氏 名 福島 久貴 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工博4甲 第212号 学 位 授 与 年 月 日 平成29年 3月 23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 先進医療科学専攻
学 位 論 文 題 名 Changes of function and dynamics in tissue macrophage in non-alcoholic fatty liver disease
(脂肪肝に起因する肝障害・肝硬変における臓器マクロファージ 機能動態変化について) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 喜多村 和郎 委 員 准教授 鈴木 章司 委 員 講 師 古屋 文彦
学位論文内容の要旨
【研究の目的】 非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)は 90 年代後半頃より認識されるようになった疾患で、発症 原因にアルコールが関係せずアルコール性肝障害に類似した進展を示す。近年、日本ではメタボリックシ ンドロームの増加により、NAFLDに伴う肝硬変を背景とした肝細胞癌の罹患率が増加しつつあり、その 病態を解明することは終末期に認める肝細胞癌の発症抑制において重要である。発生に至る機序の詳細 は未だ十分に解明されていないが、脂肪肝に伴う肝内酸化ストレスにより発症するのではないかと考えら れている。その酸化ストレスの原因としては、マクロファージ(Mf)や好中球などの炎症性細胞由来の活性酸素、 鉄の蓄積、インスリン抵抗性、炎症性サイトカインなどがあげられている。また、NAFLDにおいては、その病態 進行に伴い、肝臓で M2 Mfの減少と 、M1 炎症性Mfの増加により炎症性サイトカイン産生が亢進し、 肝細胞壊死伴う線維化を惹起されると報告されている(Biomed Res Int. 2015; 2015: 984578) 。このように、マクロファージを中心とした炎症性細胞はNAFLDの病態進行並びに肝発現に関 与していると考えられる。そこで、今回、肝臓と脾臓Mfの機能や動態変化についてNAFLDモデルマウ スを用いて検討した。【方法】
① NAFLD モデルとして自然発症 NAFLD(STAM®)マウス(8 週齢)を、コントロール(C)群として C57/BL6 マウスを用いた。C 群には chow diet を、N と F 群には高脂肪食を投与した。NASH(N) 群は餌開始後 7 週目、NASH fibrosis(F)群は 9 週目に犠牲させ、肝、脾組織を摘出した。コラ ゲナーゼ灌流法と、Nycodenz®を用いた濃度勾配法で Mf を分離、検討に用いた。肝臓、脾臓の Mf による貪食能を FITC label latex beads を用い検討した。CD68、F4/80 陽性細胞を免疫組織染色 にて検討した。分離 Mf を LPS で刺激した後に IL-6、TNF- 、IL-10 を ELISA 法で測定し検討。
肝、脾 Mf における CD14/CD16 発現を二重蛍光免疫染色法で検討した。 ② NAFLD の進行に伴う肝臓と脾臓 Mf の動態を検討するため、8 週齢 C57/BL6 マウスに 5Gy×2 回全 身照射した後に CAG-EGFP 蛍光マウスより採取した骨髄を移植した。その後 MCD 食を摂取させ NAFLD を誘導し 4、8、12、16 週で犠牲死させ Mf の動態について検討した。また、4 週齢で脾摘 を施行した C57/BL6 マウスに 8 週齢で同様に骨髄移植した後 MCD 食を摂取させ 4、8、12、16 週 で犠牲死し、Mf の動態を検討した。 【結果】 ① CD68 陽性細胞は、肝臓では F 群で増加したが有意差を認めなかった。脾臓では N 群で C 群より 有意に増加した。F4/80 陽性細胞数は、肝臓では C 群<N 群<F 群と有意に増加を認めたが、脾 臓では増加するものの有意差を認めなかった。NAFLD の病態進行に伴い、脾 Mf の貪食能が亢進 し肝 Mf で減少した。M1/M2 比は、肝 Mf は N、F 群で有意に増加し、脾臓 Mf では f 群において有 意に増加を認めた。TNF- 産生は肝臓、脾臓共に NAFLD の病態進行と共に有意に増加し、肝 Mf の産生は、脾 Mf と比較し有意に亢進した。肝臓 Mf の IL-6 と IL-10 は、N 群で亢進していた。 脾 Mf の IL-6 産生は NAFLD 病態の進行に伴い増加を認めた。二重蛍光免染法で CD14+CD16- は NAFLD の進行に伴い減少するものの肝 Mf では有意差を認めなかったが、脾臓では F 群で有意差 をもって増加していた、CD14+CD16+ は肝 Mf の F 群で有意に増加していたが脾 Mf では N 群、F 群共に有意に減少していた。 ② 骨髄移植後 4 週間の脾臓で EGFP が陽性となり、8 週後 肝臓で陽性となった。16 週後の肝臓で検 討したところ EGFP 陽性細胞はF4/80 陽性細胞と一致しており、CD68 でも同様の結果であった。 脾摘モデルでは移植後 4 週、8 週において肝臓に EGFP 陽性細胞を認めなかった。 【考察】 NAFLD の病態が進行するに従い、肝 Mf は M1Mf 優位となり、炎症性サイトカイン産生が脾臓 Mf と比 較し有意に増加した。肝 Mf の貪食能の低下により代償性に脾 Mf の貪食能が亢進している可能性が 示唆された。 NASH における炎症性 Mf の増加は、移植された EGFP 陽性細胞がその進行に伴い増加し、さらに CD68、 F4/80 陽性、CD163 陰性であることから M1Mf であり、それは肝臓組織由来ではないことが示された。 また、脾摘モデルを用い NAFLD を誘導し検討したものの、EGFP 陽性細胞は認めなかった結果より、 これらの炎症細胞は脾臓経由である可能性が示唆された。 【結論】 NAFLD の進行に伴い Mf の機能は変化していた。また、NAFLD の病態進行とともに肝臓で増加した炎症 性 Mf が脾臓経由で肝臓へ遊走している可能性が考えられた。このことは、NAFLD を併発している患 者に対する脾摘についてその後の肝臓での炎症性 Mf の増加を抑制し NAFLD の進行に影響する可能性 が考えられる。今後さらに検討を進め、その機序、誘導因子等を明らかにしていきたい。
論文審査結果の要旨
非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)は 90 年代後半頃より認識されるようになった疾患で、発症 原因にアルコールが関係せずアルコール性肝障害に類似した進展を示す。近年、日本ではメタボリックシンドロームの増加により、NAFLD に伴う肝硬変を背景とした肝細胞癌の罹患率が増加しつつあり、そ の病態を解明することは終末期に認める肝細胞癌の発症抑制において重要である。また、NAFLD におい ては、その病態進行に伴い、肝臓で M2 マクロファージ(Mf)の減少と 、M1 炎症性 Mf の増加により 炎症性サイトカイン産生が亢進し、肝細胞壊死伴う線維化を惹起されると報告されている。そ こで、今回、肝臓と脾臓Mf の機能や動態変化について NAFLD モデルマウスを用いて検討した。 【方法】 ① NAFLD モデルとして自然発症 NAFLD(STAM®)マウス(8 週齢)を、コントロール(C) 群としてC57/BL6 マウスを用いた。C 群には chow diet を、NASH(非アルコール性脂肪肝炎、 N)と NAFLD fibrosis(F)群には高脂肪食を投与した。N 群は餌開始後 7 週目、F 群は 9 週 目にsacrifice した。肝臓、脾臓の Mf による貪食能を FITC label latex beads を用い検討した。 CD68、F4/80 陽性細胞は免疫組織染色にて検討した。分離 Mf を LPS で刺激した後に IL-6、 TNF-α、IL-10 を ELISA 法で測定し検討した。肝、脾 Mf における CD14/CD16 発現を二重 蛍光免疫染色法で検討した。 ② NAFLD の進行に伴う肝臓と脾臓 Mf の動態を検討するため、8 週齢 C57/BL6 マウスに 5Gy×2 回全身照射した後にCAG-EGFP 蛍光マウスより採取した骨髄を移植した。その後 MCD 食を 摂取させ NAFLD を誘導し Mf の動態について検討した。また、4 週齢で脾摘を施行した C57/BL6 マウスに 8 週齢で同様に骨髄移植した後 MCD 食を摂取させ検討した。 【結果】 ① CD68、F4/80 陽性細胞は、肝臓脾臓ともに病態の進行と共に増加した。病態進行に伴い、脾 Mf の貪食能が亢進し肝 Mf で減少した。M1/M2 比は、肝臓脾臓共に増加を認めた。TNF-α 産生は肝臓、脾臓共にNAFLD の病態進行と共に有意に増加し、肝 Mf の産生は、脾 Mf と 比較し有意に亢進した。肝臓 Mf の IL-6 と IL-10 は、N 群で亢進していた。脾 Mf の IL-6 産生はNAFLD 病態の進行に伴い増加を認めた。二重蛍光免染法で CD14+CD16- は NAFLD の進行に伴い減少するものの肝 Mf では有意差を認めなかったが、脾臓では F 群で有意差を もって増加していた、CD14+CD16+ は肝 Mf の F 群で有意に増加していたが脾 Mf では N 群、 F 群共に有意に減少していた。 ② 骨髄移植後 4 週間の脾臓で EGFP が陽性となり、8 週後 肝臓で陽性となった。16 週後の肝 臓で検討したところEGFP 陽性細胞はF4/80 陽性細胞と一致しており、CD68 でも同様の結 果であった。脾摘モデルでは移植後4 週、8 週において肝臓に EGFP 陽性細胞を認めなかっ た。 【考察】 NASH における炎症性 Mf の増加は、移植された EGFP 陽性細胞がその進行に伴い増加し、それら はM1Mf であり、それは肝臓組織由来ではないことが示された。また、脾摘モデルを用い NAFLD を 誘導し検討したところ、EGFP 陽性細胞は有意に減少していた結果より、これらの炎症細胞は脾臓経 由である可能性が示唆された。 NAFLD の病態進行とともに肝臓で増加した炎症性 Mf が脾臓経由で肝臓へ遊走している可能性が 考えられた。このことは、NAFLD を併発している患者に対する脾摘についてその後の肝臓での炎症
性Mf の増加を抑制し NAFLD の進行に影響する可能性が考えられる。 【結論】 本研究は NAFLD における炎症性マクロファージの動態とその由来およびサイトカイン産生を初 めて明らかにし、脾臓摘出が有効な外科的治療となる可能性を示したものである。実験は文献をもと に、これまで報告のある信頼できる方法で進められており、全てのデータに捏造や改ざんはないと認 められる。 以上のことから本審査委員会は、学位の授与に値すると判断した。ただし、本論文の内容をすみや かに査読付き学術雑誌に掲載または受理されることが望ましい。