九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
物理工科のための数学入門 : 数学の深い理解をめざ して
御手洗, 修
九州大学応用力学研究所QUEST : 推進委員
藤本, 邦昭
東海大学基盤工学部電気電子情報工学科 : 教授
http://hdl.handle.net/2324/1500390
出版情報:
バージョン:
権利関係:
75
第 5 章 三角関数
”昔,海を航海するときには位置を知るために天文学の知識が必要であった.当時は天動説であったので,
星々はこの空の球の上に並んでいると考えられていた.この天球の星の位置から船の位置を計算する”球面 三角法”が必要であった.例えば図 5—1に示すように天球上で太陽と月の距離を求めるには図の“弦”(ギ ターの弦や弓矢の弦と同じ)の長さを計算しなければならない.これから始まり 9 世紀から 10 世紀にかけ てイスラム世界で sin, cos, tan の三角比が用いられ,現在のようになったといわれている.
!
!
"#
$
%
&'
( )#
図 5− 1 図 5− 2
平面上の三角形の性質,三角形の角の大きさと辺の長さの関係について調べる方法を一般に三角法という.
この三角法を用いれば測量において直接測ることが難しい長さを求めることができる.例えば,建物,山,
木などの高さを測ることができる.また,角度は方向をあらわすので次に学ぶベクトルでも三角関数は重要 になる.
また,今までは 1 次関数,2 次関数を学んだが,周期的に振動する状態は表せない.図 5− 2のような振 動波形はこの世にたくさんあるがそれを表すことができるのがこの三角関数なのである.従って,周期関数 とも呼ばれる.また,円を表すので円関数とも呼ばれる.
5.1.円弧の長さと弧度法
円周の長さは非常に重要である.それはどのようにすれ ば求めることができるだろうか?それにはピタゴラスの定 理を用いるのである.まずアルキメデスによって行われた ように,半径rの円周の長さを多角形で近似して,その周 長を計算する.ここでは半径を 1 とし,周長と円に内接す る多角形からπを求めてみよう.
(1)まず半径 r=1の円に内接する n=6 の6角形を考え る.それは6つの正3角形(ΑΟΒ)からなる.従って,6角形 の1辺の長さ(ΑΒ)は bι−1=1であり,周長 は = nbi-1= 6 である.
(2)次にこれらの 6 つの正 3 角形をそれぞれ 2 つに分割 し,正12角形を作り,そのときの 1 辺の長さ(bi)を求め る.正 3 角形を 2 分割する線 OC,即ち 2 等辺 3 角形の高さ aiは,ピタゴラスの定理を用いて
ʻ三角関数など世の中にでて一度も使った ことは ないʼと人は言うけれど・・・
O A
B C
D
a i
bi
0.5b (i- 1)
1 1-a i
図 5− 3
76
a
i= 1
2! b
i!12
"
#$ %
&'
2
これより,次の12角形の辺の長さ biは, 直角3 角形 BCD の斜辺になるので,後で詳しく学ぶピタゴラスの定 理より
b
i= b
i!12
"
#$ %
&'
2
+ ( 1 ! a
i)
2これを整理すると
b
i= b
i!12
"
#$ %
&'
2
+ 1 ! 1
2! b
i!12
"
#$ %
&'
"
2# $$ %
&
''
2
= 2 1! 1
2! b
i!12
"
#$ %
&'
2
(5− 2)
12 角形の辺の数(ni)は 6 角形の辺の数(ni-1)倍になるので,
n
i= 2n
i!1= 12
よって,12 角形の周長は:
!
i= n
ib
i(3)次に24角形にして,周長を計算する.
このようにして多角形を倍々にすると,ピタゴラスの定理だけを用いて多角形の周長を計算することがで きる.この周長を直径で割って円周率を得ることができる.これをπの多角形近似という.
円周率=周長(
!
i)/直径(2r
)
以下にこの方法で計算した結果を示す.π=3.14 は正96 角形,π=3.141592は正3072角形の時に得られること が分かる.そのときの正 96 角形,正3072角形を図に示す.ほとんど円になっていることが分かる.正3072 角形は10回繰り返して計算するだけである.BC200 年にアルキメデスは正96角形,AC200年頃中国の劉徽(り ゅうき)は正3072角形まで求め,πを計算したといわれている.
i n 角形 多角形の周長 対応する円周率
1 6 角形 6.000000000 3.000000000
2 12 角形 6.211657082 3.105828541
3 24 角形 6.265257226 3.132628613
4 48 角形 6.278700406 3.139350203
5 96 角形 6.282063902 3.141031951
6 192 角形 6.282904944 3.141452472
7 384 角形 6.283115216 3.141557608
8 768 角形 6.283167784 3.141583892
9 1536 角形 6.283180926 3.141590463
10 3072 角形 6.283184212 3.141592106
77
従って,円周の長さと半径の比は,360 度の場合
!
!=360or = 2" r
r = 2 " (radian)
である.半円(180 度)の場合:
!
!=180or = " (radian)
その半分(90 度)の場合:
!
!=90or = "
2 (radian)
従って,角度θの場合:
!
!or = ! (radian)
即ち,円弧の長さ は角度θ に応じて決まることがわかる.
正96角形 正3072角形
図 5− 4
!"#$%
&!'
! !
&!
!
!(#$%
)!*&+'
!(#$%
,,,'"
-!*.
!(#$%
)-!*.+'
図 5− 5
78
これより,円周の弧の長さ は半径 r とその角度θ の積で表される.
! = r !
(5−2)このように円弧の長さ
は角度
θに比例
している.また,半径 r が長いと円弧の長さも 長 く な る . 即ち円弧の長さは半径に比例
しているのがわかる.扇子が 360 に広がるとそれは 2π[ラディアン, radian]なので,円周の長さは 2πρとなる.このとき計算に用いる角度は ではなくラディアンである.こ のように角度をラディアンで表すことを弧度法という.弧度法はこのように扇子で理解できる.なお,電卓 を用いる場合には,設定が”度(Degree, DEG)”になっているか,” ラディアン (Radian, RAD)"になって いるかに注意しなければいけない.三角関数で重要なのが角度であり,それを表す方法に 2 通りあることを理解しておくことが重要である.
[問題 5-1 ] 半径 0.5mのセンスが 30 度開いている.そのときの円弧の長さはいくらか?
円周の長さと π に関する驚異
円周の長さとπに関する直感が非常に異なる有名な例を示す.
それは,「地球を完全な球として,山も谷もないとし,赤道上に地 球を取り巻くロープを置くとしよう.このロープに1m付け足し て,下図に示す様に一定間隔で地面から支えて浮かせるとする.
その場合ロープと地面の間隔はいくらになるか?」というもので ある.
地球半径は RE=6370 km と大きいので,1mのロープを付け足す と,数 mm しか浮かないような気がする.地上とロープの間隔をr とすると,1mだけ長いロープの全長は
2 ! ( R
E+ r ) = 2 ! R
E+ 2 ! r
で,長くなった分は
2! r = 1 m
となる.従って地上とロープの間隔はr = 100 cm / 2! = 16 cm
で直感よりもかなり大きい.
この考え方は,山手線の外側のレールと内側のレールの長さはどれだけ違うか?といった疑問にも応用す ることができる.日本の在来線のレールの幅は狭軌(きょうき)と呼ばれていて 1.067mである.レールの 平 行 部 分 の 長 さ は 内 側 も 外 側 も 同 じ で あ る か ら , 一 周 す る 分 だ け 外 側 の レ ー ル が 長 い . 従 っ て
2! r = 2! " 1.067 = 6.7 m
だけ外側が長いというわけである.実際には曲がり角でレールが傾いているの で,これより少し短いであろう[5.1.遠山].5.2.360 とは何か?
角度では1回転すると 360 ,1 は 60'(分),1'は 60"(秒)であり 60 進法である.この伝統的に用いられ ていた角度 360 と弧度法を結びつける必要がある.即ち,角度が θ=360 のときには円周長は =360 R と なるが,実際には円周長は =2πR である.したがって,2πラジアンは 360 に対応している.
2! !(radian) " 360
o従って,180 はπ ,90 はπ/2 , 1 と1ラジアンはそれぞれ
図 5− 6
円弧の長さは扇子 で理解
79
1
o= !
180 !(radian)
,1(radian) = 180
o!
円周の長さから 1 回転は必ず2πラジアンでなければならないが,一周の角度は360°である必要は必ずしも ない.36 でも悪くはない.半周の角度はπ ラジアンで,必ず3.141592 でなければならないが,180°である 必要はない.それは歴史的に決まっているだけである.多分,1年は約360日(実際は365日)なので太陽が 一日に1°公転するとすれば容易に天体の位置から季節を知ることができ,農作業上便利だったからではな いかとも言われている.
また,円周は簡単に6等分でき,円に内接する四角形から4等分もできる.4と6で等分できる数は,
12,24,36,48,60,72,.....348,360,372,.....となる.この中でも360は 2,3,4,5,6,8,9,10と7以外の整数で約分できる.このように360は約数が最も多い数字 であるから,360°が採用されたともいわれている[5.2. アーネスト・ゼブロスキー]. 360°はこのように人 為的に取り決められた数字である.
[例題1]100
は何ラジアンか? また,π/5 は何度( )か?[解答]
100 ! 1
o= 100 ! "
180 !# "
1.8 (radian)
!
5 " 180
! != 36
o
[問題 5 − 2 ]
次のラジアンを角度( )で表せ.また,角度( )をラジアンで表せ.(1)
π/6 (2)
π/4 (3)
π/3 (4) 2
π/3 (5) 3
π/4 (6) 5
π/4 (7) 3
π/2 (8) 7
π/4 (9) 50
o(10) 70
o
[注: (5-1 )式の ! = R ! では, ! と R は長さの単位を持ち,次元に関して書くと ! [ ] m = R m [ ] ! [ ] 1 と
なる.角度 ! は「ラディアン」とは呼ばれるものの,次元がない数値である.これを無次元といい,
[1] と書く.これは重要で,今から学ぶ三角関数 の sin ! の ! も無次元である.従って sin ( ) ! t の ! t は
無次元である.]
5.3.πは人類の知的進化の あかし
[1] もしπ =3 とするならこの世界に6角形はあっても,円は存在しないことになる.π =3 と教えるこ
とは数千年の人類の知的発展を無視することに等しい.(しかし暗算をするときにはπ =3を使おう!)
[2]
πは人類の知的文化の一部である.πは”超越数”と呼ばれる.πが超越数であることは,リンデ ンマン,カントールによって証明された.数の分類,
整数(1,2,3・・・),自然数( 1, 2, 3・・・), 有理数(分数で表せる数) 割り切れる数
実数 割り切れない数 (循環小数)
無理数(分数で表せない数) 代数的数 (
2
23/2・・・)(循環無限連分数) (非循環小数) 超越数 (π,e など) (非循環無限連分数)π
の歴史: 紀元前600年頃,エジプトのパピルスと呼ばれる紙に
π =3 .16という値が使われて いた証拠が残っている. その後,アルキメデス(紀元前287~212年)がπの値を求めた.80 複素数
πは単に円周率ではなく,数学の頂上に君臨する”超越数”であり,数学の至る所に現れる.その横には もう一つの”超越数”である自然対数の底である e(ネ−ピア数)がある.また,πは暗記の挑戦にも用いら れている.円周率の暗唱で 54000 けたの世界記録を持つ千葉県茂原市の元会社員 原口證(あきら)さんが 2005 年 7 月2日未明、自身の記録を更新し,83431 けたまでの暗唱に成功した.これは文献[5.3.Pickover]
でも紹介されている.これが文化でなくて何であろうか?
[3]πの値は先端技術に用いられている.πをより正確に求める競争が新しいコンピュータを用いて世界
中で行われている.求めた桁数や計算に要した時間がコンピュータの性能の評価に使われ,先端技術の発展 に貢献している.2010 年には長野県飯田市のアマチュア科学者 近藤 茂氏[5.4.熊日新聞]も自作パソコ ンで 5 兆桁まで計算している.
5.4.円,円弧の面積
アルキメデスの時代より,半径 R の円の面積は以下のようにたくさんの三角形に分割したものを右のよう に並べ替えることによって得られると考えられていた.これは現代の積分に通じる考え方で,また直感的に も大変理解しやすい.以下のようにn個に分割すると
上の右図から,[円の面積]=([底辺]x[高さ]/
2)xn個 で
S = 1 2
2! R n R
"
#$ %
&' n = ! R
2同様にして,角度θの円弧の面積は
暗記法:3.1415926535 (10 桁)
妻(3.1)子(4)異(1)国(59)に(2)婿(65)さん(3)go(5)
!"#
! $%&'()*#+
図 5− 7
! !
!
!
!
図 5− 9
!!"
"
!!"#$
図 5− 8
81
S = 1
2 ( ) ! R R = 1
2 ! R
2 (5− 3)となる.
[問題 5 − 3 ]
円の半径を物差しで測ったら 0.500 m であった.円周の長さと面積を求めよ.〔有効数字を 用いよ〕5.5.三角比と三角関数
次の左図は三角比を用いて建物の高さを測量する例である.即ち建物から歩いた距離をはかり,そのとこ ろでの建物のてっぺんが見える角度を測定すれば,tanθから高さ H が計算できる.また右図に示すように,
歩いた坂道の距離を測って,坂道の勾配角を測定すれば,頂上の高さ H は Lsinθを用いて測量できる.
また,図 5− 11 のように川を渡らずして川幅を測ることも できる.即ち対岸に目印になるものを見つけ,そこから川 岸に沿って歩いてその距離を測り,対岸の目印の角度を測 定すれば,Ltanθを用いて川幅が計算できる.このように,
三角比を用いると実際に測定できる量から測定できない 量を計算で求めることができる.
これらの計算には,角度と三角形の辺の比の関係をあら かじめ知っておく必要がある.即ち,直角三角形での三角比の 知識が必要である.角度が特別な場合はピタゴラスの定理と相 似を用いて計算できるが,それら以外の角度の計算は”三角関 数表”を用いて行なわなければならない.しかし最近では関数 電卓でそれがすぐにできる.
右図の様に,円周の一点 P(x,y)は直角三角形の一つの点に なるので,斜辺即ち半径rと角度θの三角比で表すことができ る.
正弦(サイン):
sin ! = y
r
よりy = r sin!
余弦(コサイン):
cos ! = x
r
よりx = r cos !
と点 P(x,y)は sinθと cosθで表すことができる.
また,正接(タンジェント):
tan ! = y
x
よりy = x tan!
!
"#$%&'()*+,,-
./0%#$%&'1/
2!*3,4
!
"#$%&'%()*#
+!,-./
図 5− 10
図 5− 11
!
!
!
"
#
"
#
図 5− 12
82 上の3式から,
tan ! = sin !
cos !
となることがわかる.また tan θの逆数(コタンジェント)をとって
cot ! = 1
tan ! = cos !
sin !
という式も時々用いられる.
このとき角度は連続であるからこれらの三角比を表すものを三角関数という.
[問題 5 − 4 ]
直角三角形がいろいろな状態で置かれていても計算できねばならない.それは置き方によ って6通り(裏表2x3辺=6通り)ある.次の図形でx,yを sin と cos で表せ.
!
"
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!
"
) !
%*'
!
" !
+
" !
! ,-
%.' %,' %/'
!
"
(0
!
図 5− 14
5.6.ピタゴラスの定理
三角比や三角関数で良く出てくるのがこのピタゴラ スの定理である.即ち,図 5− 13 の直角三角形にお いて
r
2= x
2+ y
2 (5− 4)が常に成り立つ.これに
x = r cos ! y = r sin !
"
# $
角度 θ のとき,直角三角形の斜辺の長さr ,x軸方向の長さとy軸方向の長さ の関係
x = r cos ! y = r sin !
"
# $
y = x tan !
!
!
"
図 5− 13
83 を代入すると,次の関係がいつも成り立つ.
1 = cos
2! + sin
2!
(5− 5)[注: cos ! の 2 乗は ( cos ! )
2であるが,これを通常 cos
2! と書く. ]
ピタゴラスの定理
今から2800年くらい前に,ピタゴラスがエジプトの寺院の石畳の敷石の模様から発見したといわれて いる.ピタゴラスの定理が重要なことはいうまでもないが ,それ以上に大切なことは,外で遊ぶといろい ろなことを発見できて面白いということを示している.
図 5− 15
証明図
ピタゴラスの定理の証明法はたくさんあるが,その中でも最も簡単な方法を紹介する[5.5.大矢].図 5
− 16 左に示すように,a,b,c の辺の長さを持つ 4 つの直角三角形(白色)を一辺が a+b の正方形から切り 取ると,真ん中の灰色の正方形が得られる.この正方形の面積はc2である.この a,b,c の辺の長さを持つ 直角三角形(白色)を右のように並べ直すと,c2は2つの灰色の正方形の面積の和a2+b2に等しいこ とがわかる.即ち,a2+b2=c2である.
!
"
#
#$
!$ #
"$
!
!
! !
!
"
"
"
"
"
"
"
!
!
#
#
# #
図 5− 16
[問題 5-5 ][ピタゴラスの定理 の練習]
(1) 直角三角形の2辺が1と2の時,斜辺の長さはいくらか?
(2) 直角三角形の2辺が1と
3
の時,斜辺の長さはいくらか?(3) 直角2等辺三角形の2辺が 10 の時,斜辺の長さはいくらか?
5.7.直角三角形の相似
ピタゴラスの定理を用いて,次のように直角三角形の辺の長さを計算できる.
84
!!"#$
!!"#$
%
%
2
!!"#$
!!%#$ &
'
3
図 5− 17
これらと相似な三角形の辺の長さは,全部の長さを同じように何倍かしてやれば求まる.
!
!
2
"#$
2 2
2 2
%
%
1 2
1 2
" ! 3
1 2
3 2
#$% !
"
2 3
&
図 5− 18
従って,角度が 30 45 60 の場合,sinθ,cosθ,tanθの値は簡単に求めることができる.例えば,以下 のように図を描いて求める
sin 30
!= 1
2
, cos 30!= 3
2 , tan 30! = 1 2/ 3
2 =1 / 3= 3 / 3
!
!!"#$ "#$
3 2
!
!!"#$
1 2
1 2
!!"#$
!
"#$
3 2
図 5− 19
[例題2]図 5− 19 をみて,値を求めよ.
(1)
sin 45
!(2)cos 45! (3)tan 45! (4)sin 60
! (5)cos 60!(6)tan 60!(7)sin 90! (8)cos 90!(9)tan 90!(10)
sin 0
! (11)cos 0! (12)tan 0![解答] 半径1の単位円を描き,そこに角度θの直角三角形を描く.
(1)
sin 45
!= 1 2 = 2
2
, (2) cos 45! = 1
2 = 2
2 , (3) tan 45!=1
85 (4)
sin 60
!= 3
2
, (5) cos 60!= 12 , (6) tan 60! = 3 2 /1
2 = 3
(7)~(9)の 90 の場合,89 付近から次第に 90 に近づけたり,91 付近から次第に 90 に近づけて いくことによって計算できる.(7)sin 90!=1 /1=1 (8) cos 90! =0 /1=0
(10~12)0 の場合,1 付近から次第に 0 に近づけていくとε 0 となるので,計算できる.
(10)
sin 0
!= 0 /1 = 0
, (11)cos 0!=1 /1 , (12) tan 0!=0 /1=0!!"#$
!
"
!
"
!!"#$
!
"#
!
!!"#!
"
!
εを微少量とすると,
89 から 90 に近づくとき 91 から 90 に近づくとき 1 から 0 に近づくとき
tan 89
!! 1 / + " = +#
tan 91!!1 /"#="$ tan1!!tan"=0 tan 90!=1 /+0= +! tan 90!=1 /!0=!"図 5− 20
無限大と無限小,微少量
三角関数の角度が0度や 90 といった値の場合にどのような結果になるかは,無限大と無限小,微少量 といった概念を理解しておかなければいけない.
この無限大と無限小という言葉は我々の想像を刺激するし,数学では非常に重要な考え方である.まず,
角度が0 に近づいていくときの tan の値を計算してみよう.1 の半分は 5 ,0.5 の半分は 0.25 . その半分は 0.125 ,そのまた半分と何回も繰り返していくと,次第に小さな角度になっていき,0 に近づ いていく.例えば,電卓を用いて計算してみると,
tan1
!= 1.745506492822 ! 10
"2!
tan1
!= tan ( ! / 180 ) = tan 1.745329251994 ( " 10
#2)
tan0.5
!= 8.726867790759 ! 10
"3!
tan0.5
!= tan 0.5 ( ! " / 180 ) = tan 8.726646259972 ( ! 10
#3)
tan0.25
!= 4.363350820702 ! 10
"3!
tan0.25
!= tan 0.25 ( ! " / 180 ) = tan 4.363323129986 ( ! 10
#3)
以下,角度を一桁ずつ小さくしてみる.
tan0.1
!= 1.745331024189 ! 10
"3!
tan0.1
!= tan 0.1 ( ! " / 180 ) = tan 1.745329251994 ( ! 10
#3)
tan0.01
!= 1.745329269716 ! 10
"4! tan0.01
!= tan 0.01 ( ! " / 180 ) = ( 1.745329251994 ! 10
#4)
tan0.001
!= 1.745329252172 ! 10
"5! tan0.001
!= tan 0.001 ( ! " / 180 ) = tan 1.745329251994 ( ! 10
#5)
86
tan0.0001
!= 1.745329251996 ! 10
"6! tan0.0001
!= tan 0.0001 ( ! " / 180 ) = tan 1.745329251994 ( ! 10
#6)
...........
今度は小さい角度から 90 に近づいていく場合の tan の値を計算してみよう.
tan89
!= 57.28996163075988 ! 5.729 " 10
tan89.9
!= 572.9572133543033 ! 5.729 " 10
2tan89.99
!= 5729.577893121648 ! 5.729 " 10
3tan89.999
!= 57295.77950721289 ! 5.729 " 10
4tan89.9999
!= 572957.7951043441 ! 5729 " 10
5tan89.99999
!= 5729577.941221853 ! 5.729 " 10
6tan89.999999
!= 57295779.0855207 ! 5.729 " 10
7
tan90.000000000
!= + !
と一桁づつ正の大きな値に次第になっていく.従って小さい角度から 90 に近づいていく場合の tan の値は 非常に大きな値,即ち無限に大きな正の値,正の無限 大の値に近づいていくことが想像できる.
今度は 90 よりも大きい角度から 90 に近づいていく場合の tan の値を計算してみよう.
tan91
!= -57.28996163075956 ! "5.729 # 10 tan90.1
!= -572.9572133543435 ! "5.729 # 10
2tan90.01
!= -5729.577893132957 ! "5.729 # 10
3tan90.001
!= -57295.77950688599 ! " 5.729 # 10
4tan90.0001
!= -572957.795144547 ! " 5.729 # 10
5tan90.00001
!= -5729577.952531425 ! " 5.729 # 10
6tan90.000001
!= -57295778.75861909 ! " 5.729 # 10
7
tan90.000000000
!= - !
と一桁づつ負の大きな値に次第になっていく.従って大きい角度から 90 に近づいていく場合の tan の値は 非常に大きな負の値,即ち無限に大きな負の値,負の無限大の値に近づいていくことが想像できる.
これらは次節で tan のグラフを描く場合に重要になってくる(図 5− 27).電卓で tan90 とすると,”エラ
87
ー”,”E”とか”数値ではありません”と出るが,これは電卓が計算できないからである.同じことは 1 を 小さな数字で割り算すると非常に大きな数字になり,その極限として1を0で割るときに起きる.即ち,
1 0 = !
無限大となり,計算機や電卓は計算ができなくなるのである.これはコンピュータを使って計算するときに 注意しておかなければいけないことである.ゼロで割っては計算機は答えを出せないのであるが,無限大は 存在している.
[問題 5-6 ]次の値を求めよ.
(1) sin (π/2 ) = (2) sin (π/4 ) = (3) sin (π) = (4) cos (π/2 ) = (5) cos (π ) = (6) cos (3π/4) = (7) tan (π ) = (8) tan (π /4) = (9) tan (3π /4) = (10) tan (7π /4) =
88
5.8.三角関数の波形
今まではある一つの角度だけの三角関数を計算したが,全ての角度について計算して図を描いてみよう.
点Pを角度0度から左 周 り に 回 転 さ せ る場合(これを反 時 計 方 向という),点P(x,y)を右側の側面から左 を見た場合のy座標と,下から上を見上げた場合のx座標を,それぞれの角度に対して描いてみよう.これ は観覧車のゴンドラが回転するのを横から眺めた場合と,下から眺めた場合に対応する.
この図から三角関数が円を表わすことがわかり,また回転運動が振動と同じであることも理解できる.
そして,円周上の点 P は
x = cos θ y = sin θ
⎧ ⎨
⎩
θ
P(x,y)
正弦波形 sin
θ余弦波形 cos
θ図 5− 21
従って,時計方向に回転する場合は角度θを-θとするので,
x = cos ( ) −θ = cosθ y = sin ( ) −θ = − sinθ
⎧ ⎨
⎪
⎩⎪
正弦波形はーの方向からスタートする.
三角関数は意外なところにも出てくる.紙を円柱状に巻いて,それを斜めにスパッと切り,展開すると,
三角関数の波形になる.これは洋服の袖付けや,雨樋の接続に応用できる[5.1.遠山].図 5− 22 の様な半 径 a の円筒を斜めに角度φで切断し展開すると,円筒の斜め切断部の水平面からの高さが振幅となるような 三角関数の波形が得られる.
89
図 5− 24
矢印の視点で見た図
A
O
A'
b B y
a O'
φ
B'
O O' a θ
真上から見た図 D
C
A
O O'
θ
A'
B' a B
B'
図 5− 22
′
A B ′ = y
とおくと,y = O ′ B ′ tan φ
で,O ′ B ′ = a sinθ
であるから,高さはy = a sinθ tanφ
一方,OAB と O'A'B'の三角形は相似であるから
tan φ = b
a
が得られ,これを代入すると,高さは
y = a sin θ ⋅ b
a = bsin θ
となる.即ち,円柱を斜めに切った断面を展開すると,その上部は sin 波形になる.図 5− 22 において点線から切って両側に展開する と次のような図になる.
A
O'
C C
D
図 5− 23
また,図 5− 24 の様に,端を斜めに切断した円筒を回転させた時に棒をバネで押さえておき垂直方向に 動くようにしておくと,棒を往復運動させることができる.これをカムという.即ちカムに sin の振動波 形を与えることができる.これはいろいろな機械において応用されている.
[問題 5-7]交流波形の基礎
y = sinθ
とy = cosθ
を同じ図に描いてみよう.何度ずれているか(位相差はいくらか)?
三角関数のグラフ
以下に位相(角度)をずらしたときの波形を示す.(1)の関数では3は振幅,π/6 を位相という.
(1)
y = 3sin ( θ + π / 6 )
(2)y = cos ( θ − π / 4 )
90
図 5− 25 図 5− 26
(3)
y = tanθ
図 5− 27
[問題 5-8]3相交流の基礎
振 幅 が 1 で 位 相 が 0 , 120 , 240 ず れ た 正 弦 波 の 波 形
y
1= sinθ
,y
2= sin ( θ + 120
o)
,y
2= sin ( θ + 240
o)
を同じ図に描いてみよう.3つの波形を足しあわせた y = y1 + y2 + y3はいくらか?
5.9.三角関数の他の公式
三角関数では,単位円を描きそこに三角形の図をかいて角度をとってみることが大事である.そうすれ ば自然に以下の式を導くことができる.
sin ( ) −θ = − sin ( ) θ
cos ( ) −θ = cos ( ) θ
,tan ( ) −θ = − tan ( ) θ
1
X Y
θ
−θ
sin(θ)
-sin(θ)
=sin(-θ)
1
X Y
θ
−θ
cos(θ)
cos(-θ)
図 5− 28
91
sin ( π − θ ) = sin ( ) θ
,cos ( π − θ ) = − cos ( ) θ
tan ( π − θ ) = − tan ( ) θ
1
X Y
θ
sin(θ) θ
sin(π-θ)
cos(θ)
cos(π-θ)
1
X Y
θ tan(π-θ)
-tan(θ) θ
θ
図 5− 29
[例題3]次の関係式が成り立つことを図で示せ.
(1) sin θ + π 2
⎛ ⎝ ⎞
⎠ = cos ( ) θ
(2)cos θ + π 2
⎛ ⎝ ⎞
⎠ = − sin ( ) θ
(3)tan θ + π 2
⎛ ⎝ ⎞
⎠ = − cot ( ) θ
(4)
sin π 2 − θ
⎛ ⎝ ⎞
⎠ = cos ( ) θ
(5)cos π 2 − θ
⎛ ⎝ ⎞
⎠ = sin ( ) θ
[解答]
(1)
sin θ + π 2
⎛ ⎝ ⎞
⎠ = cos ( ) θ
(2)cos θ + π 2
⎛ ⎝ ⎞
⎠ = − sin ( ) θ
1
X Y
θ sin(θ+π/2)
cos(θ) θ
1
X Y
θ
cos(θ+π/2)
sin(θ)
図 5− 30
(3)
tan θ + π 2
⎛ ⎝ ⎞
⎠ = − cot ( ) θ
(4)sin π 2 − θ
⎛ ⎝ ⎞
⎠ = cos ( ) θ
(5)cos π 2 − θ
⎛ ⎝ ⎞
⎠ = sin ( ) θ
1
X Y
θ tan(π-θ)
-tan(θ) θ
θ
X Y
θ
sin(π/2-θ)
cos(θ) θ
cos(π/2-θ)
sin(θ)
図 5− 31
[例題4] 1 + tan
2θ = 1
cos
2θ
を証明せよ.[解答]
ピタゴラスの定理:cos
2θ + sin
2θ = 1
を用いて,
1 + tan
2θ = cos
2θ
cos
2θ + sin
2θ
cos
2θ = 1
cos
2θ
92
[周期性]
三角関数の重要な点は周期性があるということである.
(1)
sin ( θ + 2nπ ) = sin θ
: sinθは 1,2,3 回転しても,元の sinθと等しい.(図 4− 32)この式でθ=0 とおくと,
sin ( ) nπ = 0
:0 ,180 ,360 で sinθ=0
(2)
cos ( θ + 2nπ ) = cosθ
:cosθは 1,2,3 回転しても,元の cosθと等しい.(図 4− 33)
図 5− 32 図 5− 33
(3)
tan ( θ + nπ ) = tanθ
:tanθは半回転したとき,元の tanθに等しい.(図 5− 34)(4)
cos ( ) nπ = ( ) −1
n= +1 ( n = 0, 2, 4, 6...)
−1 (n = 1, 3, 5, 7...)
⎧ ⎨
⎩
(図 5-35)
図 5− 34 図 5-35
5.10.三角関数における偶関数と奇関数
[1]偶関数:
y = cos ( ) θ
は 5.9.でみたように,cos ( ) −θ = cos ( ) θ
となって,f ( ) − x = f x ( )
を満たすので偶関数である.後の第 14 章のテイラー展開でも分かるように,cosθはθの偶数乗の関数
y = θ
2, θ
4, θ
2n●
cos
2θ + sin
2θ = 1
(ピタゴラスの定理)
●
1
cos
2θ = 1 + tan
2
θ
(5− 6)93
(n = 0,1, 2 ⋅⋅⋅ )
で表される.[2]奇関数
y = sin ( ) θ
とy = tan ( ) θ
は,sin ( ) −θ = − sin ( ) θ
,tan ( ) −θ = − tan ( ) θ
となるので,f ( ) −x = − f x ( )
を満たすので奇関数である.また,sinθはθの奇数乗の関数
y = θ ,θ
3, θ
2n+1(n = 0,1, 2 ⋅⋅⋅)
で表されることが分かる.
5.11.波形の合成
さらに重要なものに波形の合成がある.振幅 a と b の,位相角度が 90 ずれた,同じ回転速度を持つ2つ の波形の合成である.
これは,以下に述べる加法定理を用いて証明することも できるが,一見複雑ではあるが,次のように図を用いて導 くことができる(図 5− 36).まず,上の式を次のように 全部 sin に直しy方向の距離に変換する.
a sinθ + b cosθ = a sinθ + b sin θ + π
2
⎛ ⎝⎜ ⎞
⎠⎟
そこで,半径 a と b の同心円を描くと,
a sinθ = AB
,角度
θ + π / 2
で,半径bの線分DO
から,b sin θ + π 2
⎛ ⎝⎜ ⎞
⎠⎟ = DC
となる.ΔAOB
を平行移動させて,ΔFDE
とすると,AB = FE
なので,a sinθ + b sin θ + π 2
⎛ ⎝⎜ ⎞
⎠⎟ = FE + DC = OQ
ここで,a と b の長さを持つ長方形 FDOA を考えると,その斜辺の長さは
FO = a
2+ b
2 なので,上の式の和
OQ
はOQ = a
2+ b
2sin ( θ + α )
で与えられる.従って
a sinθ + b sin θ + π 2
⎛ ⎝⎜ ⎞
⎠⎟ = a
2+ b
2sin ( θ + α )
が成り立つ.ただし
a
2+ b
2cos α = a
,a
2+ b
2sin α = a
である.即ち,a と b の振幅を持つ,位相がa sinθ + b cosθ = a
2+ b
2sin ( θ + α )
(5− 7)ただし
cosα = a
a
2+ b
2, sinα = b a
2+ b
2
a θ b
b cosθ b
a sinθ
a sinθ b sin(θ+90o)
a2+b2
α F y
x E
Q
O C
D θ
図 5− 36
94
90 異なる2つの振動の和は,振幅
a
2+ b
2 の振動になる.その振動の位相はsin θ
からαだけずれている.
5.12.加法定理 5 .12.1.加法定理
三角関数の中でもよく用いられるのが,2つの角度αとβを足し合わせる場合に成り立つ,加法定理と呼 ばれる次の関係式である.
sin ( α + β ) = sin α cos β + cos α sin β
cos ( α + β ) = cos α cos β − sin α sin β
tan ( α + β ) = tan α + tan β
1 − tan α tan β
⎧
⎨
⎪ ⎪⎪
⎩
⎪ ⎪
⎪
(5− 7)
即ち,2 つの角度αとβの足し算の sin と cos を求める式である.何故こうなるかを図で見てみよう. こ れは,半径1の円を取り,図のように三角形で表すことによって理解できる.
(1) sin ( α + β ) = sinα cos β + cosα sinβ
sin ( α + β ) = PA
はy軸方向の長さで,PA = PR + RA
である.PQ = sin α
からPR = sin α cos β
が得られ,また
RA = QB = OQsin β = cos α sin β
なので,結局
sin ( α + β ) = PA = PR + RA = sin α cos β + cos α sin β
α β 1
cosαcosβ cos(α+β)
sinα sinβ cosα sinβ
sinα cosβ
O
P
R Q
A B
β
sinα sinβ y
x
図 5− 37
(2) cos ( α + β ) = cosα cos β − sinα sin β
cos ( α + β ) = OA
はx軸方向の長さで,OA = OB − AB
である.AB = RQ = PQsin β = sin α sin β
なので,結局
cos ( α + β ) = OA = OB − AB = cos α cos β − sin α sin β
95
(3) tan ( α + β ) = tanα + tan β
1 − tanα tan β
以上の式を用いて,
tan ( α + β ) = sin ( α + β )
cos ( α + β ) = cosα cosα sin cos β β − + sinα sinα cos sinβ β =
sin β
cos β + sinα cosα 1 − sinα
cosα sin β cos β
= tanα + tan β 1 − tanα tan β
[例題 5]
次の式を証明せよ.(1)
sin ( α + β ) sin ( α − β ) = sin
2α − sin
2β
(2)
tanα + tan β = sin ( α + β )
cosα cos β
[解答](1)
三角関数でよく使う幾何学の関係:
回転角度と垂線と接線のなす角度は等しい.おもりを付けた棒をθだけ回転させると,棒に 90 度の接線も同じθだけ回転するので,回転角
度θと垂線と接線のなす角度は等しいことが理解できる.
θ1
θ1
θ2
θ2
接線
垂線
[1]θ=0の場合
[2]θ=θ1の場合 θ2 [3]θ=θ2の場合
θ1
図 5− 38
加法定理:
●
sin ( α + β ) = sinα cos β + cosα sin β
●cos ( α + β ) = cosα cos β − sinα sin β
●
tan ( α + β ) = tanα + tan β
1 − tanα tan β
96
sin ( α + β ) sin ( α − β ) = ( sin α cos β + cos α sin β ) ( sin α cos β − cos α sin β )
= sin
2α cos
2β − cos
2α sin
2β = sin
2α ( 1 − sin
2β ) − ( 1 − sin
2α ) sin
2β
= sin
2α − sin
2β − sin
2α sin
2β + sin
2α sin
2β
= sin
2α − sin
2β
[解答](2)
tanα + tan β = sinα
cosα + sin β
cos β = sinα cos β + cosα sinβ
cosα cos β = sin ( α + β )
cosα cos β
[問題 5− 9]
sin α = 1 / 2
,cos β = 2 / 3
のとき,次の値を求めよ.(1)
sin ( α − β )
(2)cos ( α + β )
(3)tan ( α + β )
5.12.2.加法定理の変形
この加法定理は以下のように変形してよく利用される.
[1]倍角の公式:
sin 2
( ) α
=2 sinα
cosα
cos 2
( ) α
=cos2α
−sin2α
==1−2 sin2α
=2 cos2α
−1 tan 2( ) α
= 2 tanα
1−tan2
α
⎧
⎨
⎪⎪
⎩
⎪⎪
(5− 8)
第一の式は,加法定理においてα = βとおいて得られ,また,
sinα = 2 cos α
2
⎛ ⎝⎜ ⎞
⎠⎟ sin α 2
⎛ ⎝⎜ ⎞
⎠⎟
としてもよく使われる.第二の式はピタゴラスの定理を用いて得られる.
[2]半角の公式:
倍角の公式
cos 2 ( ) α = cos
2α − sin
2α == 1− 2 sin
2α = 2 cos
2α − 1
の右辺を書き直して
sin
2α = 1 − cos 2 ( ) α
2 − − > sin α = ± 1 − cos 2 ( ) α 2 cos
2α = 1 + cos 2 ( ) α
2 − − > cos α = ± 1 + cos 2 ( ) α 2
⎧
⎨
⎪ ⎪
⎩
⎪ ⎪
(5− 9)
α = 0 の時
sin α = 0
,cos 2 α = 1
なのでこれによって cos(2a)の前の符号のチェックができる.97
[例題 6] cos θ = 1 / 2
のとき,次の式の値を求めよ.(1)
sin 2 θ
(2)cos 2 θ
(3)sin ( θ / 2 )
(4)cos ( θ / 2 )
[解答]
(1)sin 2θ = 2 sinθ cosθ = 2 1 − cos
2θ cosθ = 2 1 − 1 / 4 1 / 2 ( ) = 3
(2)
cos 2 θ = 2 cos
2θ − 1 = 2 1 / 2 ( )
2− 1 = −1 / 2
(3)
sin ( θ / 2 ) = ± 1 − cosθ
2 = ± 1 −1 / 2
2 = ±1
(4)
cos ( θ / 2 ) = ± 1 + cosθ
2 = ± 1 + 1 / 2
2 = ± 3
2
[例題 7] tan x
2 = t
としたときの sinx, cosx, tanx をtで表せ.この関係式は積分においてよく用いられ る.即ち,三角関数を有理関数に変換することができる.[解答]
1 + tan
2x 2 = 1
cos
2x 2
= 1 + t
2 より,cos
2x
2 = 1 1 + t
2sin x = sin 2 x
2 = 2 sin x 2 cos x
2 = 2 tan x 2 cos
2x
2 = 2t 1 + t
2tan x = sin x
cos x = 2 sin x 2 cos x
2 2 cos
2x
2 − 1
= 2 tan x 2 2 − 1
cos
2x 2
= 2 tan x 2 1 − tan
2x
2
= 2t 1 − t
2cos x = sin x tan x =
2t 1 + t
22t 1 − t
2= 1 − t
21 + t
2
[3]3 倍角の公式:
倍角の公式:
●
sin 2θ ( ) = 2 cosθ sinθ
,sinθ = 2 cos θ
2
⎛ ⎝⎜ ⎞
⎠⎟ sin θ 2
⎛ ⎝⎜ ⎞
⎠⎟
半角の公式
●
sin
2θ = 1 − cos 2 ( ) θ 2 cos
2θ = 1 + cos 2 ( ) θ
2
⎧
⎨ ⎪⎪
⎩ ⎪
⎪
,
sin
2θ 2
⎛ ⎝⎜ ⎞
⎠⎟ = 1 − cosθ 2 cos
2θ
2
⎛ ⎝⎜ ⎞
⎠⎟ = 1 + cosθ 2
⎧
⎨ ⎪⎪
⎩ ⎪
⎪
●
tan ( α + β ) = tanα + tan β
1 − tanα tan β
98
sin 3 ( ) α = 3sin α − 4 sin
3α
cos 3 ( ) α = −3cosα + 4 cos
3α
⎧ ⎨
⎪
⎩⎪
(5− 10)加法定理と倍角の公式を用いて,
sin ( α + 2 α ) = sin α cos 2 α + cos α sin 2 α = sin α ( 1 − 2 sin
2α ) + cos α ⋅ 2 sin α cos α
= sin α − 2 sin
3α + 2 1 ( − sin
2α ) sin α = 3sin α − 4 sin
3α
cos ( α + 2 α ) = cos α cos 2 α − sin α sin 2 α = cos α ( 2 cos
2α − 1 ) − sin α ⋅ 2 sin α cos α
= 2 cos
3α − cos α − 2 1 ( − cos
2α ) cos α = 4 cos
3α − 3cos α
[4]加法定理の変形公式:(和・積の公式)
また,加法定理は以下のように変形してよく使われる.
sin ( α + β ) = cosα sin β + sinα cos β
sin ( α − β ) = − cosα sin β + sinα cos β
⎧ ⎨
⎪
⎩⎪
辺々足す:
sin ( α + β ) + sin ( α − β ) = 2 sinα cos β
-->sin A + sin B = 2 sin A + B
2 cos A − B
2
(5− 11)辺々引く:
sin ( α + β ) − sin ( α − β ) = 2 cosα sin β
-->sin A − sin B = 2 cos A + B
2 sin A − B
2
(5− 12)また,
cos ( α + β ) = cosα cos β − sinα sin β
cos ( α − β ) = cosα cos β + sinα sin β
⎧ ⎨
⎪
⎩⎪
辺々足す:
cos ( α + β ) + cos ( α − β ) = 2 cosα cos β
-->cos A + cos B = 2 cos A + B
2 cos A − B
2
(5− 13)辺々引く:
cos ( α + β ) − cos ( α − β ) = −2 sin α sin β
-->cos A − cos B = −2 sin A + B
2 sin A − B
2
(5− 14)ここで
A = ( α + β ) , B = ( α − β )
とおくとα = A + B
2 , β = A − B 2
となるから,それぞれ右の式のようになる.これはよく用いられるので,暗記法も次に示す.覚えておくと とても便利である.