長崎大学総合環境研究 第 1 巻 第 1 号 ( 1 9 9 8 )
地球規模化 す る社会経済活動 と途上国の環境問題
につ い て ( イ ン ドネ シア を事 例 に して)
Gl o b a l i z i n gS o c i a la n dE c o n o mi cAc t i v i t i e sa n dE n v i r o n me n t a lP r o b l e msi n De v e l o p i n gC o u n t r i e s ( AC a s eo Hn d o n e s i a )
早 瀬 隆 司 HAYASE
.Takas hi
要 旨
途上国の例 と して イ ン ドネシアを対象 と し、
そ こで生 じてい る環境問題 を グローバルな規模 での経済社会 の潮流 や変化 との関係か ら捉 えて そのメカニズムを考察 す ることによ り、①直接 投資等 による先進国型 の生産活動 の活発化 とそ れに伴 ういわゆ る産業公害問題、( 卦都市部‑の 人 口集 中増加 と都市 での生活公害、③非都市部 における地域 コ ミュニテ ィーの崩壊 と環境資源 の劣化、④国際的な経済 との格差 に伴 う自然環 境資源 の破壊、 とい う 4 類型 に整理 して問題 を 指摘す ることがで きた。一方、同様 にイ ン ドネ シアを例 と して途上国の内部的な社会経済的 シ ステムが環境 問題 とどのよ うに係わ っているの かにつ いて、( 丑産業構造 と地域構造、②交通 エ ネルギー体型、( 卦生活様式、④科学技術 と教育、
⑤国家 の公共 的介入 の 5 つの内部的 システムを 取 り上 げて整理考察 した。 その うえで、 これ ら 2種 の アプローチを重ね合わせることによって、
グローバルな規模 での経済社会 の変化 との関係 か ら考察 された 4 類型 の問題 につ いて、内部的 システムの改善 によ り解決できる範囲の課題 と、
途上国 の能力 の範囲を超 えたいわゆる外部与件 的要 因である国際社会 の システムにおける課題 と して認識 しなければな らない範囲 との分離 を 試 みてみた。 その結果、途上国独 自での対応が
困難 ないわゆる外部与件的要因の最 も根元的な もの と して 「 国際的 な経済 と国内の経済 との格 差 によ って生 じる諸 々のひずみ」 と 「 人、かね、
ものの流動性 が増す こと」 を指摘 で きたが、 さ らに官民 の投資バ ランスの均衡、地域特性 や独 自の文化 の尊重、地域 内での物質循環 の尊重、
自然生態系 の もつ機能 や価値 につ いての共通認 識づ くり等 の具体的な留意事項 も指摘す ること がで きた。
§ 1 は じめに
途上国の環境問題 と一言 で いって も、 その様 相、 メカニズム等 は複雑 かつ多様 であ り、各国 の国際社会 との関係、地域 ・気象等 の特性、文 化的背景、経済的状況等 に も依存 していると考 え られ る
。環境問題 はまさに各地域地域 での地 理的等 の特性 を背景 と して、国際的な レベル、
地域 レベルあるいは国 レベルでの種種 の意思決 定 に基づ く組織 の社会経済 的な活動 と、 そのよ うな枠内での各個人 の社会経済的活動 とが混在 したなかで生 じて くる諸 問題 を環境 とい う側面 か ら眺 め切 り出 して きた もの とい うこともで き よ う。
以下で は試行的 にイ ン ドネシアを例 に して、
そ こで生 じてい る種種 の環境問題 とこれ ら人間
活動 との関係 を、世界的な規模 で進 んでいる大
早瀬隆司
きな潮流 あるいは途上国単独では制御で きない よ うな外部与件的な要因 とその中でのイ ン ドネ シア国内で形成 されあるいは形成 されつつある 内部的な社会経済構造 との関係を軸 に しなが ら 考察 してみたい。
§ 2 途上国における環境問題の構造 1 . 分析の視点
環境問題 との関連か ら種種雑多な人間活動を 捉え分析 しようとす るとき、それ らを何 らかの 座標軸上 に配置整理 してみることも必要である。
例えば、組織あるいは個人の人間活動を、上位 にある制約 な り条件 ・与件 に付随 した ものと整 理 して眺めると、逆 にその制約 な り条件 に着 目 す ることにより環境問題 に影響を与える人間活 動を変え改善 してい く施策を考察 してい くこと
も可能 になる。
宮本注1 ) はこのような視点か ら環境問題の構造 を捉 えようとして、体制、中間 システム、及 び 素材 といった縦の座標軸を想定 した。彼 は、環 境 を決定す る重要 な要因の一つ として国内の政 治経済構造 をとらえそれを中間 システムと呼ん だ。彼 によれば中間 システムは次の 6 種の政治 経済的概念 として認識 しようとしてお り、その うえでそれ らを環境保全型 の ものに してい く必 要があると考えた。宮本 による6種の国内社会 経済構造 (中間 システム)‑ の構成要素 には、① 資本形成、②産業構造、面地域構造、④交通体 系、⑤生活様式、⑥国家統治療造があげ られて いる。 この中間 システム及 びその上位 にあるシ ステム ( 宮本 は体制 と表現 している)が環境問 題のメカニズムを考えてい く上で極 めて重要で あることは疑 いようがな く、途上国の環境問題 を考え る上では特 に途上国内部の問題だけでな くその上位 にあるシステムの重要性 に着 目 して いかなければな らないと考え られ る。
以下では、複雑 に交錯 し割拠 している国際的 スケールでの社会か ら個々の組織 あるいは個人 の行動 にませ至 る間に横 たわるシステムを、世
界的な規模で進んでいる大 きな潮流あるいは途 上国単独では制御で きないような外部与件的な 要因 と、一方国内で形成 されあるいは形成 され つつある内部的な社会経済構造 ( 以降 「内部 シ ステム」 と呼ぶ) との関係を軸 に しなが ら試行 的にイ ン ドネシアを例 に して考察 してみること にす る。つま り、宮本が体制 と呼んだ上位 シス テムの代わ りに外部与件的要因を設定 してみた。
この外部与件的要因 は中間的なシステムとして の内部社会経済構造 のあ り方 に対 して干渉す る とともに、それを通 してあるいは直接的にも環 境破壊の大 きな要因 となっているものと考え ら れる。一方、内部 システムと呼ぶ こととした内 部社会経済構造 こそは個 々の国のシステムの特 徴を示す ものであ りそのあ り様 は環境破壊 とも 深 いっなが りがある。以下では、途上国の環境 問題を外部与件的要因 との関係、途上国の内部 システムとの関係か らそれぞれ考察す るととも に、外部与件的要因 と内部 システムとの関係 に ついて も環境破壊の文脈か ら考察 してみること としたい。
2 . 外部与件的要因 と環境問題
最近数十年の顕著な現象の一つとして、経済 ・ 社会 ・政治 ・文化 ・技術等の多様な側面でのグ ローバ リゼーションの進展を指摘す る事がで き る。
途上国の環境問題 との関係か らも真 っ先 に指 摘 してお くべ き外部的要因は、国際化 に伴 うグ ローバ リゼーションをおいて他にはない。グロー バ リゼーションは、「 政治経済社会 的諸活動 が 世界大で行われ るようにな り、諸々の国家や社 会の間で相互作用 とその レベルが激 しくな り多 様化す る様子 ( Gi dde ns , 1 9 9 0 ) 」 と表現 されて お り注 2 ) 、「 世界が単一性 に向か う諸傾 向 は不動 である ( Robe r t s on, 1 9 9 2 ) 」 .射) とも述べ られて いる。 このよ うなグローバ リゼーションの傾向 が不動であるな ら、そ こか ら不可避的に派生 し て くる現象を明 らかに し、そのような文脈か ら
‑ 5 8 ‑
地球規模化する社会経済活動と途上国の環境問題について( インドネシアを事例にして) 環境 に影響 を与 え る人間活動 を考察 してみる必
要がある。
国際化が進行す ると、 どのような活動が行わ れ、 それが最終的にどのような環境への影響 を もた らすであろ うか。 グローバ リゼーションと 一言で表現 され る現象 も、 その内容 には多様 な ものがあ り、投資貿易 の自由化 と国際化、文化 情報 の多様化 と西欧的文化 の国際的流布共有、
人や ものの流動性 の増加 などをす ぐにあげるこ とがで きる。外国の文化 を纏 い、主 として最先 端 (あるいは最新 と呼んだ方が正 しいか も知れ ないが) の技術 レベルで生産 された商品が貿易 の自由化 とともに途上国 に流入普及 し、 このよ うな商品の生産 のために新 たな産業や技術が直 接投資や技術協力等 の形で普及 して くる。 これ らは、派生的 に人 とものの流動化 を促 し、情報 や文化面での交流 も活性化 され る。 この様 な途 上国 における現象 は、途上国内で一様 に進むの で はな く、途上国内部での地域間において もそ の進展 の度合 いにずれが生 じ、地域間でのス ト
レスの原因 となる
。つ まり、地域間での状況が 動的 に緩慢 に変化 を始 め相対的な関係 も変化を 始 め る。 そのよ うな国際化か ら派生す る影響 は 途上国内における地域間の格差、不均衡‑ とつ なが っていき途上国内部での変化 のための社会 的 エネルギーを形成す る。国際化 の先端であ り 窓 口である首都や大都市地域 とその他 の地域 と の問 には国際化 の進行 とい う点だけを見て も大
きな社会経済的落差が生 じる。都市 と農村 の格 差や二極化 の問題 もこの国際化 に伴 うグローバ リゼーシ ョンによ り引 き起 こされ る変化のため の社会的 エネルギーとしての文脈で とらえ るこ
とがで きる
。イ ン ドネシアにおいて も、海外か らの直接投 資、通商貿易、経済協力、技術協力等 を中心 と
した形での ヒ ト、 モノ、 カネの流動が益 々盛ん である。 イ ン ドネシアとい う国を切 り出 してみ た際 に、 ここで考察すべ き外部的要因には、純 粋 に外部与件的な もの として地球的 スケールで
の投資貿易の活発化、そ してそれ と関係の深 い 人 ともののやはり地球的規模での流動化 をあげ ることがで きる。 また、 これ とは別 に外部与件 的要因 というよ りは、地球的な規模で進んでお りイ ン ドネシアにおいて も既 に抗 うことので き ない潮流 として外的要因に含 めて考えておいた 方がよい ものがい くつかあげ られ る。科学技術 を背景 とした工業化 の進展、そ して都市化 の進 展がそれである. これ らは何れ も国際化やグロー バ リゼーシ ョンと深 い関連 を有 しなが ら進行 し ている。
国際化 は、途上国の側で は貧困撲滅 のための 産業振興、開発 の促進 とい う論理 を背景 として これ らと表裏一体 とな って進行 している。 これ は、製造業を中心 とした産業か らの恩恵 を得 る ための開発 の促進 こそが社会の底辺 にいる人 々 を救 いあげることがで きるとい う考え方 に則 っ ている。 しか し、往 々に して産業 の側 にとって は産業 自身 あるいは投資家 の利益 の追求 こそが 最優先課題であ り、 ここに生 じているギ ャップ を十分 に埋 めることので きないよ うな今の形 の ままでの産業振興、開発 の促進 では途上国の側 での大義名分である貧困撲滅 のために十分 な役 割 を果 たす ことは不可能である。逆 に国際化の 進展 に呼応 して多 くの社会経済的な問題が生 じ
るとい う皮肉な状況 にな っている。
このような国際化 に伴 うグローバ リゼーショ ンと環境問題 との関係 について は、 イ ン ドネシ アの場合、次 の 4 類型 に整理 して述べ ることが で きる。
1 )直接投資等 による生産活動 の活発化 とそれに 伴 ういわゆる産業公害問題
途上国の低廉安価 な労働力を求 めて新 たに国
外か ら導入 された産業や技術が、往 々に して適
切 な環境汚染防除対策 を講 じないで、環境問題
を引 き起 こす。途上国の場合 は直接投資を促す
ために厳 しい環境規制 の実施 には及 び腰である
ことが多 い ことも一 因である。有害廃棄物 の越
境移動 の問題 は典型的な例である。 あ くまで も
早瀬隆司
個々の産業 自体が適切な対応をとることが基本 であ り、一般 に高価な防止技術への投資や高度 な防止技術の開発が可能な多国籍企業の場合 に は問題発生 の頻度 は少ないが、そ うではな く十 分な技術や資本を持 たないで環境規制の緩 い途 上国へ逃 げ出 して きたような企業の場合 には問 題を発生 させかねない。 このような環境問題 は、
水質の汚尚 として顕在化す ることが多 く、都市 部では主 として貧困層の日常の生活 に欠かす こ
とので きない清潔安全な生活用水の確保 に脅威 を与え る。途上国では一般 に生活者の日常生活 における河川等 の水環境の役割が極 めて重要で あ り、 このような水環境 の汚尚 は健康あるいは 生命への驚異 につなが る。 また、農村部では、
生活用水への影響だけではな く、む しろ農業や 養殖漁業等 の従来か ら営 まれて きたいわゆる土
表 1 1 9 9 0 年代前半 の主 な公害紛争 ・事件
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着の産業で利用 されていた用水 の汚濁を招来す ることとな り、結果 として国際化 に伴 う外来の 新規二次産業 と旧来か らの一次産業 との間での 摩擦や対立を引 き起 こす ( 表 1 )注 4 ) 。 このよう な汚染問題の背景 には、そ もそ も新 たに外か ら 導入 された産業の側で、環境汚染防止施設 に対
しての十分 な配慮 あるいは投資の必要性を軽視 しているかあるいは認識 していない場合 と、認 識 はされていて もその運転管理等の過程 におい て技術的な問題を抱えている場合 とがある。一 般 に問題 となるのは前者の場合で、 これ ら安価 な労働力を求 めて進出 して きた新規産業 は国際 的な市場で競争 していることが多 く、そこでの 過酷 な競争条件 は往 々にこのような環境公害問 題や環境資源の劣化を外部効果 として付随す る
こととなる。
2 ) 都市部への人 口集中増加 と生活公害
国際化 は都市への人 口の集中を ももた らす。
この要因 は、国際的な市場 の経済 と国内的な市 場の経済 との間での大 きな格差 に求 めることが で きる。先進国途上国を問わずあ らゆる国にお いて国際的な経済 と国内の地域的経済 との間で の格差や相違の調整の問題が起 こってお り注 5 ) 、 途上国においては特 にその格差が大 きいことか らこれが多様 な問題の生 じる原因になっている。
途上国の都市か ら離れた農村地域で起 こってい ることを、例えば ロンボク島の農村で聞いた話 か ら紹介 しよう。 この島での従来か らの集落単 位での生活 における主要な食糧 は農業収穫 と鶏 等の家畜であった。従 って 「限 られた食糧」 は 自然 に人 口の規模の制約を要請す ることとな り 過剰 となった人 口は村落か ら排除 される。国際 化 による開発途上以前 には彼 ら排除 された人 口 は新 たな農地を開墾す る等 により自活す ること を選択す ることとな ったが、国際化が進み人の 流動化が進む と彼 らは国際的な経済 との窓 口で ある都市での生活を選択す ることがで きるよう になる。 さらに、外国や都市か らの観光客ある いはコ ミュニケー ション技術 の進展 によりもた
‑6 0‑
地球規模化 す る社会経済活動 と途上 国 の環境 問題 につ いて (イ ン ドネ シアを事 例 に して)
らされ る情報 や文化 は都市‑のあこがれを抱か せ、 さらに人や ものの流動化 を促進 し、やがて は過剰 な人 口の移動だけではな く、村落での集 合的な共同体 その ものの存在意義や必要性 を も 低下 させ ることとな り、人 口の都市への集中を 加速 させ る。極 めて大 きな経済的格差の一方 の 対象である国際的な経済 に人が群が ることとな
るのである。
このよ うな都市‑の人 口の集中 は、貧困及 び 国際化 による生活 の質的変化 と相 まって都市部 における深刻 な環境問題 を引 き起 こしている。
ジャカル タ市 の年間 20万人近 くに上 るとされ る、 ともすれば我が国の県庁所在都市 の人 口に も匹敵す るよ うな規模での急激 な人 口増加 の例 に見 られ るごとく、都市 の膨張速度 は極 めて急 であ り上下水道、交通、電気、電話等 の都市生 活 を支え る基盤施設 の整備 は追 いっ きようがな い。水道 の浄水施設 などは、膨張す る都市 に追 いかけ られ るよ うな形で、 よ り清浄 な原水水質 を求 めて上流‑上流へ と追 いや られている始末 である
。しか も、国際化が進む と為替 が変動 し、 また 雇用のための競争 も激 しくな り都市部での貧困 問題 に大 きな影響 を与え ることとなる。都市部 に集中す る人 口の多 くは国際的な経済 の恩恵 に 浴す ることも容易でな く安価 な単純労働 に従事 す るか、 あるいは定職 を得 ることもで きず極貧 に苦 しんでいる。 このよ うな貧困の問題 は都市 の基盤施設 の整備 と多 くの貧 しい住民 の生活 ス タイルや経済状態 との間での不一致や帝離を促 し、環境問題 を緩和す るための都市基盤 の整備 を困難 に している主要 な要因の一つ とな ってい る。
さ らに先進国の生産消費パ ター ンを含 む欧米 型 の文化や生活 スタイルはもちろんプラス面 も
あるが、都市 の生活 に質的変化 を招 き、環境問 題 に も大 きな陰を投 げかけている。例えば、 自 動車走行台数 の急激 な増加、 しか もこれ ら自動 車 の殆 どは旧式であ った り整備が十分でな く、
必要以上 の排煙 をまき散 らしている。 またプラ ステ ィック製品の普及 は廃棄物 の自然循環の輪 とは異質 な ものであ り都市 における廃棄物 の氾 濫の原因 とな り美観 を大 きく損 な う要因 にな っ ている。
3) 非都市部 における地域 コ ミュニテ ィーの崩壊 と環境資源の劣化
人 口増加 の要因 として述べたよ うに、国際化 は農村部 における村落社会 の共同体 としての存 在意義を揺 さぶ りその崩壊変容 の一因 とな って いる
。よ り多 くの就業機会があ り生活 の質 の向 上 も期待で きる国際的な経済 の もとでの、流動 性のある都市 における、生活 とい う選択 の幅が 与え られ るため、 また農機農薬等輸入 された技 術 によって従来か らの農村部での生産活動 に も 変化が もた らされ るためである。 ちなみに、 1 985 年 に用 い られていた農業用 トラクターは 全国で 12000 台余であ った ものが 1994 年 には 4. 6 倍を越え る 55600 台余 にまで 増加 している注 6 ) 注7 ) 。 また土地 を持 たない農家 の 数が増加 してお り、 0.2h a 以下 の農地 しか 所有 していない農家 の数 は 1983 年 の 953 万世帯か ら 1993 年 には 1038 万世帯 に増 加 した注 8 ) 。 その結果、農村社会では共同体 の秩 序が変化 をは じめ、昔か らの秩序 の もとに管理 されていた水環境、水利 システム、農地等 の共 有の資産 はその重要性が薄 くな り、場合 によっ ては国際化 による資本 の投入や技術 の流入 など を背景 に した代替的な水供給利用 システムの出 現等 によ り、管理が放棄 され荒廃 してい くこと
になる。
4) 国際的な経済 との格差 に伴 う自然環境資源の 破壊
国際的な経済 に基づ く企業活動が、 ほとん ど
物 々交換や狩猟 に依存 して生活 している農漁村
部 における地域経済 の社会 に現れ るとその格差
の衝撃 は極 めて大 きな もの となる。延 々と続 く
白砂の砂浜 もその一部が数台の自転車 と交換で
国際的な観光開発業者 に売 り払 われた とい う話
早瀬 隆司
表 2 1 9 9 1 年 か ら 1 9 9 3 年 の間 で の米 作耕地面積 の非 農業 用途 ‑ の転換面積 ( ha) 地域 住 宅 製 造業 オフィ ス その他 合 計
スマトラ ジャワ カリマンタン スラベシ
東インドネシア
1 3293 . 4 1 057. 6 286 03. 5 1 4481 . 7 3566. 2 1 72. 1 5653. 7 61 8 6330. 3 243
958. 2 6591 . 6 3178 8459. 6 222. 3 801 9. 5 482. 3 1 402 . 4 374. 6 2251. 2
21 900. 8 54722. 8 11 980. 1 81 56 . 4 91 99. 1 合計 57 447. 1 1 6572 . 4 521 5 . 4 2672 4. 3 1 05959. 2 Kompas , 7No y ,1 995 よ り作成
も聞 いた。 日常 の伝統的な沿岸域での漁業で得 られ る収穫 とい う国 内の経済が リゾー ト観光開 発 とい う国際的な経済 の魅力の前 に一顧 だにさ れない様子が うかがわれ る。 このよ うな二つの 経済 の間の力の不均衡 の前 に、多 くの自然環境 資源が失 われっつある。都市近郊の農地 は開発 業者 に手渡 されっっあ り、 1991 年か ら 19
93 年 の間に農業用途以外 に転用 された米作耕 地面積 は 10 万 ヘクタールを超 えるとい うデー タがある ( 表 2 ) 。国連 によ るア ジア太平洋統 計年報注6 ) によると 1991 年時点での米作地面 積 は約 1028 万 ha と報告 されてお り、従 っ てその約 1% が 2 年間で農業以外 の用途 に転用
された ことになる。 また、熱帯雨林 はパームオ イルや ゴム等 の輸出用商品作物の生産 のために 伐採 され る。 ス リヤニ注 9 ) は、近年 の東 カ リマ ン タンにおける大規模 な森林火災 について、パー ムオイル等 のプランテーションのための森林 の ク リア リングが 目的であ ったとの証言があるこ とを報告 している。
3. 内部的社会経済構造 と環境問題
今 まで述べて きたよ うに環境問題 は外部与件 的な もの と して地球規模で急速 に進 む国際化 に 伴 うグローバ リゼーションと深 い関係 を持 って いる。 しか し、同時 に内部 システムとの関係か ら捉 え・ られ るべ き環境問題 に も重要 な ものがあ る。 また、多 くの環境問題 は、外部与件的な要 因 と内部的な要因 とが複雑 に関与 している もの と考え られ る。 ここで はイ ン ドネシアにおける
内部的な社会経済 システムと環境問題 との関係 を考察す る。 この内部的社会経済構造 について は、すでに述べたよ うに宮本 による環境 を想定 した 6 種 の中間 システムが提唱 されているが、
途上国の実状を考慮 に入 れたとき科学技術 と市 民 の生活や社会 との関係 は良 きにつ け悪 しきに つ け環境問題 と強いっなが りを持 っている。従 っ て、 ここでは以下 のよ うな 5 分頬 の システムか
ら考察す ることとす る。
①産業構造 と地域構造、
( 参交通 エネルギー体系、
③生活様式、
④科学技術 と教育、及 び
⑤国家の公共的介入 ( 組織制度等) 1 ) 産業構造 と地域構造
( 彰 世界的な経済的不安定状況 の中でイ ン ドネ シアの経済 も 1998 年 の政治経済危機 までは 収入が増加 し 1983/ 84 か ら 1988/ 8
9 までの期間 には年率 9.8% の伸びを示 した占 これは、同時期 に年率で 22. 4 %の伸 びを示 した非石油 ガス産業か らの収入 の増加 に も支 え られている。今後 とも非石油 ガスセクターの役 割が重要 にな って くるであろ う。 また、多 くの 鉱物資源 に恵 まれているが、多 くはそのまま国 外 に輸 出されてお り、国内での鉱業生産 には結 びっ いていない。単 な る資源の採取 に終わ って お り、採掘 に しろ下流での精練 に しろ環境上 の 問題が山積 している。 また、 イ ン ドネシアの全 産業従事者 の うち、林業水産業 を含 む農業 セク ターが 55. 6% を抱 えている。森林資源 につ
‑6 2‑
地球規模化する社会経済活動と途上国の環境問題について(インドネシアを事例にして) いて は、保護林 ( pr ot ec t i onf or es t ) 2 9 5 9 2 0 0 0 ha
( 陸地面積 の 15. 3 %)、国立公園 あるいは制 限林 ( nat i onalpar korr e s e r v at i onf or e s t ) 1 91 5 3 0 0 0 ha ( 陸地面積 の 9. 9 %)、 制 限生産 柿 ( l i mi t edpr oduc t i onf or e s t )2 9 5 6 8 0 0 0 ha 、
非転 換生 産 林 ( non‑ c onv er t i bl e pr oduc t i on f or s t )3 3 4 0 0 0 0 0 ha 、 そ して転換可能 な生産林 ( c onv e r t i bl epr oduc t i on f or e s t ) 1 9 0 3 9 0 0 0 h a と して計画管理 されている。 これ らの地域 別
の分布 をみ ると、 ジャワ島には もはや転換可能 な森林 が存在せず 3 01 3 0 0 0 ha の非転 換 林 のみが 存在 してい るのみで ある。 このよ うな 自然資源 の消費が社会的 な福利 に十分 に結 びついていな い。多 くの鉱物 自然資源 は国土 に負担 をか けな が ら算 出 され るがそれによる付加的な価値が十 分 に還元 されてお らず、 イ ン ドネシアとしての 持続的な成長 に結 びついていない。 イ ン ドネシ アを は じめ とす る途上国の開発 と産業化 は、直 接投資、貿易、経済協力 とい った形での外国か らの資本 と技術 との移入 を基礎 に して進 め られ ることが多 い。外貨 の獲得 あるいは外国 との取 引を前提 と した このよ うな産業 は しば しば戦略 的な産業 と して位置づ け られ、国営 あ るいは極 めて政府 の影響力 の強 い形 で庇護 され育成 され る。 ス リヤニは、「 資源 を採取 して それ に付加 価値 を創 出 している製造業 は、資源 の採取 か ら 得 られ る利益 に関す るあ らゆ る機会 を独 占 して いる一部 の者 に利益 を稗益 しているだけである」
と述 べている。従 って、 このよ うな産業 と従来 か らの国内の産業 との間 には二極化 の傾向が強 く見 られ るよ うになる。言葉 を換 え ると利潤 を 求 め る戦略的な産業 は国際的な競争力の前での 効率 を求 めてい くがために従来か らの産業 との 調和 あるいは共存 とい った ことには無頓着 に戟 略を実現 してい くこととな り、往 々に従来 の産 業 とは互 いに対立す るがだけの関係 に陥 りがち であ る。
このよ うな形 での産業 の育成 は国際的な経済 と地域 の経済 との対立 を一層深 め、結果 と して
都市への人 口集中、農漁村部 の社会 の崩壊等 を 通 して多様 な環境問題 を深刻化 させ る。持続可 能 な発展 の観点か らは、新 たな産業 と従来 の産 業 とが地域 の特性 に立脚 して有機的 に結合 した 形 での産業 の発展パ ター ンが望 まれ るに もかか わ らず に。
② イ ン ドネシアの人 口は 1990 年 に 1 億 7 938 万人 と見積 もられてお り、世界第 4 位 で あ る。家族計画 プログラムを通 した人 口抑制策 に もかかわ らず、 2010 年代 にはいると 2 億 5700 万人 にまで増加す ると予測 されている。
そ してその人 口の 6 0% が、面積 で はイ ン ドネ シアの 6. 89% に しか過 ぎない ジャワ島に集 中 して いる。都市部への人 口集中 も進んでお り、
最新 のデー タのあ る 1990 年時点 で は人 口の 35% が都市部 に住 んでお り、今後 も急速 に増 加す ると考 え られている。 これ にたい して移住 政策 が進 め られてお りジャカル タ、西 ジャワ、
中央 ジャワ、 ジ ョグジャカル タ、東 ジャワ、 バ リの 6 州か らそれ以外 の地域へ移住 が進 め られ て いる ( 北 スマ トラ州 と東 ヌサテ ンガラ州 は移 住者 を受 け入 れていない) が、都市化 や深刻 な 過密過疎 の問題 の解決 には結 びつ いていない。
この人 口動態 の問題が都市環境問題、 いや多 く の環境問題 と関連 があ り、 これ ら問題 を深刻 に
している一因であ る。
一般 に途上国の環境問題 において は消費側 よ りも産業 の側 の抱 え る問題 が大 きいと指摘 され るが、 イ ン ドネ シアの場合 には、臨海部立地型 の火力発電 や重化学工業 が、一般 にその長 い海 岸線 を有効 に利用 して都市部か ら然 るべ き距離 を置 いた場所 に配置 されてお り、我が国の高度 成長期 に太平洋岸 のいた る所で経験 したよ うな 住工混在型 の産業公害 は顕著ではない。 しか し、
皮 なめ し、繊維染色、食品、 セメ ン ト等一部比 較的規模 の小 さい産業 は都市 内あるいは周辺 に 立地 してお り、周辺 の大気水質環境 に深刻 な影 響 を与 えて いる側面 もある
。2 ) 交通 エネルギー体系
早瀬隆司
表 3 イ ン ドネ シ ア の エ ネ ル ギ ー 需 要 量 ( PJ/ 午 )
分 野 1 9̲ 91 2001 2011 2021
1 . 産 業 538. 50 1 ,039.36 1 ,911 .74 3,674.26 2. 運 輸 536. 80 1 ,040⊥31 1 ,84 1 .72 3,246.74 3. 民 生 1 ,1 24. 42 1 ,367.58 1 ,574.1 0 1,792.49 4. 商 業 29. 08 66.35 1 43.22 31 9.42 5. そ の 他 25 1 . 05 584.90 1 ,085.85 2,030.1 8
+1PJ=1 01 5joul es
BPP T‑KFA , MarkalStudy 1 992 よ り
表 4 イ ン ドネ シ ア の エ ネ ル ギ ー 供 給 量 ( PJ/ 午 )
分 野 1 991 2001 2011 2021
1 . 石 油 1 ,29 1 . 63 1 ,671.ll 2,334.67 4,71 9.71 2. 自 然 ガ ス 71 0. 97 1 ,565.98 2,300.41 2,977.35 3. 石 炭 1 93. 96 790. 24 2,660.1 8 6,51 2.26 4. 地 熱 水 力 1 41.75 41 9. 07 544.1 7 534.68 5. バ イオマス 1 ,003.39 1 ,238.59 1 ,436. 84 1 ,71 2.1 4
■1PJ=1 01 5joules
BPPT‑KFA , MarkalSt udy 1 992 よ り
図 1 鉄道及び道路交通の推移
8 6 4 1 1 1 qTe ? 覆 せ 廿
寸86L8 6 4
000 200) 1.83 1ー76
‑
1̲ 8
11
▲ ウ
99
一一
1 ーV.弓RJ ●0.95
‑ 舗装道路延長
‑
乗 用 車 所 有 台 数‑斗・‑・事 業 用 手 所 有 台 数