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(1)

EUにおける大量保有開示規制

著者 松井 和也

雑誌名 同志社法學

巻 65

号 1

ページ 115‑161

発行年 2013‑05‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014543

(2)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一一五

松    井    和   

章  一  二   1   2    ⑴    ⑵   3  三 

一一五

(3)

(   )同志社法学 六五巻一号一一六EUにおける大量保有開示規制   1   2   3 章  一   1   2  二   1   2    ⑴    ⑵    ⑶    ⑷    ⑸  三  四 章  一  二  三  一一六

(4)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一一七   1   2   3  四  五   1   2  六   1   2  七  八  九 

はじめに

 金融商品取引法は、上場会社が発行する株式を大量に取得した者に、それに関する情報の開示義務を課す。つまり、そのような株式について五%を超える保有者になった者に、大量保有報告書を期限内(五営業日以内)に提出させることにより(金商法二七条の二三第一項)、事後的に株式の大量取得に関する情報を開示しようとする 1

一一七

(5)

(   )同志社法学 六五巻一号一一八EUにおける大量保有開示規制

 会社支配を得るために、公開買付けによって大量の株式を取得しようという者は、事前にある程度の株式を取得しておくことが多い。ただし、世界各国において、大量保有開示規制が導入されている。この規制は、秘密裏に買い集めることのできる株式の数を制限するものである。 大量保有報告書の開示が株式の価格に及ぼす影響を調べるために実施されたイベント・スタディ(変更報告書は調査対象に含まれない)では、ポジティブな超過リターンが観察されている

)2

。したがって、大量保有報告書を提出すべき義務が発生したにもかかわらず、提出期限以降、株式を適正な開示をせずに買い増す場合、株式取得コストを節約することができる(株主はそのとき、大量取得者に低い価格で株式を売ったことになる)。 このような理由から、会社支配を得ようとする過程で大量保有開示規制の違反がなされるかもしれない。平成二〇年(二〇〇八年)の改正で、報告書の不提出・虚偽記載は課徴金(時価総額の一〇万分の一)の対象になった(金商法一七二条の七・一七二条の八)。しかし、課徴金制度が、大量保有開示規制の違反を抑止することにならない場合がある。駐車違反の場合を例に、きわめて単純化していうと、人々は通常﹁罰金額﹂と﹁検挙率﹂を考慮して駐車違反をするか否かを決定するので 3

、それよりも違反行為によって得られるであろう利益の方が大きければ、人々は違反行為をしがちとなる。 したがって、課徴金の額が低ければ、課徴金制度が開示規制のエンフォースメントに貢献しているとはいえないし、課徴金の額が高額であっても、違反行為が発覚し課徴金の納付が命令される確率が低ければ、課徴金制度が開示規制のエンフォースメントに貢献しているとはいえない 4

。 また、大量取得者が大量保有開示規制に違反した場合であっても、その者が株式に付された議決権を行使することは制約を受けないのなら、このことも、会社支配を得ようとする(あるいは会社支配に影響を及ぼそうとする)者にとっ 一一八

(6)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一一九 て規制を遵守しない誘因になる。 これに対して、平成二二年(二〇一〇年)一二月二二日開催の法制審議会会社法制部会第八回会議では、金融商品取引法上の規制(大量保有開示規制を含む)に違反した者による株主総会での議決権行使を認めないものとする仕組みを設けることが話題になった 5

。 具体的には、株主総会前に、株主等の申立てによって裁判所が規制に違反した者の議決権行使の停止を命じることができるというものである 6

。規制に違反した者の議決権行使を株主総会前に禁止することができるという点で注目される 7

。 しかし、そのような救済方法は、大量保有開示規制の趣旨に合致しないようにも思われる。詳しくは別稿に譲るが、米国にはわが国に類似する開示規制があり、それは、会社支配の潜在的変更に関する情報を投資家に開示し、情報にもとづいた投資判断(

in fo rm ed in ve st m en t d ec isi on

)を可能にさせるためのものであると考えられている。わが国では、大量保有開示規制は、会社支配の取得について情報開示の義務を超える実体的な制約を課すものではないと指摘されているが 8

、米国では、株式大量取得者が開示規制に違反したとして提訴されることがあり、提訴の目的は違反者による議決権の行使を差止めることにあったのかもしれないが、連邦裁判所は、情報が正確に開示されていないと判断する場合、被告に開示を訂正させるまでの間(あるいはさらに一定の期間)、被告による株式追加取得等を禁止する 9

。 このように、開示がない場合は、規制の違反者による株式の買い増しが禁止される可能性がある。このことは、株式の大量取得者にその情報を正確に開示するよう促すことになり、投資家は会社支配の潜在的変更に関する情報を得ることができる。議決権行使が禁止されるわけではない。裁判所が開示規制に違反した者の議決権行使の停止を命じることができるという仕組みについていえば、なぜ開示規制の違反が議決権行使の制約につながるのか検討することが必要で

一一九

(7)

(   )同志社法学 六五巻一号一二〇EUにおける大量保有開示規制

ある。誰が株式を大量に保有しているのかという情報を、会社法上重要な情報と捉えれば、規制の違反者に株主としての権利、とりわけ議決権を行使させないものとする仕組みを肯定することができるかもしれない ₁₀

。そうすれば、規制に違反した場合は議決権を停止することにし(当然の停止)、事後的に決議の取消しという形で争うことも考えられる ₁₁

。 そこで、大量保有開示規制は何を目的とする制度なのか、開示規制の違反者が株式に付された議決権を行使することは制約されるのかという点に留意し、以下では、EUにおける大量保有開示規制について検討する。

第一章 企業結合に関する開示

 一 概要 ドイツ株式法は、﹁二五%超の株式を所有する者﹂および﹁過半数の株式又は議決権を所有する者﹂にその旨を会社に通知するよう義務づけ、会社がこれを開示するよう規定する(二1を参照)。通知の履行を確保するため、株式法は、通知義務を負う企業が所有する株式の権利は、その企業が通知をしない間は存在しないものとする(二3を参照)。その間、その企業は株式の権利を行使することができない。 企業結合に関する第九指令案は、一〇%超の株式を所有する者に会社への通知を義務づけ ₁₂

、会社がこれを開示するよう規定する(三1を参照)。さらに第九指令案は、通知をしない限り、株式の権利を行使してはならないものとする(三3を参照)。 一二〇

(8)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一二一  二 ドイツ株式法にもとづく開示制度

1  二 五 % 基 準 ・ 五 〇 % 基 準

 一九六五年制定の株式法 ₁₃

A kt G

)は、通知義務について以下のとおり規定する。すなわち、ある企業が国内に本拠をもつ株式会社の株式の四分の一[二五%]よりも多くを所有するにいたった場合 ₁₄

、その企業は、遅滞なくその旨を会社に対し書面で通知しなければならない ₁₅

(株式法二〇条一項)、と。 そのさい、次に掲げる株式も企業の所有株式に算入される(二〇条二項)。 1.その企業、それに従属する企業(又はその企業もしくはそれに従属する企業の計算で他の企業)がその引渡しを請求し得る株式。 2.その企業、それに従属する企業(又はその企業もしくはそれに従属する企業の計算で他の企業)がその引取り義務を負う株式。 ただし、企業が資本会社である場合、第二項による加算なしに株式の四分の一よりも多くを所有するにいたったときは、遅滞なくその旨も会社に対し書面で通知しなければならない(二〇条三項)。 株式法上、ある企業が他の企業の持分又は議決権の過半数を所有する場合、前者の企業を過半数参加企業、後者の企業を過半数被参加企業と呼ぶ ₁₆

(一六条一項)。企業が過半数参加をした場合は、遅滞なくその旨も会社に対し書面で通知しなければならない(二〇条四項)。 第一項、第三項又は第四項にもとづく通知が必要となる水準の参加が存在しなくなった場合は、遅滞なくその旨を会社に対し書面で通知しなければならない(二〇条五項)。 第一項又は第四項にもとづく通知を受けた会社は、参加の存在を遅滞なく会社公告紙に公告しなければならず、そこ

一二一

(9)

(   )同志社法学 六五巻一号一二二EUにおける大量保有開示規制

では参加している企業名を記載しなければならない(二〇条六項二文)。 第一項又は第四項にもとづく通知が必要となる水準の参加がもはや存在しなくなったという通知を受けた会社は、遅滞なくその旨を会社公告紙に公告しなければならない(二〇条六項二文)。 なお、有価証券取引法 ₁₇

二一条二項にいう発行者(その株式が組織された市場で取引されることが認められた者)の株式には、株式法二〇条一項から七項(七項については3を参照)の規定は適用されない(株式法二〇条八項)。

2  開 示 の 意 義

⑴ 五〇%基準の意義 誰が過半数の株式又は議決権を所有しているのか開示することにはどのような意義があるのか。 注(

だ制規制規的体実、くなでけ ₁₈ 被、はに間のと業企加参条数半過と)項一配六一法式支従属同示開、は法株)。条七一法式(るる関係があと推定され 決を権の過半数。所有する企業株は議又後企業企属従を業の呼者分、業企配とびを(持の業企の他業、企加参数半過支

16

で業てし対に業企の他が企述るあ、り接おとたべ直)又行業企の者前、場るす使をは力響影的配支に的接間合

、すなわち従属会社が株式会社である場合の従属会社の少数派株主保護についても規定する ₁₉

。それは、支配企業がその影響力を行使することによって支配企業のために従属会社に不利益となる行為をさせ、これによって従属会社の少数派株主利益が侵害され得る ₂₀

という問題に対処するためのものである。 ドイツでは上場会社でも株式所有が集中している。すなわち、一定の資本を有する上場会社(一九六三年は四七五万マルク、一九七三年は六〇〇万マルク、一九八三年は一〇〇〇万マルク)を対象とする調査では、そのような上場会社のうち、①筆頭株主の株式所有割合が七五%を超える会社の割合は、一九六三年は二二・一%、一九七三年は三二・三 一二二

(10)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一二三 %、一九八三年は三八・九%、②筆頭株主の株式所有割合が五〇%超七五%未満の会社の割合は、一九六三年は三三・六%、一九七三年は三一・一%、一九八三年は二六・六%、③筆頭株主の株式所有割合が二五%超五〇%未満の会社の割合は、一九六三年は二九・一%、一九七三年は二九・三%、一九八三年は二二・九%だった ₂₁

。 ①および②から、一九六三年は五五・七%、一九七三年は六三・四%、一九八三年は六五・五%の会社において、実際に支配株主(過半数の株式を所有する者)が存在していた。 支配株主がいる場合、少数派株主利益が侵害されるおそれがある。株式法で過半数の株式又は議決権を所有する者に会社への通知義務を課すことにより、その会社には支配株主がいるのか否かを他の株主に開示できる。

⑵ 二五%基準の意義 株式法上、二五%超の株式を所有する者は、その企業を﹁支配﹂しているとはいえない ₂₂

。誰が二五%超の株式を所有しているのか開示することにはどのような意義があるのか。 株式法草案理由書は次のようにいう ₂₃

。すなわち、株式法上はある企業が他の企業の資本の過半数又は議決権の過半数を所有する場合、支配従属関係が推定されるが[一六条一項・一七条二項]、持分の二五%超の所有者は、定款変更[一七九条二項]などの基礎的変更決議を阻止することができる。そのような力の所有者が誰なのかを明らかにする必要があり、大株主には匿名性請求権がない。過半数の株式を所有する大株主だけでなく、二五%超の株式を所有する大株主にも通知義務を課すことで、株主、債権者、公衆に対して、計画され又は現存する企業結合について知らせること

換言すれば、企業結合の形成を早くから透明にし、会社での真の力関係を明瞭にすること

ができる、と。 株式法で二五%超の株式を所有する者にも会社への通知義務を課すことにより、その会社には特別決議の成立(当該

一二三

(11)

(   )同志社法学 六五巻一号一二四EUにおける大量保有開示規制

決議の議決には、資本の四分の三以上の多数が必要になる)を阻止できる者がいるのか否かを他の株主に開示できる。 このほか、株式法草案理由書は、通知義務の規定を設けることによって、相互保有規制の適用に際しての法的安定性が高められる旨を指摘する ₂₄

。これに関し、わが国で、相互保有規制の基準値を一〇%にし、規制の実効性確保の観点から、他の会社の株式を一〇%を超えて所有するにいたった場合は、その事実を当該他の会社に通知する義務を負うことにすべきと主張するものがある ₂₅

3  通 知 を 怠 る 場 合 の 株 主 権 の 制 約

 株式法は通知を怠る場合の株主権についても規定を置く。株式法二〇条七項は、通知の履行を確保するための規定であり、株式法草案一九条三項より規制を強化したものである。 草案一九条三項 ₂₆

のもとでは、通知義務を負う企業が所有する株式の議決権について、その企業により第一項の通知がなされない間は、四分の一までしか行使できない。このように、通知を怠る場合は、通知義務が発生する水準を超えて所有する株式についての議決権は存在しない。それにもかかわらず採決した場合、総会決議は取り消され得る ₂₇

。 株式法二〇条七項は、第一項又は第四項[2参照]の通知義務を負う企業が所有する株式の権利は、当該企業、その従属企業又は当該企業もしくはその従属企業の計算で他の企業が通知をしない間は存在しないものとする(ただし、通知の懈怠が故意によるものではなく、その是正がなされる場合、前記のことは五八条四項および二七一条の請求権[剰余金分配請求権・残余財産分配請求権]には適用しないものとする)。 一二四

(12)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一二五  三 企業結合に関する第九指令案にもとづく開示制度

1  一 〇 % 基 準

 企業結合に関する各国の法規制を調整するための作業が一九六〇年代後半から始まった。EC委員会は、一九七四年・一九七五年、企業結合法制の調整に関する草案を作成した。その後、一九七七年、一九八〇年、一九八四年、委員会はそれに改訂を加えた。 草案 ₂₈

(一九七四年・一九七五年)の第一部は、大株主の通知義務について次のとおり規定する。すなわち、株主は直接又は間接的にある会社の資本の一〇%超を所有する場合、その額を遅滞なく会社に対し書面で通知しなければならず、持分が五%増加するたび、会社に対し同様の通知をしなければならない(草案一八条一項)、と。 一九八四年の第九指令案 ₂₉

は、大株主の通知義務について次のとおり規定する。すなわち、自然人又は法人が、直接又は間接的にある会社の株式資本を一〇%超取得した場合、二週間以内に、取得株式数およびその議決権数を書面により会社に通知しなければならない。その後、株式を追加取得した場合は、所有株式数が五%増加するたびに同様の通知をしなければならない。他方、所有株式数が減少した場合は、五%減少するたびに、所有株式数が一〇%以下になるときにも、通知をしなければならない(第九指令案三条一項)、と。 株式所有割合の算定は、次に示す実質的基準による(三条二項)。すなわち、ある者が第三者の名義だがその者の計算で所有する株式は、その者の所有株式に算入される。同様に、支配会社の従属会社が所有する株式又は第三者の名義だが従属会社の計算で所有する株式は、支配会社の所有株式に算入される。 会社は、三条一項にもとづく通知を受けた場合、そのことを年次決算書の附属書類に記載する(これにより通知をした株主の名称、所有株式数およびその議決権数が開示される)。さらに、最初に受けた通知、あるいは一〇%、二五%、

一二五

(13)

(   )同志社法学 六五巻一号一二六EUにおける大量保有開示規制

五〇%、七五%又は九〇%を上回る又は下回る旨の所有株式数の変更に関する通知を、加盟国の定める法規制にしたがって遅滞なく開示しなければならない(五条一項)。

2  開 示 の 意 義

 このように、第九指令案では一〇%超の株式を所有する場合に会社への通知義務が生じ、会社はそれを開示しなければならない。 誰が一〇%超の株式を所有しているのか開示することにはどのような意義があるのか。そのひとつには、一〇%超の株式所有者に対して通知義務を課すことで、特別決議の成立を阻止し得る(

blo ck in g m in or iti es

)のは誰なのかを開示できる、ということが挙げられる(開示の意義について第二章三参照)。

3  通 知 を 怠 る 場 合 の 株 主 権 の 制 約

 第九指令案は、通知を怠る場合の株主権について次のとおり規定する。すなわち、株主は三条一項の通知[1参照]をしない限り株式の権利を行使してはならない ₃₀

(四条一項)、と。 第一項に反し議決権が株主総会で行使され、これが決議の結果に影響を及ぼす場合、当該決議は瑕疵あるものとなる。他の株主の決議に加わる資格について争う株主は、決議の無効確認の訴え又は無効宣言の訴えを提起することができる(四条二項)。会社は第一項により、権利がないのに配当を受領した株主に対して、その返還を請求することができる(四条四項)。このほか加盟国は、三条一項の通知がなされない場合の制裁について規定しなければならない(四条五項)。 一二六

(14)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一二七 第二章 指令の成立と限界  一 EC旧透明性指令

1  旧 透 明 性 指 令 の 採 択 ( 一 九 八 八 年 )

 EC委員会は第九指令案 ₃₁

(企業結合に関する法規制を調整しようとするもの)を加盟国に提示したが、それには強い批判が加えられた。すなわち、加盟国のうちコンツェルン法を有する国はドイツとポルトガルだけであり、他の加盟国が同様の法規制をとりいれる必要はないという ₃₂

。そのため、第九指令案は採択にいたらなかった。 これに対し、第九指令案の提案事項のうち、株式(ただし上場株式に限る)の保有に関する情報の開示規制は、加盟国間で法規制を調整することが比較的容易である。EC委員会は、上場会社の株式保有に関する情報はいずれの加盟国においても開示されるべきとの見解 ₃₃

を示した。 すなわち、上場株式の大量取得又は処分に関する情報を開示することで、大株主がどの程度会社の経営に影響を及ぼし得るのかを投資家に知らせることができるが、そのような情報は投資家が投資判断を下すさい重要になる ₃₄

。委員会は、市場の機能を向上させ共同体内での市場の相互浸透を図る目的で政策を進めてきたが ₃₅

、前述の情報を得ることができない国が多い ₃₆

。共同体内の市場で投資家が同等の情報を得られるようにすべきである ₃₇

、と。 EC委員会は一九八五年一二月、﹁上場株式の大量取得又は処分に関する情報の開示指令﹂の草案 ₃₈

を理事会に提示し、同指令は一九八八年一二月一二日に採択された ₃₉

(この指令を透明性指令(

T ra ns pa re nz ric ht lin ie

)と呼ぶことがある。本稿では、二〇〇四年の透明性指令(二を参照)と区別するため、一九八八年の指令を﹁旧透明性指令﹂と呼ぶ ₄₀

)。 このように、(開示規制と実体的規制

従属会社の少数派株主保護を図る法規制(注(

31 ―

)参照)の両方を含む)

一二七

(15)

(   )同志社法学 六五巻一号一二八EUにおける大量保有開示規制

第九指令案のうち開示規制が単独で、上場株式の大量取得又は処分に関する情報の開示指令(旧透明性指令)になった ₄₁

2  旧 透 明 性 指 令 に も と づ く 開 示 制 度 ― 一 〇 % 基 準

 旧透明性指令は、上場会社の議決権付株式の大量取得者に会社への通知義務を課し、会社がその情報を開示するよう規定する ₄₂

。 すなわち、自然人又は法人が上場株式を取得又は処分した結果、議決権所有割合が一〇%、二〇%、三分の一、五〇%、三分の二の基準値 ₄₃

に到達、超過又はそれを下回った場合、その者は暦日で七日以内に議決権所有割合を会社に通知しなければならない(旧透明性指令四条一項)、と。 通知を受けた会社は、その情報をできるだけ早く

暦日で九日以内に

開示することが求められる(一〇条一項)。

 二 EU透明性指令

1  透 明 性 指 令 の 採 択 ( 二 〇 〇 四 年 )

 一九九九年になると、欧州経済の競争力を向上させるためにも、市場を統合し域内市場を確立することが重要だと考えられるようになった ₄₄

。その後、域内の上場会社の企業内容を比較しやすくするための規制の整備が進み ₄₅

、二〇〇四年一二月一五日、欧州議会と理事会は﹁透明性指令﹂を採択した ₄₆

。 これは、上場会社の企業内容の開示に関する指令であり、規制市場での取引が認められた株式の発行者に対して、定期的(

pe rio dic

)および継続的(

on go in g

)情報開示を要求するものである。 一二八

(16)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一二九  定期的開示とは、発行者が年次財務報告書(透明性指令四条)、半期財務報告書(五条)および四半期財務報告書又は四半期経営報告書(六条)をそれぞれ開示することをいう。 継続的開示とは、議決権付株式を五%以上取得した者に発行者への議決権所有割合の通知義務を課し、通知を受領した発行者にその情報を開示させることをいう(詳しくは2を参照)。

2  透 明 性 指 令 に も と づ く 開 示 制 度 ― 五 % 基 準

 透明性指令は、大量保有の開示について次のとおり規定する。

⑴ 発行者による議決権総数の開示 加盟本国は、発行者に、議決権総数に増加又は減少が生じた月の末日に当該総数を開示するよう義務づけなければならない(透明性指令一五条)。

⑵ 通知義務が発生する議決権割合 株主が規制市場での取引が認められた議決権付株式を取得又は処分し、その結果、議決権割合が五%、一〇%、一五%、二〇%、二五%、三〇%、五〇%および七五%の基準値 ₄₇

に到達、超過又はそれを下回った場合、当該株主は当該発行者に対して議決権所有割合を通知するよう ₄₈

加盟本国は規定しなければならない(透明性指令九条一項)。 ただし九条の規定は、カストディアンが書面又は電子的方法による指図にもとづいてのみ株式に付された議決権を行使する場合、カストディアンとしての資格で株式を保有するカストディアンには適用されない(九条四項)。

一二九

(17)

(   )同志社法学 六五巻一号一三〇EUにおける大量保有開示規制

 また加盟本国は、信用機関又は投資業者がトレーディング勘定で保有する議決権が次の条件を満たす場合、すなわち⒜トレーディング勘定で保有する議決権が五%を超過せず、かつ⒝トレーディング勘定で保有する株式に付された議決権を信用機関又は投資業者が行使せず、発行者の経営への介入にも利用しないことを保証するときは、当該議決権を算入しないよう規定することができる(九条六項)。

⑶ 発行者への通知期限 発行者に対する通知は可能な限り早く、遅くとも四取引日以内になされなければならない(透明性指令一二条二項)。

⑷ 通知に記載すべき情報 通知は次の情報

⒜議決権に関する取引後の状況、⒝該当する場合には議決権を実質的に保有する被支配事業体についての情報︹8を参照︺、⒞基準値に到達、超過又は下回ったときの日付、ならびに⒟株主の名称および当該株主にかわって議決権を行使する権限を有する自然人又は法人が存在する場合はその者の名称

を含んでいなければならない(透明性指令一二条一項)。 通知の書式 ₄₉

によれば、通知義務を負う者が記載すべき情報は次のとおりである。1.議決権が付された株式の発行者の名称。2.通知の理由(議決権の取得又は処分、金融商品[注(

者る記載した.と異な場3合、株主の名称4で ₅₀ 行。称名の者るす履務義知通.3を

48

処な分取は又得。のど)]該当する欄をチェック)。空

。 一三〇

(18)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一三一 5.基準値に到達、超過又はそれを下回った日。6.到達、超過又は下回った基準値。7.詳細事項。 A株式に付された議決権。  株式の種類。  取引前の状況(株式数、議決権数)。  取引後の状況(株式数、議決権数(直接・間接)・議決権割合(直接・間接))。 B金融商品。  取引後の状況。  金融商品の種類、満期日、行使期間、権利を行使した場合の取得可能議決権数および議決権割合。 ・合計議決権数および議決権割合(A+B)。 (国内法がAとBを合計して通知義務の有無を判断するよう求めている場合)8.議決権・金融商品を実質的に保有する被支配事業体が存在する場合はその名称。  各被支配事業体が国内法の定める最低の基準値に等しいかそれを超えて議決権を保有する場合、親事業体による通知で被支配事業体の通知義務を果たそうとするときは、各事業体の議決権数および議決権割合。

⑸ 発行者による情報の開示 通知を受領した発行者は、遅くとも三取引日以内に当該通知に含まれるすべての情報を公表しなければならない(透

一三一

(19)

(   )同志社法学 六五巻一号一三二EUにおける大量保有開示規制

明性指令一二条六項)。

 三 開示の意義 透明性指令は、議決権付株式を五%以上取得した者に発行者への議決権所有割合の通知義務を課すよう加盟本国に要求し、通知を受領した発行者はその情報を開示しなければならないものとする。 大株主の議決権所有割合を開示することで、他の株主や債権者に、その大株主がどの程度会社の経営に影響を及ぼし得るのか明らかにすることができる。 すなわち、一九八八年の旧透明性指令の基準値(発行者への通知義務が発生する議決権所有割合)は、一2で述べたとおり、﹁一〇%、二〇%、三分の一(二五%の基準値を設けた場合、二〇%および三分の一の基準値は設けなくてもよい)、五〇%、三分の二(七五%の基準値を設けた場合、三分の二の基準値は設けなくてもよい)﹂だった。これは、株主総会の特別決議 ₅₁

の成立を妨げ得る議決権割合、および株主総会の決議を可決し得る議決権割合と一致する ₅₂

(通知義務を一〇%の段階から課すことにより、特別決議の成立を阻止し得る者は誰なのかを開示できるかもしれない ₅₃

)。旧指令の基準値にしたがった開示がなされれば、株主総会の特別決議の成立を妨げ得る者や株主総会の決議を可決し得る者(支配株主)の存在が明らかになるだろう。 二〇〇四年の透明性指令では、基準値は、二2⑵で述べたとおり原則として﹁五%、一〇%、一五%、二〇%、二五%、三〇%、五〇%および七五%﹂になった。 透明性指令は、通知義務が発生する最低の議決権割合を一〇%から五%に引き下げた(買収者の立場からみれば、秘密裏に買い集めることのできる株式の数が減る)。もっとも基準値の引き下げは、大半の加盟国が採用している水準に 一三二

(20)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一三三 EUの規制を合わせたにすぎない ₅₄

。 第二に透明性指令は、五%から三〇% ₅₅

までは五%ごとに基準値を設けることにした。三〇%の株式(正確には議決権)の取得は会社支配の獲得を意味する ₅₆

。透明性指令は、五%

三〇%の間は株式保有状況についての情報開示を強化しており、それによって、投資家は支配権変動の可能性を示す情報を頻繁に得ることができる。

 四 指令の限界 一1で述べたとおり、(開示規制と実体的規制

従属会社の少数派株主保護を図る法規制(注(

。一いと)照参3三章第よいならなはてし使う(う制ないなも定るす約規を利権のてしと主株 い含まれてまない。た制は明規的体実はに令指性透 通、り知を行を利権の式株限いなのし知通履行を確保するため、 に。たっな))な旧、後そ。たっに明令指性明透旧(透の性九参2二(指以条下令、指令は照透明性 九が規示開ちうの案令指制に第るす関に合結業企)む独単情で分令指示開の報をるす関処、は又得取量大の式株場上含

31 ―

方両の)照参)

第三章 ドイツ証券取引法にもとづく開示制度

 一 概要 ドイツ証券取引法は、その株式が組織された市場で取引されることが認められた発行者の株式 ₅₇

の取得又は処分により、議決権割合が一定の値に到達、超過又はそれを下回った者に発行者への通知義務を課し(二一条一項。三を参照)、通知を受領した発行者は遅滞なくその情報を公表するよう規定する ₅₈

(八を参照)。

一三三

(21)

(   )同志社法学 六五巻一号一三四EUにおける大量保有開示規制

 証券取引法は、二一条一項にもとづく通知義務だけでなく、二五条一項・二五a条一項 ₅₉

にもとづく通知義務についても規定する(五・六を参照)。 二一条一項にもとづく通知の履行を確保するため、証券取引法は、通知義務を負う者が所有する株式の権利について、その者が通知義務を履行しない間、株式の権利は存在しない旨規定する(九を参照)。

 二 発行者による議決権総数の開示 内国発行者は、その議決権数に増減が生じた暦月の末日に議決権総数を公表しなければならない(証取法二六a条一文)。

 三 証券取引法二一条一項にもとづく通知

1  通 知 義 務 が 発 生 す る 議 決 権 割 合 ・ 通 知 の 期 限

 ドイツ連邦共和国を加盟本国とする発行者[その株式が組織された市場で取引されることが認められた者(証取法二一条二項)]の株式の取得、譲渡又はその他の方法により、議決権割合が三%、五%、一〇%、一五%、二〇%、二五%、三〇%、五〇%又は七五% ₆₀

に到達、超過又はそれを下回った者(通知義務者 ₆₁

)は、遅滞なく

遅くとも四取引日以内に

その旨を当該発行者および当局に同時に通知しなければならない ₆₂

(証取法二一条一項一文)。 ただし、議決権割合の算定にあたっては、カストディアンが書面又は電子的方法による指図にもとづいてのみ保管する株式に付された議決権を行使する限り、当該株式の議決権は考慮にいれない(証取法二三条二項二号。対応する透明性指令の規定について第二章二2⑵参照)。 一三四

(22)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一三五  また、議決権割合の算定にあたっては、株式保有者が以下の要件をすべて満たす場合、当該株式に付された議決権は考慮にいれない(証取法二三条一項。対応する透明性指令の規定について第二章二2⑵参照)。1.EU加盟国又は欧州経済領域協定締結国の国内に住所を有し、証券業務[証取法二条三項]を提供する企業である。2.自己ポジションで当該株式を保有するか保有する意図を有しており、その議決権割合が五%を超えない。3.当該発行者の経営に影響を及ぼす目的で当該株式の議決権を行使せず利用もしないことを確実にしている。 なお、議決権割合の算定にあたって考慮されない株式の議決権は、二三条二項二号の場合を除き行使することができない(証取法二三条五項)。

2  議 決 権 の 合 算

 二一条一項の通知に関し、ドイツ連邦共和国を加盟本国とする発行者の株式に付された以下の議決権は、通知義務者の議決権に算入する(証取法二二条一項一文)。1.通知義務者の子企業が保有する株式の議決権。2.第三者が通知義務者の計算で保有する株式の議決権。3.通知義務者が担保として第三者に譲渡した株式の議決権(ただし当該第三者が当該株式の議決権を行使する権限を有し、かつ当該議決権を通知義務者から独立して行使する意思を表明している場合を除く)。4.通知義務者のために用益権が設定されている株式の議決権。5.通知義務者の意思表示により取得し得る株式の議決権。6.通知義務者が受託している株式の議決権又は通知義務者が代理人として行使できる株式の議決権 ₆₃

(通知義務者が株

一三五

(23)

(   )同志社法学 六五巻一号一三六EUにおける大量保有開示規制

主からの指図がない場合に自らの裁量により当該株式に付された議決権を行使できる場合)。 また、証券取引法は、①ドイツ連邦共和国を加盟本国とする発行者の株式に付された議決権に関し、通知義務者又はその子企業が、合意又はその他の方法により第三者と協調して行動する場合には、当該第三者の議決権はすべて通知義務者に帰属するものとする。②協調行動となるには、通知義務者又はその子企業と当該第三者とが議決権行使に関し意見が一致するか、発行者の事業方針に対し継続的かつ重要な変更を生じさせる目的をもってその他の方法で協調することが必要である ₆₄

(証取法二二条二項)。

3  通 知 に 記 載 す べ き 情 報

 通知の書式によれば、証券取引法二一条一項の通知義務を負う者が記載すべき情報は次のとおりである。1.上場会社(議決権が付された株式の発行者)の情報(名称・住所など)。2.通知義務を負う者の情報(氏名(名称)・国籍)。3.・通知の理由(議決権付株式の取得又は処分など。該当する空欄をチェック)。  ・基準値を上回ったのか、下回ったのか、到達したのか(該当する空欄をチェック)。4.上回ったもしくは下回った又は到達した基準値(三%、五%、一〇%、一五%、二〇%、二五%、三〇%、五〇%、七五%。該当する空欄をチェック)。5.基準値を上回ったもしくは下回った又は到達した日。6.・直近の通知での議決権割合(整数値 ₆₅

)。  ・基準値を上回ったもしくは下回った又は到達した日の議決権(同一の日における議決権の取得と譲渡を通算して 一三六

(24)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一三七 よい)。議決権数(直接、間接 ₆₆

、合計)および議決権割合(直接、間接 ₆₇

、合計(小数第三位を四捨五入))。7.三%以上の議決権を保有している被支配事業体の名称(証取法二二条一項一文一号による合算の場合)。8.三%以上の議決権を直接保有している株主の名称(証取法二二条一項一文二号

六号又は二二条二項による合算の場合)。

 四 二一条の展開 ドイツでは、一九九四年の第二次資本市場振興法にもとづき、新たに証券取引法が制定され、これによって一九八八年旧透明性指令(大量保有開示規制)の国内法化がようやく実現した ₆₈

。 発行者への通知義務が発生する最低の議決権割合について、証券取引法は、旧透明性指令の一〇%基準ではなく、五%基準を採用した ₆₉

。その後、(二〇〇四年の)透明性指令を実施する法律により、通知義務が発生する最低の議決権割合は引き下げられた ₇₀

(二〇〇七年一月二〇日施行)。 すなわち、ドイツ証券取引法上の開示制度のもとでは、三%以上の議決権を取得した場合、四取引日以内にその旨を発行者に通知しなければならず、通知を受領した発行者は遅滞なくその情報を公表する。このように、証券取引法は、透明性指令の五%基準ではなく三%基準を採用した ₇₁

。買収者の立場からみれば、秘密裏に買い集めることのできる株式の数がさらに減少した。 二〇〇五年、TCI(

T he C hil dr en ’s In ve st m en t F un d

)がドイツ証券取引所によるロンドン証券取引所の買収を断念させ、ドイツ証券取引所の経営者を解任においこんだ。TCIとあるヘッジ・ファンド(アティカス・キャピタル)が協調行動をとっていたのではないか、そうであれば義務的買付け(注(

56

あかいなはでのたっが)要必るすを)照参、

一三七

(25)

(   )同志社法学 六五巻一号一三八EUにおける大量保有開示規制

ということが問題になった。連邦金融監督庁は、協調行動は議決権行使に関する事柄に限られる、株式の共同取得は、取得者が対象会社に長期的影響を及ぼそうという意図がない限り協調行動にならないとした。 二〇〇八年のリスク制限法は、買収法だけでなく証券取引法上の協調行動についても見直し、その概念を拡大させた(同年八月一九日施行)。すなわち、通知義務者と第三者とが、発行者の事業方針に対し継続的かつ重要な変更を生じさせる目的をもって協調する場合にも、協調行動をとっていることになった(証取法二二条二項二文。二二条二項について三2参照)。 なおリスク制限法により、注(

。よした発行に者って公表される な〇〇二(たっばにとこいならな年九)。五情領受を知通も報の月こけ行施日一三れなもつ知通てし対に者行発してい

62

%〇一を議権決述、りおとたべ上で以)取おに金資得取びよ的得目得、は者たし取  五 証券取引法二五条一項にもとづく通知

1  通 知 義 務 の 発 生

 ドイツ連邦共和国を加盟本国とする発行者の発行済の議決権付株式を、法的拘束力のある合意により一方的に取得する権利を付与することになる金融商品又はその他の商品を直接又は間接的に保有する者は、二二条一項一文の定める基準値(三%を除く)に到達、超過又はそれを下回った場合、二二条一項一文の規定するとおり、遅滞なく、その旨を当該発行者および当局に同時に通知しなければならない ₇₂

(証取法二五条一項一文)。 一三八

(26)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一三九

2  通 知 に 記 載 す べ き 情 報

 通知の書式によれば、証券取引法二五条一項の通知義務を負う者が記載すべき情報は次のとおりである。1.上場会社(原株式の発行者)の情報(名称・住所など)。2.通知義務を負う者の情報(氏名(名称)・国籍)。3.・通知の理由(金融商品又はその他の商品の取得又は処分など。該当する空欄をチェック)。  ・基準値を上回ったのか、下回ったのか、到達したのか(該当する空欄をチェック)。4.上回ったもしくは下回った又は到達した基準値(五%、一〇%、一五%、二〇%、二五%、三〇%、五〇%、七五%。該当する空欄をチェック)。5.基準値を上回ったもしくは下回った又は到達した日。6.合計議決権割合および議決権数(7①・②の合計)。7.議決権割合についての詳細。 ①証券取引法二五条:金融商品又はその他の商品による議決権割合および議決権数(間接的議決権所有割合および議決権数)。 ②証券取引法二一条・二二条:議決権所有割合および議決権数。(金融商品又はその他の商品のみ保有の場合は、ゼロと記載する。)8.金融商品又はその他の商品についての詳細。 ・金融商品又はその他の商品を通知義務者の子企業が保有する場合は、被支配事業体の名称をすべて記載する。 ・行使期間・満期日。

一三九

(27)

(   )同志社法学 六五巻一号一四〇EUにおける大量保有開示規制

六 証券取引法二五a条一項にもとづく通知

1  通 知 義 務 の 発 生

 二五条によって捕捉されず、その保有者がドイツ連邦共和国を加盟本国とする発行者の発行済の議決権付株式を取得することを可能にする金融商品又はその他の商品を直接又は間接的に保有する者は、二二条一項一文の定める基準値(三%を除く)に到達、超過又はそれを下回った場合、二二条一項一文の規定するとおり、遅滞なく、その旨を当該発行者および当局に同時に通知しなければならない ₇₃

(証取法二五a条一項一文)。 可能にするとは、次の1又は2の場合のことである(証取法二五a条一項二文)。1.その保有者の取引相手が一文の株式を保有することで当該商品から生じるリスクを消滅又は減少させる場合。2.当該金融商品又はその他の商品が株式取得の権利を与えるか又は株式取得の義務を確定させる場合。 一項にしたがって通知されるべき議決権の合計は、その保有者が当該金融商品又はその他の商品により取得できる議決権付株式(そのような商品でない場合、取引相手が当該商品から生じるリスクを回避するために取得する株式に付与された議決権)の数をもとに算定する(証取法二五a条二項)。 ただし、通知すべき議決権の算定にあたって、EU加盟国又は欧州経済領域協定締結国の国内の証券業者が保有する金融商品又はその他の商品は、多数の顧客への反復継続した業務から生じたものである限り考慮しない(証取法二五a条三項)。

2  通 知 に 記 載 す べ き 情 報

 通知の書式によれば、証券取引法二五a条一項の通知義務を負う者が記載すべき情報は次のとおりである。 一四〇

(28)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一四一 1.上場会社(原株式の発行者)の情報(名称・住所など)。2.通知義務を負う者の情報(氏名(名称)・国籍)。3.・通知の理由(金融商品又はその他の商品の取得又は処分など。該当する空欄をチェック)。  ・基準値を上回ったのか、下回ったのか、到達したのか(該当する空欄をチェック)。4.上回ったもしくは下回った又は到達した基準値(五%、一〇%、一五%、二〇%、二五%、三〇%、五〇%、七五%。該当する空欄をチェック)。5.基準値を上回ったもしくは下回った又は到達した日。6.合計議決権割合および議決権数(7①・②・③の合計)。7.議決権割合についての詳細。 ①証券取引法二五a条:同条の金融商品又はその他の商品による議決権割合および議決権数(間接的議決権所有割合および議決権数)。 ②証券取引法二五条:同条の金融商品又はその他の商品による議決権割合および議決権数(間接的議決権所有割合および議決権数)。(証券取引法二五a条の金融商品又はその他の商品のみ保有の場合は、ゼロと記載する。) ③証券取引法二一条・二二条:議決権所有割合および議決権数。(証券取引法二五a条の金融商品又はその他の商品のみ保有の場合は、ゼロと記載する。)8.証券取引法二五a条の金融商品又はその他の商品についての詳細。 ・金融商品又はその他の商品を通知義務者の子企業が保有する場合は、被支配事業体の名称をすべて記載する。 ・金融商品又はその他の商品の名称および満期日。

一四一

(29)

(   )同志社法学 六五巻一号一四二EUにおける大量保有開示規制

七 二五条・二五a条の展開

隠れた持分の問題への対応 二〇〇四年の透明性指令は、規制市場での取引が認められた発行済の議決権付株式を契約にもとづきその保有者の裁量のみにより取得する権利を付与することになる金融商品の保有者に通知義務を課すことにした。 ドイツは、(二〇〇七年一月二〇日施行の)透明性指令を実施する法律により、証券取引法二五条で、ドイツ連邦共和国を加盟本国とする発行者の発行済の議決権付株式を、法的拘束力のある合意により一方的に取得する権利を付与することになる金融商品を直接又は間接的に保有する者に通知義務を課すことにした(五%基準)。 株式で二・九九%、金融商品で四・九九%の議決権を保有する場合、通知の必要はなかったが、リスク制限法は、株式と金融商品の議決権割合を合計して通知義務の有無を判断しなければならないことにした ₇₄

(二〇〇九年三月一日施行)。 現金で決済される金融商品は(そのような金融商品の保有者だからといって実際に株式を取得する権利を有するわけではないので)前述の証券取引法二五条の対象外である。ドイツではそのことを利用した事件が起こった。 ポルシェ対フォルクスワーゲン事件 ₇₅

で、ポルシェは、現金決済の金融商品が開示規制の対象にならないことを利用し、巨額の利益を得た。事件の概要は次のとおりである。二〇〇七年三月、ポルシェはフォルクスワーゲン(VW)株を三〇%以上所有するにいたった。ポルシェにはVWの全株主に対して買付申込をする義務が生じた。ポルシェの提示した買付価格(一〇〇・九二ユーロ:過去三カ月の市場価格の平均)は時価よりも低かったので、このオファーへの応募はほとんどなかった。 その後、ポルシェはVW株の買い増しを進めた。二〇〇八年一〇月二六日ポルシェは、VW株の保有割合が四二・六%になったこと、このほかにも三一・五%の普通株に相当する現金決済のオプションを保有していることを明らかにし、 一四二

(30)

(   )EUにおける大量保有開示規制同志社法学 六五巻一号一四三 VW株の保有割合を七五%まで増加させると発表した。 ポルシェ以外にニーダーザクセン州が二〇%のVW株を保有しているので、流通しているVW株は六%に満たないことになる。 VWの株価が下落すると予想して約一三%の株式について空売りをしていた投資家は、ポルシェの発表を受け、いっせいにVW株を取得したためVWの株価は急騰した(一〇月二四日(金曜)の終値は二一〇・八五ユーロだったのに対し、一〇月二八日の終値は九四五ユーロ)。 現金決済の金融商品が開示規制の対象にならないことを利用し、市場を混乱させ株価を高騰させたポルシェは、五%のポジションについて現金決済をして巨額の利益を得た。 シェフラー対コンチネンタル事件 ₇₆

でも、現金決済のエクイティ・デリバティブが開示規制の対象外だったことが問題になった。シェフラーは(コンチネンタル株について二〇〇八年七月三〇日に現金を対価とする公開買付けをする前に)トータル・リターン・エクイティ・スワップ(TRS)においてロング・ポジションをとることによって実質的に三六%の持分を有していたといえるのに ₇₇

、そのことは開示されていなかった。 事件の概要は次のとおりである。シェフラーは、①二・九七%の株式、②四・九五%の株式に相当する現物決済のスワップ及び③二八%の株式に相当する現金決済のエクイティ・スワップを保有していた。②について保有が五%未満であれば通知は不必要である。①②で合計すると約八%だが当時は通知の必要はなかった。 ③につきシェフラーはメリルリンチとの間で、コンチネンタル株に関する現金決済のTRS契約を締結し、二〇〇八年五月二三日までにはコンチネンタル株の約二八%に相当するほどのポジションをとっていた。メリルリンチは、ショート・ポジションのリスクヘッジのため、投資銀行に株式を取得させ(八つの投資銀行がそれぞれ三%未満を取得)、

一四三

(31)

(   )同志社法学 六五巻一号一四四EUにおける大量保有開示規制

また自らも株式を取得していた。 二〇〇八年七月一一日(金曜)、シェフラーはコンチネンタル側に、株式を四九%まで取得したい旨を伝えた。七月一四日(月曜)、コンチネンタルはシェフラーからの買収提案について公表した。七月一五日、シェフラーはコンチネンタル株の公開買付けを発表した。 連邦金融監督庁は、前述したシェフラーのスキームについて調査を開始したが、シェフラーには義務的買付けをする義務はなかったし、通知義務違反もなかったと結論づけた ₇₈

(八月二一日)。 シェフラーは公開買付けを発表する前に二八%のコンチネンタル株に相当するTRSを保有していたが、シェフラーがスワップの原株式を保有していたといえるのは、金融庁が以下のような契約

すなわち⒜シェフラーの代わりにメリルリンチ又は第三者がコンチネンタル株を保有していたこと(証取法二二条一項一文二号参照)、⒝シェフラーは一方的宣言によってコンチネンタル株を取得できたこと(二二条一項一文五号参照)、又は⒞議決権を共同して行使すること(二二条二項参照)に関する契約

があったことを証明できた場合に限られる。金融庁は、たとえば、メリルリンチがシェフラーと協調行動をとっていたのか、又はリスクヘッジのため取得していた株式を公開買付時に引き渡すことになっていたのか確認することができず、そのような契約があったことを示す証拠を見つけられなかった。 以上のような問題に対処するものとして、投資家保護の強化および資本市場の機能の向上に関する法律により、二五a条が創設された(二〇一二年二月一日施行)。 また同法律により、その保有者に通知義務を生じさせる金融商品に関して、二五条一項一文の文言は、﹁ドイツ連邦共和国を加盟本国とする発行者の発行済の議決権付株式を、法的拘束力のある合意により一方的に取得する権利を付与することになる金融商品又はその他の商品﹂になった。証券取引法上、金融商品(二条二b項参照)はせまく定義され 一四四

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