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口腔がん はじめに 口腔がんとは 口の中とくちびるにできる がん のことです 口腔がんには舌や歯肉や頬のように口の中の表面を覆っている粘膜に発生するものと口の中に唾液を分泌している唾液腺 ( 耳下腺を除く ) に発生するものが含まれます いずれの場合でも口の中に できもの や しばらく治らない傷や荒

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口腔がん・頭頸部がんの受診から診断、

治療、経過観察への流れがわかります。

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じめに

口腔がんとは、口の中とくちびるに できる「がん」のことです。口腔がん には舌や歯肉や頬のように口の中の表 面を覆っている粘膜に発生するものと 口の中に唾液を分泌している唾液腺 (耳下腺を除く)に発生するものが含 まれます。いずれの場合でも口の中に 「できもの」や「しばらく治らない傷や 荒れ」などとして自覚されることが多 いです。また、他の臓器のがんや悪性 リンパ腫や白血病などの症状が口腔内 に出現することも少なくありません。

口腔がんの好発年齢、性別

口腔がんはわが国においては患者数 が増加傾向にあります。好発年齢は60 歳代、男性の方が女性より多いとされ ています(男性:女性=3:2)。

好発部位

口腔がんは、口の中の歯以外のどこ にでも発生します。ただ発生しやすい 場所があり、日本人の場合で言えば、 舌が最も多く40〜60%、以下、上下の 歯肉、口底、頬粘膜、口蓋の順となっ ています。舌の中では、舌のへり(側 縁部)に最もできやすいです。

組織型

口腔がんは口の中の粘膜表面から発 生するタイプ(扁へん平ぺいじょう上皮ひ癌がん)が最も多 く、約80%を占めています。残りのう ち10%が唾液腺から発生するタイプ、 10%が肉腫や悪性リンパ腫などです。

口腔がんの危険因子

口腔がんの発生についてはさまざま な要因(発がんの因子)が作用してい るといわれています。多くの場合、直 接的な原因を見い出すことは難しいで すが、喫煙と飲酒は危険因子とされて います。また慢性的に刺激が加わり続 けることも発がんにつながることがあ ります。慢性的な刺激源になるものと しては虫歯によって欠けたり、詰め物 やかぶせものがはずれたままになった りしてとがっている歯、適合が悪い入 れ歯などがあります。

口腔がん

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前癌病変

口腔がんにはその前兆となる口の中 の状況があることが知られています。 将来がんになりやすい組織ということ もでき「白板症」と「紅板症」がこれ にあてはまります。このうち白板症の 癌化率はわが国では約10%とされてい ます。われわれの教室の調査では、舌 にできた白板症はとくに注意を要する という結果が出ています。

口腔がんの進展

口腔がんはその発生した場所(これ を原発巣と言います)で増大するとと もに癌細胞がリンパや血液の流れに のって原発巣以外の場所にたどり着 き、そこで増殖を始めることがありま す(転移と言います)。リンパの流れ に乗った場合の転移をリンパ節転移と いい、口腔がんの場合は頸部のリンパ 節に高頻度に転移をします。血液の流 れに乗った場合の転移を遠隔転移とい います。この場合は、からだのどこに 転移してもおかしくありませんが、口 腔がんの場合の遠隔転移の好発部位は 肺です。

チームアプローチと摂食嚥下リ

ハビリテーション

九大病院がんセンターの口腔部会は 口腔外科、耳鼻咽喉科、放射線科、血 液腫瘍内科のドクターに加え、口腔画 像診断科、口腔病理、歯科麻酔科、薬 剤師、看護師によって構成され、口腔 がんに対して、連携して診察と診断と 治療を行っています。また、口腔がん 治療後できるだけ早期にかつ安全に口 からの食事摂取を再開し、会話機能を 回復するために、歯科医師、耳鼻科医 師、看護師、管理栄養士、言語聴覚士 を含むチームによって、摂食嚥下リハ ビリテーションを系統的に実施してい ます。

口腔がんの「臨床的診断」のために は病歴の聴取(問診)や視診・触診に より病状が良性か悪性かの判断、進行 状況の推定が行われます。つづいて腫 瘍の局所での拡がりやリンパ節転移、 遠隔転移重複がんの把握のために「画 像診断」が行われ、診断の確定と手術 切除物の検索のために「病理組織学的 診断」が行われます。画像診断と病理 組織学的診断についてもう少し詳しく

Oral Cancer

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述べます。

A.画像診断

口腔の特徴は舌や頬粘膜や口底のよ うに軟らかい部分だけのところと、口 蓋や上下の歯肉のように骨(顎骨)の 裏打ちがあるところとがあるというこ とです。このため原発巣については通 常のX線写真に加えてCTやMRによっ てがんの拡がりや奥行きや深さを評価 します。 頸部リンパ節の評価には、CTとUS (超音波エコー)を組み合わせること により、現在では90%以上の正確さで リンパ節転移の有無を非侵襲的に診断 することが可能となっています。舌が んなどにおいては、がんの深さ(厚み) の評価にも口内法のUSを用いていま す。 また、全身の状態を把握した上で口 腔がんの治療に臨むべき、という立場 から以下のような画像検査も併せて行 います。 ・胸部エックス線:肺転移や肺病変 の有無を見る ・PET:遠隔臓器への転移や重複が んの診断を行う このようにして、がんのTNM分類 と病期(Stage)を決定することがで き、口腔がんの治療だけに専念できる か、他の診療科と連携をとる必要があ るかどうかの判断を 行っています。 さらに上と同じような理由ですが、口 〜食道〜胃〜腸は「ひと続きの消化管」 ですので、できるだけ早い時期に上部 消化管の内視鏡検査(いわゆる胃カメ ラ)を受けていただいています。要す るに口腔と食道、あるいは口腔と胃に 同時にがんができていることがあるか らです。

B.病理組織学的診断

病理組織学的診断には「細胞診」、「生 検」それに「手術切除物の病理組織学 的診断」と「手術中の迅速病理検査」 があります。 ⅰ)細胞診は口腔がんの多くが表層に 露出しているために比較的行い易 い方法です。麻酔なし、または表 面麻酔程度で行うことができ、通 常は細胞の異型の程度により5段 階(クラスⅠ〜Ⅴ)で評価されま すが、検査者(細胞検査士)と採 取細胞の条件によっては病理組織 学的診断が可能な場合がありま す。一方、細胞採取者の技量と採 取部位によってはより低くクラス 分けされることもあります。

口腔がん

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ⅱ)生検は局所麻酔を施してから病変 の一部を切除する方法(「部分生 検」)が一般的で、病理組織学的診 断が得られ、がんの浸潤深さ、浸 潤様式、脈管浸潤、リンパ管浸潤、 神経浸潤などを見ることにより悪 性の度合いや周囲組織への拡がり を把握することが可能です。生検 の特殊な場合として、病変が小さ い場合には病変全部を切除した上 で病理組織学的診断を行う「切除 生検」が行われることもあります。 口腔がんの多くは直視、直達が可 能であるため生検も比較的容易な 方法と言えます。やや深在性の病 変や皮膚側からアプローチした方 がよい場合には、超音波エコーガ イド下に注射針を用いて行う「針 生検」もあります。 ⅲ)術中迅速病理検査では、手術中に おける確定診断や切除断端の評価 が可能です。 ⅳ)手術切除物の検査では、切除物を 端から端までつぶさに検索を行う ことにより切除断端の評価や術前 治療を行った場合の治療効果の判 定を行うことが可能です。

科的治療

がんの大きさが比較的小さく頸部の リンパ節に転移がない初期のがんの場 合には、口内法による手術療法を検討 します。これはがんの周囲に余裕を付 けて(これを「安全域」とか「セーフ ティーマージン」と呼びます)切除す る治療法です。上下の歯肉がんや口蓋 がんの場合には、粘膜の下にはすぐに 骨があるために骨を含めて切除するこ とになります。手術後の機能障害(摂 食嚥下、発音や会話)は日常生活上、 多くの場合ほとんど問題ありません。 がんが大きい場合(3〜4㎝以上) や頸部のリンパ節に転移がある場合 (いわゆる進行がん)には、まず化学療 法(抗がん剤治療)や放射線化学療法 を行ってがんの縮小をはかった上で手 術を行うことがあります。頸部リンパ 節転移を来たしている場合には、手術 の際に頸部リンパ節群の確実な除去 (これを「頸部郭清術」と呼びます)を 併せて行います。 また切除範囲が広い場合には、手術 後の顔貌の変形、摂食嚥下障害、発音 や会話の障害をできるだけ最小限にと どめるために、血管吻合術(マイクロ サージェリー)を用いた遊離皮弁術な

Oral Cancer

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どの再建術を積極的に行っています。 手術後はできるだけ早期にかつ安全 に口から食べることを再開できるよう に、さらには会話機能の回復を図るた めの摂食・嚥下ならびに口腔機能のリ ハビリテーションを多職種チームに よって系統的に行っています。義歯や 顎義歯の作製も院内の補綴科や全身管 理歯科と連携して行っています。

科的治療

外科的な切除以外の治療法として は、放射線治療や内科的治療がありま す。内科的治療には化学療法や免疫治 療がありますが、免疫治療については まだ積極的には取り組んでいません。 化学療法は投与の方法により、以下 の3つに大別されます。 ⅰ)静脈内投与 ⅱ)動脈内投与 ⅲ)内服投与 ⅰ)静脈注射は腕などの静脈から抗が ん剤を全身投与する方法で、進行 がんの手術前に行う「導入化学療 法」や「術前化学放射線療法」と 手術後に「術後補助療法」として 行う場合があります。薬剤として は白金製剤を含む多剤併用療法が 用いられており、放射線治療との 併用により効果が高まります。 また、比較的短い間隔で繰り返す ことができることから、当院では 外来化学療法室を使って外来通院 治療としても考えることができま す。 なお、2012年末に分子標的薬のセ ツキシマブが、2017年3月にニボ ルマブが頭頸部癌に対して認可さ れました。 ⅱ)動脈注射は略して「動注」と呼ば れる方法で、がんが栄養をもらっ ている動脈(支配血管)にカテー テルを挿入して抗がん剤を与えよ うという考え方です。近年はカ テーテルや手技の向上などによ り、より細い動脈(それだけがん に近づくことが可能)に到達でき るようになってきており、超選択 的動注療法あるいは選択的動注療 法と呼ばれます。それによって、 がん以外の組織に抗がん剤が及ぶ ことをできるだけ少なくする方法 です。 口腔外科では口腔がんに対する動 注は、進行がんや再発がんで手術

口腔がん

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が難しい症例やまずはがんの勢い を抑えたい場合に用いています。 ⅲ)抗がん剤内服による治療は、注射 の痛みなどがなく、継続するのに 適した治療法です。 ①手術を前提とした術前治療として 放射線治療と併用する方法 ②手術療法を考えない場合に、放射 線治療と併用して用いるか内服治 療単独で用いる方法 などがあります。薬剤としてはTS-1、UFTなどが使用可能です。

射線治療

口腔領域は舌・口腔底・頬粘膜・歯 肉・歯槽・硬口蓋に分類され、いずれ の領域も摂食・嚥下・会話と深く関わ る領域であり、機能・形態温存の面で 放射線治療は優れた治療方法です。当 院で行っている口腔領域の放射線治療 には外照射と組織内照射があります。

外照射

外照射には手術前あるいは後に行 う、術前照射、術後照射と、放射線の みで根治を 目指す根治照射がありま す。腫瘍が大きい場合、リンパ節転移 を認める場合などは放射線治療のみで は治癒率が劣るため手術を主体とした 治療になります。その際、必要に応じ て術前照射(線量:30Gy(グレイ)/15 回程度)あるいは術後照射(線量: 50-60Gy/25-30回程度)を行っていま す。高齢者や内科的併存疾患があり手 術困難な場合においては60-70Gy程度 (30-35回程度)の根治照射を行ってい ます。状況によってはSRT(定位放射 線治療)、IMRT(強度変調放射線治療) などの高精度放射線治療技術も使用し ています。いずれも可能であれば抗が ん剤(経口、点滴、動注など)を併用 します。照射中の副作用には、放射線 皮膚炎、粘膜炎、味覚障害、唾液分泌 障害などがあります。

組織内照射

早期の舌癌の場合はAuグレイン(2. 5mmの金の粒子)による組織内照射 を行っています。頸部リンパ節転移が な く、大 き さ が 4 cm 以 下、厚 さ が 10mm以内の腫瘍を対象としていま す。腫瘍辺縁に60Gyが照射されるよ うに10個前後のAuグレインを刺入し ます(図)。早期の舌癌においては組 織内照射の腫瘍の局所制御は80〜90% 程度と良好な成績が得られています。

Oral Cancer

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治療後に後発リンパ節転移を25-30% 程度の頻度で認めていましたが、近年 は診断精度の向上により治療前に検出 できるようになってきています。さら なる治療成績の向上のために抗がん剤 併用や、線量分布の改善を目指してい ます。

内がん登録情報

2007年から2015年までの5年間に九 大病院で口腔がんの診断を受けて治療 を開始された初診患者さんのうち悪性 リンパ腫を除く症例は773名でした。 症例の臨床病期(ステージ)別の割合 を図1に示します。ステージⅠとス テージⅡで60%を占めており、比較的 早期の状態で来院される患者さんがお られる反面、ステージⅣも30%程度あ り、進展した症例も少なくないことが わかります。 図2にはステージ別の発見の経緯 (当院に紹介されるルート)を示しま す。また図3にはステージ別の治療内 訳を示します。ステージⅣAまでは手 術的対応が中心であることがわかりま す。ステージⅢ、ⅣAと進展するにつ れて、手術に加えて放射線治療や薬物 治療を行ういわゆる集学的治療を行う 症例が多いことを示しています。 図 4 に こ れ ら の 症 例 の 生 存 曲 線 (Kaplan-Meier法・粗生存率)を示し ます。ほぼステージの進行とともに5 年生存率は低下しています。全体とし て生存率が低い印象がありますが、疾 患特異的な生存率ではないことの影響 が考えられます。

口腔がん

図 Auグレイン刺入後の単純写真

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口唇・口腔 2007-2015年症例の

うち悪性リンパ腫以外

治療前・UICCステージ

UICCについて集計を行った。 2012年よりUICC第7版へ改訂があった が、大きな変更はなかったため通年で データを集計した。 ※症例2:自施設で診断され、自施設で 初回治療を開始(経過観察も 含む) 症例3:他施設で診断され、自施設で 初回治療を開始(経過観察も 含む) ※図4の生存曲線は全生存率として集 計(がん以外の死因も含む)

Oral Cancer

Ⅰ 28% Ⅱ 32% Ⅲ 9% ⅣA 27% ⅣB 1% ⅣC 1% 0 2% 図1 ステージ別症例数(症例2、3) ステージ 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB ⅣC 合計 症例数 12 219 245 69 212 11 5 773 割合 2% 28% 32% 9% 27% 1% 1% 100% 0% 20% 40% 60% 80% 100% その他・不明 0 がん検診・健康診断・人間ドック 他疾患の経過観察中 (入院時ルーチン検査を含む) Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB ⅣC 合計 9 167 212 63 192 11 3 657 3 51 32 6 19 0 1 112 0 1 1 0 1 0 1 4 図2 ステージ別発見経緯(症例2、3)

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口腔がん

1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 0 10 20 30 40 50 60 0 Ⅰ ⅣA Ⅱ Ⅲ ⅣB ⅣC 九州大学病院 2007-2010年症例のうち、症例2、3 UICC第6版 経過月数 生存率 図4 Kaplan-Meier生存曲線(口唇・口腔) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 手術+内視鏡+放射線+薬物治療 手術+内視鏡+薬物治療 手術+放射+薬物+その他治療 手術+放射線治療 手術+薬物治療 手術+放射+薬物治療 手術的治療のみ 放射線+薬物治療 放射線治療のみ 薬物治療のみ その他治療のみ 治療なし 0 0 0 0 0 0 10 0 0 0 0 2 0 0 0 7 4 4 181 3 9 5 0 6 0 0 0 38 6 10 159 11 12 7 0 2 1 0 0 24 2 6 24 5 1 5 0 1 0 1 0 105 13 14 49 20 4 4 0 2 0 0 1 4 1 0 0 4 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 0 1 0 2 0 1 1 1 1 178 26 35 423 44 26 23 0 15 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB ⅣC 合 計 図3 ステージ別治療法(症例2、3)

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じめに

頭頸部癌とは

頭頸部癌とは脳と眼球を除いた首か ら上の癌、つまり顔面から頸部にかけ て生じる癌をさします。具体的には外 耳・中耳癌、口唇・口腔癌、上咽頭癌、 中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌、鼻・副 鼻腔癌、甲状腺癌、唾液腺癌などで脳 腫瘍や眼窩腫瘍は含まれません。全癌 の5-6%にあたり、頻度が多いもの としては口腔癌(舌癌)、喉頭癌、下咽 頭癌、甲状腺癌が挙げられます。発生 部位によりその症状や治療法は異なり ます。

頭頸部癌の特徴は?

頭頸部領域は聴覚、平衡覚、嗅覚、 味覚などの感覚器を含みます。頭頸部 癌の発生部位は摂食、咀嚼、嚥下、発 声などの日常生活に重要な機能に関わ る口腔、咽頭、喉頭や上顎、顔面、頸 部などの整容に関わる部位であること から、腫瘍によってあるいはその治療 のために機能や整容が損なわれること が あ り ま す。そ の た め、治 療 後 の QOL(Quality of Life:生活の質)に 配慮した治療が必要です。 頭頸部癌発生のリスク因子としては 喫煙と飲酒が代表的なものであり、同 じリスクを有する食道癌や肺癌などと の重複癌が多いといった特徴がありま す。その他に一部のウイルスが上咽頭 癌や中咽頭癌の発生に関与しているこ とが指摘されています。 組織学的には扁平上皮癌が最も多く (90%)、ついで腺癌です。また悪性リ ンパ腫の発生頻度が高いことが知られ ています。組織型により抗癌剤や放射 線の感受性が異なります。

頭頸部癌の治療は?

早期のものでは手術による切除か放 射線治療のみでコントロールできるも のもあります。進行した症例の多くは 手術療法、放射線療法、化学療法を組 み合わせた集学的治療を行っていま す。

Head and Neck Cancer

頭頸部がん

耳:外耳癌、中耳癌 鼻・副鼻腔:鼻腔癌、上顎洞癌、篩し骨こつ洞どう癌など 口腔:舌癌、口腔底癌、歯肉癌など 咽頭:上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌 喉頭:喉頭癌 頸部:甲状腺癌、頸部食道癌、原発不明癌など 唾液腺:耳下腺癌、顎下腺癌など 甲状腺癌

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問診・触診・視診とクリニックにお ける耳鼻咽喉科学的な検査で大部分の 診断が可能です。

頭頸部癌の症状は?

頭頸部癌の症状は発生部位により異 なります。頸部のリンパ節に転移しや すいものが多く、頸部のしこり(リン パ節腫脹)が初発症状のこともまれで はありません。

検査

頭頸部癌の診断は病変から腫瘍組織 の一部を採取(生検)し病理診断を得 ることで確定します。甲状腺や耳下腺 では超音波検査や穿刺吸引細胞診検査 を行うことで術前の診断を行います。 癌と診断がついた場合はCT、MRI、 FDG-PET検査などを行い癌の局所に おける進展範囲、頸部や遠隔転移の有 無を調べ病期(病気の進行度)の分類 を行います。病期によって治療方針が 変わるのでこれらの検査は重要と言え ます。また前述のごとく上部消化管の 重複癌も多いため上部消化管内視鏡検 査も必須です。

科的治療

口腔癌

T1、T2で頸部に転移していないも のは、局所の手術による切除(舌部分 切除)の適応です。頸部に転移してい る場合は、舌の腫瘍と頸部に転移した リンパ節を一塊として切除する舌腫瘍 摘出、および根治的頸部郭清術を行い ます。この場合、切除された舌を大胸

頭頸部がん

鼻・ 副鼻腔癌 鼻閉、鼻出血、頬腫脹、複視など 上咽頭癌 難聴(滲出性中耳炎)、鼻閉、鼻出血、複視、頸部リンパ節 腫脹など 中咽頭癌 のどの痛み、違和感、嚥下障害、咽頭出血、頸部リンパ節 腫脹など 下咽頭癌 のどの痛み、違和感、嚥下障害、嗄声、頸部リンパ節腫脹 など 口腔癌 舌のびらん、潰瘍、痛み、構音障害、咀嚼・嚥下困難など 喉頭癌 嗄声、のどの違和感、呼吸困難など 唾液腺癌 顔面のしこり、顔面の痛み、顔面神経麻痺など 甲状腺癌 前頸部の腫脹、嗄声、嚥下障害など

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筋皮弁、腹直筋皮弁、大腿皮弁などで 再建します。そしゃく、嚥下、音声と いった重要な機能を保存することが重 要です。症状に応じて放射線療法や化 学療法を追加することがあります。

喉頭癌

早期の喉頭癌に対しては、基本的に は腫瘍が一側の声帯突起より前方に限 局していればCO2レーザーによる切 除を中心に行いますが、さらに広がり を認めれば放射線治療を行います。本 人のADL等を考慮して、治療方針を決 定します。放射線治療を行う場合(T1 では単独照射で、T2では抗悪性腫瘍薬 併用療法で)、治療終了後に病変が消 失しない場合は、外科的切除(部分切 除術、場合により全摘術)を行います。 進行例においては、まず導入化学療 法を行います。導入化学療法で治療効 果ある場合は、根治照射(抗悪性腫瘍 薬併用療法)を行います。根治照射後 に腫瘍が残存した場合や導入化学療法 で治療効果がない場合は、外科的治療 (全摘術あるいは亜全摘)を行います。 頸部リンパ節転移を認める場合は頸部 郭清術を行います。また、進行例では 維持化学療法を行う場合もあります。 進行度にかかわらず、癌の根治と音声 機能温存を第一に考えた治療方針を とっています。

上顎癌(副鼻腔癌)

上顎癌は、T1、T2で見つかる事はま れで、T3以上になって発見されること が一般的です。まず、口の中から上顎 洞の中を観察し、腫瘍があれば減量し ます。抗悪性腫瘍薬を併用した化学放 射線療法を行います。この治療で腫瘍 が完全に消失した場合は、残り30Gy を加えて治療を終了します。もし腫瘍 が消失しないときは、腫瘍を含んだ上 顎骨を摘出します。この場合、各種の 皮弁や骨弁を用いて、顔面の整容を維 持することもあります。もし頸部に癌 が転移している場合は頸部郭清術で除 去します。症状に応じて化学療法を追 加することがあります。また近年、根 治切除困難なT4症例(症例に応じて T3 症 例)に 対 し て は よ り 強 力 な Seldinger法による超選択的動注化学 療法を併用した上で、上記のような外 科治療(再建含む)を行います。この 場合は通常、術後放射線治療(抗悪性 腫瘍薬併用)を行うことがあります。

上咽頭癌

上咽頭癌は頸部リンパ節転移が出現

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してから発見されることが多いのが特 徴です。上咽頭腫瘍を手術によって完 全切除を行うことは困難ですが、放射 線や抗悪性腫瘍薬の効果が高いので、 化学放射線療法を優先します。当科で はまず導入化学療法を行った上で、抗 悪性腫瘍薬を 併用した放射線治療を 行っています。頸部転移に対しては、 頸部郭清術を行います。また抗悪性腫 瘍薬による維持化学療法を3から4 クール行います。その結果、全国的に みても良好な治療成績を認めており、 3年粗生存率は90%を越え、さらに治 療完遂率も92.9%と高い事がわかりま した。

中咽頭癌

早期のものでは経口的に切除を検討 します。 局所進行中咽頭癌の治療では、そ しゃく、嚥下や音声機能を温存するた めに導入化学療法を行った上で放射線 治療(抗悪性腫瘍薬併用)を行います。 病変が消失しない場合は腫瘍の切除を 行います。頸部にリンパ節転移がある 場合は、なるべく原発の癌と頸部のリ ンパ節を一塊として切除します。切除 による欠損は、大胸筋皮弁、腹直筋皮 弁、大腿皮弁などで再建し機能を保存 します。症状に応じて維持化学療法を 追加します。また、根治切除困難なT4 症例(特に前壁型)に対してはより強 力なSeldinger法による超選択的動注 化学療法を併用した上での放射線治療 を行うことがあります。

下咽頭癌

早期癌では、経口的に内視鏡下ある いはビデオスコープ下に切除を検討し ます。進行癌に対しては放射線、化学 療法も併用した集学的治療が中心とな ります。部位や進行度によっては喉頭 を温存する部分切除を選択することも あります。進行症例では導入化学療法 を行った上で抗悪性腫瘍薬併用放射線 治療を行います。この治療によって腫 瘍が消失しない場合、咽頭喉頭頸部食 道切除術(咽喉食摘)を行います。欠 損部位には小腸(空腸)を用いて、顕 微鏡下に血管吻合を行うことで咽頭・ 食道を再建する術式を多く行っており ます。

唾液腺癌

唾液腺癌(耳下腺癌、顎下腺癌)は 顔面神経を極力温存しながら切除を行 ことが基本です。 しかしながら多彩な病理組織型が存

頭頸部がん

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在し、それぞれ悪性度が全く異なりま すので、切除範囲、治療方針は症例ご とに検討する必要があります。

甲状腺癌

甲状腺癌の記載を参照してくださ い。 以上いずれの部位でも、頸部リンパ 節に転移がある場合や、治療に抵抗し、 残存したリンパ節転移巣、治療後に新 たにリンパ節腫大が出現した場合は、 頸部郭清術(周囲組織とともに決めら れた範囲のリンパ節を一塊として取り 除くこと)を施行します。

科的治療

頭頸部癌では化学療法単独での根治 は期待できません。当科では進行癌症 例に対し導入化学療法(放射線治療や 手術をする前に、局所病変の縮小を期 待して前もって化学療法を行うこと) を行い、治療効果を高めています。ま た進行上顎癌や再発症例に対する動注 化学療法(大腿動脈からカテーテルを 挿入し、患部へ直接抗癌剤を注射する 治療)も行っています。新しい分子標 的 薬 で あ る 抗 上 皮 成 長 因 子 受 容 体 (EGFR)抗体(セツキシマブ)は、放 射線や化学療法と併用して用いること があります。最近、免疫チェックポイ ント阻害薬の抗PD-1抗体(ニボルマ ブ)が頭頸部癌に対して適応となり、 当科でも治療に用いています。

射線治療

頭頸部癌の治療では生命予後と共に 機能予後が重視されます。放射線治療 は、嚥下や発声など機能や形態を温存 することが可能な治療方法です。放射 線単独で治療を行うこともあります が、癌の発生部位や病期に応じて、治 療効果を高めるために抗悪性腫瘍薬を 併用することが多いです。癌を手術で 切除した後に、再発のリスクを低減す るために、追加治療として放射線治療 (術後照射)を行うこともあります。 当院では、三次元原体放射線治療、 IMRT(強度変調放射線治療)や、定位 放射線治療などの高精度放射線治療を 実施しています。頭頸部領域には、視 神経、脳、嚥下に関わる筋肉、唾液腺 など、放射線の障害により生活の質に 関わる症状が出現する可能性のある臓 器が密集しています。IMRTは、腫瘍 へ放射線を十分量照射しながら、隣接

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する正常臓器の線量を低減することが 可能な照射技術で、治療効果を担保し ながら副作用を低減することが可能で す。当院では積極的にIMRTを実施し ています。 放射線治療の準備として、専用の CT画像撮影が必要で、このCT画像を もとにした三次元治療計画を行い、患 者さんごとに最適な治療範囲や線量分 布を決定しています。治療は、1回約 10-15分で、1日1回、月曜日から金曜 日まで週に5回行いますが、回数は治 療部位や治療方針によって異なりま す。

①上顎癌

上顎癌は早期には症状がないため、 進行した状態で診断されることが多 く、手術・放射線・抗悪性腫瘍薬を併 用した集学的治療を行います。まず手 術や抗悪性腫瘍薬により可能な限り腫 瘍体積を減量した後に、放射線治療を 行います。上顎癌はリンパ節転移の頻 度が少ないので、リンパ節転移がなけ れば、上顎洞に限局した照射範囲で、 60-70Gy(30-35回)の照射を行います。

②上咽頭癌

上咽頭癌は手術が困難であり、かつ 放射線感受性が高いので、放射線治療 が第一選択となります。上咽頭癌は頸 部リンパ節転移を伴うことが多く、ま ず原発腫瘍と頸部リンパ節領域を広く 含めた照射範囲で40Gy(23回)の照射 を行い、その後原発病変と転移リンパ 節に照射範囲を狭めて30Gy(15回)の 照射を行います。

③中下咽頭癌

中下咽頭癌の治療では、咀嚼・嚥下 や音声機能が温存され易い点で放射線 治療のメリットがあります。早期例に おいても進行期例においても、まず、 原発腫瘍と頸部リンパ節領域を含めた 照射範囲で放射線治療を40Gy(23回) 行います。その後、原発腫瘍と転移リ ン パ 節 に 照 射 範 囲 を 縮 小 し、更 に 24-30Gy(12-15回)の放射線治療を追 加します。

④喉頭癌

喉頭癌の治療においても、音声機能 が温存され易い点で放射線治療のメ

頭頸部がん

(17)

リ ッ ト が あ り ま す。早 期 例 で は、 60-70Gy(30-35回)の放射線治療を行 います。照射範囲は、喉頭癌早期例で はリンパ節転移の頻度が少ないため、 喉頭に限局した狭い照射範囲で治療を 行います。進行期例では、中下咽頭癌 と同様にまず、原発腫瘍と頸部リンパ 節領域を広く含めた照射範囲で放射線 治療を40Gy(23回)行います。その後、 原発腫瘍と転移リンパ節に照射範囲を 縮小して更に30Gy(15回)の放射線治 療を追加します。

内がん登録情報

九州大学病院における頭頸部がん登 録数は、2007年から2015年までの9年 間で約850名でした。 甲状腺癌、口腔癌を除く頭頸部悪性 腫瘍の病期別の内訳では、病期Ⅲ、Ⅳ の進行がんが全体の約3分の2を占め ています(図1)。 がん検診・健康診断・人間ドックの 普及により、症状のない早期がんの発 見は年々増えており、また、他疾患の 経過観察中に頭頸部早期がんが発見さ れ、受診される症例も増加傾向にあり ます。しかしながら大多数は症状が出 現してから受診され、病期Ⅲ、Ⅳの進 行がんの状態で発見されています(図 2)。 頭頸部がんは嚥下・呼吸・発声など に関わる部位に発生します。部位や進 行度によって外科的治療(手術)、内科 的治療(抗がん剤)、放射線治療を組み 合わせて治療を行います。以前は早期 がんでも放射線治療を行うことが多 かったですが、最近は切除による機能 障害が少ない部位については初回治療 として外科的治療(手術)を行うこと が増えています。特に手術器具の発展 により、早期がんの一部に対しては内 視鏡を用いた切除も行っています。進 行がんについては外科的治療(手術)、 放射線治療、抗がん剤を組み合わせた 集学的治療を行い、根治を目指してい ます(図3)。 病期Ⅰ、Ⅱの早期がんの5年生存率 は80%前後です。病期Ⅲの進行がんは 70%前後、病期ⅣAになると50%台に 低下します。外科的治療(手術)が困 難な進行がんである病期ⅣB、ⅣC期 になると生存率が大きく低下します (図4)。しかしながら、近年ヒトパピ ローマウイルスに関連した中咽頭がん に関しては放射線治療や抗がん剤の効 果が高く、進行がんでも生存率が高い 傾向があります。

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頭頸部(口唇・口腔以外)

2007-2015年症例のうち悪性リンパ腫

以外

治療前・UICCステージ

UICCについて集計を行った。 2012年よりUICC第7版へ改訂があった が、大きな変更はなかったため通年で データを集計した。 ※症例2:自施設で診断され、自施設で 初回治療を開始(経過観察も 含む) 症例3:他施設で診断され、自施設で 初回治療を開始(経過観察も 含む) ※図4の生存曲線は全生存率として集 計(がん以外の死因も含む)

頭頸部がん

Ⅰ 18% Ⅱ 16% Ⅲ 18% ⅣA 37% ⅣB 5% ⅣC 4% 0 2% 図1 ステージ別症例数(症例2、3) 0% 20% 40% 60% 80% 100% その他・不明 0 がん検診・健康診断・人間ドック 他疾患の経過観察中 (入院時ルーチン検査を含む) Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB ⅣC 合計 8 102 117 133 281 38 33 712 4 44 19 17 34 2 2 122 0 6 3 3 1 0 0 13 図2 ステージ別発見経緯(症例2、3) ステージ 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB ⅣC 合計 症例数 12 152 139 153 316 40 35 847 割合 2% 18% 16% 18% 37% 5% 4% 100%

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Head and Neck Cancer

九州大学病院 2007-2010年症例のうち、症例2、3 UICC第6版 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 0 10 20 30 40 50 60 0 Ⅰ ⅣA Ⅱ Ⅲ ⅣB ⅣC 経過月数 生存率 図4 Kaplan-Meier生存曲線(頭頸部(口 唇・口腔以外)) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 手術+内視鏡的治療 手術+放射+薬物+その他治療 手術+放射+薬物治療 手術+放射線治療 手術+薬物+その他治療 手術+放射+その他治療 手術+薬物治療 手術+その他治療 手術的治療のみ 内視鏡+放射線+薬物治療+その他治療 内視鏡+放射線+薬物治療 内視鏡+放射線+その他治療 内視鏡+放射線治療 内視鏡+その他治療 内視鏡的治療のみ 放射線+薬物+その他治療 放射線+薬物治療 放射線+その他治療 放射線治療のみ 薬物治療のみ その他治療のみ 治療なし 0 0 0 0 0 0 1 0 2 0 0 0 0 1 5 0 0 0 1 1 1 2 0 3 0 4 0 2 2 32 0 2 1 4 0 24 4 26 12 15 2 15 0 1 14 0 4 0 4 1 29 4 6 0 1 0 2 7 46 1 9 2 4 0 1 26 0 8 0 0 3 0 19 2 6 0 2 0 1 3 70 0 6 4 0 0 0 97 1 13 9 1 32 0 3 0 0 0 3 2 133 0 10 6 0 0 0 7 0 0 1 1 0 3 0 0 0 0 0 0 0 22 0 2 2 0 0 0 6 0 0 0 0 0 4 0 0 0 0 0 0 1 19 0 0 5 0 2 2 153 1 29 1 20 4 121 6 17 1 7 1 35 17 316 13 43 22 20 0 2 4 2 6 2 0 16 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅣA ⅣB ⅣC 合 計 図3 ステージ別治療法(症例2、3)

(20)

MEMO

(21)

MEMO

(22)

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(23)

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参照

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