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憲法と婚姻保護 三三四同志社法学六〇巻七号2 二〇〇七年旅券法改正⑴連邦憲法裁判所二〇〇六年七月一八日決定⑵旅券法改正⑶性転換法改正Ⅲ連邦憲法裁判所二〇〇八年五月二七日決定1 婚姻をしていないこと の要件2 事実関係3 決定理由⑴男女間の婚姻の維持⑵性同一性障害者の被る侵害⑶比較衡量⑷解決方法Ⅳ特例

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憲法と婚姻保護  三三三 同志社法学   六〇巻七号

憲法と婚姻保護

性 同 一 性 障 害 者 の 性 別 変 更 要 件 を も と に

  (三三五一) Ⅰ   は じ め に   1   性 同 一 性 障 害 者 性 別 取 扱 特 例 法 と 憲 法   2   特 例 法 と 婚 姻 Ⅱ   ド イ ツ 性 転 換 法 の 動 き   1   連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 五 年 一 二 月 六 日 決 定     ⑴   基 本 法 二 条 一 項 に よ る 基 本 権 へ の 侵 害     ⑵   性 同 一 性 障 害 に 対 す る 理 解 の 変 化     ⑶   婚 姻 の 保 護     ⑷   パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 法 的 保 障     ⑸   解 決 方 法

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憲法と婚姻保護  三三四 同志社法学   六〇巻七号   2   二 〇 〇 七 年 旅 券 法 改 正     ⑴   連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 六 年 七 月 一 八 日 決 定     ⑵   旅 券 法 改 正     ⑶   性 転 換 法 改 正 Ⅲ   連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 八 年 五 月 二 七 日 決 定   1   ﹁ 婚 姻 を し て い な い こ と ﹂ の 要 件   2   事 実 関 係   3   決 定 理 由     ⑴   男 女 間 の 婚 姻 の 維 持     ⑵   性 同 一 性 障 害 者 の 被 る 侵 害     ⑶   比 較 衡 量     ⑷   解 決 方 法 Ⅳ   特 例 法 三 条 一 項 二 号 、 憲 法 、 婚 姻 法   1   婚 姻 締 結 の 自 由   2   婚 姻 の 維 持 ・ 離 婚 の 自 由 ( 個 別 の 婚 姻 の 保 護 )   3   婚 姻 の 保 護 ( 婚 姻 制 度 の 保 護 )   4   特 例 法 三 条 一 項 二 号 の 合 憲 性   5   民 法 上 の 婚 姻 と 憲 法   (三三五二)

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憲法と婚姻保護  三三五 同志社法学   六〇巻七号 Ⅰ   はじめに 1   性 同 一 性 障 害 者 性 別 取 扱 特 例 法 と 憲 法   性 同 一 性 障 害 者 の 性 別 の 取 扱 い の 特 例 に 関 す る 法 律 ( 以 下 、特 例 法 と 呼 ぶ ) で は 、性 同 一 性 障 害 者 に つ い て 定 義 し ( 二 条 )、 二 条 に よ る 性 同 一 性 障 害 者 で あ る と し て も 一 定 の 要 件 を 満 た さ な け れ ば 性 別 の 取 扱 い の 変 更 の 審 判 を 認 め な い ( 三 条 ) と い う よ う に 、 厳 格 な 要 件 の も と で の み 性 別 の 取 扱 い の 変 更 を 認 め る 。   平 成 一 九 年 一 〇 月 二 二 日 に 、 特 例 法 三 条 一 項 三 号 の い わ ゆ る 子 な し 要 件 が 、 憲 法 一 三 条 、 一 四 条 一 項 に 反 し な い と す る 、 最 高 裁 判 所 の 二 つ の 判 断 が 示 さ れ た ( 1) 。 そ の 後 、﹁ 未 成 年 の ﹂ 子 が な い こ と に 要 件 を 限 定 す る 改 正 法 が 平 成 二 〇 年 一 二 月 か ら 施 行 さ れ た 。   特 例 法 と 憲 法 と の 関 わ り に つ い て 、 特 例 法 の 解 説 で は 、﹁ 性 別 が 人 格 そ の も の と 深 く 結 び つ き 、 憲 法 第 一 三 条 の 個 人 の 尊 重 や 幸 福 追 求 権 の 問 題 に 関 わ っ て く る 面 が あ る と し て も 、 一 般 に 、 法 的 な 性 別 に つ い て 、 素 朴 な 自 己 決 定 権 論 を 持 ち 出 し 、 単 に 自 己 決 定 の 問 題 に か か ら し め る よ う な 議 論 は で き な い よ う に も 思 わ れ る ( 2) ﹂ と い う よ う に 、 あ ま り 積 極 的 に 論 究 し て い な か っ た 。 さ ら に 、 子 な し 要 件 の 解 説 で は 、﹁ 法 令 上 、 性 別 が 、 基 本 的 に 、 生 物 学 的 な 性 別 に よ っ て 客 観 的 に 決 定 さ れ る も の で あ り 、 個 人 の 意 思 に よ っ て 左 右 さ れ る べ き も の で は な い 以 上 、 そ の 法 的 な 取 扱 い と の 関 係 に お い て 、 憲 法 第 一 三 条 が ﹃ 性 別 に 関 す る 自 己 決 定 権 ﹄ な ど と い っ た も の ま で 権 利 と し て 保 障 し て い る と は に わ か に 考 え る こ と は で き な い ﹂ と す る ( 3) 。 性 別 は 、 私 的 の み な ら ず 公 的 な 側 面 を 持 つ た め 、 一 定 の 重 要 な 私 的 な 事 柄 の 自 己 決 定 と は 径 庭 が あ る と も 述 べ る ( 4) 。   こ れ に 対 し て 、 例 え ば 、 本 稿 で 比 較 の 対 象 と す る ド イ ツ で は 、 性 同 一 性 障 害 者 の 性 別 変 更 の 問 題 は 、﹁ 人 間 の 尊 厳 と 、   (三三五三)

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憲法と婚姻保護  三三六 同志社法学   六〇巻七号 自 由 な 人 格 発 展 へ の 基 本 権 は 、 個 人 の 身 分 登 録 を そ の 者 が 自 ら の 心 理 的 及 び 身 体 的 素 質 が 属 す る 性 別 へ 帰 属 さ せ る こ と を 求 め る ( 5) ﹂ と し て 、 性 転 換 法 制 定 前 か ら 、 一 般 的 人 格 権 と 関 わ る 問 題 と し て 認 識 さ れ て き た 。   と は い え 、 日 本 で 、 性 同 一 性 障 害 者 の 性 別 変 更 の 問 題 が 、 憲 法 一 三 条 と 関 係 す る こ と が 無 視 さ れ て い た の で は な い 。 立 法 に 向 け て 活 動 す る 人 々 の 中 に も 、 人 間 の 尊 厳 、 自 己 決 定 権 と 性 別 変 更 の 問 題 が 深 く 結 び つ く こ と を 意 識 し て い た と 思 わ れ 、 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー に 関 す る 自 己 決 定 権 の 問 題 と 明 確 に 指 摘 す る 大 島 俊 之 、 二 宮 周 平 の 見 解 が あ る ( 6) 。   性 同 一 性 障 害 者 の 性 別 変 更 の 問 題 は 、 一 方 に お い て 自 己 決 定 権 の 貫 徹 で あ る が 、 他 方 に お い て 特 例 法 は そ れ を 一 定 の 要 件 の も と で 行 使 す る こ と を 認 め て お り 、 こ の 両 者 の 緊 張 関 係 の 中 に あ る と 理 解 さ れ る 。 前 述 の 最 高 裁 平 成 一 九 年 決 定 で は 、 特 例 法 三 条 一 項 三 号 の 当 事 者 の 自 己 決 定 権 と 、 家 族 秩 序 の 混 乱 及 び 子 の 福 祉 と の 関 係 が 問 題 と な っ た 。   こ の よ う な 緊 張 関 係 が 子 な し 要 件 だ け で 問 題 と な る の で は な い 。 子 な し 要 件 は 、 特 例 法 立 法 当 初 か ら 他 国 に 例 を 見 な い 要 件 と し て 、 そ の 存 在 が 疑 問 視 さ れ て い た も の で あ り 、 第 一 に 取 り 上 げ ら れ る べ き も の と 考 え ら れ て い た に 過 ぎ な い 。 2   特 例 法 と 婚 姻   性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー と し て の 自 己 決 定 と そ の 制 限 と い う 緊 張 関 係 に つ い て 、 前 記 の よ う に 特 例 法 の 問 題 を 憲 法 一 三 条 、 一 四 条 と の 関 連 で 検 討 す る の で は な く 、 憲 法 に お け る 婚 姻 保 護 の 問 題 を 考 え る 一 つ の 題 材 と し て 、 特 例 法 三 条 一 項 二 号 の ﹁ 現 に 婚 姻 を し て い な い こ と ﹂ と い う 要 件 を 本 稿 で は 取 り 上 げ る 。   実 際 に は 、 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 が 性 別 変 更 を 求 め る こ と は 少 な い 。 こ の 場 合 に は 、 自 覚 す る 性 別 と 同 性 の 者 と 婚 姻 を 行 っ て い る 。 出 生 時 の 生 物 学 的 な 性 別 か ら み れ ば 異 性 で あ る が 、 本 人 が 自 覚 し 、 変 更 を 望 む 性 別 か ら み れ ば 、 同 性 愛 指 向 と な る か ら で あ る 。 し か し 、 性 別 変 更 前 の 性 同 一 性 障 害 と 婚 姻 と は 矛 盾 せ ず 、 例 え ば 出 生 時 に 男 性 で あ る が 自 ら   (三三五四)

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憲法と婚姻保護  三三七 同志社法学   六〇巻七号 を 女 性 と 感 じ て い る 者 が 、 女 性 と 婚 姻 し て い る 場 合 で も 、 性 同 一 性 障 害 を 否 定 で き な い 。 性 同 一 性 障 害 と 性 的 指 向 は 必 ず し も 関 連 し な い 。 性 同 一 性 障 害 の 治 療 、 性 別 の 変 更 は 、 当 事 者 と そ の パ ー ト ナ ー と の 関 係 を ホ モ セ ク シ ュ ア ル か ら ヘ テ ロ セ ク シ ュ ア ル に 転 換 す る こ と が 目 的 で は な く 、 個 人 の 性 同 一 性 障 害 の 治 療 で あ る 。 特 例 法 三 条 一 項 二 号 に よ り 性 別 変 更 が 妨 げ ら れ る 事 案 は 、 少 数 で あ ろ う が 存 在 し う る 。   こ の ﹁ 現 に 婚 姻 を し て い な い こ と ﹂ の 要 件 が 設 け ら れ た 理 由 と し て 、 婚 姻 を し て い る 性 同 一 性 障 害 者 に 性 別 の 取 扱 の 変 更 を 認 め る と 、 同 性 同 士 の 婚 姻 と い う 現 行 法 秩 序 に お い て 解 決 困 難 な 問 題 が 生 じ て し ま う こ と が あ げ ら れ て い る ( 7) 。 性 別 取 扱 変 更 で は な く 、 そ れ 以 前 の 性 別 適 合 手 術 の 段 階 で 現 に 婚 姻 を し て い な い 者 に 制 限 す べ き と い う 見 解 も 立 法 前 に は 出 さ れ て い た が ( 8) 、 特 例 法 で は 採 用 さ れ な か っ た 。   性 同 一 性 障 害 者 の 性 別 変 更 に よ り 同 性 間 の 婚 姻 が 発 生 す る こ と を 回 避 す る た め に 、 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 は 、 性 別 の 取 扱 の 変 更 を 求 め る 機 会 を 婚 姻 し て い な い 者 と 比 べ て 制 限 さ れ る 。 変 更 す る に は 婚 姻 を 解 消 し な け れ ば な ら な い 。 こ の 解 消 に は 、 特 例 法 の よ う に 現 に 婚 姻 し て い な い こ と を 要 件 と す る 方 法 と 、 性 別 取 扱 変 更 の 審 判 が 確 定 す る こ と に よ り そ の 効 果 と し て 自 動 的 に 婚 姻 を 解 消 さ せ る 方 法 が あ る 。 前 者 を 採 る 特 例 法 で は 、 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 に 、 事 前 に 離 婚 を し て お く こ と を 求 め て い る 。 婚 姻 要 件 に つ い て あ ま り 目 が 向 け ら れ な か っ た が 、 性 同 一 性 障 害 者 の 婚 姻 の 継 続 に 重 大 な 影 響 を 及 ぼ す 。   特 例 法 三 条 一 項 二 号 に 対 し て 、 石 原 明 は ﹁ 性 別 変 更 に よ っ て 戸 籍 上 で 認 め ら れ な い 同 性 婚 姻 と い う 状 態 が 生 じ て 婚 姻 は 自 動 的 に 解 消 せ ざ る を え な く な る か ら 、 そ う し た こ と に よ り 相 手 方 配 偶 者 に 不 利 益 が 生 じ な い よ う に と の 配 慮 か ら ﹂ 婚 姻 し て い な い こ と の 要 件 が お か れ て い る こ と を 理 解 し つ つ も 、﹁ 婚 姻 関 係 を 継 続 す る か ど う か は 配 偶 者 同 士 で 決 め る べ き で あ る か ら 、 こ れ を 性 別 変 更 申 し 立 て の 要 件 と せ ず 、 む し ろ 審 判 で 変 更 を 認 め て も そ の 効 果 は こ う し た 個 人 的 ・ 家   (三三五五)

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憲法と婚姻保護  三三八 同志社法学   六〇巻七号 族 的 領 域 に は 影 響 を 及 ぼ さ な い 、 と い う こ と に し て は ど う か ﹂ と い う 考 え を 示 し て い た ( 9) 。   二 宮 周 平 は 、﹁ す で に 婚 姻 を し 、 か つ 今 後 も パ ー ト ナ ー と し て 共 同 生 活 を 継 続 さ せ た い と 思 っ て い る 当 事 者 に 、 性 別 の 取 扱 を 変 更 し た け れ ば 離 婚 せ よ と 強 要 す る こ と が で き る の だ ろ う か ﹂ と 明 快 に 指 摘 し て い た ( 10) 。   外 国 の い く つ か の 例 を 見 る と 、 オ ー ス ト リ ア は 、 一 九 八 三 年 の 通 達 で は 性 別 変 更 に よ り 婚 姻 が 自 動 的 に 解 消 す る と い う 方 法 を 採 っ て い た が 、 後 に 一 九 九 六 年 の 通 達 で は 婚 姻 を し て い な い こ と を 要 件 と す る 方 法 に 改 め た 。 さ ら に 、 オ ー ス ト リ ア 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 六 年 七 月 八 日 判 決 は 、 要 件 を 定 め る 連 邦 内 務 省 通 達 、 い わ ゆ る 性 転 換 通 達 ( T ra ns ex ue lle n – E rla ss ) が 法 規 命 令 ( R ec ht sv er or dn un g ) と み な さ れ る の に 、 同 通 達 が 連 邦 官 報 ( da s B un de sg es et zb la tt ) に 公 示 さ れ な か っ た た め 違 法 で あ る と し た ( 11) 。 結 果 と し て 、 オ ー ス ト リ ア で 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 に よ る 性 別 変 更 が 認 め ら れ た の で あ る が 、 立 法 手 続 の 面 か ら 問 題 と な っ た の で あ り 、 性 同 一 性 障 害 者 の 性 別 変 更 と そ の 婚 姻 の 関 係 に つ い て は 論 じ ら れ な か っ た 。   イ ギ リ ス で は 、 二 〇 〇 四 年 に 制 定 ( 二 〇 〇 五 年 施 行 ) さ れ た G en de r R ec og nit io n A ct ( G R A ) の 立 法 段 階 で 、 同 性 間 の 婚 姻 の 発 生 を 回 避 す る た め に 、 政 府 が 、 性 同 一 性 障 害 者 が 性 別 の 変 更 に あ た っ て は 婚 姻 を 解 消 し な け れ ば な ら な い と 説 明 し て い た ( 12) 。 た だ し 、 性 別 の 変 更 前 の 婚 姻 関 係 ・ 家 庭 生 活 の 継 続 を 希 望 す る 当 事 者 家 族 の 実 態 を 考 慮 し 、 当 事 者 の 配 偶 者 が 不 利 益 を 被 る こ と が な い よ う に 、 婚 姻 を 解 消 し た 後 に 同 性 カ ッ プ ル と な っ た 当 事 者 が シ ビ ル ・ パ ー ト ナ ー シ ッ プ を 登 録 す る と い う 解 決 方 法 を 提 示 し て い た 。   ド イ ツ で は 、 次 章 以 下 で 見 る よ う に 、 性 転 換 法 と 婚 姻 の 問 題 に つ い て 憲 法 と の 関 係 が 正 面 か ら 議 論 さ れ た 。 そ こ で は 、 性 転 換 法 が 主 た る 問 題 で あ る も の の 、 憲 法 に お け る 婚 姻 保 護 の 問 題 、 そ し て 自 己 決 定 権 と の か か わ り が 中 心 と な っ て い る 。 当 事 者 が 婚 姻 の 解 消 を 望 ん で い な い に も か か わ ら ず 、 性 別 変 更 の た め に 婚 姻 を 解 消 さ せ る こ と は 、 婚 姻 の 継 続 に つ   (三三五六)

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憲法と婚姻保護  三三九 同志社法学   六〇巻七号 い て 国 家 が ど の よ う な 態 度 を と る の か 、 憲 法 上 保 護 さ れ る 婚 姻 と は 、 と い う 問 題 を 提 起 す る 。   以 下 で は 、 二 〇 〇 五 年 以 降 の ド イ ツ で の 性 転 換 法 の 変 化 の な か で 、 名 の 変 更 と 婚 姻 と の 関 係 が 問 題 と な っ た 連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 五 年 一 二 月 六 日 決 定 と 、 性 別 変 更 と 婚 姻 を し て い な い こ と の 要 件 が 問 題 と な っ た 連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 八 年 五 月 二 七 日 決 定 を 紹 介 す る 。 Ⅱ   ドイツ性転換法の動き   ド イ ツ で は 、 一 九 八 〇 年 に 特 別 な 事 案 に お け る 名 の 変 更 と 性 別 帰 属 の 確 定 に つ い て の 法 律 ( 性 転 換 法 T ra ns se xu ell en ge se tz , T SG ( 13) ) が 制 定 さ れ た 。 同 法 は 、 性 同 一 性 障 害 者 に つ い て 、 自 ら が 属 し て い る と 自 覚 す る 性 に 適 し た 名 へ の 変 更 の 手 続 、 い わ ゆ る 小 解 決 ( kle in e L ös un g ) と 、 身 分 登 録 法 上 の 性 別 の 変 更 の 手 続 、 い わ ゆ る 大 解 決 ( gr oß e L ös un g ) の 二 つ を 定 め て い る 。 こ の 点 で 、 名 の 変 更 を 戸 籍 法 で 、 性 別 変 更 を 特 例 法 で 行 う 日 本 と は 異 な る 。   性 別 変 更 の 要 件 に つ い て 、 す で に 連 邦 憲 法 裁 判 所 は 一 九 八 二 年 三 月 一 六 日 決 定 ( 14) で 、 当 時 の 性 転 換 法 八 条 一 項 一 号 が 定 め る 二 五 歳 以 上 と い う 年 齢 要 件 を 違 憲 と 判 断 し た 。   ド イ ツ 性 転 換 法 は す で に 紹 介 し て い る こ と か ら ( 15) 、 本 章 で は 性 転 換 法 と 基 本 法 で の 婚 姻 保 護 も 問 題 と な っ た 連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 五 年 一 二 月 六 日 決 定 を 紹 介 す る と と も に 、 次 章 で 紹 介 す る 連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 八 年 五 月 二 七 日 決 定 の 当 時 の 状 況 を 示 す 。   (三三五七)

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憲法と婚姻保護  三四〇 同志社法学   六〇巻七号 1   連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 五 年 一 二 月 六 日 決 定   連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 五 年 一 二 月 六 日 決 定 ( 16) は 、 名 を 変 更 し た 者 が 婚 姻 す る と 、 名 の 変 更 の 決 定 が 効 力 を 失 う と す る 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 が 違 憲 で あ る と し た 。   名 の 変 更 ( 小 解 決 ) に 関 す る こ の 事 案 で は 、 出 生 時 の 性 別 が 男 性 で あ る 申 立 人 が 、 自 覚 す る 性 別 で あ る 女 性 の 名 に 変 更 し た が 、 性 別 適 合 手 術 は ま だ 受 け て い な か っ た 。 そ し て 、 自 覚 す る 性 別 か ら み る と 同 性 で あ る が 、 身 分 登 録 法 上 は 異 性 と な る 女 性 と 婚 姻 し た 。 そ こ で 、 身 分 登 録 官 が 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 に 従 い 、 再 び 元 の 男 性 の 名 を 称 す る こ と を 出 生 登 録 簿 に 付 記 し た 。 こ れ に 対 し て 、 申 立 人 は 、 出 生 登 録 簿 の 訂 正 を 求 め て 申 し 立 て た が 区 裁 判 所 に よ り 棄 却 さ れ た た め 、 地 方 裁 判 所 に 即 時 抗 告 し た 。 地 方 裁 判 所 は 、連 邦 憲 法 裁 判 所 に 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 が 合 憲 で あ る の か の 判 断 を 仰 い だ 。   連 邦 憲 法 裁 判 所 は 、 性 別 適 合 手 術 を 受 け て い な い 同 性 愛 者 の 性 同 一 性 障 害 者 が 変 更 し た 名 を 失 う こ と な し に は 法 的 に 保 障 さ れ た パ ー ト ナ ー シ ッ プ を 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 に よ り で き な い 限 り で 、 基 本 法 一 条 一 項 と 結 び つ い た 二 条 一 項 に 違 反 す る と 判 断 し た 。 ⑴   基 本 法 二 条 一 項 に よ る 基 本 権 へ の 侵 害   性 転 換 法 に よ り 、 性 同 一 性 障 害 者 は 、 自 覚 す る 性 別 に 合 っ た 名 を 称 す る こ と が で き る 。 選 択 し て 称 す る 名 に 反 映 さ れ る 自 己 の 性 別 帰 属 は 、 基 本 法 一 条 一 項 と 結 び つ く 二 条 一 項 に よ り 保 護 さ れ る 人 格 の 最 も 親 密 な 領 域 ( de r in tim st e B er eic h ) に 属 す る 。 自 己 の 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー の 発 見 の 結 果 で あ り 、 そ の 反 映 で あ る 名 の 権 利 へ の 介 入 は 、 特 別 に 重 要 な 公 的 利 益 が 存 在 す る 場 合 に の み 許 さ れ る 。   性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 に よ り 、 名 を 変 更 し た 性 同 一 性 障 害 者 は 、 婚 姻 を 締 結 す れ ば 変 更 前 の 名 を 称 す る こ と に な り 、   (三三五八)

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憲法と婚姻保護  三四一 同志社法学   六〇巻七号 称 し て い る 名 が 表 す 性 別 と 自 覚 す る 性 別 と が 一 致 し な く な る 。 そ の た め 、 変 更 し た 名 を 同 規 定 に よ り 奪 う こ と は 、﹁ 基 本 法 上 保 護 さ れ る 親 密 な 性 的 領 域 を 侵 害 し て い る ( 17) ﹂ と 評 価 さ れ る 。 し か も 、 氏 名 権 と 親 密 な 領 域 へ の 介 入 は 、 本 人 の 同 意 な し に 行 わ れ て い る 。 性 同 一 性 障 害 者 が そ の パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 法 的 保 障 を 望 む こ と ( 婚 姻 締 結 ) で 、 変 更 し た 名 を 黙 示 で 任 意 に 放 棄 し て い る と は い え な い 。   こ の こ と は 、 同 性 愛 指 向 を 有 す る 性 同 一 性 障 害 者 が 名 の 変 更 の み を 行 い 、 性 別 を 変 更 し て い な い 場 合 に 問 題 と な る 。 自 覚 す る 性 別 で は 同 性 で 、 身 分 登 録 法 上 は 異 性 の 者 と の パ ー ト ナ ー シ ッ プ を 法 的 に 承 認 す る に は 婚 姻 し か な い ( 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ は 、 二 人 の 同 性 の 当 事 者 に の み 可 能 )。 し か し 、 婚 姻 を 締 結 す れ ば 、 変 更 前 の 名 を 称 さ な け れ ば な ら な い 。 こ こ で 、 性 同 一 性 障 害 者 は 、 自 ら の 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー を 名 に お い て 維 持 す る た め に 婚 姻 を 断 念 す る か 、 婚 姻 を 行 い 自 ら の 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー を 放 棄 す る か の 選 択 に 迫 ら れ る ( 18) 。   こ の よ う な 状 況 を 正 当 化 で き る か に つ い て 、 連 邦 憲 法 裁 判 所 は 、 立 法 者 に よ る 明 示 の 理 由 と 、 黙 示 の 理 由 か ら 検 討 し た 。 ⑵   性 同 一 性 障 害 に 対 す る 理 解 の 変 化   性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 を 立 法 者 が 定 め た 理 由 の う ち 、 性 同 一 性 障 害 に 対 す る 理 解 に 基 づ く も の は 明 示 さ れ て い た 。   立 法 者 は 、 名 の 変 更 と い う ﹁ 小 解 決 ﹂ と 、 性 別 適 合 手 術 を 受 け た 上 で の 性 別 変 更 と い う ﹁ 大 解 決 ﹂ の 関 係 に つ い て 、 小 解 決 は 、 性 同 一 性 障 害 者 が 求 め る 目 標 で あ る 大 解 決 に 至 る 通 過 段 階 に 過 ぎ な い と 位 置 づ け て い た 。 す べ て の 性 同 一 性 障 害 者 が 性 別 適 合 手 術 を 目 的 と し て い る と 想 定 さ れ て い た 。 性 別 適 合 手 術 の 前 ま で 性 同 一 性 障 害 者 は 、 性 同 一 性 障 害 が ま だ な お 明 確 で は な い 段 階 に あ り 、 出 生 登 録 簿 の 性 別 に 帰 属 し て い る と 自 覚 す る こ と が あ る と 考 え て い た 。   (三三五九)

(10)

憲法と婚姻保護  三四二 同志社法学   六〇巻七号   例 え ば 、出 生 登 録 簿 で の 性 別 は 男 性 で あ る が 女 性 で あ る と 自 覚 し た 性 同 一 性 障 害 者 ( M tF が 女 性 名 に 変 更 し た 後 に 、 性 別 適 合 手 術 も 受 け ず 、 性 別 を 変 更 し て い な い と す る 。 こ の 者 が 女 性 と 婚 姻 す れ ば 、 自 覚 す る 性 別 が 男 性 と な っ て い る と い う 考 え に 立 法 者 は 立 っ て い た 。 そ し て 、 こ の 自 覚 す る 性 別 ( 男 性 ) と 名 の 表 す 性 別 を 一 致 さ せ る た め に 、 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 は 、 変 更 し た 名 で は な く 、 元 の 名 を 称 す る こ と を 規 定 し た 。   ヘ テ ロ セ ク シ ュ ア ル を 基 本 に し て 性 同 一 性 障 害 を 考 え る 立 法 理 由 は 、 そ の 後 の 研 究 に よ っ て 否 定 さ れ た 。 ま ず 、 名 の 変 更 が 性 別 変 更 へ の 通 過 段 階 に 過 ぎ な い と い う 考 え が 、 性 同 一 性 障 害 の 治 療 方 法 か ら 否 定 さ れ た 。 性 同 一 性 障 害 者 と 診 断 し た 場 合 に 常 に 性 別 適 合 手 術 に よ る 治 療 を す る こ と が 正 し い と は い え ず 、 個 々 の 性 同 一 性 障 害 者 の 経 過 診 断 に お い て 性 別 適 合 手 術 が 必 要 で あ る か ど う か を 確 認 し な け れ ば な ら な い 。 つ ま り 、 性 同 一 性 障 害 者 が 名 の 変 更 と い う 小 解 決 の 段 階 に あ る の は 一 時 的 で 、 そ の 後 に 性 別 適 合 手 術 を 経 て 性 別 変 更 と い う 大 解 決 に 向 か う か 、 婚 姻 を 締 結 す る な ど し て 性 同 一 性 障 害 で は な い と な る か と い う 、 立 法 者 が 想 定 し て い た 二 つ だ け で は な い 。 名 の 変 更 の み で と ど ま り 、 か つ 、 性 同 一 性 障 害 者 で あ る 者 が 存 在 し 、 性 同 一 性 障 害 で あ る こ と に は 、 性 別 適 合 手 術 し た 者 と 変 わ り が な い の で あ る 。   前 記 例 の よ う な M tF の 性 同 一 性 障 害 者 に は 、 生 物 学 的 に は 異 性 で あ る が 、 自 覚 す る 性 別 か ら 見 れ ば 同 性 で あ る 女 性 に 対 す る 性 的 指 向 を 有 す る 例 が あ る こ と も 明 ら か に さ れ た 。 そ の た め 、 性 同 一 性 障 害 者 が そ の 自 覚 す る 性 別 と 同 性 の 者 と パ ー ト ナ ー 関 係 に あ る と し て も 、 そ れ は 本 人 の 性 同 一 性 障 害 を 否 定 す る も の で は な い 。 こ の た め 、 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 の 前 提 は 、 同 性 愛 指 向 を 有 す る 性 同 一 性 障 害 者 に は 妥 当 し な い こ と が 明 ら か に な っ た 。   以 上 の よ う な 理 由 か ら 、 本 決 定 は 、 立 法 者 が 明 確 に 示 し て い た 理 由 か ら で は 、 基 本 法 二 条 一 項 に よ り 保 護 さ れ る 氏 名 権 へ 介 入 す る 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 を 正 当 化 す る こ と は で き な い と し た 。 し か し 、 次 に み る よ う に 、 こ の 規 定 自 体 が 違 憲 で あ る と は し て い な い 。   (三三六〇)

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憲法と婚姻保護  三四三 同志社法学   六〇巻七号 ⑶   婚 姻 の 保 護   本 決 定 で 連 邦 憲 法 裁 判 所 は 、 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 の 目 的 と そ の 理 由 と し て 、 同 性 の 当 事 者 間 で 婚 姻 が 行 え る と い う 印 象 を 回 避 す る こ と を あ げ る 。 例 え ば 、 性 同 一 性 障 害 者 で あ る 男 性 が 女 性 名 に 変 更 し た の ち 、 女 性 と 婚 姻 す る な ら ば 、 夫 婦 双 方 が 女 性 名 を 有 す る た め 女 性 同 士 で の 婚 姻 が 許 さ れ て い る よ う な 外 観 を 生 じ さ せ る 。   婚 姻 の 本 質 か ら 生 じ る 男 女 間 の 共 同 生 活 へ の 要 請 と 、 国 家 共 同 体 が 婚 姻 の 法 制 度 に 有 す る イ メ ー ジ 、 保 護 に 価 す る イ メ ー ジ へ 性 転 換 法 が 与 え る 影 響 を 、 立 法 段 階 で 連 邦 議 会 内 務 委 員 会 の 少 数 派 は 危 惧 し て い た ( 19) 。 こ れ に 対 し て 、 多 数 派 は 、 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 で 婚 姻 締 結 に よ り 名 の 変 更 の 効 力 が な く な る こ と か ら 、 影 響 は な い と し た ( 20) 。 本 決 定 は 、 こ の よ う な 立 法 段 階 で の 議 論 を も と に 、 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 が 変 更 し た 名 を 剥 奪 す る こ と に つ い て 、 同 性 の 当 事 者 で も 可 能 と い う 外 観 か ら 婚 姻 を 保 護 す る こ と が 決 定 的 な 理 由 で あ る と 指 摘 し た ( 21) 。   つ ま り 、 こ こ で 検 討 し て い る の は 、 名 を 変 更 し た 性 同 一 性 障 害 者 が 行 う 婚 姻 の 保 護 で は な い 。﹁ 国 家 の 協 力 の 下 で の 自 由 な 決 断 に 基 づ く 継 続 的 な 生 活 共 同 体 の た め の 男 性 と 女 性 の 団 体 ( V er ein ig un g ) で あ る こ と は 、 社 会 の 変 遷 と そ れ に 平 行 し て 現 れ る そ の 法 的 形 成 の 変 化 を 顧 慮 せ ず に 維 持 さ れ 、 基 本 法 に よ っ て 特 徴 付 け ら れ る 婚 姻 の 本 質 ( G eh alt に 含 ま れ る ﹂ と い う 、 婚 姻 の 構 造 原 理 ( St ru kt ur pr in zip ie n ) を 守 る こ と に よ る 、 婚 姻 保 護 で あ る 。   こ の 点 に お い て 、 本 決 定 は 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 の 目 的 を 妥 当 と す る ( 22) 。 変 更 し た 名 を 同 条 に よ り 剥 奪 す る こ と で 、 夫 婦 が 異 性 で あ る こ と を そ の 名 に よ っ て 明 ら か に す る と い う 効 果 が あ る 。 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 が 名 を 変 更 で き る と し て も 、 婚 姻 を 行 う 時 点 で 同 性 の 当 事 者 が 婚 姻 で き る と い う 誤 っ た イ メ ー ジ を 回 避 で き る 同 条 の 規 定 が 適 切 で あ る こ と に 変 わ り は な い 。 ま た 、 こ の 誤 っ た イ メ ー ジ か ら 婚 姻 を 保 護 す る た め に よ り 緩 や か な 手 段 の 存 在 は 明 ら か で は な い 。   (三三六一)

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憲法と婚姻保護  三四四 同志社法学   六〇巻七号 ⑷   パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 法 的 保 障   本 決 定 に よ れ ば 、 婚 姻 の 規 定 、 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 規 定 と の 関 連 か ら 、 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 に よ る 氏 名 権 へ の 介 入 、 親 密 な 領 域 保 護 へ の 介 入 が 当 事 者 に 期 待 不 可 能 な も の と な る ( 23) 。   性 別 変 更 を し て い な い 性 同 一 性 障 害 者 が 同 性 愛 指 向 を 有 し て い る 場 合 に 、 自 覚 す る 性 別 に 合 っ た 名 を 放 棄 す る こ と な し に は 、 婚 姻 の 規 定 に よ っ て も 、 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 規 定 に よ っ て も 、 そ の パ ー ト ナ ー と の 関 係 を 法 的 に 保 障 さ れ た パ ー ト ナ ー シ ッ プ と す る こ と が で き な い た め 、 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 は 違 憲 で あ る 。   例 え ば 、 生 物 学 的 に は 男 性 で あ る が 女 性 と 自 覚 す る 性 同 一 性 障 害 者 が 同 性 愛 指 向 を 有 し て お り 、 名 の 変 更 を し た 後 に 、 女 性 と パ ー ト ナ ー 関 係 に あ る と す る 。 身 分 登 録 法 上 の 性 別 か ら み る と 両 者 は 男 女 で あ る た め 、 二 人 の 同 性 の 者 を 要 件 と す る 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ を 行 う こ と は で き な い 。 身 分 登 録 法 上 は 男 女 で あ る た め 婚 姻 を 締 結 で き る が 、 そ の 際 に 性 同 一 性 障 害 者 で あ る 当 事 者 は 変 更 し た 名 を 強 制 的 に 失 う 。 彼 ら に 唯 一 許 さ れ た パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 法 的 承 認 は 婚 姻 で あ る に も か か わ ら ず 、 婚 姻 を 行 え ば 自 己 の 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー を 表 現 す る 名 を 失 う と い う 制 裁 を 受 け る 。   こ の よ う な 法 律 上 の 連 関 に よ っ て 、 性 同 一 性 障 害 者 は 、 基 本 法 一 条 一 項 と 結 び つ い た 二 条 一 項 に よ り 保 護 さ れ る 権 利 で あ る 、 親 密 な 領 域 の 保 障 へ の 権 利 、 名 に 表 現 さ れ た 自 己 の 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー の 保 障 へ の 権 利 が 侵 害 さ れ る ( 24) 。 ⑸   解 決 方 法   こ の 違 憲 状 態 を 解 消 す る た め に 、 本 決 定 は 、 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 を 無 効 と す る と と も に 、 変 更 し た 名 を 維 持 し て 、 パ ー ト ナ ー 関 係 を 法 的 に 承 認 す る た め に 立 法 者 が 取 り 得 る 可 能 性 の い く つ か を 示 し た 。   ま ず 、 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 を 削 除 す る の み で 、 他 に 新 た な 規 定 を し な い と い う 方 法 で あ る 。 こ の 方 法 に よ る と 、 同   (三三六二)

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憲法と婚姻保護  三四五 同志社法学   六〇巻七号 性 間 で 婚 姻 で き る と い う イ メ ー ジ を 回 避 す る こ と は で き な い 。 こ の 場 合 に は 、 当 事 者 の パ ー ト ナ ー 関 係 は 、 婚 姻 と し て 法 的 に 保 護 さ れ る 。   次 に 、 身 分 登 録 法 を 改 正 し て 、 名 の 変 更 の 要 件 を 満 た し て い る が 、 性 別 適 合 手 術 を 受 け て い な い 性 同 一 障 害 者 に も 、 自 覚 す る 性 別 へ の 変 更 を 認 め る と い う 方 法 が あ る 。 こ れ に よ り 、 同 性 愛 指 向 を 有 す る 性 同 一 性 障 害 者 は 、 そ の パ ー ト ナ ー と 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ を 行 う こ と が で き る 。   ま た 、 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ 法 を 改 正 し て 、 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 当 事 者 に 、 同 性 愛 指 向 の 性 同 一 性 障 害 者 を 加 え る 方 法 も あ る 。 こ の 場 合 に は 、 名 を 変 更 し た 性 同 一 性 障 害 者 の 身 分 登 録 法 上 の 性 別 は 変 更 し な い が 、 同 性 の 二 人 の 当 事 者 と い う 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 定 義 が 変 更 さ れ る 。   本 決 定 に 対 し て 連 邦 政 府 は 、 旅 券 法 改 正 の 際 に も 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 を 削 除 せ ず 、 ま た 身 分 登 録 法 や 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ 法 改 正 も 行 わ な か っ た 。 そ れ で も 、 性 同 一 性 障 害 の 理 解 が 立 法 当 時 と 異 な っ て い る こ と へ の 指 摘 、 と り わ け 小 解 決 を 大 解 決 へ の 通 過 段 階 と 位 置 づ け る こ と の 誤 り 、 に 応 え て 、 後 述 の 旅 券 法 の 改 正 が 行 わ れ た 。 2   二 〇 〇 七 年 旅 券 法 改 正 ⑴   連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 六 年 七 月 一 八 日 決 定   連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 六 年 七 月 一 八 日 決 定 ( 25) は 、 本 国 法 で は 性 別 変 更 ま た は 名 の 変 更 が 認 め ら れ て い な い 外 国 人 に つ い て 、 性 転 換 法 一 条 一 項 一 号 の 国 籍 要 件 が 問 題 と な っ た 性 別 変 更 と 名 の 変 更 の 事 件 二 つ を ま と め て 判 断 し た 。   当 時 の 性 転 換 法 一 条 一 項 一 号 は 、 ド イ ツ 人 以 外 で は ﹁ ド イ ツ 法 の 適 用 領 域 に 、 無 国 籍 者 で あ れ ば そ の 常 居 所 を 有 し 、 難 民 で あ れ ば 住 所 を 有 し て い る ﹂ こ と を 要 件 と し て い た 。 当 事 者 が 第 一 事 件 で は タ イ 国 籍 を 有 す る 男 性 、 第 二 事 件 で は   (三三六三)

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憲法と婚姻保護  三四六 同志社法学   六〇巻七号 エ チ オ ピ ア 国 籍 を 有 す る 女 性 で 、 難 民 で は な か っ た た め に 、 本 国 法 に よ っ て も 、 ド イ ツ 法 に よ っ て も 性 別 変 更 、 名 の 変 更 が で き な か っ た 。   連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 六 年 七 月 一 八 日 決 定 は 、 ド イ ツ に 一 時 的 で は な い 滞 在 を し 、 本 国 法 に 性 転 換 法 と 同 様 の 規 定 が な い 外 国 人 に つ い て 、 ド イ ツ 人 及 び ド イ ツ に 属 人 法 的 秩 序 を 有 す る 人 と 比 べ て 、 性 転 換 法 一 条 一 項 一 号 は 不 平 等 扱 い を し て お り 、 そ の 不 平 等 扱 い を 正 当 化 す る 理 由 も な い こ と か ら 違 憲 で あ る と し た 。 ⑵   旅 券 法 改 正   二 〇 〇 五 年 一 二 月 六 日 と 二 〇 〇 六 年 七 月 一 八 日 の 連 邦 裁 判 所 決 定 を 受 け て 、 性 同 一 性 障 害 者 に 関 す る 法 律 の 改 正 が 、 旅 券 法 ( P as sg es et z ) の 改 正 手 続 き の 中 で 行 わ れ た ( 26) 。 性 転 換 法 の 改 正 が 旅 券 法 改 正 と と も に 行 わ れ た の は 、 名 の 変 更 を し た 性 同 一 性 障 害 者 が 、 そ の 名 に 応 じ た 性 別 を パ ス ポ ー ト に 記 載 で き る 規 定 を 旅 券 法 に 設 け た こ と に よ る 。 こ の 改 正 法 は 二 〇 〇 七 年 七 月 二 七 日 に 公 布 さ れ ( 27) 、 旅 券 法 の 規 定 の 一 部 に つ い て は 翌 二 八 日 か ら 、 性 転 換 法 の 改 正 は 二 〇 〇 七 年 一 一 月 一 日 か ら 施 行 さ れ た 。   名 の 変 更 の み を し た 性 同 一 性 障 害 者 が 自 覚 す る 性 別 に 相 応 す る 外 観 で い る 場 合 で あ っ て も 、 身 分 登 録 法 上 は 出 生 時 の 性 別 で あ る 。 そ の た め 、 外 国 を 旅 行 す る 際 に 、 パ ス ポ ー ト に 記 載 さ れ た 身 分 登 録 法 上 の 性 別 が 外 観 と 一 致 し な い た め に 、 し ば し ば 差 別 を 受 け て い た 。 他 方 で 、 前 記 連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 五 年 決 定 は 、 性 同 一 性 障 害 者 に と っ て 名 の 変 更 ( 小 解 決 ) は 性 別 変 更 ( 大 解 決 ) へ の 通 過 段 階 に す ぎ な い と い う 性 転 換 法 立 法 時 の 理 由 を 否 定 し た 。 こ の 連 邦 憲 法 裁 判 所 の 見 解 を 受 け 、 性 同 一 性 障 害 者 が 他 の 市 民 と 同 様 に 差 別 な く 外 国 旅 行 で き な け れ ば な ら な い と い う 連 邦 政 府 の 見 解 か ら 、 名 の 変 更 の み を し た 性 同 一 性 障 害 者 の パ ス ポ ー ト に お け る 性 別 記 載 を 、 変 更 し た 名 に 応 じ た 性 別 と す る こ と を 認 め る 法 改   (三三六四)

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憲法と婚姻保護  三四七 同志社法学   六〇巻七号 正 が な さ れ た ( 28) 。   こ の 改 正 に よ り 、 前 記 の よ う な 差 別 を 解 消 し 、﹁ 性 同 一 性 障 害 者 が 将 来 的 に そ の 自 覚 す る 性 別 に 応 じ た 自 己 決 定 に よ り そ の 人 生 を 送 る こ と が で き る こ と に 寄 与 す る 。 そ れ に よ り 、 性 同 一 性 障 害 者 が 新 た な 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー に 相 応 し て 社 会 と 法 で 扱 わ れ る こ と を 確 か に す る 。 こ の こ と は 当 事 者 の 精 神 的 安 定 に も 寄 与 す る ﹂ と 立 法 理 由 は 述 べ る ( 29) 。 ⑶   性 転 換 法 改 正   旅 券 法 改 正 に 伴 う 性 転 換 法 の 改 正 で は 、 連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 五 年 決 定 が 無 効 と し た 性 転 換 法 七 条 一 項 三 号 は 削 除 さ れ ず 、 同 決 定 が 示 し た 改 正 の 選 択 肢 も 採 ら れ な か っ た 。 そ れ に 対 し て 、 連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 六 年 決 定 が 違 憲 と し た 性 転 換 法 一 条 一 項 一 号 は 改 正 さ れ 、 同 条 一 項 三 号 と な っ た 。 そ れ に よ り 、 性 別 変 更 に は 次 の 要 件 を す べ て 満 た す こ と が 求 め ら れ た 。   ま ず 性 転 換 法 一 条 一 項 一 号 か ら 三 号 ま で に 定 め る 名 の 変 更 の 要 件 を 満 た さ な け れ ば な ら な い 。 ①   そ の 性 同 一 性 障 害 の 特 徴 に 基 づ き 出 生 登 録 簿 に 申 し 出 た 性 別 で は な く 、 別 の 性 別 に 属 し て い る と 自 覚 し 、 か つ 、 少 な く と も 三 年 間 自 ら の 考 え に 相 応 し た 生 活 を 送 る こ と が 余 儀 な く さ れ て い る こ と ②   他 の 性 別 に 属 し て い る と い う 自 覚 が も は や 変 わ ら な い と い う 高 度 の 蓋 然 性 が 推 定 さ れ る こ と ③   さ ら に 次 の い ず れ か に 該 当 す る こ と   ⒜   基 本 法 の 意 味 に お け る ド イ ツ 人 で あ る こ と   ⒝   無 国 籍 者 ま た は 祖 国 の な い 外 国 人 は 、 そ の 常 居 所 を 国 内 に 有 す る こ と   ⒞   庇 護 権 者 ま た は 外 国 難 民 は 、 国 内 に そ の 住 所 を 有 す る こ と   (三三六五)

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憲法と婚姻保護  三四八 同志社法学   六〇巻七号   ⒟   本 国 法 が こ の 法 律 と 同 様 の 規 定 を 有 し て い な い 外 国 人 は     ( aa)  無 期 限 の 滞 在 権 を 有 し て い る こ と     ( bb)  更 新 可 能 な 滞 在 許 可 を 有 し て お り 、 か つ 、 継 続 し て 合 法 的 に 国 内 に 滞 在 し て い る こ と   性 別 変 更 が 認 め ら れ る た め に は 、 次 の 要 件 が 加 わ る ( 性 転 換 法 八 条 一 項 )。 ④   婚 姻 し て い な い こ と ⑤   継 続 的 に 生 殖 不 能 で あ る こ と ⑥   性 別 適 合 手 術 を 受 け て い る こ と Ⅲ   連邦憲法裁判所二〇〇八年五月二七日決定 ( 30) 1﹁ 婚 姻 を し て い な い こ と ﹂ の 要 件   一 九 七 九 年 一 月 五 日 の 性 転 換 法 の 最 初 の 草 案 ( 31) で は 、 性 別 帰 属 確 認 の 決 定 の 効 果 と し て 、 草 案 一 〇 条 二 項 は ﹁ 申 立 人 が 婚 姻 し て い る と き は 、 決 定 の 確 定 に よ り 解 消 す る 。 解 消 の 効 果 は 、 離 婚 の 規 定 に 従 っ て 定 め る ﹂ と さ れ て い た 。 事 前 に 婚 姻 を 解 消 す る こ と を 要 件 と し な か っ た 理 由 と し て 、 当 事 者 の 性 別 帰 属 が ま だ 決 定 さ れ て い な い 時 点 で 婚 姻 を 解 消 し な け れ ば な ら ず 、 性 別 変 更 が 認 め ら れ な い 場 合 に は 不 必 要 な 出 費 と な る こ と の 不 当 性 を あ げ た ( 32) 。 ま た 、 性 同 一 性 障 害 者 に よ る 婚 姻 が 解 消 す る に あ た り 、 必 ず 破 綻 し て い な く と も よ い と し た 。   連 邦 参 議 院 は 、 草 案 の 規 定 に 反 対 し ( 33) 、 草 案 一 〇 条 二 項 を 削 除 し て 、 婚 姻 し て い な い こ と を 要 件 と す る 意 見 を 出 し た 。 そ の 後 の 連 邦 議 会 内 務 委 員 会 で 多 数 派 は 、 事 前 に 離 婚 す る こ と を 求 め る と し て も 、 離 婚 の 段 階 で は 別 の 性 へ の 帰 属 が 確   (三三六六)

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憲法と婚姻保護  三四九 同志社法学   六〇巻七号 認 さ れ て は い な い こ と 、 そ の 後 の 性 別 変 更 が 認 め ら れ な け れ ば 離 婚 自 体 が 無 駄 に な っ て し ま う と い う 点 を 重 視 し て 、 自 動 解 消 に 賛 成 し た ( 34) 。   そ れ に 対 し て 、 事 前 離 婚 の 立 場 は 、 次 の よ う に 批 判 し た 。 ま ず 、 確 認 の 決 定 に よ っ て 自 動 的 に 婚 姻 が 終 了 す る こ と は 婚 姻 の 意 義 と 合 致 し な い 。 草 案 で は 婚 姻 が 破 綻 し て い る 必 要 は な い と す る が 、 破 綻 し て い な い 婚 姻 を 解 消 さ せ る こ と は 基 本 法 六 条 に 反 す る 。 そ れ に 加 え て 、 性 別 確 認 手 続 の 前 に 婚 姻 を 解 消 し て お か な け れ ば 、 婚 姻 の 存 在 に つ い て 発 言 で き る 配 偶 者 が 性 別 帰 属 確 認 手 続 に 参 加 す る こ と を 避 け ら れ な い 。 性 別 の 帰 属 と い う 当 事 者 の 一 身 専 属 的 な 事 柄 に つ い て 、 破 綻 し た 婚 姻 の 配 偶 者 が 関 与 す べ き で は な く 、 も し 参 加 し た な ら ば 性 別 変 更 の 確 認 を 達 成 で き な い と い う 恐 れ も あ る ( 35) 。   連 邦 参 議 院 は 、 一 九 八 〇 年 六 月 末 に 事 前 離 婚 を 再 び 主 張 し ( 36) 、 同 年 七 月 に は 両 院 協 議 会 で 、 自 動 解 消 の 規 定 が 削 除 さ れ 、 婚 姻 し て い な い こ と を 要 件 と す る 八 条 一 項 二 号 が 挿 入 さ れ た ( 37) 。   婚 姻 し て い な い こ と の 要 件 の 必 要 性 に つ い て は 、 連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 八 年 五 月 二 七 日 決 定 の 手 続 に お い て 、 連 邦 内 務 省 が 次 の よ う に 述 べ て い た 。   性 別 帰 属 の 変 更 を 独 身 の 性 同 一 性 障 害 者 に 限 定 す る こ と は 、 婚 姻 し て い る 性 同 一 性 障 害 者 に つ い て は 、 基 本 法 一 条 一 項 と 結 び つ い た 二 条 一 項 か ら の 性 的 自 己 決 定 権 へ の 介 入 と な る 。 し か し 、 そ の 介 入 は 、 同 性 間 の 婚 姻 を 妨 げ る と い う 公 的 利 益 が 優 先 す る こ と か ら 正 当 化 さ れ る 。 こ の 介 入 は 、 当 事 者 が 性 別 変 更 の 裁 判 上 の 決 定 の 直 前 に 離 婚 で き る こ と に よ っ て 緩 和 さ れ て い る 。 そ し て 、 婚 姻 の 解 消 を 求 め る こ と も 、 性 別 の 変 更 と い う 権 利 を 考 慮 し て 判 断 す れ ば 、 基 本 法 六 条 一 項 の 保 護 範 囲 、 婚 姻 の 核 心 領 域 を 侵 害 し て い な い 。 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 は 、 異 性 の 当 事 者 を 要 件 と す る 法 的 制 度 ( 婚 姻 ) を 望 ん で お り 、 法 秩 序 と 社 会 が 設 定 す る 性 別 帰 属 に 従 っ て い る 。 こ の 性 同 一 性 障 害 者 が 性 別 変 更 を 望 む な ら ば 、 婚 姻 の 維 持 を 問 題 と し な い こ と を 表 明 し て い る ( 38) 。   (三三六七)

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憲法と婚姻保護  三五〇 同志社法学   六〇巻七号 2   事 実 関 係   申 立 人 は 一 九 二 九 年 生 ま れ の 男 性 で あ り 、 婚 姻 し 、 三 人 の 子 が あ っ た 。 以 前 よ り 自 分 は 女 性 で あ る と 自 覚 し て お り 、 二 〇 〇 一 年 に 性 転 換 法 に よ る 名 の 変 更 が 認 め ら れ た 。 二 〇 〇 二 年 に は 性 別 適 合 手 術 を 受 け 、 女 性 の 外 観 を 有 し て い る 。 二 〇 〇 三 年 六 月 三 〇 日 に 、 区 裁 判 所 は 、 申 立 人 が 婚 姻 し て い る と い う 理 由 か ら 、 性 別 変 更 を 認 め な か っ た 。 し か し な が ら 、 妻 は 離 婚 に 反 対 し て お り 、 申 立 人 は 妻 が い な け れ ば 精 神 的 に 安 定 し た 生 活 を お く れ な い 状 況 に あ っ た 。 そ の た め 、 新 た な 性 別 の 法 的 承 認 を 得 る た め の 離 婚 手 続 き を 行 え な い と い う 理 由 か ら 、 再 び 、 区 裁 判 所 に 性 転 換 法 八 条 に よ る 性 別 変 更 を 申 し 立 て た 。   性 転 換 法 八 条 一 項 二 号 が 基 本 法 一 条 一 項 と 結 び つ い た 二 条 一 項 、 六 条 一 項 に 反 す る と 考 え た 区 裁 判 所 は 、 二 〇 〇 五 年 八 月 八 日 に 手 続 き を 停 止 し 、 連 邦 憲 法 裁 判 所 に 対 し て 性 転 換 法 八 条 一 項 二 号 が 合 憲 で あ る か の 判 断 を 仰 い だ 。 3   決 定 理 由   本 決 定 は 、 次 の 理 由 か ら 、 性 転 換 法 八 条 一 項 二 号 が 違 憲 で あ る と し た 。   自 己 決 定 に よ る 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー の 法 的 承 認 を 求 め る 権 利 は 、 基 本 法 一 条 一 項 と 結 び つ い た 二 条 一 項 に よ り 保 護 さ れ る 。 こ の 権 利 の 制 限 は 、 正 当 な 目 的 を と お し て 行 わ れ て お り 、 比 例 し て い る ( ve rh ält nis m äß ig ) 場 合 に の み 許 さ れ る 。   利 益 を 比 較 衡 量 し た 上 で 、 同 性 間 の 婚 姻 の 発 生 を 回 避 す る と い う 利 益 と 、 婚 姻 し て い る 性 同 一 性 障 害 者 な ど が 性 別 変 更 の ﹁ 婚 姻 を し て い な い こ と ﹂ の 要 件 に よ り 被 る 侵 害 と が 、 狭 義 の 不 比 例 で あ る ( un ve rh ält nis m äß ig in e ng er en S in n ) と 判 断 し た ( 39) 。 そ し て 、﹁ 法 律 が 既 婚 者 で あ る 性 同 一 性 障 害 者 に そ の 法 律 上 保 障 さ れ た パ ー ト ナ ー シ ッ プ が 終 了 す る こ と   (三三六八)

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憲法と婚姻保護  三五一 同志社法学   六〇巻七号 な し に 性 別 変 更 の 法 的 承 認 を え ら れ る 可 能 性 を 開 い て い な い 限 り で 、 基 本 法 一 条 一 項 と の 関 連 で の 二 条 一 項 と 六 条 一 項 に 合 致 し な い ﹂ と 結 論 づ け た ( 40) 。 ⑴   男 女 間 の 婚 姻 の 維 持   比 較 さ れ る 一 方 の 利 益 は 、 夫 婦 が 法 的 に も 同 性 と な る 婚 姻 が 発 生 し な い と い う 公 益 目 的 の 追 求 で あ る 。 こ の よ う な 目 的 は 、 婚 姻 を 国 家 秩 序 の 特 別 の 保 護 に お く と 定 め る 基 本 法 六 条 一 項 か ら 正 当 化 さ れ る 。 婚 姻 が 国 家 の 協 力 の 下 で の 自 由 な 決 断 に 基 づ く 継 続 的 な 生 活 共 同 体 の た め の 男 性 と 女 性 の 団 体 ( V er ein ig un g ) で あ る こ と は 、 社 会 の 変 遷 と そ れ に 並 行 し て 現 れ る そ の 法 的 形 成 の 変 化 を 顧 慮 せ ず に 維 持 さ れ 、 基 本 法 に よ っ て 特 徴 付 け ら れ る 婚 姻 の 本 質 ( G eh alt に 含 ま れ る 。 基 本 法 六 条 一 項 の 特 別 の 保 護 の も と に あ る 婚 姻 が 男 女 間 の 異 性 の 当 事 者 に 留 め 置 か れ る こ と の 重 要 性 は 、 連 邦 憲 法 裁 判 所 も 認 め て い る 。 夫 婦 が 身 分 登 録 法 上 同 一 の 性 別 で あ る こ と か ら 同 性 カ ッ プ ル が 婚 姻 を 行 え る と い う 誤 っ た イ メ ー ジ を 抱 か せ る 婚 姻 の 存 在 を 回 避 す る た め に 規 定 を 設 け る こ と は 必 要 で あ る 。   婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 は 性 別 適 合 手 術 を 行 う こ と に よ り 同 性 カ ッ プ ル に よ る 婚 姻 と い う 外 観 も 有 す る し 、 性 転 換 法 一 条 に よ る 名 の 変 更 を 行 え ば 、 そ の よ う な 外 観 は よ り 強 ま る 。 連 邦 憲 法 裁 判 所 二 〇 〇 五 年 一 二 月 六 日 決 定 が 示 唆 す る よ う に 、 異 性 と 婚 姻 し た 性 同 一 性 障 害 者 が 名 を 変 更 し た 際 に は 同 性 の 名 の 夫 婦 が 存 在 す る た め 、 こ の 場 合 に 身 分 登 録 法 上 は 異 性 で あ っ て も 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ を 行 う 可 能 性 を 認 め る と い う 方 法 で 、 同 性 の 婚 姻 の 外 観 が 生 じ る こ と を 回 避 で き た 。 し か し 、 立 法 者 は 、 こ の よ う な 解 決 策 を 含 め て 連 邦 憲 法 裁 判 所 決 定 に 応 じ た 措 置 を 何 も 執 ら な か っ た 。 こ の よ う な 婚 姻 が 存 在 す る こ と を 立 法 者 は 甘 受 し て い る が 、 男 性 と 女 性 の 団 体 と し て の 婚 姻 の 構 造 メ ル ク マ ー ル ( St ru kt ur m er km al ) を 堅 持 し て 、 身 分 登 録 法 上 も 同 性 の 当 事 者 が 婚 姻 す る こ と を 認 め な い こ と の 重 要 性 は 失 わ れ な い 。   (三三六九)

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憲法と婚姻保護  三五二 同志社法学   六〇巻七号 ⑵   性 同 一 性 障 害 者 の 被 る 侵 害   こ れ に 対 し て 、 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 が 性 転 換 法 八 条 一 項 二 号 に よ り 被 る 侵 害 も 重 大 で あ る 。 自 覚 し 、 適 合 手 術 を 受 け た 性 別 で の 身 分 登 録 法 上 の 承 認 を 求 め る 権 利 と い う 基 本 法 一 条 一 項 と 二 条 二 項 に 基 づ く 権 利 の 保 障 と 貫 徹 の た め に 、 あ ら か じ め 配 偶 者 と の 離 婚 を 求 め る こ と は 、 当 事 者 で あ る 性 同 一 性 障 害 者 に 対 し て 期 待 不 可 能 で あ る ( 41) 。   離 婚 が 当 事 者 に 期 待 不 可 能 で あ る 理 由 と し て 、 一 つ は 離 婚 が 不 確 実 で あ る こ と か ら 生 じ る 負 担 と 、 も う 一 つ は 基 本 法 六 条 一 項 に よ り 保 護 さ れ る 婚 姻 が 侵 害 さ れ る こ と を あ げ る 。 ⒜   離 婚 の 不 確 実 性   立 法 段 階 で 議 論 さ れ た 離 婚 を し た が 性 別 変 更 を 認 め ら れ な い 場 面 で は な く 、 そ も そ も 性 同 一 性 障 害 者 が 性 別 変 更 を す る た め に 離 婚 を す る こ と が で き る の か が 問 題 と な る 。 こ の 点 は 、 ド イ ツ 法 独 自 の 事 情 が 絡 ん で い る ( 42) 。   性 別 変 更 の た め だ け に 婚 姻 を 解 消 す る の で あ り 、 性 同 一 性 障 害 者 と そ の 配 偶 者 が 婚 姻 の 継 続 を 望 ん で い る 場 合 に 、 そ の 婚 姻 が 破 綻 し て い な い に も か か わ ら ず 離 婚 が 認 め ら れ る の か 疑 義 が 生 じ る 場 合 で あ っ て も 、 裁 判 上 の 離 婚 手 続 き を 行 わ な け れ ば な ら な い 。   婚 姻 の 継 続 を 望 む 当 事 者 間 で は 、 継 続 的 に 別 居 す る 意 思 を 有 し て お ら ず 、 婚 姻 が 破 綻 し て い な い た め 離 婚 で き な い 。 性 別 変 更 の 道 が 閉 ざ さ れ る か 、 さ も な く ば 、 離 婚 手 続 き に お い て 虚 偽 の 陳 述 を し て 離 婚 を す る か と い う こ と を 当 事 者 に 求 め る こ と は で き な い ( 43) 。   三 年 の 別 居 期 間 が あ れ ば 、 夫 婦 が 婚 姻 の 継 続 を 望 ん で い る に も か か わ ら ず 、 覆 ら な い 形 で 婚 姻 破 綻 が 推 定 さ れ る と し て も 、 三 年 も の 長 い 別 居 期 間 を 、 共 同 生 活 を 望 ん で い る カ ッ プ ル に 要 求 す る こ と は 相 当 で は な い ( 44) 。 性 転 換 法 八 条 一 項 二   (三三七〇)

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憲法と婚姻保護  三五三 同志社法学   六〇巻七号 号 が 婚 姻 の 解 消 を 必 要 と す る の は 、 同 性 間 の 婚 姻 を 許 さ な い と い う 立 法 者 の 意 図 に そ の 理 由 が あ り 、 婚 姻 の 破 綻 と は 関 連 が な い か ら で あ る 。 ⒝ 基 本 法 六 条 一 項 に よ る 保 護   性 同 一 性 障 害 者 に よ る 婚 姻 も 、 基 本 法 六 条 一 項 の 特 別 の 保 護 の も と に あ る 。 性 転 換 法 八 条 一 項 二 号 に よ り 、 性 同 一 性 障 害 者 で あ る 夫 婦 の 一 方 の み な ら ず 、 そ の 配 偶 者 も 著 し い 侵 害 を 被 る 。   国 家 が 夫 婦 に 離 婚 を 迫 る の で あ れ ば 、 継 続 的 な 生 活 共 同 体 で あ り 責 任 共 同 体 ( V er an tw or tu ng sg em ein sc ha ft ) と し て の 婚 姻 の 構 造 メ ル ク マ ー ル ( 45) に 矛 盾 す る 。 こ の 婚 姻 は 、 基 本 法 六 条 一 項 に よ り 保 障 さ れ た 保 護 を 奪 わ れ る 。 さ ら に 、 夫 婦 は 、 継 続 し て 婚 姻 上 の 共 同 生 活 を 行 う と い う 判 断 を す る 自 由 を 侵 害 さ れ 、 婚 姻 に 当 然 に 与 え ら れ る 存 続 へ の 保 護 を 侵 害 さ れ る 。   夫 婦 の 一 方 が 婚 姻 中 に 性 同 一 性 障 害 で あ る こ と を 自 覚 す る 、 ま た は 明 ら か に し 、 性 別 適 合 手 術 を 受 け た 場 合 で も 、 そ の 婚 姻 は 基 本 法 六 条 一 項 の 全 て の 保 護 を 享 受 す る ( 46) 。 夫 婦 の 一 方 が 性 別 適 合 手 術 を 受 け た こ と に よ っ て 、 こ の 保 護 が 奪 わ れ る こ と も な い 。 し た が っ て 、 外 観 か ら す れ ば 同 性 の 当 事 者 に よ る 婚 姻 で あ っ て も 、 基 本 権 六 条 一 項 の 保 護 を 奪 わ れ な い 継 続 的 共 同 生 活 で あ り 、 責 任 共 同 体 で あ る 。 夫 婦 の 一 方 が 性 別 の 変 更 を 望 む と と も に 、 夫 婦 双 方 が 婚 姻 上 の 生 活 共 同 体 と 責 任 共 同 体 の 継 続 を 望 む 場 合 に は 、 婚 姻 の 保 護 を 放 棄 し て い な い 。 性 同 一 性 障 害 者 で あ る 夫 婦 の 一 方 が 、 自 ら の 心 理 的 及 び 身 体 的 素 質 に 基 づ い て 属 す る 性 別 に 法 的 に 帰 属 す る と い う 、 基 本 法 一 条 一 項 と 結 び つ い た 二 条 二 項 の 保 障 す る 権 利 を 獲 得 し よ う と 努 力 し て い る こ と だ け を 理 由 に 、 婚 姻 の 保 護 を 放 棄 し て い る と 結 論 づ け る こ と は 、 憲 法 上 許 さ れ な い 。   (三三七一)

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憲法と婚姻保護  三五四 同志社法学   六〇巻七号   性 別 変 更 の 法 的 承 認 の た め に 婚 姻 を 解 消 し な け れ ば な ら な い こ と は 、 当 事 者 に と っ て は 、 婚 姻 の 保 護 を 奪 わ れ る こ と と 同 じ で あ る 。 性 同 一 性 障 害 者 で あ る 夫 婦 の 一 方 は 、 性 別 変 更 の 法 的 承 認 の た め に は 、 別 れ た く な く と も 、 そ の パ ー ト ナ ー と の 関 係 を 解 消 し な け れ ば な ら な い と い う 心 理 的 圧 力 が か か る 。 望 ん で い な い に も か か わ ら ず 、 離 婚 に よ り そ の 権 利 を 失 う こ と を 配 偶 者 に 求 め る こ と に な る か も し れ な い 。 こ れ ら の 葛 藤 状 況 が 、 婚 姻 関 係 を 著 し く 侵 害 し て い る ( 47) 。   性 同 一 性 障 害 者 で は な い 夫 婦 の 他 方 の 側 で は 、 そ の パ ー ト ナ ー と 共 同 生 活 し 互 い に 責 任 を 負 う こ と を 望 ん で い る 場 合 に は 、 法 律 に よ り 成 立 し た 婚 姻 の 存 続 を 信 頼 し て い る 。 そ れ に も か か わ ら ず 、 性 同 一 性 障 害 者 で あ る 配 偶 者 が 性 別 の 変 更 を 求 め る 場 合 に は 、 次 の よ う な 葛 藤 に 見 舞 わ れ る 。 婚 姻 を 維 持 す る 代 わ り に そ の 配 偶 者 の 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー の 法 的 承 認 を 妨 げ る こ と に な る の か 、 あ る い は 自 ら の 意 思 に 反 し て 離 婚 し て 、 そ れ に よ り 法 的 保 障 を 失 う こ と を 甘 受 す る の か で あ る 。 ⑶   比 較 衡 量   婚 姻 を 男 女 カ ッ プ ル に 留 保 す る と い う 立 法 上 の 利 益 に 対 し て 、 性 別 変 更 を 求 め る 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 の 利 益 、 そ の 配 偶 者 の 婚 姻 継 続 へ の 利 益 を 比 較 衡 量 す る 。 そ の 結 果 、 基 本 法 一 条 一 項 と 結 び つ い た 二 条 一 項 か ら 自 ら の 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー の 承 認 へ の 権 利 に 当 然 に 与 え ら れ る 意 味 を 考 慮 し て 、 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 が 自 覚 し 転 換 し た 性 別 で の 承 認 を 、 婚 姻 と し て 法 的 に 保 障 さ れ た パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 事 前 終 了 の 要 件 に 結 び つ け る こ と は 期 待 で き な い ( 48) 。   総 論 と し て は 、 立 法 者 が 継 続 中 の 婚 姻 の 維 持 へ の 夫 婦 の 利 益 を 簡 単 に 無 視 す る こ と が で き な い の と 同 様 に 、 男 女 の 団 体 と し て の 婚 姻 制 度 の 維 持 へ の 立 法 者 の 利 益 が 、 同 性 の 夫 婦 の そ の 婚 姻 の 維 持 へ の 利 益 の 背 後 に 退 く こ と は 原 則 と し て な い ( 49) 。   (三三七二)

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憲法と婚姻保護  三五五 同志社法学   六〇巻七号   し か し 、 本 件 で は 、 実 際 に 生 活 し 、 変 更 不 可 能 な 関 係 が 、 規 律 に よ っ て 、 人 間 存 在 に 関 わ る 危 機 へ と 至 る こ と が 重 要 で あ る ( 50) 。 そ し て 、 す で に と も に 歩 ん で き た 人 生 の 道 の り の さ ら な る 運 命 、 な ら び に 主 観 的 な 人 間 存 在 の 局 面 で の 効 果 が 問 題 と な る ( 51) 。 こ れ に 対 し て 、 男 女 間 の 婚 姻 と い う 原 則 は 、 本 件 の 具 体 的 事 情 を 鑑 み れ ば 、 周 辺 的 な も の に 過 ぎ な い 。   ま た 、 次 の よ う な 、 本 件 の 事 情 も 考 慮 す る 。 男 女 と し て 婚 姻 し 、 そ の 婚 姻 継 続 中 に 夫 婦 の 一 方 の 性 同 一 性 障 害 が 明 ら か に な り 、 こ の よ う な 当 事 者 関 係 の 重 大 な 変 更 に も か か わ ら ず 婚 姻 が 破 綻 し て お ら ず 、 当 事 者 双 方 が 婚 姻 を 継 続 す る 意 思 を 有 し て い る と い う 事 案 は 、 性 同 一 性 障 害 者 の 少 数 で の み 問 題 と な る 。 さ ら に 、 す で に 外 観 か ら は 同 性 間 で 生 活 し て お り 、 法 律 上 の 名 も 同 性 で あ る こ と に よ っ て 、 男 女 間 の 婚 姻 と い う 原 則 が 特 徴 づ け る 効 果 ( P rä ge w irk un g ) も 世 間 に お い て 弱 ま っ て い る 。   そ し て 、自 己 決 定 し た 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー の 承 認 へ の 権 利 を 保 護 す る 基 本 法 二 条 一 項 ( 一 条 一 項 と の 結 び つ き で ) と 、 基 本 法 六 条 一 項 と の 関 連 も 重 要 で あ る ( 52) 。 立 法 者 の 意 思 を 貫 徹 す る た め に 基 本 権 の 一 つ の 実 現 が 他 の 基 本 権 の 放 棄 に か か っ て い る こ と に 、 性 転 換 法 八 条 一 項 が も た ら す 特 別 の 負 担 が あ る 。 つ ま り 、 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 は 、 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー の 法 的 承 認 か 、 婚 姻 の 維 持 か を 決 断 す る こ と を 求 め ら れ て い る 。 そ れ に く わ え て 、 そ の 配 偶 者 に 基 本 法 六 条 一 項 が 保 護 す る 基 本 権 地 位 を も 巻 き 添 え に し て 、 ほ と ん ど 解 消 で き な い よ う な 内 的 葛 藤 状 況 の み な ら ず 、 期 待 不 可 能 な 基 本 権 侵 害 を 当 事 者 に も た ら す ( 53) 。 そ の た め 、 婚 姻 中 の 性 同 一 性 障 害 者 が そ の 婚 姻 を 終 了 さ せ な け れ ば 、 身 分 登 録 法 上 の 性 別 の 変 更 を 認 め な い 規 定 は 、 基 本 法 一 条 二 項 と 結 び つ い た 二 条 一 項 と 、 六 条 一 項 に 違 反 す る 。 ⑷   解 決 方 法   本 決 定 で 、 連 邦 憲 法 裁 判 所 は 、 次 の よ う な 解 決 方 法 を 提 示 す る が 、 最 終 的 な 決 定 は 立 法 者 に 委 ね て い る 。   (三三七三)

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憲法と婚姻保護  三五六 同志社法学   六〇巻七号   夫 婦 の 一 方 が 性 別 変 更 し た た め 身 分 登 録 法 上 で 同 性 と な る カ ッ プ ル に よ る 婚 姻 を 認 め な い こ と は 、 基 本 法 六 条 一 項 を 考 慮 し て 、 立 法 者 の 自 由 裁 量 に 委 ね ら れ て い る 。 し か し 、 こ の よ う な 判 断 を す る 際 に は 、 性 同 一 性 障 害 者 に よ る 婚 姻 が 、 法 的 に 保 障 さ れ た 責 任 共 同 体 と し て 継 続 で き る よ う に 配 慮 す る こ と が 条 件 と な る 。 つ ま り 、 性 別 変 更 に よ り 同 性 間 の 婚 姻 に な る な ら ば 、 こ の 婚 姻 は 男 女 の 生 活 共 同 体 で は な い 。﹁ 基 本 法 六 条 一 項 に よ る 保 護 は 、 婚 姻 に よ っ て 行 わ れ 、 婚 姻 と 結 び つ い た す べ て の 権 利 と 義 務 を 伴 う 責 任 共 同 体 に 関 係 す る 。 こ の 責 任 共 同 体 の 存 続 へ の 信 頼 は 、さ ら に 保 護 さ れ る 。 そ の 限 り で 、 婚 姻 と し て さ ら に 存 続 す る こ と は 拒 絶 で き る が 、 責 任 共 同 体 と し て の 存 続 を 拒 絶 す る こ と は で き な い 。 婚 姻 か ら の 権 利 と 義 務 の 喪 失 を 含 め て 責 任 共 同 体 の 終 了 を 期 待 で き な い ﹂ こ と を 考 慮 し た 立 法 を 求 め る 。   こ の よ う な 要 請 を ふ ま え て 、 ど の よ う に 具 体 的 な 規 定 を 定 め る の か は 、 立 法 者 の 自 由 裁 量 に 委 ね ら れ て い る 。 例 え ば 、 身 分 登 録 法 上 の 性 別 帰 属 の 変 更 の 確 定 に よ っ て 、 婚 姻 を 登 録 パ ー ト ナ ー シ ッ プ に 転 換 す る こ と も で き る 。 し か し 、 そ の 際 に は 、 婚 姻 に よ る 権 利 と 義 務 が 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ に よ っ て 減 じ る こ と が な い よ う に 配 慮 し な け れ ば な ら な い 。 ま た 、 夫 婦 の 一 方 が 身 分 登 録 法 上 の 性 別 を 変 更 し た こ と に よ り 、 婚 姻 と 同 じ 権 利 と 義 務 を 保 障 し た 新 た な 生 活 共 同 体 を 法 的 に 作 り 出 す と い う 可 能 性 も 認 め る 。   さ ら に 、 本 件 の よ う に 、 婚 姻 継 続 中 に 夫 婦 の 一 方 の 性 同 一 性 障 害 が 明 ら か に な り 、 こ の 当 事 者 関 係 の 重 大 な 変 更 に よ っ て も 婚 姻 が 破 綻 せ ず 、 夫 婦 双 方 が 婚 姻 を 継 続 さ せ る 意 思 を 有 し て い る と い う 事 案 が 、 性 同 一 性 障 害 の な か で も 少 数 で あ る こ と か ら 、 単 に 性 転 換 法 八 条 一 項 二 号 を 削 除 し て 、 婚 姻 を 継 続 す る 場 合 に も 性 別 変 更 を 認 め る こ と も で き る 。 そ し て 、 男 女 の 生 活 共 同 体 と し て の 婚 姻 を 基 本 法 六 条 一 項 が 保 護 す る こ と に 鑑 み て も 、 存 在 し て い る 婚 姻 に 基 本 法 六 条 一 項 が 与 え る 保 護 を 理 由 に す れ ば 、 こ の 解 決 方 法 に 憲 法 上 異 議 は 唱 え ら れ な い で あ ろ う 。   (三三七四)

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憲法と婚姻保護  三五七 同志社法学   六〇巻七号 Ⅳ   特例法三条一項二号、憲法、婚姻法   性 転 換 法 を め ぐ る ド イ ツ 連 邦 裁 判 所 の 二 つ の 決 定 に お い て 、 性 同 一 性 障 害 者 の 性 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー に か か わ る 自 己 決 定 権 、 性 同 一 性 障 害 者 が そ の パ ー ト ナ ー と 法 的 に 承 認 さ れ た パ ー ト ナ ー シ ッ プ を 形 成 す る 権 利 、 婚 姻 の 保 護 に 対 す る 国 家 の 義 務 が 問 題 と な っ た 。 性 同 一 性 障 害 者 の 名 ま た は 性 別 の 変 更 で 自 己 決 定 権 が 重 要 こ と は 承 知 し つ つ も 、 本 稿 で は 、 憲 法 と 婚 姻 の 関 係 を テ ー マ と す る こ と か ら 、 後 の 二 点 を 中 心 に と り あ げ る 。   連 邦 憲 法 裁 判 所 の 両 決 定 と も 、 性 転 換 法 に よ る 効 果 を 得 よ う と す れ ば 婚 姻 を 行 え な い 、 婚 姻 を 行 え ば 性 転 換 法 に よ る 効 果 を 得 ら れ な い と い う 二 律 背 反 の 状 況 に お か れ て い た 性 同 一 性 障 害 者 に つ い て 、性 転 換 法 の 規 定 を 違 憲 と し た 。 た だ 、 当 事 者 が 置 か れ て い る 状 況 に は 違 い が あ っ た 。   ま ず 、 二 〇 〇 五 年 決 定 は 、 当 事 者 が 変 更 し た 名 を 維 持 し た ま ま 婚 姻 を 締 結 で き る の か が 問 題 と な っ た 。 さ ら に 、 性 別 は 変 更 し て い な い た め 、 当 時 の 法 律 の 下 で も 名 を 元 に 戻 せ ば 当 事 者 は 婚 姻 を 締 結 で き 、 婚 姻 後 に 改 め て 名 の 変 更 を 行 う 余 地 も あ っ た 。 こ の 決 定 で は 、 婚 姻 締 結 が 制 限 さ れ る か と い う 基 本 法 六 条 一 項 の 婚 姻 保 護 の 問 題 は 傍 論 で 検 討 さ れ 、 婚 姻 と 生 活 パ ー ト ナ ー シ ッ プ を 含 め た 親 密 圏 の 保 障 の 権 利 と い う 基 本 法 一 条 一 項 と 結 び つ い た 二 条 一 項 の 一 般 的 人 格 権 保 護 を 判 断 の 基 準 と し た 。   そ れ に 対 し て 、 二 〇 〇 八 年 決 定 で は 、 当 事 者 は す で に 婚 姻 を し て お り 、 継 続 し て い る 婚 姻 の 解 消 が 問 題 と な っ た 。 さ ら に 、 性 別 を 変 更 す れ ば 、 婚 姻 は で き な い と い う 状 況 に あ っ た 。 こ の 決 定 で は 、 基 本 法 六 条 一 項 に よ る 婚 姻 保 護 も 判 断 の 基 準 と な っ た 。   (三三七五)

(26)

憲法と婚姻保護  三五八 同志社法学   六〇巻七号 1   婚 姻 締 結 の 自 由   二 〇 〇 五 年 決 定 で は 、 性 同 一 性 障 害 者 で あ る 当 事 者 が 、 変 更 し た 名 を 剥 奪 さ れ な い 限 り 婚 姻 を 行 う こ と も で き な け れ ば 、 性 別 を 変 更 し て い な い た め に 同 性 登 録 パ ー ト ナ ー シ ッ プ も 行 え な い と い う 状 況 に 立 た さ れ る こ と を 重 視 し た 。   日 本 で は 、 名 の 変 更 と 婚 姻 と の 関 係 は 明 ら か で は な い 。 婚 姻 締 結 に よ り 名 の 変 更 を 取 り 消 す の で あ れ ば 、 二 〇 〇 五 年 決 定 と 同 様 の 状 況 が 生 じ る 。 二 〇 〇 五 年 決 定 が 依 拠 す る 医 学 的 知 見 が 世 界 的 に 共 通 で あ る 限 り 、 自 覚 す る 性 別 か ら み て 同 性 の 者 と の 婚 姻 を 望 む 場 合 に 、 性 同 一 性 障 害 で は な い と し て 名 の 変 更 を 取 り 消 す こ と は 、 日 本 で も 理 由 が な い こ と と な る ( 54) 。 し か し 、 連 邦 裁 判 所 決 定 を 参 考 に し て 日 本 の 状 況 を 検 討 す る に は 、 同 性 登 録 パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 有 無 な ど の 違 い に 注 目 し て お く 必 要 が あ る 。 同 性 間 で 法 的 に 承 認 さ れ た パ ー ト ナ ー シ ッ プ を 行 う 権 利 が 認 め ら れ て い な い 日 本 で は 、 婚 姻 と 同 性 登 録 パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 狭 間 に は ま り こ む こ と は な い 。 も し 、 日 本 で 、 名 の 変 更 を し た 性 同 一 性 障 害 者 が 戸 籍 上 異 性 の 者 と 行 う 婚 姻 を 拒 否 す る の で あ れ ば 、 婚 姻 の 自 由 が 問 題 と な る 。 ま た 、 性 同 一 性 障 害 者 が 、 名 の 変 更 に 限 ら ず 、 性 別 の 変 更 も 含 め て 自 ら 望 む 状 況 を 手 に 入 れ る こ と と 、 婚 姻 締 結 と が 二 律 背 反 の 状 況 に あ る 場 合 に も 、 婚 姻 の 自 由 が 制 限 さ れ て い る 。 特 例 法 で は 、 性 別 変 更 の 要 件 が 問 題 と な る 。   婚 姻 の 自 由 が 憲 法 上 保 障 さ れ る こ と は 、 そ の 根 拠 条 文 が 憲 法 一 三 条 か 二 四 条 か 、 そ の 関 係 を ど の よ う に み る の か な ど の 違 い は あ る が 、 認 め ら れ て い る ( 55) 。   結 婚 退 職 制 と 婚 姻 の 自 由 に 関 す る 東 京 地 裁 昭 和 五 一 年 一 二 月 二 〇 日 判 決 ( 住 友 セ メ ン ト 事 件 ( 56) ) で は 、﹁ 結 婚 を 退 職 事 由 と 定 め る こ と は 、 女 子 労 働 者 に 対 し 結 婚 す る か 、 又 は 自 己 の 才 能 を 生 か し つ つ 社 会 に 貢 献 し 生 活 の 資 を 確 保 す る た め に 従 前 の 職 に 止 ま る か の 選 択 を 迫 る 結 果 に 帰 着 し 、 か か る 精 神 的 、 経 済 的 理 由 に よ り 配 偶 者 の 選 択 、 結 婚 の 時 期 等 に つ き 結 婚 の 自 由 を 著 し く 制 約 す る も の と 断 ず べ き で あ る ﹂ と し た 。   (三三七六)

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一九四 Geschäftsführer ohne schuldhaftes Zögern, spätestens aber drei Wochen nach Eintritt der Zahlungsunfähigkeit, die Eröffnung des Insolvenzverfahrens

経済学の祖アダム ・ スミス (一七二三〜一七九〇年) の学問体系は、 人間の本質 (良心 ・ 幸福 ・ 倫理など)

Dies gilt nicht von Zahlungen, die auch 2 ) Die Geschäftsführer sind der Gesellschaft zum Ersatz von Zahlungen verpflichtet, die nach Eintritt der