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2 章火山起因物質の水無川河口周辺海底への堆積

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(1)

2 章 火 山起因物質 の水無川河 口周辺海底への 堆積

次 忠 男 政 体

田 原 山 台 石 内

弘 明 之 恭 茂 英

口 谷 首 山 塩 ノ 西

は じめ に

200

年ぶ りに火山活動を再開 した雲仙普賢岳 は,大量の火山噴出物を山麓 一帯 に放出 している。火山噴出物 は粒径により

0.2mm

未満の火山灰

,0.2132mm

の火山礎および

32mm

以上の火山岩塊に大別 され, この内火山灰は他 と比較 して 広範囲へ影響を及ぼす可能性があるため,以下本研究では火山起因物質‑火山 灰 と して調査 した。 また,雲仙普賢岳斜面に堆積 した火山灰 は,降水 によ り 徐々に締固め られ,保水性が悪い1 ) 事が知 られている。

水無川に発生する火山性土石流 ( 以下 は土石流 とす る)は,比較的少雨で も 発生すると同時に,島原半島地域が県内で も比較的多雨な地域である事か ら, 梅雨期を中心 と して土石流が発生 し易い地域であると報告

2)

されている。 この 土石流中には通常の土石および土砂 とともに,大量の火山灰が混入 してお り, 陸上への人的,物的被害 と, さらに島原湾へ流入 した際火山灰による水産業へ の影響が懸念 される。

水無川河口周辺海域 は古 くか ら沿岸漁業が盛んであり,多種多様の漁業が行 われている。島原市および深江町の漁業の代表的業態 は汀線付近の採貝 ・採 秦,距岸数十 メー トル以内の藻類養殖,共同漁業権以内の刺 し網,小型底曳 き 網,たこつぼ,いかか ご等の漁船漁業等である。操業区域 は多 くの業態が距岸

1

マイル以内の沿岸近 くである。現在,土砂による漁具被害

*

Ⅰ が生 じてお り, 漁業への土石流による被害が生 じてお り, さらに本漁場に流入 した火山灰によ る影響が考え られるが,海底 に堆積 した火山灰の直接的水産生物への影響は明 かでない。

‑ 121‑

(2)

そ こで,本調査研究で は土石流 と同時に漁場へ流入す る火山灰の海底堆積状 況を潮流 との関わ りにおいて把握 し,水産生物への影響を知 るための基礎資料

とす る事を 目的 と した。

なお,本稿をまとめ るにあた り潮流計の設置 ・回収および採泥調査 にご協力 頂 いた本学水産学部実習船 「鶴水

および長崎県水産試験場 「鶴丸」の船長を 初め乗組員各位 に深謝 申 し上 げる。 また,火山灰の化学成分分析 は長崎県窯業 技術セ ンターの多大なるご協 力を頂 いた事 を ここに記 し,深 く感謝 いた します。

1

節 調査 ・分析の方法

1.潮充観測の方法

水無川は普賢岳東斜面 に横 たわ る,文字通 り平常時 において流下水量がない 河川である。火山灰 は降雨に伴 って発生す る泥流および土石流に混入 して,主 として水無川を通 じて島原湾へ流入す る。 また,水無川河口周辺 は湾 口部の早 崎瀬戸 に近 いため,火山灰の堆積分布 に対 して強潮流の影響が無視で きない。

有明海における流況 に関す る調査研究 は水産業,干拓および船舶航行の側面 か ら潮汐による海水流動 につ いて研究 された3・4)のが始 まりとされている。以 後水理模型 による干潟海域の潮流特性並 びに干潟形成過程 における環流の役割 に関す る報告5,6),あるいは有明海および東京湾の潮汐 シ ミュレー シ ョンによ り非線形項 と境界条件が観測結果 と比較す る際,重要なファクターである事を 示 した報告7)および干拓事業 によるノ リ養殖漁場の開発保全 に関す る調査研究 8)がある。

しか し,何れ も有明海の干拓あるいはノ リ養殖 に関す る報告であ るため湾奥 に着 目 した研究であ り,本調査研究 における雲仙普賢岳の火山災害が直接及ぶ 島原市および深江町沖合 いにおける潮流観測例 はほとん ど無 い。 また,島原湾 海域 における流向は,上 げ潮流時で は湾奥へ また下げ潮流時では湾 口へ向か う

ことおよび反時計回 りの恒流 について報告9)されているが,主 と して船拍航行 用であるため表層流 についてのみである。 そ こで,火山灰の堆積分布 に関与す

ると考え られ る,水無川河 口周辺 における現場の潮流観測を実施 した。

潮流観測 は19926,8,11月および1993 4,6,10月 にそれぞれ3地点

‑ 122‑

(3)

2

章 火山起因物質 の水矧 I l 河口周辺海底への堆積

ずつ (199211月 は2点)の計17地点で実施 した。観測地点は水無川河 口周辺 (pl1‑ P23),その北部海域 (P31‑32),水無川河 口沖合 い (P41‑43), 島原市中尾川河 口周辺 (P51‑ P53)および湯江川河 口周辺 (P61‑63)であ るが,本稿では水無川河口周辺の流況についてのみ限定 したため,図 1には北 側か らP21‑P23と水無川河 口沿岸 とはぼ平行 に,3地点のみ と して示 した。

∫ll

図 1 潮流計設置位置

‑ 123‑

(4)

なお,等深線 は本研究 の一貫 と して実施 した海底地形調査結果の一部 を示 し た。本地点の潮流観測 は同年 8

6日か ら9

7日の32日間行 った。

観測機器 は記録容量および測定項 目が異なる

2

タイプの メモ リー電磁流速計

(A社製ACM‑8M5台およびACM‑16M 1台)を同時 に使用 した。 メモ リー電磁流速計 は10分間に30データの観測で,約30日間以上の計測が可能であ る。

測定仕様 は10分毎 に30データを0.5秒間隔で測定 し,デー タロガーに連続記 録 し,約30日後 に機器を回収 した。流速データの取 り込みはデータロガーか ら 専用 イ ンターフェイス (A社製 IF‑32)を介 してパ ー ソナル コ ンピュー タ

(N社製PC‑9801RX)に転送収録 し解析 に用 いた。

設置方法 は図

2

に示 した通 り

2

点で係留 したブイ‑の電磁流速計の懸垂によ り,一定深度を保持す る方法 を用 いた。観測ブイの係留 は20kgダ ンホース型ア ンカーおよび約30kg土俵を用 いてステ ンレスワイヤ‑ (¢‑6mm)によ り固定

2

本のア ンカーが ほぼ南北 になるよ う設置 した。係留装置 は夜間において も 視認 で きるよ う,全ての ブイおよびア ンカー位置 に も小型標識灯 (ゼニ ライ ト)を取 り付けた。電磁流速計の設置深度 は上層 と中下層 における流況の違 い を想定 して,5および20m2層 と した。

1 2 4

(5)

2 章 火 山起因物質の水無川河 口周辺海底への堆積

図 2 係留 ブイ式計測方法概略図

ー 125‑

(6)

2 節 海底泥の採集方法 と火 山灰 の識別および堆積量測定方法

(1)

海底泥の採集方法および試料採取の方法

水無川河口周辺海域における採泥地点は図 3に示 した通 り緯度,経度それぞ れ

0.1

分毎の格子点上の

34

点 とし

,GPS

位により毎回はぼ同一地点での採 泥 となるよ う留意 した。なお,本研究では底質に関わ らず海底か らの採集を

「 採泥」と表現 し,採集 した試料を単に 「 泥」とし,採泥によって得 られた泥 と同時に火山灰を採集 した。また,漁場海域における火山灰の堆積量を,その 厚さで知る事を目的としているため,以下堆積量は各調査地点における鉛直方 向の火山灰の深さを

cm

で表 した ものと定義する。

したがって,火山灰の堆積量 は直接海底に突 き刺 して火山灰の堆積量が測定 できるコアの使用が考え られたが,海底泥上に堆積 した火山灰の採集方法は, 従来の海底が粗い砂地が多いためグラビティ‑コア等のコアサンプラーでは固 く締まった火山灰層により海底に突 き刺さらないか,または突き刺さって も試 料が脱落 し,使用できなかった。

32'45'N

1 3 0 ° 21 ′ E 2 2 ′

23 24'

3

採泥地点

‑ 1 2 6‑

(7)

2 章 火 山起 因物質 の水無川 河 口周辺海底 への堆積

写真 ス ミス ・マ ッキ ンタイヤ採 泥器

そ こで,本研究で は「般 に底質 およびベ ン トス調査 に使用 され る小型 ス ミ ス ・マ ッキ ンタイヤ採泥器 (採泥面積

0 . 0 5

m2;写真参照)を用 いた採集を行 っ た。 ス ミス ・マ ッキ ンタイヤ採泥器 (以下 は採泥器 と略記)は岩盤および硬質 の様 な極めて固 い底質の地点以外,潮流が比較的速 いとされ る本海域 において

も有効 に海底泥を採集で き

蓑 1 1 9 9 2

年の採泥調査 日と土石流発生状況 た。 しか し,採泥最大深 さ

11cm余 りであ り,それ以上 の堆積量 は測定で きないと

い う欠点を有 していた。

表 1

1 9 9 2

年の調査 日と その前後 における土石流の 状況を示 した ものであ る。

土石流発生 に関す る記録 は

広報 しまば ら

*2に依 っ

。1 9 9 2

年の採泥調査 は

3

6/ 7 梅雨入 り

6/23 7/13 7/20

8/ 8 台風10 8/12 前線活発化 8/15 前線活発化 8/24

9/2 9

ll/4‑

土石流 土石流 土石流

7月採泥調査 日 大規模土石流 大規模土石流 大規模土石流

8月採泥調査 日

土石流

11月採泥調査 日 資料 : 「広報 しまば ら」 *1

‑ 127‑

(8)

度の通常規模の土石流発生

1

週 間後 の

7

月,

3

度 の大規模土石流発生

1

0日後の

8

月お よびほとん ど土石流発生がない期間が

3

ケ月継続 した平穏時 と して

1

1 に実施 した。

(2)堆積量測定

火山灰堆積量の測定 に先立 ち,採集 した海底泥か ら火山灰 を識別す る必要が あ った.宮原lq)は火山灰の水銀含有率が一般底質 と比較 して少 な い事 を利用 した分析 を行 い,松 岡= )も火 山灰試料 を用 いた粒度分析 を行 ったが, いずれ も海底 にお ける火山灰の堆積層厚 さについて はほとん ど言及 していない。

そ こで,本研究で は,火山灰か どうかの識別 は目視 による方法 (以下 は目視 法 と略記)およびLossonlgnition法 (以下 はIg.loss法 と略記)を用 いた 2方法 を併用 した。 また,Ig.loss法 に先立 ち行 った火山灰 および従来の海底 泥それぞれ につ いての化学成 分 含有率 による識別方法 は本研究 にお いて有効で

はなか った。

試料 の採取方法 は図

4

に示 した とお り,採泥器によ り採集 した泥 中に,内径 26mm,全長 120mmの塩化 ビニール製パ イプを垂直 に突 き立て,両端 に栓 を した ものをサ ンプル コアと した。 サ ンプル コアは一地点 につ き2本採取 し船上 にお いて 目視法 を実施 し,Ig.loss法試料および粒度分析用試料 と して‑30℃で凍 結 した。

目視法 による識別および堆積量測定

海底 に堆積 した火山灰 は調査初期 において は特徴的な色 と明瞭な層 をな して いたため,火山灰の影響 を受 けて いない海底泥 とその上 に堆積 した火山灰 との 境界層 を容易 に区別で きた。 しか し,堆積後時間が経過す るにつれて,上下層

一 日 >26mq < ‑ ‑

I r

4

海底に堆積 した火山灰の採取例

‑128‑

火 山 灰 5C皿

海 底 泥 6cm

(9)

2

章 火 山起 因物 質 の水 無 川 河 口周 辺 海 底 へ の 堆 積

の混合が認め られ境界層の識別が困難 になるコアサ ンプルの発生が認め られ た。 また, 目視法 は個人差 による誤差 を回避す るため,複数人の判定によ り 行 った。以上の点を踏 まえて, 目視法による堆積量測定はコアサ ンプル中の火 山灰 と思われる層を注意深 く観察 しメジャーによって ,1 0

1cm

単位までを読み 取 った。

② 化学的方法による識別および堆積量測定

火山灰 と火山灰の影響を受けていない海底泥について,含有 される化学成分 の比較を行 った結果 は表 2に示 した通 りであ る。珪素,チタ ン,アル ミニ ウ ム,秩,カルシウム,マグネシウム,ナ トリウムおよびカ リウムの 8 元素につ いて,それぞれの酸化物 としての含有率を比較 した結果,酸化カルシウム以外 はほとんど差が見 られなか った。

酸化カルシウムが火山灰の影響のない海底泥中において含有率が高かった理 由は,貝殻中に含まれ る炭酸カル シウムに起因するためと考える事ができる0 したが って,カルシウム含有率による火山灰の識別は貝殻の有無に大 きく左右 される事, さらに火山灰の影響のない海底泥 自身のカルシウム含量の差 も大 き い事か ら,カル シウム含有率を指標 とした方法での火山灰堆積量の判定および 測定法は不適当であると判断 した。

蓑 2 火 山灰 と火山灰の影響 のない海底泥の化学成分比較

試料 No. 化

成 分

Si O2 Ti O2 A1 2 03 Fe毛 03 CaO MgO Na2 0 K2 0

3 2 7 7 2 8 8 0 0 0 0 0 2 4

2 1 4 3 4 3 0 2 2 2 2 2 2 2

8 8 7 5 7 0 7 3 3 3 3 3 4 3

3 9 8 1 9 7 8 2 1 1 2 4 1 1

3 6 1 7 4 2 9 5 5 5 4 2 6 8

9 9 6 0 1 1 0 3 3 3 4 4 4 4

9 2 2 0 5 1 2 6 7 6 7 5 6 5 1 1 1 1 1 1 1

5 6 6 6 6 6 6 0 0 0 0 0 0 0

1 9 5 5 0 5 1 5 4 6 4 6 2 9 6 6 6 6 6 6 5

Al M M B C

D

E

A l: 未処理火山灰 A 2:A l を蒸留水で洗浄 した火山灰

A2:A l を蒸留水 に懸濁 させ 3 0 分間放置 した

上層液を凍結 して得た火山灰 ( 極 く微細 な火山灰が含まれ る)

B,C:

未処理 火山灰

D :

火山灰の影響のない海底泥の上層

E:

火山灰の影響のない海底泥の下層

1 2 9

(10)

一方,表 2 中の I g.l os s の値を比較すると,火山灰では 0. 7% 以下であ った のに対 し ( 純粋に火山灰のみであれば 0%であると考え られ る) ,火山灰の影 響のない海底泥ではその

4‑

7 倍であ った。試料において I g.l os s が 0%と な らなかった理由は明かではないが,火山灰が採泥地点 に至 るまでの問に有機 物が混入 した事を示 していると考え られる。 しか し,火山灰の影響を全 く受け ていない海底泥 との差は十分有意であった。

I g.l os s とは灼熱減量の ことで,60 0 ℃前後で長時間燃焼 した場合の重量の 減少百分率であり,有機物質含有量に相当する値である。本研究では,まず コ アサ ンプルを目視により積層状態を判定 しなが ら, 3‑ 5 層に分けた後,水分 除去の 目的で1 0 5 ℃で熱す る。次に, これを薬サ ジで軽 く砕いた後,1 9 0 〝のふ るいにかけ粗砂および礎等の極端な重量物を除去 し,泥質部のみを得た。 これ を再び1 0 5 ℃中に放置 し水分を完全に除去 した後,重量を測定 しこれを燃焼前 重量 とす る。 これをルツボに採取 し 61 0 ℃で

24

時間灼熱 し完全に燃焼 させた。

水分の混入を防止す るためにデシケータ中にて冷却後,重量を測定 しこれを燃 焼後重量とす る

以上によって秤量 した燃焼前重量 との差に対す る燃焼後重量 を百分率で表 した ものを I g.l os s( %)とし,以下の式で求めた。

I g.l os s( %)

(

焼前重量 一燃焼後重量)

燃焼前重量 × 1 00

I g.l os s 法 による判定の実例を図 5 に示 した。例えは N0.1 の試料で は A‑C 層 と

D

層 との間に I g.l os s の大 きな差があ り,火山灰はC 層 (6c m) にまで及んでいると判定 した。N0.2 の試料では,A, B層はほぼ火山灰であ り,

C

層 (

6

c m)には火山灰がかな り混入 して いたが,

D

層には火山灰 はな か ったと判定 した。N0.3 の試料ではA層 ( 1c m)にのみ火山灰が若干混入 し ていたと判定 した。

また,I g.l os s による判定が困難な場合 もあり, この場合には目視による判 定 も考慮 した。なお, この場合の目視による判定はコアサ ンプルの観察,乾燥 粉末泥の観察,および1 9 0 〟でのふ るい操作前後の試料の観察の結果を総合 し て判断 した。

‑ 1 3 0‑

(11)

2 章 火山起因物質の水無川河 口周辺海底への堆積

No.1

1g.一oss

(% )

No. 2

lg.loss

(% )

No. 3

1g.loss

(% )

5 1g.loss

法 による堆積量判定例

3

節 結果および考察

1 .水無川河口周辺海域の涜況

水無川河口周辺を中心 とした,北か ら観測地点 P2

1

, P2 2 およびP2 3 の流速 頻度分布は 5m層を図 6 に ,2 0m 層を図 7 に示 した。本海域における流向は, 上げ潮流時では湾奥 ( 北方)へまた下げ潮流時では湾口 ( 南方)へ向か う傾向

と 3 地点それぞれの観測結果がほぼ一致 していた。

5m 層の流向は,上げ潮流時に頻度分布の先端部分即ち約1 . 2 ノッ ト以上の 極大流速時前後 になると流向は東方向へ偏向 してお り,また下げ潮流時に流速 が速 いほど頻度分布が疎 となる傾向が認め られる。 これ らの傾向は北側の観測 地点 ほど大 きくなっている。

‑ 131‑

(12)

」 10

UIN

i 0 轄 虫 増 額 ] こ

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UuS9

(13)

2 章 火 山起 因物質 の水無 川 河 口周辺 海底 への堆積

ー 133‑

轄 虫 増 野 ] こ

Lfe

陛 tL Z

ON

(14)

これ ら流 向が変動す る要因 は

P21

の北方約

0.5k

m以北 に位置す る眉山崩壊

(1792

年)による複雑な海底地形によるものと考え られ,漁業者の言葉による 大潮時の潮が沖にはねるという事 と一致 している。ただ し, この現象は 2 0m 層 には見 られず,表層近 くにのみ現れる現象であると認め られる 。20m 層の流軸 は, 5m層 とほぼ同様の傾向であるが,流向の変動は小 さく明瞭である。

5m層 と 2 0m 層 とでは頻度分布に若干違いが見 られたが,何れの地点におい て も流軸は上げ潮流時に北北東一北東,下げ潮流時に南南西 ‑南西方向である といえる。 したが って,本海域における流況は憩流時間が短 くはば半 日周期の 往復流に近い流れであると考える事がで きる。なお,進行ベ ク トルは緩やかに 北東向きであり,恒流

9)

と異なる結果 とな っていたが,本稿では火山灰の堆積 状況の把握を対象 としたため検討 していない。 しか し,火山灰が海底に達す る

までの拡散および移流の把握には影響す るため,今後検討 したい。

2.

火山灰の堆積状況

各月毎の火山灰の堆積状況 は,各採泥調査地点 における堆積量の等 しい点を 結んだ ものを等層厚線 として示 した。等層厚線 は目視法および I g.l oss 法の 両方法について図示 した場合,極端な相違点が認め られなか ったが,細部にお いては堆積状況が若干異なっていた。

(1)

目視法による堆積状況

図 8 は各月毎の目視法 による等層厚線を示 した ものである。

Ocm

層の線は火 山灰が この範囲の外側では堆積が認め られなか った境界を示 してお り,

2‑ 3

c

m層の線はある程度堆積があ り,

5c

m<は

5c

m以上の堆積がある事をそれぞれ 示 している。なお,図中括弧内の堆積量は等層厚線を結んだ際,周囲とは堆積 傾向が異なっていた地点を示 している。

7

月の堆積状況は

2‑3

および

5c

m層が島原市北安徳町沖合いにかけてやや 北へ伸びた形状をな し,河口か ら1マイル以内に集中 している。北安徳町沖合 いへの堆積 は,土石流が国道

57

号線 と水無川が交差す る島原市札の元町付近に おける川の屈曲地点において 川 か ら溢れ出たものが,直線的に海岸に達 し海に 流入 したためであると考え られる。

8

月の堆積状況は

2‑3

および

5c

m層が水無川河口の極近 くに集中 している 点では

7

月の結果 と同様であ った。 しか し

, 8

月の堆積形状 は

7

月の堆積形状

‑ 134‑

(15)

2

章 火山起因物質 の水無川河 口周辺海底への堆積

130'27'E 22' 23' 24' 25'

図 8 目視法 による火山灰堆積状況

‑ 1 3 5‑

(16)

が半円状に対 し,片仮名のコの字型に近い形状 となっていた。この堆積形状の 変化は約 1 ケ月の間における潮流に起因 したものと,また 8 月 8,1 2 ,1 5 日に 発生 した 3 回の大規模土石流により火山灰が流入堆積 したためと推察される。

これは一度堆積 した火山灰は水無川河 口周辺海底に全てが定在す るので はな く,一部は時間と共に変化 している事を伺わせた。

7 および 8 月の堆積は土石流発生から約 7‑1 0 日後の状態を示 しており,秦 側‑の堆積範囲の広がりでは

8

月の方が,やや大 きくなっているものの何れ も

2‑ 3cm

の等層厚線の範囲は水無川河口を中心 とした半径

1

マイル以内に集中 する事が明かとなった。

一方,11 月の堆積状況は 7および 8月とは堆積範囲および堆積形状共に大 き く異なっていた。

Ocm

層の堆積範囲は東側へはほとんど広が ってお らず,南 ‑ 南西方向へ若干広がっていた。 しか し

, 2‑3

および

5cm

の等層厚線は,何れ も8 月の堆積状況 と比較 して南一南南西方向へ約 1 マイル広がっている。 8 月 の結果でみ られたコの字型分布が,北東および南一南西方向‑向かって拡大 し た形状 となっていた。 この方向は前述 した下げ潮流時の流向の主軸方向と一致

している事か ら潮流の影響であると考え られる。また, 8 月の調査以降ほとん ど土石流が発生 しなか ったにも関わ らず,堆積量が 8 あるいは1 1 c m 以上の地点 が認め られた。 この地点は水無川河口沖合いの海底傾斜が緩やかとなる点 とほ ぼ一致 しており, この海底地形 と潮流 とにより火山灰が集積滞留 し易い地点で ある事が示唆された。

( 2 ) I g.l o s s による堆積状況

図 9 は各月の I g.l os s 法による等層厚線を示 した ものである。図中の各線 の表示方法は目視法 と同様である。

7 月の等層厚線は水無川河口北方約0 .1 マイルを中心 とした半円状の堆積で ある。 3 回の調査では 7 月の堆積範囲が最 も狭かったが,河口より北側に堆積 が多 くみ られた点において類似 している。

8 月の 5 c m 以上の堆積範囲は 7月の傾向と異なり水無川河口の沖合いへ向け て拡大 した形状 となっていた。 これは,土石流の回数が同 じであったが,規模 が 7 月より8 月の方が海‑の影響 も大きかった事が推察される。 2‑3

cm

層 も 全体的に

7

月よりやや沖合いに位置 している。

Ocm

層は

7

,

8

月ではほとんど 変化が認め られなかった。

‑ 136‑

(17)

2

章 火山起因物質の水無川河口周辺海底への堆積

130'21'E 22' 231 24' 25'

図 9

Ig.loss

法による火山灰堆積状況

‑ 1371

(18)

1

1 月の等層厚線 は

5cm

以上では

8

月の結果 とはぼ変化がないが,

2‑ 3cm

お よび

0cm

では南および南西方向へ伸びた形状となっていたが,目視法の結果は ど堆積範囲の拡大が顕著ではなかった。

(3)

2 方法の比較 と潮流との関係

土石流によって もた らされた火山灰は土石流が急斜面を流れ下 る際に発生 し たエネルギーにより,沖合いへ押 し出され一次的に堆積すると考え られる。 こ こでの一次堆積 とは前述の 7および 8月の等層厚線における,水無川河口周辺 に限定 された状況をいう

土石流は流れというよりも,む しろ段波の進行であ り最大速度は

20m/

Sを越える事 もあるとされている。 この際のエネルギーが 東方向 ( 沖合い方向)‑の堆積範囲の主要因であると考える。一次的堆積は

7

および 8 月の堆積状況か ら見て,海底に火山灰が到達するまでの間に,潮流の 影響が比較的小 さか った事を示す ものと思われる。

一万, 8 月の採泥調査以降,約 3 ケ月経過 した

1

1 月の堆積状況は,東 ( 沖合 い方向)への広が りはほぼ一次的堆積形状を保持 したのに対 して,南方へは陸 岸 とはぼ平行方向に長径を有す る楕円状に広が っていた。 これを二次的堆積 と すると,約 3ケ月間の堆積範囲の拡大方向はほぼ水無川河口周辺における流向 と一致 していた。二次的堆積に至る過程において,潮流は海底における火山灰 の堆積範囲の拡大に密接に関与 している事が考え られた。

目視法および

Ig.loss

法の

2

方法を用いた火山灰の堆積状況では,

0cm

層 では両者にほとんど差異がみ られなかったが,

8

月の結果において堆積形状が また

1

1 月の結果において堆積範囲に若干の差異がみ られた。 8 月の堆積形状の 差異は目視法による測定の際,明 らかに火山灰 と思われる層が少なかったため に

,Ig.loss

の堆積範囲が広 くなった事が考え られる。

1

1 月の堆積範囲は目視 法の結果が

Ig.loss

法より広 くなっている。 これは潮流による堆積範囲の拡 大において,小さい粒径程大 きいと考えれば 目視法が主として粒径が細かい 火山灰を

,Ig.loss

法がやや大 きい粒径までを把握で きる事を示 していると推 察される。

お わ り に

火山礎以上の粒径であれば,堆積範囲は広範に及ぶ事はな く河口直近に土砂 と共に堆積すると考えれば,火山礁以下の火山灰の堆積範囲は目視法および

‑1 3 8 ‑

(19)

2 章 火山起因物質 の水無川河 口周辺 海底への堆積

I g.l os s 法の併用により潮流 との関わ りにおいて概ね把握で きたと考え られ る。なお,潮流観測地点 P21 以北の複雑な海底地形における採泥調査が十分で きず本稿では堆積状況が総合的に把握できなか った。 しか し,本年 3 月に実施 された潜水調査および一回のみの採泥結果であるが,島原市外港沖合い海底の 岩礁の間隙において相当量の火山灰の堆積が確認 された。

以上の結果か ら,島原湾全体か らみれば,海底に堆積 した火山灰の範囲は現 在のところ極 く限 られた狭い範囲に過 ぎないが,現在陸上被害が最 も大きい島 原市および深江町沿岸部沖合い約 1 マイル沖合い付近に楕円状に堆積が集中 し ている事が明か とな った。現時点での水産の有用生物資源への火山灰の影響 は 明かではないが,本書

3

および

4

章において火山灰の底生動物および貝類‑の 影響について検討がなされ,特に海底付近を主たる棲息 ・遊泳層 とす る漁業対 象生物への影響が今後現れる事 も十分考え られる。

海洋の汚染は過去の公害の例によって も明 らかなように,海洋が有する大 き な緩衝作用および自浄作用によって,汚染が明確に現れた時点においてはかな り進行 し,末期的状態に達 していると考えねばな らない場合が多い。雲仙普賢 岳の再噴火による火山灰の海洋への流入は自然現象であ り人的災害 とは異なる が,土石流の発生毎に確実に火山灰は大量に海洋へ流入 し,いわば自然による 汚染が蓄積 されっっある事が考え られる。現在,土石流発生時に島原湾へ流入 す る流木被害対策としては既に流木防止 ネッ トが水無川河口沖に施設 され,一 定の効果が認め られている。

自然の猛威 自体を制御する事は現代の科学技術を駆使 して も残念なが ら無力 な事が多いが,被害を最少限度に止める事は可能である。 したが って,土石流 と同時に海洋‑流入する火山灰による海洋汚染に対する防止策について,早急 に考慮 されるべ きであると考える。

* 1 聞 き取 り調査による

* 2 島原市 : 「 広報 しまば ら 」,昭和堂.

‑1

39 ‑

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参 考 文 献

1

)池永 敏彦,武政 剛 弘 :土壌 改良材 を用 いた雲 仙火 山灰土で の作物栽培試験, 長 崎大学 教育研 究特 別経 費研 究成果 「 雲仙 火 山災害 の調 査研究 」 ,pp. 6 4‑7 0 ,

1 9 9 3 . 6.

2 )荒生 公雄 ,久米 智 子,河 田 誠 : 1 9 9 2 年 に火 山性土 石流 を発生 させ た島原地 方 の降雨 の特徴 , 同上 pp. 4‑1 9 ,1 9 9 3 .

3 )長 崎海洋気 象台 :有明海の総 合開発 に関連 した海洋学 的研究 ,1 9 5 4 . 4 )長 崎海洋気象台 :同上 ,1 9 5 5 .

5)高 田 雄 之,戸原 義 男 :有 明海の水理模型実験 につ いて( 2) ,潮汐伝搬 と締切進 行 に と もな う内潮 位 変 動 の検 討 につ いて , 第 1 0 回 海岸 工 学 講 演 会論 文 集 ,pp.

7 5‑7 9 ,1 9 6 3 .

6

)戸 原 義 男, 加 藤 治,瀬 口 昌洋 :有 明海 の潮流 と拡散 ,混 合 に関す る研 究 ( 1 ) ,第 2 5 回海岸 工学講 演論文集 ,pp. 5 5 6‑5 6 0 ,1 9 7 8 .

7)S.Unoki

,Ⅰ

.Isozakiand S.Otsuka:Nu血ericalComputation orStorm Surge and Tidein Tokyo Bay,Second Harbor Construction Bureau

,

MinistoryofTransportion,Japan,pp.

1 2 5, 1 9 6 4.

8

)加 藤 重‑,乃万 俊 文,荻 野 静 也 :ノ リ漁場 の改良 保全 に関す る調査研究 , 有 明海 および松 川浦 ( 福 島県 )地 区 につ いて,農 業土木試験場報告,

B

( 水 理 ) 第 3 7 号 ,1 9 7 6 .

9 )海上保安 庁水路部 :島原湾 ・八代海潮流図,第 6 2 1 7 号 ,1 9 7 8 .

1 0 ) 宮原

昭二郎 :

「 火 山灰 の底質 への堆積状 況調査 」及 び 「 火 山灰 の海水 中にお け る拡散 状況調 査」,長 崎大学 教育研 究特別 経 費研究 成 果 「 雲仙 ・普 賢岳火 山活動 による有 明海水産業 に及 ぼす影響 の調査研 究 」,pp. 2 3‑3 7 ,1 9 9 2 .

ll ) 松 岡 敷充 :雲 仙 ・普 賢岳噴火以降 に採取 された島原沖 の海底 表層堆 積物 につ い て,同上

pp.

3 8‑4 5 ,1 9 9 2 .

1 2 ) 本 間 仁 :新版河川工学, コロナ社 ,東京 ,1 9 5 8 ,pp. 1 4 3 .

ー 1 40‑

図 2 係留 ブイ式計測方法概略図
図 8 目視法 による火山灰堆積状況
図 9 I g . l oss 法による火山灰堆積状況

参照

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