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日本語初中級学習者の作文指導 : 学習者の誤用分 析をもとに

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(1)

日本語初中級学習者の作文指導 : 学習者の誤用分 析をもとに

著者 原沢 伊都夫

雑誌名 静岡大学国際交流センター紀要

巻 6

ページ 79‑92

発行年 2012‑03‑27

出版者 静岡大学国際交流センター

URL http://doi.org/10.14945/00006616

(2)

静岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

日本語初 中級学習者の作文指導

一 学習者 の誤 用分析 をも とに丁

 

 

伊都 夫

 

旨】

日本語初中級学習者の作文に見 られ る誤用 を分析 し、 どのような特徴があるのか調査 を 行った。その結果、文の構造 に関す る誤用が全体の60%に上 り、作文においては 日本語文 の構造についての知識 も重要な要素であることが明 らかになった。また、初中級 レベルの 学習者はこれまでに学んだ文法を満遍な く使っているわけではな く、ある特定の表現 に特 化 して使用 していることもわかつてきた。 これにより、今まで感覚的に感 じていた学習者 の誤用の特徴 を具体的な項 目として確認す ることができ、これからの作文指導に活用す る ことが可能 となるだろう。これまでの作文指導では語彙の紹介を中心に教えることが多かっ たが、文の構造 を教 えなが ら文の産出を図ることの重要性 を今回の調査は示唆 している。

キーワー ド】誤用

 

文の構造

 

述語形式

 

複文の構造

 

語彙表現

1口 は じめに

日本語 の初 中級学習者 の作文 を指導 してい ると、学習者 に共通す る誤用例 によ く遭遇す る。 これ は明 らかに母語か らの言語間エ ラーであると思われ るものもあるが、それ と同時 に、様 々な国籍 の学習者 にも共通 して見 られ る言語内エ ラーであることも多い。学習者 か らの作文 をチェ ックし、誤用 を修正 し返去「す る中で、 どの よ うな誤用 の傾 向があるか を分 析す ることは作文指導の上 で欠かせ ない ことである。一通 りの文法事項 の学習が終わ つた、

または基礎 的な文法事項 を学習 してい る初級・ 中級者 に対 し、 日本語文 を組 み立て る上で 注意すべ き事項 を示す ことができれ ば、 よ り効果的な作文指導がで きるのではないだろ う か。 このよ うな観点か ら、初 中級者 の書いた作文 を精査 し、誤用 内容 を分析す ることで、

学習者の誤用 に見 られ る特徴 を明 らかにし、作文指導 に役立てることを本論 は 目的 として レヽる。

ただし、本論 はあ くまで作文指導 を効果的 に遂行す るとい うことが 目的であることか ら、

誤用例が言語間エ ラーなのか言語内エ ラーなのか といつた第二言語習得論の議論 には立 ち 入 らない。 日本語教育 とい う立場か ら、 これ まで第二言語習得論 で得 られ た知見 を活用 し なが ら、初 中級学習者 の作文指導 を考 えるとい うス タンスであるこ とを初 めに確認 してお きたい。

2.調査方法

2009年 10月 〜2010年 3月 まで に行われた作文の授業 (日本語教育 プ ログラム 「日本語 3‑B」)で課題 として提 出 され た作文の一部 (33枚)を分析 した。受講者 は初級後半か ら中 級前半までの学生 15名 である。学生の 日本語力 は 日本語能力試験の レベルでN4〜 N3で

一‑ 79 ‑―

(3)

静 岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

る。国籍は、中国 2名 、韓国 1名 、イン ドネシア 2名 、カナダ 1名 、アメ リカ 2名 、

 

ドイ 3名 、 ロシア1名、エジプ ト1名 、ハ ンガ リー 1名 、フランス1名 となっている。それ ぞれの学生が 「静岡大学」と「私の希望」とい うタイ トルで作文を提出した。1枚 の分量は だいたい300字 から600字 程度である。これ らの作文における誤用を以下の文法的範疇の 中で分類 した。

1)単文の構造

①格関係 (文型・格助詞など)

②ハの使用 (主題・対比)

2)述語形式

①述語 (自動詞 と他動詞0スル動詞 0〜 ほしい・行 く/来る 0活用など)

② ヴォイス (受身 。使役0自発・可能 。や りもらい動詞)

③ アスペ ク ト(テイル・テアルな ど)

④ テンス (ル形・夕形)

⑤ ムー ド(〜たい・〜てほしい 。〜 と思 う、など)

3)複文の構造

①名詞修飾節 (内の関係・外の関係)

②補足節 (名詞修飾節・引用節・疑問節)

③副詞節 (条件節・原因理 由節・時間節・ 目的節 0様 態節)

④並列節 (テ形、連用形、シ、タ リ)

⑤接続詞

4)語彙表現 (指示代名詞 0時 の表現 。天気の表現 0〜 すぎ・その他)

1)か3)までがいわゆる文法規則 に関す るものであ り、 4)は語彙力 に関係す るもの である。もし、学習者の間違いがこれ らの分類の中のどこかに偏 るようであれば、その原 因を探 るとともに、作文指導において、それ らの間違いやすい事項に留意して教えること ができればよ り大きな教育効果が生まれ ることになるだろ う。

3.調査結果

前項の分類 に基づいた、実際の誤用例は以下の通 りである。誤用総数は 290で あつた。

チ ェ ック事項 内 容 誤用例

1.単文 の構 造 ①格関係 文型・格助詞 な ど 68

89 30%

②ハの使用 主題・ 対比

2.述語 形式

①述語 動詞 ・形容 詞 ・名 詞述 語 、活 用 な ど

54 19%

②ヴォイス 受 身 。使形・ 可能 。自発 ・授 受 14

③アスペクト テイル ・ テ アル な ど 7

④テンス 過去 。現在・未来 1

⑤ムー ド ムー ドの表現

3.複文 の構造 ①名詞修飾節 内の関係 ・外 の関係

84 29%

②補足節 名詞節 ・引用節・疑 問節 25

(4)

③冨J詞 条件節 。原因理 由節・時間節 。目的節 な ど 38

④並列節 テ形・連用形 。シ 。タ リ

⑤接続詞

4。 語彙表現 指示代 名詞・ 時 の表現 ・天気 の表現 な ど 22%

290

静 岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

単文の構造 に関わ るものが30%、 述語 に関わ るものが19%、 複文 の構造 に関わ るものが 29%、 語彙表現 に関わ るものが22%と い う結果 になった。以下、これ らの分析結果 を詳細 に検討 してい く。

3.1  単文の構造

この項 における誤用例 は単文の基本的な構造 に関す るものである。述語 と成分 ①との格関 係 ととりたて助詞 のパ に関す るものに大別 され るが、 さらに、詳細 に分析す る と、以下の

よ うな下位分類 に分 けることができる。

文の構造 に関す る誤用例 は全部で89例が認 め られ、誤用全体 の3割を占め、今回の誤用 分析 の中で一番多い項 目であつた。初 中級者 に とつて、 日本語文 の基本構造 がまだ しつか りと定着 していない ことを示 してい る。細 目を見てみ ると、文型 に関す る誤用 が33例と群 を抜いてい る。 これ は、 日本語文の基本構造 の要である述語 と格助詞 との組 み合わせ が理 解で きていないためである。調査 の対象 となった作文 の中か らそのい くつかを以下 に紹介 す る。下線部 の部分が誤用 の箇所 で、正 しい形 を矢印 (→)で示 してい る。議論 の対象 と なっている誤用 には網 かけをし、 どの誤用 に言及 しているかわか るよ うにした。括弧 内は 文章 を書いた学生 の国籍 である。

1)弟 も日本壁 (→に)留 学したがうています。(フ ランス)

2)ビルの屋上から町や海盤 (→が)は つきり見えます。(スーダン)

3)私は文部科学省の試験盤 (→)合格 した。(イ ン ドネシア)

4)仲がよいですか ら、いっしょにアパー ト墾 (→)住みたいです。(ドイツ)

これ らの間違いは「〜が〜に留学す る」「〜が見える」「〜が〜に合格す る」「〜が〜に住む」

単文 の構 造 誤用 の 内容 誤用数

①格関係

文 型 述語 と格 助詞 との組 み合 わせ

格 助 詞

二 格 二格 の使 い方 デ 格 デ格 の使 い方

ヨ リ格 ヨ リ格 の使 い方 複合格助詞 複合格助詞の使い方

そ の他 ノの使 い方

並列助詞 並列助詞 の使 い方

②ハの使用 主 題 主題の用法に関するもの

文寸ルヒ 対 比 の用 法 に関す るもの

 

‑81‑

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とい う文型 が理解 できていない ことによる。 この ような文型 に関す る誤用例 だけで、誤用 全体 の11%を 占めてい る。初 中級者 に とって文型の知識がいかに重要であるかを示 してい る と言 えるだろ う。 このよ うな文型では格助詞 は述語 によって決定 され るが、名詞 の意味 によって決定 され る格助詞 もある。以下 に示す ものはその よ うな格助詞の誤用であるが、

今 回の調査 では特 に 「に」 と 「で」の間違 いが際立 って多かった。 まず、時間 を表す名詞 に付 く 「に」 の誤用 を見てみ よ う。

5)私2年間難 (→ トル)静岡大学で勉強 しています。(ブラジル)

6)最近整 (→トル)自然の写真 を とることが好 きにな りました。(イン ドネ シア)

例文 に見 るよ うな誤用例 は9例を数 えた。時 を表す名詞 の場合、二格 を取 る場合 と取 らな い場合 があ り、両者 の使 い分 けが学習者 にとって難 しい ことがわかる。また、場所 を表す 二格 とデ格 の使用 においても混乱が認め られ る。

7)または、 日本難 (→)働きたいです。(アメ リカ)

8)私は大 きい町鸞 (→)育ったので、小 さい町 に住みた くなかった。(ブラジル)

9)私は静 岡大学量 (→)交換留学生 として一年間勉強 します。(韓)

いずれ も 「〜で」となるべ きところを「〜 に」が使われている例 だが、「〜 にいる/ある」

「〜 に住む」な どの存在 の場所 を表す二格 と動 きの場所 を表すデ格 との使 い分 けをどのよ うに教 えるかは難 しい問題 である。

また、 ヨリ格 の誤用例 が1例認め られ るが、比較 を表す ヨリ格 が使われ るべ き ところで 使われていない例 である。その他 には、述語 との格 関係 を表す複合格助詞 の間違 いが4例 ほ ど認 め られ る。

10)試験 に失敗 しない よ うに、専門藝締1藝1報 (→)本と資料 をた くさん読 んでいました。

(中)

11)00先生の授業以曇:奪 (→以外 に)授業 中ずつ と日本語 を話せ る機会が乏 しい。(カ )

10)では 「専門について」は述語 ではな く、「本 と資料」にかかっているので、ノ格 のほ う が適 当である。11)は 「〜以外 に」 となる複合格助詞である。

以上 の ことか ら、格関係 についての誤用 をま とめると、まず、文型の重要性 が挙 げ られ るだろ う。動詞や形容詞 な どの述語 を覚 える ときに、格助詞 と一緒 に覚 えるのが効果 的で ある。初級 で使 われ る述語 は必ず格助詞 と一緒 に教 えることが重要 になるだろ う。次 に、

格助詞 は全部 で9つあるわ けだが、誤用例 は、ガ格、 フ格、デ格、二格 に集 中 してい る。

これ は、その他 の格助詞が正 しく使われてい るとい うよ りも、 この4つの格助詞 の使用 が 非常 に多いため、 これ らの誤用例 が 目立つ結果 となってい ると推察できる。 したがって、

作文指導 においては、 これ らの4つの格助詞 にしぼって、丁寧 に説明をす る必要がある。

その中で も、時 を表す二格、場所 を表す二格 とデ格 はその誤用 も多い ことか ら、多 くの例 文でその使 い方 に慣れ させ ることが重要 とな るだろ う。

格助詞 についての留意点 は以上だが、次 に とりたて助詞 であるハの誤用 を見てみ よ う。

誤用例 としては21例あるが、主題 の用法 (16例)と対比の用法 (5例)と に分 けることが で きる。対比 の用法の誤用例が少 ないが、 これ も正 しく使われてい ると考 えるよ り、対比 としてのハ の使用が少 ない と考 えるほ うが 自然 であろ う。

(6)

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12)私 (→)静岡大学の留学生です。(ドイツ)

13)コ ミュニケーションとい うことが (→)日常茶飯事ですので… (カナダ)

14)アメリカ盤 (→では)私はもう少し勉強しますが、 日本総 (→では)健康は (→)

いいだ (→ トル)と思います。(アメ リカ)

12)と 13)が主題 、14)が対比の誤用例 である。格助詞 な どの誤用 と比べ る と、主題 に 関す る誤用数 はそれ ほ ど多 くない。 これ は、学習者 の作文 においては主格 が主題化 され る ものばか りであ り、初 中級 レベル においては 「主語=ハ」 とい う考 えでほ とん どの場合 は 問題 がないか らであろ う。今回の作文例 においても主格以外 の成分が主題 として提示 され てい るものはほ とん どなかった。 したがって、初 中級 レベル の作文指導では、主格 が主題 化 された 「〜は 述語」 とい う構文 と対比 の 「〜は…が、〜 は…」 とい う構文 をしっか り 定着 させれ ばいいだろ う。対比の構文の場合、対比 され るものが場所 にな ることが多いの で、特 に 「〜では…が、〜では…」 とい う構文 を確認 してお くことも効果 的である。

3.2  述語形式

述語 に関す る誤用 は54例であ り、全体 の19%になる。内訳 は以下の通 りである。

述 語形式 誤用 の 内容 誤用 例

①述語 (21)

自動詞 と他 動詞 スル動詞 ほ しレヽ 行 く/来 活 用

②ヴォイス (14)

受身形 l

自発 形 4

可能形・

や りもらい動詞

③アスペクト(7) テ イル 形

④テンス (1) 過 去 の形式 1

⑤ムー ド(11)

〜 た い

〜 て ほ しい l

〜 んです

〜 と思います

〜するつもりです 1

〜のでしょうか

  54

まず、述語に関する誤用例から見るが、「〜ほしい」 とスル動詞の誤用が目立つ。

15)だから、高い給料の仕事が1漱 1車V≡ (→したい)です。(韓)

16)書道の勉強も難じせヽ(→したい)で す。(インドネシア)

17)私の夢を実現できるように、いろいろな勉撚じ:護 (→勉強をして)レます。(中)

―‑ 83 ‑一

(7)

静 岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

18)よかつたら、将来轟認羅1熱 (→通訳をしたい)です。(アメ リカ)

「〜ほしい」は自分の欲求を表す述語 として、初中級者が頻繁に使 う表現の 1つ であるが、

抽象的なことには使 えないルール をしっか りと理解 してお くべきである。この誤用は、様々 な国籍 の留学生の作文に見 られ るため、作文指導においては特 に注意すべき点である。ま た、スル動詞 については、語彙的な知識不足 もあ り、安易に2宇漢字にスル をつけて、使 うことが多い。「勉強」のような動作名詞においては、「勉強をする」 と「勉強する」の両 方が可能 にな り、そのような使い方における文の構造の違いにも注意を向ける必要がある。

「行 く/来る」の例では、 日本語では自分中心の視点でこの動詞が使われるため、相手の 視点でも使われる英語などとは反対 になることがあるので、その点 にも注意が必要であろ

う。

19)と ころで、私の友だちも日本 に鐘藍 (→)たがつています。(エジプ ト)

述語の活用の誤用 については、 しつか りと確認 しないままで書いている例がほとんどで ある。

20)私の料理 はときどき口に報機鐵 職轟 (→合いませんでした)。 (イ ン ドネシア)

21)有名 な大学で閻 (→仕事ができれば)、 いいです。

「合 う」の否定形 「合わない」の過去形を 「合わないでした」 とするのは、ナ形容詞の過 去形 (丁)の活用である「でした」を付けてしまった例であ り、「仕事 しれば」は「仕事 す る」の 「す る」の可能形を 「しれる」 としてしまった例である。いずれも活用のルール に気 をつけていれば間違わないものであ り、作文では自分でチェックする時間があるので、

イージー ミスをしないように確認 をさせ ることも重要であろう。その他 にも、「与えるです

→与えます」や 「甘いすぎです→甘すぎです」などの基本的な接続に関する間違いが見ら れた。

ヴォイスの誤用で一番多かったのが「や りもらい動詞」である。他者 と交わる動作 に「や りもらい動詞」が補助動詞 として使われるのは日本語の大きな特徴であ り、初中級 レベル の学生が 自然 に使 えるようになるには時間がかかる文法事項である。

22)先生たちは生徒のことをいつも難靭勢癬 (→守って くれます)。 (ブラジル)

23)先生は 「書道をしたかったら、・ … 先生のところへ行ったほうがいいよ」 と灘総難轟 (→言つて くれました)。 (イ ン ドネシア)

これ らの例文は使われるべき 「や りもらい動詞」が使われていない例であ り、反対 に、以 下の例では間違った 「や りもらい動詞」が使われている例である。

24)日 本語の先生か らいつも日本語をかんたんに数難癬鐵総壽瀧:轟 (→教 えてもらいた )です。(エジプ ト)

「や りもらい動詞」の使用は自然な日本語のや りとりにつながるので、補助動詞の使い方 は特 に丁寧に練習 したい項 目である。「や りもらい動詞」の次に多かったのが、自発形の誤 用であ り、次の 4例 がある。「見える」と「見る」の混乱や不必要な自発形の使用が認めら れる。

25)天 気が晴れ とき(→いいと)、 富士山とするが湾辮熱熱轟 (→を見る)こ とができます。

(イ ンドネシア)

26)静岡は暖かい所だから、自分にとつて住みやすい町 (→)と 難織業難 (→思い

(8)

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ます)。 (イ ン ドネシア)

「〜が見える」「〜が聞こえる」 と「〜を見ることができる」「〜を聞 くことができる」の 違いを整理す る必要があるだろ う。それ以外の自発形は特殊な言い方でもあ り、初中級者 の作文では特に必要性 は感 じられない。ヴォイスに関して意外だったのが、受身形や使役 形の誤用例がほとん ど見つか らなかつたことである。これは、間違いが少ないとい うより、

ほとんど使われていない と考えた方が正 しいだろう。実際に今回の作文をチェックしたが、

受身形および使役形の使用は以下の 1例 を除き、見つけることはできなかった。

27)本当に自分 にとって母の料理はおいしいですか ら、今はだいたい (→ トル)母の料理 を作:ら│れ (→作って)ほしいです。(イ ン ドネシア)

初中級者の レベルでは、話者中心の作文 となることか ら、受身や使役などの立場が異なる 表現は使われることが少ない と思われる。ただ、迷惑な気持ちを表す ときに必要な受身の (間接受身 と持ち主の受身)はしっか りと理解 させ る必要があるだろ う。

動詞に接続す る順番で見ると、ヴォイスに続 く形式はアスペ ク トであるが、テイル に関 わる誤用が 7例 あった。

28)静岡大学は丘の頂上 (→)に1藻 1暮 1葺 (→立っている)から、遠 くか ら (→)な

めがきれいです。(スーダン)

29)国務大臣はこの (→その)仕事の前 によ丘 (→トル)大学で仕事1難:彗彗彙 (→仕事 を していました)。 (アメ リカ)

テイル以外のアスペ ク ト表現の誤用はな く、また、使われてもいない。 このことから、初 中級者の作文ではテイルの基本的な用法 (「動きの継続」 と「動 きの結果の状態」)をしっ

か りと定着 させ ることが重要になるであろう。

テンスに関しては、以下の 1例 だけの誤用が見つかつてお り、特 に問題点はないようだ。

30)様々な食べ物が轟磁嶽1難 (→あ りました)が、ただケーキ (→ケーキだけ)を食べま した。

述語に接続す る最後の形式がムー ドの表現である。今回の作文では 11例 の誤用があ り、

その中でも 「〜たい」や 「〜んです」、「思います」の間違いが見つかつている。

31)日 本で勉強 した知識を生かして、 自家 (→自国)の環境 を改善する仕事 を:喜 1薄 1懸1註

壁壁 (→したい と思います)。

32)忙しくて自分について考 える時間がなかなか,難難苺:藻1羅 1警1彗 (→あ りませんでした)。

33)の どが渇 くけど、どこでも飲み物が買えるので:華 1癬1滋:基1轟蓬苺華露 (→よかったです)。

特に33)のような「形容詞の過去形+と 思います」は学習者の作文によく見 られる誤用の 1つ である。「形容詞の過去形」には通常 「と思います」は付かないことを確認する必要が あるだろ う。 さらに、次のような反疑間の表現 も時々見受けられるが、 日本語では 「〜の でしょうか」 を使 うのが一般的である。

34)しかし、子供のころの希望は全て消えて:難1檬:難灘 罪 (→しま うのでしょうか)。 (ド

イツ)

初中級 レベルでは、反疑問=「〜のでしょうか」 と教 えてお くほ うが効率的だろ う。

最後にこの項で扱ったことをまとめると、個々の述語では「スル動詞」「ほしい」「行 く

/

来 る」、ヴォイスでは 「や りもらい動詞」 と「間接受身」、「持ち主の受身」、アスペ ク トで

一‑ 85 ‑―

(9)

静岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

はテイル の基本用法 「動 きの糸区続」 と「動 きの結果 の状態」、ムー ドでは、「〜たい」「〜て ほしい」「〜んです」「〜 と思います」「〜ので しょうか」な どが重要項 目となるだろ う。

3.3  複文の構造

今 回の調査 における誤用 の約3割が複文の構造 に関す るものであった。文 を構成す るに あたっては 「単文の構造」 とともに重要な文法知識である。詳細 な内訳は以下の通 りであ るが、副詞節の誤用 が38例あ り、他の項 目よ り多いのは、それ だけ使用頻度が高いか らで あろ う。

①名詞修飾節 外 の関係

②補足節

名詞節

コ ト 14

ホ ウ モ ノ

引用節

疑 問節

③副詞節

条件節

タ ラ

バ アイ 原 因・理 由節 ノデ/カ 時 間節

4 ア ト(デ) 1

ナ ガ ラ

目的節

タ メ ニ ヨウエ

ノ ニ

④並列節

テ 形 連用 形

タ リ

⑤接続詞

   84

名詞修飾節、いわゆる連体修飾節 に関係す る誤用 は5例あったが、すべて 「外 の関係」

の修飾節であった。

35)日本語 を勉強す る盪 (→トル)機会があ ります。(フランス)

36)イ ン ドネシア霧轟1基:教蒸轟:(→ で教 えた)経験が (→)5年間でした (→です)が 教 える (→ トル)方はまだ うま くあ りません。(イ ン ドネシア)

「内の関係」の修飾節が使われているのか疑間に感 じたので、作文全体 をチェックしたと

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静 岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

ころ、「内の関係」の修飾節 もかな り使 われていたが、短 い ものが多 く、間違いはなかつた。

この ことか ら学習者 に とつては、「内の関係」 の修飾節 は難 し くない よ うである。「外 の関 係」の名詞修飾節 では、修飾節 と被修飾名詞 との関係 によつて「内容補充節」「付随名詞節」

「相対名詞節」の3種0に分かれ ることか ら、両者 の関係 が複雑 であるために、使い こな すのが難 しい ことが想像 され る。初 中級学習者 には、「内容補充節」 と「付随名詞節」の違 いを中心 に複文の構文 を理解 させ る必要があるだろ う。

次 に補足節 について見てみ るが、ここではコ トの誤用が一番多 く、14例と飛 び抜 けてい る。その中で も、主語である名詞 を受 け、「〜 ことだ」で文末 を結ぶ形式の間違 いが多い。

37)1つ 目の希望は日本で勉強 して帰国した時に彼女 と:国1簑 1専 │て 1嶽 1嚢11で│す(→同棲す るこ とです)。 (ドイツ)

38)私 の仕事の (→に対す る)希望は国務省の大臣に1な│■

1糞 'ヽ

│す (→なることです)。 (ア

メ リカ)

文末 を「〜 ことだ」で結ぶ形式は多 くの学習者が間違えるため、1つ の形式 として覚えさせ たい項 目である。文法的には複雑ではないため、文の構造が理解できればその後間違いは 少な くなる。補足節の誤用で次に多いのは、 ノとコ トの使い分けである。

39)私の考えで (→トル)コ ミュニケーシ ョンとい うこと (→)は世の中で影響のある 大事な力だ と思います。(カナダ)

40)その とき蛍を見たこと│(→ の)力`初 めて (初めてでした)か ら、

す ごく楽 しかったです。(イ ン ドネシア)

気 持 ちが (→ トル)

両者 の使 い分 けは 日本語教師 に とつて も頭の痛 い問題 であ り、 どの よ うに教 えた らいいの か簡単 な答 えはないが、コ トの用法 には上 で見たで主語である名詞句 を受 ける「〜 ことだ」

のほかに、「〜 ことがある」「〜 ことになる」「〜 こ とにす る」「〜 ことができる」 な どの慣 用句的表現 が多いため、 コ トに関 してはこのよ うな定型 の表現 として教 え、文の名詞化 は ノで教 えるのがいいか もしれ ない。その他 の補足節 では、引用節 における述語の形式 (辞 書形)の誤 りが多い。

41)他の都市は寒いから冬は基変 (→大変だ)と思います。(スーダン)

42)静岡大学の応用生物化学専攻が正に私に全▼ヽ│す (→合 う)と思いました。(中)

41)と 42)の例では、会話では意味が通 じることか ら許容 されることが多 く、なかなか間 違いだと気づかない学習者 も多い。作文指導においては、従属節の述語は辞書形 になるこ

とを繰 り返 し理解 させ る必要があるだろう。

さて、複文の中で誤用例が一番多い副詞節に移 るが、筆者 は誤用数 と使用率 とは比例す ると見ている。つま り、副詞節での誤用例の多い「〜ので/から」、「〜ために」、「〜のに」

は学習者が好んで使 う表現であ り、副詞節において最 も基本的な表現であるからである。

この中か ら一番誤用例の多い 「原因 。理由」を表す 「ので/から」 を見てみよう。

43)も つと大変なことは、専門の授業はまだ 日本語が五手:の (→下手なので)、 先生の話 (→)半分以上わか らないことです。

44)専門は墜羹│ゆ│で (→歴史なので)、 今年は勉強が (→ トル)日 本語だけでな くて (→ )、 日本史の授業 も取つています。(フランス)

これ らの例文か らもわかるように、誤用例の多 くは、名詞やナ形容詞の接続においてナが

―‑ 87 ‑一

(11)

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現れ ることを忘れてい るものであ り、作文指導 において ノデヘの接続 の仕方 を品詞別 に確 認 してお く必要がある。 ノデの誤用 はほ とん ど接続 に関す るものであ り、意味的な間違い はない よ うだ。これ に対 し、「〜ために」の用法 は、接続 の間違 い とともに意味的な混乱 に よる誤用 も多 く見 られ る。

45)国務省の大臣に盤:難難驀:難 (→なるために)、 アジアの専門家にな りたいです。(ア

メ リカ)

46)静岡大学ェ (→)農業 を勉強す る難機:難 (→のに)、 よい ところです。(イ ン ドネシ )

47)…先 生 の アイ デ ア塑:難(→のお か げで)、 会話 の試験 も楽 しか った です。(ハンガ リー)

「〜 ために」 は主節 の述語 の 目的 を表現す るものであ り、その よ うな関係 をしっか りと理 解 す る こ とが重 要 で あ る。 ま た、 ノニ も 目的 を表す こ とが あ るの で、 その よ うな ノニ の使 い方 に も留 意 す る必 要 が あ るだ ろ う。 ところで、 ノニの誤用 は、 目的 の用 法 で は な く、逆 接 の用 法 に集 中 してお り、期 待 にそ ぐわ ない結果 に続 くとい う文脈 が しつか りと理 解 で き て い ない と、正 しい使用 につ なが らない。

48)映画 を鷺難葉菱礎韮(→見たかつたですが)、 (→場所)をどんなに探 しあた らないで した (→探 しても、見当た りませんでした)。 (中)

49)静大の食堂は毎 日12時 (→ 12時 に)にかな り基難難場議難響 麟 (→混みますが)、 好き にな りました。(ドイツ)

単なる逆接の用法にノニを使 うために、不 自然な文 となっている。逆接 にっいては、初中 級の学習者 には 「〜が」「しかし」などに限定 し、ノニは 「〜のに便利だ」「〜のにいい」

な どの 目的を表す慣用句的な表現に限つて教 えるのがいいだろ う。

副詞節では条件節 (卜、バ、タラ)の使い分けがよく問題 になるが、今回の調査ではタ ラ以外の誤用 はほとんど見当たらなかった。 これは、これ らの表現が使い分けられている のではな く、条件 を表す場合はタラだけが使われる傾向が強いか らであろ う。今回の調査 ではタラの誤用は 「〜た らいい」の表現に集 中している。

50)私 (→)超自然的なコミュニケーシ ョン能力 を動灘輻 (→身につけることが できたら)いい と思います。(カナダ)

51)いい仕事 を轟響犠聯攀:(→見つけられたら)いいです。(アメ リカ)

このように、願望の気持ちを表す表現 として 「〜たらいい」が使われていることか ら、「可 能表現+たらいい」は作文指導においても重要な表現 として確認 してお く必要があるだろ

う。

副詞節の「時間節」に関しては、「〜あとで」「〜まえに」の表現に誤用例が現れている。

52):轟:癬鸞攀難簾翻 難轟轟 (→日本 に来るまえに)、 私はインターネ ッ トでた くさんの大 学を調べた結果、(中

)       :

53)攀難撃螢響 (→卒業 したら)、 有名な大学院に入 りたいです。(アメ リカ)

「〜まえに」 と「〜あとで」は一見簡単そうな表現であるが、接続するテンスを含め、意 外 と複雑な面があるため、分か りやすい例文 とともに何度も練習する必要があるだろ う。

複文の並列節では、テ形の誤用が一番多い。その中でも、原因 0理 由を表すテ形の用法 に誤用例が集 中している。

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静岡大学国際交流セ ンター紀 要 6号

54)私は奨学金や ビザを,も,ら:葺│■ (→もらう 55)静岡には (→)大きな都市に (→)

)、

 

うれしいです。(ロシア)

原 因 。理 由を表すテ形では、意志 な どのムー ドの表現 と共起 しない とい う規則 がある。 こ の規則 を知 らない と、安易 にテ形 で原 因・理 由を表 して しま うので、初 中級者への指導で は 「〜ので/から」 だけを教 えるほ うがいい と思 う。 また、並列節 で よ く見か ける間違 い に「〜 し」がある。「〜 し」はテ形 と同様 に早い段階で文 と文 を結ぶ表現 として教 え られ る ことが多いが、ただ単 に文 を結 んでい るのではな く、ある命題 に基づいて使 われてい るの で、その点が理解 され るよ うに教 えるべ きである。

5o)草が多蓄

'議

│(→ 多 くて)、 キャンパスはちよつ と議議華華 (広くて)、 いいながめが見え ます (→です)。

学習者の多 くが、「〜し」を単なる接続表現 として使 うため、このような不 自然な表現 とな るのである。接続する場合は、連用形かテ形で、ある命題について述べる時だけ 「〜 し」

が使われることをしっか りと理解 させ るべきであろ う。

最後に、文 と文をつなぐ接続詞 については、「それ とも」と「それか ら」の誤用例が 3例 あるが、特 にここで特記すべ き点 はない。

複文 について学習者が特 に注意す る個所 をま とめる と、名詞修飾節 の「外 の関係」、補足 節の コ トとノの使 い方、副詞節の 「〜ので/から」「〜ために」「〜のに」「〜た ら」「〜ま えに」「〜あ とで」、並列節 の 「テ形」 となるだろ う。 これ らの表現 に留意 して練習す るこ とが正確 な文の産出につながってい くことにな る。

3.4  語彙表現

誤用例 の2割を占める語彙 的な表現 について概観す るが、 これ らの間違 いは、正 しい表 現 を知 らなかった り、間違 つた使い方 をした り、辞書 な どか ら翻訳 した りした ものが多い。

明 らかに語彙的な知識がない ことか ら生 じてい る誤用 である。その表現 は多岐 にわたつて い るが、今回の調査 では、特 に 「指示代名詞」「時の表現」「天気 の表現」「〜す ぎ」に関す る誤用が 目立ってい る。63例の内訳 は以下の通 りである。

4.語彙表現

①指示代名詞

②時の表現

③天気の表現

④〜すぎ

⑤その他 42

  

指示代名詞 の誤用が7例あ り、すべて文脈指示の用法 に限 られてい る。 これ は、現場指 示 は文脈指示 と比べ分か りやすい とい う点 だけでな く、作文 な どの書 き言葉では 「現場指 示」 の代名詞 はほ とん ど使 われない とい う事実 を反 映 してい るか らであろ う。

57)総 (→その よ うな)旅行 をす るにはお金がた くさん必要です。(ロシア)

58)国務大 臣は轟藝 (→その)仕事 の前、主 く (→ トル)大学で仕事 しました (→仕事 を

ことができて)、 よかつたです。(エジプト)

比べて外国人があまり華ヽ義く:薄 (→いないの

―‑ 89 ‑―

(13)

静 岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

していました)。 (アメ リカ)

文脈指示 に使 われ る 「こ 。そ 。あ」 の違いだけでな く、「その」 と 「そのよ うな」、「あの」

と 「あのよ うな」、「なんの」 と 「どんな」 とい う表現の違いな どに混乱が認め られ る。具 体的な事柄 を示す 「この」「その」「あの」に対 し、出来事 な どを示す 「この よ うな」「その よ うな」「あのよ うな」の違 い を説明す る教科書 はないので、指示代名詞の説明ではこの点 を考慮す る必 要があるだろ う。

次 に、時の表現 も頻繁 に使われ るため、その誤用例 も多い。「時の名詞」や 「時間節」に お ける誤用 についてはすでに指摘 してい るが、以下のよ うな語彙的な間違い も多い。

59)饗藝難 撻 (→冬に)千葉県も愛知県も雪が降 ります。(イ ン ドネシア)

60)灘響難藝機 (→子 どものころ)、 ぬい ぐるみやおもちゃがほしかった。(ドイツ)

61)今静岡大学で勉強しています。 もう2ケ 月邁撃轟:難鶉灘 (→経ちました)。 (中)

59)であれば、「冬」には時の意味が含まれているので 「時」 と一緒には使われない とか、

60)の例であれば、時が示す期間が一定期間に及ぶ場合は 「ころ」が使われるとか、61)

であれば、時 と共起する動詞は「経つ」であるとい うことを知っている必要がある。また、

天気の表現 も学習者の作文 によく見 られる誤用例である。

62)業轟が (→静岡は)暖かいし、雪 も降 りませんから、ちょうど私の条件 に合っていま した。(スーダン)

63)お祭 りは (→)始まる時、風が吹 くし、栞難癬 (→ トル)寒いし、学校,行きませ

んでした。(中)

「天気」はその時々の大気の様子 を表す名詞で、「いい/悪い」で表 されるのが普通である。

通常はその 日の大気の状態 を表す と言える。これに対 し、そこの土地の気候 について言及 す る場合は、「気候が温暖だ/厳しい/おだやかだ」な どとい う表現が一般的である。この ような知識は、単語の意味だけでは分からないので、慣用的な表現 として教師から説明す る必要があるだろう。さらに、「〜すぎる」も初中級学習者の作文によく見 られ る誤用であ る。

64)この希望はちょっと撚撼警 (→立派すぎて)、 難 しいですね。(アメ リカ)

65)も し髪灘1彗る融 難難1器簿:器│(→お酒 を飲みすぎた ら)、 英語を話す ことや 日本語 を話 す ことができません。(カナダ)

65)の 誤用は、まさに英語の drink too much alcoh01"を直訳したものであろ う。典型的な 翻訳 日本語である。「〜すぎる」は述語に使われ るが、連体修飾節では使われないので、そ

のような点 も含めて、使い方 をよく練習する必要があるだろう。

「その他」の語彙表現では、まさに千差万別の誤用が見つかるが、その多 くが慣用的な 表現であるため、学習者 にはそのような表現 を覚えることが求められる。い くつか紹介す ると、「入学試験に参加す る→入学試験 を受ける」「奨学金 を勝つも奨学金 を得 る」「日本語 を改良する→ 日本語が上手 になる」「日本語 を練習する→ 日本語を勉強す る」「自信が強 く なる→ 自信がつ く」「出世をね らう→出世する」「新 しい友達に会 う→新 しい友達を作 る」「生 活 を生 きる→生活 を送る」など、1つ 1つ の単語を覚えるのではな く、初級の段階か ら助詞 や 目的語な どとの組み合わせで覚えることが重要であると言えよう。

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静岡大学 国際交流セ ンター紀 要 6号

4. おわ りに

今回の調査 の 目的は、普段 か らなん とな く感 じる学習者 の誤用 の特徴 を具体的な数字で 示す ことで、作文指導 において、 どの よ うな文法事項 に留意 した らいいのか、確認す るこ とであった。調査結果 か ら、 日本語文の産 出において初 中級者が特 に気 をつ けなけれ ばな らない文法事項 は、述語 と格助詞 との組 み合わせである文型 と複文 における副詞節である ことが明 らか になった。その次 に重要な項 目は、格助詞、主題 のハ、述語、複文の補足節 であ り、 さらに、 ヴォイス、ムー ドの表現、複文 における並列節 と続 く。文全体 を見渡せ ば、複文 を含 めた文の構造 の知識がいかに重要であるか、確認す ることがで きる。文の構 造 に関わ る誤用例 は全体 の60%に もな り、作文 においてはまず 日本語文の構造の正 しい知 識が求 め られ ると言 えるだろ う。

また、今回の調査では、初 中級 レベル の学生 は、 これ までに学んだすべての文法事項 を 満遍 な く使 うのではな く、かな り特定の表現 に限定 して使 ってい る事実 も判 明 した。た と えば、 ヴォイスであれ ば、受身や使役 な どの表現 はほ とん ど使 われず、や りもらい動詞 の ほ うが多用 され てい る とい う点である。また、「ほしい」「〜 たい」「〜 と思 う」な ど、 自分 の気持 ちや願望 を表す表現 が多 く使 われてい るのも特徴的である。 したがつて、 この よ う な表現 に特化 して教 えるこ とが、作文指導 においては重要なス トラテジー になるのではな いだろ うか。

作文 とい う行為 は、言語 を作 り出 してい く作業 であることか ら、文法 と語彙 の知識が しっ か りと問われ るものである。 これ は、発話 と同時 に言葉 がす ぐに消 えて しま う話 し言葉 と は大 き く異なる点である。作文では、文章 を作 るにあたつて、 これ まで学んだ文法知識 を 生か しなが ら、時間 をかけて推敲す ることがで きる。その意味で、確 かな文法知識があれ ば正確 な文章 を書 けることになる。 これ までの作文指導では、 どち らか と言 えば語彙表現 との組 み合わせ で教 えることが多かった と思 う。文法の枠組 み を教 える中で作文 を指導 し てい く方法 も重要であることを今回の調査 は示唆 してい る。

注】

1。 ここでは成分 とい う名称 を使 うが、その文法的な働 きによって、主語、補語、状況語、

修飾語 と呼ばれ ることもある。

2.「内容補充節」、「付llt名詞節」、「相対名詞節」 は、正式 には 「内容補充修飾節」「付随 名詞修飾節」「本目対名詞修飾節」 と呼 ばれ る。

参考文献】

大関浩美 (2010)『 日本語 を教 えるための第二言語習得論入 門』 くろしお出版

小柳 かおる (2004)『 日本語教師のための新 しい言語習得概論』ス リーエーネ ッ トワー ク 佐 々木嘉則 (2010)『今 さら訊 けない…第二言語習得再入 門』凡人社

日本語記述文法研究会(編)(2009)『現代 日本語文法 2巻』 くろしお出版

(2009)『現代 日本語文法

 

2巻』くろしお出版 (2007)『現代 日本語文法

 

3巻』 くろしお出版 (2003)『現代 日本語文法

 

4巻』 くろしお出版

‑91‑

(15)

静 岡大学 国際交流セ ンター紀要 6号

原沢伊都夫 (2010)『考 えて、

(2009)『現代 日本語文法

 

第 5巻 』 くろしお出版 (2008)『現代 日本語文法

 

第 6巻 』 くろしお出版 (2009)『現代 日本語文法

 

7巻』 くろしお出版

解いて、学ぶ

 

日本語教育の文法』ス リーエーネ ッ トワーク

Essay Teaching for Japanese Language Learners at Beginning and Lower-Intermediate Levels

-

On the Basis of Error Analysis of Learner's Written Compositions

-

Harasawa, Itsuo

The paper discusses effective teaching methods in composition classes for

Japanese language learners at the beginning and lower-intermediate levels. The author collected 33 writing essays of Japanese learners and analyzed 290 ercors found in the essays. The survey shows us that 60 0/o of the errors are related to a lack of knowledge of the Japanese basic structure in which 'Bunkei", the combination of case markers and the predicate is essential. While in Japanese composition classes teachers are

usually concerned more about lexical expressions, the survey teaches us the importance of grammatical knowledge for producing sentences. Therefore, it is

recommended that in writing classes teachers emphasize the structure of Japanese

language as well as lexical expressions, thus enabling learners to produce

grammatically correct sentences.

参照

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