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ドイツ連邦憲法裁判所論(8) 利用統計を見る

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ドイツ連邦憲法裁判所論(8)

著者名(日)

クラウス,シュライヒ[著]/名雪,健二[訳]

雑誌名

東洋法学

39

2

ページ

189-218

発行年

1996-03-20

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000510/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

︻翻 訳︼

ドイッ連邦憲法裁判所論σ9

クラウス・シュライヒ

名  雪  健  二

訳著

東洋法学

 四 法的効果

 不一致宣言に対する限定の法的効果が、細分化して規定されるべきである。すなわち、   @ 立法者の義務づけ        ︵68︶  連邦憲法裁判所は、憲法違反の状態を除去する立法者の義務を宣言する。これは、この決定類型のもっとも重 要な帰結である。すなわち、法律は、必ずしも、単純に遡及的に無効と宣言されるわけではない。連邦憲法裁判 所の宣言が、⊥思法に違反する規範の破棄により⊥思法に適合する状態を回復させるわけではない。憲法違 反を除去するために活動しなければならないのは、むしろ、立法者である。つまり、法律の改正、または憲法上 それに対する自由を有する場合、その除去によってである。そのために、連邦憲法裁判所は、期間を設定するこ 189

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だイツ連邦籟法裁判所論列        ︵69︶ ともある。その場合、連邦憲法裁判所は、期間経過後、その法律を無効と宣言する権限を保留する。立法者に対 する裁判所による期間設定は問題がないわけではないが、不一致宣言により生ずる必然的な結果である。なぜな らば、不一致宣言は、経過期間を創りだし、それがいつまでも続くわけではない。   ㈲ 出発点となった事件と類似の事件における手続の停止  通例、ただ一致しないと宣言されえた法律は、少なくとも、規範審査の出発点となった事件にもはや適用され        ︵70︶ えないであろう︵﹁適用阻止﹂︶。これが仮に適用されたとしても、それは、一時的でなければならない。それゆ えに、連邦憲法裁判所は、一致しないと宣言された法律に基づいていて、憲法訴願の方法で訴願の対象となって いる判決を連邦憲法裁判所法第九五条第三項第二段により破棄する。  その場合に、最初の事件の裁判所が、規範の不一致に関する連邦憲法裁判所の決定後、その手続を﹁立法者が       ︵71︶ 憲法違反の規定を憲法と一致する規定に置き換えるまで、停止しなければならない﹂という当該憲法裁判所によ って、同じく創りだされた別の帰結が引き続いて生ずる。このようにして、原告が、憲法訴願、または具体的規        ︵72︶ 範審査の手続のすえ、本来下されるべき確定力のある判決によって負担を受けることなく、後日制定されるべき 法律の改正の利益をえることができる。この停止の可能性ないし停止の必要性は、通常の訴訟法を超越する。法 律は無効ではないが、憲法に適合もしない経過期間において、その決定は未解決のままにしておこうとする。  連邦憲法裁判所判例集第五二巻三六九頁︵三七九頁︶ 家事休日事件”ある法律は、所帯をもった女性の被雇用者に 一ヶ月につき家事用に一日の休日を認める。男性である訴願人は、ボン基本法第三条第二項違反を主張した︵直接的には 190

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労働裁判所の判決、間接的には法律に対する憲法訴願︶。連邦憲法裁判所は、その法律をボン基本法第三条第二項と一致 しないと宣言し、家事休日の保障に対するその男性の訴えを却下した労働裁判所の判決を破棄した。そして、連邦憲法裁 判所は、労働裁判所がその手続を停止するということを前提にした。さもなければ、訴願人は、場合によっては、立法者 が家事休日制を男性をも含めるように拡大しても、その利点を受ける機会がなくなるからである。        ︵73︶  出発点となった事件について述べたことは、類似の事件にもあてはまる。それは、憲法訴願の方法で連邦憲法 裁判所に提訴されず、または具体的規範審査手続の出発点にもならなかったが、同様に憲法違反と宣言された規 範が関係する裁判所において係属中の手続である。  例えば、これは、女性にとってのみ家事休日に関する法律の規定が憲法と不一致であるとの連邦憲法裁判所の決定後、 法律改正以前に、その他の男性が家事休日の権利を主張し、または不一致宣言を引き合いにだして、家事休日が拒否され た女性がこれをなす場合に、﹁類似の事件﹂である。

東洋芸学

 連邦憲法裁判所は、規範審査において、一般的に拘束力をもって、その規範のボン基本法との一致に関して決 定する。そこで、連邦憲法裁判所のあらためての宣告のない停止義務は、一致しない規範が該当するその他のあ らゆる事件においても生ずる。  類似の事件における停止義務は、連邦憲法裁判所の決定宣告をもって生ずる。なぜならば、その時点で初めて、 規範の違憲性が、拘束力をもって確定する︵連邦憲法裁判所法第三一条第一項・第二項︶。その場合、どの法がその 間に適用されないし適用されないかは、停止の時点でいまだ決まっていない。 191

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だイツ遵邦憲法裁判所論列  類似規範ゆえに、それ自体、連邦憲法裁判所の規範審査決定の対象ではなかったが、文字通り、または少なくとも内容 的に憲法違反と宣言された規範と︵大幅に︶一致する規定を含む規範が類似の事件と区別されるべきである。かかる状況 は典型的には州法律との間で起こりうるが、連邦法においても不可能ではない。この点に関して、連邦憲法裁判所は、規 範審査手続において、当該規範についてのみ決定し、類似規範について決定しないということを維持すべきである。加え て、ある規範が憲法違反と宣言された他の規範と本当に同じであるかどうかという決定は、連邦憲法裁判所の権限に属す る。しかしながら、提訴に基づいてのみ連邦憲法裁判所は、個別的な具体的規範に関してこの決定をなしうる。憲法訴願、 ボン基本法第一〇〇条第一項による裁判官の疑義提示および当該基本法第九三条第一項第二号による規範審査の提訴は、 すべての個別的な規範にとって別個に必要である。いわゆる類似規範の憲法違反に関する決定は、連邦憲法裁判所にのみ       ︵7 4︶ 属する。したがって、類似規範は、引き続き適用できる。連邦憲法裁判所がその決定宣告をみずから類似規範に拡大しう        ︵75︶ るかどうかは、別の問題である。 192   @ 憲法違反の法律の適用可能性。裁判の叙述  一致しないと宣言されたが、加えて、無効と宣言されなかった法律が必要な法律の改正まで適用できるか、適 用できないか、または一時的に適用できるかどうかおよびどの程度かは、裁判により一般的にいえない。        ︵76︶  連邦憲法裁判所は、以下の原則を立てた。すなわち、﹁しかしながら、憲法違反と宣言された規範の特殊性が 憲法上の理由から、とくに法的安定性の理由から、これまでのものよりももっと憲法的秩序からかけ離れている 状態が起こらないように、憲法違反の規範を経過期間のための規定として存続させることを必要とする場合に、 憲法違反の規定が全部、または一部例外的に引き続いて適用されるべきである﹂。  規範の適用、または不適用は、かような一般的な考慮によるべきなのか。このまったく不確定な条項により、

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行政官および裁判官は、︵類似の︶事件において、憲法違反と宣言された規範の適用に関して決定すべきなのか。 そのようなことが、あってはならない。この仕方では、間違いなく法的不安定性と裁判所のさらなる負担をます 結果にならざるをえない。

東洋法学

 連邦憲法裁判所判例集第五二巻三六九頁︵三七九頁︶において、連邦憲法裁判所は、1前述の通り!女性の被雇用 者にとってのみの家事用の休日についての法律上の規定を法律改正まで、今までの女性を優遇する︵憲法違反の︶規定が 引き続いて有効であるべきなのか﹁労働裁判所および地方労働裁判所がこのように決定するのだがーそれとももは や適用すべきではないのか。連邦憲法裁判所は、その決定の中で、この問題について述べなかった。無効宣言の断念に関        ︵77︶ するその理由からも、何も明らかにならなかった。連邦労働裁判所は、その法律がここに至って女性にももはや適用でき なくなったと決定した。つまり、連邦労働裁判所は、ボン基本法と一致しないと宣言された規範に対する﹁適用阻止﹂を 前提にした。それは、一目みて驚くべきことであった。なぜならば、停止義務を除いて、無効宣言との違いは、どこにみ いだすべきなのか。    餓 初めに、ボン基本法と一致しない法律が、さらに無効と宣言された法律とまさに経過期間に一時的に 適用できるという点によって区別されることに意見が一致したといえよう。それは、平等に反する優遇排除の事 件にとって、以下のような意味をもっていた。すなわち、法律が他のものに不当に優遇を与えなかったという状 況は、通例、その法律により優遇された者から、必要な法律の改正をしないうちにその優遇が奪われるべきでは ない。  いうまでもなく、それ自体ではなくて、女性に対する制限においてのみ憲法違反である家事休日は、この判決によって、 法律が将来男性に拡大されるべきかどうか、または女性にも家事休日が削除されるべきであるかどうかを立法者が決定す 193

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だイツ遵邦着法裁判所諭刃 るまで、経過期間の間、女性には残されるべきであった。    圃 しかしながら、連邦憲法裁判所判例集第三七巻二一七頁︵二六二頁︶において、当該憲法裁判所は、 ﹁裁判所がある規範を無効と宣言しようと、またはその憲法との不一致だけを宣言しようと、どちらも将来同様        ︵78︶       ︵7 9︶ 過去にも同じ効果を有する﹂と述べた。これ以上の驚きと混乱はなかった。その文章は、前記の決定の中で切り 離されて存在し、解説も理由づけもない。しかし、連邦憲法裁判所が、後にもそれを引き合いにだしたので、そ        ︵80︶ の文章を過失として無視することはできない。しかしながらまた、あらゆる事件において、この文章は、適用す ることができなかった。なぜならば、これは、ただ憲法と一致しない法律で、加えて、無効ではない法律の形態 を外見上どうしても不必要としたからである。そこで、憲法違反であるが、無効と宣言されなかった規範の適用、 または適用阻止に対する別の基準や原則を立てなければならなかった。それに関する連邦憲法裁判所の原則は、 すでに右に引用した通りである。すなわち、普通、ただ一致しない法律は適用を阻止されるのだが、例外的に ー﹁憲法上の理由から、とくに法的安定性の理由から﹂1そういうわけではない。憲法違反と宣言された法律 は、連邦憲法裁判所が無効宣言の断念によって、まさに法的空白を回避しようとする限り、引き続いて適用され るべきであった。  公務員俸給規定が不十分であっても、それなくして公務員の給料がまったく支払われないから、引き続いて効 力を有するべきであった。しかしながら、女性の家事休日は、いかにして暫定的に定められるべきであったので あろうか。そこで、法律上の新しい規定の制定まで、暫定的に適用すべきであったものに関する耐えがたい曖昧 194

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東洋法学

      ︵81︶ さが生じ、現在に至っている。    喰 連邦憲法裁判所は、生じた状態の難しさを見落としたわけではない。それゆえに、連邦憲法裁判所は、 個別的事件において、憲法違反の引き続いての効力をすでに決定主文の中で明示的に確認した。すなわち、  連邦憲法裁判所判例集第三七巻二一七頁︵二一八頁︶”﹁eで挙げた規定により、一方の親だけがドイツ人である嫡出子 が出生にょりドイツ国籍を取得する限り、これは、法律の改正まで、引き続いて効力を有する﹂。  連邦憲法裁判所判例集第三三巻三〇三頁︵ご一〇五頁︶H﹁⋮⋮大学法第一七条は、⋮⋮ボン基本法と一致しない⋮⋮。 しかしながら、この規定は、その限りにおいてなお、法律の改正まで、遅くとも一九七三年の夏学期まで適用されてもよ い﹂。  連邦憲法裁判所判例集第六一巻三一九頁︵三二〇頁ー三二一頁︶”﹁所得税法第三二a条は、⋮⋮の限りにおいて、ボ ン基本法第六条第一項との関係で、当該基本法第三条第一項と一致しない。所得税法第三二a条により、基準となる基礎 表は、法律の改正まで、遅くとも一九八四年の一二月三一日まで、所得税の暫定的な決定の方法︵租税規則第一六五条︶ で、単独で教育する一方の親に引き続いて適用されうる﹂。  しかし、宣告が不一致宣言に限定される過半数の決定において、連邦憲法裁判所は、無効宣言の断念に対する        ︵82︶ 動機や不一致宣言の法的効果に関して沈黙を守っている。そこで、連邦憲法裁判所は、暫定的に適用しうる法に 関する曖昧さを甘んじて受け入れる。しかしながら、連邦憲法裁判所としては、規定された効果をもつ無効宣言 を﹁自由意思で﹂断念しながら、それに代わって、何がその間に効力を有すべきかを同時にはっきりといわない のは我慢できないことである。 195

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ドイツ遵邦1.蟹法裁判所論クリ  国 構想的な考慮   @ まず第一に、この決定類型の適用が多数の事件において不必要であり、また、無効宣言の断念に対する       ︵83︶ 連邦憲法裁判所の動機が明白ではないということが証明された。そこで、連邦憲法裁判所の統計的にみて頻繁に ある不一致宣言は、個別的事件において、さほど影響がなく、恐らく、かなり減らすことができるであろう。   ㈲ 憲法違反の状態の除去に対する法律改正における立法者の形成余地を制限しないために、無効宣言を断 念しなければならないという連邦憲法裁判所の再三再四用いられる変わらぬ言い回しは、多くの学者の見解によ        ︵8 4︶ ると、論理性を欠いている。まさに、無効宣言が明らかに立法者にあらゆる余地を残しているので、その批判は、 一見して妥当である。しかしながら、もっと詳しくみると、規範的な相違が現われる。すなわち、無効宣言にお いては、その法律が除去される。立法者が改正したゆえに、憲法に適合する形態において、その規定−例えば、 家事休日1に固執しようとするならば、立法者は、まったく新しい法律を発布しなければならない。立法者が その規定を断念しようとするならば、その規定をもはや法律によって廃止する必要はない。その場合に、それ自 体ではなくて、その形成においてのみ憲法違反である規定を除去したのは、1立法者代わって1連邦憲法裁 判所である。規範の不一致宣言および不適用に限定した場合に、立法者は、この法律を法律によって破棄するか、 または補完ないし修正することもできるし、しなければならない。その違いは、個別的事件において、実際には 少ないかもしれない。それに、法律の暫定的な保持、または無効宣言という空白状態が立法者にとって、その活 196

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東』洋法学

動を容易にするかもしくは困難にするかは、個別的事件の形態による。しかしながら、その違いは、原則的には 重要である。不一致宣告に限定した場合に、政治的形成に対する任務は、一層はっきりと、それが属するところ、 つまり、立法者にある。  要するに、法律の存続︵無効に代わって︶とー存続の場合1その適用ないし不適用とが、区別されるべき である。﹁不一致﹂という決定類型の核心が、この区別にある。   ◎ 不一致宣言に限定する決定類型を解釈上把握する試みにおいて、二つの出発点がありうる。  すなわち、その形態を、iそして、これは、初めに述べられた見解に相応するが  憲法違反の法律が適用 できないゆえに、適用阻止の対象になるという原則の例外とみなすことができる。その場合に、﹁ただ一致しな い﹂︵﹁ゆえに無効﹂という追加なく︶は、通例、規範の暫定的適用の可能性を暗示させる。連邦憲法裁判所は、こ の適用可能性を時折はっきりと命じた。憲法違反の場合、そもそも生じるべき無効は、立法者の事後改正義務お よび係属中の手続の停止へと取って変えられる。しかしながら、連邦憲法裁判所が不一致宣言に限定した場合、 または不一致宣言に限定したにも拘わらず、それでも規範の不適用を例外的に命ずるならば、これは、例外中の 例外であろう。この命令は、実際的には、個別的事件にとって無効の原則への復帰以外の何物も意味しないであ ろう。しかし、無効宣言との違いは、維持される。すなわち、たとえ適用できなくても、その法律が存続しつづ けるということになる。  しかしながら、﹁ただ一致しない﹂という形態を、単なる不一致宣言の効果が無効宣言と同じであるとの連邦 197

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だイツ連邦籏法裁≠41所論クリ 憲法裁判所の一目みて不可解なより新しい提言の観点から思い切って理解することができるし、そして、すべき である。同じ﹁効果﹂に関するその紛らわしい提言は、規範の適用可能性についてのみ行われている。すなわち、 一致しないと宣言されたにすぎない規範も、通例、遡及的に適用阻止の対象になる。しかし、その提言は、規範 そのものの存続に関係するわけではない。つまり、﹁ただ一致しない﹂法律は存続するが、通例、もはや適用さ れえないということである。  そこで、﹁ただ一致しない﹂という決定類型は、無効宣言と以下のように総括的に区別されうると私は思う。  要するに、﹁無効宣言﹂は、文字通り、規範の遡及的無効をもたらすものである。それ以降の法的帰結の解決 は、個別的事件における当事者、とりわけ行政および裁判所の問題であり、その際、連邦憲法裁判所法第七九条 を用いるべきである。  それに対して、﹁不一致宣言﹂への限定は、多様な法的効果を有する。すなわち、    副 不一致宣言は、憲法違反の規範を存続させる。立法者は、憲法に適合する状態を創りだすために、そ の規範を改正し、または破棄することができる。立法者は、連邦憲法裁判所の訴えにより、場合によっては、定 められた期間内でこれをなさなければならない。この期間内に、法律の事後改正の可能性が、立法者に残されて いる。その後で、規範の無効宣言により、この可能性が立法者から奪われる。    圃不一致宣言への限定は、通例、無効宣言と同じように、規範の不適用︵適用阻止︶を生じせしめる。 しかしながら、連邦憲法裁判所は、規範の適用を例外的に命ずる権限を要求する。不一致宣言に限定する決定類 198

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東洋法学

型は、連邦憲法裁判所がすべての決定の中で、実際に暫定的な適用、または適用阻止に関する命令をだす場合に のみ納得することができる。連邦憲法裁判所は、個別的事件において、適用に関する特別な命令をださない限り、 当該憲法裁判所がその憲法違反を確認した規範は︵そもそも当然ながら︶適用しえないということをも一般的に 明らかにしうるであろう。この命令にとり、現在補助的手段として、それは執行措置ではないので、不適切な連        ︵8 5︶ 邦憲法裁判所法第三五条が利用されうるしないし利用されなければならない。法律上の根拠のない連邦憲法裁判 所みずからによって創りだされた﹁不一致宣言﹂という中間形態は、当該憲法裁判所が暫定的な法状態に関する 必要な指示をだす場合にのみ正当である。  憲法からなおかけ離れた状態が成立しないために、憲法違反の規定を経過期間中存続させることを必要とする       ︵86︶ のは、法的安定性であるという連邦憲法裁判所の決定の言い回しがこの考えの中でその正しい意味をえる。すな わち、この言い回しは、憲法違反と宣言された原則の適用に関する決定において、他の国家機関によって遵守さ れるべき原則のような印象を与えるのであるが、そうではなくて、それは連邦憲法裁判所みずからのためだけの 原則である。その原則により、連邦憲法裁判所が決定主文に含まれた命令をもって、憲法違反の規範が例外的に 適用できるかどうかに関して判断を下す。女性の家事休日に関する憲法違反の法律の場合において、﹁憲法上の 理由、とくに法的安定性﹂が、経過期間における女性の優遇を余儀なくしたわけではない。さもなければ、連邦 憲法裁判所は、これを提示し︵特別の信頼の保護。その廃止により、家事休日を女性のためにも再度導入する立法者に とっての負担︶、それに相応する命令をださなければならなかったのである。 199

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だイツ連邦憲法裁判所論ω  連邦憲法裁判所判例集第六二巻二五六頁︵二八九頁︶において、連邦憲法裁判所は、無効宣言がなおより著しい不平等 な取り扱いをもたらすから、不平等な取り扱いにも拘わらず、無効宣言を断念する。高齢労働者は、民法第六二二条第二 項第二段により、解約告知期問に関して、会社員解約告知保護法第二条第一項第三段による会社員よりは不利であるとい うことが問題であった。会社員の格下げも、裁判所による労働者の待遇改善も論外であった。当該民法規範の無効宣言は、 高齢労働者に、なおもそこに規定されている延期した解約告知期間を失わせた結果になる。憲法違反は、不平等な取り扱 いにおいてのみあった。そこで、民法第六二二条第二項第二段は、憲法違反であり、それでも暫定的に適用しうる。 200    ω 最初に、﹁不一致宣言﹂への限定は、経過期間において、係属中になる個別的事件の決定を法律の改 正まで留保する可能性を残している。無効宣言の後、法的状態は、最終的に確定し、個別的事件が決定されなけ ればならない。﹁不一致宣言﹂は、憲法違反の状態がどのように除去されるかをまず決定するのはいうまでもな く立法者であるので、訴願の対象となった裁判所の決定を破棄し、また、各裁判所をして確定力の発生を阻止す        ︵87︶ るために、その手続を停止せしめる。違憲規範が︵暫定的に、かつ命令に基づいて︶適用されてもよい場合におい        ︵88︶ ても、これは、必要でありうる。なぜならば、その事件もーその利益、または不利益であれ1後の法律の改 正になお関与しうるからである。   ⑥ それにも拘わらず、連邦憲法裁判所がどの場合に規範の存続のため無効宣言を断念することができ、か       ︵89︶ つ断念することが許され、また、どの基準により違憲規範の適用可能性を命ずることができるかは、いまだ明ら かにされていない。そもそも、かような命令は、特別な憲法違反がそれを要求する場合にのみ許すことができる。

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東洋法学

なぜならば、憲法違反の法律が無効であるゆえに、もはや適用できないという原則は、憲法の一原則とされてい る。憲法上不十分な公務員俸給の事件において、なるほど、法律が適用できなければならないという憲法上の要 求は、ボン基本法第三三条第五項より生ずる。そうでもしなければ、公務員の給料がまったく支払われないから である。学校法も、暫定的に廃止することが許されないということをボン基本法第七条から知ることができる。 一致しない租税法の場合に、その理由によれば、租税義務が恐らく憲法から読み取られうる。女性の家事休日の       ︵90︶ 場合に、この日は、女性にとっても実はすぐになくなる。なぜならば、ボン基本法は、この日を強制しない。し かしながら、厳密な憲法の要求だけが違憲規範の無効宣言に対する断念を是認するという憲法上もともと避ける ことのできないこの構想には、一つの弱点がある。すなわち、違憲規範の法的効果を整理するために、憲法上、 内容的に可能なあらゆる内容的な発言と要求を憲法に読み込む傾向が、新たに強められるということである ︵﹁憲法の酷使﹂︶。  憲法解釈の構造は、ここではいまだ不十分である。立法者が発言する番である。ボン基本法第九四条第二項お よび連邦憲法裁判所法第三二条もしくは第三五条は、連邦憲法裁判所が違憲規範の無効宣言の断念に際して、規 範の暫定的な適用に関して決定しうるという授権のために補充されるべきである。その授権規範は、必然的に、 一般条項的ないしかなり大雑把な文言でなければならない。 201

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ドイツ蓮≠賜琶ξ法裁漸論ク9 三 決定類型“﹁いまだ憲法に適合する﹂  ︵91︶ 法律  ﹄致しない﹂法律の形態からして、実際問題としては、一つの別の決定宣告の変形までの一歩にすぎない。 すなわち、連邦憲法裁判所は、法律が﹁いまだ﹂憲法に適合すると確認しながらも、完全に憲法に適合する状態 を創りだし、または将来に起こりそうな憲法違反を避けるために活動するよう立法者に警告する。しかしながら、 前述の決定類型との原則的違いは、大きい。つまり、不一致宣言は規範に関して無価値判断を含むが、﹁いまだ 憲法に適合する﹂という確認は、︵とりあえず︶まさにそれを含まない。警告を伴った﹁いまだ憲法に適合する﹂ という決定類型は、一致宣言の特別な類型である︵前述A︶。 202

 e 適用形態

 出発点は、極端な特殊状況、つまり、占領法の緩やかな解除であった。連邦憲法裁判所判例集第四巻一五七頁ーザー ル規約事件二九五四年のザール規約同意法は、規約により創られた状態が以前に存在した占領法上の状態よりは、﹁ボ ン基本法により近くに﹂あのヅ︶また、この接近以上のものがその時期に獲得されえなかったので、憲法に違反するけれど も、経過期間の間は容認される。  さらに、連邦憲法裁判所のこの決定類型は、別の適用形態にもおよんだ。  すなわち、連邦憲法裁判所判例集第一六巻二二〇頁−選挙区分事件”立法者により長期にわたって継続させ た選挙区分は、人口の変動のため憲法違反になった。選挙区の異なった大きさは、投票価値の格差をもたらした。

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,東洋法学

連邦憲法裁判所は、先の選挙の時点にあたって憲法違反を︵いまだ︶否定したが、現在の議会の任期中に、選挙 区分を適合させるよう立法者に警告した。1すでに行われた選挙に対する選挙法の無効宣言を回避する意義は、 明白である。すなわち、新たに選挙を行わなければならないであろうか。現在の議会が有効に選挙されなかった ならば、だれが新しい選挙法を発布するのであろうか。  ﹁困難で、かつ複雑な事態の全面的な改正の個々の欠陥は、立法者が事態に即したより適切な解決のための十       ︵93︶ 分な経験にも拘わらず、後のチェックや改善を怠る場合に、初めて憲法裁判所の干渉へのきっかけを与える﹂裁 判の前例が、同じ方向をさした。したがって、規範の制定者には、﹁発展中である複雑な事態において、時間的       ︵94︶ な適合の余地が﹂残されている。ある程度の不都合、軋礫および欠陥は、それらが短期間に、かつ過渡的に現わ       ︵95︶ れ、その規定があらゆる客観的な根拠を欠いてさえいなければ、﹁まだ我慢することができる﹂。  他の事件においては、ある法律上の規定が、﹁いまだ﹂ボン基本法の要求に適っていると判断する。﹁しかしな がら、立法者は、ボン基本法第三条第二項および第三項違反を将来に向けて排除するような適切な解決のために 努力する義務がある。婚姻や家族における女性の役割など変化した状況から、立法者をして活動するよう﹁憲法       ︵96︶ 指示﹂が導きだされる。改正のために、一定の期間が設定される。1実際に、遡及的無効の法的効果は、事情 の変化により憲法違反となった法律に適合しない。無効宣言に代わって、連邦憲法裁判所は、︵不一致宣言を伴っ て、または伴わないで︶事後改善義務を宣告する。  連邦憲法裁判所は、一般的な事後改善の留保をも表現する。すなわち、立法者は、核エネルギーの平和的利用 203

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だイツ連邦差嘉法裁噺論ク9 のためのもともとの決定が変化した状況の下でも、堅持されるべきであるかどうかを憲法上再検討する義務があ   ︵97︶ りうる。しかしながらまた、事後改善は、規範の憲法違反が明言されなくても、いまでも既存の規定にとって必 要でありうる。すなわち、﹄九八二年の国勢調査法第⋮⋮条は、ボン基本法と一致する。しかしながら、立法        ︵98︶ 者は、判決の理由にしたがい国勢調査の組織や手続を補完する規則を制定しなければならない﹂。この法律は、 なぜ補完的規則の発布前にも、ボン基本法と一致するのか。連邦憲法裁判所は、かかる関係において、規範のそ        ︵99︶ の評価が﹁現在の認識状態と経験状態に﹂よるという自明をも指摘する。この表現は、規範を異議のないままに しておきながら、立法者は将来の決定以前に、新たに当該議論を参照しなければならないということがわざわざ 指摘される。  連邦憲法裁判所は、立法者に対して、例えば、ボン基本法第六条第五項による憲法指示などを立法者が活動し        ︵㎜︶ ない場合に、裁判所が直接に実現するであろうことをも警告した。 204  ⑫ 法的効果  法律が﹁いまだ﹂憲法に適合しているという連邦憲法裁判所の確認からの法的効果は、当該憲法裁判所の陳述 ないし指示のみにより生ずる。連邦憲法裁判所は、その確認とあわせて立法者に対して行動するよう警告する。 その警告は、 法律の不一致の確認の場合と同様に⊥思法指示の表現、または期間設定にまで発展しうる。  実質的に連邦憲法裁判所は、この事後改善義務の法的効果をまず間違った予測の是正の必要性および変化した

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状況の考慮に根拠を求める。しかしながら、その後、連邦憲法裁判所は、いくつかの基本権から抽出された国家        ︵m︶ の擁護義務を用いて、この義務の基礎を拡大した。連邦憲法裁判所の立法者に対する﹁警告﹂を、実体法上性格         ︵覗︶ づけることは難しい。  前述の﹄致しない﹂法律と﹁いまだ憲法に適合する﹂法律についての裁判は、連邦憲法裁判所がその裁判の        ︵珊︶ 政治的効果をも考慮していることを示す。その効果をかように考慮することは、すべての裁判にとり︵限界にお いて︶避けることができない。ただ、憲法違反の﹁政治的効果﹂というテーマが、憲法解釈上、いまだ︵+分︶ に究明されていないという難しさはある。       ︵皿V    四 決定類型“法律の憲法に矛盾しない解釈

.東洋法学

 法律の不一致宣言、まして︵遡及的︶無効宣言をもって立法者を煩わさないもう一つの別の類型は、いわゆる        ︵鵬︶ 憲法に矛盾しない解釈である。連邦憲法裁判所は、早くからこの形態を取り上げ、 それは、先にアメリカの 最高裁判所の裁判にもみられるがーそれを頻繁に利用する。  憲法に矛盾しない解釈が、すべての裁判官の義務であるということを初めから指摘すべきである。憲法に矛盾 しない解釈はまさに法律の正式な無効宣言を回避するので、裁判所は、ボン基本法第一〇〇条第一項により、決        ︵燭︶ 定の根拠となる法律を規範審査のために連邦憲法裁判所に疑義提示をしなくても、事件の決定が可能である。裁 判所はまた、みずからが可能で、かつ正しいと考える憲法に矛盾しない解釈をそれに相応した連邦憲法裁判所の 205

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A“イツ逆邦:憲法・1裁≠獅論クリ       ︵研︶ 決定によって、一般的に拘束力をもたせる目的をもって疑義提示してはならない。むしろ、疑義提示をなす裁判 所は、ボン基本法第一〇〇条第一項に基づく疑義提示の決定において、その見解により、なぜ憲法に矛盾しない 解釈によって憲法違反を回避されえなかったかをまさに説明しなければならない。  ⑨ 憲法に適合する解釈の優先原則  法律のある規定はその文言の範囲内で異なった解釈を可能にするが、これら可能な解釈のすべてがボン基本法 と一致するものではない場合に、常に憲法に矛盾しない解釈が必要である。その場合に、連邦憲法裁判所は、 ︵憲法違反の解釈の結果をもたらすので、それは可能であるのに︶法律を一部無効と宣言するのではなくて、どの解 釈において法律がボン基本法と一致しないし一致しないかを確認する。  連邦憲法裁判所の言葉をもってすると、﹁しかしながら、ある規範が一部憲法違反の結果、一部憲法に適合す る結果となる複数の解釈が可能であるならば、その規範は、憲法に適合し、憲法に矛盾しないように解釈されな       ︵鵬︶ ければならない﹂。憲法に矛盾しない解釈に相当するものは、規範の一定解釈がボン基本法と一致するというあ らゆる裁判所によって、また、連邦憲法裁判所によってもよく使われている確認である。これは、時折、理由の      ︵㎜︶ 中にみられる。  連邦憲法裁判所判例集第五四巻二五一頁︵二七五頁−二七六頁︶ 職業上の後見人問題一﹁前記の憲法上の疑義は、 民法第一八三五条および第一八三六条に定められた全体的規定を一部憲法違反と宣言することを余儀なくされるわけでは 206

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東洋法学

ない。裁判の前例によると、無効宣言は、法律上の規定の憲法に矛盾しない解釈により、現存する疑義が除去されうる場 合に、無効宣言してはならない⋮⋮。それにより、法律がこのような広範な解釈を許すならば、これを基本権違反を回避 するために使用すべきである。  連邦憲法裁判所判例集第六四巻≡一九頁︵⋮二八頁以下︶”一九三五年の土地登録簿規定第四三条によると、﹁諸官庁﹂ の受託者は、正当性のある関心を必要とせず、土地登録簿を閲覧する権限がある。通説および実例によると、公法上組織 された信用金庫も、この官庁特権を受けた。連邦憲法裁判所は、それに関してボン基本法第三条第一項違反とみなした。 それでも、当該規範は、憲法違反として異議を唱えられるべきではない。なぜならば、その文言や意味内容では、前述の 信用金庫が規範の意味における﹁官庁﹂の概念に属さない憲法に矛盾しない解釈となりうるからである。  連邦憲法裁判所の見解によると、﹁ある法律がボン基本法と一致させるのは推定にとどまらず、むしろ、この       ︵m︶ 推定の中で表現されている原理が可能な限り、法律の憲法に矛盾しない解釈を要求する﹂。この法律の優先原則 は、審査された規範がいかなる解釈でもボン基本法と一致しない場合に、初めて否定される。﹁なぜならば、憲 法に矛盾しない法律の解釈の原則は、一部憲法に違反し、一部憲法に適合する結果となるような複数の可能な規       ︵m︶ 範の解釈から、ボン基本法と一致する解釈を優先させることを定めている﹂。憲法に矛盾しない解釈の本質をな       ︵m︶ すのは、憲法に適合する解釈の優先のこの原則である﹂。  それゆえに、憲法に矛盾しない解釈は、﹁各論として異議を唱えられた解釈の排除の下に、総論として規範の       ︵m︶ 合法性を肯定することによる﹂解釈である  したがって、それが、すべての裁判所の権能である。 207

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だイツ蓮邦.着法裁半獅論ρ9  ⑫ 拘 束 力  連邦憲法裁判所のある規範に対する憲法に矛盾しない解釈にも、当該憲法裁判所の決定特有の特別な拘束力が あてはまる。この点は、連邦憲法裁判所による憲法に矛盾しない解釈をその他の裁判所の同様な解釈と区別する。       ︵m︶ 判決に対する憲法訴願の範囲内で、憲法に矛盾しない解釈は、通例、理由においてのみ行われ、したがって、そ        ︵鵬︶ の拘束力を受ける。規範審査手続の範囲内で、連邦憲法裁判所は、理由において述べられた憲法に矛盾しない解 釈を主文に結びつける。連邦憲法裁判所判例集第三〇巻一頁−盗聴事件判決  以来、これらの場合において、 主文は、次のようになる。すなわち、﹁⋮⋮各条は、理由から明らかとなる解釈の範囲内で、ボン基本法と一致  ︵鵬︶ する﹂。連邦官報に掲載される︵連邦憲法裁判所第一一二条第二項第三段︶この決定主文は、連邦憲法裁判所の憲法 に矛盾しない解釈に拘束力をもたせる。主文におけるこの理由への指示は、その下に法的明確性が損なわれので よくない。憲法に矛盾しない解釈の結果が主文において、簡潔明瞭に含まれることが望ましいといえよう。この ことが、民事訴訟法第五五四b条の憲法に矛盾しない解釈に対する連合部会の決定主文において、例外的に実現   ︵m︶       ︵田︶ された。この決定並びに加えて、裁判所によって創られた指導原則における憲法に矛盾しない解釈をこと細かく 表現したものは、これが可能であることを示す。 208

同 性格づけ

一定の、文言からして可能な法律解釈が憲法に適合しない決定をもって、 連邦憲法裁判所は、実際には規範の

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削除を伴わない一部無効宣言を宣告する。  憲法に矛盾しない解釈のこの性格づけが正しいかどうかは、異論があり、そして、実際には、議論の余地がある。その 判断は、基本的には、規範の解釈をなお規範︵規範条項︶とみなし、ゆえに規範条項が提起する一定の解釈についても、 無効宣言を可能とするか、それとも規範に内在する解釈の可能性を規範それ自体から切り離すことができるし、そうしな ければならないということによる。私見によると、前者しか妥当ではない。法律の文言を削除することなく、一定の適用 形態に対する適用を排斥することによって、連邦憲法裁判所が法律を︵一部︶無効と宣言するということは、前述の通り   ︵m︶ である。解釈の可能性に対する憲法に矛盾しない解釈においても、同じことが行われる。ここでの解釈の可能性の制限は、 そこでの適用の可能性の制限に相応する。

東洋法学

 しかしながら、憲法に矛盾しない解釈が一部無効宣言であるという理解は、連邦憲法裁判所に関してのみ妥当、       ︵㎜︶ かつ可能である。なぜならば、その理解における法解釈は、その他の裁判所には禁じられている。すなわち、法 律の無効宣言をするためには、ボン基本法第一〇〇条第一項により裁判官の疑義提示の手段が義務づけられてい ︵m︶ る。憲法に矛盾しない解釈が必然的に、かつ一部無効宣言とみなされるべきであるならば、各裁判所は、連邦憲 法裁判所に疑義提示しなければならないし、つまり、みずから憲法に矛盾しない解釈をしえないことになる。し かしながら、各裁判所は、憲法に矛盾しない解釈をすべきであり、そうせざるをえない。その他にも、各裁判所 の裁判には、連邦憲法裁判所法第一三条による連邦憲法裁判所の決定の特別な拘束力が欠けているように、実際 各裁判所の憲法に矛盾しない解釈には一部無効という性格はない。各裁判所の場合には、憲法に矛盾しない解釈 は、単なる﹁解釈﹂である。 209

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ドイツ連≠既籏法・裁・判万ゲ論〃り  四 ﹁憲法に方向づけられた解釈﹂との相違        ︵麗﹀  いわゆる﹁憲法に方向づけられた解釈﹂は、﹁憲法に矛盾しない解釈﹂とは違う。  ここでは、憲法に矛盾しない解釈と違って、ある規範およびその解釈を憲法という審査基準で評価し、場合に よっては、却下するのではない。ここでは、民法第八二六条のような解釈の余地をもつ解釈可能な規範を解釈し、 かつ適用する場合に、憲法の基本決定を実現し、例えば、﹁適用されるべき労働法の規定と原則に対するボン基       ︵鵬︶ 本法第五条第一項第二段の影響を顧慮するのである﹂。基本権の﹁放射的効果﹂ともよばれているものの顧慮で  ︵捌︶ ある。  連邦憲法裁判所は、﹁憲法に方向づけられた解釈﹂という言葉を用いない。連邦憲法裁判所は、例えば、﹁憲法          ︵鵬︶ に適合して解釈された﹂と簡単にいう。ちなみに、連邦憲法裁判所は、時折、﹁憲法に矛盾しない﹂という概念        ︵鵬︶ を非専門用語的に用いることもある。実際的には、﹁憲法に矛盾しない﹂および﹁憲法に方向づけられた﹂とい う概念そのものが、弁別性を有しないのである。それらを逆の意味にも使用しうる。それでもやはり、この用語       ︵卿︶ を堅持すべきである。ヴァイロイターが提議した﹁広義の憲法に矛盾しない解釈﹂という言い方を受け入れるこ とは、好ましくない。 210 国 憲法に矛盾しない解釈の限界 憲法に矛盾しない解釈という考えの出発点は、i前述したように1立法者に対する裁判官の遠慮である。

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東洋滋学

       ︵鵬︶ すなわち、規範が維持される。連邦憲法裁判所は、この遠慮をしばしば﹁ほとんどアクロバティックな仕方﹂で 行使する。この寛容にも限界がなければならないということに関して、意見が一致している。というのは、﹁規 範維持のための努力は、いかなる場合でも、規範の解釈を歪めてはならない﹂。または、﹁規範のヴァリエイショ        ︵鵬︶ ンによる積極的立法は、裁判所、憲法裁判所にも禁じられている﹂。連邦憲法裁判所は、民事訴訟法第五五四b 条の憲法に矛盾しない解釈に関する連合部会で、これまでの裁判を総括として憲法に矛盾しない解釈の限界を示  ︵㎜︶ した。すなわち、 ⊥思法に矛盾しない解釈は、規定の文言の範囲内にとどまらなければならない。 ー価値判断およびそこに構想された法律上の規定の目的、立法者の基本決定が、侵害されてはならない。明白   な法律には、相反する内容が与えられてはならないし、立法者の目的が本質的な点で間違えられてはならず、       ︵m︶   または変えられてはならない。  連邦憲法裁判所は、必ずしも、常にこれらの限界を尊重するわけではない。その上、立法者に対する遠慮の姿        ︵麗︶ 勢が、逆の効果をもたらす危険性がある。立法者を当該法律の一定の解釈に固定させることは、場合によっては、 無効宣言による法律の破棄よりも強く立法者の形成の自由を侵害しうる。﹁その場合に、立法者の意思を最大限       ︵鵬︶ に尊重する代わりに、連邦憲法裁判所が、立法者に代わってその意思を通すという恐れがある﹂。それをいくつ かの決定において例示したいと思う。  連邦憲法裁判所判例集第一九巻三四二頁︵三五二頁︶において、連邦憲法裁判所は、刑事訴訟法第一一二条第三項によ 211

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ドイツ蓮≠β憲1法・裁筋論クリ る勾留状︵行為の重大さの勾留理由︶に際しても、当該訴訟法第二六条が該当する停止理由を意図的に述べていないに も拘わらず、第一一六条による執行の停止が可能であるという趣旨で、第一一二条、、第一一六条を憲法に矛盾しない形 で解釈する。それは、相当性の原則から︵櫻かであるとい、%1つまり、刑事訴訟法第≡ハ条は、連邦憲法裁判所の 裁判の知識なしにはもはや適用されえない。連邦憲法裁判所は、立法者がボン基本法と矛盾しない刑事訴訟法の発布をし なくて済むようにしてくれる。立法者は、将来も連邦憲法裁判所がその法律の相当性の欠けた角を取り除くということを 頼りにするであろう。  連邦憲法裁判所判例集第四六巻四三頁︵五五頁︶において、ハンブルタ州の法律家養成制度の法律上の改正が、問題で あった。連邦憲法裁判所の公務員の忠誠義務に関する裁判に反応して、立法者は、公務員法の適用、またはその場合にお ける志願者の自由で民主的な基本秩序を擁護することの必要性を回避するために、サラリーマン関係での司法修習生の勤 務を果たす途をも開いた。連邦憲法裁判所は、これを却下した。それゆえに、上級行政裁判所が当該規範を憲法違反と考 えたのに対して、連邦憲法裁判所は、規範をー﹁優位する憲法のコンテクストにおいて読み、理解して﹂1憲法に矛盾 しない形で解釈した。この解釈によると、この規定は、自由で民主的な基本秩序に反対する志願者にも、公務員関係外の 予備修習勤務に加える可能性をもはや与えていない。それによって、その法律は、立法者の意思によりまさに有するべき ではなかった規定︵忠誠義務を伴った司法修習生のサラリーマン関係︶を含むようになった。憲法に矛盾しない解釈が、 このことを隠蔽する。すなわち、立法者は、そのままに、実行力をもっていない規定を発布したし、行政は、そのままで、 発布されなかった法律を実施した。  連邦憲法裁判所判例集第六一巻二六〇頁︵二八八頁︶において、連邦憲法裁判所は、身分統合に基づく大学についての その裁判で、ノルトライン・ヴェストファーレン州の大学法により、大学の最高会議が学則および改正におけるような学 問上重要な問題に関して決定権を有する限り、当該大学法による当該会議の構成について憲法上の疑義をもった。これら の問題に関しては、連邦憲法裁判所は、最高会議の構成を憲法違反と宣言せずに、その限りにおいて、当該会議が受け入 れるか拒否するかという二者選択しかできない評議員会の提議に当該会議を拘束する。なぜならば、i最高会議とは違 212

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って1教授集団が、評議員会において多数を占めるからである。連邦憲法裁判所は、この操作を大学法の憲法に矛盾し ない解釈と称する。そこで、最高会議が、﹁評議貝会の提議﹂に基づいて学則を発布し、または改正すると規定されてい た。連邦憲法裁判所は、この規定を評議員会の多数と違った最高会議の多数の決定を阻止するために、当該会議を当該員 会の提議への拘束に取りかえる。  ナチスの時代からの募金法の事件において、連邦憲法裁判所は、当該憲法裁判所判例集第二〇巻一五〇頁で、憲法に矛 盾しない解釈によるもとの免除の留保つきの抑制的な禁止を、ボン基本法によって必要とされる許可の留保つきの予防的 禁止への変更を拒否した。規則の規範的内容を新しく規定することが、立法者に任されるべきである。

東洋法学

 憲法に矛盾しない解釈は、立法者に新たな規則を定めなくても済むようにしてくれる。しかしながら、無効宣 言による規範の破棄、または規範の不一致宣言の利点は、立法者がその本来の意図を実現するために新しい試み を行い、それとも新しい構想を立て、さもなければ規範を断念しなければならないかのどちらかにある。別の場 合、連邦憲法裁判所は、部分的に憲法に違反する法状態を除去するに際して、かような立法者の優位を認めない        ︵燭︶      ︵燭︶ わけではない。連邦憲法裁判所は、﹁不一致宣言﹂の決定類型、また、憲法に矛盾しない解釈の領域においても、 その優位を強調する。しかしながら、連邦憲法裁判所は、必ずしも、それに固執しない。憲法に矛盾しない解釈 ︵無効宣言に代わって︶は、立法者が憲法により規範を完全に断念するか、それとも他の規則を定めるかという自 由を有する場合に、行ってはならないと、私は思う。但し、立法者は、憲法上の状態を知った場合に、まさに憲 法に矛盾しない解釈がなお残した選択肢をみずからも選び、かつ意図したということが確実であればその限りで はない。 213

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だイツ蓮邦、憲法裁判所論久ノ

E

法律上の効果命令における連邦憲法裁判所の自由と拘束

 以上の決定類型が批判の原因となることは、明白である。この多様な法律上の効果命令に関して、連邦憲法裁 判所には、法律上の授権が大幅に欠けている。憲法裁判の限界についてのこれに関連する争いにおいて、基本的       ︵撒︶ には、二つの立場が主張されうる。  すなわち、一方の立場は、連邦憲法裁判所に、その法律上の効果に対する法律上の授権が大幅に欠けていると いうことを問題にしないであろう。この見解は、とにかく規範審査を委任しているならば、憲法裁判所がその任 務を政治的にも現実に即した仕方で処理するゆえに、例えば、国家の存在の限界に立たせ︵租税法︶、議会によ り無理なものを要求し︵複雑な改革︶、またはもっと憲法に違反する状態を惹き起こす︵法律上の根拠のない緊急 権限︶場合に、無効宣言を一時的に断念するのを防げられないであろうということを主張する。この見解による と、憲法裁判所は、それにも拘わらず、無効を宣言するか、それとも無効を完全に断念するかのどちらかを強制 されるべきではない。憲法裁判所は、補足的な命令による憲法違反の結果を緩和するために、中道を行きうるべ きである。  ここで、主張する反対の立場は、その決定の権威のために、連邦憲法裁判所の裁判所の性格に固執し、かつ裁 判所の可能な法律上の効果命令が法律に定められているということを要求する。これは、憲法の特性の結果とし 214

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てすでに裁判において、他の裁判所より自由であり、その法律上の効果命令の創造と選択においてもなお、より 自由な立場をとってはならない連邦憲法裁判所おいてこそいえる。加えて、裁判所の反応の仕方︵無効、不一致、 ﹁いまだ﹂憲法に適合する、憲法に矛盾しないーそして、これらは、その時その時に補足的な警告、期限設定、経過期 間および経過規定つき、またはなしに︶が、もはやほとんど予測できないようになったということをも指摘しなけ ればならないであろう。最後に、この雑多な決定類型の適用が、はたして本当に立法者に対してなお1連邦憲        ︵齪︶ 法裁判所がそもそも意図するように  ﹁寛大な態度をとる﹂かどうかは疑わしい。無効宣言を控えめに宣告し、 その代わりに、憲法違反の状況に対するより柔軟な形態をとるのが連邦憲法裁判所の意思であり、それに、立法 者みずからに憲法違反の状態の除去を任せるべきである。しかし、連邦憲法裁判所は、それによって、憲法違反        ︵珊︶ の法律の破棄が意味するそもそもやむをえない﹁鋭いメス﹂に対する歯止めをみずから緩めるのではないだろう か。また、それをもって、立法者の領域への︵その時の個別的事件において、より簡単であろうとも︶干渉を容易 にしているのではないだろうか。

東淳法学

F

余論 改正法ないし修正法の無効宣言後の旧法の効力問題について

 連邦憲法裁判所判例集第四八巻一二七頁︵一三〇頁︶1兵役義務事件1において、連邦憲法裁判所は、兵 役拒否に際しての審査手続を廃止する改正法の無効宣言の後、複雑な言い方をもって事実上旧法の継続的効力を 215

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だイツ連邦憲法裁判所論ω 命じた。改正法ないし修正法の無効宣言に際して、破棄された旧法律が自動的に復活しないという考えが、この 決定の根底にあったのではあるまいか。連邦憲法裁判所は、この問題についていまだ一般的に、かつ基本的に意 見を述べていない  ちなみに、学説も、同様に、それまでこのテーマをほとんど取り扱ってはいない。その問 題は、無効な改正法ないし修正法によって変更されたないし破棄された旧法律が連邦憲法裁判所による改正法の 無効宣言によって、再びもしくはなお効力があるかどうかという。可能な解答が、二つとも根拠づけられうる。  改正法は、なるほど無効であり、すなわち、当初から効力がなく、ゆえにその実質的改正の内容は存在しなく        ︵蜘︶ なったとみなされうる。しかしながら、改正法には、それでも旧法を破棄する力を認めることができよう。それ も、それなりの整合性がある。すなわち、立法者は、いずれにしても、旧法を廃止しようとした。立法者が意図 した新法は、しかしながら、無効である。そこで、目下のところ、まったく規則が存在しない︵ゆえに、連邦憲 法裁判所にとっては、経過規定を発布し、または無効宣言を場合によっては断念する必要があった︶。  しかしながら、この見解は、説得力が十分ではなく、望ましいものでもない。反対の見解も、根拠づけられよ う。すなわち、無効の法には、旧法を破棄する力を認めることができない。立法者にすでにその権限がない場合 に、これは、明らかである。連邦の権限を欠いたため効力のない連邦法律は、州法を破棄する力を有することは       ︵M︶ 決してない。そこで、連邦の権限を欠いたため、国家賠償法全体の無効宣言の後、あらゆる前法が効力を有し、 かつ適用できる。しかし、憲法違反ゆえに、無効の法律が妥当にも法律上、かつ遡及的に効力がないものとみな されるならば、その法律は、旧法を破棄するための力をまったくもちえないということが一般的にもあてはまら 216

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東』洋法学

なければならない。それゆえに、修正された新たな法の無効宣言により、旧法が引き続いて適用される。旧法は、       ︵毘︶ なお効力がある。イェルン・イプセンは、この立場を  マウラーに同意してー﹁解釈上明らか﹂と考える。 そこで、立法者も、︵なるほど、改正しようとしたが、効力的には改正しなかった︶継続する旧法に対して再び全責 任を負う。例えば、刑法第二一八条の改正の事件においても、連邦憲法裁判所は、連邦憲法裁判所法第三五条に よる執行規定の方法で、みずから経過法を定立せずに、修正法を無効と官言することに限定しえたし、限定すべ きであった。そうしていたならば、旧文言刑法第二一八条は、引き続いて効力があった。そこで、議会は、かつ ての長年に亘る改正論議において責任を負っていたし、また、責任を負う能力があると判断したごとく、今度も 継続する旧法ゆえに、その新たなる改正に対して全責任を負うことになった。  要するに、  連邦憲法裁判所がその存続を明示的に命ずる必要なしにもー原則として、改正、修正された 新法の無効宣言により、旧法が引き続いて効力があるということになる。つまり、立法者による改正の試みは、 失敗し、旧法のままである。  しかしながら、場合によっては、修正法みずからが反対のことを規定することがありうる。すなわち、修正法 は、立法者が旧状態を改善するだけではなくて、とにかく排除もしようとし、加えて、合憲性を欠いたため新し い規定が効力をもって成立されなかった場合にも、疑いなしにそれを排除するということを表示することができ る。旧法状態を破棄する立法者の意思が効力を有する︵権限、手続、その他にも憲法に基づいて︶ならば、改正さ れた形において効力がない︵ゆえに、一部無効の︶修正法は、とにかく、旧規定を破棄する効果をもつ。そこで、 217

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だイツ運邦、着滋裁判所論久ノ 新しい規定の有効性を欠いているため、当分の間、規定がまったく存在しない。  修正法の無効宣言により、先の規定が継続的に効力をもつには、その規定そのものは憲法に適合し、1それ に関しては、憲法制定以後の法律の場合、憲法裁判所だけが拘束力をもって決定しうるのだがーまた、先の規 定が全秩序の範囲内で、なお使用しうるということを前提にする。一九〇〇年一月一日の民法のある規範の無効 に際して、パンデクテンが再び適用されうるはずはない。  前述のことは、連邦憲法裁判所がその言い渡しを憲法違反の法律の不一致宣言に限定する事件にはあてはまら ない。その場合、この法律はもはや適用しえないが、存続はするゆえに、依然として旧法を排除する。 218

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