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(1)

米国におけるソフトウェア契約について(一) : 契 約成立、契約条項の開示・強制、保証についての議 論を中心として

著者 川和 功子

雑誌名 同志社法學

巻 66

号 5

ページ 1391‑1416

発行年 2015‑01‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015220

(2)

    同志社法学 六六巻五号一〇三一三九一

――契約成立、契約条項の開示・強制、保証についての議論を中心として――

           

     

 

 1

 

 2

 

 3

 

 4

 

 5

 

6    

(3)

    同志社法学 六六巻五号一〇四一三九二  

一  はじめに   本稿は米国におけるソフトウェア契約について、二〇〇九年にアメリカ法律協会(

A m er ic an L aw In st itu te

、以下、ALI)が承認した

P rin cip le s o f t he L aw o f S of tw ar e C on tr ac ts

(以下、ALIソフトウェア契約法原則) 1

について主に、適用範囲、契約の成立、契約条項の開示、強制可能な契約条項、契約条項の変更、明示の保証の成立と排除および制限、譲渡人が認識しない重大な隠れた瑕疵がないことの黙示の保証に関する問題を取り上げて論じる 2

  ソフトウェア、ハードウェア及びデジタル・コンテンツを含むいわゆるコンピュータ情報取引

)3

に関する法としては、全米統一州法委員会議(

N at io na l C on fe re nc e of C om m iss io ne rs U nif or m S ta te L aw

、以下、NCCUSL)の起草した統一コンピュータ情報取引法(

U nif or m C om pu te r I nf or m at io n T ra ns ac tio n A ct

、以下、UCITA)が存在しており、一九九九年に採択され、その後二〇〇一年、二〇〇二年に改正がなされている。しかしながら、後述する様に、UCITAはソフトウェア産業の側に有利な規制であると批判され、UCITAを採択した州はヴァージニア州とメリーランド州の二州にとどまり、NCCUSLも州での採択促進活動を断念するに至っている 4

。とはいえ、この法はコンピュータ情報取引における重要論点についての議論を深めることに貢献した 5

。ALIソフトウェア契約法原則はこの議論を踏まえ、ライセンサーに有利な法であると批判されるUCITAと異なり、ユーザーと供給者側のバランスをはかった規制を提案する方向性を追求した。

  ソフトウェア取引を巡り特に議論されることの多い問題として、目的物と適用法規の確定、契約成立前の条項の開示、

(4)

    同志社法学 六六巻五号一〇五一三九三 契約の成立、目的物の使用制限、目的物の品質保証、与えられる救済の制限、連邦法である知的財産権法と州法である契約法との関係等があげられる 6

。ALIソフトウェア契約法原則を作成するにあたり、再考されたこれらの議論は、直接的には経済産業省による﹁電子商取引及び情報財取引等に関する準則﹂の情報財の取引等に関する議論に関連するだけでなく、民法(債権関係)改正における、﹁消費者と事業者との間で締結される契約(消費者契約)のほか情報の質及び量並びに交渉力の格差がある当事者間で締結される契約﹂に関する信義則等の適用にあたり、格差を考慮するかどうかについての議論 7

、契約締結過程における情報提供義務 8

、錯誤と不実表示 9

、約款・約款の組入要件・約款の内容の開示 ₁₀

、不意打ち条項 ₁₁

、約款の変更 ₁₂

についての議論などと共通する点があり、何らかの示唆を得ることができると考える。

  本稿の構成は以下のとおりである。まずは、UCITAの経緯について紹介し、二〇〇九年にALIが承認したALIソフトウェア契約法原則の内容について、適用範囲、契約の成立、契約条項の開示、強制可能な契約条項、契約条項の変更、明示の保証の成立と排除および制限、譲渡人が認識しない重大な隠れた瑕疵がないことの黙示の保証に関して、統一商事法典(

U nif or m C om m er cia l C od e

、以下、UCC)第二編、UCITAとの相違点について言及しつつ検討する。次に﹁電子商取引及び情報財取引等に関する準則﹂について、特に関連する部分について言及した後、米国の動向と民法(債権関係)改正も含む日本の状況を踏まえて概観、検討する。

二  UCITAについての経緯   UCITAの前身であるUCC第二B編は、NCCUSLとALIにより、UCC第二編における物品売買についての規定を基礎に作成された ₁₃

(5)

    同志社法学 六六巻五号一〇六一三九四

  第二編は明示、または黙示の保証、損害賠償などの面で明確な規定を有しており ₁₄

、マグヌソン・モス保証法(

M ag un us on -M os s W ar ra nt y F ed er al T ra de C om m iss io n I m pr ov em en t A ct

)などの連邦法と共に、契約当事者の地位の不均衡がある場合の不当な契約内容を規制する約款規制立法の役割も担ってきた ₁₅

。第二編の適用は、当事者にとって適用法規についての予測可能性という点においても有益である。

  第二編は物品の提供と役務の提供が混在しているものの、物としての性質も有するコンピュータ情報の取引に関わる多くのケースに適用されてきた。米国の多数説によれば、物品と役務の双方の要素を含んだ契約については、物品の契約あるいは役務提供契約の部分のいずれかが支配的であるかにより、物品の売買契約に関する法か、役務の提供に関する法のどちらかの法が単一の適用法となる。 ₁₆

ハードウェアと組み合わされたソフトウェアの売買の取引については、役務を提供するのみの契約である場合を除いて、第二編の適用がなされる場合が多い ₁₇

。物品の提供契約についてはUCC第二編に従って、商品性についての黙示の保証や特定目的に適合する黙示の保証の規定が適用される。他方、コモン・ロー上の原則によると、役務の提供者は、合理的な技能と注意、勤勉さをもって手際良く(

w or km an lik e m an ne r

)役務を提供することが義務づけられている ₁₈

。この場合、提供される目的物の品質自体に関わる黙示の保証は存在しない。さらにコンテンツとして電子情報が取引される場合について、コンテンツ自体の誤りに関する保証は特にその正確性を保証したのでない限り存在しない ₁₉

。このように多様な側面を有するコンピュータ情報の取引に対する適用法規について、あるいは産業界において実務上採用されてきたシュリンク・ラップ契約、クリック・ラップ契約といった形式の契約の成立や解釈の問題について明確にするため、コンピュータ情報取引に適用される法の起草が行われたのである。

  当初NCCUSLとALIは共同委員会(

jo in t c om m itt ee

)を組織し、UCC第二B編の適用範囲として、ソフトウェアのライセンス契約、ソフトウェアの複製の売買、ソフトウェアの開発契約、オンラインおよびインターネット取

(6)

    同志社法学 六六巻五号一〇七一三九五 引におけるアクセス契約、データ、テキスト、イメージ等の情報のライセンスを取り扱っていた。第二B編は、これらの取引における一般公衆に同様の契約条件で提供されるマスマーケット・ライセンスの規定、クリック取引(

cli ck - th ro ug h tr an sa ct io n

)による契約の成立、黙示、明示の保証、目的物の受領と拒絶、損害賠償、救済などについて定めている ₂₀

。しかしながら、一九九九年、ALIは、第二B編の範囲と一貫性、明確性についての懸念が生じたことを理由にこのプロジェクトから手を引くことになり、第二B編は統一商事法典の枠内から外れて、統一法として起草されることとなった ₂₁

  第二B編への反対説の代表的なものとして、知的財産権法との関連における問題点を指摘した

M cM an is

教授のALI会員に対する動議 ₂₂

、同意に関する規定が、契約の作成者に法を規制する権限を付与することとなるという問題点を指摘した

B ra uc he r

教授と

L in ze r

教授の動議 ₂₃

があげられる。

B ra uc he r

教授と

L in ze r

教授の動議は、第二B編の標準書式契約への同意に関する規定につき、標準書式の作成者であるライセンサーに有利な形で契約自由を害するものであるとする。そして、顧客は標準書式契約条項の詳細について知らなくても、通常、標準書式契約に拘束されるが、知らない、合理的な期待の範疇から外れる条項については拘束されないという、第二次契約法リステイトメントのアプローチは放棄されるべきでないとする ₂₄

。さらにこの動議は、一九九八年四月一五日の草案 ₂₅

について、条項が購入後に提示される実務を有効にし、保証、救済条項について、競争を阻害し、合理的な予測範囲外の条項を課すことを許容し、連邦法である知的財産権法によって保護されてきた情報の使用について、日常的に契約上の制限を課すものであると主張する ₂₆

  その後、統一商事法典の枠内から外れて統一法として起草されることとなったUCITAについても、各州の司法長官、学者、消費者・図書館の団体などから、規定がソフトウェア産業の側に立っているなどの批判が寄せられた ₂₇

。具体的にはライセンシーが支払いをし、またはライセンス契約に拘束される前に、すべての条項の開示がなされないこと、

(7)

    同志社法学 六六巻五号一〇八一三九六

契約締結後に提供される条項を有効とすること、ライセンシーに対し、ライセンサーが許諾する権利を明示しなければ、使用の権利が与えられないこと、複製物の移転に関して制限を課すことを許容するものであること、技術革新と競争を脅かす標準書式契約における条項の不公正条項に対する規制について非良心性、公序といった原理に委ねていることなどが批判された ₂₈

  一九九九年にUCITAはNCCUSLによって採用されたものの、UCITAを採択した州はヴァージニア州 ₂₉

とメリーランド州 ₃₀

の二州にとどまり、逆に

bo m bs he lte r

法といわれ、州民をUCITAの適用から保護する規定がアイオワ州、ノースカロライナ州、ウエストヴァージニア州、バーモント州で採用されるにいたる ₃₁

という状況となっている。いくつかの改正を行った後も、UCITAに対する批判はおさまらず、NCCUSLは二〇〇三年八月には州に法を採択するように働きかける試みを断念すると公表した ₃₂

。UCC第二B編、UCITAは供給者側の立場をより保護するアプローチを採用し、知的財産権法などで保護され得るコンピュータ情報に関わる法について、供給者とユーザーの双方の利益のバランスをとりながら、知的財産権法、契約法、消費者保護法、競争法などの本旨に反することなく、明確な形で適用法を定めるという要請に応えることができなかったと批判され、法は広く受け入れられなかった。ALIソフトウェア契約法原則はこれらの問題を踏まえ、より、供給者とユーザーの双方の利益のバランスをはかる方向での提案を行うものである。

(8)

    同志社法学 六六巻五号一〇九一三九七 三  ALIソフトウェア契約法原則  

1

目的、経緯、適用範囲   ALIソフトウェア契約法原則は二〇〇九年にALIの会員によって承認された。その目的は﹁ソフトウェア取引法の明確化と統一をはかる﹂ことであるとされる ₃₃

。ALIは、ソフトウェア取引の問題点として、﹁ソフトウェア取引の性質﹂、﹁契約成立に関する現在の実務の適法性とそれらの実務が契約を規律する条項の確定に与える影響﹂、﹁連邦知的財産権法と州法に規律される私的な契約の関係﹂、﹁品質、救済、及びその他の権利についての契約条項の妥当性﹂があり、さらに、﹁UCITAがほぼ活動停止していること及び(おそらくは広く採択されないであろう)改正第二編の適用範囲についてのあいまいさが一層の混乱を招き、現在の法的な空洞に注意を向けさせている﹂とする ₃₄

  ソフトウェア産業の経済における重要性に鑑み、﹁ソフトウェア取引の当事者がこの分野の法についての明確化と改良から大いなる利益を得る﹂であろうこと、﹁ソフトウェア技術が継続して発展していき、それがビジネスの方法に影響を与え、新しい法的課題を変更または生みだしていく﹂ことから、現時点で法をリステイトすることはまだ早いものの、﹁法が未来の発展に適応することを妨げることなく、ケース・ローを説明し、最も良い実務を推奨﹂することが原則の目的として意図されている ₃₅

。もちろん、裁判所が承認しなければ、ALIソフトウェア契約法原則はどの管轄地においても法として機能するものではない ₃₆

  ALIの過去の原則の例としては、一九九四年のコーポレートガバナンス原則:分析及び勧告(

P rin cip le s o f C or po ra te G ov er na nc e: A na ly sis a nd R ec om m en da tio ns

)、二〇〇二年の家族解消についての法原則:分析及び勧告(

P rin cip le s o f t he L aw o f F am ily D iss olu tio n: A na ly sis a nd R ec om m en da tio ns

)等が存在する ₃₇

(9)

    同志社法学 六六巻五号一一〇一三九八

  ALIソフトウェア契約法原則は、約因と引換えに移転されるソフトウェアの契約に適用される。ALIソフトウェア契約法原則は第一・〇六条⒜によると﹁売買、リース、ライセンス、アクセス、またはその他ソフトウェアを移転またはシェアする契約を含む﹂、﹁約因を備えるソフトウェアを移転する契約﹂に適用される ₃₈

。﹁ソフトウェアを格納するディスク、CD

こよたれさ定限りを囲物的目、でと範にるチとるす用採をー設ロプアるす定す ₃₉ 〇条⒥に規定されるソフトウェアではなく適用範囲に含まれない、一・デジタベースなどのデタ一ル・コンテンツは第ー

-R

M条〇・一第、と﹂アィなデメな的形有のど一O⒡ー・ルタジデはたまトアにルタジデるれさ定規・

。実用的な機能を有しない、デジタル・データベースなどのデジタル・コンテンツについて適用範囲から外すのは、ソフトウェアは、表現芸術(

ex pr es siv e ar t

)と実用的な発明(

ut ilit ar ia n in ve nt io n

)が混合したものであり、従来から存在する知的財産の種類に収まらないこと、創作に多額の資金がかかり、実用性を有するものの、複製と頒布が容易であること、これらの性質が、所有権とユーザーの権利を調整することに関連して困難な法的課題を生んでいることから、ソフトウェアの取引について、契約からのアプローチが有用であるとの説明がなされる ₄₀

  第一・〇七条は、物品に格納されているソフトウェアであれば、合理的な譲渡人が、譲受人が取引する支配的な目的がデジタル・コンテンツまたはサービスを取得することでない、ということを信じるであろう場合にALIソフトウェア契約法原則が適用されるとする ₄₁

。物品に格納されていないソフトウェアおよび物品、デジタル・コンテンツ、サービスが混在している混合契約 ₄₂

については、支配的目的(

pr ed om in an t p ur po se

)テストを採用し、ソフトウェアの移転が支配的目的である場合にはALIソフトウェア契約法原則が適用される。また、物品に格納されていないソフトウェアに、デジタル・コンテンツおよびサービスが含まれる取引においては、合理的な譲渡人が、譲受人が取引する支配的な目的がデジタル・コンテンツまたはサービスを取得することであると信じるであろう以外の場合に、ALIソフトウェ

(10)

    同志社法学 六六巻五号一一一一三九九 ア契約法原則が適用される ₄₃

  他方、UCITAは、コンピュータ情報もしくはコンピュータ情報に関する権利の創作、修正、移転またはライセンスを目的とした合意とその履行を意味する、コンピュータ情報取引に適用される ₄₄

。具体的には、コンピュータ・プログラムまたはマルチメディア製品、ソフトウェアおよびマルチメディア開発契約、プログラム上の情報を使用するための契約、ならびにアクセス契約等のライセンス、移転、複製または売買等に適用される ₄₅

。物品の売買、金融サービス取引、映画、放送、印刷された書籍についての契約、専門家の役務提供などについては適用範囲から除外される ₄₆

。取引にコンピュータ情報および物品が含まれる場合には、物品の売買またはリース取引に関わる部分には、第二編または第二A編が適用され、コンピュータ情報と、その創作、変更、アクセス、移転に関わる合意の部分についてはUCITAが適用されるとする、

“g ra va m en o f t he a ct io n st an da rd ”

が採用される ₄₇

。つまり、コンピュータ情報と物品を含む取引については、コンピュータ情報に関わる取引についてUCITAが適用され、物品に関わる取引については第二編が適用される。しかし、例外として、コンピュータ・プログラムの複製物が物品に組み込まれて売買またはリースされる場合の混合契約については、組み込まれている物品がコンピュータやコンピュータ機器である場合、または、物品の買主や借主に対してプログラムへのアクセスや使用を可能にすることが、そのような種類の物品が売買またはリースされる取引において、通常、重要な目的である場合には、UCITAが適用される ₄₈

  UCITAは物品の売買、役務提供、情報コンテンツの提供といった三つの法体系を取り込むものである。第一の法体系である物品の売買については、製品の品質に焦点をあて、その種類の製品が通常の標準に適合するという黙示の保証についての規定が置かれる ₄₉

。第二の法体系であるライセンス契約、サービス契約、情報契約に関するコモン・ローの体系においては、結果よりも過程、履行の努力に焦点があてられ、仕事が手際良く履行される標準を確立するものであ

(11)

    同志社法学 六六巻五号一一二一四〇〇

₅₀

。第三の法体系は役務、情報コンテンツの契約に関わるコモン・ロー上の体系で、特別な信頼関係が存在しない場合、情報の正確さについての黙示の義務を課さないものである ₅₁

  知的財産権法との関連については簡略に記載するにとどめるが、ALIソフトウェア契約法原則は、第一・〇九条において、﹁連邦知的財産権法における強制﹂について定め、﹁強行法規である連邦知的財産権法に抵触する場合﹂ ₅₂

、﹁連邦知的財産権法の目的と政策に、認容することができない程度に抵触する場合﹂ ₅₃

﹁権利侵害手続き(

in fri ng em en t pr oc ee din gs

)において、連邦知的財産権の濫用を構成する場合﹂ ₅₄

の合意の条項は強制できないと定める。ALIソフトウェア契約法原則のレポーターであるコーネル大学の

H illm an

教授は ₅₅

、強行法規である連邦知的財産権法に抵触しない限り、契約の自由が尊重されること、抵触の程度は異なることを踏まえ、﹁提供者に対し、連邦法を撤回または日常的に変更することを奨励しそうな﹂条項については、強制できないとする。さらに、例えば、エンド・ユーザーがリバース・エンジニアリングを禁止する条項を無視することができるか否かについては、﹁当事者がその取引を売買またはライセンスといったラベルを貼ったかどうかに依拠するのではなく、取引の真の実体及び契約条項そのもの﹂に依拠することとなるとする。合意に基づく法的権利について、当事者が与えた取引に関する売買またはライセンスといったレッテルではなく、契約プロセスの正当性、連邦知的財産権法、州の公序、または非良心性に照らした判断がなされることとなる ₅₆

  UCITAにおいても、第一〇五条⒜において﹁連邦法に先占されるものは、その先占される範囲で強制できない﹂との規定が置かれる ₅₇

。コメントは、特定の契約条項について直接規制する規定がない限り、著作権法または特許法による契約の一般的な先占は生じないとする ₅₈

。さらに、UCITA第一〇五条⒝は、﹁契約の条項が基本的公序(

fu nd am en ta l pu bli c p oli cy

)に違反する場合には、裁判所は、その契約の強制を否定すること、契約のうち認容できない(

im pe rm iss ib le

(12)

    同志社法学 六六巻五号一一三一四〇一 条項以外の部分を強制すること、または公序に反する結果を回避するために認容できない条項の適用を制限することができる。ただし、公序により条項を強制しないことが、強制することの利益を明らかに上回る場合に限る﹂と、基本的公序について規定している ₅₉

。第一〇五条⒜の規定については、先占の範囲を狭くとらえるものであるとの指摘がなされる。また、基本的公序の規定については、連邦法とその政策が関わる条項についても、その条項を強制しないことが、﹁強制することの利益を明らかに上回る場合﹂に限り条項の適用を制限することになるという解釈を裁判所が採用した場合、連邦法規優越条項(

su pr em ac y c la us e

)が軽んじられることとなるとの批判がなされている ₆₀

 

2

契約の成立と強制について   ALIソフトウェア契約法原則第二・〇一条は、交渉を経たソフトウェア契約(

ne go tia te d so ftw ar e ag re em en ts

)および標準書式契約(

st an da rd -fo rm a gr ee m en ts

)の成立と強制について規定し、第二・〇二条は、第一・〇一条⑴において定義される、一般に入手可能なソフトウェアの標準書式契約について規定する。第二・〇一条における譲受人は洗練された事業者であったり、小規模であって洗練されていない事業者であっても、大量の、またはカスタム仕様のソフトウェアを取引することから、標準書式契約の重要性について認識していると考えられるため、契約へのアクセスを主張したり、書式を読み理解し、より良い条項について交渉することも期待される ₆₁

。このことから第二・〇一条における譲受人の場合には、第二・〇二条における標準書式契約が強制可能になるための特別な規定は必要ないとされる ₆₂

。第二・〇二条における標準書式契約についての規定は、ソフトウェアが一般公衆(

ge ne ra l p ub lic

)に対して、実質的に同じ条項によって入手可能な場合に適用され、小売販売において少量の取引がなされる場合においては、譲受人は消費者に限られず、大規模なビジネスユーザであっても適用されることとなる。これは第二・〇二条の適用を消費者に限定

(13)

    同志社法学 六六巻五号一一四一四〇二

することは、インターネット上でソフトウェアをダウンロードする、実質的に消費者と同じ立場である小規模ビジネスに酷であるという考え方による ₆₃

  第二・〇一条⒜は﹁契約は、合意を示すに足りるいかなる方法によっても成立させることができ、その方法は、申込及び承諾、または行為も含む﹂とする ₆₄

。﹁一以上の条項が未定である場合でも、違反の際適切な救済を与える合理的で確実な根拠が存在する場合﹂、または、﹁当事者の記録が異なる場合であっても﹂契約は成立する可能性がある ₆₅

  このようにALIソフトウェア契約法原則は一つ以上の条項が未定である場合でも﹁契約は、合意を示すに足りるいかなる方法によっても﹂成立するとして、UCC、リステイトメントを踏襲する ₆₆

。さらに、当事者の記録が異なる場合、契約条項は、﹁記録に残されているか否かにかかわらず、両当事者が合意した条項﹂、﹁両当事者の記録に表示(

ap pe ar

)される条項﹂、およびALIソフトウェア契約法原則、またはその他の法により補充されるものとなる ₆₇

  ALIソフトウェア契約法原則第二・〇一条コメントは、契約がいかなる方法においても成立することができるとすると、契約締結前の交渉および予備的な草案(

pr eli m in ar y dr aft

)と、強制可能な合意を区別することが重要となるとする ₆₈

。コモン・ローにおいては、客観的なテストが採用され、﹁契約法は、一般的に、必ずしも実際の意図ではなく、当事者の外観上の意図を強制する﹂とする。当事者の契約は﹁主観的に信じることに基づくのではなく、状況が指し示すことに基づき﹂成立するとし ₆₉

、第二・〇一条⒜のアプローチはコモン・ローと首尾一貫しているとする ₇₀

。強制可能な合意と契約締結前の条項の記録(

pr e- co nt ra ct m em or ia l o f t er m s

)を区別する要素としては、﹁合意の文言(

la ng ua ge

)(コミットメントを明示しているか)﹂、﹁詳細の程度(詳細であればあるほど当事者が拘束されることを意図している)﹂、﹁ソフトウェアの種類と価格(ソフトウェアが複雑なもので価値があれば、当事者が拘束される前に条項を明確にするであろう)﹂、﹁非公式及び公式なネゴシエーション双方における当事者の声明及び行為﹂、および﹁その他関連する事柄﹂

(14)

    同志社法学 六六巻五号一一五一四〇三 があげられる ₇₁

  人々が署名する前に標準書式契約を読まないことはよく知られているが、電子商取引における標準書式契約の場合においても同様に契約は読まれないことが指摘される ₇₂

。とりわけ製品の価格、説明についての情報以外の品質保証、製品に関する情報についてはほとんど読まれず、従って、有利な契約条項を積極的に選択することもなく ₇₃

、標準書式契約を自動更新する条項、通知なくして条項を変更できる条項、スパイウェアのダウンロードを許可する条項に﹁同意﹂をクリックしてしまう可能性があることなどが指摘される ₇₄

  ALIソフトウェア契約法原則は、この点を踏まえ、標準書式契約においてどのような条項が強制可能であるかという点につき、UCC、UCITAと比較して、供給者側の条項の開示がなされた上で同意がなされることについて配慮した提案を行っていることが特徴的である。条項の開示は、条項を読む機会を増加させるだけでなく、フェアプレーと、基本的なデュー・プロセスの概念にかなうものであるとされる ₇₅

。条項の開示にはあまり費用がかからないゆえに、譲渡人は、標準書式の条項の強制を保証するためにベスト・プラクティスに従うべきであるとされる。条項が開示され、比較されることにより、条項に対する様々な反応について無視することができなくなるため、より公正な条項が作成されることが促進され、条項の品質が価格に反映されるようになることが期待されるとする ₇₆

  一般公衆に対して実質的に同じ条項によって入手可能なソフトウェアについて第二・〇二条⒝は譲受人が標準書式を契約として採用したとされるためには、まず、﹁合理的な譲渡人が、譲受人がその書式に拘束されることを意図していることについて信じるであろう﹂ことが必要となるとする ₇₇

。コメントは、これは契約法一般における契約成立についての客観的テストを採用するものであるとする ₇₈

。さらに、第二・〇二条⒞は譲受人が標準書式を契約として採用したとされるためには、一、ソフトウェアの移転の開始(

in iti at io n of th e tr an sfe r

)の前に、﹁標準書式に、電子的なアクセス

(15)

    同志社法学 六六巻五号一一六一四〇四

をすることが合理的に可能であること﹂ ₇₉

、二、﹁移転の開始に際し、支払いの前、または支払いのない場合には移転が完了する前に、譲受人が標準書式に関しての合理的な通知及びアクセスを得ていること﹂ ₈₀

、三、﹁ソフトウェアの電子的移転の場合には、譲受人が電子標準書式の末尾またはそれに近い箇所に(

at th e e nd o f o r a dja ce nt to

)合意に署名(

sig nif ie s ag re em en t

)すること﹂、または﹁パッケージ化されたソフトウェア上に印刷され、もしくはソフトウェアに付属され、またはソフトウェアから分離されて包装された標準書式については、移転後合理的な期間内に開封されていないソフトウェアについて、全額払い戻し(

fu ll re fu nd

)の機会が行使されていないこと﹂、かつ四、﹁電子的に提示された標準書式が保存及び再製(

re pr od uc e

)可能であること﹂が必要であるとする ₈₁

。このように、ソフトウェアの移転前または支払いの前に、譲受人が標準書式の内容について合理的にアクセスすることが可能であることや電子的移転の場合には署名がなされることが要求される。

  ALIソフトウェア契約法原則コメントは、ソフトウェアの提供者が契約条項を提示してエンド・ユーザーに同意を促すためにいくつかの方法が実務上採用されていることについても言及する。承諾するか取引を止めるかという前提で(

ta ke -it -o r-l ea ve -it b as is

)、シュリンク・ラップ取引においては、ソフトウェアパッケージ上に、もしくはパッケージの内部に条項が提示される方法、またはブラウズ・ラップ取引においては譲受人がソフトウェアを電子的にダウンロードする前に、譲受人が、条項について言及するスクリーンを閲覧すれば、条項が提示される。さらにエンド・ユーザーがソフトウェアを電子的にダウンロードする際に、電子的に提供された条項に﹁同意します﹂とクリックしなければ取引が完了しないといった方法が用いられ(クリック・ラップ取引)、ダウンローディングその他の行為は条項への承諾であるとされる ₈₂

  ALIソフトウェア契約法原則に照らしてこれらの取引について考慮すると、クリック・ラップ取引において標準書

(16)

    同志社法学 六六巻五号一一七一四〇五 式の末尾に署名者が﹁同意する(

ag re e

)﹂とクリックしなければならない取引の完了の方法は、紙面における契約における署名要件と似通っている ₈₃

。しかしながら、コメントは、クリック・ラップ契約の場合においても、譲受人が条項を読み、理解することができるのかといった問題が生じることを指摘する ₈₄

。他方ブラウズ・ラップ契約においては、譲受人は書式を見つけるため﹁ブラウズ﹂しなければならないため、条項を強制するための要件を満たすのは困難となる ₈₅

  UCITAにおいても、﹁契約は、合意を示すに足りるいかなる方法によっても成立させることができる﹂との規定が第二〇二条⒜にある ₈₆

。第二〇二条⒝は、﹁当事者がそのように成立を意図している場合には、契約を成立させるに足りる合意は、その成立時に確定していない場合、一以上の条項が未定であるかもしくは将来合意される場合、当事者の記録が他の方法では契約がなされたことを証明しない場合、または一方の当事者が条項を変更する権利を留保する場合であっても、契約を成立させるに足りる合意を認めることができる﹂として、契約条項が未定であったり、将来合意される場合であっても、契約を成立させるに足りる合意を認めることができるとする ₈₇

。さらに、第二〇二条⒞は﹁一以上の条項が未定であるかもしくは将来合意される場合であっても、当事者が契約の締結を意図しており、かつ、適切な救済を与える合理的で確実な根拠が存在する場合、不確定を理由に契約が否定されることはない﹂とする ₈₈

  UCITAは、第二〇八条において記録上の条項の採用について規定し、強制可能な条項について定める。第二〇九条に別段の定めのある場合を除き、第二〇八条⑴は﹁当事者が、同意を表明する等の方法によりその記録に合意する場合には、標準書式を含む記録上の条項を、契約の条項として採用する﹂ ₈₉

とし、第二〇八条⑵は﹁両当事者が、その合意の全部または一部が後に合意される記録により表示されること、かつ履行または使用の開始以前にその記録またはその複製物を検討する機会のないことを知っているのが合理的な場合には、記録上の条項は、履行の開始または使用後、採用され得る﹂として、契約成立後の条項(

la te r t er m s

)の採用について規定する ₉₀

。第二〇八条⑶は、﹁当事者が記録上

(17)

    同志社法学 六六巻五号一一八一四〇六

の条項を採用する場合には、その条項は、当事者の、記録上の個々の条項の知識または理解にかかわらず、契約の一部となる﹂とする ₉₁

。つまり、契約成立後に条項が提示されることについて知っているのが合理的な場合であれば、契約成立後に提示された条項が採用され得ることとなる。第二〇八条コメント三は、契約条項が段階的に確定していくこと(

la ye re d co nt ra ct in g

)が現実であることを指摘し、コメント五はこの規定が第二〇九条の要件を満たせば、マスマーケット・ライセンスにも適用されるとする ₉₂

  第二〇九条は、マスマーケット・ライセンスの条項について﹁当事者が、最初の履行または情報についての使用もしくはアクセスの前またはその間に同意を表明する(

m an ife st in g

)等の方法によってそのライセンスに合意した場合﹂に採用されるとする ₉₃

。条項が非良心的である場合、連邦法により専占される場合、基本的公序に反する場合、当事者が明示的に合意した場合、第一一三条の合意による改変の場合であって、ライセンシーが同意する前に検討の機会を有しなかった場合、ライセンシーが同意した後に、ライセンシーが条項を入手できなかった場合など、条項は強制できないとする ₉₄

。第二〇九条⒝は、﹁マスマーケット・ライセンスまたはそのライセンスの複製物を、ライセンシーが支払義務を負う前に検討の機会を許容する方法では入手できず、かつライセンシーが検討の機会を得た後に同意を表明する等の方法によってそのライセンスについて合意しなかった場合には、ライセンシーは、第一一三条により返却の権利を有する﹂とする ₉₅

。他方、マスマーケット・ライセンス以外の取引において、代金の支払い後や使用開始後の、契約成立後に条項が提示されることについて知っているのが合理的な場合であれば、契約条項について合意しなかった場合であっても、ライセンシーの返却の権利はない。

  ALIソフトウェア契約法原則においてもUCC、UCITAと同様、第一・一〇条に公序(

P ub lic P oli cy

)、第一・一一条に非良心性(

U nc on sc io na bil ity

)の制限についての規定が置かれる ₉₆

。第二・〇二条⒟は、﹁第一・一〇条、第一・

(18)

    同志社法学 六六巻五号一一九一四〇七 一一条及びソフトウェア契約法原則またはその他の法によって無効とする抗弁(

in va lid at in g de fe ns es

)の制限を受ける場合以外には、標準書式は、合理的に理解可能なものであれば強制可能﹂となる ₉₇

。さらに第二・〇二条⒠は、条項の開示や合意がなされていることなどについての第二・〇二条⒝⒞⒟の要件を充たしているかどうかの証明責任は譲渡人にあるとして譲受人の負担を軽減している ₉₈

。これは譲渡人のコンプライアンスを証明するコストを最小化するためだとする ₉₉

  UCITA第一〇五条⒝は、﹁契約の条項が基本的公序に違反する場合には、裁判所は、その契約の強制を否定すること、契約のうち認容できない(

im pe rm iss ib le

)条項以外の部分を強制すること、または公序に反する結果を回避するために認容できない条項の適用を制限することができる。ただし、公序により条項を強制しないことが、強制することの利益を明らかに上回る場合に限る﹂とする 100

。第一〇五条コメント三は、商人同士の合意は有効と推定されるため、第一〇五条⒝の条項から逃れようとする当事者に重い証明責任が課されるとする。ただし標準書式契約マスマーケット取引(

st an da rd -fo rm a gr ee m en ts m as s-m ar ke t t ra ns ac tio ns

)においては、支払の前に書式が入手可能でなく、交渉も経ていないことから、裁判所は、基本的公序を侵さないよう注意深く判断する必要があるとされる 101

 

3

契約条項の変更について   ALIソフトウェア契約法原則第二・〇三条は契約の変更について定める。﹁契約を変更する合意は約因を備えなくとも強制できる﹂とし、契約を変更する合意は﹁申込み及び承諾、並びに、行為を含む合意を示すに足りるいかなる方法によっても成立する﹂とする 102

。このように﹁ソフトウェアの機能と特色における継続的な改善および急速に変化する頒布の方法﹂に鑑みてALIソフトウェア契約法原則第二・〇三条はUCC第二編第二〇九条を踏襲する 103

。しかしなが

(19)

    同志社法学 六六巻五号一二〇一四〇八

ら、変更を強制するためには、変更について合意することが基本となる 104

。ソフトウェアの電子的移転においては、譲受人が変更に関する合理的な電子通知を受け取り、かつ、譲受人が当該電子通知の末尾またはそれに近い箇所に、合意の変更について署名する場合、譲受人は、変更に合意したとみなされる 105

  さらに、第二・〇三条⒟は、当事者は、当事者間の契約において、契約の変更の手続きについて定めることができるとする 106

。しかしながら、当初の契約が当該契約を変更する特定の方法について許容していたとしても、一般的に入手可能な標準書式によるソフトウェアの移転契約においては、一方当事者による、他方当事者への重大な変更についての通知は、他方当事者による合意を証明するのに足りるものではないとする 107

。変更を求める当事者は、譲受人が通知に添付された(

at ta ch ed to th e n ot ic e

)﹁同意する﹂アイコンをクリックしたことなどを証明する必要が生じる 108

。コメントは、合意がなされているかの判断は、客観的なものであり、﹁当事者のどちらかが信じたことではなく、状況が示すものに基づく﹂とする 109

。さらに、変更が強制できるか判断する際に、裁判所は﹁当事者が提案された変更について十分な通知及びアクセスを受け取った﹂か、﹁提案された変更が明確なものであった﹂か、そして、﹁合理的な者が一方当事者が変更に同意する意図があったことを信ずべきかどうか﹂について考慮すべきであるとする 110

。変更の通知については、他方当事者が見ざるを得ないような表示であることが必要とされ 111

、当事者が通知について確実に認識するための配慮がなされている。

  他方UCITAは、契約自由というUCITAの基本的政策に従い、﹁当事者の合意が支配する﹂ため、いくつかの例外を除いて、変更できないと明示的に合意されている場合を除き、契約条項は変更できるとする 112

。これは、自由市場経済における契約法の基本的理論を反映するものであるとされる 113

。第一一五条は契約の合意による変更(

va ria tio n

)について定め、第一一五条⒜は、﹁危険の配分または負担を課すことを含め、当事者の合意によって変更することができる﹂

参照

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