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日本の約束草案:2030年目標の概要と課題

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京都議定書の定める第一約束期間(2008年~ 2012年)の終了から3年が経過し、世界は地球 温暖化対策に向けて次なるステージへと歩みを 進めようとしている。2050年に世界全体で温 室効果ガス排出量を40%から70%削減すると いうIPCC(1)の目標に向け、2020年以降の取組 みと将来の削減目標について、各国が約束草案 を提出した。日本においても2015年7月17日に 約束草案を提出し、地球温暖化に対する日本の 姿勢を世界に示した(2) 東北地方太平洋沖地震とそれに伴う福島第一 原子力発電所における事故を経験し、世界でも 特異な状況に置かれている日本において、今、 2030年に向けた約束草案は特に世界から注目 されるものである。本稿では約束草案の概要と 課題を整理し、その達成に向けた幅広い温暖化 対策を進めていくうえで、温暖化防止に向けた 国民の意識向上や行動実践が重要であることを 述べる。

はじめに

(1)2030年目標: 日本と主要国の比較 日本の約束草案において、温室効果ガス排出 量を2030年度に2013年度比-26%(2005年度比 -25.4%)とすることが明記された。これは技術 的制約、コスト面の課題などを十分に考慮しつ つ、セクターごとの対策・施策や技術を積み上 げた“実現可能”かつ、透明性、具体性の高い 目標であるとしている。 2012年に閣議決定された第四次環境基本計 画における、2050年に温室効果ガス排出量を 80%削減するという目標に対し、この2030年 目標の水準を当てはめてみると図表1のように 示すことができる。2013年度時点で日本の温 室効果ガス排出量は年間約14億t-CO2である が、それを2030年には約10億t-CO2にまで、 2050年には約3億t-CO2にまで削減するという 目標である。2030年以降の削減速度の加速が 顕著であるが、約束草案ではこの経路から外れ ない目標を定めているとしている。なお、第四 次環境基本計画では削減の基準年が示されてい ないが、図表1では2005年を基準年として描い ている。

1.2030 年目標概説

2015年7月17日、日本は2030年までの温室効果ガス排出削減目標とその対策・施策を定 めた約束草案を国連に提出した。本稿では約束草案の概要と課題を整理し、その達成に向けた幅 広い温暖化対策を進めていくうえで、温暖化防止に向けた国民の意識向上や行動実践が重要であ ることを述べる。

社会動向レポート

日本の約束草案:2030年目標の概要と課題

環境エネルギー第2部 リサーチアナリスト 

中村 悠一郎

(2)

図表2は日本、アメリカ、EU、中国、ロシア、 カナダそれぞれの約束草案における温室効果ガ ス排出量の削減率について、基準年ごとに示し たものである。各年の排出量の違いに連動して 削減率も変化するが、各国とも基本的には削減 率の大きな年を基準年としていることがわかる (表中下線部)。そのため、図表2のように各国 の削減率を単純比較することは難しい。 そ こ で、 図 表3、4で は 各 国 の 実 質GDPあ たり温室効果ガス排出量(kg-CO2/2005年基 準US$)と人口1人あたり温室効果ガス排出量 (t-CO2/人)のそれぞれについて、目標の水準 を比較して示す。どちらの指標からも、日本が 他国と比して決して遜色ない目標を定めている ことがわかる。 ここまでで日本の約束草案の概観を確認し た。次節では目標の内訳と具体的な取組みにつ いて確認する。

(資料)国立環境研究所 (2014)、World Bank (2015)、各国の「温室効果ガス排出インベントリ報告書 (NIR)」 (2015) よ り筆者作成 1990年比 2005年比 2013年比 日本 -18% -25.4% -26% アメリカ (注1) -14 ~ -16% -26 ~ -28% -18 ~ -21% EU -40% -35% -24% ロシア -25 ~ -30% -10% / (注3) カナダ -13% -30% -29% 中国 (注2) -71 ~ -81% -60 ~ -65% / (注3) (注1) アメリカは2025年を目標年としている。 (注2) 中国はGDPあたりCO2排出量を目標指標としている。 (注3) 斜線部は現時点でデータが存在しないことを意味する。 図表2 各国における基準年ごとの温室効果ガス排出量削減率の比較 (資料)国立環境研究所(2015)より筆者作成 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 ■純排出量(LULUCF含む) -25.4% -80% 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 1990 2050 年 100 万 t-CO2 図表1 温室効果ガス総排出量の実績と2030年目標、2050年目標

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(2)目標内訳と具体的な取組み 図表5に日本国内の各部門におけるエネル ギー起源CO2排出量の現状と目標、そして現 状に対する目標の削減率を示す。本稿では、日 本の温室効果ガス排出量の9割を占めるエネル ギー起源CO2排出量の削減対策に着目する(11)。 約束草案においては部門ごとに果たす役割が 大きく異なることがわかる。これまでの省エネへ の取組み状況を反映して、産業部門における削 減目標は必ずしも大きくなく、一方で業務その他 部門、家庭部門といった民生部門における削減 努力が特に要求される。このような厳しい目標が 定められた主な理由は、民生部門において長期 的にエネルギー消費量が増加傾向にあり(12)、そ れに伴いCO2排出量が増大しているからである。 図表6に、図表5の目標を達成するために各 部門に求められる対策・施策を示す。ここに示 される対策・施策は2030年時点での実現が予 測されているものであり、これらすべての積み 上げにより電力、都市ガス、ガソリン等のエネ ルギー需要を2013年度比約9.7%削減できると 試算された。これは、対策を行わなかったシナ (資料)国立環境研究所(2014)、UN(2015)より筆者作成 t-CO2/人 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0 0.0 2.0 ᪥ᮏ 䜰䝯䝸䜹 (2025ᖺ) EU ୰ᅜ 䝻䝅䜰 䜹䝘䝎 ┠ᶆ (2030ᖺ) 図表4 人口(将来推計値)1人あたり温室効果ガス排出量の目標 (資料)OECD(2014)、IEA(2014)、World Bank(2015)、ESPAS(2013)、国立環境研究所(2014)より筆者作成。 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 0.00 0.20 ᪥ᮏ 䜰䝯䝸䜹 (2025ᖺ) EU ୰ᅜ 䝻䝅䜰 䜹䝘䝎 ┠ᶆ (2030ᖺ) kg -CO2/ 2005 US$ 図表3 実質 GDP(将来推計値)あたり温室効果ガス排出量の目標

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リオと比して約13%の削減に相当する(13) 図表6に示される産業部門から運輸部門まで の対策・施策を踏まえると、重要なキーワード として、ICT(情報通信技術)によるエネルギー 管理システム、建築物の省エネ化、次世代交通 システム、国民運動を挙げることができる。 図表6に示される各種の対策・施策のうち、 以下の章ではエネルギー転換部門における取 組みに関係する原子力発電の利用と電力自由 化、民生部門における取組みである国民運動の 推進に着目し、それぞれの観点から2030年目 標の論点を整理する。 (1)2030年に実現を目指す電源構成 図表7では2013年度の電源構成と2030年目 標の電源構成について、発電電力量ベースで比 較する。約束草案では原子力の占めるシェア を約1.0%から約20%に、火力全体のそれを約 88%から約56%に、再生可能エネルギーのそ れを約11%から約24%にしている。なお、前 章ではエネルギー需要が2013年度から2030年 度にかけて約9.7%削減されることを述べたが、 エネルギー需要に占める電力の割合が増大す

2. 原子力発電の利用と電力自由化

(資料)地球温暖化対策推進本部(2015)より筆者作成 部門 2013年 (2005年度) (100万t-CO2) 2030年度の排出量目安 (100万t-CO2) 対2013年度削減率 (対2005年度) 産業部門 429 (457) 401 -6.5% (-12.3%) 業務その他部門 279 (239) 168 -39.8% (-29.7%) 家庭部門 201 (180) 122 -39.3% (-32.2%) 運輸部門 225 (240) 163 -27.6% (-32.1%) エネルギー転換部門 101 (104) 73 -27.7% (-29.8%) 図表5 部門別エネルギー起源 CO2排出量の現状と目標、現状に対する削減率 (資料)地球温暖化対策推進本部(2015)より筆者作成 策 施 ・ 策 対 門 部 産業部門 低炭素社会実行計画の推進、工場のエネルギーマネジメントの徹底、産業HP (加温・乾燥) の導入、高性能ボイラの導入など、35項目 業務その他部門 建築物の省エネ化、高効率照明の導入、BEMSの活用、 国民運動の推進など、16項目 家庭部門 住宅の省エネ化・断熱改修、高効率照明の導入、HEMSの活用、 国民運動の推進など、9項目 運輸部門 燃費改善、次世代自動車普及、ITS (高度道路交通システム) の推進、モーダルシフト、カーシェアリングなど、項目多数 エネルギー転換部門 再生可能エネルギーの最大限の導入促進、原子力発電の活用、火力発電の高効率化 分野横断的施策 J-クレジット制度 (CO2排出削減・吸収量認証制度) その他 吸収源活動、JCM及びその他の国際貢献 図表6 目標達成のために各部門に求められる対策・施策 ( 抜粋 )

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ると考えられることから、発電電力量は2013 年度から2030年度にかけて約13%増大すると 推計された。 このとき、電力の排出係数は2013年度の約 0.57kg/kWhか ら2030年 度 の 約0.37kg/kWh へと約35%低減される(13)。この排出係数の低 減に伴い、例えば家庭1世帯あたりのCO2排出 量はおよそ1.0t-CO2削減される。2013年度の 1世帯当たりCO2排出量は約5.4t-CO2であるか ら、これは約20%の削減に相当する(3),(14),(15)。 このように、約束草案の実現における2030年 の電源構成の重要性がわかる。次節では、こ の電源構成の実現における課題について、原 子力発電の利用と電力自由化に焦点を当て整 理する。 (2)電源構成の実現における課題 ① 2030年目標と原子力発電の利用 2030年目標に従えば、2030年に原子力が賄う 発電量は約2200億 kWhとなる。設備利用率を 70%とすると、必要な設備容量は約3600万 kW となる。図表8では原子力発電所の寿命を40年、 50年と想定するときに、各年に稼働が可能な設 備容量の推移を示す。 寿命を現行の規制通りに40年とする場合、 2030年の設備容量は上述の3600万kWに対し て約1500万kW不足し、標準的な原子炉およ そ15基分を建て替える必要がある。一方、建 て替えを許容しない場合、既存の施設すべてに 対して少なくとも10年の寿命延長が必要とさ れる。すなわち、2030年目標の達成に向けて は原子力発電所の建て替えまたは寿命の延長ど ちらかが必ず要求される。今まさに原子力の再 稼働が認められ始めたばかりで議論の不十分な 日本においては、厳格な新規制基準も相まって、 2030年目標の目指す規模の原子力の利用には 困難を伴うことが予想される。 ② 2030年目標と電力自由化 2016年以降、日本においても電力の小売市 場全面自由化が施行される。これにより、一般 家庭でも自由に電力の購入先を選択できるよう (資料)各種資料より筆者作成 億 kWh 約9397億kWh 約9397億kWh 約10650億kWh 約10650億kWh 原子力:約 1.0 % 原子力:約 1.0 % 原子力:約 20 % 原子力:約 20 % 石炭火力:約 3 0% 石炭火力:約 3 0% 石炭火力:約26% 石炭火力:約26% LNG火力:約 43 % LNG火力:約 43 % LNG火力:約27% LNG火力:約27% 石油火力:約 15 % 石油火力:約 15 % 石油火力:約 3 %石油火力:約 3 % 火力:約88% 火力:約88% 水力:約 8.5 % 水力:約 8.5 % 水力:約9.2%水力:約9.2% 太陽光:約 7.0 % 太陽光:約 7.0 % 再エネ:約 24 % 再エネ:約 24 % 再エネ:約 11% 再エネ:約 11% 火力:約 56 % 火力:約 56 % 図表7 発電電力量構成の比較(2013年度 対 2030年度)

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になる。また、販売されている電力がどの電 源に由来するか、電源構成に関して情報開示 が行われる方向で議論が進んでいる(18)。つま り、2016年以降、消費者は電源構成、電力価格、 追加的サービス等、様々な指標に基づいて電力 の購入先を選択できるようになる。さらに、そ の結果として消費者の選択が電力供給者の行動 にも影響を及ぼすことになるだろう。以下では、 みずほ情報総研が2015年に実施したアンケー ト結果を用い、消費者の電力選択及びその影響 について考察する。 図表9では、電力供給会社選択時に消費者が 何を重視するかについて抜粋した結果を示す。 図表9によれば、再生可能エネルギーや環境 負荷の小さな電源による電力を重視する人、原 子力を利用しない電力を重視する人等、電力の 購入先を選択する際に電源構成を評価の指標と する消費者は一定程度存在することが示されて いる。しかし、75%以上の消費者は電力価格 を何よりも重視することが示されている。そこ で、図表10では代表的な電源の発電単価(円/ kWh)を比較する。 図表10から明らかな通り、日本における代 表的な電源の発電単価を比較するとき、発電単 価の小さな電源には原子力、石炭火力、LNG 火力が該当し、太陽光や風力といった再生可能 エネルギーは相対的に高い水準にあることがわ かる。前節で述べた原子力の現状を踏まえると、 電力価格を何よりも重視する消費者の選好を満 たす電源には、石炭火力、LNG火力といった 化石燃料を消費する火力発電が残る。すなわち、 電力自由化市場のもとで国民の選好を電源構成 に反映すると、排出係数の大きな電源が優先的 に利用されることが予想できる。現時点で電力 市場に参入を表明している事業者の計画におい ても、その多くは石炭火力やLNG火力による 発電所であり(20)、上述の国民の選好を反映す るような様相を呈している。特に、新規参入事 業者にとっては石炭火力が最も採算性の高い電 源であるため、自由化のもとでCO2排出量の 大きい石炭火力の導入が進めば、2030年目標 の達成が困難になる事態も想定される。 ③ 国民の意識向上と行動実践の必要性 ここまでで、2030年目標が想定する電源構 成の実現における2つの課題:1)原子力の建て (資料)電力会社HPより筆者作成 5000 4000 3000 2000 1000 0 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 ■寿命50年 ■寿命40年 図表8 稼働可能な原子力発電設備容量の推移(寿命40年 対 寿命50年)

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替えまたは寿命の延長の必要性、2)電力自由 化による排出係数の大きな電源の導入拡大可能 性について確認した。ここで後者の課題を解決 するために必要なことの1つに、国民の意識向 上と行動実践が挙げられる。電力購入先の第一 の選択基準として、価格ではなく電源構成や環 境負荷の小ささが位置付けられれば、石炭火 力やLNG火力といった電源は選択されなくな り、排出係数の小さな電源が選択されるように なる。これは供給側の行動のみで実現すること ではなく、需要側たる国民の意識に変化が生じ てこそ実現される。 このように、国民の意識が2030年目標と一 致する方向へと転換し行動が伴えば、電力自由 (資料)みずほ情報総研「電力自由化に向けての消費者の電力小売企業・サービス選択基準に関する意識調査」(2015)より 筆者作成 図表9 電力供給会社選択時に重視する観点 (資料)資源エネルギー庁「長期エネルギー需給見通し関連資料」(2015)より筆者作成 円 / kWh 再生可能エネルギー (注1)石油火力は設備利用率10%と30%の場合の平均値。 (注2)中小水力は建設費80万円 / kWと100万円 /kWの場合の平均値。 図表10 代表的な電源の発電単価比較(2014年モデルプラント)

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化はむしろ2030年目標の実現を加速する起爆 剤となりえる。国民の意識向上と行動実践によ る影響は電源構成のみに限ったことではなく、 省エネ・低炭素型の製品・サービスの選択を通 じて企業の生産や省エネ行動にも広く影響を与 えることである。そこで次章では、民生部門に おける取組みである国民運動について概説と展 望を述べる。 (1)これまでの国民運動 これまでに政府が打ち出してきた国民運動に は、例えば“チーム・マイナス6%”や“チャ レンジ25キャンペーン”がある。それぞれ 2005年~ 2009年、2010年~ 2014年の5年間ず つ実施された取組みであり、これらの取組み を代表するものとして“Cool Biz”や“Warm Biz”が挙げられる。日本リサーチセンター (2006)、地球温暖化対策推進本部(2014)の調 査結果に示されるように、“Cool Biz”や“Warm Biz”は国民全体の認知度を高めることに成功 し、国民の意識・行動に働きかけることにつな がった事例といえる(図表11、12)。 しかしながら、2005年度と2013年度のCO2 排出量の実績値を確認すると、図表13に示す 通り、産業部門等においては削減が実現できて いるにも関わらず、家庭部門と業務部門におい ては大幅な増大が生じており、これまで以上に 国民運動が重要であることが示唆される。 (2)国民運動:「“COOL CHOICE”未来のた めに今、選ぼう。」 こ の よ う な 状 況 で、 国 民 運 動:「“COOL CHOICE”未来のために今、選ぼう。」が2015 年7月にスタートした。これは省エネ・低炭素 化を推進する様々な技術、知恵、取組みを日々 の生活で選択することを呼びかける運動である。

3. 国民運動の概説と展望

具体的な取組み内容について、以下に例示する。 1)共通マークの使用 2)省エネ・低炭素型の「製品」、「サービス」、 「行動」等の積極的な選択に資するデータ の整備・提供 3)省エネ・エコ診断ツールの提供 4)賛同者の活動などをPRするホームページ の作成 5)運動の成果発表・共有会の開催 6)連携キャンペーンの実施(6月~9月の夏季 の省エネキャンペーン、12月の温暖化防 止月間等) 7)定量的目標・評価指標の設定 定量的な目標、評価指標を設定したうえ で、産業構造審議会、中央環境審議会の 合同会合で進捗状況をフォローアップし、 毎年度のPDCAサイクルを確立等 上記の取組み内容のうち、多くのものはすで に過去の国民運動や例えば環境ラベルとして実 施されてきた。しかし、今回施行された“COOL CHOICE”がこれまでの取組みと異なる点は、 7)に示される定量的目標・評価指標の設定と PDCAサイクルの確立を目指すことにある。こ の取組みによって、“COOL CHOICE”は今ま での国民運動以上に成果を実現する可能性があ ると考えられる。 例えば、地球温暖化対策推進本部「京都議定 書目標達成計画の進捗状況」(2014)では、実 際に“Cool Biz”や“Warm Biz”によって削 減されたと見込まれるCO2排出量を事後的に ではあるが推計しており、2012年度には両方 合計で約391万t-CO2の削減が行われたと見て いる。ところが、この事実を広く国民に知らし めるためのプラットフォームや、この結果を次 なる行動へリアルタイムにフィードバックする 仕組みは、必ずしも整備されていたとはいいが たい。

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(資料)日本リサーチセンター「「クールビズ」に関する全国世論調査」(2006)より筆者作成 88.6 6.6 4.8 "Cool�Biz" ㄆ▱≧ἣ ▱䛳䛶䛔䜛 ⪺䛔䛯䛣䛸䛿䛒䜛 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% ▱䜙䛺䛔 ↓ᅇ⟅ 図表11 “Cool Biz” の認知状況 (資料)地球温暖化対策推進本部「京都議定書目標達成計画の進捗状況」(2014)より筆者作成 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 100.0% Cool�Biz Warm Biz 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Warm�Biz 実施率 年 図表12 “Cool Biz”と“Warm Biz”の実施率の推移

(資料)国立環境研究所(2014)より筆者作成 部門 (100万t-CO2005年度 2) 2013年度 (100万t-CO2) 増減量 (100万t-CO2) 増減率 産業部門 457 429 -28 -6.1% 業務その他部門 239 279 +40 +17% 家庭部門 180 201 +21 +12% 運輸部門 240 225 -15 -6.3% エネルギー転換部門 104 101 -3 -2.9% 図表13 部門別 CO2排出量の比較 (2005年度 対 2013年度 )

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しかし、裏を返せば、仮に自分自身の行動が CO2排出量の削減として成果に結びついている ことをリアルタイムに実感できれば、国民の意 識・行動に改革を起こすことができるかもしれ ない。上述の例であれば、2012年度の総排出 量約14億t-CO2のうち、約0.3%に相当する分 がCool Biz、Warm Bizのみで削減されたこと になる。確かに必ずしも大きな削減量とはいえ ないが、それでも日々の服装をほんの少し変化 させるという、たったそれだけでも日本全体の 排出量に対して影響を与えることができるので ある。それならば、さらに大胆な取組みをすれ ば、さらに大きな削減が実現できるのではない か。この認識と期待が国民全体に広まれば、国 民の意識・行動はより大きな加速度を持って変 革していく可能性がある。 そしてその結果として国民の意識・行動に変 化が生まれ、日々の製品・サービスや行動の選 択において国民が省エネ・低炭素型の選択を行 うようになることが肝要である。第3章で述べ た電源構成に即せば、電力価格が高くても排出 係数の小さな電源を選択するようになること、 これが国民運動に求められる成果である。省エ ネ・低炭素型へと変化した国民の選好は電力自 由化を介して電源構成に反映され、エネルギー 転換部門における電力の排出係数の低減に貢献 する。この排出係数の低減は、各部門における 電力消費に伴うCO2排出を削減する効果を有 する。つまり、国民の意識・行動の改革は、自 らだけでなく他の部門におけるCO2排出の削 減をも実現しうるのである。また、国民の意識 としてCO2排出量や環境負荷の大きな企業の 製品・サービスを選択しなくなれば、産業部門 や業務部門における省エネ・低炭素化をも後押 しすることにつながる。 このような、自らを含む、他の部門における 取組みとの相乗効果を持ってCO2排出量の削 減を実現できる。その期待こそが、今、国民運 動が必要とされる理由である。 (3)“COOL CHOICE”に求められること 5000万世帯を超える全世帯に対して変革を もたらすことは決して容易ではなく、これまで も様々な国民運動や対策・施策が実施されてき た。しかし、上述のような国民の意識・行動 改革を引き起こし、かつ、約束草案の掲げる 2030年目標を確実に達成するためには、これ までの国民運動に加えて新たな取組みが必要に なると考える。具体的には以下の取組みが挙げ られる。 ・国民運動の成果を客観的かつ科学的に定点観 測する体制を整え、それを継続的に国民へと 公表すること。 ・特に成果の大きな省エネ取組みを明らかに し、同時に、成果の小さな省エネ取組みをも 明らかにすること。 ・上記の結果から、国民がどう意識と行動を変 えていくべきか分析し提言すること。 国民の意識・行動に改革をもたらすキーと なりうるこれらの体制を、“COOL CHOICE” が掲げる 7)の対策・施策では実現することが 可能である。“COOL CHOICE”が2030年に 向けた中期的な取組みになるからこそ、この 評価・フィードバックの体制はより一層の効 果を持つものになる。“COOL CHOICE”の具 体的な取組み内容はまだ構築されていないが、 2030年に向けてこれまでより一歩先に進むた めにも、具体的な中身について直ちに形作る必 要がある。そうして初めて、国民運動は始まる のである。 本稿では、日本の約束草案について2030年 目標とその実現に向けた取組み内容を概説し、

4. まとめ

(11)

エネルギー転換部門における排出係数の低減 と、民生部門における国民運動について課題を 整理した。日本の掲げる2030年目標は他国と 比しても決して遜色なく、各部門の取組みを積 み上げることで実現される根拠のある目標であ る。部門別にみると、業務その他部門、家庭部 門といった民生部門における削減努力が特に要 求される。 第2章では、2030年目標を下支えする電源構 成について、原子力の利用と電力自由化それぞ れにおける課題を整理した。原子力の利用にお いては、既存施設の建て替えまたは寿命の延長 が必要であること、電力自由化においては、国 民の選好により排出係数の大きな電源が過剰 に利用される可能性が高いことが、2030年目 標の実現におけるそれぞれの課題として挙げ られる。 第3章では、過去の国民運動の成果、“COOL CHOICE”がこれまでの国民運動と異なる点、 そして今後の国民運動に求められる取組みに ついて確認した。これまでにも国民運動は精力 的に実施されてきたが、約束草案の掲げる厳し い2030年目標の実現のためには、よりいっそ うの国民運動の展開が必要であることを確認 した。 国民運動を成功させ、2030年目標を達成す るためには、国民運動の成果を国民に分かりや すく公表し、様々な取組みの持つ効果や貢献量 の大小、効率性についても正しく示すこと、そ して今後の国民運動の在り方を分析し提言する ことが必要と考えられる。この仕組みが機能 し、国民の意識・行動に改革を起こすことがで きれば、それは他の各部門との相乗効果を持っ て2030年目標の実現を後押しする。 約束草案の提示する新たな国民運動“COOL CHOICE”には、この評価・フィードバック 体制を確立しうる土壌がある。具体的な内容に ついては未だ検討段階にあるが、2030年目標 の達成に向けて、これまでとは異なる対策・施 策について直ちに構築する必要があるだろう。

(1) International Panel on Climate Change: 気候変 動に関する政府間パネル。地球温暖化に関する科 学的な研究の収集と整理を目的とする国連の機関。 (2) 地球温暖化対策推進本部, 2015. 日本の約束草案. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/ kaisai/dai30/yakusoku_souan.pdf (3) 国立環境研究所, 2015. 日本国温室効果ガスインベ ントリ報告書. (4) 国立環境研究所, 2014. 附属書Ⅰ国の温室効果ガス 排出量と京都議定書達成状況(2014年提出版(第一 約束期間まとめ)).

(5) World Bank, 2015. World Development Indicators.

(6) 各 国の「 温 室 効 果ガス排出インベントリ報 告 書

(NIR)」, 2015.

http://unfccc.int/national_reports/annex_i_ghg_ inventories/national_inventories_submissions/ items/8812.php

(7) OECD, 2 0 1 4 . Economic Outlook No 9 5 , Long-term baseline projections.

(8) IEA, 2014. Key World Energy Statistics.

(9) ESPAS, 2 0 1 3 . The Global Economy in 2 0 3 0 : Trends and Strategies for Europe.

(10) UN, 2015. UN data. (11)約束草案においては次の7種類の気体: 二酸化炭 素、メタン、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカー ボン類、パーフルオロカーボン類、六フッ化硫黄、 三フッ化窒素を削減の対象としている。このうち、 二酸化炭素は燃料や他者から供給された電気の仕 様に伴うエネルギー起源二酸化炭素と、化石燃料 の生産・製造、セメント等工業製品の製造等に伴 う非エネルギー起源二酸化炭素に区分され、前者 のみで日本の温室効果ガス排出量の90%以上を占 める。 (12)資源エネルギー庁, 2015a. 平成26年度エネルギー に関する年次報告. (13)資源エネルギー庁, 2015b. 長期エネルギー需給見 通し関連資料. http://www.enecho.meti.go.jp/committee/ council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/pdf/ report_02.pdf (14)総務省, 2015. 住民基本台帳. (15)日本エネルギー経済研究所, 2015. エネルギー・経 済統計要覧. (16)電気事業連合会, 2014. 2014年5月23日会見資料. http://www.fepc.or.jp/about_us/pr/pdf/kaiken_ s1_20140523.pdf

(12)

(17)資源エネルギー庁, 2014. 平成25年度エネルギー に関する年次報告. (18)資源エネルギー庁, 2015. 総合資源エネルギー調査 会 基本政策分科会 電力システム改革小委員会 第 13回資料. http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/ kihonseisaku/denryoku_system/seido_sekkei_ wg/pdf/013_06_02.pdf (19)みずほ情報総研, 2015. 「電力自由化に向けての消 費者の電力小売企業・サービス選択基準に関する 意識調査」調査レポート. (20) Business Journal, 2015. 東京ガスの豹変 何を“企 んで”いるのか? http://biz-journal.jp/2015/06/post_10386.html (最終閲覧日: 2015年8月17日) (21)日本リサーチセンター, 2006. 「クールビズ」に関 する全国世論調査(2006年). http://www.nrc.co.jp/report/pdf/061026.pdf (22)地球温暖化対策推進本部, 2014. 京都議定書目標達 成計画の進捗状況. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/ kaisai/dai28/siryou.pdf (23)環境省, 2007. 平成19年度事業における課題につ いて. https://www.env.go.jp/earth/info/kokumin 1 9 / pdf/02.pdf

参照

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