The/aPanese Journal ofPsychonomic Science 2ao8
,
Vo1.
26,
N〔}、
2,
140−
148圃
注意 制御機 能
に
お け
る
加
齢
変 化
一
反
応
時間
と
感 度
に
よ
る
検討
一
1
)高
原
美
和
2〕・ 三浦
利
章
・篠
原
一
光
・
木
村
貴
彦
大阪大 学Age
・
related
changes
in
attentional
control
一
An
investigation
using
reaction
time
and
sensitivity
一
Miwa
TAKAHARA
,
Toshiaki
MluRA
,Kazumitsu
SHINoHARA
,and
Takahiko
KIMuRA
Osaha University*
In this study age
−
related changes in attentional control were examined by using a visual searchtask.
Eight
young adults and eight older adults were asked to detect a target while ignoringany task
−irrelevant
distractors that could capture their attentiQn (onsetdistractors
).
The
reaction tirnes〔RTs ),
sensitivity for target detection((1りand the responsebias
of eachparticipant
were measured.
The parameterd ’indicated
the allocation of attention to the target area,
and βindicatedjudgment
criteria that wereindependent
of attention.
The results revealed that:(1
)in
the onsetdistractor
conditiorl,
the RTs ofthe
older adults were slower than the young adu 丑ts;(2
)theparameter d
’
was reduced in the older adults as the number of onset distractors decreased;and (3) the responsebias
did
not affect the age−
related changes of the RTs even though the parameter (β>was
high
for
young adults andlow
for
older adults,
Thesefindings
suggestedthat
the
deteriora
−
tion of attentional control of the older adults was related to rnultiple factGrs
,
such as the number of stimuli and the presence of onsetdistractors
.
Key
words :aging,
attentional control,
d’,
reactiontime,
onsetdistractor
序 論 我々が外 界の情 報 を 取 捨 選 択 する際に
,
注意は必 要な 情 報の みを 獲 得 するた めの フ ィ ル ター
と して働 く,
こ の 注 意に関して, 情 報 処理 が必 要な位 置まで移動さ せ る,
異 なる 2種 類の注 意制 御が示さ れ て い る.一
っ は観 察 者 *Graduate
School
of HumanSciences,
Osaka
University
,
Yamadaoka l−
2,
Suita−
shi,
Osaka
565−0871
1
)本研 究を遂 行す るに あ たりご尽 力いた だき ま した法 政 大 学 社 会 学 部・
原田悦 子 先 生t 中 央 大学文学 部・
須 藤智 先生, 東 京 都老人 総 合 研 究 所 ・権 藤 恭 之 先 生 に深く御礼 申し上げ ます.
なお,
本 研 究の一
部は文 部 科 学 省 特 定 領 域 研 究 (770)「障 害 者・
高 齢 者の コ ミュ ニ ケー
ショ ン機 能に関 する基 礎 的研究 」 (課題番 号:1609 正205
)の援 助 を 受 け た.
2
>現所属,
東京工業 大 学 大 学 院総 合理工学 研 究 科 の意 図に よっ て注 意の移 動が行われる内 発 的 注 意 制 御,
もう一
っ は観察者の意 図と は関 係な く,
外的な刺激に よっ て注 意の移動が誘 発される外 発 的 注 意 制 御である.
前 者を目的 指 向 型も しくは意 図 的 注 意 制 御,
後 者を刺 激 駆 動 型 もしくは反 射 的 注 意 制 御 と表 現 する場合もあ る.
これ ら「っ の注 意 制御が 存在す るこ とに よっ て,
人間 は自らの 意 志に基づ い て様々な行 動を し な が ら も,
環 境 における変 化を素 早 く検 出 する よ う な認 知 的 特 性 を持っ こ と が可能になっ てい る.
しか し,
こ の認知的 特 性が人 間の情報処理 を阻害する場合もあ り,
必 ずしも有 益なも の で はない,
し ばしば意 図 的な行 勁 を行う際に周 囲に あ る無 関 係な対象に注 意が外れて し まい, 効 率的な情 報 獲 得が妨げ ら れる現象が報 告されて い る.
こ の現 象は“
注 意の捕 捉 (attentional capture )”
と呼ば れ,
意 図 的行動 に おける注 意 制 御 機 能の 効 率 性 を 示 すと考え ら れ る (Theeuwes &Godijn,
2001
〕.
つ ま り,
注 意制 御 機 能が.
Japanese.
.
高 原
・
三浦・
篠 原・
木 村:注 意 制 御機 能にお ける加 齢 変 化 141 う ま く働い て いれ ば意 図 的な行動の 際に無 関 係な対 象を 無 視 すること が可 能と な る が,
うまく働い て いなけれ ば 無 関係な対象を無視で きな い と い うこ と に なる.
ま た,
行動と は無 関 係に もか か わ らず 無 視 すること が 困 難に な る要 因とし て,
視 野 内の何 もな いところに対 象が 突 然 出現す る“
突 然の オ ン セ ッ ト(abruptf
sudden onseO”
が あげら れる.
突 然の オ ン セ ッ トが妨 害 刺 激と し て呈示された場合に は, 無 視する よ うに と教 示されて い て も標 的刺 激に対す る反 応が 遅 く な る と指摘さ れて いる (Remington ,
Johnston,
& Yantis,1992;Theeuwes ,1994
).
この こと は突 然の オンセ ッ トが外発的注 意制御と関係し
,
注 意を捕捉する こと を示して いる.
さ らに
,
内 発 的 な 注意制御,すなわ ち意 図的 な注 意 移 動を行う際に
,
突然の オン セ ッ ト のよ う な外 発的に注 意を引き付ける刺 激か ら受け る影響は
,
年 齢と と もに変 化 することが指摘さ れ ている(
Lincourt,
Folk,
&Hoyer,
1997;Juola,
Koshino,
Warner,
McMickell,
& Peterson,
2000;Pratt
&Bellomo
:1999
).
例えば,
Lincourt
ら(
1997
)は空 間手が か り法を用いて,
二 つ の 注 意 制 御に関 する年 齢 差の検 討を行っ
た.
実 験の結 果,
内 発 的注 意 制御 が 関 係 すると考え られている中 心 手 が かりの効 果につ い て は,
年齢差は見 ら れな かっ た.
し か し,
外 発 的 注 意 制 御 が関係す る と考え られて いる周辺于が か り にっい て は,
手が か りの妥 当性が低い にもか か わ らず高齢 者は無 視 す る ことが よ り困難で あるこ と が明らか に な っ た.
こ の よ うに先 行 研 究では,
高齢者は若 年者よ り も,
オ ン セ ッ トの よ う な外 発 的に注意 を引き付ける刺 激に対する注 意移 動 を抑 制 することが困 難にな ること が示されて いる,
しか し,
高 齢 者に関 するこ の よ う な指 摘につ い て,
・
致 しない結 果を示し た研 究 も存 在 する,
Kramer,
Hahn,
Irwin,
& Theeuwes 〔1999)は,
樔 的に対 する注 意 制 御 が オ ン セ ッ ト妨 害 刺 激 に よっ
て どのよ う な 影 響 を 受 け る のかにっ い て,
サ ッ ケー
ドを測 定 することによっ て年 齢 差の 検 討を行っ た.
サ ッ ケー
ド は観 察 者の意 図(Yarbus,
1967
)や注意移 動(Deubel
&Schneider,1996
;Peter−
son,
Kramer ,
&Irwin,2004
)との強い関 係 性が指摘さ れて い る た め, 注 意の特性を計測 する一
.
.
一
っの手 段と して 用い ら れて い る,
結果は, オンセ ッ ト妨害刺 激へ の誤っ た サ ッ ケー
ドの発生 率に年齢差 は見 ら れ ない とい う もの で あっ た.
KraIner ら(1999)の実 験 方 法は Oculomotor capture 課 題 と呼ば れ,
固視点から均等 な距 離に探 索 対 象が 配置さ れ た視覚探索課題の一
種であっ た.
視 覚 探 索 課 題とは特 定の刺 激 (標 的刺 激 )を異なる特 性を持つ 他 の刺 激 (妨 害 刺 激 )の中か ら見っ け る課題で,
視 覚 処理 の 効 率 性が調べ ら れ る.
同 様の パ ラダ イ ムを用い た Kramer ら(2000)で は, オ ンセ ッ ト妨害 刺激の輝度が 高 く目 立ちやすい条 件で は高 齢 者に おい て誤っ たサ ッ ケー
ド が増 加し た が, 他の刺激と等 輝 度で あ る場合に は 特に年 齢 差は見ら れ ない と して,
高 齢 者に対する オン セ ッ ト妨 害 刺 激の影 響は特 定の条 件 ドで生じる こと を示 し た.
本 研 究の 目的 以上の よ うに,
注 意制御機能に年 齢差が あ る か ど うか に関して知見 が一
致してい ないよ う に見 受け ら れ る が,
こ の解 釈は 「つ の測 度 間の 関 係 性を ど う 理解す るかに よっ て変わっ て く る,
反 応時間 とサッ ケー
ドの関係にっ いて は,
前者は反応が遅れる こと か ら,
後者は妨害 刺激 へ の眼 球の移 動 が 増 加 することから,
注 意の捕 捉 が 生 じ た根 拠と な る,
このよ う な解釈の 中で両者の問に は因果 関 係が想 定され,
妨 害 刺 激へ の注意の捕 捉によっ
て誤っ
た サ ッ ケー
ドが増 加し,
そのた めに反 応 時 間 が増 加 する と考え ら れて いる.
し た がっ て,
オン セ ッ ト妨 害 刺 激に よ る反 応 時 閙の遅 れに年 齢 差が生 じ る とする研 究と,
誤 っ たサ ッ ケー
ド に年 齢 差は見ら れ ない とする研 究は矛 盾 し た結 論を導い て いる ように感じ られ る.
しか し,
反 応 時 間の遅 れに は必 ずしも誤っ たサ ッ ケー
ド,
つ まり 誤っ た注 意 移 動の増加が必要では な い.
往 意 を別の方 向に切り替え る際に, 高齢者の方が その対 象か ら注 意を引き離すこと が難しく反応の 遅れ や誤 りの増加 にっ な が るとい う指摘がある (GreenwQod & Parasura−
man,1994
;石松・
三浦,
2003
).
こ の指 摘 を 考 慮 する と,
重要なの は誤っ た 注 意移 動の 後,
ど れ だ け 速 く正 し い方 向に再 度 注 意を向 けな おすこと がで き る か とい う注 意の引 き離 し (disengagement
)で ある とも考 え られる.
し た がっ
て,
誤っ た注 意 移 動の頻 度には年 齢差 が見ら れ なくて も,
注 意を引 き離 すの に高 齢 者の方は時 間が か か るとす れ ば,
結果と して反 応 時 問の増 加につ な が る 可能 性が あ る.
研 究 間の矛 盾を解決す る た め に は, 少な く と もオ ンセ ッ ト妨 害 刺 激が出 現し た と きに見 られる反応時 間の遅 れ が, 注 意に関係するど の よ うな処 理の影 響で あ るのか明ら か に し なけれ ば な ら ない.
また,
矛 盾し た結 論の も う一
つ の原 因と して,
反応時 間を 測 定 する実 験 とサッ ケー
ドを 測 定 する実 験とで は,
呈 示刺 激の大 きさ や範 囲が全 く異な る とい う点 もあ げ ら れる.
前 者で は固 視 点 周 辺に刺 激が 呈示さ れ る が,
後 者 で は固 視 点 か ら離 れ た 位 置に小 さい刺 激が呈 示される.
(Kramer
ら(1999
)で は,
12.
6
° の位 置に 0.
2°
×0.
4°
の刺 激が呈 示さ れ た.
)こ の よ う な課題 の難 易 度の違い, 特に サ ッ ケー
ド の課題の難 易 度が高い こと が影 響して,
誤っ た サッ ケー
ドの頻 度に年齢問の 違い が見 られな か っ た可142 基 礎 心 理学研 究 第 26巻 第2号
能 性が考え られる
,
こ の問 題を解決す る た めには
,
反応時 間の測定 と同 じ課題 を用い て サ ッ ケ
ー
ド以外の方 法で注 意 移 動を測 定 する必 要がある
.
Theeuwes ,
Kramer ,
&Kingstone
(2004
)は
,
サ ッ ケー
ドで は な く標的を検 出する感度(d
’ )によっ て,
注 意 移 動の方 向 を 決 定 する注 意 配 分の変 化 を 測 定 し,
標 的と同 時に呈 示さ れ る課 題非関 連 妨 害 刺 激の存在 が 注 意 を捕 捉して いる か検 討し た.
課 題非 関連妨 害 刺 激 が注 意 を捕 捉 するの であ れ ば,
標 的へ の注 意 配 分は妨 害 刺激 が 呈 示 さ れ ない場 合 よ り も減 少 す るの で,
感 度 が 低.
ドする と考えられ る.
結 果から,
課 題 非 関 連 妨 害 刺 激が 存 在 する条 件において標 的検 出感 度は低 下 し,
こ の妨 害 刺 激に よっ
て 注 意が捕 捉さ れ るこ と が示さ れ た (e,
g.
,
Theeuwes & Chen,
2005 ).
標 的検 出 感 度の利 用に よ っ て,
サ ッ ケー
ド を用いず に標的へ の注 意 移 動の基とな る 注 意 配 分が測定で き る た め,
反応時 間の測 定と1
司一
の刺 激 画面に よる実 験が可 能にな る,
した が っ て,
先 行研究 間の矛 盾を解 消 するE
で,
標的 検出感 度の利用は非常に 有 効と考え ら れ る.
も し,
高齢者の反 応時間の増 加が注 意の 引き離し だ けで はないの な ら,
標 的 検 出感度に低 下 が見 られる はずである,
さ らに,
感 度 と と もに測 定さ れ る判 断 基 準c8
)も,
新 た な視 点で反 応時間に生じ る年 齢 差を検 討 する 上で重 要 で あ る,
判 断 基 準は“
標 的が あ る”
と報 告しやすいか ど う か と いう反 応の偏りを表すの で,
こ の値の変 化は感 度 に よっ て求め ら れ る注 意 配分と は独立し た判 断 基 準の変 化とい うことになる.
ゆえに,
判 断基準の検 討に よっ て,
オ ン セ ッ ト妨 害 刺 激に よ る反 応 時 間の変 化が,
注 意の倶1」 面だけ で は な く判 断基準の変化に よっ ても影響を受け る のか とい う新た な分 析が可 能に なる,
年 齢 間にお ける判 断 基 準の違い にっ いて,
Baracat &Marqui6
(1992
〕は 若 年 者よ り高 齢 者にFalse
A
’
1arm
(信 号が ないに もか か わ らずあ る と反応するこ と)が多 く,
判 断 基 準が低い (信号があ ると報 告 しや すい) ことを 指 摘 してい る.
ま た,
感 度だ けで は な く判 断 基 準の変 化も 反応 時間に影響 す る とい う指摘も あ る(Parasurarnan,1984
>.
し た がっ て,
注 意以外の要 因と して判 断 基 準の変 化が反 応 時 間に 与え る影 響 も検 討さ れ な けれ ばな らな い.
そこで,
本 研 究で は特に注 意 配分と注 意の引き離し に 注 目 し,
注 意制 御 機 能の 加齢 変 化にっ いて検 討し た,
貝 体 的に は,
オ ン セ ッ ト妨 害 刺 激の出 現に よっ て生 じる反 応 時 間の 変 化が,
注 意 配分 (感 度 )の変 化に よ る影響で あ るのか,
そ れ と も注 意の引き離 しによ る影 響で あ るの か とい う点にっ い て年 齢 差を比 較し,
加 齢に伴 う注 意 制 御 機 能の低 下が注 意の どの よ うな側 面に影 響して いるの か調べ た,
仮 説と し て, オ ンセ.
ン ト妨告 刺激の 出現に よっ
て,
高 齢 者の標 的へ の適切な注意配 分が困 難にな る の で あ れば,
反 応 時 間は大き く遅れ標 的検 出 感 度の低 下 率 も よ り大きい と考え た.
さ ら に判 断 基準の 測定も行 い,
反応時間の遅れ が判断基準の変化によ る影響で あ る か 検 討 を行っ た.
高 齢 者の方 が 若 年 者よ りも判 断 基 準 が 低 く,
オン セ ッ ト妨害 刺激の出現に よっ てその 傾向が強 ま り、
反応時 間の遅 れにっ な がる の で はないか と推 測 し た.
高 齢 者の注 意 制 御 機 能の変 化 だけ で は な く,
判 断 基 準の変化という 新 た な側 面にっ い ても検 討し た.
方 法 実 験 参 加 者 高 齢 者 8名 (男 女 各 4名:平 均69.
9歳,
標 準 偏 差 2.
5 歳 )と若 年者8
名 (屶女各4
名:平均22.
6
歳,
標準 偏 差 2,
8歳 )が参 加し,
高 齢 者は東 京 都 下の シ ルバー
人 材セ ン ター
の紹 介,
若 年 者は大 学 生お よ び大 学 院 生で あっ た,
就学 年数の 平均は, 高齢者で 11.
8 年 (標準偏差2.
9 年),
若年 者で15.
6
年 (標 準偏差1.
9
年 )で あっ た,
参 加 者は両 眼と も矯正視 力を含めて全員O.
6以上の視 力を保 持 しており,
白 内 障 な どの眼 病には罹 患 して いない正 常 視 力 保 持 者であっ た.
装 置 実 験に は,
パー
ソ ナル コ ン ピュー
ター
(eMachines 社 製J2921
) およ び 21 イ ンチ モ ニ ター
(MITSUBISH1 社 製Diamondtron
Flat
RDF225
)を使 用し た.
刺 激呈示と反応の記 録に は Cedrus 社 製 SuperLab Pro for Win
−
dows (Ver
.
2.
0)が用い ら れた.
実 験 参 加者の反 応には キー
ボー
ドが用い られ た.
Control Condition ffour stimuli Control CQndition !five stimuli Fixation*
*
→ → Search Onset
−
distractor Condition一
Grayり
帽
曹
Red Additional distraetor →β
十【
\・
S
=の
Onset−
distractOrFigure
1.
Fixation
and searchdisplays
under高 原
・
三浦・
篠原・
木 村:注 意 制 御 機 能にお ける加 齢 変 化 143 刺 激 試 行は READY 画 面,
固 視 画 面,
探索画面, マ ス ク画 面で構 成され,
黒 色の 背 景に刺 激が呈 示された 〔Figure
l
),
ま ず,READY
画面は中 央に“
READY
?”
と い う文 字が配 置され たもの で あっ た,
次に,
固 視 画 面は画 面中 央に 呈 示 さ れ たア ス タ リスク型の固 視 点 (1°×1°
),
プ レ マ ス ク で ある 6本の線 分 (長さ1.
5
° )を含む円 (直径2.
5
° ) で構 成 さ れていた.
刺 激 色はすべて灰 色 (16cd / m2 )であっ
た.
円には,
水平線お よ び上下 20° 傾い た線 分と垂 直線 およ び左 右20°
傾いた線 分の6
本が, ちょ う ど 巾央で クロ ス し た 形になっ て 内 包されて い た.
こ の円 は固 視 点か ら5.
5°
の位 置に置か れ, 四っ 呈示さ れ る場 合 は正 方 形また は菱 形の頂 点に配 置さ れ た.
五っ呈示さ れ る場合,5
っ め の円は正方形配列の時は菱 形の頂 点の い ずれ か,
菱形 配 列の時は正方形の頂点の いずれ か に加え られた.
さ ら に, 探索 画面で は固視画面の刺激の一
部が変 化し た.
固 視 点は ト字型に,
一
.
つ を除い てすべての 円が赤色 (16cd
/m2 }に変 化 した.
同 時に円 内の線 分は 1本になっ た.
灰 色のま ま残っ た 円内に は標的刺 激が出 現 する可能 性があり,
円 内の線 分は垂 直 線も しくは水 平 線で あっ
た.
赤 色に変 化し た円 内に は妨 害 刺 激が出現し,
垂直 線 と 水 平 線 以 外の傾い た 線 分の う ち 1本が呈 示 さ れ た.
最 後のマ ス ク画 面で は, 円 内に ラン ダム ドッ トパ ター
ンが 呈 示さ れ た.
手続き 実 験は両眼視で行わ れ,
観察距離は約60cm
で あっ た.
実 験 中はあ ごのせ台を使 用して参加者の頭部を固 定 し,
暗 室 内で課 題 を 遂 行 した.
標 的 刺 激の検 出に必 要な 最 短の刺激呈示時間は,
実 験 参 加 者 間で異な る可 能 性が あるた め,
予 備 実 験により各 参 加 者の刺 激呈示 時間 を決 めた後,
課 題に無 関 係なオ ンセ ッ ト妨 害 刺 激が 呈示さ れ る 本実 験を実 施し た,
【予 備 実 験 】 試 行は,
READY 画 面・
固 視 画 面・
探 索 画 面・
マ ス ク 画 面の4
種類で構成さ れて いた (Figure 2).
呈 示 画面の 刺 激 配 列は統 制・
刺激4
個条 件の みで あ っ た 〔Figure
1),
参 加 者の反 応に用い ら れ たの はキー
ボー
ドの 「/」も しくは「Z
」であっ た.
READY
画 面におい て実 験 参 加 者 がいず れ かの キー
を押す と試行が開始さ れ た,
次に固 視 画 面が 1,
000ms 呈示さ れ た.
続 く探索 画 面で は一
っ 以 外の 三っ の円が赤 色に変 化し,
円 内の余 分な線 分が消え1
本になっ た.
こ の う ち灰 色 円 内にあ る緤 分が標 的 刺 激 で あ る か どうか を判 断 するこ と が予 備実験の課 題で あっ た.
参 加 者に は,
標 的の有 無をで き る だけ速 く判 断す る匣]
一↓
鬮
Fixation (loeems) ↓( ψ 十
冖
\・
く冒
二Z
Search〔
Prelirninary Experiment’
six duration tim巳sExperiment ;fixed
duratiQn
time
for
each
observer
〕
↓
飃
Mask(3000ms)
一
・
,
−
GrayRed
Figure
2.
An
illustration
ofthe
sequence andtiming of events presented on each trial
.
ように教 示が行わ れ た
.
標的刺激は垂 直 線 もしくは水 平 線と指 示され,
ど ち らの線 分が標 的 刺 激と な る か は,
実 験 参 加 者の間でカウン ター
バ ラン スが と られた.
Figure l の例で は灰 色 円 内の線 分は垂直線で あ る が, 垂直線が 標的であ る と指 示さ れた参 加 者の場 合“
標 的が あ る”
と 判断 す るこ と が1E し く,
水 平 線が標 的で あ る と指 示さ れ た参 加 者の場 合“
慓 的が ない”
と判 断 するこ とが正 しい ことに な る,
また反応 に用い る キー
につ い て もカ ウン ター
バ ラン スが と られた.
探 索 画 面の呈 示 時 間は6
種類 (若 年 者:50
/70
/90fllO
/130
/150 ms,
高 齢 者:100/ 150/200 /250/300
/350ms
) で, 試行間で ラ ンダムに 呈 示された,
探 索 画 面 終 了 後に はマ ス ク画 面が3,
000
ms 呈示さ れ た,
予備実験は練 習 24 試 行の後,
本 試 行が 96試 行 実 施さ れ,.
rE
答率が70
% を 超え た時 点の呈 示 時 間 を 本 実 験に おける探 索 画 面の呈示 時 間と し た.
最 短の 呈示時間 (若 年 者50ms ・
高 齢 者 100 ms )で も70% 以 上の正答率を示 し た場合に は,
本 実 験におけ る刺 激 呈 示 時 間は最 短呈示 時 間に設 定さ れ た.
ま た,
最 長の呈 示時 問 (若 年 者150ms 。
高 齢 者 350 ms )で も 70% 以下の 正答 率で あっ た場 合には,
本 実 験の呈 示 時 間は最 長 呈 示 時 問 と した,
【本 実 験 】 課 題は予備 実 験と同一
で あっ た.
予 備 実 験との違い は,
課 題に無 関 係な オ ン セ ッ ト妨害刺激が呈 示さ れ る条 件と追 加の統 制 条 件が加え られ た点で あっ た,
本 実験で は,
刺 激 呈 示に関 して三っ の条 件が設 け られ た (Figure l).一
っ は,
線 分を含 む 円 が 試 行 を通 して四 つ呈 示されて い る統 制・
刺 激4個 条 件で あっ
た,
さ ら に,
試行の始め に呈 示されて い る円は四っ であ る が,
探144 基 礎 心理学 研 究 第 26 巻 第
2
号 索 画 面で オンセ ッ ト妨 害刺激が一
つ 加わ る オン セ ッ ト条 件が あっ た.
ま た,
試 行の始め か ら付 加 刺 激 を 含む 五っ の 円が 呈示さ れ て い る統制。
刺 激5
個条件 も加え ら れ た.
こ れ は,
オン セ ッ トの影 響と刺 激 数の増 加による影 響を区 別 するた めに設け られ た条 件で あっ た.
参加者に は標 的の有 無 をできるだけ速く判断するこ と と ともに,
オン セ ッ ト妨害 刺激や付 加 刺 激が標 的 刺 激に な る ことは ないため,
で きるだ け無 視 するよ う に とい うこと も教示 された,
予 備 実 験に よっ て決定さ れ た平 均呈示 時 間は,
若 年 者で80ms
(標 準 偏 差44 rns ),
高 齢 者で 175 ms (標 準 偏 差76ms )で あっ た,
木 実 験は練 習48
試 行の 後,
本 試 行が48
試 行を1
ブロ ッ ク と して 4 ブロ ッ ク,
計192
試 行 実 施さ れ た.
各 呈 示 条 件は プロ.
ソ ク内に16
試 行 ずっ含 まれており,
呈示順序はランダムで あっ た.
デ ザ イン 実 験は,
2(年 齢;高 齢 者 /若 年 者 )×3
(呈示条件1 統 制・
刺 激4
個 条件/統制 ・刺 激5個 条 件 /オ ン セ ッ ト条 件 )の2
要 因混合 計 画で行わ れ た.
主 な測 度は反 応 時 間 と感 度(d’
)であっ た が,
反 応の偏り を 調べ る た め に判 断 基準c8
)につ い て,
年 齢 間で課 題の難 易度が統 制さ れて い たか ど うか を 調べ る ため にIE答率と無 反応率にっ い て も分析が行わ れ た.
本 実 験で は,
反 応 時 間と して探 索 画 面の 呈示が開 始してから反 応 されるまでの時 間が計 測さ れ た,
結 果 反応時 間 正 答 だっ た試 行の 反応時間にっ い て対 数 変 換の後,
年 齢(2〕x 呈示 条 件(3)の 2要 囚 分 散 分 析が行わ れ た (Fig−
ure 3).
結 果,
年 齢・
呈示 条 件ともに主効果が有 意で あっ た (F(1,14
)=423.
84
;F
(2,28
)=88.
55,
p<.
0001 ),
さ らに,
交 互作 用が有意であっ た (F(2, 28)=
5.
45,
p
〈.
OOO1).
下 位 検 定 φ〈.
05)の結 果,
若 年 者は統制・
刺激 4個 条 件 (91e
ms )と統制 ・刺 激 5 個条件(906 ms )との 間に違いは見ら れ な かっ
た が,
オン セ ッ ト条 件 (940ms
) は他の 2群よ りも反 応が遅かっ た.
ま た,
高齢者におい て は,
統 制・
刺 激4個 条件,
統 制 ・刺 激5
個条 件,
オン セ ッ ト条件の「順に反 応 時 間が遅 くなっ た(1,
017ms,
1,
045
ms,
1,
133 ms ).
オ ンセ ッ ト条 件に見ら れ る反応 の遅 れは高 齢 者に お い て 88ms と な り, 若年 者の 34 ms を大 きく上 回っ た.
感 度 (d’
) 標 的 刺 激を検 出 する感 度 (d’
)につ いて, 年 齢 〔2
)X 呈 示 条 件 (3)の 2要 因 分 散 分 析が 行 わ れた (Figure 4).
分 析よ りt 年齢の主効 果は見ら れ な かっ た (F(L14
);O.
17,
d 1200篳
11・・ 丕鐔
1000 蚕羃
産 900 800older yGU冂ger
喩
1
黜
Figure
3,
Mean
reaction time in the control condition /four
stimuli , control condition /five
stimuli,
and onset・
distractor condition.
(The
error bars indicate standard errors
.
)3 2 1 0 older younge 「
liil
:
剛
Figure 4
.
Mean
d’in
the control condition /four
stimuli,
control condition /five stimuli,
and onse レdistractor
condition.
(The errorbars indicate standard errors
.
)β 6 4 2 D older younge「 口Control〆4stimuli 園Gontrol/5stimu「i L璽ρo§et
−_
Figure
5.
Mean
βin
the control condition /four stimuli
,
contrQl condition /five stimuli,
and onset−distractor
condition.
(The errorbars
indicate standard errors.
)ns〕が
,
呈 示 条件の主効果 (F
(2,
28)=
1.
73,
p =.
0002)お よ び,
年 齢×呈示 条 件の交互作用 (F(2,
28)=3.
37,
p
=.
0487 )が有 意で あっ た.
交 互 作 用につ いて,
下 位 検 定 (p
<.
05
)が 行わ れ た結果,
高齢者で は統 制・
刺 激 4個 条 件 と 比較 して他の 2群の感 度は低 ドした が,
統 制・
刺激5
個 条 件とオ ンセ ッ ト条 件の 感 度に違い は見ら れ な か っ た.一
方,
若 年 者では 呈 示 条件 聞の 感度は変わ ら な か っ た,
な お,
呈示 条 件ご との年 齢 差にっ いて は, いず れ も高 原
・
三 浦。
篠 原・
木 村:注 意 制 御 機 能におけ る加 齢 変 化145
Table
l Mean Percent Correct and No−
Reaction Rate (NR )in the Control Condition/four stimuli,
ControlCondition/five stirnuli
,
andOnset−distractor
Condition,
Standard
errors are shownin
parentheses,
Participants A11 Control/4 stimuli Controレ5 stimuli OnsetPercentCorrect
(%) OlderYounger 81.
3(1.
5)78.
O
(1.
2) 86.
7(2.
2)79.
9
(1.
4
)81、
7
(2.
3
)80.
6
(2.
3
) 75.
7(1,
7)73.
6
〔2,
0
) 皿 齣OlderYounger
L6 (0,
6) 0.
2(0.
1> 0,
4(0.
2)O.
2 〔0.
1) 1.
6 (O.
6)0,
2 〔0.
1} 2,
7〔L2)O.
2〔0
ユ) 有 意な違い は見 られな かっ
た.
判 断 基 準 (β) さ らに,
実 験 参 加者の反 応の 偏りにっ いて検 討す る た めに,
判 断基 準 (β)の分 析が行 わ れた.
βの値は参 加 者 の‘
標的 刺 激 が あ る”
とい う判 断 と“
標 的刺激 が ない”
と い う判断の 割合に偏 りが あ る か どうか を表 す値である。
βの値が 1で あ れ ば観 察 者の判 断に偏りがない こと を,
1よ り小さい ほ ど判 断 基 準が低 く“
標 的 刺 激がある”
と い う判 断が多い こと を,
1より大 き くなる ほど判 断 基 準 が高く“
慓 的 刺 激がある”
と い う判 断が少 ない こ とを 表 す,
実 際の分 析に はβと同 様に反応バ イア スを示 すC
(criterion )を用い た が,
結 果と し て はβの幾 何 平 均お よ び幾 何 標 準 誤 差を示した3〕.
βにつ いて も年 齢 (2
>×呈示 条 件 (3)の 2要 因の 分 散 分 析が行わ れ た(Figure 5),
結 果,
年 齢の主効 果が見ら れ 〔F〔1,
14)=
4.
74,
p
=,
047
),
高 齢 者よ りも若 年 者に おいて βの値が高い こ とが示さ れ た.
ま た,
呈示 条件の 主 効果 も有意であっ
た 〔F(2,
28)=
5.
14,
p ・
=
.
0126).
統 制・
刺 激4
個 条 件と統 制・
刺 激5個 条 件の問に違いは見いだ され な か っ た が,
オ ンセ ッ ト条 件に っ いて は他の2
群 よ り も 3,C (criterion )はβと同 様に反 応の偏 りを示 す指 標で あり,
ノ イズ分 布とシグナル + ノイズ分 布が交わ る バ イア スな しの点か ら判 断の基 準が ど れ だけ 離れて い るかにっ い て,
標 準 偏 差 (a得 点 )と して表した値 で ある.
観 察 者の反 応が“
ec
的 刺 激が あ る”
とい う方 向にも糠 的刺激が ない”
という方 向にも偏っ て いな い場 合は0 と なる,
また,
C の値が負の値であるこ とは“
標 的 刺 激があるtp とい う反 応へ の偏り を, 正の 値で あることは‘
標的刺激が ない”
とい う反応へ の偏 り を示す.
尤度比で 表さ れ たβは分 散 分 析に は適さ ないが,
C は z 得 点で ある た め分 散 分 析に適 してい る.
他に βを対 数 変 換し た IQ9βを 分析に用い るこ と も 可能と考え ら れるが,
C が すで に β と同 様に反 応バ イ ア スを示 す 指 標と して定 義づ け られて い るた め,
木研究に おける分 析に はC を用い た,一
方で, βが 判 断 某 準 と して浸 透 して い るこ と も事 実で あ る た め,
本 研 究にお け る結 果の代 表 値と して の平 均・
標 準 誤 差にっ い ては,
βの値の幾 何 平 均 および幾 何 標 準誤 差 を計 算し示し た.
(詳しくはGescheider
,
1997
宮岡 監 訓 2002 ) βの値 が 高い ことが 示された.
交ig1
作 用は見られ な かっ た (F
(2,28
〕=.
12,
ns).
正答 率・
無 反応率 本 実 験に お け る正 答 率と は,
反 応が行わ れ た試 行に お ける Hit とCR (Correct Rejection)の総数 が占める割 合 を意 味 する.
実 験は,
本 試 行 全 体の正 答 率が年 齢 間で等 し く な る よ うに呈 示 時 間の調 整が行わ れ た.
その結 果,
三っ の 呈 示 条 件を含め た本 試 行の 正 答 率は高 齢 者 81.
3
%,
若 年 者78.
0
%と非 常に類 似 した値となっ た.
し たがっ
て,
年 齢 間の難 易 度 調 整 は 適 切に行 わ れ た と 考 え ら れる,
正 答 率に っ い て は逆止弦 変 換の 後,
年 齢 ×呈 示条 件(3
)の2
要 因の 分散分析が行わ れ た (Table
1
),
結果,
年 齢の 主効 果と年 齢x 呈示 条 件の交 互作 用は有意で はな かっ た (F〔1,14)=
3.
04,F(2,28)=
2.
58, ns }が,
呈示 条 件 の主 効果が見いだ さ れ た (F
(2,28
)=18,
21,p
く.
OOOI
).
下 位検定の結果,
統 制・
刺激 4 個条件と統制・
刺激5 個 条 件の間に差は見 られ ないが,
オ ン セ ッ ト条 件におい て 正 答 率の低 下 が 見い だされ た,
す な わ ち年 齢にか か わ ら ず,
オン セ ッ ト妨害 刺激によっ て正 確 な 反応が妨げ ら れ ること が示 唆さ れ た.
また,
合わせて 反応が行 わ れな かっ た試行の 割 合 (無 反応率;NR
)にっ いて も同 様の分 析が行わ れ た (Table
1
).
無 反応率はマ ス ク画 面が 呈示さ れて いる3,
000
ms の間に,
標 的の有 無 判 断が行え な か っ た こと を示 す.
こ れ は判断に対するエ ラー
とは異な り , 特に反応に時間が 必要と な り が ち な高齢 者に とっ
て も,
課題の制限 時 間が 十 分であっ た か ど う かとい う指 標 とな る.
しかし,
年 齢 および呈 示 条 件の主 効 果 と交 互 作用 はすべ て有 意では な かっ
た (F(L14
)=
3.
50,
F(2,
28)=
2.
07,
F(2,
28)=
2.
07,
ns).
した がっ て,
若 年 者 も高 齢 者 もほ と んどの試 行 は,
マ ス ク刺 激が呈 示さ れて いる3,
000
ms の闇に反 応が可 能であっ
た と考え ら れ る,
考 察 本研究で は注 意 制 御 機 能の加 齢 変 化に注目 し,
注 意に 関 するどの よ うな処理におい て年 齢 差が見いだ さ れる の146
基 礎 心 理 学 研 究 第26巻 第 2号 か検 討し た.
特に,
オン セ ッ ト妨 害 刺 激が出現す る際の 高 齢 者における反 応の遅れ が,
適 切に注 意を配 分で き な い ことに起 因 するの か ど うか 調べ た.
ま た,
反 応の 偏り が 年 齢 及 お よ び 刺 激の呈示 条件によっ て変化す るのかに つ い て も測 定 し,
注 意 機 能とは独 立 し た判 断基 準と反 応 時 間との 関係につ いて も検 討した.
ま ず,
反 応 時 闇の結 果は,
ど ち らの年 齢 群と も 呈示 条 件に よっ て異なっ て いた.
若 年 者につ い て は,
統 制。
刺 激 4 個条 件及び統 制・
刺激5
個 条件の 反 応時間は変わ らな か っ た が,
オン セ ッ ト条 件では反 応 時 間が遅 くなっ た.一
方,
高 齢 者に お い て は,
統 制・
刺 激4個条 件,
統 制・
刺激5
個 条 件, オ ン セ ッ ト条 件の順 番に反応 が 遅 かっ た.
オ ン セ ッ ト条 件にっ い て は若 年 者・
高 齢 者と も に反 応が遅くな っ た が,
高 齢 者の方が よ り遅くな るこ と が示さ れ た,
さ ら に,
統 制・
刺 激5
個条件にっ い ては高 齢 者に の み反応の遅れ が見ら れ た.
こ の結 果は,
オ ン セ ッ ト妨 害 刺 激の 出現 だけ で は な く,
呈 示 刺 激 数が多い こ とも高 齢 者の反応の 遅 れにっ な が る こ とを 示 して い る.
次に,
標 的へ の注 意 配 分 を 示 す 感 度(d’
)の結 果は,
若 年 者に お い て は,
三っ の 呈 示 条 件 間に感 度の違い は見い だ さ れ な かっ
た が, 高 齢 者に おい て は, 統 制・
刺 激4
個 条 イ4
よ り も統制・
刺 激5個 条 件およびオ ン セ ッ ト条 件 に お い て感 度が低 下し た.
し た が っ て,
若 年 者は呈 示 条 件 が 異なn ても標 的へ の 注 意 配分が変化するこ と は な かっ た が,
高 齢 者の場 合は,
呈示される刺 激 数の増 加に よっ て注 意の配 分 が 変 化 することが 示された.一
.
一
方,
高 齢 者の統 制 ・ 刺 激5
個 条 件とオ ン セ ッ ト条 件の 感 度の 間に違い は見ら れ な かっ
た.
この 2条 件は 呈示さ れ る刺 激 数の点で同一
であ る が,
妨 害 刺 激が オ ンセ ッ トする か 否か とい う点で異なる,
オ ンセ ッ ト妨 害 刺 激が標 的へ の 注意 配分に影響を与え るの であ れ ば,
オ ン セ ッ ト条件に おい て感度の低 下が見ら れると考え ら れる.
し か し,
結 果よ り,
こ の 2条 件の問に感 度の違い は見られず,
オ ン セ ッ ト妨 害刺激の出現に よっ て注 意 配分が影響を受け る こ と は な か っ た,
さらに,
判 断 基 準CB
)の結 果か ら,
若 年 者は判 断 基 準 が高 く,
高 齢 者は判断 基 準が低いとい う年齢ご との判 断 某準の 違いが明ら かになっ
た,
ま た,
呈 示 条 件にっ いて は オ ン セ ッ ト条 件におい て他の 2群より も判 断 基 準が 高く な る傾 向が示さ れ た,
し か し,
こ の 呈 示条 件にお け る判断 基準の違いは, ど ち らの年齢群に も共通 して見ら れる もの であっ た.
反 応 時 間・
感 度・
判 断 基準の結果から, オ ンセ ッ ト妨 害 刺 激が出現 すること に よ る反応時間の 遅れ は,
若年 者 で も高齢者で も標 的へ の注 意配分が変化し たことに起 因 する の で はな かっ た.
しか し,
判 断 基 準にっ い て は オ ン セ ッ ト妨 害 刺 激によっ て影 響 が 見いださ れ た.
こ の こ と は,
注 意 以外の 要 因と して判 断基準の 変 化が反応時 間に 影 響 する こと を示 唆 する.
しか し,
オ ンセ ッ ト条 件にお け る 判 断基準の 変化 は,
若 年 者に も 高 齢 者に も共 通 して 見 られ る結 果で あ る た め,
高 齢 者の オ ン セ ッ ト条 件にお ける大 幅な反 応の 遅 れ を 説 明 する要 因で はない,
した がっ て,
高 齢者に見ら れ る オン セ ッ ト妨 害 刺 激によ る反 応の大 きな遅 れは,
標 的へ の注 意 配 分が低 下 して誤っ た 注 意移動が増加す るた めや 判 断 基 準の 変 化によ る 影 響で は な く, 誤っ て注 意 移 動し た オンセ ッ ト妨 害 刺 激か ら速 や か に離れ る こ と が で きな い“
t“ 意の 引き離し”
が難し い こ と に よる影響と考え ら れ る.一
方, 若年 者の オ ン セ ッ ト条件に見られ る反応の遅 延は,
判 断 基 準を よ り高 く設 定 する ために生じた影 響と解 釈で きる.
一
方,
呈示刺 激 数が多い場合で は, 若年者に は反 応時 間の増加や感 度の低 下は見 ら れなか っ たが,
高 齢 者にお いて反 応 時 間の増 加と感 度の低 下が示さ れ た,
し た が っ て,
呈 示 刺 激 数の増 加によっ て標 的 刺 激へ の注 意 配 分 が 減 少 し,
その 結果 と して 反応が 遅 延 し たこ と を示唆 す る.
呈Pt刺 激 数が多い条 件で 見ら れ る反 応 時 間の増 加 は,
注 意の引き離し の問 題と いうよ り も,
高 齢 者におい て標 的へ の注 意配分が滅少し標的以外の刺激へ の注意配 分が増加 し た結果,
誤っ た注 意 移動が増加し た ことに よ っ て生じて い ると考え ら れる.
以 上か ら,
(1
)オ ンセ ッ ト妨害刺激の 出現に よ る高齢 者へ の影響は,
標的へ の注意配分が適切に行え ないた め で は なく,
注 意の引 き離し が困 難になるた めに生 じるこ と,
呈 示 刺 激 数 が 多い こと は高 齢 者の適 切 な 注 意 配 分を 困難に す るこ と,
(3
)結論(1
)お よ び(2
)は,
判 断基 準の変 化によ るもの で は ない こと,
とい う三っ の結 論が 示 唆された.
ま ず, (1)の結 論は,高 齢 者にお け る注意制 御 機 能の 低 下を示す と と もに,
その影 響が注意の引き離し を困 難に する こと を明ら かに して い る,
こ の点につ いて Kramer ら(2000
)は,
オ ンセ ッ ト妨 害刺激に 誤 っ た サ ッ ケー
ド が行わ れ た試 行で は,
標 的に正 し くサ ッ ケー
ドが行わ れ た試 行より も,
サ ッ ケー
ド潜 時が短い に もか か わ らず 反 応 時 間が増 加し,
オ ンセ ッ ト妨 害 刺 激か ら注 意 を 引 き離 すの に時 間 が か か ること を 示 して いる,
オ ン セ ッ ト妨 害 刺 激によ る影 響が,
注 意の引き離しである点は本 研 究の 結 果 と類 似して い る が,
Kramer
ら(2000
)はこ の 影 響 に年齢差は見ら れ ないと して いる.
.
.
一
方でKramer
ら(2000
)は,
オン セ ッ ト妨 害 刺 激に高 原 ・三浦 。篠原
・
木 村:注 意 制 御 機 能に お ける加 齢 変 化 147 よ る影響が高 齢者に大きい場合, 気づき (awareness )の 向上が影響して い る可能性を指摘して いる.
彼ら は,
他 の県.
示 刺 激よ り もオ ンセ ッ ト妨 害 刺 激の輝 度が高く気づ き や すい 場 合, 高齢者に おい て オン セ ッ トへ の誤 っ た サ ッ ケー
ドが増加しやすい こ と を 見 いだ し た.
本研 究で は呈 示 刺 激はすべて等 輝 度であっ たが,
刺 激の呈 示 範 囲 はKramer
ら(2000
)な どで 用 い ら れ たOculomotor
capture 課題にお ける呈示 刺 激に比べ る と (画 面 中心 か ら12.
6
° ),
狭い範囲 (画 面 巾 心 から5,
5
° )に配 置 さ れ 全 体的に気づ き や す く なっ た と 考 え ら れ る.
ま た,
Kra−
mer ら (1999
)が 指 摘 して い る ように“
オ ン セ ッ ト妨 害 刺激 を 無視する ように”
とい う教 示に よっ てか えっ て気 づ きや す くなっ
て し まっ
た とも考え ら れ,
気づ きの 向上 に よ っ て高 齢 者の オ ンセ ッ ト条 件における反 応 時 間が極 端に遅 く なっ
たとい う可能性 も考え られ る,
ま た,
呈.
示 刺 激 数の増 加によっ て高 齢 者の感度は低 下 し た が,
若 年.
者の感 度に は影 響は見ら れなか っ た.
こ の 結果は(2)で示し たよ うに, 呈示刺激数の多さ に よ っ て,
高 齢 者が注意 配 分を適 切に行え な く な るこ と を示して い る.
し た が っ て,
注 意 制 御 機 能の低 下した高 齢 者.
は,
オ ン セ ッ ト妨害 刺激だ けで は な く, 視野内に多くの刺 激が 呈示されて い る ことに も影響を 受 けると 考 え ら れる.
(1)と 〔2)で述べ た,
オ ン セ ッ ト妨 害 刺 激と呈 示 刺 激 数 の 多さに よ る高.
齢者へ の影 響にっ い て は,
今 後さらに詳 細に調べ な け れ ば な ら ない点 も あ る.
例 え ば,
オ ンセ ッ ト妨 害 刺 激と慓 的 刺 激 間の距 離に よ る影 響が あ げ ら れ る.
この 距 離の遠 近と誤っ た サ ッ ケー
ドが発生する割 合 は関 係が 見 ら れ ないとい う 研究も あ る〔Colcombe,
Kra−
mer
,
Irwin,
Peterson,
Co
!combe,
&Hahn ,2003
;Kra ・
mer et al.
,
1999;Kramer et al.
,
2000;Theeuwes,
Kra−
mer
,
Hahn ,
&Irwin,1998
)が,
Godijn
& Theeuwes(2002 )は
,
サ ッ ケー
ド潜時にっ い て標的と オン セ ッ ト妨 害 刺 激の距 離が 近い ほ ど短 くな り遠い ほど長 くな るこ と,
ま た,
夕一
ゲッ トとオン セ ッ トの 距 離 が近い場 合に は その 中 間点 に サッ ケー
ドが実行 さ れ る割 合が増え るこ と を示 し,t
っ の刺 激 間の距 離がサ ッ ケー
ド制 御に影響 する こ と を指 摘し て い る.
し た がっ て,
本 研 究に お い て 指 摘さ れ た二 っ の 要因にっ い て, オン セ ッ ト妨.
窖 刺 激お よ び付 加 妨 害 刺 激と標 的 間の距離によ る影響が,
どの よ うに高 齢 者の注 意 制 御 機 能に影 響を与え る のか とい う問 題も検 討さ れ な け れ ば な ら ない.
最 後に,
判 断基準にっ いて は,
Baracat &Marquie
(1992)と同 様,
高 齢 者の方が若 年 者よ りも判 断 基 準が低 い こ とを示 す 結 果で あっ た,
また,
オ ン セ ッ ト条 件にお い て他の 2条 件よりも判 断基準が よ り高く,
オ ン セ ッ ト 妨 害 刺 激が出現 す る場 合に は,
判 断基準が変 化する た め に反 応 が 遅 延 する可 能 性が示 唆さ れ た.
し か し,
オン セ ッ ト条 件にお け る判 断 基 準の変 化は両 年 齢 群に共 通の 結 果であ り,
高 齢 者に見ら れ る大幅な反 応 遅 延の要 因と は考え られ ない.
した が っ て (3)と して,
(1
×2
)の結 果に 示さ れ た高 齢 者に お け るオ ン セ ッ ト妨 害刺激と呈 示刺 激 数の増 加の影 響は,
注 意 制 御 機 能の低 下によ る もの で あ り,
注意 機 能と独 立した判 断 基 準の変 化に よ る もの で は ない こと が示 唆さ れ た.
本研究の結 果よ り,
高 齢 者は課題非関 連オ ン セ ッ ト妨 害刺激によっ て注意の引き離し が困難に な る こと,
ま た,
呈 示 刺 激 数の増 加によっ て適切な注 意 配分が難し く な るこ と が示され, 高 齢 者に お い て注意制 御 機 能が低 下 して い ること が示唆さ れ た.
し か し,
高齢 者の注 意 制 御 機 能にっ い て は,
オ ン セ ッ ト妨 害 刺 激によ るawareness の 向上や妨 害 刺 激と標 的 間の距 離に よる影 響な ど,
どの よ う な要因が関係して い るのか今後詳 細に検 討 さ れ な け れ ば な ら ない.
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