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国際課税における租税裁定取引

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Academic year: 2021

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(1)

Ⅰ はじめに

国際課税の適用において重要性を増している のは,グローバル化への対応である。国境を越 えた財・サービスの取引費用の減少により経済 市場の統合が進み,経営管理やサービスを行う 地理的場所の重要性が低下した。また,グロー バル化は財・サービス市場だけでなく,金融市 場でも起きている。このようなグローバル化に 対応するため,各国の税務当局ができる限り多 額の税収を獲得するために移転価格税制の導入 が行われた。移転価格税制は,自国の企業が国 外関連者との取引価格を恣意的に操作すること により,本来は国内に留保されるべき所得が国 外に流出することを防止するため,国外関連者 の移転価格が独立企業間価格と異なる場合に は,移転価格を独立企業間価格に修正して,所 得を再計算し課税する制度である。原田[2008]

においては,静学的な均衡分析に基づく最適移 転価格と独立企業間価格との比較分析を行い,

現実の取引で設定された移転価格と,様々な方 法で算定した架空の移転価格である独立企業間 価格が異なる場合には,関係者間で公正性に問 題が生じ,紛争の原因となることを示した。次

に,原田[2012]では,日本法人が国際的な組 織再編により,外国法人の子会社となるコーポ レート・インバージョンの事例を合法的な租税 回避行為(1)の一形態と捉えて米国と我が国の コーポレート・インバージョン対策税制を比較 検討し,我が国税制上の問題点を明らかにした。

しかし,現代のグローバル化の進展により,

国際課税の問題は複雑化し,多国籍企業のみを その課税対象とする移転価格税制やコーポレー ト・インバージョン税制のみでは対応しきれな くなっている。本稿においては,多様化する国 際的な租税回避の問題として,「租税裁定取引」

を取り上げる。二つの国が同一の取引を異なる 取引として分類する際に「租税裁定」の機会が 生じる。「租税裁定取引」とは,二つの租税管 轄の租税の税制及び取扱いの差異を利用して,

納税者が二つの租税管轄から同一の恩典を受け る取引をいう(2)。租税回避行為の一形態である 租税裁定取引について,主に米国のハイブリッ ド事業体を利用した事例を取り上げて分析し,

我が国税制へのインプリケーションを探る。そ して,米国で隆盛と衰退を繰り返した条約サン ドウィッチの事例を取り上げてその原因と問題 点を分析し,我が国での今後の対応策と方向性

*早稲田大学大学院社会科学研究科 2011年度博士後期課程満期退学 論 文

論 文

国際課税における租税裁定取引

─ 米国の制度を中心に ─

原 田   誠

(2)

を検討することを本稿での目的とする。

Ⅱ 米国における租税裁定取引の道具    -チェック・ザ・ボックス規定の利

用-

米国においてタックス・プランナーが租税裁 定取引を行うにあたって,利用される道具とし てまず挙げられるのが,いわゆる「チェック・

ザ・ボックス規則(3)」である。租税裁定取引に 頻繁に登場する事業体であるハイブリッド事業 体(

Hybrid Entity

)は,チェック・ザ・ボック ス規則を利用して組成される。ハイブリッド事 業体とは,ある事業体が一方の国で課税上透明 な事業体として扱われる一方で,他方の国で法 人課税を受ける当該事業体をいう。逆に,ある 事業体が一方の国で法人課税を受け,他方の国 で透明に扱われる場合を「逆ハイブリッド事業 体」と呼んでいる。

チェック・ザ・ボックス規則は,その要件に合 致する内国及び外国の両方の「適格事業体」に 対して事業体選択を認める。原則として,いっ たん事業体選択が行われれば,引き続き5年間 は継続する必要がある。しかし,新事業体設立 による場合には,選択変更と見なされない(4)。事 業体の構成員が単独であり,構成員課税を選択 した場合にその事業体は,米国税制上「無視さ れた事業体(

Disregarded Entity: DRE

)」として 取り扱われ,単独構成員が納税主体となる。

チェック・ザ・ボックス規則には要件が規定 されており,まず連邦税法の適用において独立 した事業体であることが要件とされる。合有の ような単なる契約関係による事業体は,要件を 満たさない。独立事業体の要件を満たした後,

さらに内国歳入法の信託など特別な取扱を受け る事業体でないことが要件とされる。連邦税法 においては,二人以上の構成員からなる事業体 が法人課税又はパートナーシップに分類され る。単独構成員の事業体は,法人課税又は単独 構成員課税(無視された事業体:

DRE

)のど ちらかに分類される。さらに,当然法人として 列挙された事業体は,チェック・ザ・ボックス による事業体選択を受けることができない。例 えば,米国で設立された法人は透明な事業体と なることはできない。同様に,日本の株式会社

K.K.

)英国の

Public Limited Company

PLC

),

ブラジルの

Sociadade Anonima

SA

)等は透明 な事業体となることができない(5)

選択を受けようとする適格事業体は,欠格条 項(6)により区分される。例えば,二人以上の 構成員が法人格を持たない内国事業体を設立し た場合には,パートナーシップに区分され,課 税上透明な事業体として扱われる。外国適格事 業体は,有限責任か否かで区分される。外国適 格事業体が二人以上の構成員を持ちその全員が 有限責任である場合には,欠格条項により法人 と見なされる。有限責任の単独構成員事業体も 法人と見なされる。外国適格事業体が二人以上 の構成員を持ちいずれかの構成員が無限責任で ある場合は,パートナーシップとされる。ま た,無限責任の単独構成員による外国適格事業 体は,無視された事業体(

DRE

)となる。米 国におけるチェック・ザ・ボックス規則は,納 税者に法人課税を受けるか構成員課税を受ける かという選択権を与えることにより,事業体分 類の問題を単純化して予測可能性を高めるとい うメリットがある一方で,ハイブリッド事業体 を利用したタックス・スキームが顕著に増加し

(3)

たという弊害も生じた。次に,

Doernberg

[2012

:

457

-

501]により紹介されたハイブリッド事業 体を用いた租税裁定の四つの事例を検討する。

Ⅲ ハイブリッド事業体を用いた租税裁 定事例

( 1)租税裁定事例①

XCorp

は,X国に設立されたが実質的にY国

で管理(7)されているとする。

XCorp

は,X国 において事業所得を有するが,恒久的施設は有 していない。X国が事業の管理を行う場所を基 準として法人の居住地を決める管理支配地基準 を採用し,Y国が本店所在地を基準とする本店 所在地基準を採用している場合には,

XCorp

所得は課税を免れることとなる。

XCorp

は,

X

国側では管理支配地であるY国居住者として認 定され,Y国側では,本店所在地であるX国居 住者と認定されるからである。

( 2)租税裁定事例②

―逆ハイブリッド事業体を用いた事例―

USCo

は,米国内国法人で,X国で事業活動

を行う

Forco

の単一株主であるとする。

Forco

稼得する所得は,非サブパートF所得であるた め,米国での課税は受けないと仮定する。次に,

USCo

がX国に,もう一つの事業体

Rev.Hyb.

設立したとする。

Rev. Hyb.

は,米国の税法では 法人として扱われるが,X国の税法ではパート ナーシップとして扱われる。

Rev. Hyb.

は,

Forco

に対して貸付を行い,利子を受け取る。米国は,

Rev. Hyb.

の受取利子に対して,サブパート

F

得に該当しないため課税することができない。

一方,

X

国は利息の支払いが米国パートナーに 対して行われたと見ている。そして,

Forco

は支 払利子を所得控除することができる。このよう に,受取側が課税を受けない一方で,支払側は 所得控除できる取引を,タックス・プランニン グにおいて「ダブル・ディップ」と呼んでいる。

( 3)租税裁定事例③

租税制度の差異をした租税裁定には,ハイブ リッド事業体が用いられることが多い。事業体 の取扱の差異による租税裁定の事例を検討する。

米国内国法人

USCo

が,高税率国である

X

国で 設立され事業を行う当然法人

Forco

の単独株主

USCo

⡿ᅜ X

Forco

⡿ᅜ 䝟䞊䝖䝘䞊

Rev.

Hyb.

㈚௜ ฼Ꮚᨭᡶ

⡿ᅜ: ἲே

X ᅜ: 䝟䞊䝖䝘䞊䝅䝑䝥

図2

図1

X corp

X Y

Y corp

タ❧

஦ᴗᡤᚓ䛒䜚 ᜏஂⓗ᪋タ䛺䛧

ᮏᗑᡤᅾᆅᇶ‽

⟶⌮ᨭ㓄

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(4)

であるとする。

Forco

は,当然法人であるために 米国において事業体分類の選択適用を受けるこ とができず,米国と

X

国の双方の税法において 法人として扱われるとする。

Forco

は,

X

国に当 然法人である

Forco Sub

を,低税率国であるY国 に当然法人リストに該当しない

SME Co

を同じ く100 %株主として保有する。

Forco sub

は,当 然法人であるため事業体分類選択の適用がな く米国でもX国でも法人課税を受ける。一方,

SME Co

は,当然法人リストに該当しないた

め,米国の課税において事業体分類選択を受け ることができる。

SME Co

が,構成員課税を選 択したとすると,米国の課税上「無視された事 業体」となり,その株主である

Forco

に帰属す ることとなる。

米国では

SME Co

Forco

を一つの事業体と して取り扱うが,

X

国と

Y

国の側では,それぞ れ別個の独立した事業体として取り扱うとす る。この場合に,

SME Co

Forco

に貸付を行 い,利子を受け取ることにより租税裁定取引を 作り出すことができる。

Forco Sub

は,高税率 国である

X

国において支払利子を所得控除する ことができ,

SME Co

は,低税率国

Y

国で受取

利子を益金として申告する。米国では,

Forco

SME Sbu

を一つの事業体として取り扱うの

で,

Forco

から

Forco Sub

への貸付取引と見る。

Forco

の受取利子が非サブパート

F

所得である

ため,直接の課税は生じない。このようにハイ ブリッド事業体を用いることでダブル・ディッ プの状態を創り出し,全世界での納税額を減ら すことができることになる。

( 4)租税裁定事例④

外国ハイブリッド事業体を用いた租税裁定 の事例を検討する。米国内国法人

USCo

が高 税率国

X

国で事業を営む

Opco

の全株式を保有 しているとする。次に,

USCo

X

国にハイブ リッド事業体である

For. Hyb.

を設立し,

Opco

の全株式を売却し,対価として手形を取得す る。当該株式の売却は,米国では,

For. Hyb.

無視された事業体として取り扱われるため,無 かったものとして取り扱われる。したがって,

For. Hyb.

から利子の支払いが行われたとしても 課税上は認識しない。一方で,X国では,

For.

Hyb.

は,独立した法人として取り扱われる。

仮に,X国に連結納税制度があるとすると,

USCo

⡿ᅜ X

Forco (ᙜ↛ἲே)

SME Co (DRE) Forco Sub

(ᙜ↛ἲே䠅

㈚௜

฼Ꮚᨭᡶ 100%

100%

Y

100%

USCo

⡿ᅜ X ᅜ

Opco

Fpreign Hyb.

ᡭᙧ

Opcoᰴᘧ኎༷

US: DRE 䊻ྲྀᘬ䛺䛧 X :ἲே

䊻㐃⤖⣡⛯

஦ᴗ⤒Ⴀ

図3 図4

(5)

Opco

の事業所得と

For. Hyb.

の支払利子を連結 申告すれば,結果として,利子相当額の所得を 所得控除できることとなる。この事例も「ダブ ル・ディップ」の一例である。

( 5)租税裁定事例の分析と我が国税制上のイ ンプリケーション

ハイブリッド事業体を用いた租税裁定の四つ の事例については,共通点が見られる。一つ目 の特徴としては,「ダブル・ディップ」つまり,

受取り側では益金算入されないが支払い側で損 金算入される状態を創出することである。事例 の②から④までは,典型的なダブル・ディップ の事例であり,事例①についても,二国間の租 税法上の本店所在地基準と管理支配地基準との 差異を利用して両国で事業活動に課税さないと いう,ダブル・ディップに類似した状況を創出 している。二つ目の共通点は,租税条約による 受動的所得に対する免税条項の利用である。こ の二つの点について,我が国へのインプリケー ションを考えていく。

我が国においては,日本版

LLC

である合同 会社の導入時において,財務省の意見により米 国のようなチェック・ザ・ボックス規則は導入 されず,法人課税のみを行うこととされた。そ れにより,米国のようなハイブリッド事業体の 問題は生じていない。しかし,今後チェック・

ザ・ボックス規則を導入するような機会がある としたならば,米国の対応策を参考とすべきで あろう(8)。そして,租税条約の免税条項につい ては,今まで,我が国の条約締結国にタック ス・ヘイブンは含まれていなかったため,あま り問題は表面化してこなかった。しかし,平成 23年8月14日には,軽課税国である香港特別行

政区との租税条約が発効し,平成24年1月1日 から適用が開始されている。今後は,引き続き 軽税率国との租税条約が締結される傾向にある ため,対応策を検討する必要がある。

Ⅳ 条約サンドウィッチの盛衰

( 1)条約タックス・ヘイブンの起源

米国における条約タックス・ヘイブン(9)が生 じた原因としては,第二次世界大戦後の植民地 帝国の崩壊と米国経済へ外国資本を呼び込もう としたことが挙げられている。1950年代におい て,米国は,英国及びオランダから独立した元 植民地との間で所得租税条約を締結してきた。

新興独立国の経済体系は,母国と大きく異なっ たが,租税条約の条件は,母国のものと基本 的に同一であった。例えば,1955年に米国は欄 領アンティル諸島と条約を締結したが,オラン ダの既存の条約とほぼ同一のものとなった。そ して,その条約が30年以上にわたり,条約タッ クス・シェルターの中心的な役割を担うことと なった。

また,1950年代初めには,米国の貿易収支は 継続的に赤字の状態にあった。また,国外での 米ドルの累積残高が増加したこともあり,外国 投資家は米国に対して再投資を行わなくなっ た。その結果,外国銀行に預金されたユーロ・

ドルにより,ユーロ・ドル市場が発達した。そ の時に,ユーロ・ドル市場の利子率が,米国資 本市場の利子率より低かったために,米国会社 がユーロ・ドルによる資金調達を行うという現 象が生じた。このような資金調達の障害となっ たのが,米国源泉利子に対する30 %税率によ る源泉課税であった。1984年に米国源泉ポート

(6)

フォリオ利子の免税(§871(

h

)§881(

c

))が 導入されるまで,非居住者に対して利子の支払 いを行う者は,租税条約による減免がなけれ ば,30

%

の一律税率を課されていた。このよう に,30 %税率課税は,米国企業がユーロ・ドル 市場から借入による資金調達をする際に大きな 障害となっていた。

( 2)欄領アンティル諸島金融会社

1950年代においては,タックス・プランナー によって,ユーロ・ドル借り入れを欄領アン ティル諸島と結びつけることによって米国の 一律源泉課税を消去することが考案された(10)。 その方法は,欄領アンティル諸島を「バック・

トゥ・バック(11)」と言われる借入れの仲介者 として利用するものであった。

外国投資家が保有するドルを借り入れようと する米国企業は,まず,欄領アンティル諸島で 登記されたファイナンス子会社を設立する。そ のアンティルの子会社は,ユーロ・ドルの集ま るルクセンブルグやジェノバといった金融セン ターでドル建ての無記名社債を発行する。次 に,アンティル子会社から米国親会社に対し て,その最初の融資と,反対の再融資をほとん ど同一の利子率と満期で設定して行う。米国親 会社がアンティル子会社の社債を最終貸付人に 保証することにより,米国親会社は第二回目の 融資に責任を負うこととなる。

欄領アンティル諸島と米国との租税条約は,

米国借主からアンティル法人への借入金利子の 支払いに対する源泉徴収課税を免税とする。欄 領アンティル側でもアンティル法人から外国の 非居住者に支払われた利子の源泉徴収を免税と していた。したがって,この仕組みの中ではど

の時点でも利子に対する源泉徴収は生じない。

このようにして,世界中の米国への貸し主はア ンティル条約により,アンティル金融会社を経 由することによって米国の租税をゼロとするこ とができた。この仕組みの中で,欄領アンティ ル政府が行うのは金融会社の法人設立の登記を 許可するだけである。米国の借主も外国貸主も 欄領アンティルに何ら経済的な実体も関連も有 していない。これらの当事者は,第三国から米 国へと貸付けられた利子の支払いに対する源泉 課税を防ぐために欄領アンティル条約を利用し たのである。当時,欄領アンティル条約が,米 国の借り主と世界中の貸し主との間の利子の源 泉課税を事実上無効にする条約漁りに利用さ れることはよく知られており,バック・トゥ・

バック貸付により金融会社をはさんだ様子から 条約サンドウィッチと呼ばれていた。それは,

米国財務省が対抗策として欄領アンティル条約 を停止するまで繁栄することとなった。

( 3)条約サンドウィッチ

どのような国をタックス・ヘイブンと呼ぶか については

OECD

等で議論されていることで ある(12)が,必ずしも所得税が課されないか名 目的な税率であることが必要条件とはいえな い。欄領アンティルは,アンティル居住の法人 に対して約30

%

の法人所得税を課している。ア ンティルを条約サンドウィッチにおいてタック ス・ヘイブンとしたのは,米国との租税条約に よるアンティル居住法人により外国の者に支払 われた利子の免税条項である。米国の借り主か らアンティル居住法人に支払われた利子は,米 国アンティル条約の適用を受ける。そして同時 にアンティル居住法人ではその支払利子を所得

(7)

控除できる。したがって,バック・トゥ・バッ ク貸付取引による受取利子と支払利子のわずか な差額のみに対して欄領アンティルの法人課税 が適用される。その受取利子と支払利子の利率 を同じにすればアンティル居住法人の課税所 得をゼロにすることができるが,その場合に は,アンティル課税当局により利子受取総額の 課税が行われるかもしれない。それを未然に防 止するには,アンティル居住法人の受取利子と 支払利子の利鞘を設定することによって,その 活動による課税利潤を作り出す必要がある。例 えば,アンティル居住法人が米国貸し主に対し てユーロ・ドル社債5%の利子を支払うとすれ ば,米国借り主から5

.

25 %の利子を受け取る。

利ざやの0

.

25 %の差し引き受取利子額がアン ティルでの課税所得となる。この税金は,タッ クス・プランナーの間では,欄領アンティルの

「通行料」と呼ばれていた。欄領アンティルの 租税条約を利用することにより便益を受け,ア ンティル財務省に支払う税金だからである。

しかし,このような条約サンドウィッチに は,欄領アンティルとの人為的な関係しか存在 しない場合には,米国内国歳入庁(

IRS

)によ り経済的実質を欠いた純粋な導管取引としてア ンティル居住法人の法人格を否認される危険も ある。その場合は,ユーロ・ドル所有者から米 国借り主への直接取引と認定され,30 %の一律 源泉課税が行われることとなる。

( 4)AikenIndustriesv.Commissioner

Aiken

事件(13)においては,当初,バハマ法 人が米国法人及びエクアドル法人の全株式を保 有していた。バハマ法人は,米国法人に約束手 形による融資を行い,元本と利子の授受を行っ

ていた。その一年後,エクアドル子会社がホン ジュラスに100 %子会社を設立した。そのホン ジュラス子会社は,バハマ法人から米国子会社 の約束手形を自らの9分割された一覧払約束手 形と引き替えに取得した。その一覧払い約束手 形は,米国法人の約束手形と同じ利率で元本が 9等分されたものである。その結果として,貸 付金利子は,まず米国法人からホンジュラス法 人に支払われ,同法人から同じ利率でバハマ法 人に支払われることとなる。当時は,米国とホン ジュラスの租税条約が発効しており,源泉地国で の利子の支払いの源泉徴収が免税とされていた。

そこで,

IRS

は,ホンジュラス条約での恩典 を否認した。

IRS

は,租税の適用においてホン ジュラス法人の存在自体を実体がないものとし て否認し,米国法人からバハマ法人に直接支払 われたものとみなして源泉徴収課税を行った。

そして,租税裁判所はホンジュラス法人が明ら かに実在する法人であるとしてその存在の否認 は認めなかった。しかし,

Aiken

判決において は,租税裁判所がホンジュラス法人の存在を認 めたにも関わらず,納税者が敗訴した。租税裁 判所は,表面上ホンジュラス法人が受け取っ た利子は,所有権と支配権の観点からバック・

トゥ・バックで直接にバハマ法人に支払われる ものであるため,同法人の受け取った利子では なく,真の受益者はバハマ法人であると判示し た。 こ れ は,

Gregory v. Helvering

判 決(14)に よ り生じた,租税の適用において事業の遂行上の 経済目的が租税の軽減以外に認められない場合 には,その効果を表面的なものとして否認する という「事業目的」原理を支持したものであっ た。

(8)

(5)Aikenスキームと欄領アンティル金融会 社との相違

1984年税制改革により米国源泉のポートフォ リオ利子で非居住者に支払われるものは免税と された。1970年代から1980年代にかけて,米国 の資本市場には,欄領アンティル金融会社を窓 口として多額の外国からのユーロ・ドルが流入 してきた。しかし,

IRS

は,欄領アンティル金 融会社のスキームに対して

Aiken

判決を発動し た否認は行なっていない。

Aiken

スキームと欄 領アンティル金融会社スキームは,その構造は ほとんど同じであるにもかかわらず,その間に は決定的な相違があった。

Aiken

スキームにお いては,バック・トゥ・バック取引を行ったホ ンジュラス会社に利益は全く生じなかったが,

欄領アンティル金融会社にはわずかの利益,す なわち「通行料」が発生する。そのため,

IRS

Aiken

の判決の考え方を利用することができ

なかったものと考えられる。1970年代には,欄 領アンティルを通じて米国に流入する資金は 5千億ドルに達したともいわれており,「通行 料」は欄領アンティル経済の大きな収入となっ た。1984年改革法により米国ポートフォリオ利 子が免税となってからは,多くの米国の資金調 達者は,欄領アンティルを窓口とする必要がな くなった。しかし,それでもなお条約サンド ウィッチが消滅したわけではなかった。なぜな らば,すべての米国ポートフォリオ利子が免税と なったわけではないからである。特に,借入事 業体の10 %株主は免税条項から除かれていた。

(6)バミューダ・サンドウィッチからダッチ・

サンドウィッチへの流れ

米国と欄領アンティルの租税条約は,1988年

に停止することとなるが,それまで欄領アン ティル金融会社は,非居住外国人の米国投資の 源泉課税を回避するための用具として利用され た。特に,非居住外国人が米国で事業を行う際 にタックス・ヘイブンのバミューダを間に挟 んだスキームがよく用いられ,「バミューダ・

サンドウィッチ」と呼ばれた。

Isenberg

[2010

:

269]により次のスキームが紹介されている。

第3国の居住者であるA氏が$2Mを借り入 れる。次に,バミューダに$2M全額を株式出 資し法人を設立する。バミューダ法人は$0

.

5 Mを株式出資して欄領アンティルに子会社を設 立し,同社に残りの$1

.

5

M

(利率5%)を貸 し付ける。さらに,欄領アンティル法人が米国 事業法人に$0

.

5

M

を株式出資してその子会社 を設立する。そして,少額のスプレッドをとっ て同社に残りの$1

.

5

M

(5

.

5

%

)を貸し付ける。

それによって,欄領アンティル法人には元本の 0

.

5

%

相当額( $7

,

500)の「通行料」が生じる こととなる。しかし,この「バミューダ・サン ドウィッチ」により,例えば米国事業法人に 米国事業収入$100

,

000が生じたとしても,利 子$82

,

500を控除することにより課税所得は

$17

,

500にまで圧縮されることとなる。A氏が 高税率国に居住していたとしても,バミューダ 法人が配当を行わない限り利益は繰り延べられ ることとなる(15)

1994年までの間は,米国とオランダの条約が 機能していたため,オランダと欄領アンティル をサンドウィッチしたスキームが米国内への投 資によく用いられた。これらの構造は,オラン ダの事業体をそれぞれ二つ挟んでいることか ら「ダッチ・サンドウィッチ」[

Isenberg

2010

:

273]と呼ばれた。米国事業会社からオランダ

(9)

法人への利子支払は米国オランダ条約により免 税となり,オランダ法人から欄領アンティル法 人への利子支払いはオランダ欄領アンティル条 約により免税となるため,この構造は1980年 代半ばから1994年まで最も有効な条約サンド ウィッチといわれた。

そして,1994年の米国オランダ条約廃止後も 条約サンドウィッチは終焉をむかえなかった。

2001年に,米国がルクセンブルグと特典条項を 有する新条約を発行するまでは,オランダ法人 の代わりにルクセンブルグ法人(16)が用いられ た。この最後の条約サンドウィッチは,「ルク センブルグ・サンドウィッチ」[

Isenberg

2010

:

274]と呼ばれた。

( 7)ルクセンブルグ・サンドの隆盛と終焉 1993年法により,条約サンドウィッチへの 対抗策として米国内国歳入法(以下「

IRC

」と いう。)§7701(1)「導管取引に関する規則」

が 導 入 さ れ た。

IRC

§7701(1) に よ れ ば,

「内国歳入庁長官は,全ての複数当事者間融資 が導管取引による租税回避のためのものと認め られる場合には,二者以上の間の直接融資とし て取扱うことができる。」とされた。この規則 により,バック・トゥ・バック取引における条 約サンドウィッチを用いた納税者と内国歳入庁 との立場は逆転した。

IRC

§7701(1)「導管規則」は,バック・

トゥ・バック取引を用いた条約サンドウィッチ には有効だったため,条約サンドウィッチに 対して効果がありそうだと考えられていたい が,実際には,そうはならなかった。導管規則 の導入以降は,バック・トゥ・バック取引とは 関係のない次のようなルクセンブルグ・サンド

ウィッチがはびこることとなった。

ルクセンブルグ・サンドウィッチは,米国ル クセンブルグ租税条約の規定と,ルクセンブル グ及びスイスの国内法の取扱の差異を利用して 組成される。ルクセンブルグ国内法は,その内 国法人の外国支店による金融取引から生じた所 得に課税しない。一方で,スイス国内法でも,

ルクセンブルグ法人のスイス支店による金融取 引から生じた所得には課税しない。

IRC

§7701

(1)の適用を避けるため,米国法人

USCo

株主がルクセンブルク法人

LUXCo

を設立し,

そのスイス支店を開設する。

LUXCo

のスイス 支店から

USco

に融資を行い,

USco

LUXCo

に対して利子を支払う。その際の支払利子に は,米国ルクセンブルグ租税条約により源泉徴 収は免税となる。

USCo

は,利子を損金算入す ることで課税所得を少なする一方で,利子の受 取者である

LUXCo

のスイス支店では,ルクセ ンブルグでもスイスでも課税を受けないことと なる。

しかしながら,このような手の込んだ条約サ ンドウィッチも終焉を迎えることとなる。米国 は2001年にルクセンブルグとの条約を新しく改 正した。その新条約は,条約の特典が適用され る適格居住者の要件を満たす個人や上場企業 等の適格居住者の要件を満たさない限り条約 全体の適用を否定する「特典条項(

Limitation of Benefit: LOB

(17)」の規定を含んでいた。そ の後米国は,2008年アイスランド,2009年ハン ガリー,2010年ポーランドと条約サンドウィッ チに使用される締約国との条約に次々と特典条 項を導入していくこととなる(18)。我が国では,

2008年に日米租税条約に初めて特典条項が導入 された。

(10)

Ⅴ おわりに

これまで,米国での税制を中心にして,租税 回避行為の一形態としての租税裁定取引の分析 を行ってきた。先に述べたとおり,その共通点 は二つある。一つ目は,「ダブル・ディップ」

の創出であり,二つ目は租税条約の免税条項の 利用である。最初に取り上げたチェック・ザ・

ボックス規定を利用してハイブリッド事業体を 用いた租税裁定取引の事例については,我が国 においてはチェック・ザ・ボックス規定が導入 されなかったために米国のような混乱は結果と して避けられたことを述べた。しかし,規制緩 和による様々な事業体の導入を制度として整備 することで,外国資本を呼び込もうとする動き には逆行している。税制上の規制を厳しくすれ ば行政上の混乱は避けられるというメリットは あるが,私企業の国境を越えた経済活動を阻害 し,外国資本の参入による自由競争が抑制され ることにより経済的な厚生を損なうというデメ リットもある。チェック・ザ・ボックス規定に ついては,将来,十分な対応策を考えたうえで の導入を検討すべきだろう。

次に,租税条約の免税条項の利用の問題につ いては,米国と同様に,我が国でも租税条約に

よる情報交換と特典条項の導入が有効であろ う。原田[2013]では,租税競争から租税協調 への歴史的段階を追って,

OECD

EU

の租税 協調への取り組みを見てきたが,我が国でもア ジア地域の租税協調に積極的な役割を担うべき であろう。それと並行して,条約の濫用防止規 定としては,ルクセンブルグ・サンドウィッチ を終焉へと追い込んだ米国の教訓が参考となる だろう。すなわち,日米租税条約をはじめとし て新たな租税条約に導入されている,包括的な 特典条項を租税条約に積極的に取り込んでいく ことが有効な手段であると考えられる。

〔投稿受理日2014.8.22 /掲載決定日2015.1.29〕

(1)租税回避行為とは,「私法上の選択可能性を利用 し,私的経済取引プロパーの見地からは合理性が ないのに,通常用いられない法形式を選択するこ とによって,結果的には意図した経済的目的ない し経済的効果を実現しながら,通常用いられる法 形式に対応する課税要件の充足を免れ,もって税 負担を減少させあるいは排除することをいう[金子 2011]。」通常,租税回避は違法な脱税とは区別され る。

(2)もともと「裁定取引(Arbitrage)」とは,金融用 語で,異なる市場の価格の差を利用して利鞘を得 る取引であり,鞘取り取引などとも言われる。

(3)Regulation §301. 7701-1から4。Regulationは,IRC の委任規定に基づき米国財務省により制定される法 令である。IRCは多くの場合,概略的な規定である ために,その解釈や取扱いがRegulationに定められ

ている。Regulationの規定がIRCに矛盾しない限り

強制力を有すると解されている。

(4)Regulation §301. 7701-3(c)(1)(iv)

(5)Regulation §301. 7701-2

(6)Regulation §301. 7701-3(b)

(7)「管理」とは,事業の重要な意思決定及び指揮管 理が行われることを意味する。

(8)本田[2006: 114]は,「チェック・ザ・ボックス 規則の制定後の10年間の米国の経験は,他の諸制

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(11)

度への影響への予防措置を講じずに,税制上大幅 な選択制や裁量性を導入した場合,その後それを 利用した租税回避に対して対抗措置を講じること は非常に困難であり,また,混乱を招くことでは ないか」と述べている。

(9)一般的に,租税の避難地を「タックス・ヘイブ ン」と呼んでいる。「タックス・ヘイブン」の厳格 な定義は後述するように多義であるが,「条約タッ クス・ヘイブン」とは,租税条約に免税条項が存 在し,実効的な情報交換規定がないなどの理由で 租税条約を利用することにより租税の避難を行う ことができる国を言う。

(10)蘭領アンティル諸島金融会社を用いたスキーム については,Isenberg[2010: 260]参照。

(11)「バック・トゥ・バック」取引とは,同条件での 反対取引(例えば貸付取引なら借入取引)を行うこ とをいう。

(12)OECDは,1998年レポートにおいて「タック ス・ヘイブン」の定義を次の4項目に指定した。

[OECD: 1998]

①実効税率がゼロあるいは名目的である。

②実効性のある情報交換が欠如している。

③税制,税務行政における透明性が欠如している。

④実質的な経済活動がない。

  なお,OECDのタックス・ヘイブンに対する取 組みについては,原田[2013: 301]参照。

(13)Aiken Industries, Inc.v. Commissioner, 56 T.C.925

(1971), acq., 1972-2 Cum.Bull.1

(14)Gregory v. Helvering, 69 F.2nd809(2nd Cir. 1934)

(15)このように高税率国の課税を繰り延べるために まだ課税されていない所得を留保する事業体は,

外国基地法人として知られる。

(16)ルクセンブルグは,欄領アンティルとの間に利 子所得免税の租税条約を締結している。

(17)特典条項については,中山[2006]参照。

(18)Isenberg[2010]の280頁に米国が条約サンド

ウィッチに対抗していくために,次々と特典条項 を導入していく歴史が記述されている。

参考文献

R. D. Doernburg[2009]International Taxation in a Nutshell 8th Ed. Thom West

J. Isenbergh[2010]International Taxation 3rd Ed.

Foundation press

OECD[1998]Harmful Tax Competition: An Emerging global Issues, Paris, Organization for Economic Cooperation and Development(OECD 1998). 金子宏(2011年)『租税法[第15版]』(弘文堂)

中 山 清(2006年 7 月 )「租 税 条 約 の 特 典 制 限 条 項

(LOB)」『フィナンシャル・レビュー』Vol.84 原田誠(2008年9月)「最適移転価格と独立企業原則─

ハーシェライファー法則を手がかりにして─」『社学 研論集』Vol.12

原田誠(2012年3月)「コーポレート・インバージョン と租税回避」『社学研論集』Vol.19

原田誠(2013年3月)「国際課税における租税協調─

国家間公平を考慮した租税協調のあり方─」『社学 研論集』Vol.21

本田光宏(2006年7月)「ハイブリッド事業体と国 際的租税回避について」『フィナンシャル・レ ビュー』Vol.84

参照

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