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保険研究におけるミクロ経済学的 アプローチに関する検討
大 倉 真 人
Abstract
Purposeofthispaperistoinvestigatetherelationbetweeninsurancetheoryandmicroeco‑ nomictheory.Theplanofthediscussionisasfollows.
First,thispapersketchestheJapaneseinsurancemarketbeforeandaftertheJapaneseinsur‑ ancelawwasrevisedin1996・Since1996,theJapaneseinsurancemarkethasbeencompetitive becausemanyregulationswererelaxed.Soitisclearthatpresentinsurancemarketcanbeana‑ lyzedinmicroeconomictheory.
Second,thispaperdiscussesthattheinsurancetheorywithmicroeconomictheoryhasthe advantageofclearlngtheexplanationbecauseofitsrobustness.Furthermore,themainpar‑ ticipantsandtheirobjectionsintheinsurancemarketareconsidered.
Keywords:Insurancetheory,Microeconomictheory,Japaneseinsurancelaw,Competitivestmc‑ ture
第 1章 :序
本稿は, どの ようなアプローチによって競 争的保険市場の 「理論的説 明」を行 ってい く 必要があ るかについて考察することを 目的 と する。 当然の ことなが ら,実際 に生 じた事実 を述べるだけでは 「理論的説 明」 と呼ぶに不 十分であ る。 さ らに分析対象が 「保険」であ る以上,分析か ら得 られる諸命題は,何 らか の意味で,従来の保険理論 を補完 ・代替ない
しは修正するものでなければな らない。
それゆえ,保険市場の 「理論的説 明」 を行 うに際 しては,「保険理論 におけ る一般性 と 特殊性の問題1)」を強 く意識する必要 がある。
すなわち,保険が独立 した制度 として社会 に 存在す る以上,そ こには 「保険制度固有の論
理」が存在す るはずであ り,ゆえに,保険業 を銀行業や証券業 を含めた他の産業 と全 く同 様 に論 じることには大 きな問題 がある。 しか し反対 に,伝統的な保険論 ・保険学あ るいは それに隣接する学問分野 (例 えば社会保障論 な ど) (以下 「保険論等」 と呼ぶ) において は,「保険の特殊性 を過剰 に強調す るあま り, 保険の一般性への配慮 を欠2)」いた議論 が少 なか らず存在す る3)。言 うまで もな く,保険 は経済制度の 「1つ」に過 ぎない。ゆえに, 保険をあたか も他の経済制度か ら完全に孤立 した もの として取 り扱 うことに も大 きな問題 がある と言わざるを得ない。
従 って,保険市場の分析 を行 う際 に最 も留 意 しなければな らない こ とは,「保険の特殊 性 を重視 しつつ, これに,一般的な理論の骨組
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みをいかに与 えるか」 にあ る と言 えよう。 換 言すれば,保険の一般性 を過度 に強調 す るこ
とに よって他の市場 と同一的な競争構造 を要 求す るこ とは,社会全体 にマ イナスの影響 を 与 える恐 れがあ るが,逆 に保険の特殊性 を誇 大 に とりあげ るこ とについて も,競争 が十分 に促進 されないな どの理 由に よって,社会的 に望 ま し くない状況が引 き起 こされて しま う 可能性 があ る4).従 って,保険業 におけ る規 制緩和 あ るいは再規制 は,保険の一般性 と特 殊性 を十分 に加味 した上 で実施 され るべ きで あ る と言 え よう5),(日。
本稿 では,上で述べた点 を念頭 に置 きつつ, 以下の構成 に よって議論 を進 めてい く。 まず
2.では, 日本 におけ る保険市場の (罪)競争構 造 を概観 す る。 なおその説 明は,1996年 にお け る保険業法の改正以前 と改正以後 とに区分 した上 で実施す るこ ととす る。 この ような区 分 を行 うこ とで,保険業法改正以前 は非競争 的であ った 日本の保険市場 が保険業法改正 に よって競争的市場へ と変遷 した経緯 について 明 らかにす るこ とがで きる。次 に3.では,2.
において明 らかにされた保険業法改正以後 に おけ る競争的保険市場 を理論的 に説 明す るた めのアプローチの 1つ としての ミクロ経済学 を とりあげた上 で,保険市場分析への援用の 可能性 について議論す る。 なお4.は結論部 で あ る。
第 2章 :保険市場の概観
第 1節 :保険業法改正以前の保険市場 一 非 競争的市場 の存在 とその原因 一
旧来保険市場 は,他の市場 に比 して非競争 的 ・非効率的 であ る と言 われて きた7)。特 に 保険業法改正以前は,保険業 は銀行業や証券 業 と並 んで 「規制産業の典型」 として位置づ け られ8),様 々な規制 に よってその企業活動
が制限 されて きた。算定 会料率 の使用義務9)
や保険商品の認可制 ,ある いは比較広告の禁 止な どはその典型 であ る。
そ して この ような状況が,保険会社 に確 固 た るマーケテ ィング戦略 を「持たせなか った」
あ るいは 「持 とう と思 わせ な か った」10)。 各 保険会社 は全社一律的な料率 お よび保障範 囲 を提示 し,またそれを極めて労働集約的な方 法 に よって販売 し続 けた川。 その最 もた る例 が,生命保険募集人 に よる 「無理義理契約」
であ り, この こ とが一時社会問題化 した こ と もあ った12)。 なお この ような傾 向は,1999年 に映画化 されたサ イコ ・サスペンス『黒 い家』
の中の 「毎年
1
1月は,
『生命保険の月』,通称『 1
1月戦』 と呼ばれ,各社 が契約高 を競 い合 う重点月だ った。各営業所 や支部 には通常 の 月 の数 倍 の過 酷 な ノル マ が与 え られ るため に, とりあえず どんな契約で も成立 させて し ま お う とす る傾 向 が な い とは 言 え な か っ た13)」とい う くだ りに も求め ることがで きる。ただ しこの ような非競争的な点が存在 す る 反面 ,消費者の 「個人的選好14)」を誘引す る ような イメー ジ広告や商品ネー ミング15)な ど に よって差別化 を図 る,いわゆ る 「心理的効 果」 を狙 った販売促進活動 におけ る過 当競争 が生 じた こ とも事実であ る。 しか しこの よう な過 当競争 は,「国民経済的 なマ イナ スにつ なが るケー スが少 な くない16)」。 それゆ え, 販売促進活動 におけ る競争 の存在 を もって, 保険市場 が競争的であ った と結論付 け るのは 正 し くない。
以上 よ り,少 な くとも1996年 におけ る保険 業法改正 までは,保険市場 が非競争的であ っ た と推察す るこ とがで きる17)。しか しなが ら, 上記 とは別の視点 か ら議論 を展開す るこ とで
「保険市場 は競争的であ った」 と結論 づけ る ことが可能であ るか もしれない し,またその ような議論 は, さほ ど多 くはないにせ よ存在
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す る。 そ こで以下 においては,「保険市場 は 競争的であった」 と結論づける主たる根拠 を い くつか列挙 した上で,それ らを批判する形 で保険市場の非競争性 について改めて主張す ることに したい。
まず考 え うる議論 は,「生命保険 ・損害保 険 とも,戦後数度の料率引 き下げが行われて いる」 という事実 か らの ものである。例 えば 生命保険 について見れば,1956年4月か ら9 度連続で料率が引 き下げ られている18)。 この
ような度重なる料率引 き下げが,付保率の拡 大を通 じて消費者 に利益 を もた らしたであろ
うことは想像す るに難 くない1())0
しか しこの ような料率引 き下げは,全社一 律的に行われている。ゆえにここでの料率引 き下げは,各社の コス ト削減や技術革新な ど といった経営努力の成果 として登場 した もの ではない。換言すれば,料率の引 き下げに関 す る企業間格差あ るいは個別企業の独 自性 と いった ものは全 く見 られない。 つま り数度に わたる料率引 き下げは,料率 カルテルの体質 変更を意味す る訳ではな く,む しろその引 き 下げが一律的であった ことは,そのカルテル の結びつ きが堅固であった ことを物語 ってい るのであ る。それゆえ,度重な る料率引 き下 げ とい う事実を もって保険市場が競争的であ った と断 じるのは早計であ る と言わざるを得 ない20)0
次に とりあげる議論は,小官[1989]におい て展開 されているそれであ る。小宮[1989]は,
「保険契約時の保険料は,大蔵省のいわゆ る
「護送船団方式」の政策 と業界のカルテル的 感覚によ り,各社毎 にほ とん ど差がない よう に定め られている。 しか し,社員への配 当金 の率は事業成績の良い保険会社は高 く,それ ほ ど良 くない会社では低 くな り,契約者 に と ってはそれだけ保険の実質的 コス トに差が生 じる21)」 ことを確認 した上で, 日本の (相互)
生命保険会社は,料率その ものでは競争 して いなかったが,事後的な配 当を通 じた価格競 争 を行 っていた と主張 している。
しか し, この小官[1989]の主張 に対 しては 保険学者 か らの反論が存在する22)。それ らに よれば,保険数理 に疎 く,比較情報の入手お よびそれを理解す るのに困難な消費者 が,本 当に配当の多寡 によって保険会社を選択する のか,また仮 にそ うだ として も,業績格差が 反映 される特別配当が支払われ るのは契約が 10年 を経過 してか らであることか ら,それが 競争 に与 え る影響 は過 大評価 すべ きではな い。 さ らに現実の配当率の決定は,少なか ら ず政策的判断が介入 してお り,それゆえ配 当 率を もって競争の程度を測 ることはさしたる 意味を もたない。
最後 に,西武 オールステー ト生命を憶矢 と す る外資系保険会社の新規参入に着 目した議 論 について吟味 しよう。 つま りが,保険業法 改正前 に も外資系保険会社の新規参入は存在 した とい う点か らの議論 である。戦後間 もな い期間における保険行政は,既存国内保険会 社の保護 ・育成の観点か ら,新規参入につい て極めて消極的であ った。 しか し1975年 に西 武 オール ステー ト生命 が設立認 可 されて か ら,生命保険分野では, ソニー ・プルデンシ ャル生命 (1979年 ),ア イ ・エ ヌ ・エ イ生命 (1981年),コンバ イン ド生命(1981年)な どが, 損害保険分野では,1982年のオールステー ト を皮切 りに,ジ ェイ ・アイ(1989年),ア リア ンツ(1990年),ユナム ・ジャパン (1994年) な どが, 日本の保険市場への新規参入を果た した 23),24)0
この ような新規参入は, 日本の保険市場 に 少な くない影響 を与 えた。その最 もたるもの は,新たなタイプの保険商品の登場であろう。
具体的には,ガン保険,ユニバーサル保険や 変額保険,あるいは生前給付型保険 といった
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ものがあげ られ る。 この ような保険商品の多 様化は,商品選択の幅が広がった ことを意味 し,消費者 に とっては, よ り望ま しい保険商 品を購入で きる機会が増加 した ことになる。
しか しその反面, 日本の保険市場全体 に与 えた影響はさほ ど大 きな ものではなかった。
この ことは,保険市場全体か ら見た外資系保 険会社のマーケ ッ ト .シェアがわずか数パー セ ン トに過 ぎな か った こ とか ら明 白で あ る25)。 それゆえ,少な くとも主要 な保険商品 市場 について言 えば,外資系保険会社の新規 参入が保険市場の競争構造 に与 えた影響は, それほ ど大 きな ものであった とは言 えないの であ る2(,)0
以上の ことか ら,保険業法改正以前の保険 市場 は,「他の競争市場 において一般的 に行 われているような価格引 き下げや新商品開発 による市場 占有競争 は行われず,同一商品 ・ 同一価格の下での販売網拡大 を軸 とした競争 が展開されて きた27)」と評価す ることがで き よう。
第2節 :保険業法改正以後の保険市場 一競争 的市場への変遷過程 ‑ 28)
1996年の保険業法改正以後 に起 こった諸規 制の緩和 は,保険市場 を大 き く変化 させた。
生損保相互参入の解禁,保険料率規制の緩和, 保険ブローカー制度の導入,新保険商品に対 す る認可制 か ら一部届 出制への移行29),比較 広告規制の大幅緩和な どはその例である。
また この ような競争化への流れを決定的 に したのが,1996年12月における 日米保険協議 の決着である30)。 この決着で,(ヨリスク細分 型 自動車保険の認可,(∋火災保険の付加率ア ドバ イザ リー制度の拡大,(さ届出制保険商品 の拡大,④算定会料率の使用義務の廃止,(9 リスク細分型商品の申請 を90日以内の標準期 間内で認可, とい う 「主要分野規制緩和の判
定5条件」が合意 された。
そ して この合意 を受け,1997年9月には, リスク細分型 自動車保険の認可が始 ま り,そ れ に よって,年齢 ・性別 ・運転歴 ・使用 目 的 ・使用類型 ・地域 ・車種 ・安全装置 ・複数 所有の9項 目に基づいた料率差別化が可能 と なった31)。 また1998年4月には火災保険の付 加率 ア ドバ イザ リー制度 の対 象 が拡大 され (対象 となる最低保険金額が200億 円か ら70億 円に引 き下 げ られた。 なお1997年 1月 に300 億 円か ら200億 円への引 き下 げが行 われたば か りであ った),高額物件 (従 って主 として 大企業の付保物件) にかかる火災保険料率の 完全 自由化が実現 した。
さらに1998年7月には料率算定会制度の改 革 が行 われた。具体的 には 「料 団法」 (損害 保険料率算定団体 に関する法律)の改正 およ び算定会料率使用義務の廃止であ る。 これに よって,料率算定会が提示す る料率は遵守義 務のない参考料率 (ア ドバ イザ リー .レー ト)
として位置づけ られ ることとな った。
しか し, この改革 には2年 間の経過措置期 間が盛 り込 まれていたため,当初 「多 くの業 界関係者の見方は,損保各社は主 力商品であ る自動車保険 については,2年 間の経過措置 を利用 して ソフ トランデ ィングを試みる32)」
とい うものであ った。 しか しその予想は,東 京海上の「TAP」(TokioAutomobilePolicy) の登場(1998年10月)によって見事 に裏切 られ た。 なぜ な ら,TAPはその商品 内容 もさる こ となが ら,「算定会料率ではな く,東京海 上 自社のデー タを もとに独 自の保険料率を算 出33)」した点 において,完全な料率 自由化 を 宣言 したに他な らなかったか らである34)。 ま た この ような東京海上の動 きに追随 して,安 田火災における保険料の大幅割引や,三井海 上 お よび千代 田火災 による車の属性 に基づ く 割引35)な どが相次いで起 こった。
57
この ように経過措置期 間の終了(2000年 6 月)を待つ間 もな く,保険市場 一特 に 自動車 保険市場 ‑は,過去 に経験 した ことのない競 争時代を迎 え,そ して現在 に至 っている。な お この ことは,相次 ぐ料率引 き下げやサー ビ ス内容の拡充 といったプラスの側面 か らだけ でな く36), 日産生命を端緒 とした保険会社の 相次 ぐ破綻 といったマ イナスの側面 か らもう かがい知 ることがで きる37)。特 に自動車保険 に関 しては,その激烈な競争 を理 由 として, 自動車保険市場 か らの撤退 を表 明する保険会 礼 (太陽火災 :ただ し後 に撤退見送 りを再表 明)や保険料率を引 き上げる保険会社 (大東 京火災)が出現 した。つま り直感的にも明 ら かな ように,現在の 日本の保険市場は,かつ てない再編の時期を迎 えているのであ る。
そ して この ような競争圧力の存在 は, これ まで他産業 に比 してマーケテ イング思考が希 薄であ った保険会社 に,競争 に打ち勝ちなお かつ生 き残 るためのマーケテ ィング戦略 を打 ち出そ うとするインセンテ ィブを与 えている
と考 え られる38)0
その例 として,特 に生命保険会社において 見 られるいわゆる 「囲い込み戦略」を見てみ よう39)。現在 , 日本の生命保険市場は,少子 化 な どを理 由 に飽 和 状 態 に近 づ きつ つ あ る40)。それゆえ各社 とも,既保険契約者 を他 社 に奪 われな いための引 き留 め に必死 であ る。 この ような実態 を所与 とした上で,各生 命保険会社は,既保険契約者 を囲い込むため のマーケテ ィング戦略 を打ち出 してお り, 日 本生命 における 「ニ ッセイ保険 口座」な どは その 1つ として位置づけ可能である。同制度 の詳細な内容説 明については省略す るが,要 は高額 かつ長期 の保 険契約 であればあ るほ ど,多額の保険料割引や割増配当を受けるこ とがで きる制度であ る41)0
さらに特筆すべ きは,近年 インターネ ッ ト
を中心 とした情報通信技術 (IT)の革新 がめ ざま し く,それ と呼応す るようにITを利用 した新たなマーケテ ィング手法が次 々 と開発 されて い る こ とであ ろ う。 さ らに言 えば , ITの普及 に関連 して,保険商品の比較 サ イ トが出現 した ことも無視で きない。なぜな ら, この ような比較サ イ トの出現は,消費者が容 易に比較情報 を入手で きるようになった こと を意味 し,ひいてはさ らなる競争 を引 き起 こ す と考 え られるか らである42)0
第3章 :保険研究における ミクロ経済 学的アプ ローチ
第1節 :保険市場の 「理論的説明」 43)
保険市場の 「理論的説 明」を行 うことの主 た る 目的 として,「学会 内特殊用語(jargon) が乱用 され る結果,部外者 には保険学の全体 系への見通 しがつ きに くい44)」とい った弊害 を排除することがあげ られる。実際,保険論 等 ‑その中で も特 に 「保険経済学」 と呼ばれ る学問領域 ‑は, この学会 内特殊用語でち り ばめ られた世界である と言 って も過言ではな い。特 に 「保険 とは何か」論 ‑いわゆる保険 本質論 一における諸説入 り乱れた様相は 「百 家争鳴」の如 くであ り,「保険研究者 の数だ け学説があ る45)」とまで言われたほ どである。
また各説 とも多分例に漏れず,保険の定義付 けの作業の際 に,固有のあ るいは特有の用語
(法)を用いることを専 らとした。
保険研究を行 うに際 して,その研究対象で ある保険の定義付けを行 うことについての重 要性は言 うまで もない。しか しなが ら同時 に, 伝統的保険論等が この定義付けの作業 に偏重
しす ぎた きらいがあることも否み きれない事 実であ る。 そ して この こ とが原 因で (あ るい は少 な くとも原 田の1つ として),「他の社会 諸科学 に比べて どこか異質な要素 一保険研究
≡)tq
に特有の思考様式 とで もよぶべ きもの1 46)」 を感 じずにはい られないのか もしれない。
上 で述べた点 を考慮 した とき,議論全体uj 見通 しを良 くす る方法の1つ として,共通言 語 としての 「ミクロ経済学」 を用 いた分析 を 考 えるこ とがで きる47)。共通言語 としての ミ クロ経 済学 を利用す るこ とによって,保険制 度 と他の経済制度 との共通性 あ るいは異質性 を よ り明確 に示 す こ とがで きる。 また, ミク ロ経済学 は共通言語 であ るこ との他 に も,そ の装 いの美 しさか ら 「社会科学の女王」 と称 され るが如 く,非常 に高 い精微度 を有 してい る48)。
ただ し言 うまで もな く, ミクロ経済学 を利 用す る際 には,その メ リッ トと同時 にデ メ リ
ッ トーすなわち分析上 の限界 ‑を知 るこ とも 重要 であ る。 しか し,本稿 は ミクロ経済学 そ の もの に対す る議論 を 目的 とす る ものではな く,またそれは本稿の議論 の範 囲を超 えてい る。 そ こで ここでは,い くつか考 え うるデ メ リッ トの うちの 1つのみを簡単 に述べ るに と どめてお くこ とに したい。
ミクロ経済学 では原則 として,主体の 「合 理性」 (rationality)が仮定 され る。 しか し実 際 には,各主体 一例 えば保険会社や被保険者
‑は必 ず しも合理 的 に行動 す る とは限 らな い。一 例 として
,
「なぜ 日本人は掛 け捨 て保 険 を嫌 うの か?」とい う問題 について考 えて み よう。 これは言 い換 えれば,
「なぜ 日本 人 は経済効率的 に優 れてい る保険の利用 を忌み 嫌 うのか?」とな るのだが, この問 いに対 す る答 えを ミクロ経済学的アプローチに よって 見つけ出す こ とは少 なか らず困難であろ う。おそ ら くこの問題 を考 えるにあた っては,礼 会学や宗教学 ,文化人類学 とい った他の学問 分野 におけ る研究成果 を援用 す る必要 があ る
もの と思われ る49)0
しか しこの ようなデ メ リッ トの存在 に よっ
て, ミクロ経済学 に よる分析 が直ちに無意味 な もの とな る とい う訳 ではない。確 かに主体 は必 ず しも合理 的 に行動 しな いか も知 れ な い。 しか し, ミクロ経済学 に よって導 かれた 結果が,保険市場 で生 じる多 くの現象 を説 明 す るための 「一次的接近」 として有用であ る こ とには変 わ りない50)。 それゆえ, ミクロ経 済学の分析 に対す る 「単 な る経済的変数だけ に よる説 明力は低下 して きてお り,社会的, 心理的変数 を盛 り込 んだ保険加入行動の研究 が必要 になっている51)」とい う批判 は もっ と もらしい こ とではあ るが,新 たな変数 を導 入 す るこ とに よって生ず る分析の明瞭性 ・操作 性の低下の可能性 を考 えた とき,必ず しも賛 同で きるものではない。
なお ミクロ経済学 に よって議論 す る他の 目 的 として,保険論等 におけ る研究で しば しば 用 い られ る「文化や思想」とい ったフ ァクター を極 力排除す るこ とがあげ られ る。 この こ と は,保険制度 に与 える文化や思想の影響 を無 視 ない し軽視す るこ とを意味す るものではな い。先述 した ように,保険 に関す る問題 は, ミクロ経済学のみでは解 き得 ない場合 も少な くな く,実際,文化や思想 をベー スに した価 値あ る研究 も数多 く存在 す る52)。 それに も関 らず,文化や思想 とい ったフ ァクター を極 力 排除す るこ とを主張 す る理 由 として,以下の
2つがあげ られ る。
1つめは, これまで保険研究を主 とす る学 会で しば しば見 られたいわゆ る 「日本 (人)特 殊論」が, 日本 (人)の (非)合理性 を説 明す る こ とのみに終始 し,具体的 な政策的処方隻 な どについてあま り述 べ られて こなかった きら いが あ る こ とに関連 す る。 例 えば先 述 した
「掛 け捨 て嫌 い」 について見れば,では どの ようにすれば 日本人は掛 け捨 て嫌 いか ら脱却 で きるのか,あ るいは掛け捨 て嫌 いは何 らか の基準 を用 いて測定 した ときに望 ま し くない
rl〜1
ことなのか, といった議論はほ とん どなされ ていない。 さ らに,文化や思想 による説 明は 保険の特殊性 一特 に 日本 (人)における保険の 特殊性 ‑を 「過剰 に」強調す る傾 向にあ り, 議論の汎用性の点か ら見て,少なか らず問題 を含んでいるように思われ る53)0
2つめの理 由は,た とえ文化や思想 といっ たフ ァクターを用いず とも, ミクロ経済学の 手法によって,分析対象 となっている問題 に 対す る十分な説 明が可能な ことであ る。
この ことを例示すべ く,例 えば 「なぜ 日本 では,損害保険 (特 に自動車保険)のダイレク
ト ・マーケテ イング (ダイレク トメールや電 話 な どを通 じた保険販売)がア メ リカに比 し て普及 しないのか54)」とい う問題 について考 えてみ よう。 これまでの研究の うちで最 も説 得性 のあ る主張は,「日本人はア メ リカ人 よ
りも契約オンチであ る」 とい う視点か らの も のであろう。 この主張が正 しいか どうかにつ いては不 明である。確 かに 日本人は相対的 に 契約オンチであるだろうし,かつ保険約款は 聖書やアインシ ュタインの相対性理論 よ りも わか りに くい と言われている代物なので55), ある程度は的を射た意見であ る と評価す るの が妥当なのか もしれない。
それに対 して, ミクロ経済学的アプローチ では,以下の ような説 明がなされ る。すなわ ち,ア メ リカは国土が広 くかつ人 口密度 も低 いため,戸別訪問的なマーケテ イングを行 う ために要するコス トが 日本 よりも高い。それ ゆえ, コス ト面で有利性 を持つダイレク ト ・ マーケテ イングによる保険販売が相対的に盛 ん となる。それに対 して, 日本は国土 が狭 い 上 に人 口密度 も高い。 よって戸別訪問を行 っ て もさほ ど多額の コス トを要 しない。それゆ えダイレク ト ・マーケテ イングによる保険販 売は,ア メ リカに比 して消極的 となる。 つま りミクロ経 済学 的 に見 れば, ダ イ レク ト ・
マーケテ ィングの利用の程度の差異は,専 ら 両国の国土面積や人 口密度の違 いを原因 とし た販売 コス トの差異によるものであ る と解釈 され るのである56)0
第2節 :市場参加者およびその行動原理 前節では,保険市場 を理論的に説明す る方 法の1つ としての ミクロ経済学的アプ ローチ について叙述 した。なお ミクロ経済学は 「稀 少な財や資源を競合す る 目的のために選択 ・ 配分す る方法を研究する学問分野57)」とい う 性格 を有 す るこ とか ら,「何 らかの最適化 を 分析す る58)」 こ とにその力点 を置 く場合が多 い。例 えば最 も単純な消費者理論では,限 ら れた予算の中で消費者の効用 (満足度)を最大 にす るような財の組み合わせについて考察 さ れ る。
そ して この ような ミクロ経済学の特質を鑑 みた とき,次に示す2つの点 に関連する準備 が必要 となる。 1つは 「保険市場 に登場する 主体の特定化」であ り, もう 1つはその登場 す る 「主体の行動原理」 についてである。端 的 に言 えば ,保 険市場 内において 「誰 が」
「どの ような指針 を持 って」行動 しているの かについての規定であ る。
まず,「保険市場 に登場す る主体の特定化」
を行 ってい く。現実の保険市場 に登場す る主 体 としては,保険の売手である保険会社 と買 手である消費者 (保険契約者)を中心 に,売買 取引の中間者 としての保険代理店 および保険 仲立人 (ブローカー),さらには規制当局であ る政府等な どを考 えるのかおお よそ妥当であ る。ただ しこの ような現実の保険市場 を忠実 に描写することは少なか らず困難であるのみ な らず,分析の透 明性を少なか らず損ねる可 能性がある。それゆえ経済分析 においては, 保険会社 と消費者のみが登場す るような状況
を想定す る場合が多い59)0
60
この ように述べた とき, もしかする と一部 の (あ るいは大多数の)読者 は,「保険市場 を 分析す る上で,売手である保険会社 と買手で ある消費者 とを双方的に見てい くことは当然 の ことであ り,改めて述べ る必要のないこと」
と思 うか もしれない。
それに も関 らず ここで市場参加者 にかかる 言及 を行 った背景 として,「双方的所得移転 説」との関連があげ られ る。 同説 によれば, 保険会社は単なる仲介業者,あるいは 「世話 役60)」 に過 ぎず,近代保険の本質を構成す る 要素 では な い6日。 換 言 す れば ,保 険会社 は
「経済的には無色透 明の,積極的な役割を演 ずることのない中立的な存在62)」である と言 える63)0
しか しこの ような 「双方的所得移転説」に 反 して,保険会社が営利の追求に積極的であ った ことは歴史的 に見て疑 うべ くもない64)0 また この ような営利追求の姿勢は,会社形態 とは無関係であ り,保険固有の会社形態であ る相互会社 もその例外 では ない。 なぜ な ら
「歴史的にみて,保険相互会社のそ もそ もの 設立動機 が,利潤追求 とは異質の,相互扶助 の実現 とい う理想主義 に根差す ものだった と
して も,その後の史的展開は,資本主義的市 場 経 済 諸 力 の 影 響 下 に お か れ る こ とに な る65)」か らである66)。以上の こ とか ら,保険 市場 には営利追求型の保険会社が存在 し,か つそれは他の市場参加者 (他の保険会社 や消 費者)に何 らかの影響 を与 えつつ行動 してい る と考 えるのが妥当である67)0
次 に,「主体の行動原理」 について検討 し よう。先述 した ように, ミクロ経 済学 では
「最適化」の分析 にその重点が置かれる。で は保 険市場 に存在 す る各主体 は,具体 的 に
「何 を」最適化すべ く行動 しているのであろ うか。あ るいは, この こ とを数学的に述べれ ば,ある 目的関数 を設定 し,何 らかの制約条
件の下でその 目的関数 を最大化あるいは最小 化す ることに他な らないのだが,具体的にど の ような 目的関数を設定すれば良いのだろう か。以下では,消費者 および保険会社の 目的 関数 について考察 していこう。
まず消費者 についてだが, ミクロ経済学で は,効用あるいは期待効用を 目的関数 とした 上でその最大化を試みる場合が多い。 つま り 各消費者は, (期待)効用水準 を最大 にす るよ うに保険会社 を選択 した りあるいは保険商品 の種類やその保障金額 を決定 した りする。な お この ことを一般的な形 で表現すれば,以下 の ようになる。
EU‑f(xl,x2,‑,Xm;yl,y2,・.・,yn)
ただ しEUは消費者 の期待効用 を表 し,xi
(i‑1,・・.,m)は内生変数,yjb'‑1,‑,n)は 外生変数 をそれぞれ指 している。そ して消費 者は,上式で示 した期待効用 を最大 にすべ く
(xl,X:,・・・,Xm)の組 を選択する。
なお内生変数の具体例 としては,例 えば保 険会社や保険商品の種類な どが考 え られ,外 生変数の具体例 としては,例 えば消費者 自身 の事故発生確率や初期富の大 きさな どがあげ られる。ただ しい くつかの変数 については, それが内生変数であるか外生変数であるかが 状況によって異なって くる。例 えば保険料 に ついて考 えてみ よう。小 口消費者の場合,お そ らく料率交渉の余地はな く,あ らか じめ決 め られた形の契約を受諾するか拒否するか と い う選択肢 しか持ちえない。従 って小 口消費 者 に とって,保険料は外生変数である。それ に対 して,大企業な どの大 口消費者の場合だ と,その交渉力によって保険料の値引 きを迫 ることが可能である68)。そのため この場合, 保険料はあ る程度内生化 された変数 として取
り扱われるこ ととなろう。
さ らに保険市場 を対象 とした研究 において
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は,消費者の 目的関数 を検討することに加え て,消費者の 「危険 に対す る態度」 (attitude towardrisk)が とりわけ重要 とな る。 そ して 通常,消費者は 「危険回避者」(riskaverter) である と仮定 される。保険は 「リスクマネジ メン ト手段の 1つ」であ り,それゆえ少な く とも保険市場 に存在する消費者は,保険等を 利用す ることによって, 自身がさらされてい る危険を回避 しようと思 っている。 この点を 鑑みれば,消費者が危険回避者である とい う 仮定は極めて現実的である と言 えよう。
次に保険会社 について考 えてい こう。通常, ミクロ経済学 における供給者 (または売手)の 行動原理は, 自身の利潤あ るいは期待利潤の 最大化である。実際,保険 におけ る経済分析 で も,保険会社は収入保険料等か ら支払保険 金等を差 し引いた値 (またはその期待値)を最 大すべ く行動す るもの とされる場合が多い。
しか しなが ら,保険会社 が利潤最大化を 目的 に行動 している とい う前提 に対 しては,い く つかの反論 が存在す る69)・70)0
まず水島[1967,第 1章Ⅱ]は,保険の特殊 性 に着 目した上で 「保有契約高拡大原理」を 主張 している。すなわち 「技術的基礎 を大数 法則 に求める保険の場合,大量性原則は大 き な意義 を持 つ71)」とい う保 険 の特殊 性 か ら
「保険企業 に とっての当面の主要課題は,い かに して ヨリ多 くの需要 を確保す るか72)」 に ある。 また,保有契約高の拡大は規模の利益 の さらなる享受 につながる。 さ らに,多 くの 契約を保有することで,さ らなる消費者の選 好誘引力を得 ることもで きる。以上の ことか ら,保険会社は 「当面,保有高の拡大 を 目指 した市場行動 を展開す ることになる73)」。
ただ しここで注意 しなければな らないこと は,保有契約高拡大原理は利潤最大化原理 と 対立する概念ではな く,む しろそれを包含 し た ものである とい うことである74)。なぜな ら,
保有契約高拡大の最終 目的は利潤の最大化で あ り,言 ってみれば保有契約高拡大原理は, 利潤原理 をベース とした行動原理 として解釈
され るものだか らである。
次にあげ られ る反論は,保険会社の危険 に 対する態度 か らの ものである。保険の経済分 析において,保険会社は (期待)利潤を最大に すべ く行動す るもの とされる場合がほ とん ど である。この ことは保険会社が 「危険中立者」
(riskneutral)であ る と仮定 した こ とに他 な らない。 しか しなが ら,保険会社が危険 に対 して中立的 ・無差別的である という仮定は, 議論する内容によっては無視で きない問題 を 引 き起 こす。
例 えば,保険会社は支払保険金の大 きさに かかる不確実性 にさらされてお り,従 って支 払保険金 に関連 した議論 を行 う際 には,その 不確実性の存在が少な くない意義を有する可 能性がある75)。ゆえにこの場合には,保険会 社を 「消費者 に比 して危険中立的」あるいは
「危険回避的だが消費者ほ どではない」 とと らえる方が妥当であろう。具体的には,不確 実性の存在 を考慮すべ く,保険会社の行動原 理 を 「(期待)効用の最大化」に変更す るか, あ るいは例 えば 「「「支払不能」(insolvency)
となる確率を一定値以下に抑 える」 とい う制 約条件 を設定 した上 での (期待)利潤 の最大 化」 とい う形 に修正す る必要 があろう76)0
しか し,上記の言及 によって (期待)利潤最 大化 とい う行動原理 が直ちに否定 される とい う訳ではな く,む しろ以下 に述べ る理 由か ら, 保険会社の行動原理 を(期待)利潤最大化 とし て も,多 くの場合において問題はない もの と 考 え られ る。 それは, (期待 )利 潤最大化 が (期待)効用最大化の特殊 ケース として位置づ け可能な ことにある。つま り,保険会社がさ らされている不確実性 について議論す る場合 を除けば ‑すなわち保険会社 にかかる不確実
杷
性の存在 を無視す ることが可能である場合に は ‑(期待)利潤最大化 と(期待)効用最大化 と の間に違 いは存在 しない。以上の ことか ら, 保険会社の行動原理 として (期待)利潤最大化 を採用す ることは概 ね妥当である と結論づけ ることがで きる。
第4章 :結
本稿では,1996年の保険業法改正以後 に登 場 した競争的保険市場 を分析す る手法の1つ としての ミクロ経済学的アプローチに関す る 考察 を行 った。現実の保険市場は,利害の異 な る複数主体の コンフ リク ト構造 として描 く ことが可能である。そ してその コンフ リク ト 構造 は,保険会社対消費者 とい う単純な構図
に とどま らず,保険会社問や消費者間,さら に細分化 された レベルで言 えば,コス ト構造 の異なる保険会社間や事故発生確率の異な る 消費者間におけるコンフ リク ト構造 な どとし て表現で きる。そ して, この ような コンフ リ ク ト構造 を分析す る上での有力な分析方法の
1つ として, ミクロ経済学 を提示す ることが で きる。特 にミクロ経済学の一領域 としての
「ゲーム理論」あ るいは 「応用 ミクロ経済学」 は, この ような主体間の コンフ リク ト構造 を 分析す ることに焦点が当て られてお り,実際,
「ゲーム理論」や 「応用 ミクロ経済学」 にお ける研究成果が保険研究 に与 える影響は,今 後 ますます大 き くなるもの と思われ る。
しか しなが ら本論で も述べた ように,保険 論等の研究は,他の様 々な研究領域 と密接 に 関連 している。それゆえ, ミクロ経済学的ア プローチが有益な分析方法であ ることを認識 す る と同時 に, よ り詳細な説 明を行 うために は,隣接諸科学 における研究成果の援用が不 可欠 であ る とい うこ とを忘 れ るべ きではな い。
注
1)以下 に関連 して,水島[1967,序p.2]お よび高尾 [1991b,pp.144‑145]を参照。
2)高尾[199la,p.3]。
3)なお以下では,「伝統的」とい う用語 を田村[1979, p.53]で言 われてい るそれ と同 じ意味 ‑すなわち, 必 らず Lも明確 にその範囲を限定す ることはで きな いが,消去法的 にいえば,マル クス経済学や近代経 済学の方法 に明確 に依拠す るものを除いた部分 ‑で 用いてい くことにす る。
4) この意味 において,「保険の機能 を 「公共性」 と 呼ぶのは,経済学の観点か らすれば,あま りに も強 引な議論 である。 もし, これを 「公共性」 とい うな ら,すべての産業が 「公共性」を もつ ことにな る」
(井 口[1996,p.167])とい う言及は注 目に値 しよう。 また保険の特殊性 を誇大 に とりあげ るこ とが,「必 ず しも公益 に合致 しな い独 占的価 格形 成」 (水 島 [1967,p.122])を生 み出 してい る点 について も無 視で きない。
5)ゆえに,完全 に 自由競争的な保険市場が必ず しも 社会全体 に とって望 ま しい成果 を もた らす とは限 ら ず,その意味において 「レッセ ・フ ェールはユー ト ピアを もた らしえない」 (高尾[1991a,p.147])可能 性は少な くない。実際, 自由競争的な保険市場であ る と言 われてい るイギ リスや オ ラン ダにおいて も
「実態的監督主義 に もとづいた保険業の健全性確保 のための規制 が必要 だ と考 え られている」 (近見他 [1998,p.145])0
6)それゆえ 「あま りに も厳 し く設定 された基準は, 市場参入を制限 し,競争 を妨げ, このため消費者価 格や選択 を制限す る。あま りに も緩やかに設定 され た基準は,財務的に健全でない保険者 または道義的 に適切でない人物が保険の複雑な特性 を利用 して素 朴な消費者 を験す ことを許す こととなる」 (Skipper [1998,p.253])と言 える。 なお同引用文 中におけ る基準 は規制 と同義 であ る。 また高尾[1987,pp.
132‑133]において も頬似の言及が見 られる。
7)例 えば,田中[1999,pp.17‑19]を参照。
8)具体的な規制の概要 については,井 口[1996,p.
134第7‑3表]が詳 しい。 また この ような保険業 にお け る規制の問題 を取 り扱 う専門誌 としてJournalof Insurm ceRegulationがある.
9)なお損害保険 と異な り,生命保険では この ような 料率算定会は存在 しない。 しか し歴 史的 には,生命 保険について も 「各社ご とに経営効率 を反映 させた