博 士 ( 農 学 ) 崔
東 壽
学位論 文題名
Ecophysiological study on growth of the ectomycorrhizal conifer specleSlnKOreatreatedWith SOilaCidi
丘
CationandeleVatedC02
( 土 壌 酸 性 化 と 高
C02環 境 下 に お け る 韓国産主要針葉樹の成長と外生菌根菌に関する研究)
学位論文 内容の要旨
近年 ,大気中のC02濃度増加など に伴う温暖化と,増加し続ける酸性沈着による変動環 境下で の環境緑化や生態系修復が期待されている。韓国の主要緑化造林樹種はマツ属やカ ラマツ 属樹木であり,土壌は花崗岩を母材とし比較的貧栄養であるため,共生菌類の役割 がマツ 科樹木の成長と生存に決定的な役割を果たすことが指摘される。そこで,本研究で は,森 林衰退が顕在化した韓国の工業団地周辺を調査地として,被害の実態解明を行い,
大気汚 染と土壌酸性化が緑化樹木に与える影響を明らかにした。そして緑化樹であるマツ 類 稚 樹 の 成 長 に 及 ば す 外 生 菌根 菌の 影 響と 緑化 資材 とし ての 炭の 効果 を調 査し た。
まず ,公害先進地帯の欧米や日本の森林衰退の状況を文献から分析すると,湿性と乾性 沈着は 樹木の生理活動と成長に深刻な影響を与えることが指摘されている。森林土壌に沈 着した酸性物質は,根圏から必須元素イオン(Ca2+,Mg2十,K十,Na十など)の溶出を引き起こ し,pHく5.0ではMr12゛を,pHく4.5ではAl3゛等の物質が多量に溶脱し,光合成酸素発生系の阻 害や根 の分裂組織に悪影響を与える。―方,大気C02濃度の上昇によって光合成能カの向 上が予 想されるが,一定期間,高C02濃度環境で育成すると光合成速度は低下する(負の 制御)。この光合成能カは成長に密接に関与し,光合成産物が樹体内でどのように分配され るかに よって制御される。さらに,土壌中の栄養条件,特に窒素と可給態リン酸濃度に大 きく左 右される。樹木と共生関係を持つ外生菌根菌の活動によって,樹木の根が到達でき ない土 壌鉱物中のりンを吸収可能な状態にして植物体に渡す働きが重要となる。この共生 関 係 に よ る 樹 木 の 光 合 成 能 カ と 成 長 に 及 ば す 影 響 は 大 き い と 考 え ら れ る 。 増加し続ける大気中C02濃度の低減に森林の持つC02固定及ぴ貯留機能が期待 されてい るが, 土壌酸性化による栄養バランスの乱れから森林衰退も予想され,栄養生理学的視点 からも 外生菌根菌と樹木間の共生関係と生態系修復の場における外生菌根菌の役割を解明 する必要がある。
第2章では,韓国の工場地帯や大都市周辺で,最 近,衰退現象が見られているマツ属2 樹種( チョウセンゴョウマツとりギダマツ)植栽林の被害区と対照区を比較し,衰退現象 の原因 を調べた。被害区では土壌中のマンガン(Mn),並びに大気中,降雨,土壌中のフッ 素(F)と 塩 素(Cl)の 濃 度 が 高 かっ た。 針葉 の成 分分 析の 結果 ,FやCI及 ぴMnが高 濃度 で蓄積 されていた。被害区に植栽されているチョウセンゴョウマツとりギダマツでは,こ れらの 物質濃度が高いと光合成能力(最大光合成速度,光量子収率,カルボキシレーショ ン効率 やRuBP再生産速度)及びクロロフィル含有濃度が低下していた。このような生理的
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活性の低下と共に外生菌根菌の発達も抑制されていた。被害区での外生菌根菌の発達及び マ ツ属2種の生 理活動の低下は,養水分の供給低下をもたらし,シュートの成長や針葉の 残存率の低下を引き起こしたと考えられる。また,光飽和での最大光合成速度と針葉中の Mnの蓄積量との関係から,チョウセンゴョウマツはりギダマツより土壌酸性化には耐性の あることが解明された。
第3章で は,土 壌酸性化 と外生 菌根菌の 感染がマツ科4樹種の稚樹(リギダマツ,チョ ウセンゴョウマツ,アカマツ,カラマツ)の生理的応答や成長に及ぼす影響を明らかにし た 。 土 壌酸性 化が進 むと水溶 性のMnやAlなどの物 質の溶 脱が進行 し,針葉 にMn,根 に はAlが蓄積し た。ま た,針葉 中の窒 素濃度は土壌pHが低下するとやや増加した。硫酸に よる10と30 mmoIH゛.kgll処理区で最大光合成速度はやや増加し成長抑制は見られなかった が ,土壌酸 性化が進むほど(60と90 mmoIH゛.kg‑l処理区)植物個体の中で蓄積されたMn やAlの増加は ,マツ類4種稚苗の光合成能カと乾重量の低下をもたらした。針葉中の窒素 濃度の増加によって光合成能カが低下した原因は,樹体の感受性が増加し,さらに,Mnや AIな どの毒性 物質の樹体内蓄積が主因だと考えられる。また,土壌pHのやや低い条件(10 と30 mmoIH゛.kg‑l処理区)では外生菌根菌の発達を促したが,60と90 mmoIH゛.kg‑l処理区で は 外生菌根 菌の発 達が制限 された 。外生菌根菌の発達によって針葉中のMnや根中のAl濃 度の増加は抑制され,対照個体より高い光合成能カと成長の増加が見られた。土壌溶液の BC (=Ca+Mg+K)/AIモル比の 低下に 伴ってマ ツ類4種稚苗 の乾重量 は低下した。チョウセ ンゴョウマツとカラマツ苗の乾重量は,BC /AIモル比=1.0の場合は約40%低下したが,リ ギダマツとアカマツ苗の乾重量は約50%低下した。これに対して,外生菌根菌に感染させ た各マツ類の乾重量は,BC /Alモル比‑ 1.0の場合,感染してない対照区の各マツ類より約 20〜100%多かった。外生菌根菌に感染させた各マツ類稚苗の乾重量は対照に比較するとチ ヨウセンゴョウマツとカラマツ稚苗で約40%,リギダマツとアカマツ稚苗では約50%低下 した。このことから,リギダマツやアカマツに比べて,チョウセンゴョウマツやカラマツ 稚苗の方が,BC /AIモル比の低下に対する耐性を有することが推察された。なお,感染し た 外 生 菌根 菌 が 宿主 へ の 有害 物 質 の吸 収 を 抑 制す る 働 きも あ ること が考え られる。
第4章で は,高C02環境(36Paと72Paの比較)下におけるマツ類3種(チョウセンゴョウ マツ,アカマツ,カラマツ)と外生菌根菌(コッブタケとこれを中心にしたシノコッカム 等 の混菌) の感染 による生 理的な 反応や成長の変化を検討した。高C02環境は3種におい て外生菌根菌の発達を増加させ,針葉中のりン含量を増加した。その結果,外生菌根菌に 感染しない個体より高い光合成能力(カルポキシレーション効率やRuBP再生産速度など)
及 び成長の 増加が見られた。また,外生菌根菌に感染していなぃ個体では,高C02環境で 光合成能カが低下する光合成の「負の制御」現象が見られたが,外生菌根菌に感染させた 個 体では見 られなかった。また,4種類の外生菌根菌が混合されているEC(エクト・ドレ ンチ)では,一種類の外生菌根菌を接種した場合より生理応答が良好な効果が見られた。
また,最近,頻発している山火事後の森林再生を想定した炭の培地への添加実験では,
炭の存在によルタネの発芽率は森林土壌単独培地より有意に高かった。しかし,炭を添加 した森林土壌ではメバェの外生菌根菌の発達は低下した。これは炭の添加によってpHが上 昇したことが一因と考えられる。
以上の結果,大気汚染物質や酸性沈着による土壌酸性化は工業団地周辺の森林衰退を引 き起こしたことカミ指摘できた。高C02環境下では,必須元素の溶脱で養分不足が生じ光合 成の「負の制御」の顕在化が予想されたが,外生菌根菌の感染により針葉中の窒素やりン 濃度は増加し,光合成の「負の制御」の軽減が見られた。さらに土壌酸性化で増加するMn やAlなどの毒性物質は,外生菌根菌によって樹体内への吸収が抑制される可能性が示唆さ れた。今後,外生菌根菌の適切な利用法に関する研究を進展させる必要があると考えられ た。
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学位論文 審査の要旨 主 査
教 授
小 池 孝 良 副 査
教 授
大 崎
満 副査
助教授 平野高司 副査
助教授 玉井 裕 副査
助教授 柴田英昭
学位論文題名
Ecophysiological study on growth of the ectomycorrhizal conifer specleSlnKOreatreatedWith SOilaCidi
丘CationandeleVatedC02
( 土 壌 酸 性 化 と 高
C02環 境 下 に お け る
韓国産主要針葉樹の成長と外生菌根菌に関する研究)
本論文は、本文117ページ、引用文献216編からなる英文論文で5章か ら構成されてい る。他に参考論文8編が添えられている。
近年、酸性沈着や大気C02濃度の増加などに伴う地球温暖化などの変 動環境下での森 林の動態に注目が集まっている。花崗岩を 母材とする韓国の森林土壌は貧栄養であり、
酸性沈着によって土壌が酸性化しやすい。 このため、韓国ではこのような環境条件に耐 性のあるマツ属樹種を造林樹種として植栽 している。しかし、最近、韓国の工場地帯や 大都市周I辺で はマツ属の衰退現象が見られている。
そこで、野外調査を実施し、マツ属2樹種の被害区と被害を受けてな い対照区を比較 して、衰退現象の原因を調べた。被害区の大気中、雨、土壌及び土壌水の中の汚染物質、
特 に フ ッ 素(F)や 塩 素(CI)及 び マ ン ガ ン(Mn)な ど の 濃 度 が 高 か っ た 。 大 気 や土 壌 水中 のF、Cl、Mnが 吸収 され て針 葉中 に蓄 積さ れてい た。この結果、被害区に植栽さ れているチョウセンゴョウマツとりギダマ ツの光合成機能(最大光合成速度、光ー光合 成曲 線の 初期 勾配 、カ ルポキシレーション効率やRuBP再生産速度)及びク口口フィル 含有量が低下した。これらのような生理的 活性の低下と共に外生菌根菌の発達も抑制さ れてしゝた。被害区での外生菌根菌の発達及び生理活動の低下は、植物個体への養分や水 分な どの 供給 の低 下に よってシュートの成長や針葉の 残存率の低下をもたらしたと考 えら れる 。ま た、 光飽 和での最大光合成速度と針葉中 のMnの蓄積傾向からチョウセン ゴョウマツはりギダマツより耐性のあるこ とが解明された。
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土壌酸性化によるマツ種(リギダマツ、チョウセンゴョウマツ、アカマツ、カラマツ)
の 生 理的 な反 応の 変 化で は、 土壌 酸性 化が 進む ほど 水溶 性AlやMnなど の物 質 の溶 脱 が 増 加し 、針 葉に はMnが 、根 にはAlが 蓄積 した 。ま た、 針葉 中の 窒素 の濃 度 も土 壌 pHが 低下 する とや や 増加 した 。植 物体 の中 で蓄 積さ れたAlやMnな どは マツ 属 の光 合 成速度の低下と、乾重 量の低下を伴った。針葉中の窒素濃度が上昇しているので、光合 成 能カ の低 下は 窒素 など の栄 養分 不足ではなく、AlやMnなどの毒性 物質の蓄積が原因 だ と考 えら れる 。ま た、 土壌pHの やや低い条件(10と30 mmolH十kgl処理区)では外生 菌 根菌 の発 達は 促進 され たが60と90 mmolH十kg'i処理区では外生菌 根菌の発達が制限 さ れ た。 外生 菌根 菌 の発 達に よっ て針 葉中 のMnや根 中のAl濃 度増 加は 見ら れ ず、 外 生 菌 根 菌 に 感 染 し て な い 個 体 よ り 高 い 光 合 成 能 カ と 成 長 の 増 加 が 見 ら れ た 。 土壌 溶液 の(Ca+Mg+K)/Alモ ル比 の低 下に 伴 って 、マ ツ類4種稚苗 の乾重量は低下し た 。チ ョウ セン ゴョ ウマ ツと カラ マツ 苗の 乾 重量 は、(Ca+Mg+K)/Al=1.0の場合は約 40%低 下し 、リ ギ ダマ ツと アカ マツ苗の 乾重量は約50%低下した。こ れに対して、外生 菌 根菌 に感染させた各マツ苗の乾重量は 約20〜 100%増加した。この ことから、リギダ マ ツや アカ マツ に比 べて 、チ ョウ センゴョウマツやカラマツ苗の方 が、(Ca+Mg+K)/Al モル比の低下に対する 耐性を備えていることが推察された。また、外生菌根菌の感染に よって抵抗性の増加も 考えられる。
高C02環 境に よ るマ ツ類3種 (チ ョウセンゴョウマツ、アカマツ、 カラマツ)と外生 菌 根菌 の感染による反応の変化では、高C02環境は外生菌根菌の発達 を増加させ、針葉 中のりン含量を増加さ せた。その結果、外生菌根菌に感染しない個体より高い光合成能 力 (カ ルポ キシ レー ショ ン効 率やRuBP再生産速度など)が見られた 。また、外生菌根 菌 に感 染していない個体では、高C02環境で光合成能カが低下する、 いわゆる光合成ダ ウンレギュレーション 現象が見られたが、外生菌根菌に感染させた個体では見られなか っ た。 特に4種 類 の外 生菌 根菌 が混合さ れているEC(エクト・ドレンチ)では1種類の 外生菌根菌より生理応 答が良好な効果が見られた。
また、山火事など森 林撹乱後の針葉樹の発芽とヌバエの初期生存を想定した炭の培地 への添加実験では、炭 を入れた場合の発芽率は森林土壌単独での発芽率より有意に高か った。しかし、炭を入 れた森林土壌では外生菌根菌の発達は低下し、芽生えの成長はむ し ろ 抑制 され た。 こ れは 炭の 添加 によ ってpHが 上昇 した こと が一 因と 考え ら れる 。 これ まで の研 究か ら、 土壌 酸性 化や 高C02によ る温 暖化 などの変 動環境下において も、共生する外生菌根菌の役割によってマツ類の成長は促進されることが明らかになり、
土壌酸性化に耐性のある樹種を選ぷことができ、森林生態系修復の基礎資料を提供した。
よ っ て審 査委 員一 同 は、 崔東 寿が 博士 (農 学) の学 位を 受け るに 充分 な資 格 を有 す るものと認めた。 ,
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