国際取 引法 にお ける
Le xMe r c at or i a
の理論(1)
‑ Bone l
l氏の所説を対象 として ‑桑 原 康 行 は じめに
国際取引契約の実体法的規制方法 として,まず考え られるのは,国際私法 に よる方法であろう。 すなわち,国際取引契約を,法廷地の国際私法 によって指 定 される,いずれかの国の実質法をもって規制 しようとす る方法である
。
しかし,この方法には次のような問題点がある
。
国際私法 は,今 日,原則 として,各国の国内法 の形で存在 してお り
1 )
,それ ゆえ,国によってその内容を異に している。 そこで,法廷地如何 が,契約当事 者にとって,大 きな意義を有することになって しまう。もっとも,契約に関 しては,多 くの国の国際私法 は,いわゆ る当事者 自治 の 原則を認め,当該契約の準拠法の指定を当事者の意思にゆだねていると言え る が,具体的問題の解決 においては,必ず しも一致 していない2)。 したが って, 契約当事者が,契約締結時に,当該契約の準拠法を知 ることは,困難 となるで
あろう
。
次に,このように して指定 された各国の実質法 は,国際取引契約 を規制す る 適格性を,必ず しも備えているわけではない。各国法は,国内取 引を規制す る
原稿提出 日
1988
年5
月9
日本稿 は,昭和
62
年度科学研究費補助金 (奨励研究tA) )
「国際売買法 の理論的体 系化 に関する研究」の成果の一部をなす ものである。1) もっとも,国際私法の統一条約 も,しだいにその数を増 しつつある
o
この点 につ き・例えば,池原秀雄 『国際私法 (総論)』(昭和48年)5
4
頁以下,山田錬‑ 『国際私法』(昭和57年)28頁以下 ,参照。
2)当事者 自治の原則に関する包括的文献 として,折茂豊 『当事者 自治の原則』(
昭和45
年)参照。〔1 1 5〕
1 1 6
商 学 討 究 第39
巻 第1
号ため制定 された もので あ り,国 際取 引 の特 質 を考 慮 に入 れ て い な いか らで あ る3)。
国際取 引契約 の実体 法的規制方法 と して,次 に考 え られ るの は,統 一 法 条 約 によ る方 法 で あ る。今 日に至 るまで,さまざまな国際機関 によ って多 くの条 約 が作成 されて きて い る
4)
。 しか し,この方 法 も,条約 の有 す る欠点 のた め5)
,必 ず しも成功 して い るとは言 え ないよ うに思 われ る。
国際取 引契約 の実質 的規制方 法 と して は,いわ ゆ る国際的約款 ・援用 可 能 統 一 規則 によ る方 法 が あ る。 かか る約款 ・規則 は,多種多様 で あ るが ,国 際 売 買 の分野 に限定 して ,その代表的 な ものを挙 げて み る と,以下 の とお りで あ る
6)。
まず各 種 同業 組 合 ・商 品 取 引所 の作 成 した約 款 の なか で は 、
London Cor n Tr adeAs s oc i at i on
の作成 した,原産地別 ・商品別 の約款 が有名 で あ る7)。
次 に,各 国際機 関 の作成 した約款 のなかで は,国際連合 ヨー ロ ッパ 経 済 委 員 会
( E.C.E.
) の作成 した各種約款 8),さ らに,経済相互援助会議(COMECON)
3)国際売買 に関 して,この点を詳細 に指摘 した文献 と して,Bone
ll,LeRe gol e Ogge t t i u ede lComme r ci oI nt e m az i onal e( 1 9 7 6) p.8s gg.
4)
このよ うな統一法 につ いて,詳 しくは,Zwe i ge r t ‑ Kr ophol l e r ,Sour c e s o f I nt e r nat i onalUni form L a
w,3 Vol s.( 1 9 71‑7 3
),その後に成立 した統一法 に ついては,例えば,寺田逸郎 「国際機関による取引法統一作業の現状」 ジュ リス ト 第781
号 (昭和58
年)1 2 7
貢以下,参照。5)
谷川久 「企業の国際的活動 と法」『現代法9
現代法と企業』(昭和41年)3 0 9 ‑ 1
0fi;Kr ophol l e r ,I nt e m at i onal e sEi nhe i t s r e c ht( 1 9 7 5)S.9 4f f
.6)
国際的約款 ・統一規則の網羅的 リス トについては,Bonell,op.° i t .pp. 21 ‑ 81;
Uni t e d Nat i onsCommi s s i on on I nt e r nat i onalTr adeLaw Ye ar book
,Vo
l.Ⅳ ( 1 9 7 4)pp.9 8 ‑ 1 0 0;
谷川 ・同上310 ‑ 1 4
頁;朝岡良平 『貿易売買 と商慣習 (第三版)
』(昭和56
年)9 3 ‑ 1 1 6
頁;畑口紘 「採用可能統一規則 と国際的約款」
『現代契約法大系
9
国際取引契約(2 )
』(昭和60
年 )5 4 ‑ 6 0
貢;なお,岩崎一生 「国際取引 とイギ リス法」愛媛法学会雑誌第7
巻1
号 (昭和55
年)1
頁以下 も参照。7)
岩崎一生 「穀物の国際取引と英国GAFTA
標準契約書式」愛媛法学会雑誌第8
巻1
号 (昭和56
年)1 8 ‑ 21
頁;同 「輸出禁止 と国際売買契約 〔上〕〔下〕
」国際商事法 務第9
巻 (昭和56
年)5 41
頁以下,631
貢以下。8)Condi t i onsofSal eandSt andar dCl aus e s I nt e r nat i onalCont r ac t s Par t
l&2
,なお,E.C.E.
約款に関する邦語文献については,注6)
に掲 げた諸文献 の他,谷川 ・前掲注5)3 2 0 ‑ 21
頁注( 4
1)参照。さらに,プラント輸出に関連 して E.C.E.
約款を紹介 ・解説 したものとして,以下の文献がある。大原栄一 「プ ラン ト 輸出契約とECE
標準約款No. 1 8 8( 1 ) 〜( 5
)」国際商事法務第4
巻 (昭和51
年)5 3 8
頁,国際取引法における
Le xMe r c at or i a
の理論(1)1 17
の作成 した約款9
)が有名である。
これに対 して,援用可能統一規則 につ いてみ ると,国際商業会議所
( Ⅰ .C.
C.)の作成 した 「貿易用語 の解釈 に関す る国際規則
」 1 0 )
「荷為替信用状 に関す る統一規則および慣例」11)が有名である。ところで,これ らの約款 ・統一規則 は,国際売買の実務 において,広範 に利 用 されているようである12)が,その法的性質 ・個別契約におけるその効力 といっ
た問題 については,少 な くとも,わが国においては,最近 に至 るまで,本格的 な検討がなされて こなか ったように思われ る13)。 これに対 して,諸外国 におい ては,このような問題 について,すでに,本格的検討がなされて いる。 いわゆ
る
Le x Me r c at or i a
の理論 14).t呼ばれるものがそうである。5 9 5
頁,6 3 8
頁,第5
巻 (昭和5 2
年)4 0
頁,8 7
貢;「プラント輸出契約 とECE
標準 約 款N o ・ 1 8 8A
‑(1 ) 〜( 5
)」第5
巻 (昭和5 2
年)1 4 2
頁,1 9 0
頁,2 4 0
頁,2 91
頁,3 2 8
頁 ;「プ ラント輸出契約 とECE
標準約款N o l 1 8 8D
‑(1 ) 〜( 4
)」第5
巻 (昭和5 2
年)4 3 8
頁,4 8 5
貢,5 4 0
頁,5 9 3
頁 ; 「プラン ト輸出契約 とECE
標準約款N o . 1 8 8B
」第6
巻 (昭和5 3
年)4 3
頁 ; 「プラント輸出契約 とECE
標準約款N o . 5 7 4 ,5 7 4 A ,5 7 4D
」第6
巻 (昭 和5 3
年)1 3 0
頁。9)
もっとも,COMECON
の作成 した約款 は,条約に類す るものと言 うことができる。この約款については,例えば,石川惣太郎 「コメコン物品納 入一般条款
1 9 6 8
年」 国 際商事法務第6
巻 (昭和5 3
年)4 7
頁以下,改正前の約款に関する邦語文献 につ いては,谷川 ・前掲注
5)3 2 0
頁注( 4
1),参照。1 0)I nt e r nat i onalRul e sf ort heI nt e r pr e t at i onofTr adeTe r ms,I nc ot e r ms
,I CC Publ i c at i onN o . 3 5 0,1 9 8 0;
イ ンコタームスに関する邦語文献 につ いて は,山 手正史「 1 e xme r c at or i a
についての一考察 (‑)」法学雑誌第3 3
巻3
号 (昭和6 2
年)6 3
頁注 (17),参照。l l )Uni f or m Cus t omsandPr ac t i c ef orDoc ume nt ar yCr e di t s,I CC Publ i c a‑
t i onN o . 4 0 0,1 9 8 3
;信用状統一規則に関す る邦語文献 として,朝 岡良平編著 『実務 家のための逐条解説信用状統一規則』(昭和6 0
年) ;及川竹夫著 『新 しい統一規則 による信用状取引の実務』(昭和5 9
年) ;その他の邦語文献 については,山手 ・同上6 4
頁注( 1 8)
,参照。1 2 )
注6)
に掲 げた諸文献の他,特にわが国 における利用状況につ き,斎藤彰 「国際動 産売買における売主の義務 (‑)
」民商法雑誌第9 1
巻6
号 (昭和6 0
年)5 7
頁以下,参 照。1 3)
この間題に関す る本格的論文 として,山手正史「 1 e xme r c at or i a
についての一考 察 (‑)・(二 ・完)
」法学雑誌第3 3
巻3
号 (昭和6 2
年)51
頁,4
号8 3
頁以下,がある。1 4)Le 又Me r c at or i a
という語が論者 によってさまざまな意味 に使われていること,お よびLe xMe r c at or i a
に類似す る語 については,山手 ・同上 (‑)5 4 ‑ 5 5
頁;Si e hr
,118 商 学 討 究 第
3 9
巻 第1
号本稿 は,かか る
Le xMe r c at or i a
の理論 の うち1 5
),国際売買 の分野 を中心 と して,最 も詳細 な検討 を試 みているBone l
l氏 の見解 16 )1 7)
を紹介 し,若 干 の検 討 を加 え ることを,その目的 とす るものであ る。
Ⅰ
国際的約款 ・統一規則 の法的性質 ・個別契約 におけるその効力如何 とい う問 題 につ いて は,理論上 ,
2
つの解決方法が存在 しえ よ う18)。 第1
に,これ らの 約款 ・規則 は,実定法規範 と して,自 らの力 で( vi gor epr opr i o)
適 用 され る とす るもの,第 2に,約款 ・規則 は,私的 自治 の原則 に基 づ き,当事者 に よ っSac hr e c ht i m I PR
,t r ans nat i onal e s Re c ht und l e x me r c at or i a
,i n I nt e mat i onal e sPri u at r e c ht ‑ I nt e mat i onal e sWi r t s c ha ft s r e c ht( 1 9 8 5 )S.1 0 8 f f .
1 5)
このうち,Gol dman
の見解は,すでに紹介 ・検討されている。多喜寛 「国際取引 法におけるLe xMe r c at or i a
の理論 (二)
」法学第5 0
巻2
号 (昭和61
年 )2 8
頁以 下,および山手 ・同上 (三 ・完)5 41 ‑ 4
4貢,なお,Gol dman
自身の見解について は,Fr ont i l e r e sdudr oi te tく 宅1 e xme r c at or i a
>,,Ar c hi v e sdephi l os ophi edu dr oi t( 1 9 6 4)p. 1 7 7;La l e 光 me r c at or i a damsl e sc ont r ate tl ' ar bi t r age i nt e r nat i onaux,Cl une t( 1 9 7 9)4 7 5p.
また,Sc hmi t t hof
fの見解 も,簡単ながら,多書 ・同上
2 6 ‑ 2 8
頁にて紹介 ・検討されている。Sc hmi t t hof
f自身の見解につ いては,TheLau )o fI nt e mat i onalTr ade ,i t sGr owt h,For mul at i on and Cpe r at i ons ,i n TheSour c e soft heLaw ofI nt e r nat i onalTr ade( 1 9 6 4)
p. 、 3
,参照。1 6)Bone
ll,LeRe gol eOgge ui u ede lComme r c i oI nt e r nazi onal e( 1 9 7 6)
;*%の紹介 ・書評 と して
,Bar mann
,Rabel s Z ( 1 9 7 7)S.61 6 f f
.;Ri c car do Monac o , Ri ui s t a diDi ri t t oI nt e r nazi onal ePri z ) at o ePr oc e s s ual e , XI I I N.2( 1 9 7 6)p.4 5 5s gg.;Ros s e l l aSi bi l i a ,Ri u i s t ade lDi r i t t oComme r c i al e ede lDi r i t t oGe ne r al ede l l eObbl i gazi oni ,7 7
Ⅰ( 1 9 7 9)p.7 4s gg.;Vg
l.Bar mann,I s tl nt e r nat i onal e sHa n de l s r e c htKodi f i z i e r bar
?,Fe s l t s c hri ft
f Hr F.A.MaT m ( 1 9 7 6),SS.5 5 3,5 6 3,5 6 7 1 7 3 .
1 7)Bone l
l氏は,前掲書の他,以下の諸論文においても,自説を展開されている。Das Aut onomeRe c htde sWe l t hande l s‑ Re c ht s dogmat i s c heundRe c ht s pol i t i s c he As pe kt e
,Rabel s Z ( 1 9 7 8) S. 4 8 5 f f . ; The Rel e u anc e o f Cour s e s i n
De al i ng
,Us age s and Cus t oms i n t heI nt e r pr e t at i on o f I nt e r nat i onal Comme r c i alCont r ac t s ,i nNe w Di r e c t i onsi nI nt e r nat i onalTr adeLaw , Vo
l. 1 ( 1 9 7 7) p.1 0 9;
IICr e di t o Doc ume nt
ar i o INor me e d Usi
Uni for mi ,i nLeCpe r az i oniBanc ar i e ,Tomo
Ⅱ( 1 9 7 8)p.9 5 7s gg.
本稿 では,特にことわり書きのない限り,その著書による。1 8)Bone
ll,op.° i t .p.8 5s gg.
国際取引法における
Le xMe r c at or i a の理論( 1 ) ) ) 9
て契約上援用 された場合にのみ,適用 されるとするものである。
いずれの場合にも,その検討 は,必然的に、客観的 ・一般的法秩序 の決定 を 前提 とす る。このことは,第
1
の場合には全 く明 らかである。 しか し,第2
の 場合にも同 じように言 うことができる。いずれに して も,客観的 ・一般的法秩序を前提 とす ることに関する若干 の疑 問 は,せいぜい,いわゆる解釈原則 ・基準 に関 して生ずるにす ぎないが,かか
る疑問 も根拠のないものと言えよう。
客観的 ・一般的法秩序の決定 は,慈恵的または偶然のものであってはな らな い。国際的約款 ・統一規則 は,国際取引契約に典型的なものである
。
約款 ・規 則の法的性質 ・効力に関す る問題を解決 しようとす る場合には,国際取引契約 を位置づけうるか,またはそうしなければな らないと考え られるいずれかの一 般的法秩序を決定 しなければな らない。そこで,かかる問題 は,
2
つの段階を経て解決 されることになる。 まず,国 際取引契約の基礎にある客観的 ・一般的法秩序を決定 しなければな らない。そ のあとで始めて,選択 された法秩序を基準 として,個別契約上,約款 ・規則 に いかなる効力が付与されるのかを決定することができるのである。学説においては,このようにして問題を検討すべきことか十分認識 されている とは,必ず しも言えない。ところで,かかる客観的 ・一般的法秩序 について, 実証主義的 ・国家主義的見解 と自治的見解 との
2
つの説が主張 されている。 こ の うち,前説は,国際取引契約を規律す ることができるのは,やは り各国法秩 序であるとの,後説 は,そうす ることがで きるのは,今 日,各国法秩序 と併存 す る,国有の規範および完全に自治的組織を備えた,国際的 ・超国家的法秩序 に他な らないとの,立場に立っ ものである1g)。しか し,これ らの説 は,いずれ も,よく検討 してみると,全面的 には支持す ることができないことがわかる
2 0 )
。そこで,これ らの説の欠点を克服 しうる新1 9)
前説 につき詳 しくは,Bone
ll,op.° i t .p.9 1s gg
,後説 につ き詳 しくは,Bone
ll,op.° i t .p.1 5 3s gg.
参照。2 0)
前説 に対す る批判については,Bone
ll,op.° i t .p.2 0 0s gg.
なお,実証主義的 ・1 B O
商 学 討 究 第39
巻 第1
号 しい解決方法を提唱 しなければならない。ⅠⅠ
複数の法秩序 と関連性 を有す る事件 について必然的 に生ず る法の抵触の問題 への取 り組み,それを解決す る新 しい方法の提唱は,かなり古 くか ら存在 して いる
。
今世紀初頭すでに,オ ランダの
Ji t t a
は,法律関係 を,相対的に国際的な も のと,絶対的に国際的な ものとに分 け,この うち,後者 は,法廷地法,さ らに は外国法 とも関連性を有す るがゆえに,特定国法に服す るもので はな く,いわ ゆる人類の普遍的法的共同体か ら折出されるべ き,固有 の規制を必要 とす る こ とを主張 した2ユ)。このような新 たなる方法の提唱 は,数 こそ少なか ったものの,その後 も,学 説 ・判例上、なされていたところである
。
例えば、1908
年4
月4
日の帝国 裁判所判決 22)を挙 げることがで きる。本件 は,イギ リス船主 ・ドイ ツ運送業者 問にロン ドンで締結 された傭船契約 に関す る事件であるが,国際取引契約 の場 合 に,当該事件 に関連性 を有す る各国法を調和 させる可能性を裁判所 は排除 しなか った
。
また
,1 92 2
年1 2
月1 9
日帝国裁判所判決 23)もその一例である。 本件で は,本来 適用 され るべ きスイス法のある規定が,ドイツ公序に反す るものとして適用 さ れなかった。裁判所 は,法廷地法たる ドイツ法を適用す るに先立 ち,スイス法国家主義的見解 に関 して,筆者 は,信用状統一規則を対象 と して,不十分 なが ら検 討 したことがある。拙稿 「信用状統一規則 について」商学討究第
3 7
巻1・2 ・3 合
併号 (昭和6 2
年)45 1
頁以下。後説 に対す る批判 につ いて は,Bone
ll,op.
°i
t.p.
1 81 sgg.
なお,Gol dman
の見解 に対す る批判 につ いて は,多喜 ・前掲注15)4 0
頁以下 ,参照。21) ジッタの学説 については,例 えば,田中耕太郎 『世界法 の理論 第二巻』(昭和8年)
51
1頁以下 ,参鼎。2 2)RGZ6 8,2 0 3 .
2 3)RGZ1 0 6,8 3 .
国際取引法における
Le xMe r c a t or i a
の理論(1
)1 21
の範囲内で,ア ドホ ックな解決を目指すべきもの,と判示 した。
さらに,新たな方法の提唱 は,第
1
次世界大戦後に創設 された混合仲裁裁判 所 によって もなされた。
しか し,かかる新たな方法の提唱が,広 くなされるようにな ったの は,つ い 最近のことである。 この方法によれば,複数の国 と関連性を有す る事件 を,そ のいずれか一国に位置づけることは,不可能ではないに して もかなり困難であ ることか ら,抵触規範による伝統的アプローチを否定 し,ア ドホ ックな実質規 範の形成を試みることになる。そ して,かかる実質規範の形成 は,各国法規範
の調和ない し,公平原則によってなされるのである
。
このような立場の最 も代表的人物が
,St e i ndor f
fである24)。彼 によれば,本 来適用 されるべき準拠法 (当事者が指定 した国家法)にくわえて,他国法 (法 廷地法等)が適用 される場合が きわめて多 い。
そ こで,このよ うな多重連結( Me hr f a c ha kn軸f ung)
が行われる場合に,当該事案を国内化す るとい う伝統 的方法は,連結基準 に基づいて決定 されるl e xc aus ae
が,国際的視点 か らみ て機能的であるときにのみ,正当化 され うるのである。そうでないときには, 特別実質規範の形成が不可欠である,とされる。
しか し,彼にあって も,実質規範形成 という方法 は,全 く例外的解決方法, すなわち,伝統的抵触規則が満足 しうる結果をもた らさないことが明 らかであ
る場合に利用 されるべき解決方法にす ぎないとされている25)。
これに対 して,かかる方法を原則であるとみなす者 も存在 している
。
その前 提 となっているのが一国際関係をいずれかの国に位置づけることの困難 さは別 として もーかかる関係が,その性質か ら,各国法 とは異なる特別法 を必要 とす るのだという認識なのである。
特別実質規範の形成 ・適用は,まず,いわゆるコンセ ション契約26)一国家 と
2 4)Sac hnor me ni m i nt e r mat i onal e nPr i u at r e c ht( 1 9 5 8) .
2 5 )
なお・ほぼ同 じ見解をとる者 については,Bone
ll,opt° i t .p.2 1 9not a
(7),参 照。2 6)
コンセション協定,または,単 にコンセションと呼ばれることもあるが,ここで は,Bone l
l氏の表現 に従 うこととす る。なお,コンセション契約 の法的性質 につ いて) 22
商 学 討 究 第3 9
巻 第1
号他国の私人 との間に締結 される一において,み られる。このようなコンセ ショ ン契約を規律すべき法が何であるのかという問題については,これまで さまざ まな理論が主張 されて きた㌘)。すなわち,各国 (国内)法であるとす る説,国 際公法説,合意 は遵守 さるべ し
( pac t as unts e r vanda)
との原則説 の3
つである
。
各国法説 は,例えば,次に述べる判例 ・学説 において主張されている
。
まず, 判例では,1929
年7
月12
日常設国際司法裁判所判決 (フランスにおいて 発行 されたセル ビア公債の支払に関する事件)を挙げることがで きる。裁判所 は,次のように判示 している。
≪国際法主体 としての資格における国家間 の契 約でない契約 はすべて,いずれかの国内法に基礎を有す る。≫≪両当事者 によ る異なる意思が明示 されていない場合には,締約国の国内法が言 うまで もな く 適用 されることとなる。その理由は,主権国たる国家 は,この点 に関 して締結された契約の有効性 ・公債の内容を他国法に服せ しめる意思であったと推定 さ れないことにある‑‑≫。
次に学説では
,yonBar,Ni boye t,Koj ane c
が この説 を主張 して いる。 さ らに,Mann
もこの説を支持 していると言えるが,注意すべ きことは,準拠法 が認める場合に,かつその限 りにおいてではあるが,伝統的な意味での国際法 を適用 しうることも指摘 していることである28).国際公法説を支持す る学説 は,さらに,以下の
2
つに分類す ることができよは,土井輝生 「石油 コンセション契約における国際私法問題」早稲 田法学第
4 2
巻 ・1・2
号 (昭和41
年)21 0
頁以下 ;曽我英雄 「国際法 におけるコンセシ ョンと既得 権の法理一国家契約と国際法 (その‑)‑」立命館法学第9 5
号 (昭和4 6
年)3 0
貢以 下 ;川岸繁雄 「コンセションと国際法」国際法外交雑誌第79
巻1
号 (昭和5 5
年)1 2
貢以下 ;森川俊孝 「コンセションに関する国家承継法の形成 と展開 (‑ )」
山形大 学紀要 (社会科学)第1 2
巻2
号 (昭和5 7
年)1 3
頁以下,参照。2 7)
この点については,土井 ・同上2 0 5
貢以下 ;多喜寛 「国家 と私人 との国際契約‑ コン セション契約を中心に‑
」民商法雑誌第8 5
巻3
号 (昭和5 6
年)7 4
貢以下 ;山本敬三「国家契約における裁判権免除 と準拠法」国際法外交雑誌第
8 2
巻5
号 (昭和5 8
年)2
3貢以下 も参購。2 8)
なお,Mann
の見解につき,多書 ・同上4 5 5
貢以下。国際取引法 における
Le xMe r c at or i a
の理論(1
)1 2 3
う
。
その‑ は,伝統的な意味での国際法説であり,その二 は.,新 たな,特殊 な 意味における国際法説であ る。
前説 を とる者 と して,Broc he s,Bi nds c he dl e r
らを,後説をとる者 として,Fr
ie dmann,Ze mane k
,We i l ,B6c ks t i e ge lらを挙
げることができる。
コンセション契約 を規律す る法 を,Fri e dmann
は,≪国 際商法≫( i nt e r nat i onalc omme r c i all aw)
,≪経 済 開 発 法 ≫( e c onomi c de ve l opme ntl aw)
と,Ze mane k
は,≪国際社会法≫ (Re c htde ri n t e r na t i o na l e n Ge me i ns c haf t)
と,We i lは, ≪契約 の国 際法≫ ( dr oi ti nt e r nat i onlde s c ont r at s)
29)
と,Bac ks t i e ge l
は,≪ 国 際 経 済 契 約 法 ≫( i nt e r nat i onal e s Wi r t s c haf t s ve r t r ags r e c ht ) 3 0 )
と呼んでいる。
合意 は遵守 さるべ Lとの原則によって,コンセション契約の有効性を基礎づ けようとす る学者 として,
Ve r dr os s 3 1
),Ki pp,Fi s c he r
,さ らにBour gui n
を 挙げることができる。 この特異な学説の基礎にあるのが,法および私人 の自治 権能に関す る自然法的概念であることは,明 らかである。
いずれかの実定法秩 序が認める場合かつ認める限度において契約 は拘束力を有するとのテーゼを, 実証主義的弊害 として否定 したうえで,人間は,自己規制の根源的権能 を付与されているので,合意 は遵守 されるべ Lとの原則のみに基づいて,相互 に義務 づけることができる,とされる。また,この原則 は,すべての人々の法的意識 に根ざしたものであ り,特に説明されたり,承認 されたりす る必要性 は全 くな いのである。
また,コンセション契約について、各国法あるいは伝統的意味における国際
2 9)We i l
の 「契約の国際法」理論 については,多喜 ・同上4 6 2
頁以下 に詳 しい。 この理論を採 用 した と思 われ る
,1 9 7 7
年1
月1 9
日の仲 裁判断( Te xac o/Cal as i at i cc . Gov e r nme ntLi bye n)
の翻訳 と して,川岸繁 雄 「リビア国 有 化 事 件 仲 裁 判 断 (一九七七年一月十九 日)
」神戸学院法学第1 0
巻1
号 (昭和5 4
年 )1 7 3
頁 。本仲裁判 断を紹介 ・検討 した文献 として,多喜寛 「石油 コンセ ション契約 の国際 化‑ リビア 国有化事件仲裁判断」法学第4 3
巻4
号 (昭和5 5
年)1 0 2
頁 ;森川俊孝 「仲裁 と法 の 一般原則‑ コンセ ション契約に関す る紛争の解決 に関連 して‑」 『紛争 の平和的解 決 と国際法』
(昭和5 6
年)1 7 4
貢がある。
3 0)B6c ks t i e ge l
の見解 につ き,多喜寛 「国際私法 と国際法の交錯」法学第4 8巻 1
号 (昭和5 9
年)1 2 2
頁以下。3
1)Ve r dr os s
の見解 につ き,多幸 ・前掲注2 7 )4 5 9
頁以下 ;川岸 ・前掲注2 6) 6
頁 以 下。) 2 4
商 学 討 究 第3 9
巻 第1
号法を適用す るとの説 はいずれ も支持 しえないとし,その理由として,両 当事者 は完全に対等な立場 において契約 した こと一国内法説 に対 して‑,国家のみが 国際法主体 の資格 を有す ること一国際法説に対 して‑を述べている。≪そこで, 問題 となるのは,第
3
の契約 グループであ り,これは,契約 によ って基礎づ けられた私権を,当事者の了解によって形成 された新たな法秩序すなわち当事者 によって合意 された
1 e xc ont r ac t usに服 させる,ということで特徴 づ け られ
る。≫,32)のである。ところで,これ らの三説 に賛成す ることはで きない。両当事者 は,完全 に対 等な立場で契約 していること,それゆえ,他国法に服す るものと考 えていない
こと,申、ら国内法説 に賛成す ることはで きない。次に,私人 は国際法主体 と し て必要な資格を欠 いていることか ら,国際法説に も賛成す ることがで きない。 さらに,当事者の意思 は,それだけでは,法律上有効な拘束力 を創設す ること はで きない ことか ら
,pac t a s unts e r vanda
説 に も,賛成す ることがで きない 33)
○
このよ うなわけで,最近 は,次のような説が主張 され るに至 ってい る
。
コ ン セ ション契約 は,む しろ, トランスナ シ ョナル ・ロー( un r e gi mepos i t i vo
≪t r ans naz i onal e
≫)‑各国法 と厳密な意味での国際法 とのt e r i um ge nusで
あ り,現存す る全法秩序にとは言わないまで も,少な くとも,当該 コ ンセ シ ョン契約に直接関連性を有す る法秩序 に共通す る原則 ・親範の総体から成 る
( c o ‑ s t i t ui t o da que l 王 ' i ns i e medipr l nC l pledin。r me c ♭e r i s ul t ano c omuni
,s enon pr opr l O a t ut t iis i s t e migl ur i di c ie s i s t e nt i ,pe r l ome no a que l l i divol t ai nvol t adi r e t t ame nt ii nt e r e s s at i )
一に服す るとの説である。
この3 2 )
この点 については,多喜 ・前掲注2 7 )4 5 8 ‑ 5 9
頁のVe r dr os s
よ りの引用部分,参照。3 3 )
なお,私的 自治の原則 ・意思 自治 の原則 につ き,星野英一 「契 約思想 ・契約法 の歴 史 と比較法」『基本法学4
契約』 (昭和5 5
年)1
0頁 以下 ;北村一郎 「私法上 の契 約」 と 「意思 自律の原理」同上書1 6 5
貢以下。3 4 ) Tr ans nat i onalLaw ( 1 9 5 6 ) .
なお,Je s s up
の見解 については,山本敬三 「ジェ サ ップ 『超国家法』 」政経論叢第 1
0巻1
号 (昭和3 5
年)2 3 1
貢以下 ;Kas s i s ,Thb or i e
G6 n6 r al ede sUs age sduComme r c e ( 1 9 8 4) par a. 8 4 7
以下 ,参照。国際取引法 にお ける Le xMe r c at or i a の理論( 1 ) 1 2 5
説を支持す る学者 と して,特 に
,Je s s up3 4 )
,Mc Nai r3 5 ) ,Lor e nz,Zwe i ge r t
36),Sc hl e s i nge r ‑ G㍍ndi s c h,Lal i ve,Re nge l i ng
を挙げることができる。
もっとも,このなかで,Re
nge l i ng
自身 は,≪私的国際法>,( pr i vat val ke r r e c ht )
とい う 表現を使 っているけれども,この表現で述べようとしているのは,国内法 とも 厳密な意味における国際法 とも異なり,他の学者が≪文明諸国によって一般的に認められた≫すなわち≪ トランスナショナル≫ と定義 している原則 ・規範の 総体か ら成 る法秩序に他な らないのである37)。
学説だけでな く,当事者 も,かかる解決方法を採用 している
。
まず,≪文明 諸国によって一般的に認め られた法の一般原則>,を適用す ることとしていたコンセション契約の例 として,以下の
3
つを挙げることができる。1 933
年4
月2 9
日のI r an
とAngl o‑ Ⅰ r ani anOi lCompanyLt d.
との問のコンセ ション契約 は,その第2 2
条1
項 に次の規定をおいていた。<宅仲裁判断 は,常設国際司法裁 判所規程第38
条 に含まれる法律原則に基づいてなされるものとする。≫また,1 93 5
年5
月1 7
日のRul e rofQuat ar
とPe t r ol i um De ve l opme nt( Quat ar) Lt d.
との間の契約 は,≪仲裁判断は,文明諸国 に共通す る法律原則 と一致す べ きものとする。≫ との規定をおいていた。さ らに、19 65
年 のAl ge r i a
とフランスの
ERAP
との間の追加協定第4 6
条 は,≪条文に欠峡 がある場合 には, 裁判所 は,法の一般原則を適用す ることができる。≫ と定めていた。次に,各国国内立法に共通す る実定法規を適用す ることとしていた契約例 と して,1
92 8
年11月1 0
日のチェコスロバキア郵便電信局 とRadi oCor por at i ono fAme r i c aとの問の契約を挙げることができる 。
その第11条 によれば,≪本協 定 は,協定か ら主ず る会社および当局の債務または責任に関 しては,アメリカ ・ニューヨーク州法およびチェコスロバキア共和国法に従 って解釈 され,かつ履 行 されるものとす る。≫ゝとされていた。
さらに,より一般的に,善意 ・誠実 ・公平の原則を適用することとしていた
3 5 ) Mc Nai r の見解 につ き,土井 ・前掲注 2 6 )2 3 8 貢以下 ;多喜 ・前掲注 2 7 ) 4 4 8 巨以下。
3 6 ) Zwe i ge r t の見解 につ き,多喜 ・同上 4 5 0 貢。
3
7)Bone
ll,op.° i t .p. 2 2 2 not a
(ll).1 2 6
商 学 討 究 第39
巻 第1
号契約 として
,1 93 9
年1
月1
1日のRul e rofAbuDhabi
とPe t r o l i u mDe v e l o p me n t ( γr uc i alCoas t )Lt d.
との間の契約 38)を挙 げることがで きる。 本契約 は,そ の第1 7
条で,≪首長および会社 はいずれ も,本協定 を,善意 ・誠実 の精神で履 行 し,かつ,合理的な方法で解釈す る意思であることを宣言す る。≫ と規定 し ていた。特 に最近 においては、両当事者 の国内法,普遍的に認 め られた一般原則,善 意 ・公平の原則,とを累積的に適用す ることとす るとの例 もみ うけられる。 そ のよ うな契約 と して,以下 の■
3
つがあ る。第1
に,1 9 5 4
年1 0
月2 9
日のI r an
とNat i onalI r ani anOi lCo mpany
との間の契約であ り,その第46
条 は次 のよ う に定 めていた。≪本協定の当事者の国籍が異なることに鑑み,本協定 は,イ ラ ンおよび他方当事者が所属す る文明諸国に共通す る法原則によって支配 され, 解釈 され,かつその適用を うけるものとす る。
かかる共通す る原則が存在 しな い場合 には,国際裁判所によって適用 されてきている原則を含 めて、文 明諸 国 によって認 め られた法原則 によって支配 され,解釈 され,かつその適用 を うけ るものとす る≫39)。第
2
に,1 9 5 7
年のNI OC
とAGI P
との間の契約であ り,その第40
条 によれ ば,≪本協定 の当事者の国籍が異なることに鑑み,本協定 は,イ ランおよびイ タ リアに共通の法原則 によって支配 され,解釈 され,かつその適用 を うける も の とす る。 かかる原則が存在 しない場合 には,文明諸国によって一般的 に認 められた法原則,特に国際裁判所によって適用されてきた原則に従うものとする>,4')。 第
3
に,1 9 6 8
年のI NOC
とフランスのERAP
との間 の契約 であ り,その 第3 5
条によれば,≪仲裁裁判所 は,紛争 について,公平お よび一般的 に認 め ら れた法原則 に従 って,判断を下す ものとす る≫ とされていた。これまで述べて きたことは,両当事者が異なる意思を表示 して いる場合,例 えば,当事者 の国内法を明示的に適用す ることとしている場合 には,あて はま
3 8)
本件については,森川 ・前掲注29)1 85
頁以下に詳 しい。3 9)
なお,土井 ・前掲注2 6)2 36
頁,参照。4 0)
なお,土井 ・同上2 3 7
頁,参照。‑国際取引法における
Le xMe r c a t or i a
の理論( 1 ) 1 27
らない。両当事者が,コンセション契約の特徴 ・必要性を理解 した うえで,国 家が協定内容を一方的に改廃することとなるような修正を自国立法にもたらさ ないこと
41 )
を明示的に定めた場合には,国内法のs uige ne r i s
な適用が問題 と されていることにな る。
このよ うな契約 と して,1 9 2 5
年8
月1 8
日のSovi e t Gove r nme nt
とLe naGol df i e l dsLt d.
との間のそれがあり,その第7 5
条・76
.条は,次のように定めていた。く宅会社 は,本協定に特別規定がさだめtられていない限 り,ソビエ ト連邦の現在 および将来 のすべての立法 に服す るもの とす る≫,≪政府は,会社の同意がなければ,命令 ・一方的行為 によって協定内容 を変更 しない義務を負 う≫,0
コンセション契約を トランスナショナル ・ローに服せ しめようとする傾向は, この点に関 して最近形成 されて きている多 くの仲裁判断において も見 られる。
コンセション契約 に関す る紛争を解決するよう付託 された仲裁人 ち,国内法 の適用を排除 し,≪常設国際司法裁判所規程第
3 8
条によって認め られた法の一 般原則茅,≪文明諸国一般の良識 と共通の慣行 に根ざした原則≫,≪文明諸国の 制定法に定め られているかまたは慣行上一般に認められているような文明諸国に共通の実定法原則≫,に基づいて,仲裁判断を下 しているのである。
例えば
,1 93 0
年のLe naGol df i e l dsLt d.
とU.S.S.氏.
との間の紛争 に 関す る仲裁判断が挙 げられる42)。本件 は,ソビエ トがコンセション契約 を一方 的に破棄 したとして,イギ リス会社が損害賠償請求 した事件であ るが,仲裁人 は,その主張を認めるにあたり,その理由を次のように述べている。
く宅ソビエ ト連邦共和国内における両当事者 による契約 の履行 に関 して は,ロシア法が"契約のプロパー .・ロー "であった‑‑参。けれども く宅ソビエ ト政府 が自 ら のイニシアティブで コンセションを破棄する可能性を含めて,契約上の他の問 題に関 しては,‑‑ーグの常設国際司法裁判所規程第
3 8
条によって認め られた 法 の一般原則が "契約 のプ ロパ ー ・ロー〝 とみなされ るべ きであ る‑‑a,4
1)かかる改廃が,特 に国際法上,国家に責任を生ぜ しめる ものなのか につ いて は,義論があるところである。
4 2 )
本件については,森川 ・前掲注2 9)1 8 3
貢以下に詳 しい。1 2 8
商 学 討 究 第3 9
巻 第1
号そこで,ソビエ トの行為 は,不当利得 を禁ず る一般原則 に反す るのである,
と A S )0
次に
,1 95 8
年8
月23
日のSaudiAr abi a対 ARAMCO
事件における仲裁判 断を挙 げることができる44)。本件では,コンセション契約 の締結 によ って,サ ウジ ・アラビア政府が1 9 33
年 にARAMCO
に付与 した排他的権利 を侵害 し, 責任を負 うこととなるのか,負 うとすればどの範囲においてかが問題とされた。仲裁裁判所 は,次のような結論 に達 した。すなわち,この問題 は,サウジ ・ア ラビアの国内法 の他 に,≪法の一般原則≫ ≪石油産業 における慣例 ・慣行
( t hec us t om andpr ac t i c e si nt heoi lbus i ne s s)
≫ さ らには,既得権尊重 の 原則45)に基づいて,解決 されなければな らない,と。続いて
, Rul e rofAbuDhabi
とPe t r ol i um De ve l opme nt s( γr uc i alCoas t) Li mi t e d
との間で生 じた紛争に関 してなされたAs qui t h ofBi s hops t one卿
の仲裁判断である46)。く宅・・・‑本契約の解釈に適用 される "プロパー ・ロー〝 は 何であるのか。本契約 は,アブ ・ダビで締結 され,かつそこで完全 に履行 され るべき契約である。 もしいずれかの国内法が適用 されるものとすれば,それ は 一応アブ ・ダどの法である。 しか し,かかる法が存在すると言 うことはで きな い。首長がコーランの助けをか りて,全 く裁量的司法をおこなっている ;そ こ で,このきわめて原始的地域において,現代の商事契約書の解釈 に適用 され る 確立 した法原則が存在 していると言 うことは空想に等 しいであろう。
また,私紘,イギ リスの国内法が適用 され うるいかなる根拠 も兄いだす ことはできない。
逆に,本協定第
1 7
条 は,いかなる国内法 も,それ自体,適切であるとの考えを 排斥する。本条の用語 は,文明諸国一般の良識および共通の慣行に根ざす原則一 一種の "近代 自然法 "の適用を要請 し,規定 しているのである・‑‑茅,47)。4 3)
森川 ・同上 ;土井 ・前掲注2 6)2 2 9
頁。4 4)
本件 については,森川 ・同上187
貢以下,特 に18 8‑ 89
頁 の引用部分 ;土井 ・同上2 4 0
貢,参照。4 5)
本原則 につ き,曽我 ・前掲注2 6)3 9
頁以下 ;川岸 ・前掲注2 6)2 2
頁以下。4 6)
本件 については,森川 ・前掲注2 9) 1 8 5
頁。4 7)
なお,森川 ・同上 ;土井 ・前掲注26 )2 2 6 ‑ 2 7
貢,参照。国際取引法における
Le xMe r c at or i a
の理論(1
)1 2 9 1 9 6 3
年5
月1 5
日のSapphi r eI nt e r nat i onalPe t r ol i um Lt d.
対NI OC
事件 の仲裁判断48)においては,単独仲裁人 (スイス連邦裁判所判事P.Cavi n)
は, 準拠実質法に関す る問題 を詳細 に検討 したあとで,以下のように判示 している。すなわち,彼 らの意図 は,≪文明諸国の制定法において定 め られてい る,あ る いは,慣行上一般的に認め られている文明諸国に共通す る実定法原則≫ に基 づ く解決を要請 しているのである,と。
仲裁判断の中には,これまで述べて きたのと同 じような定式を使 っているに も拘 らず,判断の慎重な文言か ら,厳密な意味における国際法を適用 してい る と思われるものもある。イギ リス政府対 ギ リシア政府事件 (もっとも,本件は, 両 国政 府 間 の紛 争 で あ る) 仲 裁 判 断, さ らに,
Le na Gol df i e l dsLt d.
対U. S.S.氏.
事件仲裁判断・SaudiAr abi a
とARAMCO
間 の紛争 に関す る 仲裁判 断 もその中に含め られよ う。
しか し,これ らの仲裁判断 も,そ こで採用 されている解決 は,現存す る主要 法秩序の多少 とも綿密な比較法的検討 によって得 られた,より一般的に遵守 さ れかつ適用 されている原則 ・規範 に基づ く解決 に他な らないのである。
この点に関 しては
,Sa pphi r e
事件 に関す る仲裁判断が適例であ る。
本件 は, カナダ会社がイラン国有企業 に対 して契約上の債務不履行 による責任 を追求 , 損害賠償を請求 したとい う事件であるが,以下の諸点が問題 とされた :債務不 履行概念 ;相手方当事者 による自己の債務履行 を拒絶す る可能性および契約 を 解除す る可能性 ;債務不履行当事者の責任発生要件 ;かかる責任の内容,特 に かか る責任が,現実損害( damnum e me r ge ns )
だけでな く,得 べか りし利益( l uc r um c e s s ans )
に も及ぶのか,という問題である。
そ こで,仲裁人 は,これ らの点 について判断す るに先立 ち,各国立法 のみ な らず,権威のある学説 ・判例をも参照 しっつ,現存す る主要法秩序 につ いて綿 密な比較法的検討 をお こなっている
。
すなわち,く宅私法の一般原則が実定法秩 序 において兄い出されるが,かか る原則 によると,双務契約の一方 当事者 による債務不履行 は,相手方当事者の債務を免除させ,かつ損害賠償 とい う形式 で
4 8)
本件について は,森川 ・同上1 9 2
頁以下に詳 しい。1 3 0
商 学 討 究 第39
巻 第1
号の金銭的損害賠償請求権を生ぜ しめる。≫ この結論を導 くために,フラ ンス民 法第
1 1 84
条 ・Es me i n,Tr ai t spr at i quededr oi tc i vi lf r anc ai s
の同条 コメン ト・
BGB
第326
条・Le hmann,Le hr buc h
の同条 コメ ン ト・Comme nt ar i e s ont heLawsofEngl and
各巻におけるChe s hi r e ,Al l e n,Fi f ootの見解 ・ア
メ リカ法に関す る
Wi l l i s t on
の見解・Re s t at e me ntoft heLawsofCont r ac t s
第314
条,31 5
条 お よ びAr mi nj on
,Nol de
,Wol f
f,Tr ai t e 'dedr oi tc ompar 6
の関係個所を適用 している。 これ らの文献 は,他の結論すなわち く宅それゆえ, 債権者 は,完全な賠償 を得 ることが通常であ り≫ かつ ≪ この賠償 は,現実損 害および得べか り利益を含むのである‑≫,との結論 を導 くために も利用 され ている。
ところで、注 冒すべきことは,現実には,仲裁人 が形式的 には <宅文 明諸国 によって認 め られた一般原則≫,を適用 しなが らも,自 らの所属 す る,かつ最 も代表的 と考える国の法 (自国法)に基づいて,仲裁判断を下す場合 もあ るこ とである。
例えば,As
qui t hofBi s hops t one
卿 は,Pet r ol i um De ve l opme nt s ( Tr uc i al Coas t )Lt d.
対Rul e rofAbuDhabi
事件 において,次のように述 べてい る。 紛争解決の基礎 となる一種 の ≪近代 自然法>,は,結局のところ,<宅理性 に深く根ざ した≫ イギ リス法の原則 ・規範である,と。 また,Ri
al e t事件 も,塞
一般的に認 め られた法原則≫ を適用 しているけれども,よ く検討 してみ ると、フランスの仲裁人 は,結局 ,フランス (行政 )法を適用 していることがわかる。
このような国家 と他国の私人 との間のコンセ ション契約だけが,各国法 とは 異なる トランスナショナルな法秩序の形成 ・適用 を不可欠 なものとす るわけで はない。かか る法秩序の形成 ・適用 は,私人間でお こなわれる国際取引 の分野 において も,兄 い出されるのである。
それは,フランスの国際取引,特 に国際商事仲裁 に関す る判例 であ る4
9)。
こ4 9)なお,多喜寛 「
商事仲裁に関するフランス国際私法の展開」国際法外交雑誌第76
巻6
号 (昭和53
年)6 5
頁以下 ;関口晃 「フランスの国際商事仲裁判例における国際私 法的実質法の形成」『東西法文化の比較 と交流』 (昭和5 8
年)6 27
貢以下,参照。国際取引法における
Le xMe r c at or i a の理論( 1 ) )31
れ らの判例 は,1
95 0
年以降,≪国境を越える財貨の移転≫ をともなう契約,ま たは ≪国際通商の利益 に関す る>,すべての契約を <宅国際的>,であるとした うえで,かか る国際契約 について,伝統的国際私法の立場 を克服 しよ うと し, 特別な実質規範を直接 に形成 ・適用 しよ うとして きた。<宅国境を越える財貨の 移転≫ をともな う契約 を国際契約であ るとす る判例 は,すでに,192 7
年 に現 れている。1 92 7
年5
月1 7
日の破穀院判決( Pe l i s s i e rdu Be s s e t
事件 )がそれ である。 このような定式 は,特 に,≪一国か ら他国への財貨 の二重移転≫ を ともな う取引 として定義 される,国際的支払 ・貸借 に関す る最近の判例 によ っ て支持 されている。また,≪国際通商 の利益 に関す る≫ 契約 を国際契約 であ るとす る判例 も少な くな く,む しろ,この定式の方が,判例 において今 日支配 的な ものと言えよう。
さて,フランスの判例が,実質規範を形成 ・適用 してきた分野 と して,国際 商事仲裁 さらに金約款 の分野を挙 げることがで きる。
まず,金約款判例 か らみてい こう50)。 この点 に関す る著名 な判例 と して,
Me s s age r i e sMar i t i me s
判決51)がある。 本件 は,Sot i e t 占de sSe r vi c e sc o nt r a c t u e l s de sMe d s age r i e smar i t i me s
(1 9 4 8
年以降,フランス国に取 って代 わ られ た) が,特 にカナダで発行 した社債に含めていた金約款 の有効性が争われた事件 で ある。 カナダ法( 1 9 37‑ 39
年金約款法 ) によって も,フランス法( 1 92 8
年法,1 9 41
年 法 ) に よ って も,金 約 款 が無 効 で あ る と, Me s s age r i e smar i t i me s
社 は主張 した。従来 の判例 は,フランス国際私法による準拠法の如何に関係 なく,金約款を有効 としていた。 これに対 して,破穀院 は,≪す べて の国際契約 は,必然的に特定国法 に連結 される。≫ としなが らも,金約款 の有効性 を肯定 した。その理由は,いずれの国の法が準拠法であって も,金約款 の遵守 が,国 内関係 においてのみ金約款を禁止す る
1 92 8
年法によって黙示的に表明 されてい る,いわゆるフランスの国際的公序によって要請 されているとい うことにある。次に,国際商事仲裁 に関す る判例である