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‘学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博士(地球環境科学)佐藤(江口)菜穂

    学位 論文題名

  A study of water vapor variation

    in the troplCaluppertropOSphere

(熱 帯上部対 流圏にお ける水蒸 気変動に関 する研究)

学位論文内容の要旨

  本研究では、上部対流圏から下部熱圏領域の気温、風、微量気体成分等を観測する高層大 気 観 測 衛 星UARS(Upper Atmosphere Research Satellite) に 搭 載 さ れ て い るMLS (Microwave Limb Sounder)によって得られた上部対流圏から下部成層圏の水蒸気データを用 い て 、 そ こ で の 水 蒸 気 分 布 の 主 に 季 節 内 変 動 に つ い て 解 析 を 行 な っ た 。   水蒸 気は強カな温室効果気体として知られ、特に上部対流圏の水蒸気量が外向き赤外放射 量(Outgoing Longwave Radiation:OLR)を左右し ていると いわれている。さらに水蒸気は 雲を 形成するため、雲による地球の放射収支への見積りにも欠かせないバラメターであると 言え る。また最近では成層圏における水蒸気の増加傾向が高精度のゾンデ観測から指摘され ており、こ′の成層圏の水蒸気量増加傾向を説明するために、対流圏から成層圏への物質の入 口 と し て 知 ら れ る 熱 帯 対 流 圏 界 面 近 傍 で の 様 々 な 成 層 圏 一 対 流 圏 聞 物 質 交 換 (StratosphereーTroposphere Exchange:STE)のメカニズムが議論されている。中でも、熱 帯対 流圏界面を面ではなく、対流圏的な性質から成層圏的な性質に徐々に遷移する、ある厚 みを持った層として捉える考えが提案されている。これはTropical Tropopause Layer (TTL) とよ ばれ、熱 帯圏界面 上下数kmの 高度14−19kmに相当する。TTL領域は強い水平風が吹き、

赤道 ケルピン波などの赤道波の波動が卓越してくる領域であるため、ここでの物質は季節内 変 動 以 下 の 短 い 時 間 ス ケ ー ル の 大 気 現 象 に 影 響 さ れ て い る こ と が 示 唆さ れ てい る 。   またTTL内 の水蒸気 分布を決 めている脱水メカニズムがいくっか提唱されているが、その 全球規 模での観 測データ を基にし た議論は少なく、TTL内での詳細な脱水メカニズムはいま だ解明 されてい ない。そ こで本研 究では、TTLを含む上部対流圏から下部成層圏領域のUARS / MLSの水蒸 気データ とUARS/CLAES (Cryogenic Limb Array Etalon Spectrometer)の絹 雲頻度 データを用いて、それらの季節内変動における特徴の記述と脱水メカニズムを解明す ること を目的とした。その際季節内変動に着目するので解析データに20―80日のバンドパス フィル ターを施し、その偏差を議論した。また気温、風といった気象場に同様の処理を行な っ て解 析 に 用い た 。1991年 か ら1993年まで の北半球 冬期(11―4月 )に見ら れた5つの 季 節内振 動の合成解析を行なった。北半球冬季は季節内振動の振幅が大きく、また東進伝播が 卓越す る時期に あたる。

  まず熱帯域での上部対流圏の水蒸気、絹雲、気温場の経度時間断面に着目したところ、熱 帯 域 の イン ド 洋 から 日 付変 更 線 まで を 対流 活 発 域が 約5[m/s]で 東 進す る 時 、215hPaと 146hPa面で は、対流 域と共に 湿潤域が 東進して いた。lOOhPa面では東進する分布は明瞭で

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はな いが 、対 流域 上は乾燥していた。気温場についてみると、215hPaとlOOhPa面では対流 域の東側にそれぞれ暖かい領域と冷たい領域が存在し、146hPa面では対流域上に冷たい領域 が存在していた。これは対流活動による熱源に対するケルビン波応答の構造を持っていた。

TTL近傍では絹雲は飽和水蒸気に達した時に形成されることから脱水の指標としてよく用い られる。その絹雲の分布についてみると、146hPaの絹雲は対流域上の低温域に発生し、lOOhPa 面では対流域東側の低温域で発生していた。これは絹雲の形成が対流活動の影響を受けた気 温場 に影 響さ れる ことを示している。これらの結果から、熱帯域の215hPaと146hPaでは、

対流 活動 を反 映す る分布になっていること、そして146hPa付近から気温場に変化が見られ ていること、一方lOOhPaでは対流との相関が明瞭に見られなかったなどの特徴が見られた。

  次 にlOOhPa面の 水蒸気分布に着目した。lOOhPa面では気温場と風の場が熱源に対する応 答として現われる赤道ケルビン波および赤道口スビー波が結合したモードの構造を持ち、そ の振幅が下層に比ペ大きくなっていた。対流活動が活発な時に時間を固定してその特徴をみ ると、空気塊が東風によって対流東側の低温域を通過する際、絹雲が発生し脱水される。形 成された乾燥空気塊は赤道ロスピー波応答の主に北半球側の強い高気圧高気圧性循環によっ て北半球亜熱帯域に運ばれ、一部は赤道域の低温域に戻り、一部は亜熱帯を東進し東部太平 洋上で熱帯に戻ってくるという特徴が見られた。先程熱帯域ではlOOhPaでの東進が明瞭でな かった理由に、形成された空気塊が高気圧性循環によって亜熱帯に運ばれ、そこを東進して いたためと考えられる。

  さ らに 対流 域が インド洋から日付変更線までを約20日かけて東進する際の水蒸気場の時 間変動をみた。対流域が東進する際、気温場と風の場はその振幅を変化させながら、また熱 源に対する赤道ケルビンと赤道口スビー波応答の結合構造を維持しながら東進する。その振 幅が大きくなるのは、対流活発域が東部インド洋と西部・中部太平洋に存在する時であった。

対流域が東部インド洋上にある時、西部太平洋上に定常的に存在する低温域が、より冷たく なり乾燥した空気塊が形成される。その時インドシナ半島に中心を持つ高気圧性循環の南北 風は弱く、主に赤道域を吹く東風によってインド洋上へと乾燥空気が運ばれる。対流活発域 が海洋大陸上に移ると、対流活動は弱まるが、高気圧性循環によって、徐々に低温域で形成 された乾燥空気と、先にインド洋上に運ばれた乾燥空気塊が亜熱帯に運ばれる。その後対流 域は西部太平洋上に進入し、低温域や高気圧性循環が強化され、より乾燥した空気塊が形成 される。また亜熱帯の乾燥域は背景風の西風によって、熱帯の対流活動の東進よりも早く東 進するため(20−30 [m/s])、この頃東部太平洋域に乾燥域が到達する。そして対流活動が日付 変更線付近で最盛期を迎えると乾燥した空気塊が亜熱帯をまわって東部太平洋上を巡る。そ の後対流活動は弱まるが、最盛期に生成された乾燥空気塊が高気圧性循環によって、約5日 の遅れをとって熱帯東部太平洋上に到達し、東部太平洋上では最も乾燥した時期を迎える。

  このように、先行研究で指摘されていた定常的な低温域と風系による脱水の効果に併せて、

季節内変動の擾乱が低温域を通過することで、より乾燥した空気塊が形成され、その振幅に よって最も乾燥した空気塊が形成される時期、場所が決まっていることがわかった。また熱 帯域で形成された乾燥空気塊は高気圧性循環によって亜熱帯に運ばれ、さらに亜熱帯域を東 進することがわかった。本研究によって、TTL内部における全球規模での脱水メカニズムと、

季節内振動によって形成された赤道波の構造を持つ気温と風の場が水蒸気分布に影響を与え ていることが観測データを基に初めて示された。

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学位論文審査の要旨

   主 査    教 授    山崎 孝 治    副 査    教 授    長谷 部 文 雄    副 査    教 授    藤吉 康 志    副 査    助 教 授    藤 原 正 智

   副 査    教 授    塩谷 雅 人 ( 京 都 大学 生存 圏研 究所)

. 副 査    助 教 授 ,向 川    均 ( 京 都大 学防 災研 究所)

     学位論文題名

  A study of water vapor variation     in the troplCaluppertropOSphere

(熱帯上部対流圏における水蒸気変動に関する研究)

   本研究では、上部対流圏から下部熱圏領域の気温、風、微量気体成分等を観測す る高層大気観測衛星UARS (Upper Atmosphere Research SatelliteJ に搭載されて いるMLS(Microwave Limb Sounder) によって得られた上部対流圏から下部成層圏 の水蒸気データを用いて、そこでの水蒸気分布の主に季節内変動について解析を行 なった。

   水蒸気は強カな温室効果気体として知られ、特に上部対流圏の水蒸気量が外向き 赤外放射量を左右しているといわれている。さらに水蒸気は雲を形成するため、雲 による地球の放射収支への見積りにも欠かせないパラメータであると言える。また 最近では成層圏における水蒸気の増加傾向が高精度のゾンデ観測から指摘されてお り、この成層圏の水蒸気量増加傾向を説明するために、対流圏から成層圏への物質 の入口として知られる熱帯対流圏界面近傍での様々な成層圏一対流圏聞物質交換の メカニズムが議論されている。中でも、熱帯対流圏界面を面ではなく、対流圏的な 性質から成層圏的な性質に徐々に遷移する、ある厚みを持った層として捉える考え が提案されている。これはTropical Tropopause Layer (TTL) とよぱれ、熱帯圏界 面上下数km の高度14 ―19km に相当する。TTL 領域は強い水平風が吹き、赤道ケル ピン波などの赤道波の波動が卓越してくる領域であるため、ここでの物質は季節内 変動以下の短い時間スケールの大気現象に影響されていることが示唆されている。

   またTTL 内の水蒸気分布を決めている脱水メカニズムがいくっか提唱されてい

るが、その全球規模での観測データを基にした議論は少なく、TTL 内での詳細な脱

水メカニズムはいまだ解明されていない。そこで本研究では、TTL を含む上部対流

圏か ら下部 成層 圏領 域のUARS/MLS の 水蒸 気デー タと UARS/CLAES ( CrY09enic

Limb Array Etalon Spectrometer) の絹雲頻度デ一夕を用いて、それらの季節内変

動における特徴の記述と脱水メカニズムを解明することを目的とした。1991 年から

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1993 年までの北半球冬期(11 −4 月)に見られた 5 つの季節内振動の合成解析を 行なった。

   積乱雲を伴った大規模擾乱が季節内時聞スケールで赤道域を約5m/s で東進する 時、積乱雲が到達する215hPa と146hPa 面では、対流域と共に湿潤域が東進して いた。一方 lOOhPa 面の対流域上は乾燥し、その東進は明瞭でないが、亜熱帯域で 西風に伴った乾燥域の東進が見られた。215hPa とlOOhPa 面では対流域の東側に それぞれ暖域と寒域が存在し、146hPa 面では対流域上に寒域が存在していた。これ は赤道ケルビン波応答の構造を持つ。 146hPa とlOOhPa の絹雲はそれぞれ対流域の 上空と東側の低温域で多く発生していた。これは絹雲の形成が対流活動の影響を受 けた気温場に影響されることを示している。lOOhPa 面の水蒸気場に着目すると、空 気塊が東風によって対流域東側の低温域を通過する時、絹雲が発生し脱水される。

形成された乾燥空気塊は赤道ロスピー波応答の高気圧性循環によって亜熱帯域に運 ぱれ、一部は赤道域の低温域に戻り、一部は亜熱帯を東進し東部太平洋上で再び熱 帯に戻ってくることがわかった。このように季節内振動の対流活動による気温と風 の応答が熱帯上部対流圏の水蒸気分布に影響を与えていることが観測データから初 めて明らかにされた。

   当研究の結果は、今まで個別に捉えられていたTTL 領域におけるケルビン波によ る脱水への寄与や大気大循環モデルにより示されていた水平移流による脱水過程を 相互に関連させながら、現実大気中に生起している動的脱水過程に対する新しい視 点を提起するものであり、高く評価できる。また成層圏における水蒸気の増大など 気 侯 変 動 を 考 え る 際 に 重 要 な 示 唆 を 与 え る も の と 期 待 さ れ る 。    審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であ り、大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ申請者が博士(地球環境科学)

の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した。

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