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JOGMEC 調査部 原田大輔 アナリシス 本格化するヤマル LNG プロジェクト 最新の状況とプロジェクト成立に向けた要因分析 はじめに 現地ネネツ語で ヤ ( 世界 ) マル ( 終わり )= 最果て を意味するというヤマル半島 *1 は ロシア連邦のなかでも最も厳しい自然環境に置かれた地域だろ

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(1)

本格化するヤマルLNGプロジェクト

―最新の状況とプロジェクト成立に向けた要因分析―

 現地ネネツ語で「ヤ(世界)マル(終わり)=最果て」を意味するというヤマル半島*1は、ロシア連邦のなか でも最も厳しい自然環境に置かれた地域だろう。北極圏以北、ヤマロネネツ自治管区に位置し、1年のうち、

8カ月を冬季が占める。最低気温は氷点下60℃に迫り(冬季平均は氷点下20℃)、短いながら夏季には温 度は30℃まで上昇(夏季平均は12℃)。永久凍土を溶かし、泥沢地に変えてしまうことから、大量に発生 する蚊や虻あぶへの対策、地盤未整備地域への重機の持ち込みの制限が開発を阻む*2。人口密度は1㎢あたり 1人に満たず(世界最大の国土を有するロシア全体では8人、日本では337人)、日本の2.5倍の広さを有す る同自治管区全体でも人口は50万人程度に過ぎない*3。そして、そのほとんどが資源開発産業に従事し ている“ネフチャニキ”・“ガゾヴィキ”(ロシア語で石油ガス産業人)である。

 「ヤマル(最果て)」という言葉にはもう一つの意味がある。それはロシアのみならず、世界の石油産業の ヤマル=フロンティアである。世界最大の天然ガス埋蔵量を誇るロシアにおいて、同地域には全世界の 22%の天然ガス埋蔵量が集中しており、更にオフショア・カラ海には既発見未開発構造が複数存在する。

 ヤマロネネツ自治管区にはソ連時代から開発されてきた大ガス田群(ウレンゴイ・ガス田〈確認埋蔵量 177TCF〉、ヤンブルク・ガス田〈同157TCF〉、メドヴェージェ・ガス田〈同54TCF〉等)があり、ソ連 解体後も主要生産地として大成してきた。21 世紀に入った 2002 年、国営ガス企業体 Gazpromはヤマ ロネネツ自治管区政府とヤマル半島開発に関する最初の計画を策定。関係機関、シンクタンク等で検討・

はじめに

出所:Wikipedia「ヤマロネネツ自治管区」および Google Earth 出所:筆者撮影 ヤマル半島を擁するヤマロネネツ自治管区

(夏場は永久凍土が溶け無数の沼が出現する)

図1 ヤマル半島南部の凍結した沼沢群

(5 月下旬)

写1

ヤマル半島

Москва

Москва

(2)

修正が重ねられた後、2007年に正式に「包括的ヤマル半島開発計画」として動き出した。その目的は将 来的に減退する西シベリアの既存ガス田への補完であり、生産量は2030年には現在のロシアの全年間 生産量(2012年生産量654.5BCM)の半分に相当する310 ~ 360BCMを目指すものである。

 更に同計画は新輸送システムの構築も包含しており、それは既存輸送システムの拡張となるパイプラ インはもちろん、北極海航路開拓を前提とした LNG輸送をも含む野心的なものであった* 4。前述のよ うに、北極圏・永久凍土上での開発という厳しい環境下において、地盤の固まる冬季の限られた期間に 上流開発、パイプライン建設、港湾建設を推進すべく、開発を目的とした重機搬送のための独自の鉄道

を敷ふ せ つ設することから始まった、正に石油開発のフロンティアという言葉が相ふ さ わ応しい計画である。

 最初の開発ターゲットとなるボヴァネンコヴァ・ガス田におけるフィールド開発・施設建設が進むなか、

出所:Gazprom“Yamal Megaproject”

十億㎥

2011 2015 2020 2025 2030

天然ガス

生産計画 7.9 75 ~ 115 135 ~ 175 200 ~ 250 310 ~ 360 表1 ヤマル半島と隣接海洋鉱区からの天然ガス生産見通し

470.2 480.0 490.8 487.7 494.3 505.1 511.3 517.9

233.1 227.5 238.3238.3 221.6221.6 246.0246.0 247.0247.0 241.8241.8 239.4239.4

0 100 200 300 400 500 600

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Production Export

640.6 656.3 650.8 663.0 582.9

650.8 669.7 654.5

187.2

187.2 182.0182.0 171.3171.3 174.3174.3 167.2167.2 184.0184.0 203.9203.9 186.9186.9

0 100 200 300 400 500 600 700 800

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Production Export

百万トン

原 油 天然ガス

十億㎥

(注)生産量に対し原油の輸出量は平均 48%を占めるのに対し、天然ガスは平均 28%にとどまる。

出所:エネルギー省(http://minenergo.gov.ru/activity/statistic/)

ロシアの原油・天然ガスの生産量と輸出量の推移 図2

NorthernLights NorthernLights YamalEurope YamalEurope

KARA SEA BARENTS

SEA

Murmansk Murmansk

Severo Kildinsk Severo Kildinsk

Shtokman Shtokman

Prirazlomnoye Prirazlomnoye

Varandey-more Varandey-more

Medyn-more Medyn-more Snohvit

Snohvit RusanovRusanov

Leningrad Leningrad

Bovanenkov Bovanenkov Malyginskoye Malyginskoye

Tota-Yakninskoye Tota-Yakninskoye Antipayutinskoye Antipayutinskoye Semakovskoye Semakovskoye

Kruzenshtern Kruzenshtern Kharasavey Kharasavey

Severo Tambey Severo Tambey

Zapadono Tambey Zapadono Tambey YuzhnoTambey YuzhnoTambey

Yamburg Yamburg

Urengoy Urengoy Medvezhye

Medvezhye

Zapolyarnoe Zapolyarnoe Novaya Zemlya

Russian Boundary Claim Russian Boundary Claim

NorwegianBoundary Claim NorwegianBoundary Claim

Murmansk

(Belokamenka)Murmansk

(Belokamenka)

EPNZ-2 EPNZ-2 EPNZ-3 EPNZ-3 EPNZ-1 EPNZ-1 Tsentralno-

Barentyevsky

(Eni)

Tsentralno- Barentyevsky

(Eni)

Perseevsky

(Statoil)Perseevsky

(Statoil)

LNGWorkingLNG(Planning)

出所:JOGMEC

ヤマロネネツ自治管区に位置する既存油ガス田および既発見未開発鉱床 図3

(3)

2008年には同ガス田から既存欧州向けパイプラインに接続するボヴァネンコヴォ~ウフタ・パイプライ ン(1,240km)の建設を開始(2012年10月に試験稼働*5)。米国でのシェールガス生産の拡大とリーマンショッ ク後の欧州でのガス需要の減少が際立ってきた2009年9月、プーチン首相(当時)は外資誘致を目的に世 界のLNG関係企業をヤマロネネツ自治管区の首府サレハルドに急きゅうきょ遽招集し、雄たる国際企業幹部を短期 間で集め、世界の耳目を集めた。その後、新規事業としてヤマルLNGプロジェクトが正式に公表される*6。 2008年当初はGazpromが主導する構想だったが、新プロジェクトはロシア第2位の民間天然ガス生産 会社NOVATEKがオペレータとなり、ヤマル半島東岸に位置するユジノ(南)タンベイ・ガス田を供給

出所:Gazprom(http://www.gazprom.ru/about/production/projects/deposits/bm/)

Gazprom:ボヴァネンコヴァ・ガス田開発プロジェクト概要  ・鉱区権者:Gazprom(100%)

 ・確認埋蔵量:天然ガス 26.5TCM(935TCF)、コンデンセート 120億BBL

  (ABC1+C2+C3/ボヴァネンコヴァ〈173TCF〉を中心とする32ガス田の合計)

 ・スケジュール:2006年開発を承認、2012年10月生産開始。

  年間15BCMからスタートし、115BCMから140BCMへ増加予定。

 ・備考:開発には後述の資機材運搬用の永久凍土帯での専用鉄道の敷設と同ガス田およびウ フタを結ぶ新規PLの建設が不可欠。

Gazprom ボヴァネンコヴァ・ガス田群開発プロジェクト概要 図4

(4)

ソースとし、アジア太平洋市場へのLNG供給も視野に入れることを示唆する内容を帯びてくる。2010 年にはプーチン首相(当時)が「ヤマル半島におけるLNG事業開発総合計画」に署名。2011年には仏 TotalがヤマルLNGプロジェクト会社(JSCヤマルLNG社)の20%に参画し(TotalはNOVATEKと戦略 提携に合意し同社株式を36カ月以内に19.4 %まで買収するオプションにも合意)*7、Gazpromが進め るボヴァネンコヴァ・ガス田開発(欧州向け)、そして、NOVATEKがTotalと進めるヤマルLNGプロジェ クト(ユジノタンベイ・ガス田開発/世界市場向け)という双璧が現れ出てきた。

 北極圏の厳しい環境下でのLNGプロジェクトとしてはStatoilが進めるスノーヴィット(白雪姫)LNG

NOVATEK:ヤマルLNGプロジェクト概要  ・鉱区権者:NOVATEK(80%)、Total(20%)

        ※将来的にNOVATEKは29 %のファー ムアウトを計画中(2013年6月21日には、

中国国営石油会社CNPCが20%ファームインに合意と発表)。

 ・確認埋蔵量: 天然ガス698BCM(24.6TCF)、コンデンセート1.2億BBL  ・スケジュール:

  ⇒Pre-FEED/ ~ 2011年、FEED/ ~ 2012年、FID/ ~ 2013年末   ⇒ユジノタンベイ・ガス田:58井の評価井完了(2012年)

 ・備考:

  ⇒ユジノタンベイ・ガス田近傍のサベッタに港湾建設(政府負担)、空港、液化施設を建設。

  ⇒LNG容量:3系列×5.5MMt=16.5MMt

   (2016年、2017年、2018年にそれぞれLNG生産開始)

  ⇒プラトー生産量:天然ガス23BCM、ピーク生産量:コンデンセート800万BBL。

出所:NOVATEK(http://www.novatek.ru/ru/business/yamal/southtambey/)

NOVATEK ヤマル LNG プロジェクト概要 図5

(5)

出所:Rosatomflot(Rosatom 傘下原子力砕氷船運営会社)による紹介資料

LNG運搬船「オビ河」(右上)と原子力砕氷船「50年戦勝記念」(左下)/北極海航路を通過 図7

出所:各社年次報告書より筆者作成

ロシアの天然ガス企業Gazprom(業界1位)とNOVATEK(同2位)の諸元 図6

(注) * ZUBKOV会長の肩書き:Chairman of the Board of Directors MILLER社長の肩書き: Deputy Chairman of the Board of Directors, Chairman of Gazprom's Management Committee  **Gazpromの各数値はグループベース(Gazpromneft等を含む)。

 ***Gazprom確認埋蔵量数値について、左側はA+B+C1ベース、右側は国際基準ベース。NOVATEKはSEC(米証券取引委員会)ベース。

 ****RUB(露ルーブル)ベース決算を通年USD(米ドル)換算レートで試算。Gazprom単体では2008年7.2BilUSD、2009年19.7BilUSD、2010年12.0BilUSD、2011年29.9BilUSD。

(6)

プロジェクトという前例があるが、メキシコ湾流によって海が凍結しない同プロジェクトとは異なり、

ヤマル LNGプロジェクトは氷海対策を中心としたさまざまなリスク、市場への距離等不安定要素は枚 挙にいとまがない。更にGazpromが進めるシュトックマンLNGプロジェクトが欧州ガス需要の減少と 技術的課題からほぼ無期延期という状況に追い込まれているなかで(Gazpromは2019年以降にガス田 開発を開始すると発表*8)、更に欧州市場より地理的に遠く、明らかにチャレンジングなプロジェクト であるというのがヤマルLNGプロジェクトに対する一般的な見方だろう。

 ところが、2013年4月、プロジェクトは問題なく進んでいることを示すかのように、Technip・日揮連合が 同プロジェクトのEngineering Procurement and Construction(EPC)契約(年産1,650万トン〈550万トン×3 系列〉のLNGプラントに係る有償見積もり、詳細設計および一部長納期機器等の調達役務/ランプサム契約〈た だし、将来の全体契約の契約形態は別途調整〉)をJSCヤマルLNG社から受注したとのニュースが流れた*9。  その上、ノルウェーから2012年11月に世界で初めて北極海航路を経て、LNG運搬船「オビ河(ヤマル 半島へ流れ出る河川)」が九州電力に向けてLNGを搬送し(売り主はGazprom Marketing & Trading*10)、

経済性は別としても氷海・厚氷状況が厳しくなる冬場においてさえも輸送が可能であることを示した*11。 一方で長期にわたるLNGプロジェクトの常としてマーケティング確保は不可欠であるにもかかわらず、

現時点ではメディア露出があったものは2件、しかもこれらは、価格等詳細条件には踏み込んでいない

=マーケティングは依然不透明、というのがヤマルLNGプロジェクトの現況である*12 *25

 果たして、ヤマル LNGプロジェクトは順調に実現に向かっているのか。また、どのような要素・事 象が今後同プロジェクトの成否を左右するのか。本稿では、5月下旬にヤマル半島を訪問して得られた 情報をアップデートしながら分析を試みたい。

 ヤマロネネツ自治管区は 1970 年初頭、ソ連による欧 州への天然ガス輸出の成長とともに急速に生産量を拡大 してきた。ソ連解体前後の 1990 年前後には実に世界の 天然ガス生産量の 4 分の 1 を占め、その後、他産ガス国 の生産量の増加等に伴い世界生

産に占める割合は漸次低下して きたものの、生産量は500BCM 超のプラトーを維持し、世界生 産に占める割合 17 %と最大の 生産地域の地位を保っている。

 特筆すべきことは、これら生産 地域が、まだヤマル半島にまで 及んでいないということである。

ソ連時代に地質調査と探鉱が行 われた結果、半島には上述のボ ヴァネンコヴァをはじめ、既発見 未開発の大ガス田群が複数存在 する。また、同自治管区内ではヤ マル半島も含む全域で235もの 鉱区が公開されており、うち85

鉱区が生産・開発中である一方、探鉱中の鉱区は150に達 する。2011年時点の天然ガス累積生産量は14.97TCM

(528.66TCF)、 確 認 埋 蔵 量(AB+C1) は 33.37TCM

(1,178.45TCF)と評価されている。また、原油の累積生産

1. ヤマル半島開発:世界最大のガス生産地域

0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0

0 100 200 300 400 500 600 700

1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010

十億㎥ %

出所:同自治管区資料および BP 統計から世界シェアを試算 ヤマロネネツ自治管区における

天然ガス生産量とその世界シェアの推移 図8

(7)

量は7.9 億トン(58.4 億 BBL)、確認埋 蔵量(同上)は24.96億トン(184.6億 BBL)、コンデンセートの累積生産量は 1.4億トン(10.4億BBL)、確認埋蔵量(同 上)は11.39億トン(84.2億BBL)と見積 もられていることからも、今後も数十 年にわたってロシアの主要天然ガス生 産地域として国内供給、外貨獲得の両 面で柱となっていくことは確実だろう。

 また、新規エリアとなるヤマル半島 について Gazpromは同半島を次の三 つの鉱床群に分け埋蔵量評価を行って おり、その規模の大きさを窺うかがい知るこ

とができる。 出所:ヤマロネネツ自治管区州政府

ヤマロネネツ自治管区における鉱区公開状況と埋蔵量評価資料 図9

出所:Gazprom Tyumeniigiprogaz*13

表2 Gazprom によるヤマル半島油ガス田鉱床群の埋蔵量評価

①ボヴァネンコヴァ鉱床群

天然ガス(C1 ベース) 原油(C1 ベース) コンデンセート(C1 ベース)

鉱床名:ボヴァネンコヴァ(注)

4.4TCM(155.4TCF) 4.7 百万トン(34.8 百万 BBL) 57 百万トン(4.2 億 BBL)

鉱床名:ハラサヴェイ

1.4TCM(49.4TCF) - 65 百万トン(4.8 億 BBL)

鉱床名:クルゼンシュテルン

0.96TCM(33.9TCF) 4.7 百万トン(34.8 百万 BBL) 122 百万トン(9.0 億 BBL)

(注)C3 ベースでは 4.9TCM(173TCF)。

②タンベイ鉱床群

天然ガス(C1 ベース) 原油(C1 ベース) コンデンセート(C1 ベース)

鉱床名:西(ザーパドノ)タンベイ

0.1TCM(3.5TCF) 23.8 百万トン(1.8 億 BBL) 3 百万トン(0.2 億 BBL)

鉱床名:北(セヴェロ)タンベイ

0.7TCM(24.7TCF) - 29.6 百万トン(2.2 億 BBL)

鉱床名:タスィスキー

0.37TCM(13.1TCF) - 17.2 百万トン(1.3 億 BBL)

鉱床名:マルィギンスキー

0.44TCM(15.5TCF) - 18.9 百万トン(1.4 億 BBL)

(注)Gazprom による評価のため、NOVATEK がオペレータを務めるヤマル LNG の供給源、南(ユジノ)タンベイ鉱床は含まれない。

③南(ユーグ)鉱床群

天然ガス(C1 ベース) 原油(C1 ベース) コンデンセート(C1 ベース)

鉱床名:ノヴォポルトフスキー

0.2TCM(7.1TCF) 2.2 億トン(16.3 億 BBL) 11.4 百万トン(0.8 億 BBL)

鉱床名:セヤヒンスキー

0.4TCM(14.1TCF) 15 百万トン(1.1 億 BBL) 17 百万トン(1.3 億 BBL)

鉱床名:ニリヴォイスキー

0.7TCM(24.7TCF) 45 百万トン(3.3 億 BBL) 35 百万トン(2.6 億 BBL)

(8)

 これら過去の実績データ、埋蔵量評価から分かるように、

西シベリア堆積盆地北縁のヤマロネネツ自治管区は北方に 行くほどガスリッチであり、コンデンセート生産量も期待 される地域となっている。実際、原油生産量は2004年をピー クに減少傾向にあるが、コンデンセート生産量は1985年 から5倍に伸びている。

 天然ガスパイプライン輸送はソ連時代に始まり、内陸に は欧州に続く輸送網が発達し、ヤマル半島に代表される

新規エリアは北極海に隣接する地域であることから、LNG の形での海洋輸送というアイデアが出てくるのは必然だっ たとも言えるだろう。しかし、石油開発プロジェクトは豊 富な埋蔵量だけでは進まない。当然ながらマネタイズでき るかどうか、いかに市場に競争力のある価格で天然ガスを 供給できるかどうかにプロジェクトの成否は左右される。

次に、ヤマルLNGの現況と課題を総括し、更に今後どの ようなシナリオが考えられるか検討してみたい。

タンベイ鉱床群

ボヴァネンコヴァ鉱床群

南(ユーグ)鉱床群 Карское море

出所:Gazprom Tyumeniigiprogaz

三つの鉱床群に分けられるヤマル半島 図10

出所:JOGMEC

参考:旧ソ連と欧米の埋蔵量評価定義 図11

0 2 4 6 8 10 12

1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011

Condensate

百万トン

05 1015 2025 3035 4045

1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011

Crude Oil

百万トン

出所:ヤマロネネツ自治管区資料

ヤマロネネツ自治管区における コンデンセートと原油生産量の推移 図12

(9)

出所:IEA-WEO2011 より筆者作成

既存生産地域と2010~2035年の

ロシアの原油(上段)と天然ガス(下段)の生産量推移見通し 図13

(10)

(1)埋蔵量評価

 DeGolyer&MacNaughtonによる最新の第三者埋蔵量 評価ではヤマル LNGプロジェクトの供給源であるユジ ノタンベイ・ガス田について表3の評価結果が出されて いる。2016年11月に第1トレインからのLNG生産・輸 出開始を前提にプラトー生産は年間 27 ~ 28BCM、1P ベースで 2034 年まで、2Pベースで 2038 年を見込んで いる。

(2)完工までのスケジュール

 2016年11月に生産を開始する場合、通常新規開発ガ ス田での LNG液化プラントの建設に要する期間として 42カ月を想定すると、2013年5月には最終投資決定(FID)

および建設を開始する必要がある。また、既述のように、

初期の地盤調整のために地盤の固まる冬季のみの陸上作 業、現地での組み立て作業等における時間をできるだけ 節約すべくモジュール方式で北極海を経由して搬送しな

2. ヤマルLNGプロジェクト詳細

出所:NOVATEK/Presentation@Yamal Oil & Gas 2013

1P 2P 3P

天然ガス(百万 CM) 697,949

(24.6TCF) +202,189

(31.8TCF) +162,448

(37.5TCF)

コンデンセート(百万トン) 16.151

(1.2 億 BBL) +6.629

(1.7 億 BBL) +6.204

(2.1 億 BBL)

表3 DeGolyer & MacNaughton による ユジノタンベイ・ガス田の埋蔵量評価

(注)①重モジュール:7~11月 ②通常モジュール(冬季砕氷船曳航):通年 ③建設用資機材カーゴ(オビ河経由):7~10月 出所:NOVATEK/Presentation@ HSBC CEEMEA Investor Forum, New York, 21-22 March 2013

サベッタ LNG 液化プラントサイトへのモジュール供給スキーム 図14

(11)

ければならないヤマル半島の特殊性を考えれば、通常の 亜熱帯等での LNGプラント建設で認識されている 42 カ 月という計画は楽観的なものであり、60 カ月程度を要 する可能性もある。

 2012 年 10 月 23 日、燃料・エネルギー大統領委員会 が開催され、同プロジェクトの事業計画を急ぎ進めるよ う政府(プーチン大統領)による指示が出された結果、オ ペレータであるNOVATEKも急速に力を入れつつある。

 EPC契約テンダーに関しては、通常マーケティングも ある程度の見通しが立ち、FIDを経て行われるものであ り、テンダーが出されること自体がプロジェクトが確実 に進んでいることの証左となると言える。2013年3月の 段階ではEPC契約テンダーには、それまでFSを受注し てきた①米国のCB&I Lummus、イタリアのSaipem、千 代田化工建設から成るコンソーシアム、②フランスの Technip、日揮から成るコンソーシアム、③ロシアの Stroigaz Consultingが参加しているとのことだった。

  と こ ろ が、 冒 頭 に 触 れ た よ う に、 今 年 4 月 3 日 に

Technipと日揮によるEPC契約受注との報が入る。マー ケティングについてなんら情報がなかったという状況を 考えると、政府によるバックアップを受けて、同社が確 実にプロジェクトを進めることを誓約した背水の陣的動 きとも取ることができる。最終投資決定は9月(関係者 の話では数カ月遅れる可能性を見込み年内)を予定して おり*14、それまで、つまりこの半年の間にマーケティ ングも目星を付け、パラレルで EPCおよびマーケティ ングを進めながらFIDを目指す模様だ。

 図 15に 5 月下旬にヤマル半島で開催された国際会議

「Yamal Oil & Gas 2013」でJSC ヤマルLNG社によるプ レゼンテーション資料を訳したものを添付する。現状 2019 年 3 月の完工まで、このタイムフレームで動いて いくこととなるが、前述のとおり、今年 5 月の段階で FIDに至っていないことや厳しい作業環境を鑑みると、

やはり 2016 年の第 1 トレインの立ち上げは後ろ倒しと ならざるを得ないのではないかと思われる。

2010年2月〜Pre FEED・・・

概念設計・技術選択(ロケーション/

液化技術等)

2011年2月〜FEED・・・

決定フェーズ(詳細スケジュール/ス ペック/各施設設計)〜2012年7月 プロジェクト概念〜2013年3月

2012年7月〜

重要機器供給開始(サプライヤー選 定/LNG貯蔵施設等)

EPCコントラクタ選定

2013年5月〜EPCステージ

①第1フェーズ〜2016年  建設開始(2013年)

 第1トレイン建設/モジュール設  置(2014年)

 試験生産(2016年)

②第2フェーズ〜2017年  第2トレイン建設

③第3フェーズ〜2018年  第3トレイン建設

出所:NOVATEK/Presentation@ Yamal Oil & Gas 2013, 23-24 May 2013

ヤマル LNG プロジェクト:EPC 契約完了~液化施設稼働に向けた工程表 図15

(12)

(3)総事業費

 総事業費についての公開資料は限られているが、

2012年時点では8,582億RUB(約268億USD)との試算 が な さ れ て い る* 15。2010 年 当 初 で は 180 億 USD ~ 200 億 USDであり、事業の規模がはっきりし、具体化 が進むなか、今後 EPC契約の内容が明らかになる過程 で更にコストが増加する可能性が高い。なお、サベッタ に建設される港湾施設についてはロシア政府の負担に よって建設が既に進められている。

(4)ターゲット市場

 北極海航路は温暖化によって氷が張る領海域が縮小す る傾向にあるとはいえ、冬季は依然アイスクラスでも運 航は難しいため、NOVATEKが当初から計画している とおり、ヤマル半島からはアイスクラスの LNG船(17 万CM)で輸送し、スエズ経由を含む通年版と夏季北極 海航路活用版を検討している。

<通年>

 西方向けはムールマンスクにて通常の LNG船に積み 替えを検討。

 ① LNG船26万5,000CMクラスは南米(ブラジル、ア ルゼンチン)およびスエズ運河経由でアジア(イン ド、日中韓台)へ。

 ② LNG船14万5,000CMクラスは欧州市場へ。

<夏季>

 アイスクラス LNG船で北極海航路で東方へ。アジア 市場向け。

 この場合、問題となるのは次の点である。

 ⅰ.ガス供給法によりGazpromだけが輸出できる現状 で、NOVATEKは輸出権を獲得できるのか。

 ⅱ.Gazpromのパイプライン市場が発達した欧州市場 での価格競争(対Gazprom)。

 ⅲ.ムールマンスクで積み替えるための施設建設・貯 蔵費用コスト増加。

 ⅳ.アイスクラスLNG船の傭ようせん船(建造)費用に伴うコス ト増加。

 ⅴ.北極海通過に必要となる原子力砕氷船利用に伴う コスト。

 ⅰ.輸出権の問題については非常に根本的なイシュー でありながら、関係者に緊迫感は感じられない。それは 2010年10月18日の時点でプーチン首相(当時)が署名 した「ヤマル半島におけるLNG事業開発総合計画」で既 にヤマルLNGに対しては輸出が前提となるものであり、

事実上了解されているとの認識があること。また、いざ とな れ ば Gazpromと 輸 出 エ ー ジ ェント契 約 を 結 び、

Gazpromが輸出する形をつくり出すことで現行法に抵触 しない方法が残されていること。そして、筆者の個人的 見解として2011年3月に発効したEUの第3次エネルギー パッケージに対してロシア政府はGazpromの独占体制の 見掛け上の開放(NOVATEKの参入や石油会社の参画)

を進めつつあり、NOVATEKのヤマル LNGプロジェク トにはフランスTotalも参画(もちろん戦略的に招致)して いることから対 EU向けの格好の好イメージを与えるも のであり、ロシア政府としても輸出を許さないわけには いかないという事情があると考えられる。

(注)フィンランド Aker Arctic 社によるデザイン 船首に操舵室・居住空間があり砕氷しながら進む。

出所:Aker Arctic 2012 プレゼンテーション“Development of marine solutions in Arctic region”

北極海航路を念頭に設計されているアイスクラス LNG 船 図16

(13)

 次にⅱ.市場の問題について。米国のシェールガス革 命の余波によって欧州市場でのロシア産ガスが厳しい競 争に晒さらされ、シュトックマン LNGも塩漬けになりつつ あるなかで果たして欧州市場に NOVATEKが入り込む 余地があるのかどうか。ⅱ.の問題はGazpromの欧州市 場を、飛ぶ鳥を落とす勢いとはいえ、業界第2位の民間 企業 NOVATEKが奪うことが果たしてできるのかどう かである。ただし、Gazpromの市場はパイプラインで 囲われた市場であり、そのパイプライン網から外れた欧 州諸国(デンマーク、アイルランド、ルクセンブルク、

スウェーデン、英国、スペイン、ポルトガル)のうち LNG受入基地を有する国(英国、スペイン、ポルトガル)

は Gazpromとの関係でも軋あつれき轢を生ずることなく LNG受

入施設を有していることから、欧州市場としてのトップ リストとなってくると考えられる。欧州市場でのマーケ ティングは 20 %のパートナーであるフランス Totalが そヽ ヽつなく行っている模様で、実際、2013 年 5 月 22 日に はBPとの間でヤマルLNGの販売契約について合意した との報道がロシアで流れている*12

 図 17は 2011 年と 2012 年の NOVATEKの株主説明 資料での販売ルート解説だが、ムールマンスクでの積み 替えスキームは積み替えをする前提のものとしないもの が混在する。ⅲ.については現時点では積み替えるのか、

アイスクラスの LNG船をそのまま活用するのかまだ判 断できない状況なのかもしれない。また、北極海航路西 方ルートでは 2011 年ではノーヴァヤ・ゼムリャ島の北

出所:NOVATEK/ 株主等説明資料より

NOVATEK による 2011 年(左上)、2012 年(右上)

および 2013 年(下)の LNG 市場ターゲット概念図の比較 図17

Winter route Trans-

shipment

South America

Sabetta

Asia Asia

Summer route

LNG exporter LNG Market Yamal LNG

Yamal LNG

EUROPE EUROPE transshipment transshipment

Yamal-max 170mcm Yamal-max

170mcm Standard

tanker class 145-265mcm

Standard tanker class 265mcm

YAMAL- TRADE YAMAL- TRADE YAMAL LNG YAMAL LNG15-30mmt15-30mmt

NOVATEK NOVATEK NOVATEK PERM NOVATEK PERM MOSCOW

MOSCOW EUROPE*2 EUROPE*2

INDIA INDIA

ASIA USA*3 ASIA

USA*3

BRAZIL BRAZIL

ARGENTINA ARGENTINA

Singapore Singapore NOVATEK CHELYABINSK NOVATEK CHELYABINSK

NOVATEK ASIANOVATEK ASIA NOVATEK

EUROPE NOVATEK EUROPE

10.6

15.4

12.5

14.7

16.4 3.4

Pipeline gas

Russian domestic gas market

Asian gas market European

gas market

Notes:

1.Based on average actual prices (delivery January 2013) from Argus Global LNG and Heren LNG Market Daily 2.Average of: Title Transfer Facility (TTF) spot price (Netherlands) and National Balancing Point (NBP) spot price (UK) 3.Henry Hub

3.4 Natural gas spot price*1, $/mmbtu

Summer transportation route to target markets, liquids & LNG All season transportation route to target markets, liquids & LNG Transportation routes to other markets

(14)

方と南方を通る二つのルート、2012年では北方、2013 年では南方を通る図が描かれているが、現時点では同島 とヤマル半島の間に位置するカラ海の氷が北極海よりも 厚くなる傾向にあることが確認され、北回りのルートに なる予定である*16

 ⅳ.については、アイスクラスの LNG船について NOVATEKはフィンランドの Aker Arctic社に設計を 発注しており、既に氷海でのモデル実験も行っているこ とが分かっている。他方、ヤマルLNGの販売スキーム上、

どのように特殊な LNG傭船費用を計上するのか、マー ケティングも道半ばの途上で本当のところまだ確固たる 方針がない(もしくは買い主によって柔軟に対応せざる を得ない)というのが実情だと推察する。しかし、既述 のように、年内の FIDを目指す上でマーケティングは 不可欠であり、年内にメディア露出も出てくるだろう。

 最後にⅴ.原子力砕氷船のコストについては現在の北 極海航路の現況について情報も含めながら次の章でまと めてみよう。

 NOVATEKが夏季に輸出ルートとして検討している のは北極海航路(ロシア語ではСеверный морской путь〈北方航路〉と呼ばれ、省略したСМП/SMPが公

式に用いられている)はカラ海を経てベーリング海峡に 至るもので北東航路とも呼ばれる。また、北極点を挟ん でカナダからアラスカを経てベーリング海峡へ至るそれ は北西航路と呼ばれている*17

 例えば、欧州~アジア間の航路比較ではスエズ運河経 由と北極海航路を比較した場合、距離が4割程度短縮で きると言われている。表4はムールマンスクから原油と 天然ガスを搬送することを想定した場合のスエズ運河経 由と北極海航路の比較である。日数では日本向け(神戸): 19日、韓国向け(プサン):19日、中国(寧波):16日と 2 週間から 3 週間弱の日数節約につながる。また、ロッ テルダムから搬送する方式との比較においても、1 週間

3. 北極海航路の現状

(注)1 海里は 1,852m。

出所:Rosatomflot 資料(Yamal Oil & Gas 2013)

ムールマンスク出港の原油と天然ガス輸送にかかる日数 / 距離

スエズ運河経由 北極海航路経由 短縮される日数

日本(神戸) 12,291 海里 37.1 日 6,010 海里 18.1 日 19.0 日 韓国(プサン) 12,266 海里 37.0 日 6,097 海里 18.4 日 18.6 日 中国(寧波) 11,848 海里 35.8 日 6,577 海里 19.9 日 15.9 日

ロッテルダムからアジア市場への輸送にかかる日数 / 距離

スエズ運河経由 北極海航路経由 短縮される日数

日本(神戸) 10,969 海里 33.1 日 7,610 海里 23.0 日 10.1 日 韓国(プサン) 10,754 海里 32.5 日 7,697 海里 23.2 日 9.3 日 中国(寧波) 10,336 海里 31.2 日 8,177 海里 24.7 日 6.5 日

表4 スエズ運河経由と北極海航路経由の 所要日数・距離の比較

出所: Wikipedia パ ブ リ ッ ク ド メ イ ン:(http://ja.wikipedia.org/

wiki/% E3% 83% 95% E3% 82% A1% E3% 82% A4% E3%

83% AB:Sevmorput% 27.jpg)

北極海航路(赤色の線/北東航路)と スエズ運河航路(青色の線)

図18

(15)

から 10 日程度の日数短縮につながることになり、輸送 コストの削減に大きく寄与する。更にスエズ運河やマ ラッカ海峡等のチョークポイントを経ず、海賊問題を回 避できることから安全面での恩恵も期待できる。

 国営原子力公社 Rosatomの子会社で原子力砕氷船を 運営する Rosatomflotによれば、最初の外国商船による 北極海航路の輸送は2009年8月29日に韓国(マサン)か ら出港した貨物船が最初であり、ベーリング海峡を経て 2日後の31日に原子力砕氷船「50年戦勝記念」号と合流、

9 月 7 日にヤマル半島付け根のヤンブルグ港で積み荷を 降ろし、同月16日にナイジェリア(オンネ)に向け北極 海を西方に抜けたものだった。この結果、距離にして 3,000海里(約5,600km)、日数にして10日間の短縮につ ながったとしている*18

 それから3年、北極海航路の貨物通過量は急速に増大 している。図 19は貨物輸送量の推移であるが、この 3 年間で貨物量は 10 倍に、また船舶数も 4 隻から 46 隻へ 急増している。

 一方、多くの課題を抱えているのも事実である。それ は主に次の三つの点に集約されるだろう。

①通年運航は困難

  温暖化により氷の面積が縮小する傾向にあるため、夏 季の輸送期間が長くなりつつあり、原子力砕氷船と

0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400

2010 2011 2012 年

千トン

ディーゼル砕氷船の稼働可能領域 原子力砕氷船の稼働可能領域

出所:Rosatomflot 資料(Yamal Oil & Gas 2013)

出所:Rosatomflot(http://www.rosatomflot.ru/index.php?menuid=18&lang=en)

北極海航路における貨物輸送量の推移 図19

北極海の氷の状況/冬季(左:10月~翌年6月)と夏季(右:7~9月)の比較 図20

原子力砕氷船に先導される貨物船とタンカー 写2

出所:Rosatomflot(http://www.rosatomflot.ru/index.php?menuid=20&lang=en)

(16)

ディーゼル砕氷船の稼働領 域も拡大している(図20)。

しかし関係者によれば冬 季の氷厚は依然変わら ず、安全面の問題から通 年運航は難しい状況にあ る。また、水深によって 喫水の制限が生じること にも留意が必要で、喫水 が11mより深い場合には 更に北極寄りのルートを 取る必要があることか ら、航行期間もまた制限 される。

②限られた原子力砕氷船に よるボトルネック   原子力砕氷船の数は限ら

れており(Rosatomflot保 有 は 10 隻、 う ち 6 隻 が 稼働している)、ディー ゼル砕氷船はあるものの 馬力の問題から稼働海域

が限られることから、貨物量の増加に対して自然にボ トルネックが生じてしまう。

  ただし、常に貨物船一隻に対して1 ~ 2隻の原子力砕 氷船の随行が必要というわけではなく、一度砕氷され たルートはその後も一定期間使用できること、また、

近辺に砕氷船がいれば非常時に対応も可能との情報も ある。

③原子力砕氷船の運航コスト

  輸送日数、距離はスエズ運河経由と比較して相対的に 短縮できたとしても、原子力砕氷船のリース費用を上 乗せした輸送費全体のコストとの比較において、競争 力を持つことができるのかどうか。この点はヤマル LNGのプロジェクトの成否を考える上でも重要な ファクターであることは言うまでもない。

  こ の 点 に 関 し て は 非 常 に 興 味 深 い 試 算 結 果 を Rosatomflotが提供している。2012年11月にノルウェー から日本へ LNGを運搬した際のアイスクラスの LNG 運搬船「オビ河」について、原子力砕氷船を使用タリフ を含め計算・比較したものである。それによると、

 ・スエズ運河経由では総額41万2,453USD(トンあ たり6.22USD;6万6,310トン)

 ・今回の北極海航路経由では総額33万1,712USD(ト ンあたり5USD;同上)

  となる。また、これは北極海航路に適用されている

「セット価格」のようなものであり、通常1隻の原子力 砕氷船をチャーターすると 380 万 RUB/日が必要* 19。 現在、北極海航路では上記のように日本まで 18 日程 度かかることから、仮にチャーターすれば 6,840 万 RUB(約2億円)かかる計算になるが、実際にはその6 分の1程度で運航されていることになる。また、現地 での聴取によれば、本タリフについては更に優遇され る案も今後政府内で検討される見込みであるとの情報 もあった。

  この背景として、スエズ運河航路に対抗するロシア の政策を垣間見ることができるだろう。2009 年の最 初の外国商船の北極海航路利用に始まり、急速に貨 物量が増加している背景には、ⅰ.温暖化を根拠とし た自国領海活用領域の拡大、ⅱ.ソ連時代からの先駆 的技術を有する原子力砕氷船技術の有効活用、そし て、ⅲ.ヤマル半島に代表される北極圏資源の開発の 更なる促進等があり、今後、恐らくは実際のコスト を無視してでも言わば公共事業的に、パイプライン 同様に海洋インフラ整備を進め(もちろん軍事的要衝 を固めるという意味も包含する)、市場を獲得してい くという姿勢も見出せるのではないだろうか。

出所:Rosatomflot の資料から作成

北極海航路とスエズ運河経由の日数および輸送の比較

(ノルウェーから日本へ輸送された LNG 運搬船「オビ河」を例に)

図21

輸送日数:18日超 輸送費用:33USD

(通常214USD

北極海航路

輸送日数:37日超 輸送費用:41USD

スエズ運河経由

VS

(17)

 現時点では Rosatomflotの実際の収支に関する情報が 入手できていないので、一概に「身を切っている」とは言 えないが、既にヤマル半島開発については上流税制で複 数の優遇制度が設けられている。

 ロシアでは上流税制として主に資源抽出税、輸出税の 2 種が課税されている。それぞれの税率は各油ガス田、

原油・天然ガス等で異なり、ウラルブレンド(原油)およ び為替等をベースとするフォーミュラで設定されるもの 等があって、ひとしなみに算出することはできないが、

同地域での上流開発に対する優遇税制は概略、表5のよ うにまとめることができる。

 これを見るとヤマル半島で天然ガスを生産し、更に LNGの形で輸出することを政府が奨励する内容となっ ていることを見て取ることができる。

 同じような優遇税制は、他プロジェクトでは 2009 年 に稼働を開始した東シベリア太平洋原油(ESPO)パイプ ラインで輸送される東シベリア産原油への優遇措置(資 源抽出税の免税、輸出税の部分減税)や新規探鉱開発地 域(大陸棚を中心とするオフショア開発〈北極海、カスピ 海、アゾフ海、黒海、オホーツク海〉、ティマン・ペチョ ラ堆積盆地)での開発や超粘性油等回収困難な新規鉱床

に適用される原油輸出税の減税措置(2012年12月4日プー チン大統領署名)に見ることができるが、新規ポテンシャ ルの開発を促すためのこれら施策は裏を返せば、ロシア 政府が身を切ってプロジェクトを推進せざるを得ないこ とを表しているという点に留意すべきだろう。

 それは長期的ヴィジョンで見た場合には、未開発地域 にインフラ整備が促されることで上流開発が促進され相 乗効果を期待するものであるばかりか、LNGプロジェ クトのように一度購入契約が成立すれば長期にわたって 安定的な収入が見込めるという点にメリットを見出そう とするものだ。更に天然ガスについては生産コストが世 界的に見て安価であるという点を活用し、地理上の市場 までの距離(ESPOパイプラインやヤマルLNGプロジェ クトでの北極海航路)という弱点を補いながら限られた 市場を獲得し、最終的にロシアの国益の拡大に結びつけ ようという試みと見ることもできる。

 一方、過去の優遇税制は東シベリア産原油の輸出税を 筆頭格に、政府主導で朝令暮改さながらに見直されてき たという事実もある。利益が十分に確保できることが分 かれば、いつでも見直されるリスクを事業者は常に抱え ているとも言えるだろう。

4. 身を切るロシア:将来を見据えた戦略と期待

(注)原油生産に伴う随伴ガスについて資源抽出税は免税。

① 黒海、オホーツク海の鉱床およびヤマロネネツ自治管区北部の鉱床(ヤマル半島の油田は別規程)について免税(2011 年 7 月 21 日 付政令)。2012 年 1 月 1 日より適用。累計生産量が黒海(2,000 万トン)、オホーツク海(3,000 万トン)、ヤマロネネツ自治管区(2,500 万トン)に達するか、生産ライセンス付与から 10 年・探鉱生産ライセンス付与から 15 年まで。ヤマル半島については累計生産量が 1,500 万トンに達するか生産ライセンス付与から 7 年(探鉱ライセンスを含め 12 年)。

② 「ヤマル半島における LNG 事業総合計画」による優遇措置(2010 年 10 月 18 日付プーチン首相〈当時〉署名)。LNG 生産用の天然 ガス(生産開始から 12 年間、または累計量が 250BCM に達するまで)および付随して生産されるコンデンセート(生産開始から 12 年間、または累計生産量が 2,000 万トンに達するまで)について抽出税を免税。また、2011 年 6 月には EOR 用に圧入される天然 ガスについては抽出税を免税。

③ LNG について輸出税は免税*20。ヤマル半島についてはコンデンセートも輸出税は免税。

出所:筆者まとめ

原油 コンデンセート 天然ガス

通常 同自治管区 通常 同自治管区 通常 同自治管区

資源抽出税

課税

課税

課税

輸出税

課税

③ ③

法人税 課税 課税

表5 ロシアの上流開発税制とヤマル半島への優遇措置の状況

(18)

 2012年5月、ロシア政府は新たに極東発展省を新設し、

9 月にはウラジオストクで APEC(アジア太平洋経済協 力会議)が開催され、ロシアが極東開発に力を入れよう としていることを象徴づけた。2009 年稼働の ESPOパ イプラインに続き、東シベリア(チャヤンダ・ガス田)か ら天然ガスをウラジオストクまで輸送する YKVパイプ ライン(Yakutia–Khabarovsk–Vladivostok/Gazpromは

「シベリアの力/‘Сила Сибири’」と命名)の最終投資 決定も 10 月に行われるとともに* 21、同年 11 ~ 12 月に かけては世界初の LNG船による北極海航路輸送と九州 電力への Gazpromからの納入を成功させ、矢継ぎ早に ロシア(Gazprom)による東方戦略が進められ、形をつ くり出しつつある。

 実際、日本の原油、天然ガスの供給国としてのロシア の存在感は、サハリン-Ⅰの原油輸出が開始された2006 年以降、日本の供給源多様化の政策方針とも相まってそ の重要性を増しつつある。

 年が明け、2013 年に入ってもロシアの東方戦略はこ れまでにないほど活発になっている。しかし、2012 年

までと大きく異なる点がある。それは 2012 年までは Gazpromが主導してきたのに対し、2013 年に入ってか らは国営石油会社で世界最大の生産量を誇る企業となっ たRosneft、そしてヤマルLNGプロジェクトを推進する NOVATEKが別個に LNGプロジェクトを売り込むとい う形になっている点だ。Rosneftのセーチン社長に至っ てはこの半年の間に既に2度(2月と5月)も訪日しており、

NOVATEKミヘルソン社長(3 月)、Gazpromミレル社 長(4月)と、筆者の記憶でも過去10年なかったほどロシ アエネルギー要人の来訪が続いている。

 この来訪については、まず日本は受け手であった(日本 から積極的に望んでいるものではない)という点を押さえ ておく必要がある。ロシア側からのこの来訪の背景には、

限られたLNG市場を獲得したいという期待があるのはも ちろんなのだが、実は、これら要人のばらばらの来訪は、

ロシア側の足並みの乱れを露呈していると見ることがで きる。このような動きに対してはプーチン大統領も4月 11日、Rosneftセーチン社長に対して自制を促す発言を 行っているが*22、その後も同社長によるサハリン-Ⅰガ

5. 活性化する日露エネルギー関係

日本の原油・LNG 調達国の推移 図22

出所:財務省通関統計

(19)

スを活用するLNGプロジェクト(デ・カストリまたはサ ハリン島)の推進についてのメディア露出があり、これを 見る限り、依然、ロシアではアジア太平洋市場をターゲッ

トとした複数のLNGプロジェクトが横並びで市場獲得競 争を繰り広げる展開となっていることが見て取れる。

 更に付言すれば、これらロシア要人来訪の背後に、今

(注)ヤマル LNG プロジェクトには中国 CNPC が参画する予定。

出所:筆者まとめ

ロシアに勃興する LNG プロジェクト 図23

出所:筆者作成

2013 年 関連する出来事

2 月 13 日 Rosneft セーチン社長が LNG 輸出自由化を政府に要請。

セーチン社長、ExxonNefteGaz と S-Ⅰのデカストリ LNG に関する FS に合意。

2 月 20 日 突然のセーチン社長訪日(SODECO 訪問 / 韓国→中国→日本→米国 CERAweek へ参加)

2 月 21 日 森喜朗元首相が訪露、プーチン大統領と会談 / ノヴァク・エネルギー相を 3 月訪日させるとの発言。

Gazprom がウラジオ LNG の建設を取締役会で承認。

2 月 28 日 イシャーイェフ極東発展相訪日(日露フォーラム出席)

3 月 12 日 ノヴァク・エネルギー相訪日(NOVATEK ミヘルソン社長随行 / なぜ NOVATEK が ?

⇒対中配慮・習近平中国国家主席初外遊・訪露 /3 月 22 日)

3 月 14 日 NOVATEK がヤマル LNG の建設開始を発表。

3 月 22 日 習近平主席が最初の外遊先にロシアを選択、しかし期待高まる Gazprom とのガス価格交渉は決着せず。

4 月 16 日 資源エネルギー庁と Gazprom との共同調整委員会(@ 福井)

4 月 15 ~ 19 日 経団連極東ミッション(ウラジオストク、ハバロフスク)

4 月 17 日 Gazprom ミレル社長訪日 ⇔ 同日、Ronseft と丸紅が LNG 関連覚書に調印。

4 月 23 ~ 25 日 サハリン州プレゼンテーション(@ 東京)

4 月 29 日 安倍晋三首相訪露/三井物産が Rosneft と極東石化プロジェクトで MOU 調印。

5 月 29 日 セーチン社長再訪日/ INPEX とマガダン海洋鉱区共同開発で合意。

表6 2013 年、更に活発化したロシア要人の訪日等

プロジェクト 事業実施主体 供給ソース 確認埋蔵量 生産開始年 容量 Sakhalin-,

3rdTrain Pil’tun-AstokhLuni 17.7TCF 2009 2015 possibly

Present 9.6MMt

+5MMt Vladivostok

LNG

Kirinsky(S-Ⅲ)

Chayandinskoye

26.3TCF

ABC1+C2

42.4TCF

ABC1+C2

2018 possibly 15MMt De-Kastri

LNG

Odoptu Chaivo

Arkutun-Dagi 17.1TCF 2018 possibly 5MMt Yamal

LNG TambeyskoyeYuzhno- 24.6TCF 2016~2018 16.5MMt

5.5+5.5+5.5

Shtokman

LNG Shtokmanovskoye 137.7TCF

ABC1

*2019以降開発 7.5MMt

Baltic

LNG West Siberia

Yamal Peninsula - - 10MMt

Pechora

LNG CH Invest JSC

EuroNorthOil LLC

Kumzhinskoye Korovinskoye

3.4TCF

ABC1+C2

1.5TCF

ABC1+C2

2018 3MMt

(20)

後 2020 年までにアジア太平洋市場をターゲットに立ち 上げるべく、豪州、インドネシア、パプアニューギニア、

米国(シェールガス)、カナダ(シェールガス)、そして東 アフリカ(モザンビーク、タンザニア)等のプロジェクト

(その合計 LNG量は年間 1 億 7,000 万トン、日本の年間 消費量の2倍に及ぶとも言われ、全てが成り立つことは あり得ない)に先んじて、市場を獲得しなければならな いという焦燥すら感じられる。

 日本にとって現在喫緊の課題は震災後増加している LNG調達コストをいかに低減できるかという点にある。

その点で今後 5 年間を見れば数多くの LNGプロジェク トが立ち上がり「バイヤーズマーケット」(買い手市場)

になる =安価な LNGプロジェクトを選択できるという いわば「神風」が吹こうとしている状況にあることは好条 件である。他方、LNG貿易は長期にわたるものであり、

足元だけの価格トレンドだけで判断できるものではな い。ヘンリーハブ・リンクの米国産ガスが永遠に安いと いうわけではないのはもちろん(実際2005年8 ~ 9月に ハリケーン・カトリーナ、リタがそれぞれメキシコ湾を 襲った際には一時的にせよ現在の日本の高価格水準まで 上昇している)だが、またJCCリンクの現在の価格が永 遠に高いという根拠もない。したがって重要なのはこの 選べる好機に際して①さまざまなフォーミュラ、②さま ざまな供給源、③さまざまな輸送手段(LNGおよびパイ プライン)を採用することによって、天然ガスの輸入ポー トフォリオを形成することだろう。

 では、その日本の天然ガスポートフォリオのうち、果 たして、ヤマル LNGプロジェクトは魅力的であり得る のか。また、それ以前の問題としてプロジェクトとして 成り立つのかどうか、結びに代えてまとめてみたい。

 既述のように、ヤマル LNGプロジェクトでは輸出税 の免税(LNG)、資源抽出税の免税が行われることが確 定しており(ただし、やはり時限的・プロジェクトの状 況次第で変更される可能性ありと考える)、ロシア政府 に入る税収は基本的に法人税(利潤の20%)と資産税等 地方税のみとなる(なお、更にヤマロネネツ自治管区で は大陸棚開発への資産税免税を実施している)。プロジェ クト単体で他プロジェクトとの相対比較で見た場合、ロ シアにとって「身を切る」プロジェクトであることは明ら かだ。つまり、将来的なヤマルの総合開発という長期的 なヴィジョンの下に進められているプロジェクトと見る べきであり、Gazpromのボヴァネンコヴァ・ガス田開 発プロジェクト(パイプライン/欧州市場向け)やヤマル LNGプロジェクト(LNG/欧州・アジア太平洋市場向け)

はその双璧を成すものと捉えるべきである。

 他方、プロジェクト実施主体であり、株式上場している NOVATEKにとっては当然ながら経済合理性があるのか どうかという根本疑問に立ち向かわなくてはならない。

Gazpromのボヴァネンコヴァ・ガス田開発の主眼は欧州 向け既存パイプラインインフラへの拡張・つなぎ込みであ る。ヤマル半島という過酷な自然環境においても、いった んインフラが整えば西シベリアの生産減退に対して欧州向 けガス輸出を補完しながら、欧州ガス価格に対して依然 安価な生産コスト(西シベリアで20USD/1,000CM、ヤマ

ル半島や東シベリア等新規フロンティア地域では40 ~ 70USDと見積もられる*23)を背景に長期にわたるコスト回 収、Gazpromの将来的なプロフィットセンターとなること が見込まれる。他方、ヤマルLNGプロジェクトは同様に 陸上ガス田として生産コストはボヴァネンコヴァ同様の安 価な生産コストが期待される(30USD前後/1,000CMと言 われている)。

 また、極寒地における液化コストについても、競合す る他の、アジア太平洋市場をターゲットとする亜熱帯 LNGプロジェクトに比してわずかながらプラントのス ペックにおいて相対的な競争力を期待できる。このよう に見てくると、ヤマル LNGプロジェクトの直面する問 題は次の4点に絞り込まれるだろう。

 ① 液化プラント建設コストがどの程度上昇するのか。

どの程度遅延するのか(既に2016年11月生産開始 は難しいのではないか)。

 ② 冬季のアジア太平洋市場向け通年輸送スキームをど のように構築するのか。

 ③ Gazpromの欧州市場を侵食することなく、ヤマル LNGプロジェクトにとって十分な市場を獲得できる のか(⇔市場とプロジェクト主体であるNOVATEK・

Totalが受容できるLNG価格に妥結できるのか)。

 ④ロシア政府がいつまで優遇税制を維持するのか。

 これら四つの問題を解決に導き、プロジェクトを更に

まとめ

(21)

前進させるために今後想定される動向として、次の点に 注目することで同プロジェクトの将来性を見通すことが できるだろう。

①JSCヤマルLNG社のファームアウト→新規外資参入    NOVATEKは同社が保有する権益80%のうち29%を

ファームアウトする意向を示してきた。昨年からONGC が関心を示しているとの情報もあるが、どこまで本気か は不明。上流開発にはLNGバイヤーがリスクヘッジを目 的に参入する戦略も既に一般的であり、欧州市場やアジ ア太平洋市場から石油企業、商社、ユーティリティ企業 等の参画の可能性がある*24

   正に本稿を執筆している6月21日、中国国営石油会 社CNPCが同プロジェクトの20%に参画するのに加え、

少なくとも年間3百万トンのLNG長期購入及び同プロ ジェクトへのファイナンス支援にも合意との報が入っ た(2013年10月1日までに諸条件を確定し最終合意す る予定)*25。今後、残る9%に対して複数のLNGバイヤー がマイナーシェアで参入してくる可能性が想定される とともに、CNPCが10月までに最終合意する契約条件

(20%の対価)に関心が集まるだろう。

   また、輸 出 権 の 独占 崩 壊を望まない Gazpromと NOVATEKの プ ロ ジ ェクト 推 進 の 思 惑 が 重 なり、

Gazpromが参画する可能性も否定されるものではない(6 月7日には両社はLNGでの新規共同事業立ち上げで合意 できずとの報もあるが、ヤマルLNGへの参画を否定する 内容ではない*26)。更にはガス分野への急速な進出を図 るRosneftがファームインするというワイルドカードもあ り得る。

②マーケティングの本格化

   Gazpromのパイプラインガスと欧州市場で競合するこ

とは双方望まない(Gazpromにとっては欧州市場を失うこ とになり、NOVATEKにとってはLNGよりも安価なパイ プラインガスと競うことになる)。したがって、欧州では Gazpromのパイプライン網に入っていない英国、スペイ ン、ポルトガル、また、Totalの本拠としてフランスが対 象となるだろう。

   また、アジア太平洋地域(日中韓台)でのマーケティン グも本格化するが(既に3月にノヴァク・エネルギー相に NOVATEKミヘルソンCEOが随行し訪日)、夏場だけの 契約になることから限定的にならざるを得ない。しかし、

現在アジア市場を目指して勃興する複数のロシアLNGプ ロジェクトのなかでは既にEPC契約を締結し、今年中に FIDを終える計画という点でサハリン-Ⅱ第3トレイン拡 張(現在政府検討中/Gazpromにとってはウラジオストク LNGと両立できるかどうかのジレンマも抱える)、ウラジ オストクLNG(Gazpromおよび日本官民による支援)、デ・

カストリ(サハリン)LNG(サハリン-Ⅰ/Rosneftと丸紅に よる覚書)を追い越し、トップランナーに躍り出ている。

プロジェクトの確度の高さという利点を生かし、アジア 太平洋市場でのバイヤーが妥協できる価格・契約条件が 提示されるかどうか、2013年内にはメディア露出の可能 性が高い。

③Gazpromに対する対抗馬としてのヤマルLNG

   欧州バイヤー(第3次エネルギーパッケージを推進 する EU諸国)にとってのメリットは、高止まりする Gazpromのパイプラインガス価格に対する対抗馬を 得ることにつながる点にもある。ヤマルLNGプロジェ クトが供給する LNGが Gazpromのパイプラインガス より安いことになれば、欧州から Gazpromへの値下 げ圧力を強める材料となり、逆に LNGが高ければ NOVATEKに対して値下げ圧力を強めることが可能

出所:筆者まとめ

◆プロジェクト実現にとってのプラス面

 ・サベッタの港湾建設については政府が負担することになっており、既に建設に着工している。

 ・ヤマル LNG は輸出税・抽出税が免税となっている。

◆プロジェクト実現にとってのマイナス面

 ・通年での同一地域への販売スキームが適用できない前提であること(通年では欧州、夏場は欧州と アジア)。

 ・原子力砕氷船利用による輸送費およびプラント建設コスト高騰による LNG 価格の競争力の有無。

◆プロジェクト実現のための不確定要素  ・優遇税制はいつまで続くのか。

 ・ Gazprom の欧州向けパイプラインガスとの競合。

 ・ ESPO 原油同様に仕向け地規制の撤廃による市場認知度への貢献策を適用するかどうか(⇔転売 しにくい LNG に魅力的な条件となるか)。

表7 ヤマル LNG プロジェクトのプラス面、マイナス面と不確定要素

参照

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