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The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 25, No. 1, , 2021 総説 急性期病院における身体拘束を軽減するための看護管理に関する文献検討 A Literatur

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(1)

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 25, No. 1, 129-138, 2021

総説

急性期病院における身体拘束を軽減するための 看護管理に関する文献検討

A Literature Review of Nursing Management on Reducing Physical Restraint in Acute Hospitals

菅野眞綾

1)*

 叶谷由佳

1)

Maya Kanno

1)

* Yuka Kanoya

1)

Key words : acute hospital, physical restraint, nurse administrator キーワード : 急性期病院,身体拘束,看護管理者

Abstract

The purpose of this study was to review nursing management literature on reducing physical restraint in acute hospitals and clarify recent trends and issues in the future. The databases, which were searched on January 5, 2020, include; PubMed, CINAHL with Full Text, the Cochrane library, and Japan Medical Abstracts Society. A total of 190 studies were identified in the search, although only 15 studies (seven in Japanese and eight in English), published between 2000 and 2019, that met the inclusion criteria were selected. Intention of nursing management practice under factors of physical restraint included ethics, older people, falls, delirium, quality of cure and care, short of manpower, dementia. The main contents of nursing

management practice were: 1) setting goals and judge criteria; 2) clarification of issues; 3) sharing problem

recognition; 4) reviewing and constructing system; 5) security assurance; 6) providing educational opportuni- ties; 7) launching and operating teams; 8) promoting cooperation; 9) motivation; and, 10) evaluating trial. The non-randomized controlled trial was found to reduce time and the rate of physical restraint while improving knowledge and attitude. Future studies need to indicate common nursing management evaluation items or

indicator to consider reducing physical restraint for any acute hospital in spite of difference in hospital size.

要  旨

 急性期病院における身体拘束を軽減するための看護管理に関する文献を検討し,最近の動向 と今後の課題を明らかにすることを目的とした.PubMed,CINAHL with Full Text,Cochrane Reviews,医中誌 Web を用い,2020年 1 月 5 日に検索した.計190件の文献が検索され,適格 基準を満たし,2000年~2019年に出版された15文献( 7 和文献, 8 英文献)が対象となった.

各施設における身体拘束軽減の取り組みが成功した要因は,倫理観の醸成,高齢者ケアの推進,

転倒予防の推進,せん妄ケアの推進,基本的アセスメントと看護実践の質向上,適切な人員配 置,認知症ケアの推進,現状・課題分析であった.主な看護管理実践内容は, 1 )目標,判断 基準の設定, 2 )課題の明確化, 3 )問題認識の共有, 4 )仕組みの見直し・構築, 5 )安全 保障, 6 )教育機会の提供, 7 )チームの立ち上げ・運用, 8 )連携の促進, 9 )動機付け,

10)取り組みの評価であった.非ランダム化比較試験において,身体拘束時間の減少,身体拘 束率の低下,身体拘束の使用に関する知識,態度の改善がみられた.今後は,病院規模の違い に関わらず,急性期病院における身体拘束軽減の検討が可能な共通の看護管理評価項目,評価 指標を示す必要がある.

受付日:2021年 2 月 3 日  受理日:2021年 5 月12日

1) 横浜市立大学医学部看護学科 College of Nursing, School of Medicine, Yokohama City University

(2)

Ⅰ.緒言

 身体拘束とは,ベルト,紐,椅子,抑制帯,つな ぎといった拘束のための道具を用いて対象者の体の 一部あるいは全身の動作の自由を制限することであ る(World Health Organization, 2019).身体拘束 は,患者の尊厳や自律性を侵害するだけでなく,

Quality of Life (QOL) 低下 (Lüdecke et al., 2019),

死亡率・院内感染・転倒リスクの上昇(Evans et al., 2002),入院期間の延長(Evans et al, 2002;Bai et al., 2014)といった様々な弊害が生じることから,回 避することが望ましい.介護施設では厚生労働省令 により身体拘束が禁止され,①切迫性,②非代替性,

③一時性の 3 要件を満たす場合のみ,やむを得ない とされている.一方で,一般病床では身体拘束に関 する規定が存在しない.わが国の病院における身体 拘束の実施施設割合は90%以上であり,介護施設の 24.7%~46.6%と比較すると多くの病院で身体拘束 が実施されている(公益社団法人全日本病院協会,

2016).とりわけ,回復期病床に比べて,急性期病床 では身体拘束率が高く(Nakanishi et al., 2018),急 性期病院における認知症患者への身体拘束率は,英 国22%(White et al., 2017)と比べて,日本は45%

(Nakanishi et al., 2018)と高い水準である.つまり,

わが国は,急性期病院において身体拘束が多用され ている状況である.

 このような状況下で,看護師は,患者の安全確保 のための身体拘束の必要性と,尊厳を守るために身 体拘束をしたくないという思いの間でジレンマを抱 えている(Yamamoto et al., 2006).ジレンマの要 因には,入院患者に重症患者や高齢者が多いこと,

業務の余裕がないと高齢者に合わせられないといっ た高齢者特性に応じた対応の難しさ,患者を見守る 目が不足しているといった問題などといった施設や 看護師の特徴が要因であることが考えられる.した がって,身体拘束をしてはいけないと理解していて も,せざるを得ない状況があり,看護師が行うケア の見直しだけでは課題の解決が困難と思われる.身 体拘束予防については以前より注目されており,身 体拘束予防ガイドライン(日本看護倫理学会,2015)

では,ケアを見直す手順に加え,看護管理者への提 言が示されている.さらに,急性期病院における身 体拘束の関連要因として,人員配置や安全管理,身

体拘束代替案の教育普及(西嶋ら,2009)といった 管理的要因が示されている.これらの結果から,身 体拘束を軽減するための看護実践の検討に加え,看 護実践を支えるために組織として対応することが,

身体拘束によって生じる身体的・精神的・社会的弊 害の回避につながると考える.しかし,急性期病院 における身体拘束を軽減するための看護管理は体系 的に整理されていない.したがって,今後の研究的 な発展のため,現時点でのエビデンスを整理する必 要があると考えた.

Ⅱ.目的

 急性期病院における身体拘束を軽減するための看 護管理に関する文献を検討し,看護管理の実践内容 と今後の課題を明らかにすることを目的とする.

Ⅲ.方法

 文献検索は,2020年 1 月 5 日に実施した.データ ベースは,PubMed,CINAHL with Full Text,

Cochrane Reviews,医中誌Webを用いた.“Restraint, Physical(身体拘束 OR 身体抑制)” AND “manage- ment OR organize OR control OR Nursing, Super- visory(管理)” AND “acute hospital(急性期病院)”

NOT “Psychiatric Nursing OR Mental Health Nursing(精神看護)”でキーワード検索した.タイ トルと抄録から,①英語もしくは日本語で書かれて いる,②身体拘束軽減に関する記述がある,③急性 期病院が対象施設である,に該当する文献を対象と して選定し,会議録は除外した.急性期病院におけ る身体拘束を軽減するための看護管理実践は,類似 性・相違性に基づいてグループに分け,分類した.

Ⅳ.結果

 文献検索の結果,190文献が検索された.重複文献 15文献を除く175文献を対象とし,タイトルおよび抄 録のスクリーニングにて160文献が除外され, 7 和文 献, 8 英文献の計15文献が抽出された.

(3)

1.対象文献の概要(表1)

 2000年~2019年に出版され,その内和文献は2017 年以降のみであった.研究デザインは,実践報告 9 件,非ランダム化比較試験 5 件,解説 1 件であった.

実践報告では,取り組みのきっかけが述べられてお り,患者の立場に立って「身体拘束を何とかしたい」

という思いや入院患者の高齢化に伴う課題への対応 がきっかけとなっていた.報告,研究の目的は,取 り組みに成功した要因を紹介することや,プログラ ムの有効性を検討すること,身体拘束率を軽減する こと等とされていた.計画に携わっていた主な人物 は,看護部長,看護師長などの看護管理者と,病棟 看護師および専門性の高い看護師であった.対象施 設は,地方病院,地域病院,地域医療支援病院,二 次救急病院,三次救急病院,総合病院,大学病院で あった.病床数は解説を除くすべての文献に記載が あり,59~861床であった.平均在院日数は, 6 文献 で記載があり,6.3 ~ 17.6日であった.看護職員数 は, 5 文献で記載があり,355~1075人であった.各 施設における身体拘束軽減の取り組みが成功した要 因は,倫理観の醸成(折笠,2019;小林,2018;小 藤ら,2018;半場,桑原,2017;嶋森,2017;Huang et al., 2009),高齢者ケアの推進(安西,2019;川 野,2018;半場,桑原,2017;嶋森,2017;Enns et al., 2014),転倒予防の推進(半場,桑原,2017;

Huang et al., 2009:Amato et al., 2006;Forrester et al., 2000),せん妄ケアの推進(川野,2018;小藤 ら,2018;半場,桑原,2017;嶋森,2017),基本的 アセスメントと看護実践の質向上(折笠,2019;半 場,桑 原,2017;Kirk et al., 2015;Enns et al.,

2014;Morrison et al., 2000),適切な人員配置(折 笠,2019;安西,2019;小藤ら,2018),認知症ケア の推進(安西,2019;小林,2018;小藤ら,2018),

現状・課題分析(折笠,2019;安西,2019;嶋森,

2017;Kirk et al., 2015;Markwell et al., 2005;

Morrison et al., 2000)であった.

2.急性期病院における身体拘束を軽減するための 看護管理実践(表2)

 看護管理実践は,表2に示した内容が抽出され,

1 )目標,判断基準の設定, 2 )課題の明確化, 3 ) 問題認識の共有, 4 )仕組みの見直し・構築, 5 ) 安全保障, 6 )教育機会の提供, 7 )チームの立ち 上げ・運用, 8 )連携の促進, 9 )動機付け,10)

取り組みの評価に分類された.各分類に沿って,抽 出された看護管理実践について述べる.

1)目標,判断基準の設定

 実践報告の文献では,「理念や目標の設定」がされ ていた.具体的には,身体拘束軽減もしくは廃止,

転倒転落ゼロについて,病院,もしくは看護部の目 標や理念を設定し(折笠,2019;安西,2019;川野,

2018;小林,2018;小藤ら,2018;半場,桑原,2017;

嶋森,2017;Whitman et al., 2001;Forrester et al., 2000),トップが身体拘束をしないと強い意志で決断 していた(折笠,2019;嶋森,2017).何が身体拘束 かを判断できるよう基準を設け(小林,2018),自分 たちが目指す看護は何かを考え,身体拘束について 考えられるよう,看護を照らし合わせるための理論

(折笠,2019)や倫理綱領(小林,2018)を導入して いた.ほかには,身体拘束実施の要因が生じている 図 1  文献選定の流れ

PubMed n=124

【除外文献】(n=160 1. 英語、日本語以外:3 2. 会議録:4

3. 身体拘束軽減、廃止に 関する記述がない:152 4. 急性期病院が対象でない:1 CINAHL Plus with

Full Text n=41 医中誌

Cochrane Review n=16 n=9

対象文献 n=15

7和文献、8英文献)

Total n=190

Total n=175

【除外】

重複文献(n=15

(4)

表1 対象文献の概要

著者

(年)

研究 デザ イン

きっかけ,

目的 計画に携わった人物 対象施設 取組成功

の要因

折笠

(2019) 実践 報告

院長,看護部長が全病棟回診にて身体拘束されている人 が多いことを印象に持ち,院長からの「身体拘束を何と かしてほしい」というミッションが与えられた

・院長

・看護部長

病床数300床 診療科23科 看護職員数355人

急性一般 7 対 1 ,地域包括ケア病棟 病床稼働率92.9%

平均在院日数12.4日

a), e), f), h)

安西

(2019) 実践 報告

高齢患者の入院が多く(約 5 割),認知症・せん妄への 対応や意思決定支援に苦慮するという課題から看護部と してビジョンを掲げた

・認知症認定看護師

・「高齢者ゼミナール」に所属する管理者 病床数670床

平均在院日数9.5日 b), f), g), h)

川野

(2018)

実践 報告

看護部長が入職時に過剰な拘束が行われている患者さん を見て切ない気持ちになったこと,拘束は看護を行う側 の人間性が凝縮した形で集約されているという思いから 活動が始まった

 教育担当師長

病床数608床 診療科32科 地域医療支援病院 二次医療圏の急性期医療を担う

b), d)

小林

(2018)

実践 報告

高齢患者が急性期の治療を終える段階で可能な限り自立 して生活できるためには,入院による生活機能低下を最 小限にする必要があるが,その実践においてケアのスキ ル不足があることを問題視し,「高齢者看護実践改善プ ロジェクトチーム(高齢者看護 PT)」を立ち上げた

 看護部長

病床数135床 脳神経外科単科 急性期一般入院基本料 1 二次救急医療を担う

a), g)

小藤

(2018) 実践

報告 看護部では「思いやりの心に深く根差す看護」を目指し ている

・看護部長

・副看護部長

・看護師長

病床数383床 診療科35科 看護職員数861人 入院基本料 7 対 1 病床稼働率85.3%

平均在院日数17.6日

a), d), g)

半場

(2017) 実践 報告

・病院機能の拡充・強化,受け入れ患者の高齢化

・医療制度改革に伴う病院理念の再検討と倫理方針の改 訂にて,身体拘束をしない方針が組織として議論され始 めた

・看護管理者

・教育委員

・業務委員

病床数548床 診療科37科 看護職員数513名 入院基本料 7 対 1 病床稼働率85.8%

平均在院日数11.2日

a), b), c), d), e)

嶋森

(2017) 解説

急性期病院で拘束廃止の具体的な手立てがあるか確信を 得るために,日本看護科学学会,日本看護管理学会で身 体拘束廃止に関する交流集会を開催し,交流集会で得ら れた拘束廃止の取り組みが成功した要因を紹介

 看護管理者 N/A a), b), d), h)

Kirk, A. P.

(2015) 非 RCT患者の安全を保ちつつ,身体拘束率を National Data- base of Nursing Quality Indicators の 平 均 以 下

(2.19%)を継続すること

・CNS(Certified Nurse Specialist)

・担当医

・病棟看護師

・ restraint nurse champions(組織内で選抜され た身体拘束に関する知識をもつ看護師)

・外科 step-down unit

・外科 ICU 590床の総合病院 アメリカ合衆国

e), h)

Enns, E.

(2014) 非 RCT急性期病棟に入院する高齢者における身体拘束削減のた めのエビデンスに基づく多因子戦略の実装と評価

・老年医学医

・geriatric nurse practitioner(GNP)

・病棟医師

・スタッフ看護師

・医療の質改善チーム(医師)

・病棟看護師長

・教育担当看護師

・medical operation leadership team(MOLT)

65歳以上の患者(各病棟 9 ~33人)

急性期病棟 4 病棟 600床の急性期病院 カナダ

b), e)

Huang, H. T.

(2009) 非 RCT身体拘束使用に関する看護師の知識・態度の向上および 実践報告改善のための短期教育プログラムの有効性を明 らかにするため

 研究者

476床,249床の同系列の 2 病院 看護師140人

・介入群59人(70人を設定し,11人脱落)

・対象群70人 台湾

c)

Amato, S.

(2006) 非 RCT 施設の身体拘束率を25%軽減すること

・専門看護師(CNS)

・病棟看護師長

・患者ケアコーディネーター(看護師)

・理学療法士

・作業療法士

・スタッフ看護師

・看護部長

・リーダー医師

・脳卒中急性期リハビリ病棟(16床)

・脳損傷急性期リハビリ病棟(18床)

732床の大学病院 アメリカ合衆国

c)

Markwell, S. K.

(2005)

実践

報告 1999年に病院全体で身体拘束を減らすという目標を立て

・患者擁護者

・看護師

・患者ケア技術者

・理学療法士

・部門管理者

236床の地域拠点病院

1000人の看護師,800人以上の医師が所属 アメリカ合衆国

h)

Whitman, G. R.

(2001)

実践 報告

政府が掲げた身体拘束削減のイニシアチブと日々変化す る人員配置の 2 つのイニシアチブが複数の病院において 与える影響について明らかにする

N/A

10の急性期病院

( 2 地方病院, 6 地域病院, 2 第三次救急 病院)

59~861床 アメリカ合衆国 Forrester,

D. A.

(2000)

非 RCT教育プログラムにより身体拘束の使用の制限または軽減 するための考慮や介入が看護師によって行われたか  研究者

身体拘束をされた成人118名(介入前),51 名(介入後)

238床の都市部急性期病院 アメリカ合衆国

c)

Morrison, E.

F.

(2000)

非 RCT脳神経外科病棟で成功した病棟単位における身体拘束軽 減プログラムを紹介すること

・健康情報システムスタッフ

・看護師長

・病棟看護師

730床の首都圏にある三次救急を担う大学 病院

平均在院日数6.3日 1075人の看護師が所属

教育部門,専門能力開発部門,教育協議 会,実践協議会,品質協議会が設置されて いる

脳神経外科病棟は31床で看護師26.5人配属 アメリカ合衆国

e), h)

a)倫理観の醸成,b)高齢者ケアの推進,c)転倒予防の推進,d)せん妄ケアの推進,e)基本的アセスメントと看護実践の質向上,f)適切な人員配置,g)

認知症ケアの推進,h)現状・課題分析 非 RCT:非ランダム化比較試験

(5)

表2 急性期病院における身体拘束を軽減するための看護管理実践

分類 文献から抽出した看護管理実践

目標・判断基準の設定

トップリーダーが強い意志で,拘束する看護を行わないと決断

身体拘束をどう考えるか,何に照らし合わせて考えるのか,判断基準が必要と考え,看護部としてナイチンゲール看護理論を導入 高齢者の基本的ケアガイドを作成し,配布

看護局全体として身体拘束軽減のためのせん妄予防を重点戦略として打ち出し,委員会,部署がそれぞれ目標を設定 身体拘束はしないことを病院や看護部の方針とする

身体拘束の基準,拘束以外に解決する手段がない場合の基準を作成し,各看護単位へ設置 身体拘束の定義の明確化

看護部倫理綱領の作成

環境整備とせん妄ケア基準の作成

「転倒転落ゼロ看護」として看護部目標を設定し,看護倫理と看護の質に軸を置いて転倒ゼロに向かって看護を展開することを意図 病院の身体拘束管理に関する指針の改訂

課題の明確化

身体拘束をしなければならない原因探索のため,全スタッフへ身体拘束に関する意識調査を実施

高齢者ケアの困りごとや身体拘束に対する意識調査の自由記載をカテゴリー化分析し,今後の取り組みを検討 高齢者ケアに関する理解度テストの実施

身体拘束が起きる状況の明確化(どんな場面で拘束がどのように開始されるか)

身体拘束によって生じる問題の明確化(患者およびケア提供者に与える心身への影響)

身体拘束が倫理的な問題であることの明確化と看護部スタッフ間でのディスカッション

専門看護師が各患者の診療録を振り返り,治療可能な不穏の原因を特定し,患者の安全維持のための身体拘束の必要性を検討 看護師への身体拘束代替手段に対する知識と必要性の認識を調査

問題認識の共有 毎年 4 月に全看護部職員を対象に看護部方針説明会を実施し,看護部長としての考えや方針の明確な伝達

せん妄患者の事例の振り返り,実践報告会で全体共有を行い,せん妄ワーキンググループの取り組みの重要性についての合意形成 身体拘束をしないことが患者の尊厳を尊重すること,病院の収益にも反映されることを看護師長会議で周知

身体拘束を廃止していく姿勢を堅持することが重要であると看護師長会,看護主任会で確認 プロジェクトの計画と進行状況をスタッフへ毎月メール配信

専門看護師が,管理部門が身体拘束に関する問題についてディスカッション

管理部門との定期的な会議によるプログラムの進捗,実装時の障害,スタッフの参画に関する報告や提案について議論

仕組みの見直し構築

看護師が疲弊せず見守れる体制づくりとして変則 3 交代13時間夜勤とパートナーシップナーシングシステムを導入 患者を見守るための人を配置するため24時間のリリーフ体制を強化

せん妄スクリーニングツールの導入 ペアナース制による看護提供体制の導入 倫理カンファレンスの実施

患者の意向を踏まえて先読んで検討する前向きカンファレンスの実施 週 2 回のせん妄カンファレンスの実施

教育委員会,業務委員会がエビデンスに基づく実践の理解と効果的な看護を提供する仕組みや環境調整の実施 タイムリーな転倒転落アセスメントができる業務の仕組みづくり

入院状態変化時に多職種カンファレンスができる業務の仕組みづくり

拘束感の少ないデバイス(手背部分が開いたミトン,パッド付体幹ベルト)の導入のため,看護管理者へデバイスの配達や保管について相談 病棟看護師長,医療業務推進チーム等の看護管理者を取り組みのオピニオンリーダーに任命

身体拘束軽減キットの作成と各病棟への配布(身体拘束代替案のリスト,パズルクレヨンなどのアイテム)

身体拘束代替できると評価した製品の導入(ベッドセンサー,スキンスリーブ,病院を出ようとすると鳴るアラーム)

安全保障 身体拘束をしないことで何かあったら,全責任は院長にあるという強いメッセージを配信し,インシデントレポートの罰則性を改善 身体拘束廃止で起きる事故やリスクの危惧への具体的な対応(看護部内および病院全体での支援体制づくり)

教育機会の提供

看護とは何か,なぜ看護するのかといったことについて看護界で著名な講師を招いて研修会を実施 身体拘束ゼロを達成した急性期病院の看護部長に取り組みについて話を聞き,看護師長会で伝達講習を実施 倫理に関する研修会の開催

高齢者ケアに関する視聴覚教材の作成,ネットでの配信,新人研修への内容強化 身体拘束に関する看護研究の取り組み

新人研修期間に身体拘束を受ける体験を実施 ユマニチュードの勉強会の実施

ジャンセンの臨床倫理の 4 分割を用いて看護記録を監査し,自分たちの行為を振り返り,倫理教育を実施 高齢者ケア,せん妄,転倒などの発生要因と対応に関する理解のための研修

専門看護師による拘束感の少ないデバイスの使用方法,患者の選定方法に関するミーティングを実施

restraint nurse champions は勤務時間外でスタッフへの教育を行い,教育について困った場合はサポートを享受可能 拘束感の少ないデバイスに関するポスターを休憩室,トイレ,掲示板に掲示

病棟医を対象に,老年科医による 1 時間のワークショップ(身体拘束の有害転機に関するレビュー,本戦略に関する概要)の実施

スタッフ看護師を対象に,Geriatric Nurse Practitioner による15~20分の講義(身体拘束の定義,身体拘束に関する誤った考えとアウトカム についての議論)の実施

(6)

か判断するための基準となるツールを導入していた

(川野,2018;小林,2018).

2)課題の明確化

 身体拘束を実施している要因を明らかにするため,

病棟看護師の身体拘束に関する意識・認識(折笠,

2019;Markwell, 2005),高齢者ケアの困難(安西,

2019),臨床における倫理的課題(半場,桑原,2017)

について質問紙で調査していた.調査結果をもとに,

いつ・どんな場面で身体拘束がどのように開始され るか(嶋森,2017),また,診療録から患者の不穏の 原因や(Kirk et al., 2015),医師の拘束指示と看護 師の対応(Morrison et al., 2000)を振り返り,要因 を分析していた.また,身体拘束削減の取組の進捗 状況について評価し,今後の課題を検討していた

教育機会の提供

看護師対象の身体拘束教育プログラム(身体拘束使用における心身,社会的,経済的影響,身体拘束中の看護ケア,転倒予防または治療による行 動への関わり方,不穏行動や危険行動への管理における身体拘束使用の代替について,身体拘束に関する倫理的課題)の実施

身体拘束の代替品でスタッフが効果的と感じたデバイスを選択し,有効性の試験後に,適切な使用に関するトレーニングを実施 新人研修,集合研修で,身体拘束緩和代替について教育し,参加者同士で経験を共有し,代替案が奏功しなかった際の対応について討議 医師の拘束指示と拘束に関する看護記録から問題,教育方法を検討(指示記録なしに拘束が行われている患者が多く,看護スタッフが身体拘束は 代替手段がなく必要であり,身体拘束をしないことで業務負担が増えると考えている→ケーススタディの分析)

病棟単位で身体拘束を実施されている患者のケーススタディを実施

全看護師を対象に,身体拘束の管理と転倒予防に焦点を当てた安全とリスク管理に関する1.5時間の教育プログラムを実施(患者の権利,身体拘束 と医療的制限の違い,姿勢と安全に関する支援,制限の少ないデバイスの選択,身体拘束の代替,身体拘束に関する要件の文書化)

チームの立ち上げ・運用

認知症ケアラウンドでの高齢者の基本的ケアガイドの活用 高齢者看護実践改善プロジェクトチームの立ち上げ

コア病棟( 4 病棟)を設定し,病棟の特殊性を踏まえながら,高齢者看護プロジェクトチームが身体拘束しないための看護を支援 現場の活動の実践を支援するための多職種せん妄ワーキンググループの立ち上げ

身体拘束の在り方検討会を院内に設置し,病棟ラウンドを実施 医師看護師他職種横断の認知症サポートチームの立ち上げ

看護倫理検討委員会立ち上げ,臨床倫理の取り組み(院内ラウンド,病棟カンファレンスへの参加)

専門看護師,担当医,病棟看護師,restraint nurse champions をチームとしてラウンドを実施

老年科医,Geriatric Nurse Practionor,医療の質改善チームによる身体拘束最小化のためのラウンドを行い,適切な治療,ケアについてスタッ フへ推奨

専門看護師が毎週病棟ラウンドを行い,身体拘束が実施されている患者,転倒リスクがある患者に焦点を当て,スタッフ看護師と問題点について 議論し,アセスメントに基づく適切なケアを推奨

連携の促進

現場の管理者がキーマンになると考え,師長会議で高齢者の基本的ケア推進内容の検討を行い,師長の参画を促進 救命救急センターの医師を巻き込んだ検討の場を検討

主任会の看護管理者実践のテーマを「身体拘束ゼロ化」を掲げて各部署にてケア支援の強化,ベッド周囲環境の見直しを検討 身体拘束をしないための看護を継続するための関連病棟間の連携

組織間の看護を体験するための人事交流

「当院の身体拘束に関する考え方」を記載した用紙に沿って入院患者,家族へ説明 病院全体の課題としての取り上げる働きかけと多職種の支援

専門看護師,担当医,病棟看護師が協同で患者計画を作成し,身体拘束実施に関する患者計画の個別化の検討 専門看護師,restraint nurse champions が協力して,スタッフ間のコミュニケーションを促進

病棟看護師長,医療業務推進チーム等の看護管理者へ身体拘束最小化への提案について説明し,戦略遂行にあたっての支援を依頼 看護部長,看護師長,患者ケアコーディネーター,リーダー医師,理学作業療法士の積極的支援の依頼

動機付け やればできるという成功体験の積み重ね

身体拘束されている事例に対し,看護師長自ら身体拘束をしないための代替案を提案し,実践 看護部全体で取り組むことによる価値観,組織風土の醸成

患者家族のプラス反応のフィードバックによる,専門職としての自己効力感の高揚(院内全職種)

身体拘束代替案コンテストを開催.院内全スタッフからアイディアを募り,賞品を用意

取り組みの評価

労働と看護の質向上のためのデータベース(DiNQL)データにおける身体拘束実施率の比較 日々拘束の数の記録や身体拘束状況のグラフによる可視化で確認

専門看護師が病棟ラウンドを実施し,継続的な身体拘束実施が適切かの評価を促進

毎月の病棟カンファレンスでどのような介入を実践したのかを共有し,身体拘束率をベンチマークと比較し報告 介入前後で身体拘束率を評価

介入前後で病棟看護師の身体拘束知識尺度,身体拘束態度尺度,身体拘束実践尺度を評価 看護師の取り組みに対するアドヒアランスの監視と 1 対 1 で振り返り

各病棟の転倒率と身体拘束の使用率を毎月集計し,データを提示 各患者に割り当てられたプライマリケア看護師にインタビューを実施

患者を直接診察し,どのように身体拘束されているか,身体拘束実施が適切かを判断 身体拘束患者の診療録をレビューし,身体拘束指示と身体拘束率を評価

身体拘束に関する調査結果を病院の拘束管理改善指標に記録

※ restraint nurse champions:身体拘束に関する研究と実践のギャップを埋める役割を担う看護師

(7)

(Forrester et al., 2000).

3)問題認識の共有

 研究者や看護管理者と現場の病棟看護師の間でカ ンファレンスを行い,身体拘束に関する問題や身体 拘束を削減するための取り組みにおいて生じた問題 についての認識を共有していた(嶋森,2017;Kirk et al., 2015;Amato et al., 2006).また,事例を振 り返ることで課題や(川野,2018),身体拘束をしな いことの有用性について共有していた(小林,2018).

4)仕組みの見直し・構築

 患者を見守る体制が充実するよう,夜勤体制の変 更(折笠,2019)やリリーフ体制の強化(安西,

2019),ペアナース制度の導入(小藤ら,2018)を 行っていた.また,多職種でカンファレンスができ る業務の仕組みづくりや(折笠,2019;半場,桑原,

2017),病棟で推進役割を担う看護師の育成し,病棟 スタッフへの教育や相談の役割を任命していた

(Kirk et al., 2015;Enns et al., 2014).

5)安全保障

 インシデントレポートの罰則性の改善(折笠,

2019)や,身体拘束を廃止することで起きる事故や リスクに関するスタッフの危惧に対して,組織全体 で対応していた(嶋森,2017).

6)教育機会の提供

 身体拘束実施の要因となる課題に関する内容や,

身体拘束の問題点,身体拘束を代替するための具体 的な方法などについて,教育が実施されていた.具 体的な提供方法としては,講義(折笠,2019;小林,

2018;Enns et al., 2014;Huang et al., 2009;Amato et al., 2006;Markwell, 2005;Forrester et al., 2000),

ディスカッション(小林,2018;嶋森,2017;Huang et al., 2009),トレーニング(Amato et al., 2006)事 例検討(川野,2018),看護の振り返り(半場,桑 原,2017),視聴覚教材のネット配信(安西,2019)

が報告されていた.

7)チームの立ち上げ・運用

 委員会やワーキングチームの立ち上げ(折笠,

2019;川野,2018),専門家チームの立ち上げ(小 林,2018),専門家チームによるラウンド,コンサル テーション,リコメンデーション(Kirk et al., 2015;

Enns et al., 2014;Amato et al., 2006;Morrison et al., 2000)が実施されていた.

8)連携の促進

 スタッフ間のコミュニケーションの促進(Kirk et al., 2015),ケアに関する専門家とスタッフ間の意見 交換(Amato et al., 2006),ケア計画に関する医 師・専門家とスタッフの協同(安西,2019;Kirk et al., 2015),関連病棟間の交流(川野,2018)が実施 されていた.

9)動機付け

 成功体験の共有(折笠,2019;嶋森,2017)や,

組織全体の問題として取り組むことによる風土の醸 成(小藤ら,2018;嶋森,2017)が行われていた.

10)取り組みの評価

 取り組みの効果を評価する指標として,身体拘束 率(安西,2019;小林,2018;Kirk et al., 2015;

Enns et al., 2014;Amato et al., 2006;Markwell, 2005;Morrison et al., 2000),身体拘束時間(Amato et al., 2006),転倒率(Amato et al., 2006),看護師 の身体拘束に対する認識や態度(Huang et al., 2009;

Morrison et al., 2000;Forrester et al., 2000)が測 定されていた.

Ⅴ.考察

1.急性期病院における身体拘束を軽減するための 看護管理の実践内容

 急性期病院における身体拘束を軽減するための看 護管理について, 7 和文献, 8 英文献から得られた 知見を示した.看護管理実践内容は, 1 )目標,判 断基準の設定, 2 )課題の明確化, 3 )問題認識の 共有, 4 )仕組みの見直し・構築, 5 )安全保障,

6 )教育機会の提供, 7 )チームの立ち上げ・運用,

8 )連携の促進, 9 )動機付け,10)取り組みの評 価の10種類に大別された.別府(2019)は,看護管 理者のコンピテンシーを明らかにしている.看護管 理者のコンピテンシーを構成する要素として,進む べき方向を焦点化する,提供されるケアのモニタリ ングと質の保障を行う,スタッフの能力開発を行う,

チームで協働する,コミュニケーションスキルを活 用する等といった要素が示されている.これらは,

本研究で明らかになった急性期病院における身体拘 束を軽減するための看護管理実践内容と同様の方向 性を示していると考える.一方で, 5 )安全保障や

(8)

9 )動機付けについては看護管理者のコンピテン シーとして示されておらず,急性期病院における身 体拘束を軽減するための看護管理に特徴的な内容で あることがうかがえる.

 身体拘束実施の要因には,認知機能低下や行動障 害があることが示されており(齊藤,鈴木,2019),

患者の治療への理解・協力不足や患者自身の安全管 理不足による転倒やチューブ類の自己抜去といった 医療事故発生の可能性を危惧した身体拘束の実施が 多い.看護師は,身体拘束に直面する際に,治療の 遂行と安全にジレンマを感じており(Yamamoto et al., 2006),特に医療依存度の高い患者が多い急性期 病院では,事故が発生した時の看護師への保障や責 任の所在が明らかになっていることが,急性期病院 における身体拘束軽減を推進していくためには重要 である.また,治療への理解・協力不足に起因した 医療事故発生リスクがあることから,患者・家族に 組織としての方針と身体拘束をしないことによるメ リット,デメリットを説明したうえで,患者の尊厳 を尊重した身体拘束をしない取り組みについて理解 や協力を得る必要があると考える.一方で,急性期 において身体拘束の使用を減らすためには,非難す る文化を減らすことも重要である(Unoki et al., 2019).重症度や繁忙度が高い急性期の現場で身体拘 束の使用を減らすことは不可能であると取り組みを 非難したり,消極的な態度で取り組むのではなく,

看護師一人ひとりがどうすれば身体拘束を実施せず に済むか,外すことができるか,そのための対策と して何ができるかを積極的に考えられるよう,内発 的かつ外発的な動機付けが必要である.以上より,

急性期病院における身体拘束を軽減するための看護 管理として,安全保障と風土の醸成が積極的に実施 されている必要があると考える.

2.急性期病院における身体拘束を軽減するための 看護管理における今後の課題

 本研究は,急性期病院における身体拘束を軽減す るための看護管理について,文献から得られた知見 を示した.急性期病院における身体拘束を軽減する ために,病棟看護師と看護管理者が多くの報告に携 わっており,両者がキーパーソンとして協働して取 り組むことで,身体拘束を減少できることがうかが えた.各施設における身体拘束軽減の取り組みが成

功した要因は,高齢者ケア,せん妄予防ケア,転倒 予防,認知症ケアの推進であった.身体拘束の実施 の要因は,安全管理の判断に関わる認知機能低下や 行動障害の影響が強く(齋藤,鈴木,2019),各施設 において身体拘束が実施されている要因を課題とし て明確にし,要因に焦点を当てたケアの質向上をね らいとして取り組んでいたと考える.したがって,

身体拘束をしないまたは外すためには,看護実践の 質を向上させるための検討が不可欠である.しかし,

急性期病院は身体治療を優先させる傾向があるため,

安全志向の組織風土では,事故リスクのある患者へ の身体拘束を回避することは困難である.看護の原 点ともいえる,患者の尊厳を重視した倫理的な視点 を持った看護実践の検討が必要である.組織風土の 変革には,看護管理者のリーダーシップが重要であ り(古澤,2016),倫理的な組織風土への変革を試 み,身体拘束を容認しない看護を実践していくため には,看護管理者がリーダーシップを発揮して取り 組むことが重要と考える.

 そのためには,看護管理としてどのような管理を 実践するべきかが示される必要がある.身体拘束予 防ガイドライン(日本看護倫理学会,2015)には,

看護管理者への提言が示されている.研究者,臨床 実践家との議論を重ねて作成された経緯があり,実 践知が体系化されていると言える.また,身体拘束 予防ガイドラインを含む看護倫理ガイドラインを管 理者が導入することで,管理者自身やチームとして の倫理的感受性の向上や行動変化の効果があること が示唆されている(友竹ら,2017).看護管理はプロ セスであり,短期的な評価が困難という課題がある ため,これらの実践知を踏まえ,適切性や有効性,

実現可能性を検証した具体的なプロセス評価項目や プロセス評価指標に展開し,急性期病院における身 体拘束軽減のためにはどの項目が不十分であるかが 容易に認識できる評価項目,評価指標の開発が期待 される.また,取り組みの効果を評価する身体拘束 時間,転倒率,看護師の身体拘束に対する認識や態 度の測定は,国内文献で明らかにされていなかった.

プロセス評価と同時に,わが国におけるアウトカム 評価に関する項目や指標の検証も課題である.中小 規模の病院では教育や環境の施設間格差があること が示されているが(青山ら,2005),病院規模によら ず,患者の安全確保のための身体拘束実施に関して

(9)

看護管理者は倫理的問題を感じている現状がある

(村井,中尾,2017).したがって,病院規模の違い に関わらず,急性期病院における身体拘束軽減のた めに各施設で検討が可能な共通の看護管理実践を具 体的な評価項目,評価指標で示していくことが今後 の課題と考える.

Ⅵ.結論

 急性期病院における身体拘束を軽減するための看 護管理に関する文献検討を行い,15文献( 7 和文献,

8 英文献)が対象となった.各施設における身体拘 束軽減の取り組みが成功した要因は,倫理観の醸成,

高齢者ケアの推進,転倒予防の推進,せん妄ケアの 推進,基本的アセスメントと看護実践の質向上,適 切な人員配置,認知症ケアの推進,現状・課題分析 であった.急性期病院における身体拘束を軽減する ための主な看護管理実践内容は, 1 )目標,判断基 準の設定, 2 )課題の明確化, 3 )問題認識の共有,

4 )仕組みの見直し・構築, 5 )安全保障, 6 )教 育機会の提供, 7 )チームの立ち上げ・運用, 8 ) 連携の促進, 9 )動機付け,10)取り組みの評価で あった.介入研究において,身体拘束時間の減少,

身体拘束率の低下,身体拘束の使用に関する知識,

態度の改善がみられた.

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参照

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