自然資源への権利確立を目指して : 「協議」から「自 決」へ
著者 青西 靖夫
雑誌名 PRIME = プライム
号 27
ページ 81‑92
発行年 2008‑03
URL http://hdl.handle.net/10723/681
1. はじめに
先住民族にとって、 自然資源、 そしてその自然 資源が存在する領域への権利の確立は重要な課題 となっている。 グローバリゼーションの進展、 石 油や鉱物価格、 穀物価格の世界的な上昇という流 れの中で、 先住民族の土地、 テリトリーそして自 然資源への圧力は日々強まっている。
2007年 3 月にグアテマラで開催された 「アビヤ・
ヤラ先住民族大陸会議」 においても、 アメリカ大 陸の先住民族諸団体は 「われわれの領域からの排 除と略奪は続き、 先住民族のすべてのスペースと 生きるための手段は奪われて続けているのであ る。」、 「われわれが、 領域と母なる自然からの共 有の富に対して、 先祖伝来の歴史的な権利を有す ること……」 を表明し、 そして 「先住民族の領域 における、 収奪的産業のための鉱物、 石油、 森林、
ガス、 水などの利用権認可を中止することを国際 的な融資機関や政府に対して要求していくことに 合意し、」、 「 よい生活 のために、 先住民族とし ての決定的な解放のための闘争を、 母なる自然、
領域、 水、 そして生きていくためのすべての自然 の財産を守る闘争を続けていく」 ことを宣言して いる。(1)
この報告では、 中米グアテマラにおける自然資 源への権利を守るための先住民族運動の動きを中 心に検討したうえで、 先住民族の権利宣言の可能 性を探る。
2. グアテマラにおける鉱山開発と 「協議」(2) 2.1 鉱山開発と 「協議」
中米、 グアテマラにおいて現在最も大きな社会 問題となっているのは鉱山開発である。 植民地期 より大規模な鉱山開発が進められた中南米のいく つかの国とは異なり、 グアテマラにおける鉱山開 発は歴史的には限定されたものであった。 しかし 1990年代より積極的に開発が進められ、 2005年に おいてグアテマラ国内で、 115の鉱物資源に対す る探査もしくは開発免許が認可されており、 認可 されているもの以外に87の申請がなされている。
(Solano 2005:113)
グアテマラにおいては、 重要な鉱床が存在する と思われる地域は、 先住民族であるマヤ民族の居 住地域と重複しており、 特にマヤ系のケクチ民族 の居住地域である東部のイサバル県におけるニッ ケル鉱山の再開発問題と、 同じくマヤ系のマム民 族の居住するグアテマラ西部のサン・マルコス県 高地におけるマルリン金鉱山開発は、 大きな社会 問題となっている。
イサバル県における鉱山開発は1960年代から開 始されたが、 1981年以降操業が中止されていたも のが、 再開に向けて動いているものである。 一方 のサン・マルコス県における鉱山開発は1990年代 後半に探査が進められ、 2003年から採掘が開始さ れたものである。
このどちらの事例も 「協議」 が反対運動の中で の重要なテーマとなっている。 イサバル県では、
自然資源への権利確立を目指して―「協議」 から 「自決」 へ
青 西 靖 夫
(開発と権利のための行動センター)
「先住民族に対する協議」 が行われていないこと・・・・
を、 労働組合を通じて
ILO
(国際労働機関) に申 し立てるという取り組みが行われ、 既にこの申し 立てに対するILO
の勧告が出されている。マルリン鉱山に対する反対運動は、
ILO
の第 169号条約に定める 「先住民族に対する協議」 が・・・・行われていないことを根拠として、 「先住民族コ ミュニティによる協議」 を進める端緒となったも・・・
のである。(3)
2.2 イサバル県における鉱山開発と ILO 第169号 条約
グアテマラ東部のイサバル県においては、 「先 住民族に対する協議」 の未実施を、・・・・
ILO
第169号 条約の不履行であるとしてグアテマラ政府をILO
に提訴するという動きが進められた。イサバル県のエストールでのニッケル鉱山開発 は1960年代から進められた。 カナダ資本であるイ ンコ社の子会社としてエクスミバル社が設置され、
1965年に、 このエクスミバル社に対して40年間に わたる採掘権免許が与えられたのである。(4) しか し71年から操業を始めたものの、 ニッケル価格低 迷によって操業は停止され、 事業は近年まで放棄
されたままであった。 その後、 90年代に入り、 こ の地域での鉱物資源探査や採掘へ向けての動きが 再開され、 地域の先住民族コミュニティと紛争を 引き起こすようになる。 (青西 2004,2005)
鉱山開発免許に関するケクチ・コミュニティの 声明は次のように述べている。(5)
1) われわれのコミュニティが存在する地域に おけるニッケルの探査や採掘を、 多国籍企業で あるインコ/エクスミバル社やその他の鉱山プ ロジェクトに対して認めている、 グアテマラ政 府が行った鉱山開発許可を断固として拒否する ものである。 これらは政府によって一方的に行 われたものであり、 われわれコミュニティには この件に関して、 一度たりとも情報が提供され ることも、 協議されることもなかった。 またこ のようなプロジェクトは、 われわれの生活、 文 化そして母なる自然を脅かすものであり、 承認 できるものではない。
2) われわれ、 ケクチ民族は、 自然、 人そして 全体との均衡と尊重に基づく独自の哲学と原則 を有しており、 大地を傷つけ、 水と空気を汚染 し、 山を破壊し、 野生生物を殺戮することは、
図1 イサバル県における鉱山開発免許 (MEM2006より作成)
ジェノサイドそして民族虐殺の政策と戦略の継 続だと考える。 なぜなら母なる自然の全ての要 素は、 われわれの生活の一部である。
3) エクスミバル社が操業していた時期に、
水や空気を汚染し、 また先住民族コミュニティ の強制退去、 誘拐や虐殺など、 われわれを抑圧 してきたことを告発する。
4) この鉱山開発の再開は、 この地域に居住 する先住民族の集団的権利への侵害であり、 和 平協定の根本的な方針に反し、 グアテマラ国が 署名し、 批准している
ILO
第169号条約が定め る義務の不履行であり、 またその他の国内ある いは国際的な規範に違反するものである。政府の人権状況監視機関であるイサバル県の人 権擁護官事務所でも、 この地域のニッケル探査及 び採掘対象地域にある先住民族コミュニティに対 して、 法に定めたれた協議が実行されていないこ とを認め、
ILO
第169号条約及び都市農村開発審 議会法に定める手続きを遵守していないことから、鉱物・エネルギー省に対してエストールにおける ニッケル鉱山探査及び採掘免許の認可を停止する ことを求めている。 (PDH 2003)
しかしながら、 こうした声は聞き届けられるこ とがないまま、 この地域における鉱山開発の動き は進められ2004年12月、 エクスミバル社の40年に 渡る鉱山開発免許が失効する直前、 新しい 3 年間 の探査免許が認可されたのである。 またその直後、
エクスミバル社は同じカナダ系資本のスカイリソー ス社に買収されることとなった。
ILO への提訴(6)
こうした事態にたいして、 2005年 3 月、 グアテ マラの都市・農村労働者連盟 (FTCC) はグアテ マラ政府が
ILO
第169号条約を履行していないと して、ILO
に対して申し立てを行った。FTCC
は、2004年12月に鉱山エネルギー省が行った、 イサバ
ル県のエストールのマヤ・ケクチ先住民族の領域 におけるエクスミバル社 (現
CGN:グアテマラ
ニッケル社) に対するニッケル他の鉱物資源に関 する探査免許の認可が、 関係する先住民族の事前 の協議を経たものではなかったこと、 またこの認 可地域に19の先住民族コミュニティが存在してい るにも関わらず、 これらのコミュニティの社会的・文化的アイデンティティー、 慣習、 伝統、 制度に 対する配慮も、 また権利を擁護するための活動も 行われないまま、 探査免許が与えられたこと、 更 にこの探査免許の与えられた地域は、 先住民族コ ミュニティが土地登記の手続きを進めているとこ ろであり、 この探査免許の認可がこの手続きに影 響を及ぼしていることなどを訴えた。
この申し立ては
ILO
に受理され、 調査が行わ れたが、 政府側はこれまでこの条約履行に向けて 重要な対応をしてきたこと、 探査免許を認可した 土地は、 「私有地もしくは国有地であり、 19コミュ ニティの土地は含まれていない。 これらのコミュ ニティは私有地もしくは国有地あるいは国有とさ れうる荒蕪地 (未登記地) に存在しており、 また コミュニティによっては耕作地を有するのみであ る」 と見なしている。 そこで、 「この申し立てに 関係するコミュニティは土地所有者ではない以上、条約の15条は適用されない」 と述べている。 政府 はコミュニティが、 「不法に土地を占有している」
と見なし、 協議の対象ですらないという態度を取っ ていたのである。
審査委員会の勧告
最終的に2007年 7 月に審査委員会の報告が承認 され、 報告書が公表されているが、 大きく二つの 点が重要である。
一つは事前の協議の欠如を認め、 条約の第15条 の完全なる履行、 そのために協議に関わる法律及 び細則の制定を求めている点。 もう一つは、 先住 民族の土地 (領域) への権利を再確認したことに
ある。 報告書は第45段で 「……先住民族コミュニ ティが伝統的に占有してきた土地を、 土地証書を 持たないことで違法と見なす政府の見解は、 条約 の考えとは一致しない。 条約の14条は先住民族が 伝統的に占有してきた土地に対する権利を承認し ている」 と述べている。
ILO
第169号条約の15条 2 項では、 「協議」 の目 的は、 「国家が鉱物若しくは地下資源の所有権又 は土地に属する他の資源に対する権利を保有する 場合には」、 「当該地域の関係人民の利益が害され るか及びどの程度まで害されるかを確認するため」と限定されており、 先住民族コミュニティによる 自己決定の権利は十分に承認されていない。 しか しこの勧告にある先住民族の土地 (領域) への権 利の確認は、 領域における先住民族コミュニティ による自決、 自己決定の確立に向ける基盤となり うりであろう。(7)
2.3 サン・マルコス県におけるマルリン鉱山と
「先住民族コミュニティによる協議」・・・
2006年 8 月の時点で、 サン・マルコス県では鉱 物資源に関して、 2 つの事前調査免許、 18の探査 免許、 そして 1 つの採掘免許が認可されている。
これらはすべて1999年から2005年にかけて発行さ れたものである。(8) (MEM 2006)
これまでのところ唯一の採掘免許であるマルリ ン鉱山 (正式には
Marlin
1) はカナダ資本のゴー ルド・コープ社 (Gold Corp Inc.) の現地法人で あるモンタナ・エクスプロラドーラ社 (MontanaExploradora) によって開発が行われている。
この鉱山はシパカパとサン・ミゲル・イシュタ ワカンの2つの自治体 (ムニシピオ:Municipio) にまたがって存在しているが、 「先住民族に対す・・・
る協議」 が実施されないままに、 2003年11月29日
・
に、 このマルリン鉱山の採掘免許が許可されたこ とが、 地域の先住民族コミュニティや先住民族組
図2 サン・マルコス県における鉱山開発免許 (MEM2006より作成)
織の強い反発を引き起こした。
「サン・マルコス県における露天掘りによる鉱 山採掘免許に関するコミュニティの声明」 は次の ように述べている。(9)
「われわれはグアテマラ政府によってモンタナ・
エクスプロラドーラ社に対して2003年11月27日 に与えられた鉱山採掘免許を全面的に拒否する ものである。 ……われわれのコミュニティには 情報も与えられず、 協議もされず、 またわれわ れの自然環境、 生活様式、 そして文化を破壊す る鉱山プロジェクトに承認を与えたことはない」
「われわれのテリトリーにおいて、 露天掘りに よる鉱山採掘免許が与えられたことは、 先住民 族の集団的権利を蹂躙するものであり……、 和 平協定の方針に背くものであり、 また
ILO
第 169号条約を批准したグアテマラ国の責任に対 する不履行である」こうした中でこの鉱山開発免許の認可に対して コミタンシージョ、 シパカパで相次いで 「先住民 族コミュニティによる協議」 が開催されることと・・・
なる。
コミタンシージョの事例
コミタンシージョは、 マルリン鉱山と隣接する 地域であるが、 この地域では同じモンタナ社への 探査免許及び系列の鉱山会社に対する事前調査免 許が認可されたことを発端として、 「協議」 が行 われることとなった。 ここでの事例については十 分な情報を有していないが、 協議実施後の2005年 8月の声明文は次のように述べている。
「住民への事前の協議なしに与えられたこの免 許は、 ムニシピオの自治を明らかに踏みにじる ものであり、 そこで国内法・国際法に基づきコ ミュニティへの協議を実施するものである」
「この協議は本年 4 月14日から5月20日にわたっ て行ったものであり、 コミュニティ及び地域権 威の法的かつ正統な支持のもと、 地方自治体の 自治権の擁護のため、 開かれた手法で、 合意に 基づき、 人々の生命と環境を危険にさらすコミ タンシージョにおける鉱物資源の探査及び採掘 を断固として拒否するものである」(10)
コミタンシージョでは一ヶ月ほどの期間をかけ て各コミュニティで住民集会を開催する形でこの
「協議」 が行われ、 その結果53のコミュニティの うち、 51が鉱山開発を拒否する判断を打ち出して いる。 またこの協議結果をまとめた地方自治体の 議事録を5月25日に、 エネルギー鉱山省などに手 渡している。 (Inforpress Edición 1612)
シパカパの事例
同じサン・マルコス県のシパカパにおける 「協 議」 は、 鉱山会社側が、 地方自治体当局による
「協議」 の実施は違法である、 と告訴するという 状況の中で実施された。 地方自治体当局は直前に なって実施を断念したものの、 最終的にそれを引 き継ぐ形でコミュニティ開発審議会(11) が2005年 6月18日に実施したものである。 この 「協議」 に はシパカパの13の村が参加し、 うち11が反対の意 思を表明、 1 つが賛成、 残りの 1 村が棄権した。
(Inforpress Edición 1613)
しかしモンタナ社の弁護士が憲法裁判所に対し て、 この協議の目的、 手続き等を定めた自治体文 書が違憲であると違憲審査を要求する事態となる。
2006年 4 月に、 一度は 「協議」 を認める方向で裁 定が準備されていたが、 正式な署名が行われる前 に、 メディアに流れ、 そのままこの裁定は消され ることとなった。 (Prensa Libre紙 2006/04/05)
その後、 2007年 5 月 8 日に正式な裁定が出され たが、 「協議」 の結果を地方自治体の権限外にあ る鉱物資源の開発と結びつけることはできないと
して違憲とされた。 しかしながら憲法裁判所は、
住民の意思表明のあり方としての 「協議」 の重要 性は認め、 「協議」 の結果が反映されるべくテーマ を限定して行う必要及び協議手続きを定める必要 性を指摘している。 (Corte de Constitucionalidad 2006)
2.4 グアテマラ各地での 「先住民族コミュニティ による協議」 の実施
・・・
2005年にサン・マルコス県で行われた 「協議」
以来、 鉱山開発に対する意志を表明するための
「先住民族コミュニティによる協議」 の動きが広・・・
がり、 2007年11月末の時点で把握する限りでも既 に全国16カ所で 「協議」 が行われている(12)
2006年から2007年にかけてはウエウエテナンゴ 県で探査免許の認可の是非を問う 「先住民族コミュ
ニティによる協議」 が行われた。 6 月25日から27・・・
日にかけて5つの自治体で実施された 「協議」 に は28,519人が参加し、 一カ所のみ50人の反対を受 けたが、 全ての自治体で圧倒的な反対の意思を表 明し、 次のように述べている。(13)
「この結果は、 協議を行った正統な人々の意志 を確認するものであり、 土地、 森、 水は、 われ われのコミュニティの存続と開発のための中心 的な柱であり続けることをあらためて示してい る」
またサン・マルコス県のコンセプシオン・トゥ トゥアパにおける 「協議」 に関する声明文は次の ように述べている。(14)
「マヤ民族としての自決というわれわれの権利
表1 鉱山開発に関する 「協議」 の実施地域
実施時期 地域名 県名
1 2005/04/14-5/25 コミタンシージョ サン・マルコス
2 2005/6/18 シパカパ サン・マルコス
3 2006/6/25-27 サン・フアン・アティタン ウエウエテナンゴ 4 2006/6/25-27 コロテナンゴ ウエウエテナンゴ 5 2006/6/25-27 トドス・サントス・クチュマタン ウエウエテナンゴ 6 2006/6/25-27 コンセプシオン・ウィスタ ウエウエテナンゴ 7 2006/6/25-27 サンティアゴ・チマルテナンゴ ウエウエテナンゴ 8 2006/8/29 サンタ・エウラリア ウエウエテナンゴ 9 2007/2/13 コンセプシオン・トゥトゥアパ サン・マルコス 10 2007/3/30 サン・ペドロ・ネクタ ウエウエテナンゴ 11 2007/5/1 サン・フアン・サカテペケス グアテマラ 12 2007/5/15 サン・アントニオ・ウィスタ ウエウエテナンゴ 13 2007/6/13 サン・ミゲル・イスチグアン サン・マルコス 14 2007/6/23 サンタ・クルス・バリージャ ウエウエテナンゴ
15 2007/8/11 ネントン ウエウエテナンゴ
16 2007/10/26 サン・セバスティアン ウエウエテナンゴ 付記:水力発電計画に関する協議
2005/7/5 リオ・オンド サカパ
2006/11/27 タフムルコ サン・マルコス
2007/4/20 イシュカン キチェ
の正統性を裏付けるため、 地方自治体法に基づ き、 コミュニティによる協議への参加を自治体 の住民全てに呼びかけるものである。 これはこ の地方自治体における鉱山開発について皆で決 定するためのものである」
ウエウエテナンゴ県のサンタ・エウラリアでは
「協議」 の実施に先立って、 次のような声明が出 されている。
「協議はエウラリアのマヤ・コミュニティの独 自の歴史的慣習に基づいて実施される……そこ でこの自治体における鉱山開発について住民が 受け入れるか拒否するかを決めるものである。
この土地における自然の豊かさを略奪しようと する政府と多国籍企業の意図に対して、 コミュ ニティが必要な決定を取るためにこのシステム を利用するものである」(15)
以上のように、 こうした 「協議」 は、 中央政府 あるいは地方自治体が、 鉱山開発を受け入れるか どうかを先住民族に対して 「協議」 しているもの・・・・
ではなく、 地方自治体も含め地域の先住民族コミュ ニティが独自の意思決定及び意思表明のメカニズ ムとして実施しているものであると考えられる。
2.5 「協議」 の法的側面(16)
ここまで取り上げてきた 「協議」 は現地では
Consulta Comunitaria
(コミュニティ協議), ConsultaMunicipal
(自治体協議), Consulta de Buena Fe (誠実なる協議), Consulta Popular (人民協議) な ど様々な呼称を用いられている。グアテマラ国内法においては、
ILO
第169号条 約の 6 条もしくは15条第 2 項に規定されているよ うな形で、 「先住民族に対する」 協議の実施の必・・・・要性を定めている法律はない。 つまり 「協議」 の 実施を要求する根拠、 「協議」 を行っていないこ
との違法性の根拠は、 現時点では
ILO
第169号条 約にのみ支えられている。次に、 地方自治体法 (法令12 2002) 第65条は
「ある事項の性格が、 特に地方自治体の先住民族 コミュニティあるいはその独自の権威の権利と利 益に影響する場合」 の協議の実施を定めており、
地方自治体は 「協議」 を実施する権限を有し、 ま たその結果は拘束力を有するものと規定されてい る。 つまり地方自治体法においては、 先住民族コ ミュニティに対する協議の実施が定められており、
地方自治体が 「協議」 を実施することについては 法的な基盤が存在している。
つまり、 「協議」 を行っていないことの責任の 不履行は
ILO
第169号に依拠し、 実際に行ってい る 「協議」 は、 法的には地方自治体法に基づく、地方自治の発露としての、 「協議」 とみなすこと ができる。 2.2で述べた違憲審査請求に関わる裁 決で、 違法とされたのは、 この拘束力を、 地方自 治体の権限外の事項に当てはめたことにあるとさ れている。 (Corte de Constitucionalidad, Sentencia
P25 16)
(17)ILO
第169号条約に定められているところの「先住民族に対する協議」 に関する規定は存在せ・・・・
ず、 開発審議会法 (法令11 2002) において、 当 面の手続きとして 「先住民族に対する協議」 は、・・・・
開発審議会における先住民族の代表を通じて行わ れることが定められているのみである。
グアテマラ政府は、 地下資源は憲法上国家の所 有とされていること、 地方自治体やコミュニティ は国の事業について判断する権限はないと考えか ら、 「協議」 の実施自体は違法ではないものの、
拘束力は持ち得ないと見なし、 これらの協議の結 果を省みていない。
2.6 「先住民族コミュニティによる協議」 の広が・・・
りとその可能性
ここまで、 鉱山開発を巡る 「協議」 の展開を見
てきた。 イサバル県では 「先住民族に対する協議」・・・・
が実施されていないことが、 グアテマラ国が批准 している
ILO
第169号条約に違反するとの勧告が 出され、 法制度の整備が要請されている。またサン・マルコス県では 「先住民族コミュニ ティによる協議」 の展開が見られた。 鉱山開発あ・・・
るいはその免許の認可に関連して、 中央政府が先 住民族あるいは先住民族コミュニティに対して・・・・
「協議」 を実施していないことを根拠にしつつ、
先住民族コミュニティが、 独自の自決権、 自己決 定権の発露として、 地域の先住民族組織、
NGO、
自治体などの連携のもと、 「先住民族コミュニティ による協議」 を展開してきたものである。
・・・
「先住民族コミュニティによる協議」 は、 人権擁・・・
護事務所のマルティン・サカルショが言うように、
コミュニティのレベルでは、 学校や道路建設など に際して行われてきたものである。(18) コミュニティ 内部での 「話し合い」 である。 コミュニティのレベ ルで集会 (村民集会) を開催し、 意見交換を行ない、
また挙手にて採決をとり、 それを議事録に残す、
という形で多くの集まり、 「協議」 が行われてきた。
こうした先住民族コミュニティの自己決定の制 度を、 国の主導で行われてきた開発事業に対して 意思表明を行うメカニズムとして活用し、 新しい 政治参加の手法を構築してきたのは非常に重要な 取り組みと言えるであろう。
また外部に向けての正統性/透明性を高めるた めに、 住民投票に近い形式を取っている 「協議」
も存在する。 水力発電に関するイシュカンの事例 など、 現行の投票制度にあわせる形で有権者・選 挙人登録者等の区分をして、 それぞれに投票数を カウントしている協議を行っているケースもある。
マムの先住民族組織に参加するハビエル・デ・
レオンは 「コミュニティのレベルにおいてどのよ うな形で意思表明をおこなうか、 議決を採択する のかはコミュニティの伝統に任されているもので ある。 これは第169号条約と憲法69条に基づくも
のである……村の集会の中でどのように採択され るか、 これは投票なのか、 手を挙げるのか、 参加 者全員の合意となるのか、 これもまたコミュニティ によって異なる手法がとられるものと考えられる」
と述べている。(19)
このようにみてくると、 「協議」 に関わる法制 度の整備が遅れていることが、 「協議」 を既存の 制度の枠に閉じこめることなく、 先住民族の独自 の 「協議」 の発展の可能性を開いてきたと言える であろう。 しかし今後、 「協議」 に関する法制化 が進めば、 「協議」 は 「住民 (先住民族) に対す・・・
る協議」 として中央政府が実施するものとなり、
・
国家に取り込まれ、 主体的な決定のスペースを狭 められる可能性もある。 しかしこのような 「住民 に対する協議」 の枠組みに囚われることなく、 自
・・・・
治権の発露としての 「先住民族コミュニティによ・・
る協議」 のあり方が並行して発展していく可能性
・
もまた秘められている。
3. 終わりに―先住民族の権利宣言とその可能性 ここまで、 グアテマラにおける事例から、 鉱山 開発に対する反対運動の中で、 「先住民族コミュ ニティによる協議」 という新しい自己決定、 自決・・・
の方向性が展開してきたことを検討してきた。 こ れは 「協議」 を超える、 先住民族コミュニティと しての自己決定の方向性を提起しているといえる。
またこうした動きに加えて、 2.2で取り上げた
ILO
の勧告にあるように、 先住民族の土地 (領域) への権利の確認は、 領域における先住民族コミュ ニティによる自決、 自己決定の確立に向ける基盤 となりうるであろう。そしてこうした権利は、 「先住民族の権利に関 する国連宣言」 の中でより広範に展開されている。
第 3 条に記されている自決の権利、 第 4 条の自治 の権利に加え、 第26条に定められている 「伝統的 に所有、 占有、 あるいはその他の方法で利用若し くは獲得してきた土地、 領域、 資源に対する権利」、
第23条に定められている開発に関する 「優先事項 と戦略を決定し、 策定する権利」、 第20条に定め られている 「伝統的若しくはその他の形の経済活 動に自由に従事するための、 政治的、 経済的、 文 化的なシステム又は制度を維持、 発展させる権利」、
そして第29条では 「環境と、 土地あるいは領域及 び資源の生産能力の保護と保全の権利」 が定めら れている。
今後、 これらの宣言の内容がグアテマラ国内法 にも取り込まれ、 先住民族の権利が尊重される社 会に向かうことが望まれる。 そのためにも、 国内 的な運動の継続と、 国際的な支援と連帯が今後も 不可欠である。
註
(1)
III Cumbre Continental de Pueblos y Nacionalidades Indígenas del Abya Yala、
Declaración de Iximche’(2007/03/30)、 「アメ
リカ大陸の先住民族会議―東京報告会2007」資料集より。
(2) ここでいう 「協議」 は現地では
Consulta Comunitaria
(コミュニティ協議), ConsultaMunicipal
(自治体協議), Consulta de BuenaFe
(誠実なる協議), Consulta Popular (人 民協議) など様々な呼称を用いられている。(3)
ILO
第169号条約では 「協議」 について次 のように定めている。(ILOの日本語版
WEB
サイトによる訳文に よるhttp://www.ilo.org/public/japanese/region/
asro/tokyo/standards/c169.htm)
第 6 条1 この条約の適用に当たり、 政府は、
(a) 関係人民に直接影響するおそれのあ る法的又は行政的措置が検討されている 場合には、 常に、 適切な手続、 特に、 そ の代表的団体を通じて、 これらの人民と 協議する。
中略
2 この条約の適用に当たって行われる協 議は、 誠実にかつ状況に適する形式で、
提案された措置についての合意又は同意 を達成する目的のために行われる。
第15条
2 国家が鉱物若しくは地下資源の所有権 又は土地に属する他の資源に対する権利 を保有する場合には、 政府は、 当該資源 の探査若しくは開発のための計画を実施 し又は許可を与える前に、 当該地域の関 係人民の利益が害されるか及びどの程度 まで害されるかを確認するため、 これら の人民と協議する手続を確立し、 又は維 持する。 関係人民は、 可能な限り、 この ような活動の利益を享受し、 かつ、 当該 活動の結果被るおそれのある損害に対し ては、 公正な補償を受ける。
(4) 図 1 の西側に広がる地域がエストール周辺 の探査免許である。
(5)
Defensoría Q’eqchi’,
2003, Declaración delas Comunidades Q’eqchi’ sobre las Concesiones Mineras, El Estor, Guatemala
(2003/10/06) より。(6) こ の 部 分 は
ILO
の 報 告 書 に 依 拠 す る 。 (ILO 2007)(7) この勧告が理事会で承認されて以降、 グア テマラ国内においてはこの勧告に関する報 道すらなされておらず、 政府側がなにがし かの改善策をとったという形跡はない。
2007年 9 月に発表された2008 2015の鉱山 政策の中では免許の認可前に 「協議」 を行 うことを書き込んでいるが、 これは169号 条約を批准した時点から政府の義務である ことに変わりはなく、 そこから一歩も進ん でいないというのが実態である。 (MEM 2007)
(8) 図 2 の右上、 濃い点がマルリン鉱山、 その 回りにも探査免許が広がっている。
(9)
Declaración Comunitaria sobre la Licencia de Minería de Metales a Cielo Abierto en el Departamento de San Marcos
(2004/11/06) より。(10) コミタンシージョ地方自治体当局他による 2005年08月03日付けプレス・リリースから 抜粋
(11) 地方の開発計画及びその実施への参加を進 めるために作られた開発審議会法 (法令第 11 2002) で規定されており、 この中で国 から地域、 県、 自治体、 コミュニティと5 段階に開発審議会を設置することを定めて いる。
(12) このほかに水力発電に関する協議が 3 カ所 で行われている。 またトトニカパン県でも 協議が2回行われているという報道がある が (Inforpress Edición 1696)、 詳細が把握 できないので算入していない
(13) 協議の開催を支援していた
CEIBA
より 2006年 7 月28日に送付された“NO ROTUNDO A LA MINERIA EN HUEHUETENANGO”
による。(14) コンセプシオン・トウトゥアパの自治体の 環境委員会名の声明文から (2007/02/13) (15)
Consulta comunitaria de “buena fe” en Santa
Eulalia, Huehuetenango,
諸団体による声明 文 (2007/08/23)(16) グアテマラ国憲法においては第173条にお いて 「協議手続」、 また憲法改正を扱う第 280条において 「議会による改正及び人民 協議 (Consulta Popular)」 が定められてい る。 これは国民投票に相当する。
第173条 協議手続
特別な重大性を有する政治的決定は、
全ての市民による協議手続に委ねなけれ
ばならない。
地方自治体法 (Codigo Municipal法令 第12 2002) においては、 第63条 「地域 住民との協議 (Consulta a los vecinos)」
及び第65条 「地方自治体の先住民族コ ミュニティあるいはその権威との協議 (Consultas a las comunidades o autoridades
indiíenas del municipio)」 の二つの 「協議」
が定められている。 前者は基本的には投 票用紙を用いた住民投票が想定されてお り、 後者に関しては独自の形式を用いる ことを想定している。
第63条 「地域住民との協議」
ある事項の重要性を鑑みて、 地域住民 との協議を行った方が望ましい場合、 地 方自治体参事会はその構成員の 3 分の2 の賛成を持って、 次の条で示す形式を考 慮して、 こうした協議を行うことに合意 するものである。
第65条 地方自治体の先住民族コミュニ ティあるいはその権威との協議 ある事項の性格が、 特に地方自治体の 先住民族コミュニティあるいはその独自 の権威の権利と利益に影響する場合、 地 方自治体参事会は、 先住民族コミュニ ティあるいはその権威の要請に基づいて、
先住民族コミュニティの慣習と伝統によ る独自の基準の適用も含め、 協議を実施 するものである。
第66条 これらの協議の形式
本法の64条及び65条で言及する協議の 実施形式は、 その他の形式に加え、 以下 の方法で実施することができる。
1.当該事項のために、 特別にまた技術的 に作成された投票用紙による協議。 招 集状には、 取り上げる事項、 協議を実 施する日時と場所を明記する。
2.当該コミュニティの独自の法的制度の 判断基準の適用。
少なくとも選挙人登録をした50%以上 の地域住民がこの協議に参加し、 協議 事項について50%以上が賛成した場合 には、 その結果は拘束力を持つ。
開発審議会法 (法令 第11 2002) では、
当面の手続として 「先住民族に対する協議」・・・・
は、 開発審議会における先住民族の代表を 通じて行われることが想定されている。
第23条 先住民族への協議 (Consultas a
los pueblos indígenas)
先住民族への協議を規定する法が施行 されるまでは、 行政機関が推進し、 また 直接的に先住民族に影響する開発措置に ついての、 マヤ・シンカ及びガリフナ民 族への協議は、 開発審議会における先住 民族の代表を通じてなされるものである。
(17) ここから逆にこうした 「協議」 を自治体の 管轄下にある建設許可などに関して行うべ きであろうという示唆も出てきている。
(Inforpress Edición 1711)
(18) 2007/09/17に、 人権擁護官事務所において 先 住 民 族 の 権 利 を 担 当 し て い る
Martin
Sacarxot
から聞き取りを行った。(19) 2006/10/04に、 サン・マルコス県の先住民 族 組 織
AJCHIMOL
で 活 動 す るJavier de León
に電話インタビューを行ったもので ある。文献
青西靖夫, 2004, “イサバル県エル・エストールに おけるニッケル採掘と先住民族” 開発と権利のた めの行動センター,
http://homepage3.nifty.com/CADE/guatemala/Guatemala
%20indigena%20y%20medio%20ambiente.htm
,
2005, “先住民族の権利と鉱山開発”, グロー バル化に抵抗するラテンアメリカの先住民族, 現 代企画室アメリカ大陸の先住民族会議−東京報告会 2007 資料集, 2007:5 6.