博 士 ( 歯 学 ) 柳 川 彩
学 位 論 文 題 名
アデノウイルス初期遺伝子の発現を抑制するmicroRNA 学位論文内容の要旨
[本研究の意義、目的および方法]
ア デノウイルスは正20面体 構造を有する直鎖状の二本鎖DNAウイルスで、齧歯類細胞を腫 瘍化することからがん化のモデルとして研究されてきた。アデノウイルスはヒト細胞において は細胞をがん化することなく細胞融解性にはたらき、急性気道疾患や流行性角結膜炎などの感 染症を起こすことが知られている。アデ ノウイルス初期転写遺伝子のーつであるEIAは感染細 胞の転写因子により活性化され、感染一時間以内に発現し、他の初期遺伝子の転写を誘導し、
ウイルスの感染・複製にもっとも重要な役割を演じている。
microRNA (miRNA)は真核生 物で遺伝子の発現を制御するノンコーディングRNAの一種であ り、遺伝子発現調節において重要な役割を演じていることが近年明らかになってきた。動物の miRNAは そ の タ ー ゲ ッ トmRNAに結 合し 、夕 ーゲ ッ トmRNAの 分解 や翻 訳抑 制に より タン バ ク合成を阻害することが知られており、個体の発生、細胞の増殖、分化、アポトーシスなど多 岐にわたる現象に関与することが明らかになってきている。
近 年、ウイルスの感染に関 わるmiRNAについての関心が 高まっており、2004年にはウイル スに コードされたmiRNAがEpstein‑Barr virusに感染した 細胞で同定され、ウイルス自身の miRNAがウ イル スのmRNAをタ ーゲ ット にし て働 き、 自 らの 複製を制御している可能性が示 された。また、retrovirus primate foamy virusの複製を阻害するヒトのmiRNAが人工的な系で同 定さ れており、宿主側のmiRNAがウイルスのIrtRNAをター ゲットにする可能性が示された。
肝臓 に多く存在するヒトmiRNA (miR‑122)を発現する肝細 胞ではRNAウイルスであるC型肝炎 ウイ ルス(HCV)のゲ ノムRNAの 複製 がみ られ ない こと が示 され てお り、 ウイ ルス の ゲノム RNAを ター ゲッ トに する 細胞 側のmiRNAの存在が示唆され ている。それに加えて、ウイルス にコードされたmiRNAが宿主細胞側の因子を抑制することが示唆されているが、まだ宿主細胞 側のターゲットは同定されていない。以 上のようにウイルスの感染にmiRNAが関与している可 能性は示唆されているが、ヒトに感染す るウイルスの遺伝子をターゲットにするヒトのmiRNA の存在はまだ明らかではない。そこで本 研究では、ヒトアデノウイルス5型(hAd5)EIAのmRNA をタ ーゲ ット にす るヒ ト 血RNAを 検索 し、 そのrniRNAによ るhAd5E朋の 発現 の制 御 につい て検討した。
ヒト癌細胞株(Saos‐2、HeLa)にアデノウイルスを感染させ、TCID50法により感染効率を測定 し た 。hAd5の 初 期 遺 伝 子EMの3 UTRを 標的 とす るヒ トrniRNAを血RNA検 索ア ルゴ リズ ム
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Microlnspectorに よりin silico検 索し た 。 そ の後 、Saos‑2、HeLaにお け る候 補miRNAの発 現レ ベ ル を ノ ー ザ ン ブ 口 ッ テ イ ン グ に よ り 検 索 し た 。pCMVGLにhAd5 EIA3 UTRを 組 み 込 んだ レ ポ ー タ ー プ ラ ス ミ ド(pCMVGL‑hAd5 EIA3 UTR)を 作 製 し 、 さ ら に 、miRNAと 相 補 的 な 配 列 を もつ2 ‑O‑ヌチル 化オリ ゴリポ ヌクレオ チド(2 ‑O‑Me‑anti‑miR214)を合成 した。 作製し たレ ポ ー タ ープ ラ ス ミ ドを 単 独 あ るい は2 ‑O‑ヌ チル 化 オ リ ゴリ ボ ヌ ク レオ チ ド と とも にSaos‑2.
HeLaに導入し、デュアルルシフェラーゼアッセイをおこなった。
[結果および考察]
HeLaとSaos‑2に お け るhAd5の 感 染 効 率を 比 較 し たと こ ろ 、Saos‑2に お ける アデノ ウイル スの 感 染 効 率はHeLaと 比 較 して 低 か っ た。 こ の 感 染効 率 の 差 異が 特 定 のmiRNAに よ るも の な の かど う か につ い て 検 索し た 。hAd5 EIA3 UTRを 標 的と す る ヒ トmiRNAのin silico検 索によ り、候 補 miRNAが4種 類(hsa‑miR‑15b、hsa‑miR‑16、hsa‑miR‑214、hsa‑miR1487) 存在す ること が示さ れ た。MicroInSpectorにより検出されたrniRNAのうち、hsa‐rniR1487とhSa‐血R−214のシードシークエ ン ス がhAd5E´ イ3 UTRと 完全に 相補的 である ことか ら、他 の候補 よりも これら ニニつのmiRNAが hAd5E´ イ3 UTRを ター ゲ ッ ト にす る 可 能 性が 高 い ことが 予測さ れた。rniRNAと完全 に相補 的な オリ ゴヌク レオチ ドプ口ー プを用 いたノ ーザン ブ口ッ ティン グによ り、hSa−rnjR1214はSaos―2で 高 発 現 し て い る こ と が 示 さ れ た が、HeLa細 胞 で は 発現 は ほ と んど 認 め ら れな か っ た 。ま た 、 hsa‐rniR一487はHehおよびSaos‐2細胞で発現は認められなかった。
pCMVGL‐hAd5E朋3 UTRを 導 入 したSaos−2で は 、 コ ント ロ ー ル と比 較 して ルシフ ェラー ゼ活 性 の 低下 が み ら れた が 、HeLaで はル シ フ ウ ラー ゼ 活 性 の低 下 は 認 めら れ な かった ことか ら内在 性 のhSa‐ 血R,214がEM3 UTRと 結 合 して ル シ フ ェラー ゼ遺伝 子の転 写活性 を抑制 するこ とが示 唆された。
2 −O.Me‐anti‐rniR1214をpCMVGL一hAd5EM3 UTRと と も にSaos‐2に 導 入 す る と 、 2 ‐O‐Me‐anti_IniR1214を導入しない場合と比較してルシフェラーゼ活性が上昇した。このことは 2 ‐O‐Me‐anti‐fniR一214が内在性のhSa‐IniR1214と結合してhsa‐血R・214の活性を抑制したことに よ り 、 ル シ フ ウ ラ ー ゼ 遺 伝 子 の 転 写 が 抑 制 さ れ な か っ た こ と を 示 し て い る 。Hehで は 2 ‐0‐Me‐anti‐rnjR1214をpCMVGLIhAd5EM3 UTRとともに導入すると、2 ‐0_Me‐anti‐rnjR1214 を 導 入し な い 場 合と 比 較 し てル シ フ ウ ラー ゼ 活 性 の上 昇 は 認 めら れ な か った。 以上の 結果よ り hsa−rniR1214がhAd5E朋3 UTRをターゲッ卜にすることが裏付けられた。
以 上 よ り 、hsa― 血R1214はhAd5E朋3 UTRを タ ー ゲ ッ ト に し 、hAd5E朋 を 介 し てhAd5の 複 製を抑制することが示された。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
アデノウイルス初期遺伝子の発現を抑制するmicroRNA
審査はまず論文提出者に対して提出論文の内容の要旨を説明させ、次いで論文の内容につい て 審 査 委 員 の 口 頭 試 問 を 行 っ た 。 以 下 に 提 出 論 文 の 要 旨 と 審 査 の 内 容 を 述 べ る 。
論文要旨
microRNA (miRNA)は真核生 物で遺 伝子の発 現を制御 するノ ンコーデ ィングRNAの一種であ り、遺伝子発現調節において重要な役割を演じていることが、近年明らかになってきた。本研 究では、動物細胞におけるmiRNAの抗ウイルス作用について検討した。
ヒ ト癌細胞 株(Saos‑2、HeLa)に アデノ ウイルスを感染させ、感染効率をTCIDso法により測 定 し た。 ヒ ト ア デノ ウ イ ルス5型(hAd5)の初 期遺伝 子EIAの3 UTRを標 的とする ヒトmiRNA をmiRNA検索アルゴリズムであるMicrolnspectorによりin silico検索した。その後、Saos‑2、 HeLaに お け る候 補miRNAの発 現 レ ベル をノー ザンブロ ッティン グによ り確認し た。pCMVGL にhAd5 EIA3 UTRを組 み込んだ レポー タープラ スミド(pCMVGL hAd5 EIA3 UTR)を作製し、
さら に、miRNAと相補 的な配列をもつ2 ‑O‑メチル化オリゴリボヌクレオチドを合成した。作 製したレポータープラスミドを単独あるいは2 ‑O‑メチル化オリゴリボヌクレオチドとともに ヒト癌細胞株に遺伝子導入し、ルシフェラーゼアッセイをおこなった。
Saos‑2におけるアデノウイルスの感染効率はHeLaと比較して低かった。hAd5 EIAの3 UTRを 標的とするヒトmiRNAのin silico検索により、候補miRNAが4種類(hsa‑mir‑15b、hsa‑mir‑16、 hsa‑mir‑214、hsa‑mir‑487)存在することが示された。ノーザンブロッティングにより、hsa‑mir‑214 はSaos‑2で高発現していることが示された。hAd5EIA3 UTRを組み込んだプラスミドを導入した Saos‑2では、ルシフェラーゼ活性の低下がみられた。hsa‑mir‑214を阻害する2 ‑O‑メチル化オリ ゴリボヌクレオチドを導入すると、Saos‑2でのルシフェラーゼ活性の低下はみられなかった。以 上の結果より、hsa‑mir‑214がEIA依存的に感染効率の抑制に関与している可能性が示唆された。
審査 の内容
一512−
郎
信 郎
一
敦 正
健
山
藤 田
横 進
柴
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
1. Saos‑2のアデノウイルスの感染効率がHeLaよりも低い原因について
ア デノウイ ルスの 感染はファイバー蛋白質が細胞表面のレセプターに結合するところから 始まる。アデノウイルスのレセプターとしてCAR (coxsackie and adenovirus receptor)が知られて お り、CARの細胞表面における発現量がアデノウイルスの感染効率に影響を与えることが報告 さ れている。本研究はCAR以外のアデノウイルスの感染効率に関与する因子としてアデノウイ ルスの発現を抑制するhsa‑mir‑214の存在を予測した。hsa‑mir‑214がアデノウイルスの感染を抑 制するため、hsa‑mir‑214の発現が認められなかったHeLaよりもhsa‑mir‑214の発現が認められ たSaos‑2の ほ う が ア デ ノ ウ イ ル ス の 感 染 効 率 が 低 く な る の で は な い かと 考 察 した 。
2. pCMVGL‑hAd5 EIA3 UTRをSaos‑2に 導入す るとルシ フェラ ーゼ活性 が抑制さ れる理由に つ いて
レ ポーター プラス ミドのル シフェ ラーゼ遺 伝子の 下流にmiRNAのターゲット遺伝子を導入 す ると、目的のmiRNAによルルシフェラーゼ活性が抑制されるという報告があるが、ルシフェ ラ ー ゼ 活 性 が 抑 制 さ れ る 理 由 に つ い て は 明 確 な 理 由 は 示 さ れ て い な ぃ 。 本研 究 で は pCMVGL‑hAd5 EIA3 UTRのhAd5 EIA3 UTRにhsa‑mir‑214が 結合する ことに より翻訳が抑制 さ れ 、 ル シ フ ェ ラ ー ゼ 活 性 が 抑 制 さ れ る の で は な い か と 考 察 し た 。
3.2 ‑O‑メチル化オリゴを使用した理由について
2 ‑O‑メ チル基 で修飾することでRNAの非特異的な分解が抑制されるため、miRNAのアンチ センスの配列を2 ‑O‑メチル化修飾した。レポーターアッセイの結果を裏付ける方法として、被 験配 列に変異 を導入 する方法 とmiRNAの機能を アンチセンスで阻害する方法が報告されてお り 、 本 研 究 で は ア ン チ セ ン ス2 ‑O‑メ チ ル 化 オ リ ゴ リ ボ ヌ ク レ オ チ ド を 用 い た 。
4.ア デ ノ ウ イ ル ス の 遺 伝 子 の 発 現 を 抑 制 す る miRNAの 新 規 性 に つ い て ヒ トを宿 主とするDNAウイ ルスの 遺伝子発 現を抑 制するヒ トmiRNAの存在は 現在まで報告 さ れておらず、本研究のアデノウイルスの遺伝子の発現を抑制するmiRNAについての報告は新 規 性がある と考え られる。
本研究においてhsa‑mir‑214がアデノウイルスの初期遺伝子EIAの発現を抑制することが示さ れ、ウイルスの感染を抑制することが示唆された。これはウイルスの感染抑制にmiRNAを利用 できることを示唆するものである。本研究は今後さらなる研究を進めることで臨床に反映しう ると考えられ、将来性の点においても高く評価されるものであった。よって学位申請者は博士
(歯学)の学位授与にふさわしいものと認められる。
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