論文要旨
看護学研究科 博士後期課程 広域実践看護学 主研究指導 教員名永井 優子
学籍番号 DN1301 氏名大竹 眞裕美
論文題目中規模精神科病院における教育システムの構築方法に関する研究
~中堅看護師の育成を中核においたアクションリサーチ~ Ⅰ.研究目的 1つの中規模精神科病院において中堅看護師の育成に関する課題解決を中核においた活動に取り組 み、その活動と中堅看護師の実践・教育体制・組織運営の変化を明らかにし、精神科病院における教育 システムの構築方法について検討することを目的とした。 Ⅱ.研究方法 研究デザイン:アクションリサーチ 研究期間:2015 年 1 月~2016 年 10 月 取り組みを行った A 病院での合意形成: A病院は精神科救急・急性期医療に取り組む 4 病棟・180 床の 精神科病院で、研究者は 2013 年度から看護部の教育責任者(以降、教育部長)としての役割を担い、看 護管理者と協力して【課題1:中堅看護師の育成】【課題2:看護職員教育の実施体制の整備】【課題3:看 護部の運営体制の整備】の3つに取り組むことを決定し、2013 年5 月から中堅看護師を育成する教育プロ グラム(以降、中堅育成プログラム)に着手した。 アクションリサーチ(以降、AR)の研究計画と参加依頼: 中堅育成プログラム開始後に看護師の実践に 変化がみられたことから 2014 年度にARとしての計画を開始、2014 年 11 月に看護学研究計画審査会で の承認を得た。2015 年 1 月にA病院理事長の承諾を得た後、看護部長は研究支援者、病棟看護師長 4 名と副師長や教育担当の中堅看護師 6 名が活動推進者として加わり、看護部の3つの課題で達成を目指 す4つの目標(課題3では看護部全体と病棟運営に分け目標を設定)を共有し活動を推進した。 データ収集方法: 教育部長の職務を開始した 2013 年 4 月~2016 年 10 月までをデータ収集対象期間と し、電子カルテで保管されている「看護記録」、教育部長の職務遂行中に書き留めた「活動記録」、委員会 等の「会議録・保管文書」から、看護部の課題に関するデータを収集した。 データ分析方法:①実施した活動は何に主眼がおかれたかが分かる一文で記述し活動名をつけ、活動 の契機・問題と合わせて整理し4つの目標に対応させた番号を付記した。②目標毎の分析作業シートに 『活動の契機・問題』、『実施した活動』と実施者・行為、実施期間を記入し、また活動の契機となった問題 が改善しているかを照合・要約し『活動による変化』として記入した。③分析作業シートでARの推移を確 認しながら表として整理、AR終了時の『目標の達成状況』を要約し記入した。④目標毎の図表から全体 図を作成し、活動間の連関を分析して全体図に記入した。 Ⅲ.結果 1.看護部の課題・目標の達成にむけ実施した活動と目標の達成状況: 課題1の【目標1:一人前の段階 にある実践力が強化され中堅看護師としての役割を担うようになる】では、精神症状・問題行動への対応 中心の看護に留まっている等に対し、2013 年度から[中堅育成プログラムでの再学習・実践活用の OJT] と[状態像の再吟味・意図的関わりの推進]、2014 年度から[カンファレンス・事例検討での発言の促し]、 2015 年度から[新規入院患者の回復状態評価の推進]、[院外での実践報告の支援]の5つの活動が行わ れた。AR終了時には、問題行動の背景とセルフケア能力を吟味し関係形成を図りながら計画的に退院 を支援する看護師が増え、実践力を強化した看護師が中堅としてリーダーの役割を担うようになり目標1は達成された。課題 2 の【目標 2:看護管理者と中堅看護師の連携・協働で看護職員研修が運営できるよ うになる】では、新人教育が教育担当に一任されていた状況に対し、[病棟での新人の職場適応支援]、 [中堅による新人研修と OJT の連携]、[急変時の対応・救命スキルの強化]、2015 年度から[新人研修の講 義・指導を分担で実施]、[CVPPP トレーナーによる研修の企画・運営]の5つの活動が行われた。AR終 了時までに、看護職員研修は教育部長・看護師長・中堅看護師で役割を分担し協働で運営する体制が 取れるようになり、病棟での新人・若手のOJTは看護師長と中堅看護師が協働で支援することが定着した。 課題 3 の【目標 3:看護管理者間で部門運営・看護業務に関する課題を共有し方針決定するようになる】 では、[看護管理者会議での協議・方針決定]を主軸に[人材育成プラン策定と自己研鑽支援]、[看護手 順等の改訂・運用促進]、[リスクアセスメントツールの導入]、2015 年度から[治療効果を重視した転棟調 整]、[組織運営への主体的参画]、[師長・中堅での院内感染対策の推進]の7つ活動が行われた。AR終 了時には、看護管理者会議が看護に関わる問題を共有し解決策・方針を決定する場として看護師長に活 用されるようになり、看護管理者からの問題提起や提案で、医療安全管理・院内感染対策・行動制限最小 化の委員会活動が活性化した。【目標 4:看護師長と中堅看護師が協働し病棟運営・看護業務の課題解 決を推進するようになる】では、[機能別からプライマリー制への移行]、[看護カンファレンスの定例化]、 [リスク査定・発生予防・対応強化]、[看護記録の改善・実践の見える化]、2015 年度から[精神科急性期治 療の拡充・ケアの質の向上]の5つの活動が行われた。AR終了時には、看護師長と中堅看護師が連携し てカンファレンスを定例化したことで、チームでリスク査定や回復状態を評価することが定着し看護記録か ら実践が読み取れるようになり、看護業務や新人・若手への指導で問題を把握すると、看護師長と中堅看 護師が相談し対応するようになった。 2.中堅看護師の育成とシステム構築に関わる活動との連関: 【目標1】の[中堅育成プログラムでの再学 習・実践活用の OJT]に取り組んだ看護師は、[人材育成プラン策定と自己研鑽支援]の活動で看護師長 からの動機づけ・支援を受けていた。また[看護カンファレンスの定例化]の活動と連動しチームで検討す る経験を重ね中で新人・若手に助言するという行動の変化に結びついていた。また、[病棟での新人の職 場適応支援]で教育担当やプリセプターを託された看護師は新人の OJT や[急変時の対応・救命スキル の強化]で看護師長と連携・協働した。[リスク査定・発生予防・対応強化]で看護スタッフの暴力被害が減 少すると、中堅看護師が[CVPPP トレーナーによる研修の企画・運営]に自発的にチャレンジすることに つながり、医療安全を推進する活動が活性化していた。中堅育成プログラムを2013年度~2016年度まで 継続したことで看護職員教育や組織運営に関わる委員会での役割を担う中堅看護師が増え、【目標2】 【目標4】を達成する推進力となっていた。 Ⅳ.考察 実践活用のOJTに取り組み、教育部長と一緒に考えることは、受講者に内省的検討や抽象的思考を促 進し、「ニーズをとらえる力」を中堅のレベルに引き上げ、積極的な行動で患者が変化することを経験し看 護実践に自信がもてる看護師を増やした。看護実践に自信がもてるようになった中堅看護師が自発的に カンファレンスで発言し、スタッフ間の相互作用を活性化し、新人の職場適応や OJT を支援する役割を担 い、病棟での教育機能を向上させたと考えられる。また、地方都市にある精神科病院での看護職員の確 保は厳しい状況にあり、役割荷重での人材の喪失を減らし、限られた人材を効果的に登用する戦略が必 要になるため、組織的役割の遂行能力を知る機会が中堅看護師を育成する活動に組み込まれている意 義は大きいと考える。 A病院での教育システムの構築方法は、教育責任者が看護スタッフに直接関わり、個性・実践力を把 握しやすい中規模病院に適した方法だと言えるが、その汎用性については、他の中規模病院で実践活 用の OJT を加えた中堅育成プログラムを実施し、同様の変化が得られるか検証を重ねる必要がある。 キーワード: 中堅看護師、 アクションリサーチ、教育システム、精神科病院