金 沢 大学 十 全 医 学 会 雑 誌 第1 0 5巻 第1 号 1 2 1‑1 3 5 (1 9 9 6)
Ⅹ 連 鎖 無 r ‑ グ ロ ブ リ ン 血 症 2 家 系 に お け る ブ ル ト ン型 チ ロ シ ソ キ ナ ー ゼ遺伝 子 異常の解析
金 沢 大 学 医学 部 医学 科 小児 科 学 講 座 (主任: 谷口 局 数 授)
新 井 田 要
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Ⅹ連鎖 無 r‑グロプ リン血症 (X‑1inked aga m m aglobulin e mia・ ⅩL A) は B リン パ球 系細 胞に特異 的な分 化 異常が生じ成 熟 B 細 胞 数と免 疫グロ プ リン値が低 下 すること を特 徴と し た遺 伝 性の免 疫不全 症 候 群である. 患 者 男性ほ典 型 的には乳 児期 後 半 よ り細 菌 感 染を反 復 する ように な り, 免 疫グロ プ リン補 充療 法が 必要と な る. 近 年ⅩL A の責任 遺 伝 子 加点 が同 定さ れ, その 遺 伝 子 産 物は ブルトン塾チ P シ ソキナ ー ゼ(B rutO n's t yr o sin e k in a s e,Btk) と命 名され た. Btk の単 離 乳 X L A 患 者における 遺 伝子変 異は既に1 0 0種 類 以上報 告されている・ 今 臥 軍L A の 2 家 系に つき 逆 転 写 P C R 法 (r e v e r s e tr a n s c ribed‑P C R,
R T‑P C R), P C R ダ イ レ クト シ ー ク エ ン ス 法 (P C R dire ct s equ e n cing), 競 合 逆 転 写 P C R 法 (c o mpetitiv e R T‑P C R,
C R T‑P C R), お よ び P C R を 用いた イントロ ン1 0調 節 領 域のメ チ ル化の検 出の4 つの方 法によ る系統 的な Btk 遺 伝 子 変 異の解 析を行った・ 家 系1 では Btk の翻 訳 領 軋 一部のプロモ ー タ ー 配列を含む 5'側 非 翻訳 領 域, ざ側 非翻 訳 領 軌 イントロ ン1 0の
調節 領 域の全て におい て塩 基配 列ほ 正常であっ た が, C R T‑P C R によ り Btk 遺 伝子の転 写が減 少し ていること が 示 さ れ た. 家 系2 において ほ イントロ ン1 6のス プライス ドナ ー 内にG か ら C への1 塩 基置 換が認め ら れ た. こ の変 異のた め Btk rnR N A の 異常なス プライスが生じエ ク ソン1 6 とエク ソン1 7の間に60塩 基 対の挿入 が生じた. ま た, こ の変異のた めエ ク ソン1 6以 降に フ
レー ム シ フ トが生じ Btk タンパ クは早 期 翻 訳終 結して いた. C R T‑P C R の結 私 家 系2 に おい ても Btk m R N A 量の低 下が認 め ら れ た が, これ ほ変 異によって異 常なスプライスを生じ ている m R N A の安 定性が低 下した た め と解さ れ た. 家 系2におけ る保 因者 診 断を P C R と変 異 対立遺伝 子特 異 的な制 限 酵素Pv u Ⅱ認 識 部 位を 用い て行い ‥患者の姉の 一 人が保 困着であること が判明 し た・ 患 者 末 梢血由 来Epstein‑Ba r r ウ イル ス形 質 変換 系B細 胞 株における イン トロ ン1 0の調 節 領 域は家 系1 , 2 ともに
メチ ル化さ れ て お り, こ の こと ほ 両家 系の患 者に存 在 する わずか な B 細 胞 も完 全にほ成 熟してお らず 幼 君 性を残して いること を 示唆し た.
K ey w o rds X‑1inked aga m m aglobulinemi a, B r uton,s t yro sin e kin a s e, ge n e m utation,
CO m petitive r e v er se tran s c ribed P C R
Ⅹ連鎖 無T‑グロブ リン血症(Br uto n 型, X‑1inked aga m m‑
aglobulin e mia,X L A) ほ,1 9 5 2年 小 児 科 医Br uto n によっ て報 告 さ れ たヒ ト の液 性 免 疫に関 する最 初の遺 伝 性 疾 患である‑ ).
X L A ほ Ⅹ連 鎖 劣 性 遺 伝の形式を と り, 典 型 的な患 者 男 性にお
い てほ末梢血液 中のB リン パ球 数は0.1% 以 下と著明に減 少し,
血清 免疫グロ ブリン値 も 全て の分画におい て異 常 低 値を 示す ( 通常IgG 2 0 0mg/dl 刺 凱 IgA 5m g/dl 未 満, IgM 2 0m g/dl 未満). 母親か らの移 行 免疫が消 過 する生 後6 カ月 頃よ り肺 炎 双球 菌▲ 連 鎖 球 菌, インフ ル エンザ菌を 主体と した細 菌 感 染( 肺 炎, 中 耳 軋 副 鼻腔 炎) を繰り返 すよ うにな り最悪の場 合 敗血 症よ り 死に至る場合 も 有り得る. リン パ系 観 織の発 育ほ 不良で
表在リン パ節は触 知さ れず, 口蓋扁 桃 ・ アデノイ ドも低 形 成を 示す・ ま た! 反復 感 染がある にも関わ らず 脾 種を認め ること は ない2).
患 者の末 梢血において ほ 甘粕胸が著 滅して いる が骨 髄 中のB 前駆 細胞 数ほ 正常であり, 近年ⅩL A の病態は B 細 胞の分 化 ・
平 成7 年1 2月2 5 日受付, 平 成8 年1 月1 7 日受 理 A b br e viations: bp, ba s e pair s; Btk, Br uto n
,
s
成 熟の障害にある と考え ら れ る よ うに なっ て いた. そ ん な中 1 9 9 3年に本 疾 患の責 任遺 伝 子が 同定さ れ ブル トン型チ ロシ ソキ
ナ ー ゼ(Br uto n
'
st yr o sin e kin a s e,Btk) と命名さ れ たa) 4). Btk は
癌 遺 伝 子Sr c 類似の構造を持ち な が ら全く新しい フ ァミリー に
属 する非レセプタ ー 型テロ シ ソキナ ー ゼ であり, B 細 胞の初期 分 化に関わ る細胞 内シ グナ ル伝 達に重 要な働 きを し ているもの と▲推 定さ れ た. Btk には細胞 特 異 的, 分 化段階 特 異的な発 現が あり B 前駆 細胞, 成 熟B細 胞, 顆 粒 球, 単球お よ び幼 君丁細胞
には発 現を認め る が成熟丁細胞, 形 質 細 胞, 非 造血 器細 胞には 認め られ ない5) 6 ). ま た! Btk 遺伝 子のイン トロン1 0にほ発 現に 関 与 する と思わ れ る調節 領 域があり, こ の部 位ほ成熟B 細 胸で のみ特異 的に脱メ チ ル化されていること が知ら れて いる7 ).
Btk 遺伝子の単 離後. X L A 患 者における Btk 遺伝子変 異が 次々と報 告さ れ, 本 疾患の遺伝 子レ ベルでの患 者 診 断・ 保 困者 診 断が 可能であること が 示 さ れ た8 ト 1 7). 今回, 金 沢 大 学 医 学 部 小 児 科忙て経過 観 察 中の X L A 2 家 系に閲し Btk 遺伝 子の異常
t yr osine kin ase; C R T‑P C R, CO mpetitiv e re verse tr a n s cribed‑P C R; D E P C, diethyl p yr o c a rbo n ate; DI G, digo xigenin; d N T P, de o xyribo n u cle otide tripho sphat 9 ; P B S , pho sphate‑buffe r ed s alin e ; P H, ple ckstrin ho m olog y ; R T‑P C R, r e V er S e tr a n S C ribed‑P C R ; S H ,
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を解 析し ‥患者の遺 伝 子レ ベル で の診 断, 家 系 内の女 性 保 因 者
の診 断を試み た.
対象および 方 法
Ⅰ. 対 象
対 象ほ金 沢 大 学 医 学 部 小児 科にて経 過 観 察 中の ⅩL A 患 者お よ び その家 族の2 家 系である・( 図1). 両 家 糸とも遺 伝 子 診 断に よ る患 者, 保因者 診 断の可能 性に つき説明 し インフォ ー ム ドコ
ンセン トを得た後に解析を開始し た. 家 系1 の患 者1 ( 図1 ,
Fa mil y l I
ⅠⅠ
F a mily 2
Ⅰ
ⅠⅠ
ⅠⅠⅠ
メ
F ig.1. Tw o pedigr e e s with X‑1inked aga m m aglobulin e mia
(ⅩL A)・ Ar r o ws indic ate the pr oba nds of e a ch pedigr e e.
Ⅲ‑6 0f fami 1y l d ied of ba cte rialr n e ningitis at 6 ye a r s old.
Fa milyl ⅢL7) お よ び家 系2 の患 者2 ( 図1 , Fa mily2 Ⅲ‑6) に 於いて ほ既に末 梢血 よ り Epstein‑Ba r r ウ イ ル ス形 質 変 換 系B 細 胞 株 (E B V 形 質変 換 細 胞) が樹 立さ れ て お り検 体と して用い ること が できた. ま た, これ と ほ別に患 者お よ び家 族の末梢血 を採 取し白血球 分 画よ り D N A ・R N A を抽出 し試 料と し た.
各 家 系の患 者における初 診ま での経 過, 臨 床 症 状ほ以 下のと お り である.
家 系1 一息 者1 ( 図1 , Fa mily l Ⅲ‑7): 生後, 特に細 菌感 染
の既 往なく 経 過し ていた が, 2歳1 0 ケ月 時に下 痢, 発熱 あり近 医受 診. こ のときの検 査で IgG 8 0m g/dl 未満,IgA 1 3mg/dl,
IgM 71m g/dl と低T‑グロ ブ リン血症を認め, 当科 紹 介 初 診. 表 在リンパ節l 口蓋 扁 桃の低 形 成を認め, 末 梢血中にB細 胞を認 めず. X L A を疑わ れ る.
家 系1 一 息者2 ( 図 1 , Fa miIyl Ⅲ‑8): 上記患 者の弟. 生 後 感染 症の既 往なく 経 過していた が, 兄に低r‑ グロ ブリ ン血症 を認め た た め 6 ケ月 時に検 査 施 行.IgG 4 0m g/dl,IgA 3m g/dl,
IgM l Om g/dl と低値であり, 末 梢血中にB細 胞を認めず. 兄と 併せ て ⅩL A と診 断.
な お, 家 系1 の母親 ( 圃1 , Fa miiyl Ⅱ一5) には前 夫との間に 男 児( 図 1 ,Fa milyl Ⅲ‑6) がいた が 6 才 時に細 菌 性 髄 膜 炎にて 死 亡 してお り, 本 児 もⅩL A であった 可能性が 示唆さ れ る.
家 系2 一 息 者1 ( 図1 , Fa mily 2 Ⅲ‑3 ): 生後しばらくほ特に 問題なく 経 過. 3 歳 頃よ り中耳 炎を繰り返 すようにな る. 6 歳 時, 左 下肢 蜂 窟 織 炎に て紹 介 医入院. こ のときの検 査で低γ‑グ
ロブ リン血症を指 摘さ れ当 科 受 診. IgG 5 0mg/dl 未 満, IgA l Om g/dl 未 満,IgM 7m g/d l と低値. 口蓋 扁桃は痕 跡を認め る
程 度. 末 梢血中B 細 胞ほ0.6% . X L A を疑わ れ る.
家 系2 一 息 老2 ( 図 1 , Fa miIy 2 Ⅲ‑6 ): 生後2 回の発 熱を認 め た がいずれも1 日 で解 熱. 生 後4 ケ月 時に下 痢が続いた. 1 歳 時に肺 炎にて近 医入院. こ のときの検 査でIgG 6 8mg/dl,IgA 2mg/dl,IgM 3 9m g/dl と低T‑ グロ ブリン血症を認め, 当 科 紹 介 初 診. 末 梢血中B細 胞ほ0.1% 以下. 検査 所 見, 家 族歴 よ り 上 記 家 系2 一息 老1 と併せ て X L A と診 断.
いずれの患 者 も 診 断 後ほ, 血清IgG 値3 0 0mg/d l以上 を維 持
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C 5 巨 竜・ A 3
Intr o n l D 5 D 3
十
÷∴∵
∴‡子
F 5 F 3
F ig・2・ Lo c atio n s of P C R prim e r s a s r elated to the pr otein str u ctu r e s a nd e x o n e s of the Btk ge n e.(s e e Tablel).
S rCpho m olog y ; T E, T ris‑E D T A ; U T R , u ntra n SlatedT
r egio n; Ⅹid, Ⅹ‑1inked im m u n od eficie n cy; ⅩL A , Ⅹ‑1inked
aga m m aglobulin e mia ; E B V 形質変換 柵 胸, Epstein‑B a r r ウ イ ル ス形質変換 系B 細 胞株