2013年12月17日
社会福祉法人 こうほうえん
理事長 廣江 研
介護分野におけるICT活用
に関する提言
資料6-1
介護分野の現状(課題を中心に)
超高齢化社会が到来し、今後ますます介護分野の重要性が高まるのに対し、我が
国の介護分野は中長期的な展望、グランドデザインが皆無の状況
2025年時点での地域包括ケア成立には、介護分野において、現在よりも100万
人の人材増が必要であるが、その対応方策に関する目処は立っていない
諸外国と比較しても、介護現場へのITやロボット技術等の導入は遅れており、腰
痛の増大(労災の急増)や介護現場での事務作業効率性を生じさせる主たる要因
となっているのではないか。
個々の事業者が提供する介護サービスの質に関する議論が進んでいない。個々の
介護現場への配置基準(人員割り当て割合を規定する制度「人員配置基準」)で
は、介護サービスの質を評価することは出来ない。また、そのことが、介護者自
身のキャリアプランの立案、ひいてはワークライフバランスそのものの阻害要因
となっている
しかしながら、日本の介護サービスの質が非常に高水準であると、諸外国が評価
しており、自国サービスへの展開を期待する声も多い
提言(1):介護施設へのエコシステムの活用
介護施設の運営経費において人件費と並んで大きな割合を示す項目の一つが、光熱
水道費。同経費の低減化は、収入が介護保険に限定される事業において重要。我が
国のICT分野の成果の一つであるエコシステムの活用が期待される
2011年にこうほうえんが東十条に開設した保育園において、エコ技術に関する国内
メーカの知見を建設段階から導入。大幅な運営経費削減に成功(別紙参照)。
お風呂など、多量の温水を使う設備が備わっている介護施設は、保育園における
取り組みを大きく上回る効果が期待
しかしながら、経産省のエコガイドラインには介護施設に関する指標が存在しておらず、
上述した取り組みを実施する際でも関連団体などの同意を取ることが困難だった
すなわち、この類のエコシステム導入は、初期の建設費用増額を伴うため、公設民営
等の取り組みでは現状では受け入れられない。こうほうえんが上記事例を実施する際
には、追加で発生する費用を全額負担することを前提とした交渉により同意を確保
添付資料を参照に、導入効果を実例で示すための補助事業の実施、あるいは上述し
た導入ガイドラインの整備を検討してはどうか
提言(2):人材不足への対応
(1)
ICT活用による効率性と質の担保の両立
介護者の実施する行為には、介護記録や被介護者の状態把握など、
ICT化により効率
性が著しく高まることが想定されるが、実際に取り組まれた事例はほぼ皆無に等しい
効率性を高めることにより介護者がケア行動に専念する時間確保が見込まれ、結果と
して特養のみならず高齢者住宅などのサービスの質の向上にも資する事が期待される
現状の施設介護は、ユニットケア体制がおおむね10人1ユニット程度に制限されている。
これを
ICT化による効率性向上と提供されるサービスの質が担保される事を前提とした
うえで、規制緩和により、人数を拡大(
20名以内1ユニット)することにより、介護職員の
人員削減可能なシステムを構築してはどうか。
規制緩和を実施する事で、介護事業者側にICT導入の直接的かつ短期的メリットが生じ、
事業者側の自発的な取り組みによりICTの導入、効率性向上が見込まれる
著しい効率性追求は、介護サービスの質低下が懸念される事等を踏まえ、規制緩和に
際しては、特区等を活用し、どの程度の規制緩和が可能かを検証してはどうか
提言(2):人材不足への対応
介護現場の質については、現行制度では、介護者対被介護者の人数比が目安になっ
ている。人数比を目安にするということは、個々の介護者の能力を制度が評価していな
い短時間労働者として位置付けていることになる。介護者の能力を客観評価する指標
を別途構築する必要がある(現在、慶應大学とこうほうえんとで実証を進めている)。
さらに、腰痛による労災適用増大が諸外国でも問題になっていること等を踏まえ、リフト
やロボット技術等の広義のICT分野の知見を幅広く活用し、世界最先端の介護サービス
実現と、その活用によるノーリフトポリシーの義務化を検討してはどうか
これらの取り組みを実施する事で、高齢者の生活の質の向上、客観的な評価による介
護者自身の技能認定、そして経験豊富な
60歳以上の職員の活用が図れることなどか
ら、世界で最も効率的かつサービス品質が高い介護ソリューションの実現が見込まれ、
我が国の人手不足解消を図ると共に、同ソリューションのアジア諸国への展開(ICT産
業の活性化)が期待される
提言(2):人材不足への対応
(2)介護人材に関するグランドデザイン作成、人材連携・研修教育
ネットワーク構築に関する提言
前述の取り組みを実施したとしても、少子高齢社会では人材不足は深刻である。現行
のままでは、看護分野においても40万~50万人の人材増が必要。就労人口の8人に1
人が看護・介護分野に従事することが必要となる。
この状況に際し、現状では、単発的な対応に留まり、長期を見据えた方向性が明確で
ない。国が全体のフレームワークを作り、都道府県が介護人材計画を作定し、年度ごと
に結果の公表を義務化してはどうか
国家資格取得は専門の学校を終了するのが原則で、学校の存続が最重要であるが、
一方で
ICT等を活用した現場経験者からのコースも必要である。
少子化の中で学校の存続も重要な施策であるが、今以上の人員確保は可能性が低い。
一方産業構造の変化により弱電などの製造業の人員は、職種転換を迫られている。人
材の適正配置のネットワークをつくることが急務である。
提言(2):人材不足への対応
このような方策をしても人材不足が見込まれるので、その一部に対して外国人研修生
の活用が考えられる。現在のEPAによる制度は中途半端で研修生にとっても、受け入
れ法人にとってもメリットは少ない。ICTを活用し、一定のレベルの人を一定レベルの日
本語と介護の基礎を身につけて一定期間内(
5年位)日本で研修するソリューション、
制度を創設してはどうか。
個々の研修生が帰国すれば、今後アジア諸国へ日本型の介護サービスを進出する際
の現地側の中心的人材となる事が期待される。アジア諸国への展開も見据えたICT活
用型の連携ネットワーク、研修・人材教育ソリューションを検討してはどうか。
提言(3):災害時における介護サービス
(2)災害時における介護サービスの情報ネットワークの構築
現在、「介護サービス情報公表システム」が介護保険法に基づき全国の介護サービス
や事業所・施設の情報が毎年更新され、インターネット上で公開されている。
同サービスは、大規模災害等における活用の検討が不足しており、東日本大震災の際
には、通信情報機能の崩壊及び市役所、町役場等の被災により、情報流通が困難とな
り、被災地への支援を滞らせることとなった。
福祉医療機構が平成24年9月までWAM NETで公開していた介護事業者情報は、「独立行政
法人の事務・事業の見直しの基本方針」等により廃止され、平成
24年10月以降、各都道府
県が管理する「介護サービス情報公表システム」にリンクしているが、
WAM NETの(旧)介護
事業者情報に掲載されていた以下の事業所は掲載されていない。
1年間の介護報酬受領額(利用者負担含)が100万円以下の事業所
指定をうけてから1年未満の事業所
介護予防事業所、みなし指定事業所等
地域包括ケアは医療と介護の統合が必要であり、医療情報サービスについても一体
化して医療・介護を災害時緊急情報のネットワークシステムにすることが望まれる。