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5 患者数(万人52 15 Vol. 53 No. 2 わが国における高齢者認知症の患者数の推計要介護 ( 認知症高齢者の日常生活自立度 Ⅱ 度以上 ) 認定者 4 3 認知症有病率の全国調査 受診者数 :5,386 人受診率 :68% 有病率 :15% 患者数 :462 万人 2 )22 年 21

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 基調講演

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わが国における認知症の実態と予防

─ 久山町研究からのメッセージ ─

第 53 回日本医療・病院管理学会 学術総会 基調講演 平成 27 年 11 月 5 日(木) アクロス福岡 座長 久山町ヘルス C&C センター長,国立循環器病研究センター 名誉総長

尾前 照雄

講師 九州大学大学院医学研究院環境医学 教授    公益社団法人久山生活習慣病研究所 代表理事

清原  裕

尾前 : 皆さん,おはようございます。私,今回こ の基調講演の座長を仰せつかりまして,大変光栄に 存じております。基調講演はここに書いてあります ように,「わが国における認知症の実態と予防─久 山町研究からのメッセージ─」ということで,清原 教授にお話をうかがうことになっております。 演者の清原先生,プログラムに履歴が書いてござ いますので,簡単に紹介させていただきます。先生 は,ソビエト連邦のロストフ国立医科大学を昭和 51年に卒業されまして,その 2 年後には日本で医 師免許を取得,九州大学の第二内科に入局されまし た。研修医として入局後,九州大学の第二内科,そ の途中で九州歯科大学の内科に勤務された後,九州 大学で博士号取得,久山町研究に 40 年近く従事し ておられ,研究室の主任も一番長くなさっています。 第二内科の講師をしておられた後,その業績をかわ れまして,平成 18 年に環境医学分野の教授に就任 しておられます。たくさんの賞,久山町研究を中心 にした演題で立派な仕事をしておられます。専門分 野はいわゆる生活習慣病全般,特に近年この認知症 が非常に注目されておりまして,久山町の認知症の 研究でも,日本を代表する医学研究として非常に高 く評価されております。その責任者として,九州大 学内の各医局からだけでなく,他の大学からも研修 に来ておられる方がたくさんいらっしゃる大きな研 究室になっております。そこの主任を務めて今日ま で頑張ってこられた先生です。 日本の認知症の疫学では,久山町の疫学研究が一 番よく知られている仕事でありまして,このことに ついてお話をうかがうことができるのは,非常に幸 せだと思っております。それではよろしくお願いし ます。 清原 : ただいまご紹介にあずかりました,九州大 学の清原でございます。尾前照雄先生,ご丁寧なご 紹介ありがとうございました。私を久山町研究に導 いてくださった恩師の尾前先生に座長の労をお取り いただき大変光栄です。またこのような発表の機会 をお与えいただいた井手義雄会長に,厚く御礼申し 上げます。 久山町研究はもともと地域住民における脳卒中の 実態調査として始まった疫学調査です。私はもう 36年間この研究に携わっていますが,この長い間 に研究テーマが生活習慣病全体に広がりました。そ の中で現在,わが国では認知症が大きな健康問題と して浮かび上がっていますが,久山町研究でも認知 症が最も重要な研究課題になっています。本日は久 山町研究の成績をもとに,地域住民における認知症 の実態とその予防のあり方についてお話をさせてい ただきたいと思います。 1. わが国における高齢者認知症の患者数 スライドの淡色のバーは,4 年ほど前まで使われ ていた厚生労働省のわが国における高齢者認知症患 者の数を示しています(図 1)。これは 2002 年の介 護保険のデータより高齢者認知症の有病率(頻度)

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を求めて,それに日本の高齢人口を掛け合わせて求 めたものです。調査時点における患者数は約 150 万 人ですが,その後日本の高齢人口の増加とともに増 えて,2010 年には 208 万人,日本の高齢人口がピー クになる 2040 年頃に 400 万人近くになるだろうと 推計されました。しかし,この数はかなり少ないの ではないかという批判があり,その後厚生労働省が 同様の調査を再び行った成績が濃色のバーです。 2010年は 280 万人で,2025 年には 470 万人まで増 えるだろうと新たに予測しました。前回調査に比べ て増加した理由は,認知症高齢者が介護保険をよく 利用するようになり,その有病率が見かけ上増加し たことによると説明されました。その後,高齢者 5,386人を対象とした認知症有病率に関する全国調 査が行われました。その結果,有病率が 15% で, この数字に日本の高齢人口を掛け合わせると,2012 年の段階で 462 万人という数字が出ました。つまり, 調べれば調べるほどその数が増えて,実態はどうな のかがなかなか分からないのが実状です。この全国 調査の平均受診率は 68% で,疫学的にみると十分 に高いとはいえず,有病率も実際より低く見積もら れている可能性があります。つまり,実際の認知症 高齢者は 462 万人よりもっと多い可能性があること になります。 2. 久山町について その認知症の地域住民における実態,有病率の時 代的推移が分かる日本で唯一の地域が,実は私ども が疫学調査を行っている久山町です(図 2)。日本 で唯一というより世界で唯一,定点観測で認知症有 病率の時代的推移を調べている町です。 久山町研究は,1961 年にこの町で脳卒中の実態 調査として始まった疫学調査です。町の人口はこの 50年間に日本の平均レベルで約 30% 増加していま す。この間,お隣の福岡市とその周辺の町では久山 町を除いて,人口が倍以上に急増しました。九州で 一番人口が膨れ上がっている地域なのですが,その ような地域にあって久山町だけがなぜ全国平均で人 口が推移しているかといいますと,この町は極めて ユニークな都市計画を策定していまして,1970 年 に町の土地の 96% を市街化調整区域に指定して新 しい住宅がほとんど建てられないようにしていま す。そのために福岡市側からの人口の流入が抑えら れて,人口が安定しています。それが私どもの疫学 調査が長年にわたって継続できている大きな要因の 1つです。このような都市計画を策定したのは,急 激な都市化を防いでふるさとを守る,環境・自然を 守るという理念によるものです。 この久山町を疫学の対象に選んだ理由は,調査が 始まる前年の 1960 年の国勢調査で,町の人口構成, 就労人口の職業構成が日本の平均であったからで す。その後 50 年にわたりこの特徴は維持されてい ます。また,その後の栄養調査の成績をみると,住 民の栄養摂取状況も全国調査の国民健康・栄養調査 と同じように推移しています。つまり,久山町住民 わが国における高齢者認知症の患者数の推計 要介護(認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ度以上)認定者 自立度Ⅱ:日常生活が多少困難でも誰かが注意していれば自立可能 厚生労働省:高齢者介護研究会報告書より 0 100 200 300 400 500 患 者 数 ( 万 人) 2002年 2010年 2020年 2030年 2040年 (年度) 認知症有病率の全国調査 受診者数:5,386人 受診率:68% 有病率:15% 患者数:462万人 図 1

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は 50 年以上にわたって日本人の平均的なサンプル 集団であり続けたわけで,この町で認められる現象 は平均的に日本全国で起こっている現象と考えるこ とができると思います。 3. コホート研究とは 久山町研究の研究スタイルは前向き追跡(コホー ト)研究です。コホート研究では,最初にスクリー ニング調査を行って対象集団を設定し,対象者一人 ひとりの健康状態を把握します。そして,その集団 を時間の経過とともに前向きに追跡し,追跡開始時 の危険因子レベルと追跡期間中に発症する疾病との 関係を調べて両者の関係を検討します。たとえば, 追跡開始時の血圧レベルと追跡期間中の脳卒中など の心血管病発症との関係を調べて,血圧レベルが高 い人は心血管病の発症リスクが上昇するか否かを検 討するわけです。高血圧によって心血管病のリスク が上昇することが分かれば,時間的に先にある高血 圧が後で起こる心血管病と関連することから両者の 間には因果関係があり,高血圧は心血管病の危険因 子であることが明らかとなります。危険因子を同定 しそれを予防・管理することで,心血管病などの疾 病の発症を未然に防ぐ,つまり予防につなぐことが できます。これが前向き追跡研究です。 4. 久山町研究の追跡集団 久山町研究では 1961 年に最初に 40 歳以上の追跡 集団を設けて,その後 2 年ごと,1974 年からは 5 年ごとに時代の異なる追跡集団を設定しています。 最初のスクリーニング調査や追跡調査のデータを追 跡集団間で比べて,この間日本人の生活習慣病はど のように変化したか,各時代の日本人の重要な健康 問題は何なのかを調べています。集団のいろいろな 組み合わせで解析できるのですが,心血管病などの 生活習慣病については,最近では 1961 年,1974 年, 1983年,1993 年,2002 年,2012 年 に 行 わ れ た ス クリーニング健診を受けた住民を,それぞれ 1960 年代(1,618 人),1970 年代(2,038 人),1980 年代(2,459 人),1990 年代(1,983 人),2000 年代(3,108 人), 2010年代(3,167)を代表する集団としてそのデー タを活用しています。 認知症については 1985 年から 65 歳以上の高齢者 を対象に,コホート研究をスタートしました。その 後 2012 年まで計 5 回,ほぼ 7 年間隔でスクリーニ ング調査を繰り返し行って,認知症の頻度,有病率 の時代的推移を観察しています(図 3)。いずれの 調査も受診率は 90% を超えています。この研究は 世界で最初に始まった認知症の追跡調査でもありま す。スクリーニング調査を受診した住民を追跡して 認知症発症例を把握していますが,追跡率は 99% 以上で,亡くなった住民の 80% を剖検して死因お よび認知症の病型診断を正確に判定しています(図 4)。世界で最も精度の高い認知症のコホート研究と いっても過言ではありません。したがって,1985 年以降久山町で発症した認知症例は,ほぼ全例私ど もは把握していると考えています。わが国にはいく 図 2 福岡市

久山町

九州大学

1960年 2010年 久山町 6500人 8400人 福岡市 65万人 143万人 全 国 0.93億人 1.25億人

久山町の位置と人口

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つかの認知症の疫学研究がありますが,そのほとん どが認知機能低下の疫学調査で,認知症発症までき ちんと追跡している本格的なコホート研究は久山町 研究だけです。 5. 久山町の認知症有病率の時代的変化 精度の高い久山町の疫学調査で,地域住民におけ る認知症の実態について検討してみました。先ほど 申し上げた 5 回のスクリーニング調査の成績から認 知症有病率の時代的変化について検討すると,その 有病率は 90 年代から着実に上昇し,2012 年には 17.9%になりました(図 5)。つまり,現在では 65 歳以上の高齢者の約 18%,5∼6 人に 1 人が認知症 を有することになります。今地域では,脳卒中やが んの患者さんよりも認知症の患者さんの方が多いと いうのが実情です。久山町研究のように徹底した調 査を行って初めて分かるのが認知症の実態です。 認知症はいくつかの病型に分けられます。主なも のは血管性認知症(VaD)とアルツハイマー病(AD) で,私どもの剖検まで行った詳細な病型診断による と,最近ではこの 2 大病型が全認知症のおよそ 9 割 を占めます。久山町の 5 回のスクリーニング調査に おいて,DSM-3の診断基準で,認知症例を典型的 な VaD および AD と,病型不明およびその他の原 因によって起こった認知症を全て「その他」として 有病率の時代的推移をみると,VaD とその他の認知 症の有病率には時代的変化がありませんでしたが, ADの有病率だけが時代とともに急増していました (図 6)。 ADが増えている要因として人口の高齢化が指摘 されています。認知症,特に AD は加齢とともにそ のリスクが上昇することが知られていますが,日本 では高齢者でも後期高齢者,つまりより年齢の高い 高齢者の方が増えているので AD の有病率も増加し ている,との意見があります。この問題を検証する ために,認知症の 2 大病型の有病率の時代的推移を 年齢階級別に検討しました。その結果,VaD の有病 率はどの年齢階級でも明らかな時代的変化は認めら れず,横ばいでした。問題の AD の有病率は,80 歳以上になると時代とともに急峻に上昇しました が,75∼79 歳の一定の年齢層でも有意に増えてい ました。一定の年齢層でも増えているということは, 高齢化だけによって AD が増えているのではないと いうことを示しています。つまり,AD を増やして

久山町における認知症の断面調査と追跡調査、65歳以上

1985年 1998年 2005年 受診率=95% 97% 99.7% 92% 2012年 94% 1992年 断面調査時の認知症者 新たな認知症発症者 1 4 3 7 人 生 存 者 8 8 7 人 1 1 8 9 人 1 5 6 6 人 新 規 対 象 者 59人 68人 102人 195人 1 9 0 4 人 341人 図 3

久山町認知症研究の特徴

●全 住 民 を 対 象 ( 65 歳 以 上 ) ●前 向 き の 追 跡 研 究 ●研 究 ス タ ッ フ に よ る 健 診 ・ 往 診 ●受 診 率 ( 90 % 以 上 ) ●剖 検 率 ( 80 % ) ●追 跡 率 ( 99 % 以 上 ) 図 4

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いる要因があると考えられます。 6.  わが国における認知症高齢者数の将来予 測 この久山町の有病率のデータを日本全国に当ては めると,わが国の認知症高齢者の数は 1985 年 83 万 人,1992 年 92 万 人,1998 年 145 万 人,2005 年 310人,2012 年 551 万人と増え,現在約 550 万人 の認知症高齢者が存在することになります。高齢者 認知症の有病率の全国調査で試算した患者数は 462 万人でしたが,久山町のデータで試算すると 90 万 人も多いことになります。その差は調査の受診率の 違いによって生じたと考えられます。全国調査の受 診率は 68%,久山町の調査は 90% 以上です。受診 率が高くなると有病率が高くなり,真の値に近づき ます。私たちの調査では,受診率が 90% 以上ない と認知症の有病率は実際より低めに見積もられるこ とが明らかになっています。この久山町の認知症有 病率の時代的推移のデータから,わが国の認知症高 齢者の患者数の将来推計を行うと,10 年後の 2025 年頃に 730 万人になり,高齢人口がピークになる 2040年頃に 1,000 万人に達すると推定されます。こ の頃に日本の総人口は 1 億人まで減るといわれてい ます。したがって,25 年後には,国民の 10 人に 1 人が認知症というとんでもない社会が出現すること

認知症有病率の時代的変化

久山町男女、65歳以上 6.7 有 病 率 ( % ) 0 4 8 12 16 1985 1992 1998 2005 2012 調 査 年 5.7 7.1 12.5 17.9** + 20 + 傾向性 p<0.01 ** p<0.01 vs. 1985年 図 5

認知症の病型別有病率の時代的変化

久山町男女、65歳以上 2.4 1.4 2.9 1.9 1.7 1.8 2.1 3.4 1.9 3.3 6.1 3.1 0 2 4 6 8 10 12 14 血管性認知症 アルツハイマー病 その他 1985年 1992年 1998年 認 知 症 病 型 2005年 3.0 12.3 2.6 2012年 ** +傾向性 p<0.01 *p<0.05, **<0.01 vs. 1985年 ** * + 有 病 率 ( % ) 図 6

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になります。この負担に国家が耐えられない可能性 があります。つまり,認知症は国家的危機なのです。 私たちは,対象者をお亡くなりになるまでずっと 追跡していますが,その中で健常高齢者がどんどん 認知症になっていくのを目の当たりにしています。 そこで,60 歳以上の認知症のない高齢者を 17 年間 追跡したデータをもとに,健常高齢者が生涯に認知 症になる確率を試算してみました。その結果は何と 55%でした。つまり,60 歳以上の高齢者は生涯に 2人に 1 人が認知症になることになります。2 人に 1人が認知症になるということは,夫婦がどちらも 長生きすると,必ずどちらかが認知症になることを 意味します。子どもの立場からみると,両親がどち らも長生きすると必ずどちらかが認知症になること になります。夫婦にはそれぞれ親が 2 人で合わせて 4人いますから,運が悪いと一家に 2 人認知症の高 齢者がいることになる可能性も少なからずあること になります。その負担に家庭が耐えられるか,地域 が耐えられるかですが,たぶん耐えられないでしょ う。日本の家庭や地域が崩壊する可能性があります。 これが認知症の実態です。 7. 認知症の危険因子・防御因子 ご存じのように現在認知症の特効薬も予防薬もあ りません。普段の生活の中で認知症を予防するしか ないわけです。そのためには久山町研究のような追 跡研究によって,認知症の危険因子や防御因子を明 らかにしていく必要があります。以下では,久山町 研究の追跡調査で明らかになった成績を中心に,認 知症の危険因子,防御因子について述べます。 1) 糖尿病 a) 耐糖能レベルと認知症発症の関係 わが国の一般の高齢者における糖尿病と認知症の 関係を明らかにするために,1988 年の久山町の健 診で 75 g 経口糖負荷試験(OGTT)を受けた集団の うち,認知症のない 60 歳以上の高齢者 1,017 人を 15年間追跡した成績を用いてこの問題を検討しま した。 対象者を追跡開始時の耐糖能レベル(WHO 基準, 図 7)に基づいて正常耐糖能,空腹時血糖異常(IFG), 耐糖能異常(IGT),糖尿病群の 4 群に分け,認知 症発症の相対危険を年齢,性,学歴,高血圧,心電 図異常,body mass index(BMI),腹囲/腰囲比,血 清総コレステロール,脳卒中既往歴,喫煙,飲酒, 余暇時の身体活動度で多変量調整して算出しまし た。その結果,正常耐糖能群を基準にすると,AD 発症の相対危険は IFG 群では 0.6 と有意な上昇を認 めませんでしたが,糖尿病群では 2.1 と有意に高く, IGT群においても 1.6 と上昇傾向にありました(図 8)。同様に,VaD のハザード比も耐糖能レベルの悪 化とともに上昇し,糖尿病群で 1.8 と高い傾向を示 しました。 b) 血糖レベルと認知症発症の関係 さらに認知症の発症リスクが上昇する血糖レベル を検証するために,上記の集団を空腹時血糖値(100 未満,100-109,110-125,126 mg/dl 以上)と糖負 図 7 空腹時血糖値 0 126 140 200 (mg/dl) (mg/dl) 糖負荷後2時間血糖値

正常耐糖能

空腹時血糖異常(IFG)

耐糖能

異常(IGT)

糖尿病

110 75g経口糖負荷試験による糖代謝異常の診断基準(WHO基準)

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荷後 2 時間血糖値(120 未満,120-139,140-199, 200 mg/dl以上)のレベルでそれぞれ 4 群に分けて 認知症発症の相対危険を他の危険因子を調整して求 めました。 その成績では,空腹時血糖レベルと AD および VaD発症との間に明らかな関連は認めませんでした が(図 9),糖負荷後 2 時間血糖レベルの上昇に伴 い多変量調整した AD および VaD の発症リスクは 直線的に増加しました(図 10)。糖負荷後 2 時間血 糖レベル 120 mg/dl 未満のレベルに対して,AD の 発症リスクは 140-199 mg/dlの IGT のレベルで 1.9 倍,200 mg/dl 以上の糖尿病のレベルで 3.4 倍に有 意に上昇し,VaD の発症リスクは糖尿病のレベルで 2.7倍有意に高くなりました。また,アミロイドβ

Ohara T, et. al. Neurology 77: 1126, 2011 脳卒中既往歴、喫煙、飲酒、身体活動度 IFG:空腹時血糖異常、 IGT:耐糖能異常 調整因子:年齢、性、学歴、高血圧、心電図異常、BMI、腹囲/腰囲比、血清総コレステロール、 (73) (235) (150) (n) 正常 IFG IGT 糖尿病 (559) 0 1.6 1.0 (基準) 0.6 2.1* 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 耐糖能レベル

アルツハイマー病

* p<0.05 vs 正常 (73) (150) (n) (559) 耐糖能レベル 正常 IFG IGT 糖尿病 (235) 0 1.4 1.0 (基準) 1.0 1.8 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

血管性認知症

相 対 危 険 図 8 図 9

空腹時血糖レベル別にみた病型別認知症発症の相対危険

久山町男女1,017人、60歳以上、1988-2003年、多変量調整 調整因子:年齢、性、学歴、高血圧、心電図異常、BMI、腹囲/腰囲比、血清総コレステロール、 脳卒中既往歴、喫煙、飲酒、身体活動度

アルツハイマー病

血管性認知症

0 1.0 (294) (160) (102) (n) (461) 空腹時血糖レベル (mg/dl) -99 100-109 110-125 126-1.0 0 2.0 (294) (160) (102) (n) (461) 空腹時血糖レベル (mg/dl) -99 100-109 110-125 126-1.1 1.0 1.4 1.2 1.5 1.0 2.0 相 対 危 険 1.0 (基準) 1.0 (基準) 1.5 0.5 1.5 0.5

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蛋白の沈着によって形成される老人斑は,AD に特 徴的な病理学的所見の一つと考えられていますが, 生前に OGTT を受けた後に死亡し剖検を受けた久 山町住民 135 例について,生前の血糖レベルと老人 斑形成との関連を検討すると,やはり空腹時血糖レ ベルと老人斑形成との間に有意な関連は認めません でしたが,糖負荷後 2 時間血糖値の上昇は老人斑の 存在と有意に関連していました。 糖負荷後 2 時間血糖値は,食後高血糖によって引 き起こされる酸化ストレスやインスリン抵抗性の良 い指標であり,動脈硬化と密接に関連することが知 られていますが,AD および VaD 発症においても重 要な役割を演じていることがうかがえます。この久 山町研究の成績は,海外の追跡調査のうち主に OGTTを行った研究で糖尿病と AD 発症の間に有意 な関係が認められたことと合わせて,AD のリスク を予測するうえで糖負荷後 2 時間血糖値,つまり食 後高血糖を評価することの重要性を示しているとい えます。 c) 糖尿病有病率の時代的変化 それではわが国の地域住民における糖代謝異常 (糖尿病+境界型)の有病率はどのように変化して いるのでしょうか。この問題を明らかにするために, 前述の久山町の 1960 年代から 2000 年代の集団(40 歳以上)を用いて,糖代謝異常の有病率の時代的変 化を検討しました。 その結果,年齢調整後の糖代謝異常の有病率は, 1961年の男性 11.6%,女性 4.8% から 2002 年には それぞれ 54.5%,35.5% まで男女とも大幅に増加し ました。1988 年と 2002 年の健診では,40-79歳の 受診者のほぼ全員に OGTT を行い,耐糖能レベル を正確に判定しています。その成績をみると,糖尿 病の有病率は 1988 年では男性 15.3%,女性 10.1% でしたが,2002 年にはそれぞれ 24.0%,13.4% に上 昇しました(図 11)。この間,IGT は男性では 19.0% から 21.4% に,女性では 18.7% から 20.9% に,IFG もそれぞれ 7.9% から 14.3%,4.8% から 6.5% に増 加しました。すなわち,最近の地域住民では糖尿病 のみならず IGT と IFG のいずれも増加し,この年 齢層の男性の約 6 割,女性の約 4 割が何らかの糖代 謝異常を有していると推定されます。つまり,高齢 化とともに糖尿病および境界型が増加していること が,わが国で認知症が増え続ける主な要因と考えら れます。 2) 高血圧 次に,久山町における追跡調査の成績より,老年 期および中年期の血圧レベルと老年期における認知 症発症との関係を検討しました。 1988年に,久山町のスクリーニング健診を受け た 65-79歳の住民 668 人を追跡開始時(老年期)の 血圧レベル(米国高血圧合同委員会の第 7 次報告書,

負荷後2時間血糖レベルにみた病型別認知症発症の相対危険

久山町男女1,017人、60歳以上、1988-2003年、多変量調整 -119

200-アルツハイマー病

血管性認知症

0 0 1 4 (186) (254) (127) (n) (450) 1.5 * p<0.05 vs -119mg/dl 負荷後2時間血糖レベル (mg/dl) -119 120-139 140-199 負荷後2時間血糖レベル (mg/dl) 120-139 140-199 200-(186) (254) (127) (n) (450) 1 4 1.1 1.4 2.7* ** 3.4 ** p<0.01 1.9 2 3 2 3 * 1.0 (基準) 1.0 (基準) 相 対 危 険 調整因子:年齢、性、学歴、高血圧、心電図異常、BMI、腹囲/腰囲比、血清総コレステロール、 脳卒中既往歴、喫煙、飲酒、身体活動度

Ohara T, et. al. Neurology 77: 1126, 2011

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JNC-7)で分けて 17 年間追跡し,VaD および AD 発 症の相対危険を他の危険因子を調整して算出しまし た(図 12)。その結果,VaD 発症の相対危険は老年 期の血圧レベルとともに上昇し,正常血圧(<120/80 mmHg)に比べステージ 1 高血圧症(140-159/90-99 mmHg)から有意差を認めましたが,血圧レベルと AD発症リスクとの間に有意な関連はみられません でした。また,この集団が 15 年前の健診を受診し た際の血圧値を用いて中年期の血圧レベルと老年期 における認知症発症との関係を検討すると,やはり VaD発症のリスク血圧レベルの上昇とともに直線的 に増加し,老年期の高血圧より影響が強いことが明 らかとなりました。しかし,やはり中年期血圧レベ ルと AD 発症との間に明らかな関連は認められませ んでした。海外の追跡研究でも,老年期の高血圧が AD発症と関係するという報告は 1 つもありません。 正常 空腹時血糖異常 耐糖能異常 糖尿病

久山町における糖代謝異常の頻度の時代的変化

1988年(2,490人)と2002年(2,852人)の比較, 40-79歳

Mukai N, et al. J Diabetes Invest 5: 162, 2014

0 20 40 60 80 100 (%) 1988年 2002年 0 20 40 60 80 100 (%) 15.3 24.0 19.0 21.4 7.9 14.3 57.8 40.3 10.1 13.4 18.7 20.9 4.8 6.5 66.5 59.1 図 11

老年期および中年期血圧レベル別にみた病型別認知症発症の相対危険

久山町男女668人、平均72歳、1988-2005年(老年期): 534人、平均57歳、1973-2005年(中年期)、多変量調整 調整因子:年齢、性、学歴、降圧薬服用、糖尿病、血清総コレステロール、BMI、脳卒中既往歴、 慢性腎臓病、喫煙、飲酒

Ninomiya T, et. al. Hypertension 58: 22, 2011

* 0 2 (227) (200) (135) (n) (106) 5.6 0 2 4 (227) (200) (135) (n) (106) 1.0 (基準) 0.7 1.0 0.8 1.0 (基準) 3.0 4.5 * p<0.05 vs 正常血圧 4 * 6 6 8 8 10 10 正常血圧 高血圧前症 Ⅰ度高血圧 Ⅱ度高血圧 血圧レベル(JNC-7) 正常血圧 高血圧前症 Ⅰ度高血圧 Ⅱ度高血圧 血圧レベル(JCNC-7)

アルツハイマー病

血管性認知症

相 対 危 険 10.1* * 老年期 中年期 図 12

(10)

また,中年期の高血圧と老年期の認知症の関係を検 討した海外の研究のうち,両者の間に有意な関係を 認めた報告はエビデンスレベルが低い中国とフィン ランドの後ろ向きコホート研究の 2 つがあるだけで す。 以上より,高血圧と AD の間には関連が認められ ないことから,高血圧によって AD の有病率が増加 したのではないということがわかります。中年期の 高血圧は老年期より VaD 発症に及ぼす影響が大き いことから,VaD 予防のためには高血圧は早期発見, 早期治療すべきで,若い時からきちんと管理しなけ ればならないといえます。 3) 喫煙 その他の危険因子のうち重要なのは喫煙です。久 山町の追跡調査では,生涯にわたり喫煙しなかった 群に比べ,中年期から老年期にかけて喫煙を続けた 群の AD の発症リスクは 2.0 倍,VaD のリスクは 2.9 倍有意に上昇していました(図 13)。一方,老年期 になって禁煙した群では AD および VaD の発症リ スクが減少し,非喫煙群との有意差は認められませ んでした。つまり,長期にわたる喫煙は認知症発症 の有意な危険因子といえますが,老年期であっても 禁煙によってそのリスクが低下することが示唆され ます。年をとってからでも禁煙は有益だと考えられ ます。 4) アルコール摂取 わが国では,アルコール摂取が認知症発症に与え る影響を検討した前向き追跡研究の報告はほとんど ありません。この問題を検討した海外の研究報告を まとめたメタ解析の成績では,少量∼中等量のアル コール摂取によって AD の発症リスクは 0.7,つま り 30% ほど低下しますが,アルコール摂取量が多 量になるとその予防効果がなくなるという成績があ ります(図 14)。VaD についても同じような成績が あります。お酒飲みには朗報で,アルコール中毒は 例外として,日常の飲酒で認知症のリスクが上昇す ることはないようです。ただし,今述べたことが日 本人に当てはまるのかどうかは,日本人を対象にし た追跡研究で検証する必要があります。 5) 運動 1995年に,久山町研究は世界に先駆けて余暇時 あるいは仕事中の運動が AD 発症のリスクを有意に 低下させることを報告しました(相対危険 0.2)。そ の後,海外の追跡研究でこの成績が追試され,現在 では運動が認知症の有意な防御因子であることが定 説となっています。この久山町研究の成績も含めた 最近のメタ解析より,運動によって AD のリスクが 45%減少することが報告されています(図 15)。 VaDについても同様の成績があります。認知症予防 に最も効果的な運動の種類や量を明らかにすること

喫煙レベルの推移と病型別認知症発症の相対危険

久山町住民 616人, 65-84歳, 1988-2005年, 多変量調整 調整因子:年齢、性、学歴、高血圧、降圧薬服用、心電図異常、糖代謝異常、BMI、血清総コレステロール、 脳卒中既往歴、飲酒 (95) (112) (n) (409) 非喫煙 喫煙 喫煙 中年期 非喫煙 非喫煙 喫煙 老年期 喫煙レベル (95) (112) (n) (409) 非喫煙 喫煙 喫煙 非喫煙 非喫煙 喫煙 喫煙レベル 0 1 2.9 0 1 2 1.0 (基準) 1.6 2.0 1.0 (基準) 2.0 2 * p<0.05 vs. 非喫煙→非喫煙 ** 3 3 * ** p<0.01 相 対 危 険 アルツハイマー病 血管性認知症

Ohara T, et al: J Am Geriatr Soc 63: 2332, 2015

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が今後の課題といえます。 6) 食事性因子 食生活は人の健康に影響を与える最も身近な環境 要因の 1 つです。われわれは日頃さまざまな食物を 摂取しますが,人によってその食べ方に違いがあり ます。しかし,集団としてみた場合,その食べ方は いくつかのパターンに分けることができます。そこ で,1988 年に久山町の住民健診で食事調査を受け た認知症のない高齢者を対象にした追跡研究におい て,食事パターンと認知症発症の関係を検証してみ ました。 はじめに 1988 年の追跡開始時に行った食事調査 の成績を用いて,これまで認知症と関係があると報 告されている栄養素と関連する食事パターンを縮小 ランク回帰法により求めました。その結果,抽出し たいくつかの食事パターンのうち,大豆・大豆製品, 緑黄色野菜,淡色野菜,海藻類,牛乳・乳製品の摂 取量が多く,米の摂取量が少ないという食事パター ンが,これまで報告された認知症に関連する可能性 のある栄養素と最も強い相関を示しました(図 16)。この食事パターンには,果物・果物ジュース, イモ類,魚の摂取量が多く,酒の摂取量が少ないと いう傾向もみられました。 次にこの食事パターンのスコアで対象者を 4 等分 して 15 年間追跡し,認知症発症に対する影響を多 アルコールがアルツハイマー病発症に及ぼす影響、メタ解析

WHICA Project: Washington Heights-Inwood Columbia Aging Project *: 有意差あり 対象集団、国 対象者数年齢 (歳) 追跡 期間 相対危険 Rotterdam Study, オランダ 5,395 55- 平均 6年 0.9 Chongqing City, 中国 2,632 60- 2年 0.6* PAQUID Study, フランス 2,950 65- 8年 0.8 Kungsholmen Project, スウェーデン 402 75- 6年 0.7 Cardiovascular Health Study, 米国 746 65- 6年 0.9 WHICA Project, 米国 980 65- 4年 0.5*

Pooled (random effect) 0.7*

対象集団、国 対象者数年齢 (歳) 追跡 期間 相対危険 Rotterdam Study, オランダ 5,395 55- 平均 6年 1.2 Chongqing City, 中国 2,632 60- 2年 1.4 Cardiovascular Health Study, 米国 746 65- 6年 0.9 Kwangju City, 韓国 592 65- 平均 2.4年 0.7

Pooled (random effect) 0.9

少量~中等量のアルコール 多量のアルコール

Anstey KJ, et. al. Am J Geriatr Psychiatry 17: 542, 2009

図 14

運動がアルツハイマー病発症に及ぼす影響、メタ解析

Hamer M, et. al. Psychol Med 39: 3, 2009 対象集団、国 対象者数性年齢(歳)追跡年数 相対危険(95%信頼区間)

Honolulu-Asia Aging Study、米国 Chicago Health and Aging Project、米国 Cardiovascular Health Cognition Study、米国 2,257 7年 0.61 (0.36-1.02) 1.04 (0.98-1.10) 0.55 (0.34-0.88) 0.35 (0.16-0.80) 71-93 男 1,249 男女 65- 平均4.1年 3,375 男女 65- 平均5.4年 Cardiovascular risk factors, Aging and Incidence of Dementia Study、フィンランド 1,449 男女65-79 平均21年 0.20 (0.06-0.68) Hisayama Study、日本 828 男女 65- 7年 0.55 (0.36-0.84) 0.25 0.5 1.0 2.0 図 15

(12)

変量解析で他の危険因子を調整して検討しました。 その結果,これらの食品を多く摂取している群ほど 全認知症の発症リスクが有意に低下しました(図 17)。病型別にみると,この関係は AD と VaD でも 認められました。 減らすと良い食品となった米を単品でみると,そ の摂取量と認知症発症との間に明らかな関連はみら れませんでした。一定の摂取カロリーの中で,米(ご はん)の摂取量を減らして予防効果がある他の食品 (おかず)の量を増やす食事パターンが良いことを 物語っているといえます。主食(米)に偏らない野 菜豊富な日本食に牛乳・乳製品を加えた食事が,認 知症予防に有効と考えられます。 7) 危険因子・防御因子のまとめ 以上をまとめますと,久山町研究で現在見つかっ ている危険因子は,糖尿病(特に食後高血糖),高 血圧,喫煙で,防御因子は運動と野菜豊富な和食+ 乳製品の食事パターンです(図 18)。そして,少量 のアルコールがひょっとすると認知症を予防するか もしれません。このアルコールについては今後日本 人で検証すべき課題です。 これらのことを実践すれば,認知症のリスクをか なり減らすことができると期待できます。疫学研究 の利点は,認知症発症のメカニズムが十分に解明さ れていなくても,また治療法が見出されていなくて も,認知症の予防手段を明らかにすることができる

認知症予防のための食事パターン

多めの食品

少なめの食品

大豆・大豆製品

緑黄色野菜

淡色野菜

海藻類

牛乳・乳製品

果物・果物ジュース

芋類

Ozawa M, et. al. Am J Clin Nutr 97: 1076, 2013

図 16

食事パターンスコアレベル別にみた認知症発症の相対危険

久山町男女1,006人、60-79歳、1988-2005年、多変量調整

Ozawa M, et. al. Am J Clin Nutr 97: 1076, 2013

* p<0.05 vs Q1 † 傾向性 p<0.05 1.0 (基準) 0.85 0 0.5 1.0 Q1 (低) 食事パターンスコアレベル (n) (251) (252) 0.72 0.66 (252) (251) Q2 Q3 Q4 (高) 調整因子:年齢、性、学歴、糖尿病、高血圧、血清総コレステロール、脳卒中既往、BMI、 喫煙、運動、総エネルギー摂取量 † * 相 対 危 険 図 17

(13)

ことです。久山町研究で明らかとなった予防手段を 国民全体に普及させることで,25 年後の 1,000 万人 認知症高齢化社会の出現を阻止することができる と,私は考えています。また,久山町研究で見出さ れた認知症の予防手段は,心血管病やがんも予防す ることができる,つまり生活習慣病全体を予防する ことができると期待しています。 8. わが国の認知症対策 以上申し上げたことが個人個人ができる認知症の 予防対策ですが,国の対策はどうなのか少し触れた いと思います。実は 2014 年 10 月末に,内閣府の健 康・医療戦略推進本部(全閣僚会議)に呼ばれて, 今申し上げた久山町における認知症の実態と今後の 対策のあり方について発表して参りました。その中 で,日本人の認知症予防のエビデンスを作るために, 久山町を入れた全国 8 カ所で久山町研究のようなコ ホート研究を設定して統合し,全国で 1 万人の追跡 集団を創設することを提案しました。この大規模追 跡調査によって認知症の発症率,危険因子,予後を 解明しそれを認知症予防につなげ,さらにこのコ ホート研究にゲノム解析やメタボローム解析など基 礎的研究の知見を加えて認知症の病態解明を行え ば,日本人の認知症を克服することができるのでは ないかと考えました。 それから 1 週間後の 2014 年 11 月 6 日に,G8 認 知症サミットの日本後継イベントが行われたのです が,ここで安倍首相が省庁横断の国家戦略として認 知症対策をやることを明言されました。その中で, 久山町の取り組みをもとに創設される先ほどの認知 症の 1 万人追跡調査を実施して認知症を予防するこ とに触れていただきました。その流れで,それまで あった認知症対策のオレンジプランを見直して, 2015年 1 月に新オレンジプランが策定されました。 これは,「医療介護との連携によって認知症の方の 支援」,「認知症の予防治療のための研究開発」,「認 知症高齢者等にやさしい地域づくり」の 3 つの柱か らなり,ここでそれまでなかった認知症の予防とい う文言が初めて入りました(図 19)。それが私が提 案した 1 万人の高齢者の追跡調査による認知症の予 防手段の確立です。国も本格的に認知症対策をやっ てくれることになりそうで,期待したいと思います。 1950年代,日本の脳卒中死亡率は世界で最も高 いレベルにありました。久山町研究は,地域住民に おける脳卒中の実態解明と予防を目指して始まった 研究です。日本人はこの国民病であった脳卒中を予 防して,現在世界一の長寿国をつくり上げたわけで す。賢明な日本人は国民病の脳卒中を克服すること ができたわけですから,この国家的危機である認知 症も予防することができると私は確信しています。 ご清聴ありがとうございました。 尾前 : ありがとうございました。非常に高齢化社 会を迎えている現代,認知症の問題はますます重要 になると思います。認知症の発症に関係するいろい 運動 野菜豊富な和食+乳製品 少量のアルコール? 防御因子

認知症の危険因子と防御因子

糖尿病、とくに食後高血糖 高血圧 たばこ 危険因子 図 18

(14)

ろな病気,糖尿病が非常に関係しているということ。 血圧が VaD には非常に関係があるというのは当然 のことですが,それ以外に生活習慣は非常に関係が あるということ。運動や日常の食べ物,喫煙,飲酒, 広い範囲にわたって久山町の研究を中心に話してい ただきました。せっかくの機会ですから何かご質問 があれば答えていただけるのではないかと思います が,いかがでしょうか ? どうぞ。 K : 本日は貴重なご講演誠にありがとうございま した。高齢者のライフスタイルで非常に大きな変化 が,やはり働いているかいないか,あるいは目的を 持って高齢者が毎日を生活されているか,というの は非常に大きな問題ではないかと思います。一億総 活躍の時代を迎えるということは,高齢者もそのよ うな社会生活に参加しようということも意味してい るのではないかと思います。こうした調査をなさっ てはいないと思うのですが,先生の印象なりお考え なり聞かせていただければと思います。 清原 : 高齢者が働くことが良いかどうか,またど のような働き方をすれば良いかということが問題で はないかと思います。先ほど運動が AD を予防する という久山町研究の初期のデータを申し上げました が,体を動かして働くことも AD の予防効果がある ことが分かっています。知的労働でも肉体労働でも, 働いて体を動かすことが認知症を予防すると期待さ れます。どのような働き方や仕事の種類が認知症を より予防するのかなどについて,今後さらに詳細に 検討していきたいと思います。 K : 日野原先生のような方もいらっしゃいます し,是非みんなが希望を持ってやっていければなと 思っています。どうもありがとうございました。 尾前 : 生活習慣病という言葉が成人病,老人病に 入れ替わり,広く使われるようになってすでに 20 年近くなると思います。最初に生活習慣病と言われ た当時,認知症は入っておらず,あまり問題になっ ていませんでした。 しかし,現在は生活習慣に最も関係があるのは, どうも認知症ではないかという時代に今なっている と思います。日頃の生活自体が認知症の発症に関係 し,高齢化が急速に進むという中で,若い時からの 生活習慣を考え直す,認知症を予防できるような生 活習慣に持っていくということは,日本人全体の大 変重要な問題ではないかと考えるわけです。今日, 清原先生から久山町の仕事を中心にして,包括的な, しかも詳細なお話をうかがって,ご参考になる点が あったのではないかと思います。 (終了) 図 19

参照

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