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ドイツにおける裁判外紛争解決 利用統計を見る

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その他(別言語等)

のタイトル

Ausergerichtliche Streitbeilegung in

Deutschland

著者

ヴォルフガング フォイト

著者別名

Wolfgang VOIT

雑誌名

東洋法学

62

3

ページ

323-334

発行年

2019-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00010355/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

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《 講  演 》

ドイツにおける裁判外紛争解決

ヴォルフガング フォイト

翻訳:坂本恵三

 皆様、本日皆様にドイツの裁判外紛争解決というテーマで講演できることを うれしく思っている。講演では、一方では紛争解決の様々な方式についての概 要を皆様にお示しし、他方ではいくつかのアクチュエルな争いのある問題と議 論の要点をお示しする予定である。しかし時間が限られているので、個々の紛 争解決手続における手続の流れの詳細について触れることは割愛する。 一 裁判外紛争解決――ドイツではどちらかといえば新たな現象  ドイツでは紛争のほとんどは、国家の裁判所において解決される。裁判沙汰 にすることをためらうことはあまりない。―― むしろそのようなためらいは 減少している。企業だけでなく消費者も、自己の権利を裁判によって実現する という傾向を強めている。ドイツではインターネットで弁護士事務所が、多数 の消費者に関わるケースにおいて消費者の利益を代理するという宣伝を様々に 行っている。その例として挙げられるのは、排気ガス数値が偽装されたため騙 されたと感じ、賠償請求を裁判所で主張しようとする自動車購入者の請求であ る。  多数の訴訟が国家の裁判所において行われるという結果がドイツで生じるこ とを阻害する契機がほとんど存在しないだけでなく、ドイツにはきちんと機能 する適切な裁判権が存在する。我々が法治国家の手続として重要であると考え ている諸原則は、ドイツ憲法において保障されている。ドイツの最上級の裁判 所、すなわち連邦憲法裁判所は、これら基準が順守されることを配慮してい

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る。その際連邦憲法裁判所は、これら手続原則を非常に広く解釈し、その結 果、個別の事例においてもこれらの手続原則に重要な意義が認められるのであ る。  たとえばドイツでは、司法付与請求権、すなわち裁判所へのアクセスは、憲 法上保障されている。このことは、国家が裁判所を利用できるようにしなけれ ばならないということを意味するだけではなく、この原則は、原告が手続費用 を工面できないという理由で訴えを断念することがあってはならないという内 容で理解されている。それゆえ裁判所へのアクセス権からは、経済的に貧しい 場合には原告は訴訟費用扶助を受けなければならないという原則も導かれる。 したがって原告は、弁護士費用と鑑定費用も含めて裁判手続費用を国庫から支 給される。経済状況に応じて原告は、全く支払う必要がないか、月払いの分割 払いが命じられる。しかし敗訴した場合には、原告は、被告の弁護士費用と被 告の手続費用を賠償しなければならない。  裁判官の中立原則についてもドイツでは非常に厳格に解釈されている。裁判 官は、具体的な法的紛争のために指定されてはならず、どの裁判官が職務担当 するかを定める抽象的な準則が存在しなければならないのである。この準則 は、立法者によって定められなければならない。個別の裁判所レベルでは、所 長(長官)が、これを定める。しかし個人自体の中立性も、憲法裁判所が、監 視する。これは、裁判官の独立性に関わる問題である。裁判官の任期は終生で あり、それゆえ裁判官を解雇することはできない。裁判官を、その意思に反し て他の裁判所へ配置換えすることもできない。国や省庁の指示を裁判官に与え ることもできない。裁判官は、裁判する際自由である。  さらに、理性的に考慮した場合中立ではないという印象のある裁判官を、当 事者が忌避することができることが、憲法上要請される。  連邦憲法裁判所は、審問請求権の射程範囲について同様に広く解釈してい る。審問請求権は、訴えや請求の趣旨、請求の原因に関する情報だけを包含す るものではなく、事件についての自己の見解を裁判所に提示するためにすべて の情報を当事者が取得したか否かかという問題も包含する。あるいはまた、当

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事者が全く合理的に意見陳述をできないほど短い期間が設定されたかどうかと いう問題も、審問請求権に包含される。これらは、ドイツでは審問請求権の問 題に数えられるテーマである。すなわちドイツでは、国民によって大きな信頼 を示されている国家の裁判権が存在するのである。しかしそれでも若干の領域 では、裁判外紛争解決の方式の必要性が存在する。 二 ドイツにおける裁判外紛争解決制度の種類 1 .私的仲裁(privates Schiedsgericht)  裁判外紛争解決制度を扱うにあたって最初のテーマとしては、既にずっと以 前から存在する裁判外紛争解決の方式、すなわち私的仲裁を取り上げたい。  ドイツは、仲裁に関するニューヨーク条約に加盟し、モデル法に極めて忠実 な法律を制定した。すなわちこの仲裁法は、現在の国際水準に適合した仲裁法 である。  当事者は、非常に広範に法的紛争を私的仲裁に委ねることができる。このよ うな仲裁合意がなされたにもかかわらず原告が国家の裁判所に訴えを提起する 場合、被告は、この仲裁合意を援用することができ、国家の裁判所は、訴えを 不適法なものとして却下しなければならない。  ドイツにおいて仲裁適格を有するのは、財産法上のすべての争いであり、そ れゆえ契約上の請求権だけではなく、人的会社や株式会社の決議取消しの問題 も、仲裁適格を有する。合資会社とその経営者、すなわち役員または管理人の 間の請求権も仲裁適格を有する。遺言においてさえ、遺言の解釈に関する争い および受遺者の請求権に関する争いについて仲裁による解決をするものと定め ることができる。  仲裁合意がなされた当事者の財産について倒産手続が開始されても、仲裁の 拘束力は依然として存続する。その場合手続は、倒産管財人によって実施され る。  国家の裁判所ではなく仲裁裁判所が紛争の裁判をするという決定を当事者が する理由は何か。

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 当事者が自ら裁判官を指名できるという点に重要な理由がある。紛争の対象 によっては、法的知識だけが重要ではなく、当事者は、特定の領域における特 別な専門知識を重視する。たとえばプラント建設や大規模建築計画において は、仲裁を合意することがしばしばあり、その場合当事者は、仲裁人としてそ の分野の専門家を指名することができる。  まさにプラント建設の場合には、さらに異なる法圏出身の当事者間で契約が 締結されることもしばしばある。その場合に紛争を国家の裁判所に持ち込むと すれば、通常は一方の当事者の法圏に由来する裁判所が管轄権を持つことにな る。そしてこの場合裁判所はこの法圏に属する裁判官だけで構成されることに なる。これに対して仲裁手続は、裁判所を異なる法圏出身の裁判官によって構 成することができるという長所を示すことになる。たとえば一人の仲裁人は日 本出身、一人はドイツ出身そして主任仲裁人はスイスまたはアメリカ合衆国出 身という構成をとることができる。  この長所は、証拠規則においても反映する。アメリカ合衆国の証拠法とドイ ツの証拠法の間にはまさに大きな違いがある。たとえばドイツの企業は、アメ リカ法にしたがって証拠を訴訟において開示する心構えが直ちにできているわ けではない。同様にドイツの企業は、イタリアでは一定の争点については書証 だけが許され、証人による証明は許されないということも、考慮していない。 あるいはまた裁判所は当事者が申請したのではなく別の証人が申請したにすぎ ない証人を取り調べることができるということも、ドイツの企業は、考慮して いない。  当事者も自ら手続準則を定めることができることによって、仲裁手続におい ては、このような不意打ちを避けることができる。そのため証拠法を定めるた めに合意することができる国際準則集が存在する。  仲裁手続が選択されるその他の理由としては、仲裁手続の秘密保持性を挙げ ることができる。国家の裁判所では、弁論は、公開される。確かにたとえば営 業秘密が議論される場合には、公開性を排除する可能性が存在するが、そのた めには裁判所の命令が必要であり、したがってこれを確実に予言することはで

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きないのである。その他まさに経済紛争の場合には、税法上も重要な事実関係 が議論されるが、仲裁人はこのような事実関係を税務官庁に知らせたくないと いうことが、配慮されなければならない。このようなことも、国家の裁判所で は排除することができない。  最後に、仲裁手続は通常一審で終了し既にそれゆえ国家の裁判所での手続と 比べるとより迅速に終局的な解決をもたらすことができるという点にも、仲裁 手続の長所を見出すことができる。  しかし仲裁のこのような長所に対しては、いくつかの短所も存在する。もっ とも難しい問題の一つが、第三者の仲裁手続への関与である。  一つの例が、この問題を明らかにすることができる。建築主と建築業者間の 建築契約に際して仲裁合意がされた場合、建築主と建築業者は契約の当事者の 関係にある。さて建築業者がいくつかの仕事を自己の企業に実施させないで、 たとえば電気関係の仕事を別の企業に実施させた場合でも、電気関係の仕事を 担当した企業は、仲裁合意には関係しない。  確かに 3 人の全関係者間で合意を締結する可能性はある。しかし建築主と建 築業者の間で契約が締結された時点においてはどの電気業者が後に委任される のかが全く不確定であるので、実務においては、この 3 者間の合意は、不可能 なのである。建築業者と電気業者間の契約において合意をしてもこの場合には あまり役には立たない。なぜならばその合意では、別の仲裁裁判所が仲裁する が、電気業者は、建築主と建築業者間で仲裁裁判所が下す仲裁判断を受け容れ るという合意をしてもこの合意は、無効だからである。なぜならば電気業者は 仲裁裁判所の構成に関与していないし、仲裁手続にも全く影響を与えていない からである。  それゆえ 3 人の当事者が全員で、紛争事例においては一つの仲裁裁判所を合 意する可能性だけが存在する。その場合 3 人の当事者はともに仲裁手続の当事 者となる。しかしこのようなことはもはや望まれないことがしばしばある。  それゆえ共通の仲裁裁判所を合意することができなければ、設例の建築業者 は、困難な状況におかれる。すなわち建築業者が、家の電気工事の瑕疵を理由

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として仲裁裁判所から損害賠償を命じられた場合、この建築業者は確かに電気 業者に損害賠償請求できるが、そのためには、この建築業者は新たな訴訟を追 行し、その訴訟において作業に実際に瑕疵があったか否かをもう一度別の裁判 所が明らかにしなければならないのである。それゆえ仲裁手続の長所が仲裁手 続の短所を考慮しても上回るものであるか否かを常に比較衡量しなければなら ない。これは、国際契約については実相であるが、内国契約については仲裁手 続が行われることがむしろまれである。  しかしまさに近年、私的仲裁は、公然と批判されている。とりわけ批判の原 因となったのは、仲裁裁判所の合議が非公開であるという点であった。それゆ え新聞社は情報を得ることができなかった。しかし同時に議会も、情報提供が 少なすぎると感じた。  批判のきっかけとなったのは二つの事例であった。一つは、ドイツ連邦共和 国を相手方とするエネルギーコンツェルン Vattenfall の訴えであり、もう一つ は、通行料金徴収を準備するコンソーシアム(Toll Collect)とドイツ連邦共和 国の間の争いであった。この二つの争いは世間の関心を集めたが、私的仲裁手 続に持ち込まれた。その結果多くの批判がされた。なぜならばきわめてわずか な情報が公開されただけであったからである。  この不快感は、結果として近年仲裁の正当性を疑問視することとなった。国 家は自ら司法を組織すべきで、司法を私人に委ねるべきではないという批判が なされた。  その後世論においては、還大西洋通商協定 TTIP についても、この批判が、 著しい困難をもたらした。私的仲裁による解決に委ねることは、世論において は、とりわけ食品の輸入が問題となる領域において受け入れられなかった。還 大西洋通商協定によれば、争いがある場合にはこの種の仲裁が、製品の輸入が 許されるか否かを判断する。それゆえこれまで還大西洋貿易協定は、調印され ていない。しかし同時に、カナダとの CETA 協定は締結された。なぜならば、 CETA 協定においては、製品の輸入が許されるか否かについて争いがある場 合、この問題の裁判に管轄権を持つ国際裁判所が設立されたからである。

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2 .調停(Schlichtungsverfahren)  仲裁についてはこのくらいにして、調停 Schlichtungsverfahren をテーマにす る。仲裁と調停の違いがあるのは、調停人は、当事者が拘束される裁判を下す 権限を持っていないという点である。調停人ができるのは、提案をすることだ けである。しかしこの提案は、当事者双方がこれを受け容れた場合に限って拘 束力を有する。当事者が提案に同意しない場合には、当事者は、依然として国 の裁判所に紛争解決を求めることができる。ドイツにおいては、このような調 停手続は、最初に手工業および医師の領域で普及した。治療のミスを疑う患者 は、医師会に設けられた調停所に相談することができる。そこで患者は、医師 が本当にミスをしたか否かそしてどのような財政的な補償が適切かについて、 無料で査定してもらえる。この提案が受け入れられれば、患者は訴訟をしない で無料で補償を得ることができる。同時に医師には、治療ミスの案件を裁判手 続によらないで解決できるというメリットがある。調停案が受け入れられなけ れば、患者は、裁判所での解決を求めることができる。その場合患者はいずれ にせよ、調停の試みに費やした時間を失うことになる。ドイツでは、手工業者 のひどい仕事やパック旅行の瑕疵、銀行と保険の領域において同様の手続が存 在する。  調停手続は、今後著しく重要になるであろう。なぜならば EU が特に国際的 な法律紛争における消費者保護強化の方法として調停手続を利用したからであ る。  新しい EU 指令は、加盟国に、消費者と企業の間の紛争について調停所を設 けることを義務付けた。手続は、消費者にとっては無料かあるいは、消費者が 極めてわずかな保護手数料を支払うだけでよいものでなければならない。  しかし最大のメリットは、消費者がその申立てをコンピューターで入力でき る点にある。したがって比較的少額の請求を主張することもずっと容易になっ ている。たとえばたとえわずかな金額しか問題ではないとしても、衣類に瑕疵 がある場合や食品が傷んでいた場合にも、消費者は、自己の権利を主張するこ とが可能である。すなわち消費者は自己の権利を実現できるので、企業がアン

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フェアな販売戦術をとっても、割に合わないという結果が達成される。調停所 に関する作業をできるだけ簡略化するために、たとえば衣類の売買のような典 型的な事例における調停案のモデル書式が、現在作成されている。このモデル 書式は、極めて迅速でかつ廉価な調停案を可能にする。  おそらくひとつ例を挙げれば内容が明確になるであろう。  消費者に雑誌を定期購読してもらうために、何かにかこつけて消費者に電話 を掛けるというケースが相変わらずドイツでは存在する。消費者は、最初の雑 誌が届けられて初めて、自分がそのような義務を負ったということに気付くこ ともしばしばである。この種の定期購読の費用はそれほど高額ではないので、 消費者が自己の権利を貫徹することが、消費者にとって煩わしいことがしばし ばある。そこで消費者は代金を支払い、この次は気を付けようと決心する。  さて、インターネットで調停員に事件を伝える可能性が存在すれば、消費者 保護は著しく強化される。同時に企業にとっては、このようなトリックを使っ て定期購読者を獲得しても、消費者の大半は調停所で紛争解決を求めるという ことを顧慮すれば、このような購読者獲得に関心をなくすことになる。  ヨーロッパ委員会がこの問題を取り上げて指令を提案した理由は、この方法 によれば他の諸国における売買も容易になるという点にある。取引と競争が強 化されるように、EU の他の諸国において注文することが、消費者にとってで きるだけ容易であるべきである。同時に、問題が生じた場合に母国語で調停手 続を行うことができるとすれば、消費者は、ドイツ以外の EU 加盟国において もむしろ喜んで何か注文するであろう。  もちろん調停員は、提案をするだけで解決策を定めるわけではない。しかし 何年か後からはどの企業もその企業が調停手続に参加するか否かを契約約款の 中で明らかにしなければならない。企業が調停手続に参加する場合には、調停 案は、企業にとって拘束力を有する。それゆえ消費者は、既に契約の相手方を 選択する時点で、将来調停手続という簡易な手続を利用できるか否かを知るこ とができるのである。

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3 .メディエーション(Mediation)  裁判外紛争解決手続のその他の形態は、メディエーションである。メディ エーションの場合もメディエーター(メディエーションの手続において裁判官 に相当する)は判決を下すのではなく、このレベルで当事者双方が自ら紛争の 解決を見出すことができるほど強い共通の利益が存在するか否かを確定するだ けである。たとえば両親が別居した場合、共同の子との面接交渉をどのように 規制するかということが問題となる場合のように、メディエーションは、以前 はとりわけ家族における紛争で利用されていた。  しかし最近ではメディエーションについては、契約法や経済法においても支 持者が増加している。メディエーションが機能する場合には、争いは比較的迅 速かつ廉価で解決される。それゆえ手続の費用は、それほど高額ではない。な ぜならばメディエーターは、メディエーター自身が紛争解決の提案を作成する ほど広範に争点に関わる必要がないからである。メディエーターにとって中心 となっているのは、むしろ当事者の利益である。メディエーションにおいては どちらかといえば将来に向けた解決が志向されており、過去を正確に処理する ことや紛争を正確に処理することはどちらかといえば目的とされていないとい うことができよう。  すなわちメディエーションは、争点の詳細にあまり目を向けるものではな く、本来の契約関係の外側にあることも調整に取り込むことによって解決を見 出そうとするものである。このような解決は裁判上の手続ではほとんど不可能 である。なぜならば裁判上の手続では、既に手続全体が争点に向けられている からである。  簡単な設例でこれを明らかにすることができる。  当事者は、納品が適正であったかを争っている。売主は、これを争ってい る。売主は、買主が瑕疵だと主張する瑕疵を適時に責問しなかったし、少なく とも責問は売主に到達しておらず、買主の主張する責問からはどの点に瑕疵が あったのかを十分明確に認識することができないと主張した。  裁判手続または仲裁手続では、この問題が厳密に解明されなければならな

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い。これが解明されれば、明確な判決が下される。すなわち買主が、金を返還 してもらうか金を返還してもらえないかのいずれかである。国家の裁判所にお いても和解を締結して買主が金の一部の返還を受けるという可能性はある。  しかし上記の争点がもはや問題とならない調整を試みることもできる。すな わち、売主は品物を引き取り、買主は全額ではなく代金の80パーセントを返還 してもらい、同時に売主も満足できるように新たな委任をするという解決も可 能である。別の委任による補償という最後の点にまさに、メディエーションが 裁判所の裁判手続よりも優れた点がある。なぜならばメディエーションは、争 点の外にある利益も解明し、これを紛争解決に取り込んでいるからである。 4 .裁定(Adjudikation)  最後にドイツがつい最近到達した展開に触れておこう。  裁定 Adjudikation は、イギリスの建築法に由来する。問題となるのは、どの ように展開するか明らかでないにもかかわらず、一定の紛争については、時間 の経過によってだけでも非常に高額な費用が生じるということである。これら の事例において当事者にとって重要であるのは、できるだけ早く決着をつける ことである。それゆえ 2 、3 年前からドイツにおいても裁定制度が存在する。 裁定人は、調停人ではない。裁定人は、提案をするだけでなく、当事者に対し て拘束力を有する裁判を下す。裁定人はまた、仲裁人でもない。なぜならば裁 定人の下した裁定は、後に国家の裁判所が完全に再審査することができるから である。しかし裁判所の裁判が下されるまでは、裁定人の判断が拘束力を有す るのである。裁定人の裁定に従わない当事者は、契約違反の状態にあり、損害 賠償義務を負う状態にある。反対に、裁定人の裁定に従う当事者には、過失は なく、したがって後に裁判所が裁定人の裁定を取り消したとしても、損害賠償 をする必要はない。  簡単な設例でこれを明らかにすることができる。この例を用いて私は紛争解 決のメカニズムの違いをもう一度明らかにしたい。  建築主は、地下室の建築強度が十分ではなく、したがって耐久性の点で安全

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に建物を建設することができないと考えている。それゆえ建築主は、建築計画 を中断し、地下室の強度を高めた後に初めて建築を続行したい。  建築主がこれを国家の裁判所の面前で解明しようとする場合、建築主は、独 立証拠手続をとることができる。独立証拠手続において、地下室が適正か否か が、解明される。しかしこの手続には、 2 、3 年は十分かかり、証拠手続で決 定が出るまで、建築主は建築を続行することができない。建築主が仮処分の申 立てをし、壁の強度を高めることを企業に強制するということも考えられる。 しかし裁判所は、おそらくこの仮処分を認めることはない。すなわちドイツの 裁判所は、仮処分が結論の先取りにあたる場合すなわち法的紛争の判決に影響 するような場合には、仮処分について非常に抑制的である。そしてこのケース では、まさに実相なのである。  地下室の品質について専門家の鑑定をしてもらい、この鑑定が国家の裁判所 に対しても拘束力を有するということを企業と合意することも考えられる。  しかし一歩進んで、裁定人を選任することもできる。裁定人は、確認するだ けではなく、どのような措置をとらなければならないかについて具体的な指示 も与える。これと同時に達成されるのは、技術的な問題は、極めて迅速に下さ れた評価に拘束されることなくその後の手続においてもう一度検討することが できるということである。しかしこれまでの経験が示しているところによれ ば、裁定人の裁定は、もはや問題とはされていない。 三 終わりに  皆さん 皆さんにお示ししたように、ドイツには極めてうまく機能している国家の裁判 権が存在するが、裁判外紛争解決がより適切である事例類型も存在する。  とりわけ国際的な紛争の場合の仲裁において、これは実相であった。  特に消費者手続における極めて廉価で簡単な紛争解決の一種として、調停手 続が皆さんに紹介された。  たとえば家族関係や業務関係のように広範な関係のうちの一部の局面だけに

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紛争が関わる場合には、メディエーションを利用できる。  これに対し裁定は、迅速な法的解決が当事者にとって特に重要である場合 に、大まかではあるが迅速な紛争解決の可能性を提供する。  皆さんの質問を楽しみにしているのと同時に、日本における紛争解決のメカ ニズムについて情報を得られれば、幸いである。 訳者注

 本稿は、2017年10月 9 日東洋大学で行われたフォイト教授(Prof.Dr. Wolfgang Voit)の講演 を翻訳したものである。

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