすいことが示唆されている。

両親からの励まし(encouragement)は、自分に適性があると信じられるこ とに繋がる。ある研究によれば、数学や科学が得意な男子に対してはSTEM分 野への進路について両親からの励ましが頻繁に見られる一方で、女子に対して は励ましが見られない傾向がある19

また、塾や個別指導、科学教室に参加したり、科学番組を見たりする機会、コ ンピューターへのアクセス等、STEM分野の勉学をサポートする家庭内での様々 な機会やリソースへのアクセスも重要であり、これらの有無が学業成績にも影 響を与えている。

図 9 高等教育を受けた両親を持つ生徒の男女間の成績差の平均値

出典:UNESCO(2017)

18 生徒自身が理科学習に意義を感じるようになるかどうかは、親とりわけ母親の理科に対する指向性が重 要であると指摘されている(風間1995)

理科離れしているのは誰か、村松康子編著、日本評論社2004

19 オーストラリアのニューサウスウェールズの公立64校、3-12年生を対象とした調査。他者(家族や他 の大人)と自分自身が考える適性がSTEMキャリアへの興味・関心の主な要因。

Adam Lloyd, et al, 2018, Parental Influences on Those Seeking a Career in STEM: The Primacy of Gender http://genderandset.open.ac.uk/index.php/genderandset/article/view/510/959

(17)

13

(2) 友人

また、女子生徒の考えや行動、成績やモチベーションには、特に思春期には 友人間の影響が大きい。女子生徒の自信、モチベーション、帰属意識等は、

STEM教育の友人の状況に影響される。たとえば、米国の調査では、周りの女 子の友人のSTEM分野の成績によって女子生徒自身が高等数学・物理学のコー ス選択をするかどうかの決定に影響することが確認されている20

3. 学校レベルの要因

学校レベルの要因としては、教員の質、女性教員の存在、教員の認識、教員と 生徒のコミュニケーション、教材の内容、評価、生徒及び教員の能力の認識や生 徒の心理的要因が挙げられる。

(1) 教員

教員の生徒への接し方も重要な影響要因である21。世界各国の調査により、教 員は無意識のうちに STEM 分野においては男子生徒が女子生徒より優れている と考える傾向があり、授業における生徒への接し方にもその考えが反映される 傾向にあるため、男子生徒に対してよりポジティブな発言を行う傾向がある。教 員がこのような STEMに関する男女の能力差についての誤った考えを持つ場合、

不平等な教室環境を作り出し、女子生徒にとって不利な学習環境となる。

グループワーク型の授業は生徒の学びに対する前向きな姿勢を引き出し、自 己肯定感を高める有効な方法である一方、教室内の男女間の関係性によっては、

男性がグループを支配し、女子は受動的な役割に徹する場合がある22。このよう な事態を防ぐため、教員は男女間の関係性を十分理解し、生徒が平等に発言の機 会を得られるよう配慮することが必要である。また、実生活における身近な STEM 関連技術(コンピューター等)を利用しながら行う授業は、女子生徒の STEM分野へのモチベーション向上につながることが分かっている。

また、STEMを専門とする女性教員はSTEM分野におけるジェンダー格差是 正において重要な役割を担っている。女性教員は女子生徒のロールモデルとな るだけでなく、男性教員に比べてジェンダー平等に対してポジティブな姿勢を

20 Leaper, C., Farkas, T.and Brown,C.S. 2012 Adolescent girls’ experiences and gender related beliefs in relation to their motivation in math /science and English. Journal of Youth and Adolescence, Vol.41, No.3

21 STEMキャリアへ進んだ女性を分析した米調査結果によれば、初等教育段階での経験、家族や教師か

らの働きかけが専攻、キャリア決定に影響している。中でも教師の影響は非常に大きく、実際にSTEM キャリアに就いた女性達の多くがSTEMキャリア志向(85%)やSTEM科目の好き嫌い(78%)に影響 が大きいと回答。

Meeta Banerjee et al, 2018, The Roles of Teachers, Classroom Experiences, and Finding Balance: A Qualitative Perspective on the Experiences and Expectations of Females Within STEM and Non-STEM Careers, http://genderandset.open.ac.uk/index.php/genderandset/article/view/508/953

22 教室空間は男子生徒によって支配される傾向があり、女子生徒の積極性や活発さ、学習への意欲が冷め ていく、との指摘がある。

理科離れしているのは誰か、村松康子編著、日本評論社2004

(18)

14

生徒に示すことが分かっており、女子生徒の興味や自信、STEMキャリア志向に 良い影響をもたらす23

教員の質は、生徒がSTEM分野のキャリアを選択するかどうかの決断に大き く影響する要因の一つである。特に、教員が自らの専門分野に自信を持ってい るかどうかは生徒の達成度に大きく影響することが判明している。女性教員は 初等教育レベルであれば、自らのSTEM科目の教授能力について男性教員より 自信を持っている一方、中等教育段階になるとその割合が急激に下がることが 判明している。

(2) 教材

STEM 分野の教科書や教材における男女の描かれ方は、社会における男女の 典型的なステレオタイプを投影していることがある。全世界的に、STEM分野の 教科書に登場する人物は男性が中心であり、女性が登場したとしても、従属的な 立場で描かれていることが多い。STEM 分野のジェンダー格差を解消するため には、意識的に教材から伝統的な男女のステレオタイプ(男女の役割、能力、職 業等)を排除することが必要である。また、男子生徒と女子生徒では同じSTEM 教科でも興味を持つ分野が異なる場合があるため、男子だけでなく女子の関心 に応じた教材作りが求められる24

(3) 評価

評価者の意識も STEM 教科の成績の男女差に関係している場合がある25。イ スラエルのある調査によると、生徒の性別を伏せたまま採点したときは評価に 男女差がなかった教員でも、生徒の性別・名前が分かる状態で採点すると女子に 対して厳しい評価をする傾向があることを明らかになっている26。また、既存の 評価制度・評価ツール自体が不平等な可能性がある。TIMSS や PISA の結果か ら、テストの内容や出題形式によって STEM分野のパフォーマンスに男女差が 発生することが確認されている。各テストは実施条件が異なるため、単純比較は できないものの、評価ツール自体が女子に不利益な内容になっている可能性は

23 女性教師に教わると女子生徒の成績がよくなり、STEM分野のキャリアをおいやすい(Carrell et al,

2009)、という米研究あり。また、女性専門職とのやりとりがある女子生徒はSTEM分野へ肯定的な感情

を抱くようになる(Stout et al, 2011)、という研究あり。

Global Education Monitoring Report 2016,UNESCO, 2016

24 例えば、前期中等教育の場合、中学校段階までに生徒たちは、既に性別によって異なる生活場面や経験 を重ねてきていることを考慮した教材提示が工夫されるべき、との指摘がある。

理科離れしているのは誰か、村松康子編著、日本評論社2004

25 一見客観的評価に見える男女生徒の学習態度等の評価には、ジェンダーステレオタイプに基づく先入観 が入り込んでおり、実際には教師は性別によって異なる基準で評価していることが実証研究により指摘さ れている。ibid

26 Lavy, V. and Sand, E. 2015. On The Origins of Gender Human Capital Gaps: Short and Long Term Consequences of Teacher’s Stereotypical Biases. NBER Working Paper No.20909

(19)

15 否定できない。

(4) 心理的要因

女子生徒は男子生徒に比べて理数科教科やテストそのものに対して緊張や不 安感を持ちやすいことが判明している。このような心理的な要因に対処するこ ともSTEM分野における男女差是正に貢献すると考えられる。

(5) 技術教育・職業訓練(TVET)でのジェンダーバイアスの拡大

ある研究によれば、職業訓練学校で、特定の地域のジェンダーステレオタイプ に沿って研修機会を男女に提供することによって、既存のジェンダーバイアス を再生産する傾向があると言われている27。ある研究によれば、特定の地域の労 働におけるジェンダーバイアスが、後期中等教育における物理の選択に反映さ れているという指摘もある28。したがって、職業観に関する既存のジェンダース テレオタイプが TVET 事業を通じて再生産され、地域のステレオタイプが増長 されることで、女子生徒が STEM 教育やキャリアへ向かうことを阻害する一因 となりえる。

4. 社会レベルの要因

(1) 社会規範

文化・社会規範は、女性が自らの能力、社会的役割、キャリア等に対する考え 方を形成する上で大きな影響力を持つ。世界各国の調査の結果、よりジェンダー 平等な社会では、STEM 分野における男女間の格差が減少する傾向が認められ ている。したがって、STEM分野の教育や雇用へ女性が向かうことを促すために は、社会全体のジェンダー平等に資する社会政策や法的枠組みの設立が有効で ある。

(2) メディア

マスメディアは、しばしば社会における男女の伝統的なステレオタイプを反 映しており、子どもたちの自己及び他者に対する考え方に影響を及ぼしている。

加えて現代では、STEM教育に対してネガティブな意識を持つ女子自身が SNS 等を通じてネガティブな発信を拡散するという現象も起きている。

27 Kabeer, N., Van Anh,T.T. and Manh Loi, V.2005. Preparing for the Future: Forward-looking Strategies to Promote Gender Equality in Viet Nam. United Nations and World Bank Thematic Discussion Paper

28 Riegle-Crumb, C. and Moore, C.2014. The gender gap in high school physics:Considering the Context of local communities. Social science quarterly, Vol.95, No.1

(20)

16

第3章 他機関の取組

これまで見てきた、STEM 教育における女性の参加状況および参加促進・阻害 等の影響要因を踏まえて、第 4 章で JICA 事業における留意点や活動例を検討す るにあたり、本章では他ドナーや民間企業の取組み状況について概観する。本章 では、STEM 教育・キャリアへの女性の参加促進に向けた取組を、国際援助機関

(UNESCO)、政府援助機関(USAID)、民間団体に分けて紹介する。

1. 国際援助機関(UNESCO)

STEM 分野におけるジェンダー主流化を課題とし、その国際的な促進におい て、UNESCO は中心的な役割を果たしてきた。以下は、UNESCO による代表的な プロジェクト事例である。

(1) Organization for Women in Science for the Developing World (OWSD)

特に開発途上国における女性の役割を強め、科学技術分野における女性の参入 を促進する目的で 1987 年に設立された、UNESCO のプログラムユニットとして機 能する国際 NPO 法人である。女性科学者などに対して研究活動研修やキャリア 形成支援、ネットワーキング機会等の提供を行ってきた。主な活動内容は以下の 通りである:

① フェローシップ

OWSD は 1999 年から SIDA(スウェーデン国際開発協力庁)からの資金提供に より、STEM 分野でのキャリアを志す科学技術分野後進国29出身女性に博士フェ ローシップ(特別研究員の資格)を授与する取組みを行っており、現在までに 340 人の女性がフェローとなった実績を持つ。科学技術分野後進国出身の女性 科学者の教育や研修へのアクセスを改善するとともに科学的生産性や想像力を 向上させ、彼女らが科学技術においてリーダー力を発揮する新たな世代の創造 を目的としており、フェローに対して生活費や保険費、学費をはじめとした資 金援助を行っている。

2017 年にはカナダの International Development Research Center (IDRC)か らの資金提供により、Early Career Women Scientists (ECWS)という新たなフ ェローシッププログラムが設立された。これは、女性が母国の研究機関に留ま りつつも国際的なレベルで研究を続けることを可能にさせることを目的に作ら れた 2 年間のフェローシップで、開発途上国で働く女性科学者フェローに対し

29 Science and Technology Lagging Countries (STLC)として OWSD が 66 カ国を挙げている:

https://owsd.net/sites/default/files/OWSD%20Eligible%20Countries%202017_2.pdf

(21)

17

て最大で 50,000 ドルを与えるものである。フェローシップ資金は研究関連費、

広報およびネットワーキング費として使うことができる。また、OWSD はフェロ ーに対して、ネットワーキング機会の提供に加え、研究室立ち上げ方法や、リ サーチグループのマネージメント方法をサポートするワークショップや、指導 スキル向上を目的としたワークショップ等の提供を行っている。

② OWSD Awards

Elsevier 財団、TWAS30 、OWSD の資金により、開発途上国出身で博士課程を修 了してから 10 年以内の女性科学者で地域的および国際的に重要な研究実績を 残した者に授賞される。途上国で働く研究初期段階の女性研究者を促進するこ とが目的で、毎年 5 人を表彰している。

③ OWSD networking

途上国で働く女性研究者同士の交流機会を促進する取組み。

(2) STEM and Gender Advancement (SAGA)

SAGA は、SIDA の支援を受けた UNESCO の国際的なプロジェクトの 1 つである。

STEM 分野におけるジェンダー格差を解消することを目的としており、ジェンダ ー 格 差 の 評 価 や 解 消 に 向 け た 示 唆 の 提 示を 行 う 。 よ り 具 体 的に は 、 SAGA Toolkit31を用いることで、各国の STEM 分野におけるジェンダー格差を要素別に 評価し、エビデンスに基づく課題解決方法や政策提案への貢献を行う。

また、国際会議32の開催等を通じて各国の課題や取組みを共有することで、国 際社会が協力して STEM 分野におけるジェンダー主流化に取組む体制の構築に 貢献している。

2. 政府援助機関(USAID)

各国政府の取組みとしては、高等教育以降の女性研究者等を対象に、奨学金や ネットワーキング機会を提供するものが多く見受けられ、初等・中等教育段階に おける取組み事例は限定的である。本稿においては、USAID による女子生徒のた めの STEM 高校の事例を紹介する。

30 The World Academy of Sciences: https://twas.org/

31 SAGA Toolkit とは、政府機関における政策立案者や統計機関が使用することを目的とし、ジェンダー 平等に関するモニタリング及び評価を行うことに加えて、STI 関連政策におけるジェンダー要素を統合す るための実用的指標ツールである。また、同ツールは、国際的な分類(教育レベル、研究分野、及び機 会)に基づき STEM の定義を明確にしている。同ツールにより、各国が自国の政策状況及び統計分析を査 定し、改善にむけた提言を得ることで、STEM 分野におけるジェンダー関連政策をエビデンスに基づいて 立案することが可能となる。

32 例えば 2016 年にはメキシコシティーにおいて中南米における STEM 分野のジェンダー格差の実態、各国 の取組み事例などを比較検討する会議が行われた。

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18

(1) USAID - El Maadi STEM School for Girls

① 概要

本校は、2012 年秋にエジプトのカイロに設立された、エジプト初の包括的な STEM 教育を提供する学校である。3 年制の公立高校であり、10 年生から 12 年 生まで約 360 名の女子生徒が在籍している。本校の教育は、大気汚染、水不足 やエネルギー問題等のエジプトの諸課題を解決するための方策をデザインする ことを目的とした、学際的かつ体験的なカリキュラムを中心としている。学生 は全国テストの成績により選ばれ、マサチューセッツ工科大学がデザインした ファブラボ(3D プリンタ等のあらゆる工作機械を備えたワークショップ)での 研究等を通じて、21 世紀型スキル獲得のための教育に励んでいる。

② 運営主体

本 校 は 、 World Learning, The Franklin Institute, 21st Century Partnership for STEM Education, Teaching Institute for Excellence in STEM の 4 団体によって運営されている。ワシントンに拠点を置く World Learning がプロジェクトのマネジメントを行っており、学校の財務代理人であ る。The Franklin Institute は教師やスクールリーダーへの指導と課外活動、

21st Century Partnership for STEM Education はカリキュラムと評価試験、

Teaching Institute for Excellence in STEM はファブラボの設置と教師への 指導を担当している。The Franklin Institute と Teaching Institution for Excellence in STEM は、アメリカとエジプトの教師の交流も行なっている。

資金は USAID とエジプトの教育省により拠出されている。

③ USAID による支援

2011 年より、USAID は STEM スクールプロジェクトを始め、STEM 教育の推進を 目指すエジプト政府を支援してきた。USAID の STEM スクールプロジェクトの目 標は、①学生(特に女子学生と貧困層)の教育への関心と成果の向上、②優れた 学生のための、理科と数学に特化した、効果的な高校のモデル作り、③STEM プ ロチームの能力育成、④STEM モデルを維持拡大する教育省の能力強化、⑤発展 的な STEM カリキュラム作成や評価試験の実施、及び STEM 教師向け研修を提供 する教育省の支援、の 5 つである。

現在エジプトには USAID の支援を受けて教育省が作った STEM 高校は 11 校あ る。本校はそのプロジェクトの一環として、2011 年に設立された男子校に続い て、2 番目に作られた STEM 高校である。本校設立にあたっては、女子生徒に STEM 教育の機会を提供し、熟練労働者のジェンダー格差を埋めることを目標とした。

2012 年に、USAID エジプトは World Learning に対し、STEM 教育を行うために 4

(23)

19

年間で 2,500 万米ドルの協力協定を結んだ。さらに、2016 年 6 月には助成金を 1 年間延長し、金額の上限を 3,000 万米ドルに増やした。

④ 成果

既に本校の学生が国際大会で成果33を挙げたり、エジプト政府から功勲章を受 賞したり、発明の特許を取得している。

3. 民間企業

民間企業の本分野の取組みの多くは、STEM 分野関連企業における、社内の男 女比率やジェンダー格差を改善する形で行われてきた。近年においては、女子学 生を対象としたコーディングやプログラミングの機会提供を行う企業や NPO の 取組みも盛んになってきている印象。

(1) General Electric(米)

ゼネラル・エレクトリックは 2020 年までに技術分野社員の男女比を 50:50 に することを目標に掲げている。そのため、2015 年には 2 年間で 5,000 人の女性 を STEM 分野で採用する予定であることを公表した。

(2) Etsy(米)

女性社員が男性社員数を上回る(54%女性)数少ない開発技術系企業。社員数 全体のみではなく管理職においても女性がおよそ半分を占めている。2014 年に Etsy は性別をスペクトル/連続体(spectrum)として捉えることを発表し、社員が 自身の性別を 60 以上の選択肢の中から選択できるようにした。

(3) UNESCO – L’Oréal Partnership(仏)

1998 年からロレアルは、UNESCO とパートナーシップを組み、現代のグローバ ル問題解決に貢献した女性研究者を表彰することを通して女性の活躍の推進に 取り組んできた。これまでに 102 名が表彰され、そのうち 3 人はノーベル賞を 受賞した実績がある。

(4) Google – Made with Code by Google(米)

米国では、74%の女子学生が STEM 分野に関心を示すが、大学でコンピューター サイエンスの専攻を希望する女子学生は 0.4%と非常に低く、関心度と進学に大 きな壁が存在する。Google はオンライン・オフラインのコースやコーディング に関するリソース、事例紹介等を通じ、10 代の少女へコーディングを学ぶ機会

33 例えば、2016 年には Yasmine Yehia Moustafa が米からバイオディーゼル燃料を作り、水を浄化し、発 電する方法を発明し、Intel International Science and Engineering Fair で最優秀賞を受賞した。

(24)

20 を提供している。

(5) Vogue – Developers in Vogue(米)

女性向けのコーディング・プログラミングブートキャンプの運営や、STEM 分 野におけるインターンシップの斡旋、STEM 分野で活躍する女性のネットワーキ ング等を実施。

(6) STEMbees(米)

2014 年に設立された、アフリカの STEM 分野を目指す女性を支援する NPO。

STEM 分野のキャリア紹介、コーディングワークショップを開催する他、STEM ク ラブを運営し、Junior high school の女子学生に対し、放課後授業等も開催し ている。

(25)

21

第4章 JICA 事業における留意点と取り組みアイデア

これまで、STEM教育に関する女性の現状、女性のSTEM教育への参加に関 する影響要因、各ドナーの取組みについて見てきた。これらを踏まえて、実際 のJICA事業では、どのようにSTEM教育およびキャリアへの女性の参加を促 進することが可能かについて考察する。本章では、STEM教育におけるジェン ダー平等促進のために、事業関係者が認識すべき点を確認し、実際のJICA事 業(教員研修、教材開発、学校運営改善)の中で、どのような点に留意し、ど のような活動を取り入れることが可能かを検討する。なお、具体的な事例とし て、マラウイの教員研修案件の事例、バングラデシュの教材開発案件の事例、

ニジェールの学校運営改善案件を事例として取り上げる。これらの事例(事例 詳細はp26~30参照)に照らして、留意点と活動例を提案する。

ここでは、基礎教育の典型的な技術協力プロジェクトにおける考察に留まっ ている。基礎教育以外の事業における考察や、JICAとしてどのような支援が必 要かということについても、今後さらに検討していくことが必要である。

1. 事業関係者が認識すべき点

(1) ステレオタイプの存在

STEM教育やキャリアに関して、「男子は女子よりも数学や科学が良くできて、

科学と工学分野のキャリアは男性の領域である」というステレオタイプが支配 的であり、女子の STEM への興味、関心、到達度に否定的に影響している。女 子生徒自身が、このステレオタイプを内面化することで、STEM教育、STEM関 連キャリアを目指す意欲を失ってしまう。また、身近な人々がこういったステレ オタイプな考えを持っていることで、女子の自信は損なわれ、結果としてSTEM 教科の成績が下がり、STEM 教育、STEM 関連キャリアを目指す意欲を失わせ る。このため、女子生徒のモチベーション維持、向上に向けた働きかけが重要と なる。

(2) 能力の認識について

前述の通り、STEM 教科に関する自分の能力の認識、自信/自己効力感(Self Efficacy)の有無については、ジェンダー格差がある。科学や数学について、女 子の方が男子に比べ、低い自信を持つことがわかっている。自分の能力を低く見 做す傾向や自信の無さは、STEM教育の成果、成績、STEMキャリア志向に否定 的に影響している。また、教員が「性別による能力差は存在し、STEM教科は男 性の方が得意だ」という認識を持つ場合がある。このような誤った認識は、教室 で男女に不平等な教育環境を作り出し、その教育環境は、女子の STEM 学習継

(26)

22

続に不利な状況となる34。このため、ジェンダー平等な教室作りや生徒とのやり 取りの平等性の確保が重要となる。

2. STEM学習に関して、具体的に教員が理解しておくべきこと

・性別に基づく能力差がないこと。

・一方で、自分の能力への認識や自信の有無については、男女差があること。

・教室内の男女の関係性(ジェンダーダイナミクス)を理解し、ジェンダー平等 な教室環境を作ることの重要性。

・無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)の存在を認識し、生徒とのやり取り に関しては平等性を徹底する必要があること。(無意識のうちに、男子の能力を 女子の能力より高く見做すことや、男女に異なる対応をとってしまうことがあ ること等。)

・ステレオタイプの影響や自信の欠如によって、STEM学習に関して、男子に比 べ女子の方が、やる気や興味、関心を削がれ(discourageされ)やすいため、女 子生徒のモチベーション向上、維持について、特に意識する必要があること。

3. 留意すべき点と取り入れ可能な活動アイデア

(1) 事例1 教員研修

① 留意すべき点

●教師自身がステレオタイプの影響を認識し、ステレオタイプを抱かないこと が重要であるとの気づきを提供すること。

●女子生徒自身や周囲の生徒がステレオタイプを内面化することがないよう、

教師がジェンダー平等な教室作りを心がけること35

●教師自身が、STEM教育における女子の自信・自己効力感の欠如、女子に励ま しや自信を与える必要性について理解すること。

② 活動取り入れる内容案

ア. 現職教員研修の内容、教材、指導書、新規教員養成課程への働きかけのワー

クショップに下記を含める。

a. 次の二つのステレオタイプは支配的であるが誤りであること。また、このス テレオタイプが、女子の STEM 教育への参加やキャリア選択へ大きく影響

34 男子に比べ女子の方が、継続して理系科目を選択していくのに強い意志が必要とされる。教師が女子の 学習意欲を制限してしまっているのではないかという指摘がある。(石飛2000, Evetts1996)

理科離れしているのは誰か、村松康子編著、日本評論社2004

35教員に対して、ジェンダーセンシティブな事前、現職研修を行い、教員がジェンダー認識、子ども達へ の期待について学び、教授、評価スタイルを多様化する方法を学ぶことにより、学校教育におけるジェン ダー不平等を減らすことができる。

Global Education Monitoring Report 2016, UNESCO, 2016

(27)

23

しており、結果として、女子は男子に比べ STEM 教育から離脱しやすいこ と。

・男子の方が女子より数学や科学が得意

・科学や工学のキャリアは男性の分野

b. STEM教育における女子の自信・自己効力感の欠如を認識することの重要性。

このため、女子を励ますことで意識的に自信を与える働きかけが必要である こと。

c. 男女生徒への平等な働きかけ、やり取り、発言機会が重要であること36。平 等な働きかけを意識するには、日常の観察により、教室内、生徒間のジェン ダー関係や行動の傾向等を把握し、考慮することが必要。

d. 実験等の活動では、役割を固定しない工夫が必要であること。

e. 生徒やその家族に対して、脱ステレオタイプを促すことの重要性。このため に、ジェンダー平等な教室環境作りや、家族の理解を促すことが必要である こと。

イ. 研修関係者への啓発活動に、脱ステレオタイプを促す内容を含める。

ウ. 授業評価において、ジェンダー視点からの項目(ジェンダー平等な教室作り

や発言機会の平等な確保、女子への意識的な働きかけ等)を設ける。

エ. 理数科教員、教員教育者向けフォーラムに、事業の中で実施した脱ステレオ

タイプに向けた取り組み内容を含める。

(2) 事例2 教材開発

① 留意すべき点

●関係者がステレオタイプの影響を認識する。また、女子生徒自身やその周囲が ステレオタイプを内面化することがないように、教材開発を行う。ジェンダー視 点に立った(gender-responsive)内容となっているか確認する37

●既存のステレオタイプが強い場合は、そうしたステレオタイプの典型的なイ メージを助長しないことに加え、非典型的なイメージを戦略的に使用すること を検討する。

●教師自身が、STEM教育における女子の自信・自己効力感の欠如、女子に励ま しや自信を与える必要性について理解する。

●男子に比べて、女子の方が、科学に対してより否定的な態度を持つことを理解

36 無意識のうちに異なった対応を取ることがある。例えば、教師が女子の方が優等生との意識を持ち、手 男子生徒への働きかけが多くなり、女子生徒への働きかけが少なくなった結果、女子生徒が期待されてい ないと感じるとの考察あり。

理科離れしているのは誰か、村松康子編著、日本評論社2004

37 子どもたちを社会化し、ジェンダーステレオタイプに疑問を抱くようにするには、教科書やその他学習 教材を通じた、ジェンダー視点に立った教育(gender-responsive teaching)が効果的。(Brugeilles and Cromer,2009) Global Education Monitoring Report 2016, UNESCO, 2016

(28)

24

し、女子の関心・興味も引き出す教材内容とする。

② 活動に取り入れる内容案

ア. 教科書や教師用指導書、研修内容に下記を含める。

a. 教科書内の人物像に関して、次の二つのステレオタイプな考えを助長しない 内容とする。また固定的性別役割や典型的な男女のステレオタイプを緩和す ることを狙い、戦略的に非典型的なイメージを活用する。(たとえば、男性:

能動的、主な役割、女性:受動的、補佐的役割等といった固定観念を植え付 けるような記載を無くす)

・男子の方が女子より数学や科学が得意

・科学や工学のキャリアは男性の分野

b. 教師用指導書において、「STEM 教育における女子の自信・自己効力感の欠 如と励まし・自信を与える必要性」について記載。

c. 教師用指導書において、教師が、脱ステレオタイプを促すことの重要性につ いて記載。「STEM 教育における女子の自信・自己効力感の欠如と女子に励 まし・自信を与える必要性」を認識すること、また、周知させることの重要 性について記載。

d. 教師用指導書において、男子に比べ女子の方が、やる気、興味を失いやすい 状況を勘案し、女子の興味・楽しさを引き出す工夫が重要である旨を記載。

イ. 教科書・カリキュラム改善に係るセミナーに、脱ステレオタイプに向けた取

り組み内容を含める。

ウ. 授業改善に関する啓発、発信に、脱ステレオタイプに向けた取り組み内容を

含める。

(3) 事例3 学校運営改善

① 留意すべき点

●教師、学校関係者、生徒の家族がステレオタイプの影響を認識する。また、女 子生徒自身や周囲の生徒がステレオタイプを抱かないような学校環境作り。

●ステレオタイプを軽減することを目的とした、生徒の家族、地域住民、コミュ ニティリーダーに対する啓発活動。

② 活動取り入れる内容案

ア. フォーラムアプローチに係る活動で女子教育推進がテーマに取り上げられ た際に、STEM分野における女子教育の推進に焦点をあてる。

イ. 下記のような様々なレベルでの脱ステレオタイプに向けた啓発活動を行う。

学校:女子生徒自身、教師と男子生徒、学校関係者(校長や行政官)

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コミュニティ:コミュニティの住民、影響力のある人物(長老、宗教指導者)

家庭:両親、家族、親族

ウ. ロールモデルとなる STEM 分野で活躍する女性(プログラマー、エンジニ

ア、科学者、研究者、教員等)との接触機会の提供。もしくは、STEM分野 で活躍する女性についての情報の提供38

エ. 様々な発信機会に、事業の中で実施した脱ステレオタイプに向けた取り組み

内容を含める。

4. 参考:UNESCOによる優先取組み活動の提案

UNESCO(2017)39において、早期学習機会、質の高い包摂的なジェンダー視

点に立ったSTEM教育の提供、STEM 教育参加、学習到達度、活躍を阻む社会 規範や実態への対応というテーマごとに、STE 教育におけるジェンダー主流化 のために必要な活動例がまとめられている。(表1、p.25)

38 女子生徒がエンジニアリング分野の仕事に興味を持つには、その職業がどのように社会に貢献している のかを示すことが動機になる。(Seron, Silbey, Cech & Rubineau, 2016)

Spangenberger, 2018, Can a Serious Game Attract Girls to Technology Professions?

http://genderandset.open.ac.uk/index.php/genderandset/article/view/496/952

39 Cracking the code: Girls’ and women’s education in science, technology, engineering and mathematics(STEM), UNESCO, 2017

https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000253479

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26

表 1 STEM教育およびキャリアへの女性の参加促進のための優先アクション 出典:UNESCO(2017)

参照

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