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Hokkaido University of Education

Title 1930年代のイギリスにおける音楽教育課程に関する一考察 : ミドルセッ

クス州Music in Schools(1935)の検討を通して

Author(s) 小林, 美貴子

Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 64(1): 43‑52

Issue Date 2013‑08

URL http://s‑ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/6953

Rights

(2)

北海道教育大学紀要(教育科学編)第64巻 第1号  

JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.64,No.1  

平成25年8月    August,2013  

1930年代のイギリスにおける音楽教育課程に関する一考察  

−ミドルセックス州肋才c才〃Scゐ00ゐ(1935)の検討を通して−  

小 林 美貴子  

北海道教育大学札幌枚音楽教育学研究室  

AStudyonMusicCourseinBritaininthe1930s   

ThroughMiLSicinSchooLs(1935)ofMiddlesexEducationCommittee  

KOBAYASHI Mikiko 

DepartmentofMusicEducation,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducatioIl  

概 要  

本稿では,1935年にミドルセックス州の教育委員会が編集した音楽の指導に関するシラバスである肋ざ才c  

ダガ5cゐ00た(1935)を検討し,その特徴を捉えることを目的とした。   

肋5gCg〃5cノわ0ねにはインフアント(5−7歳),ジュニア(7−11歳),シニア(11−15歳)の生徒を対   象とする計10課程のシラバスが記されており,各課程には,リズムと拍子,メロディづくり,和声法,音楽   の解釈と鑑賞といったさまざまな活動内容を含むオーラル・トレーニングと,歌唱の2つの活動が含まれる。  

これらを概観した結果,肋才c才〃5cゐ00ねでは,これまでのイギリスにおける音楽科で重視されていた歌唱   以上にオーラル・トレーニングが重視されていること,インフアントからシニアの段階まで系統的に音楽の   基礎的な能力を身につけさせようとしていること,そしてこのシラバスを通じて,多方面から聴覚力を育成   することが目指されていたことが明らかになった。  

のレパートリーを教授することに制限されてい   た2)。しかし,1910年ごろからの音楽鑑賞教育運   動,1924年の学校音楽放送の開始,1927年の   SingingからMusicへの科目名の改称といったさ  

まざまな出来事から,イギリスにおける音楽科は,  

歌唱を中心とした活動のみではなくメロディづく  

りや鑑賞等の内容を含む教科へと変容する。この   時期の音楽科に着目することによって,教科とし   1.はじめに   

1900年代初期のイギリスにおける音楽科は,  

ヴォイス・トレーニング,イヤー・トレーニング,  

視唱を伴う歌唱を中心とする教科であった1)。初   等学校においてもクラスでの歌唱が中心であり,  

その目的は単純なメロディを視喝する能力を発達  

させること,および道徳的な歌(MoralSong)  

(3)

小 林 美貴子  

ての音楽科の在り方,特に音楽鑑賞教育の重要性  

を再考するための手がかりを得ることができると  

考える。   

このような流れを受け,1920年代から1930年代   のイギリスでは,助〃d∂00点げ肋5才c(1925)3)  

や朋お元α鋸=血Co∽∽〟〃砂(1933)4)等,州や   市から出版された学校音楽教育に関する文献が数   件見られる。本稿では,これらの文献の中でもミ  

ドルセックス州の教育委員会が編集した音楽の指  

導に関するシラバスである肋ざ才c才〃5cゐ。。ね5)に   焦点を当てる。肋5才c才〃5cゐ00ねを検討すること   によって,本書に示された音楽教育課程の内容,  

およびその特徴を明らかにすることを本稿の目的   とする。  

ミドルセックス州の教育委員会はこのような状  

況を踏まえ,当時流行していた指導メソードを教   師および音楽家の集団に調査させ,その結果をシ  

ラバス(すなわち本書である肋5才c才〃5cゐ00ね)  

にまとめた。   

また,こうして完成された肋ざ才c才〃5cゐ00ねを   Readは以下のように評価している8)。  

・音楽専門家と教育者の両方にとって,  

一般的かつ無難なシラバスである。  

・実行可能な枠組みを立てているだけで   

なく,音楽の指導に関するあらゆる事  

柄の情報の宝庫でもある。   

以上より,肋才c才〃5cゐ00ねは当時の音楽教育  

の状況を把握し,効果的な指導法を提示すること   が意図されていたといえよう。以下では,肋5才c  

才〝5cゐ00ねを概観し,シラバスの内容を分析して   いく。  

2.〟us′c〟lScJTOOねの出版の背景  

腸5才c才〝5cゐ00ねの具体的な著者および編者に   関する説明は明記されていないが,このシラバス   の出版に際して貢献した人物が14名あげられてい  

る6)。   

肋ざ才c才〃5cゐ00/ざの序文において,イギリスの   指揮者であり音楽教育学者でもあるRead(1879  

−1965)は,当時の音楽学習メソードに対する批  

判や子どもに必要な音楽学習について,以下のよ  

うに述べている7)。  

3.〟u8′c〟lScJTOO/8の概要  

腸5ダcダガ5cゐ00/5では,インフアント ジュニ  

′7,シニアという3つの段階でシラバスが示され   ている。各段階の内容は,さらに数課程に分けて  

示されており,インフアントでは2課程(5−7   歳),ジュニアでは4課程(7−11歳),シニアで   は4課程(11−15歳)存在する(表1参照)。  

・音楽およびリズムに関する素質が初歩   的かつ未発達である子どもに対して,  

音楽家たちが学習したメソードを使用   することが必ずしも最良であるとは限   

らない。  

・標準的な子どもには,重要かつ準備的    な活動を始めさせなければならない。  

・リズム感,音高に対する耳,微妙な差   異への敏感な反応,鮮やかな想像力,  

創造的な能力ーこれらはすべて,注意  

力を要する。音楽的な種は,土壌がそ   れを受ける準備をしない限り,根づく    ことは無い。  

表1 ル勉∫frf〃5rゐ〃〃J∫に示されたシラバスの   段階・課程と対象年齢  

段  階    課 程    年齢(歳)   

Ⅰ    5−6   A.インフアント  

Ⅱ    6−7   

Ⅰ    7−8  

Ⅱ    8−9   B.ジュニア  

Ⅲ    9−10  

Ⅳ    10−11   

Ⅰ    11−12   C.シニア   Ⅱ    12−13  

Ⅲ,Ⅳ    13−15   

㌦勉ぶ才c才〃5c加めp.viiより筆者作成。   

44  

(4)

1930年代のイギリスにおける音楽教育課程に関する一考察   

合わせて自由に身体反応させたり,あるテーマを  

身体の動作で表現させたりする内容である。「(C)  

打楽器バンド」では実際に打楽器を演奏させる活   動も見られるが,この課程では,一定の拍や,拍  

子を認識させる活動が主となる。「(d)音高」では  

音の高低やフレーズの上行下行を認識させ 

,「(e)  

リズム・パターンの解釈」では提示されたリズム  

を手拍子させたり,リズムから曲名を答えさせた  

りする活動が見られる。   

インフアントの課程Ⅲにおけるオーラル・ト  

レーニングには,「(a)メロディ」「(b)リズムと拍子」  

「(c)クラスへの課題」が含まれる(表3参照)。「(a)  

メロディ」では長音階の構成音の学習やメロディ   づくりが行われる。「(b)リズムと拍子」ではさま  

ざまな打楽器の演奏や,記譜法に関する学習が含  

まれる。「(C)クラスへの課題」では主に聴音課題   が与えられている。   

以上インフアントの課程の内容から,課程Ⅰで  

は,音楽に合った身体反応をさせることで,音楽  

活動の基本となるリズム感覚を身につけさせるこ  

とが意図されているといえる。課程Ⅲでは課程Ⅰ   の内容を発展させた内容が見られ,記譜力や読譜   力の育成へと結びつけるための基本的な事項を学  

習させることがうかがえる。  

肋5才c才〃5c如0長は5歳から15歳までの子ども   を対象に記された10年にわたる課程であるが,こ  

のシラバスにもとづいた指導を成功させるために  

は,インフアント ジュニア,シニアという3段   階における連続性が不可欠であることが明記され   ている9)。   

各課程のシラバスには,「オーラル・トレーニ   ング」「歌唱」の2つの活動が含まれ,それぞれ   分けて活動内容が記されている。また,各課程の  

シラバスの後には,「発声」「呼吸」を始めとする   26項目の解説等が存在する10)。  

4.〟usね血ScJTOO鹿の各活動内容  

ここでは,肋ざ才c才〃5cゐ00ねの各課程のシラバ   スに示された「オーラル・トレーニング」「歌唱」  

の2つの活動内容を概観する。  

4−1.オーラル・トレーニング   4−1−1.インフアントの課程   

インフアントの課程Ⅰにおけるオーラル・ト  

レーニングには,「(a)自由な動き」「(b)リズムのド  

ラマ化」「(C)打楽器バンド」「(d)音高」「(e)リズム・  

パターンの解釈」が含まれる(表2参照)。「(a)自   由な動き」「(b)リズムのドラマ化」では,音楽に  

表2 インフアントの課程Ⅰにおけるオーラル・トレーニングの主な内容  

(a)日向な動き    ●音楽の雰囲気を感じ取って聴く。   

(b)リズムのドラマ化(表現)  ●落ち葉,列車,雷と両等のテーマを,身体の動作で解釈する。   

●音楽に合わせてウオーキング,ランニング,スキップ等をする。  

○一定の拍を示すためにドラムを導入。  

(c)打楽器バンド   ●2,4,3拍子を認識する。  

○シンバルの導入(強拍で使用)。  

●音楽の解釈(ここでは楽器を用いた応答唱)。   

●音の高低の認識。  

(d)音高   ●上行と下行のフレーズの認識。  

●短いフレーズ(歌)の解釈。   

(e)リズム・パターンの解釈    ●手拍子や歌で示されたリズムを,手拍子やタップで解釈する。  

●リズムを聴いて曲名を答える。   

『勉ぶオcオ〃5cゐ0めpp.1−3より筆者作成。表中の●は学習者が行う内容であり,○は教師が行う内容である。  

(5)

小 林 美貴子   

表3 インフアントの課程Ⅱにおけるオーラル・トレーニングの主な内容  

●Doh,Soh,Dohl,Meの学習。  

●Doh−Sohの音程の学習。  

○音の特徴(各音の音階上の機能)を教える。  

○音の特徴とハンドサインとを関連づけさせる。  

(a)メロディ   ○モジュレーター11)の使用(新しい音をモジュレーターの中に入れていく)。  

○モジュレーターやハンドサインを用いる課題,トニック・ソルファの頭文字を並べた課題,  

聴音課題を与える。  

●(上記の課魅達成後)メロディづくり。教えられた音のみを用いる。  

ODoh,Soh,Dohl,Meの音の学習後,これらの音を5線の楽譜に適用させる。   

●打楽器バンド(太鼓,シンバル,タンバリン,ベル,トライアングル)。  

●2拍子の学習。  

●4分音符,およびそのリズム・シラブルの学習。  

(b)リズムと拍子   ●2分音符,およびそのリズム・シラブルの学習。  

●視唱課題(楽譜を用いる。2拍子で,4分音符と2分音符の両方を紹介しながら)。  

●トニック・ソルファから5線の楽譜への変換。  

●4拍子の学習。   

●リズム・シラブルを唱えながら,リズム・パターンを解釈する。  

●シンプルなフレーズの暗記。  

●教師が歌う(または演奏する)メロディを解釈する。  

●リズムを手拍子しながら1aaで歌う。  

(c)クラスヘの課題   ●音高に関する聴音課題(d,m,S,dlのみを使用)。  

●リズムに関する聴音課題(2拍子,4拍子)。  

●音高と拍子に関する聴音課題。  

●教師が示した有名な歌のフレーズを手拍子,あるいはタップする。  

●リズムを聴いて,その歌やふしの名前をいう。   

『勉ぶオcオ〃5cゐ0めpp.4−11より筆者作成。表中の●は学習者が行う内容であり,○は教師が行う内容である。  

表4 ジュニアおよびシニアの課程における 

「(a)メロディ」の主な内容  

段階  課程    主   な   内   容   

●Doh,Soh,Dohl,Meの復習。  

OTe,Ray,Fah,Lal1を,これまでのように紹介。  

Ⅰ   ●モジュレーターやハンドサインを用いての課題,示されたトニック・ソルファを歌唱する課題,聴音  

課題。  

●移動Dohでの歌唱(視唱)。  

●スケール(全音と半音の位置)の学習。  

Orl,ml,tl,11,Slの紹介。  

Ⅱ      ●移動Dohで歌う練習,モジュレーターやハンドサイン等の課題。  

ジ   ●数字(音度),およびトニック・ソルファでのスケールの歌唱。  

●絶対的な音高の学習(固定DoIl。DoIlをCとして考える)。ハ長調の音階を5線に適用。さらに鍵盤   

ア   に適用。  

Ⅲ       ●音名での視唱。  

●モジュレーターを用いた,2つのパートでの活動。  

●音程の学習(長2度,短2度,長3度,短3度,完全5度)。  

●Fe(シャープのついた第4音)の学習。モジュレーター,5線,鍵盤に適用。  

●転調の学習。ドミナントヘの転調,それに伴うFe。  

ⅠⅤ      ●ト長調の学習(5線と鍵盤への適用)。同様に,ニ長調,イ長調。  

●視唱課題(ユニゾン,2部)。  

●ゼクエンツの学習。   

●ホ長調の学習。5線,鍵盤への適用。  

●フラットのついた第7音,およびサブドミナントヘの転調の学習。  

●ヘ長調の学習,変ロ長調の学習。5線,鍵盤への適用。  

●完全4度,長6度,短6度の学習。  

シ    ●変ホ長調,変イ長調の学習。5線,鍵盤への適用。  

●長7度,短7度の学習。   

ア   Ⅱ      ●和声的短音階,旋律的短音階の学習,イ短調の学習。  

●関係詞(短調)への転調の学習。  

●大譜表の学習(ヘ音記号)。  

●長調と短調,調号に関する学習。  

Ⅲ・ⅠⅤ      ●5音音階,半音階,全音音階の学習。   

*朋おオcオ〃5c加めpp.12−55より筆者作成。表中の●は学習者が行う内容であり,○は教師が行う内容である。  

46   

(6)

1930年代のイギリスにおける音楽教育課程に関する一考察  

4−1−2.ジュニアおよびシニアの課程    ジュニア以降の課程には,以下の6つの内容が  

含まれる。  

る課題,音程,長音階,短音階,半音階,全音音  

階の学習等が用意されている。   

「(a)メロディ」では,メロディを構成する要素   の中でも特に長調・短調等,調に関する内容,音  

程に関する内容の学習が重視されているといえ  

る。また,移動Dohの楽譜での視唱課題,そし   て後に固定Dohの楽譜へ適用させたり,模造の   鍵盤を用いることで,読譜力の育成が目指されて   いると考えられる。さらに音高のみの聴音課題,  

リズムのみの聴音課題,音高とリズムの両方の聴  

音課題を行うことで,音やリズムを聴取する能力,  

および記譜の能力の獲得が期待される。  

(a)メロディ  

(b)リズムと拍子  

(C)和声法へのアプローチ  

(d)クラスへの課題  

(e)メロディづくり  

(f)音楽の解釈および鑑賞   

ここでは,上記の(a)から(f)をそれぞれ分けて概   観する。  

(b)リズムと拍子   

「(b)リズムと拍子」では,主にリズムの模倣,  

拍子記号の学習,与えられた音符の間に小節線を   書かせる課題,小節中にオリジナルのリズムを書  

かせる課題が含まれる。単純なリズムから,シン  

コペーション等の複雑なリズムの学習へと導かれ   る。インフアントからシニアまで打楽器を用いる  

(表5参照)。  

(a)メロディ   

「(a)メロディ」では,表4に示した内容が含ま  

れる。インフアントの課程で学習した長音階の構  

成音のうち残りの音の学習,音書院己号が記されて  

いない楽譜を用いての移動Dohによる視唱課題,  

音高とリズムの聴音課題から始まり,後に,音部  

記号が記されている楽譜や模造の鍵盤を使用させ  

表5 ジュニアおよびシニアの課程における 

「(b)リズムと拍子」の主な内容  

段階  課程    主   な   内   容   

●打楽器バンド(前年の内容の復習)。  

OAABAの形式の指導。  

Ⅰ   ●シンプルなふしの模倣(リズム・パターンの演奏)。  

●3拍子の学習。  

●8分音符,全音符,付点2分音符,およびそれらのリズム・シラブルの学習。  

○拍子記号(4分の2,4分の3,4分の4)の紹介。  

Ⅱ      ●小節線を書きこむ課題(アクセントのつく音符を定め,その前に小節線を挿入)。  

ジ   ●空の小節にリズムを入れて埋める課題。  

○学校オーケストラと協力して,打楽器バンドを発展させる。   

ア   Ⅲ       ●フォーク・ソング,国歌等のリズムを子どもが手拍子し,拍子を考える。  

○休符(4分休符,2分休符,全休符),タイがつけられた音符の紹介。  

○リズム・シラブルとともに,」.♪と月の紹介。  

●3連符,8分の6拍子の学習。  

ⅠⅤ      08分休符の紹介。  

●曲の中での拍子の変化の認識。  

●4分の2,4分の3,4分の4,8分の6拍子で,リズム・パターンの創作。  

●歌の始まりのフレーズを教師が演奏し,その昔のリズム・シラブルを一本調子にいう。   

016分音符の紹介。  

●与えられたメロディをリズム・シラブルで歌う。  

シ   

Ⅱ    ●シンコペーションに関する簡単な課題。   

ア   08分の9,8分の12拍子の紹介。  

●これまでの内容の復習。  

Ⅲ・ⅠⅤ      ●与えられたメロディを,リズム・シラブル,音名,および音度で歌う課魅。   

‰オcオ〃5cゐ0めpp.12−55より筆者作成。表中の●は学習者が行う内容であり,○は教師が行う内容である。  

(7)

小 林 美貴子   

(C)和声法へのアプローチ   

「(C)和声法へのアプローチ」では,長音階の音   の学習の後に全音,半音,およびオクターヴの音  

程,カデンツ,主要3和音を学習させる。後に長  

3度や短3度,完全4度等の他の音程や,和音の   転回形の学習も行われる。教師が複数の音を同時  

に鳴らし,生徒に音がいくつ鳴っているか答えさ   せる課題や,和音の根音を歌わせる課題も見られ  

る(表6参照)。   

「(C)和声法へのアプローチ」の内容から,まず  

主要3和音の構成音を聴取する能力を身につけさ  

せようとしているといえる。また,教師が複数の  

音を同時に鳴らし,音がいくつ鳴っているのか生  

「(b)リズムと拍子」の内容から,「(b)リズムと  

拍子」に関する学習はインフアントで重視されて  

いたリズムに関する内容に直結するものであるこ  

とが明らかである。また,リズム・パターンの解  

釈,音符と休符(リズム・シラブルとともに)や   拍子記号の学習をすることで,記譜法に関する事   項を与えようとしているといえる。打楽器の使用  

に関してはインフアントからシニアまで継続して  

行うことが求められており,リズムに関する事項  

を単に知識として教え込むのではなく,実際に演  

奏させることで豊かに学ばせようとしていること   が分かる。  

表6 ジュニアおよびシニアの課程における「(c)和声法へのアプローチ」の主な内容  

段階  課程    主   な   内   容   

●(長音階の音の学習後)主要3和音の学習。  

●教師が演奏する音が1音であるか2音であるか,あるいは演奏したコードが2音であるか3音である   か答える。  

●教師が子どもの声域内にある2音を演奏するので,その高い方を1aaで歌う。  

●長音階の全音と半音,オクターヴ,カデンツ,主要3和音の復習。  

●基本位置で演奏される主要3和音を聴覚で認識する。  

ジ   Ⅱ      ●教師が演奏した2/ト節のメロディ(聖歌等)の音を歌う。  

○教師がコードの構成音のうち2音を同時に弾き,途中で片方を離す。子どもたちは,先に終わった方    の音を答える。  

ア   ●教師に演奏される歌等の中でのカデンツの認識。  

●モジュレーターからのシンプルな歌唱課題。  

Ⅲ      ●高音のパートではないメロディに耳を傾ける(讃美歌等で)。  

●教師が鳴らす3音のコードのうち,高い音,低い音,真ん中の音の順で,1音ずつ歌う。  

○クラスを3つのグループに分け,それぞれdoh,me,SOhを歌わせる。  

○下中音のコード,偽終止の紹介。  

Ⅳ      ●主要3和音の音にもとづいた3部の課題の視唱。   

●和音の転回形の学習。  

●基本位置での主要3和音を,学習したすべての調で,高音部譜表と鍵盤での位置に適用させる。学習  

Ⅰ   したすべての調での主要3和音を聴覚で認識する。  

●基本位置,あるいは第1転回形での主要3和音の歌唱(クラスは3つに分けられる)。  

●2部の聴音課題。  

●なじみのあるメロディを書く,あるいは2部のメロディづくり。  

●第1転回形での主要3和音を,学習したすべての調で,高音部譜表と鍵盤での位置に適用させる。学   習したすべての調で,主要3和音の第1転回形を認識する。  

シ   Ⅱ      ●主要3和音の第2転回形,短調での主要3和音の学習。   

ア   ●長調と短調の両方で,基本位置,第1転回形,第2転回形での主要3和音の歌唱(クラスは3つに分   けられる)。  

●学習したすべての音程の復習。  

●カデンツを形づくるコードの叔音を歌う。  

●長調と短調の両方で,基本位置,第1転回形,第2転回形での主要3和音の復習。すべての調(長調  

Ⅲ・ⅠⅤ      と短調)で,高音部譜表および低音部譜表での位置に適用する。また,鍵盤の位置にも適用する。  

●与えられた3和音,およびコード・ネームをいう。  

●基本位置で与えられている3和音,すなわちコードが,長調であるか短調であるか答える。  

●与えられた3和音,すなわちコードが,基本位置,第1転回形,第2転回形のどれであるか答える。   

‰オcオ′ZScゐ0めpp.12−55より筆者作成。表中の●は学習者が行う内容であり,○は教師が行う内容である。  

48   

(8)

1930年代のイギリスにおける音楽教育課程に関する一考察   徒に答えさせる課題や,和音を鳴らし,その根音  

を歌わせる課題を通じて,複数の音から自分が歌   う音高を聴き取り,それを再生させる内容が見ら   れることから,複数の音から自分の聴き取るべき   音を選別する力や,音高再生能力の育成がめざさ  

れていることがうかがえる。  

「(e)メロディづくり」の内容には,学習者が自  

由に創作する活動は見られない。リズムや言葉,  

形式等,ある一定の枠組みの中で行われるもので  

あるといえる。また,これまでに学習した記譜に  

関する内容を応用させたり,特に形式に関する内  

容は,次項で述べる「(f)音楽の解釈と鑑賞」にも  

関わらせたりすることから,創作活動が単独の活   動として行われるのではなく,他の活動内容と関  

連づけられているといえる。  

(d)クラスヘの課題   

「(d)クラスへの課題」では,スケールの歌唱,  

メロディやリズムの模倣と記憶,聴音課題,トニッ   ク・ソルファの頭文字を楽譜に変換させる課題か   ら成る。また,模造の鍵盤を用いてメロディを演   奏させる課題も用意されている。  

「(d)クラスへの課題」の内容から,ここではオー   ラル・トレーニングに含まれる各内容を復習およ  

び定着させることが意図されていると考えられ  

る。  

(f)音楽の解釈と饉賞   

「(f)音楽の解釈と鑑賞」では,教師のピアノ演   奏と歌,蓄音機を用いて,メロディの上行下行や  

フレーズ,ブレスの位置に注目させたり,音楽の  

単純な形式を認識させたりすることから始まる。  

後に,ゼクエンツやカデンツ,調(長調,短調,  

転調等),オーケストラの楽器の学習等も行われ   る(表8参照)。   

「(f)音楽の解釈と鑑賞」の内容から,ここでは   まず,楽曲の外形に注意させたり,形式に関する  

学習を与えたりすることによって,楽曲の全体的  

な構造を把握させることが意図されているといえ   る。また,転調に注目させる等,これまでの学習   内容をこの活動の中で確認および復習させること   も意図されているといえよう。人間の声,ピアノ,  

オーケストラで使用される楽器等に関する学習が  

te)メロディづくり   

「(e)メロディづくり」では,与えられた言葉や   リズム,フレーズに対して,メロディや応答のフ  

レーズを作らせる課題が用意されている。ジュニ   アの課程ⅠⅤからは形式の学習とも関連づけられ   ており,2部形式や3部形式,メヌエット等舞曲   の形式でもメロディを作らせる内容が見られる  

(表7参照)。  

表7 ジュニアおよびシニアの課程における  「(e)メロディづくり」の主な内容  

段階  課程    主   な   内   容   

●与えられた言葉やリズム・パターンに対するオリジナルのメロディづくり。  

ジ   田  ●与えられたフレーズに対し,応答するフレーズの創作。  

ⅡⅠ  ●メロディをトニック・ソルファで書き,それから5線譜へ置き換える(ハ長調)。  

ア    ○ゼクエンツを紹介しながら,オリジナルのメロディを創作させる。  

ⅠⅤ      ●2部形式,および3部形式でのメロディの創作。   

●童謡, シンプルなスタンザ(長い詩を構成する一区切りの単位),および与えられたリズム・パター   ンにメロディを作る。  

●ゼクエンツの練習。  

シ    ●2部形式,および3部形式を発展させる。  

●スタンザにメロディをつける。   

ア  

田       ●与えられたふしを完成させる。  

●スタンザにメロディをつける。  

ⅠⅡ・ⅠⅤ      ●メヌエット,ガヴォット,ブーレ等のような舞曲の形式の学習。  

●与えられたふしを完成させる。   

『勉ぶオcオ〃5cゐ0めpp.2−55より筆者作成。表中の●は学習者が行う内容であり,○は教師が行う内容である。  

(9)

小 林 美貴子  

表8 ジュニアおよびシニアの課程における  「(f)音楽の解釈と鑑賞」の主な内容  

段階  課程    主   な   内   容   

○メロディの上行と下行,フレーズやブレスの位置に注目させる。  

OAB,AABA,ABBAのメロディを通じて,初歩の音楽形式を認識させる。  

●教師が演奏している間,表現を書きとめ,それにふさわしいビートを打ちながら,指揮の仕方を教わ   る。  

●クラスでの歌唱の指揮。  

Ⅱ      ●楽しむために音楽を聴取する。  

○フォーク・ミュージックに関する話を与える。  

●2部形式,3部形式を認識する。  

ジ    ●作品の中で,フレーズの終わり(カデンツ)に耳を傾ける。   

●フレーズの始まりと終わりに注意を向ける。   

ア   ●指揮の練習。なじみのある歌の復習後に,歌詞と音楽に関する解釈を述べる。  

Ⅲ  

●人の声一種類,組合せに関する学習。  

●オーケストラー4つの楽器群(弦,木管,金管,打)の学習。  

●課題にフレーズの記号や表現記号を書きこむ。  

●完全終止等の認識。  

ⅠⅤ      ●演奏される作品の中でのドミナントヘの転調の認識。  

●ピアノフォルテがどのように動くか,どのように演奏されるかを確認する。  

●エリザベス朝時代の音楽の学習(楽器,形式:阻軋 カノン,変奏曲等)。   

●トニック・ソルファで書き出されたメロディを5線譜へ書き換える。それが演奏されると,次はフレー   ズと発想記号を挿入する。  

○メロディの外形(パッセージ,ゼクエンツ,カデンツ等)に注意を向けさせることで,主音,転調,  

モード,形式を認識する,より詳細な学習をさせることができる。  

●隠されたふしを発見する。  

●ドミナント,サブドミナントヘの転調に注目する。  

●カデンツの学習。  

●形式(2部形式,3部形式,古いロンド,舞曲,変奏曲)の学習。  

シ   ●振動とサウンド(異なる楽器を用いるとどのようなサウンドが生み出されるか)。  

ア    ●課程Ⅰの内容のさらなる学習。  

Ⅱ   ○ソナタ形式の紹介  

●オーケストラのシンプルな楽譜の学習。  

●教会旋法の学習。  

●これまでの内容のさらなる学習。  

●対位法の音楽の学習。  

Ⅲ・ⅠⅤ      ●オーケストラ,およびその楽器編成−トリオ,カルテット等。  

●ソナターさらなる学習。  

●交響曲,および協奏曲の学習。   

‰オcダガ5cゐ∂めpp.12−55より筆者作成。表中の●は学習者が行う内容であり,○は教師が行う内容である。  

用意されているが,ここではさまざまな楽器の構   造や,楽器の組合せによって生じるサウンドに注   目させていることから,楽器という側面も音楽の   解釈と鑑賞に必要であると考えられていたといえ  

る。指揮の練習をさせることに関しては,音楽の  

拍の流れを適確に把握することや,学習者が楽曲  

を積極的に解釈することを促していると考えられ  

る。  

レス,発声,発音に関する課題を与えること,季   節に関する歌や童謡,フォーク・ソング,国歌,  

古典歌曲等を扱うことが記されている。   

歌唱に関しては,シラバスではこのような大ま   かな事項しか記されていない。発声法や呼吸法等  

の具体的な方策に関しては,前述した,シラバス  

の後に用意されている解説において示されてい  

る。  

4−2.歌唱の内容   

歌唱は,「ブレスと発声」,「歌」という2つの   内容から構成されている。主な内容としては,ブ    50  

5.考 察   

肋5才c才〃5cゐ00ねに記されたシラバスの内容か   

(10)

1930年代のイギリスにおける音楽教育課程に関する一考察   できたといえよう。   

今後は,同時代のイギリスにおいて他の州等か  

ら出版された音楽教育に関する文献を複数で比較  

検討することによって,当時のイギリスにおける   音楽教育の特徴を捉えるとともに,その中での音   楽鑑賞教育の位置づけ,音楽鑑賞教育の内容や目   標,特徴等を探っていきたい。  

ら,その特徴として以下の点があげられる。   

第1に,音楽科で行われる活動がオーラル・ト   レーニングと歌唱の2つの活動に分けられている  

ことから,これまで重視されていた歌唱と同等,  

あるいはそれ以上にオーラル・トレーニングが重   視されていることがあげられる。各活動の時間配   分は記されていないが,シラバスに記された各内   容の具体性から,オーラル・トレーニングに重点  

が置かれていることは明らかである。   

第2に,インフアントからシニアの段階まで,  

音楽の諸要素を学習させたり演奏させたりしてい  

ることから,肋ざ才c才〝5cゐ00ねのシラバス全体を  

通じて,学習者に音楽の基礎的な能力を系統的に  

身につけさせようとしているといえる。   

第3に,オーラル・トレーニングの内容に聴音  

課題だけでなく歌唱課題,和声法,メロディづく  

り,さらに音楽の解釈と鑑賞が含まれていること,  

そして各内容と他の内容とを関連づけた部分が見  

られることから,肋ざオcオ〃5cノわ0/ざでは,各学習  

内容を関連づけ,多方面から総合的に聴覚力の育  

成を目指しているといえる。特に,メロディづく  

り,音楽の解釈と鑑賞がオーラル・トレーニング   の中に,すなわち聴覚力の育成のための手段とし  

て位置づけられていることは興味深い。   

以上のことから,肋ざ才c才〃5cゐ00ねでは歌唱や  

メロディづくり,音楽の解釈および鑑賞といった   多くの活動を関連づけて系統的に行うことで,聴   覚力を多角的に育成することに重点を置いた音楽  

科教育が目指されていたといえよう。  

注および引用文献   

1)Morris,C.E., AComparisonoftheUseofComposi−   

tionasaTeachingTooIClassroomsoftheUnited   

StatesandUnitedKingdom ,UniversityofMiami  

(MasterofMusic),2010,p.4.  

2)Rainbow,B.,FourCenturiesof肋sic Teaching    腸nuaLs1518−1932,BoydellPress,neWedition,2009,   

p.305.  

3)ManchesterEducationCommittee,Handboohof  

.1ん∫′(、∴1(1りJげ∫√†イII ̄り/・A.ル/・ど/√〃J√〃/(げ.l・J(、/川り/∫.   

Manchester,1925.  

4)CambridgeshireCouncilofMusicalEducationCom−   

mittee,肋sic and the Community:The Cam−   

わイ(な ・∫/〜汗 ・凡・♪り/イりJJ/h・r√〟(、/〜わ居りノ■.1ん∫′(、.しこ111ト    bridgeUniversityPress,1933.  

5)MiddlesexEducationCommittee,肋sicinSchooIs:   

ASiTllabusof肋sic−Teaching,0ⅩfordUniversity    Press,1935.ミドルセックス州は,1963−1965年の新   

ロンドン行政法によって,大口ンドン,すなわちグレー    ター・ロンドンに競合された。ロンドンの西に潰する    地域である。杉山忠平「ロンドン」相賀徹夫編『万有    百科大事典10世界地理』小学館,1950,p.697。  

6)Adams,D.N.,Blanchard,R.A.W.,Bridges,C.E.,   

Briggs,G.W.,Crawford,A.,Davies,W.G.,Evans,A.C.,   

Foss,H.J.,Mack,J.,Phillips,L.,Read,E.,Thompson,   

C.B.,Willis,H.L.,Wiseman,H.,以上14名である。当時    の著名なピアニスト兼作曲家や,視学官,音楽教育学   

者らが,肋オcオ〃5cゐ00Jぶの執筆に携わっている。  

7)MiddlesexEducationCommittee,Op.Cit.,pp.Ⅴ−Vi.  

8)Ibid.,p.Ⅴ.  

9)Ibid.,pp.12,36.  

10)具体的には,発声,呼吸,学校における蓄音機とそ   

の使用のヒント,モジュレーターの使用,調性,フレー    ズの開始と終lト,絶対的な音高と5線および鍵盤への    その応用,記憶のトレーニング,音楽鑑賞,和声法へ    のアプローチ,読譜,メロディづくり,転調しない際    の半音あげられた第4音,転調一導入のレッスン,転    調する際の半音あげられた第4音,転調しない際の半  

6.おわりに  

本稿で検討した肋ざ才c才〃5cゐ00/ざはミドルセッ  

クス州から出版されたシラバスであるが,法的拘  

束力はなく,どれほど実際に普及し実際に教師ら  

によって使用されていたかは明らかではない。し  

かし,肋ざ才c才〃5cゐ00ねが当時流行していた指導  

メソードをまとめたものであることから,本稿で  

の肋ざ才c才〃5cゐ00ねの検討を通して,1930年代の  

イギリスにおける音楽教育の一端を捉えることが  

(11)

小 林 美景子   音下げられた第7音,転調する際の半音下げられた第   

7音,リズムの名称,聴音課題,リズミックなスケー   

ルの歌唱,歌唱,ハンドサインと専門的な名称,打楽    器バンドと学校オーケストラ,教師への碇案,オーラ    ル・トレーニングのレッスンに対して碇案された分析,   

参考文献という26項目である。  

11)階名を縦に並べたものを指す。  

附 記  

本稿は,日本教科数青学会第38回全国大会(2012   年11月3日,東京学芸大学)における発表をもと   に執筆したものである。  

(札幌校講師)  

52   

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