平成29 年度 学位論文(博士)
日本産マルハナバチ属の社会寄生に関する研究
―特に実験室内における女王による巣の引き継ぎの効果について― Studies on Social Parasitism of Japanese Bumblebees (Bombus spp.)
- with Special Reference to Laboratory Analysis of Nest Takeover by Queens -
平成29 年 12 月 14 日提出
玉川大学大学院農学研究科 資源生物学専攻
松山 日名子 Hinako Matsuyama Biological Resources Major Graduate School of Agriculture
Tamagawa University 2017
目次 頁 緒論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第1 章 異種間の巣の乗っ取りと引き継ぎについて 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 (1)供試虫 (2)飼育方法 (3)クロマルハナバチの累代飼育方法 (4)異種間での繭と女王に対する誘引性の調査 (5)繭の有無による産卵開始に数の調査 (6)異種間での育児調査(単雌) (7)人為的混群の行動観察(多雌) 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 (1)繭に対する誘引性の調査 (2)繭と女王に対する誘引性の調査 (3)繭の有無による産卵開始日数の調査 (4)異種間での育児調査(単雌) (5)人為的混群の行動観察(多雌) 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 第2 章 同種間の巣の乗っ取りと引き継ぎについて 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 (1)同種間での繭と女王に対する誘引性の調査と産卵経験の有無の 影響 (2)卵室の増加傾向 (3)ワーカー、雄、新女王の増加傾向 (4)ワーカー、雄、新女王が羽化するまでの日数、食卵開始するまで の日数と産卵期間 (5)ワーカー、雄、新女王のさえ産されら総個体数の比較 (6)コロニーの寿命の比較 (7)女王単独区、血縁区、非血縁区のコロニー成長の変化 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93 摘要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・96 Summary・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・98 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102
緒論 社会寄生(労働寄生)はさまざまな生物でみられる特殊な生活史の戦略 である。社会寄生とは、寄生者がホストの生活に侵入し、ホストから餌を もらい、寄生者の子をホストに育児させることを言う。その結果、寄生者 は育児や採餌能力を退化させることが多い。社会寄生の一例としてカッコ ウの托卵があげられる。カッコウは他種の鳥(ホスト)の巣に卵を産みつ け(托卵)、ホストに育児をしてもらう。 このような社会寄生は社会性昆虫でも見られる。社会寄生は大きく永続 的社会寄生、一時的社会寄生、奴隷制に分かれる。永続的社会寄生ではワ ーカーカーストがなく生殖虫のみが生産され、自身で子を育てることはな い。マルハナバチ類やアリ類などで見られ、日本ではヤドリウメマツアリ やニッポンヤドリマルハナバチなどがあげられる。ヤドリウメマツアリは ウメマツアリに寄生し、巣を乗っ取り、自身の生殖虫をホストワーカーに よって育ててもらう(Satoh et al., 2008)。ニッポンヤドリマルハナバチは ヒメマルハナバチに寄生し、ホストに自身の卵を育ててもらい生殖虫を生 産してもらう。永続的社会寄生種は餌の採集能力が欠如しているため、ホ ストの育児システムに依存しており、巣を乗っ取る手段として行動による 物理的手段と情報化学物質による化学的手段を用いて巣に侵入していくこ とが分かっている(Dronnet et al., 2005; Erler et al., 2010; Kreuter et al., 2012; Küpper et al., 1995; Martin et al., 2010; Sramkova et al., 2009; Vergara et al., 2003; Zimma et al., 2003;)。
他に、一時的社会寄生のチャイロスズメバチがあげられる(Martin et al., 2008)。チャイロスズメバチ女王はキイロスズメバチやモンスズメバチの 巣に寄生する。チャイロスズメバチの女王はホストの女王を殺したのち、 ホストワーカーによって自身のワーカーを育ててもらう。そして途中でホ ストワーカーから自身のワーカーに入れ替わり、チャイロスズメバチの巣 となるのである。 また、奴隷制をもつ種ではサムライアリがあげられる。サムライアリの 女王はクロヤマアリの女王を殺し、自身の巣にする(Tsuneoka, 2008; Tsuneoka et al., 2012)。そして産んだ卵をクロヤマアリのワーカーに育て
原始的社会性をもつマルハナバチで社会寄生の1 つとして興味深い現象が ある。マルハナバチの女王は越冬から覚める春頃に飛び回り餌を探しなが ら営巣場所を探し回る。好適な条件の営巣場所を見つけると、卵を産み女 王1 匹で育児を開始する。最初に産んだ卵(ファーストブルード)は幼虫 になり、蛹になり、成虫となる。そして成虫になったファーストブルード が育児をするようになり、女王は産卵に専念する。コロニーは成長し、終 盤には生殖虫である雄と新女王を生産する。生殖虫の生産を終えたコロニ ーは衰退し、新女王は他巣のコロニーの雄と交配し、交配した新女王は越 冬する。 このように一年性の生活史をもったマルハナバチであるが、一方で越冬 から覚める春頃、女王が同種または異種間で乗っ取りが起こるという。そ してその争いによって巣を奪う女王がいる。例えば、1 つのコロニーから 20 匹のセイヨウオオマルハナバチの女王の死骸が見つかった事例がある (Sladen, 1912)。また、日本では、Sakagami and Nishijima(1973)に より、ユーラシアマルハナバチ亜属である日本在来種シュレンクマルハナ バ チ (Bombus schrencki ) と ニ セ ハ イ イ ロ マ ル ハ ナ バ チ ( B. pseudobaicalensis)の 2 種のマルハナバチが 1 つのコロニー内に生息して いたと報告されている。その巣の状態を見ると、最も古い巣の部分がシュ レンクマルハナバチの巣であったことから、元々はシュレンクマルハナバ チが営巣を始めて幼虫や繭ができ始めた初期巣が作られていたが、そこに ニセハイイロマルハナバチの女王が巣に侵入して巣を乗っ取ったと考えら れる。 また、カナダのマルハナバチの観察では、同種個体間の女王の他巣への 侵入の頻度は全体の10%程度であるという報告もある(Richards, 1978)。 また、B. occidentalis では 1 つのコロニーから同種の女王の死骸が 3 匹と 異種B. frigidus の 1 匹の合計 4 匹の死骸が見つかった。そして、乗っ取り が生じた場合、オーナーの女王が侵入者を撃退したのが36%、反対に侵入 者が撃退したのが32.9%であったという。そして同種間の乗っ取りが 55% のケースで大型の個体が勝利すると記されている。他にオオマルハナバチ 亜属のセイヨウオオマルハナバチ(B. terrestris)と B.lucorum の 2 種の マルハナバチの間での報告がある(Sladen, 1912)。エルズミーア島では、 Megabombus hyperboreus が M.polnris を乗っ取ったという報告もある (Milliron et al., 1966)。これらのことからマルハナバチでは自然の状態 の中でも高頻度で異種同種関係なく乗っ取りが起こっていることが分かる。 最近の研究では、野外から採取されたコロニーからコロニーの主とは異な る雌卵が確認されたという報告もある(O’conner et al., 2013)。
また、1992 年で、日本にハウス栽培での花粉媒介者としてセイヨウオオ マルハナバチが導入されたが(岩崎, 1995)、ハウスから逃げ出して野生化 してしまったマルハナバチが日本在来種であるエゾオオマルハナバチ (B.hypocrita sapporoensis)の巣へ侵入し、巣を乗っ取ってしまうこと も数多く報告されている(米田ら, 2008)。また、室内実験下でもセイヨウ オオマルハナバチにエゾオオマルハナバチやクロマルハナバチの巣が乗っ 取られることが報告されている(Ono, 1997)。 このような乗っ取り合いが起きる原因として、営巣場所を巡る争いが関 係しているのではないかと言われている(Goulson, 2010)。また、マルハ ナバチの女王は越冬から目覚めるまでのタイムラグがあり、Alford(1975) は遅く目覚めた女王によって巣の乗っ取りが起こると述べている。つまり、 春先に早く目覚めた女王は次々に好適条件の営巣場所を見つけ出して営巣 を始める。遅く目覚めた女王は、すでに先に早く目覚めた女王によって営 巣場所が減少してしまうが、遅く目覚めた女王も産卵し子孫を残すために、 先に作られた巣穴の中へ入って行ったのではないかと考えられる。 野外での出来事とは別にハウス内でマルハナバチのコロニーを設置する と、ワーカーが他巣に侵入するドリフティング(Drifting、迷い込み)と いう状態も引き起こることが分かっている(Birmingham et al., 2004; Paxton et al., 2001)。また、ニセハイイロマルハナバチの野外のコロニー でもドリフティングが起こっている (Takahashi et al., 2010)。これらの ドリフティングのように女王間でも同じような特性があり、女王に飛行能 力がある春頃に起こっている可能性も考えられる。 このような乗っ取りはコハナバチやアシナガバチにおいても報告されて おり、とても興味深い行動である(Klahn, 1988; Zobel et al., 2007)。 Goulson(2010)は、マルハナバチの女王による社会寄生を大きく 2 つに 分けている。一つはヤドリマルハナバチ亜属による社会寄生、二つ目はヤ ドリマルハナバチ亜属以外の種による社会寄生である。また、Spradbery (1973)は、巣の乗っ取りと引き継ぎは社会寄生の一形態であると定義し ている。マルハナバチにおける社会寄生の研究ではほとんどがヤドリマル ハナバチに関する研究であり、ヤドリマルハナバチ亜属以外の社会寄生に 関する研究はほとんどされていない。その理由としてコロニー採集が困難
第1 章 異種間の巣の乗っ取りと引き継ぎについて 緒言 春頃、越冬から目覚めたマルハナバチの女王は、営巣場所を探すために 飛び回る。営巣場所を見つけると、産卵と採餌を最初のワーカー(ファー ストブルード)が羽化するまで女王は単独で営巣する。ファーストブルー ドが羽化し始めると採餌はワーカーがするようになる。ワーカー数が増加 するにつれてコロニーサイズも大きくなり、女王は産卵のみになり、コロ ニー終盤には生殖虫である新女王と雄を生産する。 本来、マルハナバチの女王は単独で営巣していると考えられているが、 それとは異なり異種または同種間で巣の「乗っ取り」や「引継ぎ」が起こ っていると考えられる事例がいくつか報告されている。ヨーロッパでは、1 つのコロニーから 20 匹の女王の死骸が確認され、また別の事例では異種 の女王とワーカーが1 つのコロニーで混在していたという事例も確認され ている(Sladen, 1912; Richards, 1975)。日本においても異種であるハイ イ ロ マ ル ハ ナ バ チ と シ ュ レ ン ク マ ル ハ ナ バ チ の 混 群 の 報 告 が あ る (Sakagami et al., 1973)。また、野外のセイヨウマルハナバチのコロニー から女王の遺伝子とは異なる雌卵が確認されたという報告もある(O’ conner, 2013)。 これらのことから、営巣開始する時期に女王同士で営巣場所を巡る競合 が起きていると推察される。しかし、これらの報告は野外で採取されたコ ロニーから確認された事実であり、詳細の調査は行われていない。そこで、 この章ではこれらの事例に基づき、異種間で女王が巣を「乗っ取り」や「引 継ぎ」といった行動を示すのかを実験的に検証した。 材料および方法 (1)供試虫 供試虫は同所的に生息していることが確認されているクロマルハナバチ
オオマルハナバチの女王(図 1A)を、2011 年 5 月 8 日、2012 年 5 月 13 日、6 月 3 日に山梨県南都留郡忍野村と静岡県駿東郡小山町にて採集し た。越冬から目覚め、桜やツツジなどの花に訪花していた個体を採集した (表1)。 採集した女王を採集ビン(図 2)に 1 個体ずつ入れた。採集ビンの中蓋 には小さな穴を開け、脱脂綿に染み込ませた砂糖水を中から吸蜜すること ができるようにし、またビンの中には排泄物などを吸収させるために細か く刻んだキムワイプ(キムワイプ S-200;日本製紙クレシア)を入れた。 そして、それら女王を入れた採集ビンを、保冷剤を入れたクーラーボック スに入れてボックス内の温度を低温に保ち運搬した。
表1.オオマルハナバチを採集した年月日と採集場所 年月日 忍野村 小山町 塩釜観音寺 2011 年 5 月 8 日 9 21 - 2012 年 5 月 13 日 16 1 12 2012 年 6 月 3 日 - 13 - 合計(匹) 25 35 12
図1.オオマルハナバチ(A)とクロマルハナバチ(B)の女王と初期巣 図2.マルハナバチ採集に使用した採集ビン(A)と採集ビンの構造(B) (A)採集ビンの外観、(B)1:ビン本体、2:蓋、3:中蓋
A
B
10mm 10mmA
B
1 2 32)クロマルハナバチ(Bombus ignitus Smith ) クロマルハナバチ(図1B)のコロニー(Agrisect)を購入し、巣から羽 化した新女王と雄を回収し、それぞれ交尾させて累代飼育をして個体数を 得た。 (2)飼育方法 飼育をマルハナバチ専用増殖装置と玉川大学大学6 号館 7 階のマルハナ バチ飼育室にて行った。飼育室の温度は28℃、湿度を 80%で管理された。 そして観察時間以外は暗室で管理した。 1)営巣開始用小箱 クロマルハナバチとオオマルハナバチの女王を、営巣開始用の小箱(8 ×15×6.5cm:図 3)に 1 個体ずつ入れた。小箱は 2 部屋に分かれており、 一方を営巣室、もう一方を給餌室とした。これら2 部屋の間の仕切り板に は1.8×1.8cm の孔が開いており女王が行き来できるようにした。そして、 蓋には横スライド式の透明アクリル板を用いた。アクリル板の端には蓋を 固定するための画鋲用の小さな孔が開いており、そこを画鋲で固定し蜂が 逃げ出さないようにした。 その小箱に、産卵を促進させるためにヘルパーとしてクロマルハナバチ の繭を2~3 個溶かしたロウで中板に固定し、小箱に設置した。 2)給餌 餌として55%砂糖水(異性化糖 HC シリーズ;王子コーンスターチ株式 会社)と、生花粉(Agrisect)と砂糖水で練った花粉を与えた。練花粉の 量を、女王が 1 匹の頃は 5mm ほどの団子状で与え、コロニーの成長に合 わせて量を増やしていった。練花粉を 2~3 日おきに交換し、残っていた ものは排除して新鮮なものを与えた。また、砂糖水も枯渇しないように量 が減り次第、適当に追加した。 3)大箱への移動 ファーストブルードが繭になった頃の初期巣(図 1B)に大箱(20×28
設置した。巣箱を乗せるトレーを排泄物で汚さないために、大箱の下に新 聞紙を引き、週2 回ほど新聞紙を交換して清潔に保つようにした。移動後 数日間、ペットボトルの蓋に砂糖水を入れたものを巣の隣に設置しておい た。これは移動直後の混乱による餓死を防ぐために行った。
図3.営巣開始用の飼育小箱(A)と繭をロウで固定した中板(B)
図4.初期巣を営巣させた後に移した大箱
A
(3)クロマルハナバチの累代飼育方法 1)成熟するまでの個体管理 累代飼育には、購入したクロマルハナバチのコロニーから生産された新 女王と雄を用いて行った。羽化した新女王を体が成熟するまで水槽に移動 して管理し、十分な砂糖水と練花粉を与えた。雄を、羽化後金網ケージ(30 ×30×30cm:図 6)に入れ、十分な砂糖水を与えた。交尾には、7~15 日 齢の新女王、7 日齢以降の雄を用いた。交尾を玉川大学大学 6 号館 3 階と 7 階で行った。金網ケージに新女王と雄を入れ、適度な自然光が当たる場 所で行った。光が強すぎると交尾しにくいことが分かったので窓際から少 し離れた場所にケージを置いた。ケージには新女王と雄を約1:1.5 の性比 にすると交尾しやすかった。 2)交尾と低温処理 交尾(図7)を確認したらすぐにプラスチックカップ(クリーンカップ; 本体:430B,蓋:101 パイ FC)に移し、未交尾女王と交尾女王を区別で きるようにした。また、一度交尾した雄を再度交尾に使用しなかった。交 尾が終了した新女王に十分に砂糖水を与えた。砂糖水を十分に吸蜜させた 後、脱脂綿(約2×2cm)を入れた採集ビン(図 2)に交尾済みの女王を入 れた(図 10)。そして、その採集ビンをプラスチックケース(図 8)に入 れ、バーミキュライトでビンを埋め(図 9)、5℃設定された冷蔵庫に入れ て低温処理を行った。バーミキュライトには脱イオン水をスプレーで吹き かけながらかき混ぜて全体的に水分を含ませて、低温処理中湿度を保つよ うにした。低温処理を 1~3 か月行った。低温処理を開始してから毎月 1 回、採集ビンを開け、生存確認を行った。生存確認として個体をピンセッ トで軽く突き、体の一部を動かすことを確認した。同時にバーミキュライ トの湿度の確認をし、乾燥していた場合には上記と同じ手法で土に水分を 含ませて冷蔵庫に戻した。 3)低温処理からの覚醒処理 低温処理期間が終了したら女王を冷蔵庫から出し、ケースのまま常温で 3 時間実験台の上で放置した。3 時間後、採集ビンから女王を取出し、プ ラスチックカップに女王を一匹ずつ入れた。プラスチックカップを逆さに し、蓋と本体の間にキムワイプを挿み、排泄物を吸収するようにした(図 11)。また、餌としてペットボトルのキャップに砂糖水を入れたものを一緒 にプラスチックカップに入れた。これらを20℃設定された部屋(玉川大学 大学6 号館 7 階)で 7 日間管理した(20℃処理)。7 日目に常温の部屋(玉
川大学大学6 号館 3 階)に移動した。 4)CO2による営巣促進処理(CO2処理) 8 日目と 9 日目に、卵巣を発達させるために CO2による営巣促進処理を 1 回ずつ行った。CO2処理として、女王をバードフィーダの本体を逆さに して1 匹入れ、CO2を少しずつ流し込んだ(図12)。女王が動かなくなっ たのを確認後、蓋をして1 分間放置し、その後プラスチックカップに戻し た。そして10 日目に営巣開始用の小箱(図 3)に女王を 1 匹ずつ入れ、産 卵促進のために中板にクロマルハナバチの繭をロウで固定したものを小箱 の中に入れた。これらの女王を、室内温度 28℃、湿度 80%で管理された マルハナバチ飼育室で飼育した。
図6.交尾の実験に使用した金網ケージと実験を行っている様子
図8.低温処理に用いたプラスチックケース
図11.低温処理から覚醒させた女王の様子(20℃処理時)
図12.CO2による営巣促進処理をしている様子
図13.実験に用いた観察巣箱と小箱 CO2
(4)異種間での繭と女王に対する誘引性の調査 1)繭に対する誘引性の調査 観察巣箱(20×23×11.5cm)と小箱(8.5×8×7cm)を用いて実験を行 った(図 13)。女王による巣の引き継ぎを再現するために、マルハナバチ の巣の一部である繭1 個を中板にロウで固定し、これを小箱の中に入れた (処理区)。この小箱を観察巣箱に図 13、14A のように設置した。無処理 区には中板のみを設置した。実験中女王の死亡を防ぐためにバードフィー ダに砂糖水を入れたものを観察巣箱に設置した。 実験に扱う女王をあらかじめ逆さにしたプラスチックカップに入れ、落 ち着くのを待った。プラスチックカップには排泄物が体に付着しないよう にろ紙を敷いておいた。落ち着いたのを確認した後、プラスチックカップ ごと観察巣箱に入れ、静かにプラスチックカップ本体のみを持ち上げた。 女王を観察巣箱に導入してから 24 時間後どちらの小箱に入ったかをカウ ントした(図 14A)。処理区と無処理区を毎実験ごとに交換して実験を行 い、女王に場所を学習させないようにした。実験回数は 10 回行った。処 理区にはクロマルハナバチの繭とオオマルハナバチの繭を用い、産卵を経 験したクロマルハナバチとオオマルハナバチの女王を用いた。 2)繭と女王に対する誘引性の調査 実験は第1 章(4)-1)と同じ観察巣箱と小箱を用いて行なわれた(図 13)。女王の巣の乗っ取りを再現するために、一方の小箱に異種の女王と 繭(女王と同じ種)1 個を中板にロウで固定し、小箱の中に設置した。無 処理区には中板のみを設置した(図 14B)。実験中女王の死亡を防ぐため にバードフィーダに砂糖水を入れたものを観察巣箱に設置した。 実験方法を第1 章(4)-1)と同じように行い、女王を観察巣箱に導入 した。処理区と無処理区の小箱で毎回実験ごとに交換して調査を行い、場 所を学習させないようにした。実験回数は異種間では 10 回とした。産卵 を経験したクロマルハナバチとオオマルハナバチの女王を用いた。 (5)繭の有無による産卵開始日数の調査 飼育小箱に繭を設置した区と繭の無い中板のみを設置した区を作り、そ
図 14.繭に対する誘引性(A)と繭と女王に対する誘引性(B)の調査の 略図
B A
表2.クロマルハナバチの各処理を行った日数と繭の設置状況 クロマル 女王 No. 低温処理 20℃処理 室温処理 CO2 1 回目 CO2 2 回目 繭の有無 Bi1 30 7 1 1 1 有 Bi2 30 7 1 1 1 有 Bi3 30 7 1 1 1 有 Bi4 30 7 1 1 1 有 Bi5 30 7 1 1 1 有 Bi6 30 7 1 1 1 有 Bi7 30 7 1 1 1 有 Bi9 35 7 1 1 1 有 Bi11 35 7 1 1 1 無 Bi12 46 7 1 1 1 無 Bi13 35 7 1 1 1 無 Bi14 46 7 1 1 1 無 Bi17 50 7 1 1 1 無 Bi18 50 7 1 1 1 無 Bi20 50 7 1 1 1 無 Bi21 50 7 1 1 1 無
(6)異種間での育児調査(単雌) 最初にオオマルハナバチとクロマルハナバチの女王に初期巣を営巣させ た。そしてファーストブルードが繭になった頃(図1B)に大箱に巣を移動 させ女王と巣を交換した。女王の導入を大箱の営巣室で行い、女王が巣に 定着するか確認した。巣と女王の交換を行った後、写真撮影を行い、交換 後育児をするかを確認し、巣の成長具合を記録した。 (7) 人為的混群の行動観察(多雌) 図15 の観察巣箱(25×30×12cm)を作製し、オオマルハナバチとクロ マルハナバチのコロニー(ワーカー2~5 匹)を各部屋へ設置した。コロニ ーを設置して最初の7 日間、巣箱に慣れさせるために出入口を塞いでおい た。そして、7 日目に出入口を開き、女王とワーカーが行き来できるよう にしたとき、お互いにどのような行動をするかを観察した。観察はできる だけ毎日実施し、女王やワーカーの行動を写真撮影によって記録した。 図15.人為的混群の行動観察時に用いた観察巣箱 出入口 出入口
結果 (1)繭に対する誘引性の調査 オオマルハナバチとクロマルハナバチの女王は、繭に対して強く誘引さ れた(図16: 二項検定, P < 0.01; 図 17: 二項検定, P < 0.01)。女王は、実 験開始から24 時間後、繭がある小箱に必ず入り、また異種の繭に対して 繭を温める「保温行動」を示した。また、繭に付着しているワックスを使 って卵室を作り、産卵する準備を示す個体がいた。 実験開始から繭のある小箱を見つける際の女王の行動は、一直線に繭の ある方を選択する個体と、観察巣箱内を歩き回りながら繭のある小箱にた どり着く個体がいた。また、ある女王は繭の小箱の出入口のそばでじっと している個体も見られた。観察できた個体では1 分から 30 分以上出入口 の前で待機していた。そして動き始めると、体の半分まで中を覗き込むよ うにして入り、そして外に後退してまた出入口でじっとしていた。これを 数回繰り返した末、小箱に入り、繭を抱いた。 (2)繭と女王に対する誘引性の調査 オオマルハナバチとクロマルハナバチの女王は、女王と繭がある小箱に 強く誘引された(図18: 二項検定, P < 0.05; 図 19: 二項検定, P < 0.05)。 女王は、小箱に異種の女王がいたとしても繭がある方へ入って行った。侵 入者側の女王には、繭がある方へ選択する時と同じように、一直線で選ぶ 個体と観察巣箱内を歩き回り、繭と女王がいる小箱へ入って行く個体がい た。そして、①乗っ取りに成功、②乗っ取りに失敗、③小箱の中で2 匹の 女王が生存(共存)、といった大きく3 つの行動パターンがあることが分か った。 ①の乗っ取りで成功した女王では、オーナーの女王と争う様子が見られ た。侵入者側の女王は、小箱に入ると、オーナーの女王に追いかけられた り、また追ったりしていた。また、お互いの翅や肢にかじりつき、2 匹が 動かずに団子状態になることもあった。お互いを攻撃し合ううちにオーナ ーの女王は巣の外へ出て行ってしまった。またある個体では、団子状態の ときに侵入者側の女王によって刺され、死んでしまう例もあった。他に見
②の乗っ取りに失敗した女王は、オーナーの女王のいる小箱に入ると、 オーナーの女王に警戒行動を示され、それをされた侵入者側の女王はすぐ に小箱の外へ出て行った。別の個体では、オーナーのいる小箱に侵入する と、お互いに追いかけ合った後、翅や肢をかじり合い、団子状態になった。 そして、侵入者側の女王の中には、小箱を出ていく個体と、団子状態のと きにオーナーの女王に刺されて死亡した個体が見られた。実験終了後も観 察を続けていると、乗っ取りを失敗し、追い出された女王は、オーナーの 女王が外に出た後に、侵入者側の女王は、小箱の中に入って行く様子が1 度見られた。しかし、オーナーの女王が小箱に帰ると警戒行動を示され、 追いかけられ最後には、侵入者側の女王は小箱から追い出された。 ③共存していた女王は①や②の時のようにお互いに追いかけ合い、翅や 肢をかじり合いながら団子状態になったまましばらく時間がたった後、か じり合うのを止め、お互いに警戒行動を示しながら離れた。そして、しば らく警戒行動を示し合った後、そのまま一緒に小箱の中にいた。その後、2 匹の女王は繭を一緒に温める行動が見られた(図20)。2 匹が繭を温め合 っていると、時々体のどこか一部に触れるとまたお互いに警戒行動を示し ていた。ある個体ではお互いに体が触れ合うと争いが起こり、お互いに追 いかけ合っていたが最初の時ほどしつこく追いかけることはなかった。あ る個体では、最初から争いを示さない個体がいた。侵入者がオーナーの小 箱に入ると、オーナーの女王は何も警戒行動を示すこともなく、そのまま 侵入者を受け入れて一緒に繭を温めており、観察していた間は争いが起こ ることがなかった。 ①~③の行動はクロマルハナバチでもオオマルハナバチでも確認されたが、 オオマルハナバチの方がクロマルハナバチより争いが少なかった。 (3)繭の有無による産卵開始日数の調査 繭を設置することで、産卵する速さが異なるか調査を行った。その結果、 繭を設置した区と繭を設置していない区の間には有意な差が見られ、クロ マルハナバチもオオマルハナバチも共に繭を設置した方が早く産卵した (表3)。
表 3.クロマルハナバチとオオマルハナバチの女王による繭の有無による 産卵するまでの日数の比較 女王の種 繭有 繭無 P 値 クロマルハナバチ (n = 8) 8.0 ± 2.4 17.2 ± 7.1 P < 0.05 オオマルハナバチ (n = 5) 8.3 ± 3.6 14.3 ± 2.3 P < 0.05 ・平均±SD. t 検定.
(4)異種間での育児調査(単雌) クロマルハナバチとオオマルハナバチの女王と巣を交換した初日、女王 は巣を見つけるとすぐに巣に近づき、繭や幼虫を腹部を擦りつけて保温行 動を示した。女王は、巣や幼虫、繭に対して忌避することなく、巣の世話 を引き続き行った(図 21)。交換した後、しばらく観察していたが食卵や 幼虫、蛹を捨てるような行動は見られなかった。クロマルハナバチやオオ マルハナバチの女王は巣を見つけるとどちらの女王も、最初に蜜ポットに 入っている蜜を飲んでいた。 交換してから引き続き行動調査を行った。観察を続けていると、クロマ ルハナバチの女王のコロニーでは、オオマルハナバチの幼虫(体長約2mm) を 2~3 匹捨てている様子が観察されたが、すべての幼虫を捨てている女 王は確認されなかった。また交換して数日後、それぞれの女王は異種の繭 の上に卵室を作り産卵しているところを確認することができた。交換して から約1 週間後、ファーストブルードが羽化しているところが観察された (図 22)。女王と羽化したばかりのワーカーは異種間であるが争う様子は 見られなかった。それ以降も争いをすることはなく、ワーカーは巣の世話 や営巣、幼虫の育児、繭の世話を行っている様子が見られ、幼虫の成長も 確認された。そして女王と異種のワーカーが5~10 匹以上になっても女王 とワーカーの間で争いが起こる様子は見られなかった(図 23)。羽化して きたワーカーは女王が産卵した卵や孵化した幼虫の育児を続けており、幼 虫の成長が確認された。たびたび幼虫を外に捨てている様子が見られたが、 通常のコロニーの営巣状態でも認められるほどの頻度であった。 女王が産んだ卵が繭までになり、ワーカーに羽化した。オオマルハナバ チが女王のコロニーでも、女王が産卵したワーカーがクロマルハナバチほ どではないが見られた(図 24)。また、そのコロニーで生産されたワーカ ーは、通常の体長(約10~12mm)よりも大きかった(図 33-36)。 育児実験を開始してから1 か月以上たった頃に、女王がクロマルハナバ チのコロニーで、オオマルハナバチの雄が 1 匹生産された(図 25)。この 雄が羽化した時にはまだクロマルハナバチの雄は生産されておらず、雄の 繭も確認されなかった。オオマルハナバチが女王のコロニーでは、クロマ ルハナバチよりも早く雄生産に移る傾向が見られた(図 28)。オオマルハ ナバチでは最大で 89 匹の雄が生産されるコロニーがあり、このコロニー はほとんどが女王によって産卵されたものであった(表4)。女王の産卵も 観察されており、その観察時では卵室を女王自身が作り、そこに産卵して いた(図 31,32)。産卵後、ワックスで卵室を閉じてそのまま女王はその 卵室を保温行動で温めていた。ときおり、クロマルハナバチのワーカーが
その卵室に近づこうとすると、女王は警戒行動を示し、ワーカーを卵室に 近づけないようにしていた。 女王がクロマルハナバチのコロニーで、新女王と雄が生産されたのは育 児開始して約4 か月後であった(図 29)。新女王の生産は 3 コロニーのう ち1コロニーで確認され、22 匹の新女王が確認された(表 4)。これら生 産された新女王と雄蜂は正常に羽化し、交尾することができることも確認 された。オオマルハナバチが女王のコロニーでは、新女王の幼虫が1 匹確 認されていたが、幼虫が終齢期ぐらいになるとクロマルハナバチのワーカ ーによって幼虫の周りのワックスが剥がされ、引きずり出されて捨てられ てしまう現象が起こった(図 30)。以後、その幼虫はそのまま放置され死 亡した。 また、オオマルハナバチが女王のコロニーの3 コロニーのうち1コロニ ーで、女王の体毛がワーカーによって噛み切られてしまっていた(図37)。 このコロニーでは一時期、女王がクロマルハナバチのワーカーによって翅 や肢、体毛をかじられ、巣から追い出されてしまい、営巣室でなく給餌室 に移動していた。しばらくすると、女王は営巣室に入り、巣に戻って繭を 温め始めるが、ワーカーに見つかるとまた追い出されており、これを1週 間ほど繰り返していた。そして1週間後には、ワーカーによる攻撃は治ま り、通常通りに育児をしていた。 この育児調査を行ったコロニーで生産される個体数をカウントした(表 4,5)。クロマルハナバチが女王のコロニーで、生産されるクロマルハナ バチのワーカーが通常飼育のときよりも多く生産される傾向が見られた。 また、オオマルハナバチが女王のコロニーで生産された雄の数が通常飼育 よりも多く生産されていた。
図16.異種の繭を選択したクロマルハナバチ女王の個体数. 二項検定, ** P < 0.01.
選択個体数
(n=10)
図17.異種の繭を選択したオオマルハナバチ女王の個体数. 二項検定, P < 0.01.
選択個体数
(n=10)
図18.クロマルハナバチ女王がいる繭(ホスト:H)を選択した侵入者側 のオオマルハナバチ女王の個体数と行動. 二項検定, P < 0.05.
選択個体数
(n=10)
*
図19.オオマルハナバチ女王のいる繭(ホスト:H)を選択した侵入者側 のクロマルハナバチ女王の個体数と行動. 二項検定, P < 0.05.
選択個体数
(n=10)
*
図20.クロマルハナバチの巣にオオマルハナバチが侵入した時の様子 (ファーストブルードが羽化した時)
図21.巣と女王を交換した直後の様子
A:クロマルハナバチ女王とオオマルハナバチの巣
A
図22.女王が産卵し、ワーカーは幼虫や繭の世話をしている様子 A:クロマルハナバチ女王とオオマルハナバチのワーカー B:オオマルハナバチ女王とクロマルハナバチのワーカー
A
B
クロマルハナバチ が産卵した卵 オオマルハナバチ が産卵した卵 オオマルハナバチの 幼虫が成長している クロマルハナバチの幼虫 が成長している図23.女王と異種のワーカーが共に育児を行っている様子
A:クロマルハナバチの女王とオオマルハナバチのワーカー
B
図24.オオマルハナバチが女王のコロニーで羽化した オオマルハナバチのワーカー A:オオマルハナバチのワーカーが羽化した直後の様子 B:羽化して 3 日後のワーカーが繭を温め育児をしている様子
B
A
図25.クロマルハナバチが女王のコロニーで、オオマルハナバチの ワーカーによって生産された雄( )
図27.女王がクロマルハナバチのコロニーで、ほとんどの ワーカーがクロマルハナバチになった様子 写真の中央にいるのがオオマルハナバチのワーカーでそれ以外はクロマルハナバチの ワーカー。オオマルハナバチがクロマルハナバチに攻撃される様子は見られない 図28.女王( )がオオマルハナバチのコロニーの後期の様子 オオマルハナバチの雄が何匹か羽化し始めている。写真に写る幼虫と繭はすべて雄で、 クロマルハナバチとオオマルハナバチの雄が混在していると思われる。
図31.オオマルハナバチの女王が卵室を作っている様子
図33.女王がクロマルハナバチのコロニーで生産された オオマルハナバチのワーカー(上、中)と
オオマルハナバチの女王の巣で生産されたワーカー(下)
図35.クロマルハナバチによって育てられたオオマルハナバチのワーカー
図36.クロマルハナバチによって育てられたオオマルハナバチのワーカー
図37.クロマルハナバチのワーカーによって体毛をかじられた オオマルハナバチの女王
表 4.同亜属異種間での育児調査で生産されたクロマルハナバチ(Bi)と オオマルハナバチ(Bh)の個体数 侵入者/ ホスト 女王 ワーカー (侵入者) ワーカー (ホスト) 雄 (侵入者) 雄 (ホスト) 新女王 (侵入者) 新女王 (ホスト) Bi/Bh① 1 275 14 49 2 0 0 Bi/Bh② 1 298 2 20 0 22 0 Bi/Bh③ 1 78 3 69 0 0 0 Bh/Bi① 1 2 42 89 16 0 0 Bh/Bi② 1 0 17 2 72 0 0 Bh/Bi③ 1 4 7 19 24 0 0
表5.クロマルハナバチ(Bi)とオオマルハナバチ(Bh)の通常飼育下で の生産個体数 コロニーNo. 女王 ワーカー 雄 新女王 Bi① 1 193 84 0 Bi② 1 50 116 0 Bi③ 1 0 0 0 Bi④ 1 22 42 3 Bi⑤ 1 0 0 0 Bh① 1 3 7 0 Bh② 1 7 11 0 Bh③ 1 0 0 0 Bh④ 1 2 6 0
(5)人為的混群の行動観察(多雌) 実験を開始すると、クロマルハナバチのワーカーはすぐにオオマルハナ バチの巣へ入って行く様子が確認された(図 39)。オオマルハナバチの女 王とワーカーは、クロマルハナバチが巣に侵入してくると、軽く触角で体 に触れたが争いが起こる様子は見られなかった。また、侵入したクロマル ハナバチは、オオマルハナバチの巣にすぐに近づき、周りを何度か歩き回 ったあと、巣の上に乗り、保温行動を行っていた。クロマルハナバチが巣 の上に乗ってもオオマルハナバチは攻撃を仕掛けたり、警戒する様子は見 られなかった。 実験開始した翌日、オオマルハナバチのワーカーがクロマルハナバチの 巣に移動していた(図 40)。クロマルハナバチは、女王とワーカー共にオ オマルハナバチのワーカーに対して警戒する様子は見られず、通常通りに 育児を行っていた。侵入したオオマルハナバチは、営巣したり、繭を温め たり、幼虫に餌を与えていた。 以後、引き続き飼育していったが、お互いに攻撃し合う様子は見られず 育児を行っていた。実験開始から約1 週間後、オオマルハナバチの女王が クロマルハナバチの巣へ移動している様子が確認された(図 41)。しばら く、観察していたが、女王同士で争う様子はなく、肢や体が触れ合っても 攻撃することはなかった。ときどき、一方の女王が触角で軽く体に触れて 相手を確認している様子が見られた。また、オオマルハナバチの女王はク ロマルハナバチの蜜ポットの蜜を吸蜜し、花粉を食べた。また、クロマル ハナバチの女王が産卵した幼虫に餌を与える様子が確認された。 また、卵や繭の世話も行い、繭を保温している様子も見られた。 逆に、クロマルハナバチの女王がオオマルハナバチの巣に侵入している 様子も確認された。クロマルハナバチの女王は、やはりワーカーからの攻 撃はなかった。引き続き観察していると、クロマルハナバチの女王はオオ マルハナバチの繭の上に卵室を作り始め、そして産卵した。女王が産卵を 終えるとオオマルハナバチのワーカーが卵室に近づき、ワックスで卵を包 む作業をしており、食卵することはなかった。その卵をオオマルハナバチ とクロマルハナバチのワーカーが育児している様子を確認することができ、 その卵が繭まで成長し、羽化する様子が確認された。
図38.人為的混群の実験の様子 左の営巣室にオオマルハナバチ、右の営巣室にクロマルハナバチのコロニーを設置した 様子。それぞれの営巣室の出入口は繋がっており、お互いに行き来できるようになってい る。 図39.オオマルハナバチの巣にクロマルハナバチのワーカーが 侵入した様子 出入口 出入口
図40.クロマルハナバチの巣にオオマルハナバチのワーカーが 侵入した様子 クロマルハナバチの 女王 オオマルハナバチの 女王
考察 女王は、春になると営巣場所を探しながら飛び回る。この時期に女王同 士で営巣場所を巡って争いが起こり、それによって乗っ取りが起こるので はないかと言われてきた(Goulson, 2010)。また、女王の越冬期間には種 によって2 週間~1 ヵ月のばらつきがあることが分かっている(Richards, 1978)。そして遅れて起きてきた女王は営巣場所を得るために乗っ取りが 起こると言われてきた(Alford, 1975)。 本研究では、巣の一部である繭が入っている箱と何も入っていない箱の 間でクロマルハナバチの女王とオオマルハナバチの女王にそれぞれ選択さ せた場合、どちらも異種の繭であるのにも関わらず繭が入っている箱を選 び保温行動を(引継ぎ行動)を示した。巣内に異種の女王がいた場合にお いても、侵入側の女王は巣に入り込み営巣場所を巡って争う行動や共存す る行動を示した(乗っ取り行動)。これにより、クロマルハナバチ女王とオ オマルハナバチ女王はあえて巣があるところに入って行く可能性が示され た。今回の実験で異種の巣や女王がいるのにもかかわらずあえて巣がある 方を選ぶことから、クロマルハナバチ女王とオオマルハナバチ女王は意図 的に巣があるところに入ることになる。あえて巣がある方に引き付けられ るのは、繭から揮発する巣の匂いに引き寄せられたからであると考えられ る(松山,2013)。あえて巣がある方を選ぶということはそこには入るこ とに利益があると考えられる。営巣開始する時間を乗っ取りや引き継ぎを することによって短縮することができると考えられる。女王にとっては営 巣開始することは大きな負担であり、その初期段階の負担を乗っ取りや引 き継ぎをすることによって軽減することができるのである。 今回の実験で女王がいる巣に対して入って行ったとき、争い刺し殺す例 や逃げ出す例が見られたが、「共存」するという行動も観察された。この行 動は女王同士が両者共に生存することによって死亡するリスクを軽減し、 子孫を残していくために重要な行動なのではないかと考えられる。実験の 様子ではお互いに争い合いそして共存する行動と、お互いに警戒はしなが らも争わずに共存する行動が見られた。今回の実験でどのような条件にな ると共存するという行動になるかはわからなかったが、異種間の乗っ取り や引き継ぎを考える上で重要な行動であると考えられる。 マルハナバチの女王が乗っ取りや引き継ぎを行うためには最大の利益と して生殖虫を生産する(子孫を残す)ことが重要である。今回の実験では、 異種間によるクロマルハナバチとオオマルハナバチの女王を交換し異種間
での育児調査実験(単雌)と、2 種のコロニーを 1 つの飼育箱で飼育する 混群実験(多雌)の2 種類の混群の実験を行った。 異種間の育児調査実験では、クロマルハナバチもオオマルハナバチも共 に異種の卵や幼虫の育児をし、繭になり羽化した。また異種のワーカーが 羽化しても女王や異種のワーカーからの攻撃がないという結果であった。 これらのことから、乗っ取りまたは引き継ぎが起こった際にその後引き続 き育児を行うことができることが証明された。乗っ取りや引き継ぎが行わ れたとしても育児をすることができなければ、最終的な生殖虫の生産がで きないため、育児を異種間で行うことができることはとても重要なことで ある。実際に野外の巣で2 種のマルハナバチが混在した例があることから、 室内実験で混在した状態を再現することができたと言える。 新女王の生産されたコロニーは1 コロニーだけであったが、今回の実験 において新女王の生産が制限されているように思えた。それは結果で述べ たように、異種の新女王の幼虫を捨てる様子が見られたためである。これ は異種によって捨てられたのか、同種に捨てられたのかは不明であるが、 異種間の引き継ぎにおいて新女王の生産は何らかの抑制があると思われる。 一方、引き継いだ女王もホストも雄生産できることが確認された。異種間 では雄の生産が容易になるのかもしれない。また、ホストワーカーの雄が 生産されたことから、相互扶助の関係がある可能性がある。 また、クロマルハナバチが女王のコロニーではオオマルハナバチのワー カーが、オオマルハナバチ女王が育てたワーカーよりも大きく育った。ク ロマルハナバチもオオマルハナバチも直接給餌で幼虫を育てる。ワーカー の大きさが異なる要因は今回の実験では分からないが、ワーカーの生産に も引継ぎや乗っ取りが起こることによって影響を受けているように思える。 Shpigler et al.(2013)は、セイヨウオオマルハナバチは女王に育てられ たかワーカーに育てられたかによって成体のサイズが異なり、またコロニ ーの環境によってサイズは異なると述べている。よって引き継ぎをさせた ときのコロニー環境によってサイズが変わったのかもしれない。 最後に、混群の実験では、改めて異種の女王が共存するということが証 明された。結果で述べたように、クロマルハナバチとオオマルハナバチが 同じコロニーを保温行動で温めている様子が確認された。このときもワー
と考えられる。そしてワーカー、雄、新女王の生産の確認できたことによ って、適応的であることが示された。
第2 章 同種間の巣の乗っ取りと引き継ぎについて 緒言 マルハナバチの女王は春頃に単独で営巣し、ワーカーの羽化後にはワー カーが幼虫の育児をし、営巣し、生殖虫を生産する。しかし、春頃に女王 同士での営巣場所を巡る争いによって巣の乗っ取りや引き継ぎが起こると 言われており(Alford, 1975; Goulson, 2010)、本来の営巣とは異なる可能 性がある。 第1 章では、異種間での巣の引き継ぎと乗っ取りが起こる可能性があり、 人為的に混群を作成した際には共に営巣し、生殖虫を生産することができ、 またホストも雄を残すことができることが確認された。従って異種間だけ でなく同種間においても巣の乗っ取りや引き継ぎが起こる可能性が高いと 考えられる。実際にカナダの野外の調査で、同種のマルハナバチの女王が 他の巣へ侵入しているところが確認されている(Richards, 1978)。しかし、 同種間の乗っ取りが起こったとしても女王を見分けることが難しく、起こ っていたとしても気づくのは困難である。 そこで第2 章では、室内実験で同種間での乗っ取りや引き継ぎが起こる のかを確認した。野外では同種の乗っ取りが起こっているかを確認するこ とが困難であるが、室内実験ではマーキングして同種間でも混群になるか を観察することが可能である。さらに引き継がせたことによってコロニー の成長にどのような違いが見られるか調査を行った。 材料および方法 (1)飼育方法と累代方法 1)交尾から低温処理 血縁と非血縁間の人為的引き継ぎの調査ではクロマルハナバチを用いた。 実験で扱ったクロマルハナバチの女王は累代したものにした。 コロニーから生産された新女王を雄と交尾させ、交尾した新女王を十分
低温処理中の管理を月に1 度行うようにした。インキュベータからプラ スチックケースを出し、バーミキュライトの湿度の具合を見て表面が乾燥 していたら、スプレーで水分を追加し、インキュベータに戻した。これら の作業を女王が室温に戻らないように手早く行った。 2)低温処理から覚醒処理 低温処理を完了させた女王に、温度の変化によるショック死を減らすた めにインキュベータの温度を5℃ずつ上昇させて(10℃、15℃、20℃)覚 醒処理を行った。最初に10℃設定したインキュベータに低温処理が完了し た女王が入っているプラスチックケースを入れ、2 時間温度に慣れさせた。 次に15℃に設定したインキュベータにケースを移動させで同じように2時 間慣れさせた。そして同じ方法で20℃に慣れさせた。20℃に慣れた女王は 採集ビンから出し、ろ紙を敷いたプラスチックカップに女王を移した。プ ラスチックカップにはペットボトルのキャップに砂糖水を入れたものを一 緒に入れた。この状態で7 日間女王を管理した。女王に対し CO2処理を行 わなかった。20℃に 1 週間慣れさせた後、室温(25~28℃)に慣れさせた。 (2)同種間での繭と女王に対する誘引性の調査 1)繭に対する誘引性の調査 実験で扱う観察巣箱と方法は第1 章(4)-1)と同様に行った。実験回 数を10 回とした。 また産卵経験の有無で行動が変わるかクロマルハナバチで調査を行った。 観察巣箱に小箱4 箱を 4 隅に置き、そのうち 2 か所に繭を設置した。産卵 経験のない女王の行動が活発で小箱2 箱だと判断が困難であったことと、 選択数を増やし配置を変えることによってより繭に対する誘引性があるの かを判断しやすくするため4 箱で行った。選択の判断は、全身が小箱に入 った時に1 回と数えた。実験を 18 回行った。 2)繭と女王に対する誘引性の調査 実験は第1 章(4)-1)と同じ観察巣箱と小箱を用いて行った(図 13)。 女王の巣の乗っ取りを再現するために、一方の小箱に同種の女王と同じ種 の繭1 個を中板にロウで固定し、小箱の中に設置した。無処理区には中板 のみを設置した(図 14B)。実験中女王の死亡を防ぐためにバードフィー ダに砂糖水を入れたものを観察巣箱に設置した。 実験方法は第1 章(4)-1)と同じように行い、女王を観察巣箱に導入 した。処理区と無処理区の小箱を毎回実験ごとに交換し、場所を学習させ
ないようにした。実験を6 回行った。女王には産卵を経験したクロマルハ ナバチを用いた。 (3)血縁区と非血縁区のコロニー成長の調査 覚醒処理を完了した女王を営巣開始用の飼育小箱に入れた。また、営巣 開始を促すために、繭を2~3 個を中板につけたものを小箱に入れた。餌に は練花粉と砂糖水を加えた。ファーストブルードの幼虫が繭になり、繭の 数が10 個前後なった頃の初期巣を実験に扱った。 頃合いのコロニー(図 55)になったら女王を入れ替える作業を行った。 元々の初期巣の女王(オーナー)を巣から取り除いた。そして、部屋を赤 ライト下にし、産卵経験のない覚醒処理を完了した女王を代わりにゆっく りと丁寧に入れた。入れる際は、女王が暴れないように注意して入れた。 血縁区では女王同士が同じコロニーから生産された個体の女王と入れ換 え、非血縁区では異なるコロニーから生産された個体の女王と入れ換えた。 入れ換えた後、通常の飼育と同様に練花粉と砂糖水を絶やさないように与 えた。 血縁区と非血縁区の記録を週 1~2 度行い、コロニーの成長について通 常飼育と差異が見られるか調査した。調査内容は、1 週間当たりの卵室の 数、1 週間当たりの生産個体数、生産期間、コロニーの寿命、総生産個体 数を調査した。調査する上で個体を識別するためにペイントマーカーを個 体の背中に色を塗った。また、コロニーの成長の変化を調査するためにコ ロニーの写真を撮った。
結果 (1)同種間での繭と女王に対する誘引性の調査と産卵経験の有無の影響 クロマルハナバチ女王に巣の一部である繭に誘引性があるか調査を行っ たところ、繭がある方へ引き付けられる傾向が見られた(図42: 二項検定, P < 0.01)。クロマルハナバチ女王は実験開始後、まっすぐに繭がある小箱 を選ぶ個体と観察巣箱内を歩き回り、繭の箱を選ぶ個体がいた。そして繭 を見つけた際には繭の上に乗っかり保温行動を示した。また、繭の小箱に 入るとき、頭を入口に入れて触角を動かしている様子が見られた。しばら く触角を動かした後に小箱の中まで入る様子が確認された。個体によって 繭のワックスを使い、卵室を作る様子も確認された。 また、繭と女王に対しての誘引性を調査したところ、①乗っ取り成功、 ②乗っ取り失敗、③共存の3 つの行動が見られ、異種間での調査と同じ行 動が確認された(図 43)。乗っ取り成功した個体では、ホスト女王を追い 出すまたは刺し殺す行動が見られた(図 44)。刺し殺すとき、お互いの脚 などに噛みつき団子状態になったところに針を出し、刺していた。乗っ取 りを失敗した個体は、ホストによって小箱から追い出されて逃げる個体と、 ホストに刺され死亡する個体がいた。共存する個体では、侵入者がホスト の巣に入った際にお互いに脚を広げて警戒行動を示したり、脚や翅などに 噛みつき団子状態になったが、ゆっくりと噛みついていた顎を離して刺し 殺すことはせずそのまま一緒にいる状態になることが確認された。 クロマルハナバチを用いて産卵経験の有無によって行動が異なるか調査 を行った。産卵経験のないクロマルハナバチの女王は、繭がある方を多く 選んだ(図45: 二項検定, P < 0.05)。また無処理区を選ぶ個体もいた。産 卵経験のないクロマルハナバチ女王は、経験ある個体と比べると比較的に 速く選択する様子が観察された。女王が小箱を選択して入る際、小箱の入 り口を見つけると中を覗くようにして頭だけを入れ、しばらく触角を動か し、また動きだし少しずつ体を中に入れていく行動が見られた。この行動 は繭の入っている箱でも無処理区でも同じであった。 (2)卵室の増加傾向 クロマルハナバチの女王を人為的に入れ替えて巣を引継がせ、コロニー の成長にどのように影響を受けるか調査した。 ホスト女王を取り除き、産卵経験のない女王に巣を引継がせたとき、ど のコロニーでも女王は初期巣を抱き抱えるようにして上に乗り、繭を温め ている様子が確認された。女王によっての食卵や繭を食い破る様子は見ら
れなかった。 引継がせた後に女王の産み付けた卵室の数を数えた。卵室の中には卵が 3~10 個の卵が入っており、卵室の数が増えるにつれて卵の数は 3~10 倍 になった。最初に産みつけた日を0 日目としたとき、卵室の数は日を追う ごとに増加していった(図 46)。7 日目あたりから差は見られ、女王単独 区と血縁区・非血縁区(引継ぎ区)の間で大きく差が見られた。女王単独 区では35 日目に達しても 6.5±1.3 個(平均±SE)であったのに対し、血 縁区では 31.3±1.8 個、非血縁区では 32.8±3.2 個産み付けており、引き 継がせた方が卵室を産み付ける速度が速いことが分かり、女王単独区に対 して血縁区と非血縁区では卵室が有意に多かった(Steel - Dwass test, P < 0.05)。女王が産み付けた卵室がホストワーカーによる食卵や幼虫を捨 てる行動は生殖虫生産期になるまで起こらなかった。 (3)ワーカー、雄、新女王の増加傾向 生産されるワーカー、新女王、雄の増加について調査を行った。最初に 羽化した日を0 日目とした。 ワーカー、新女王、雄の生産個体数は飼育日数に対して増加した(図47 -49)。ワーカーの増加でも女王単独区と血縁区・非血縁区の間で差が見 られた(Steel - Dwass test, P < 0.05)。女王単独区ではワーカーの生産 が7 日目で差が見られ、35 日目で平均 14.7±2.3 匹であったのに対し、血 縁区では129.0±12.1 匹、非血縁区では 126.2±6.1 匹であった。ワーカー の個体数でも引継がせた方が早く生産された。引き継がせた女王によって 生産されたワーカーはホストワーカーに攻撃されず、どちらのワーカーも 共に卵や幼虫の世話をし、食卵や幼虫を捨てる様子は見られなかった。 新女王の生産個体数は、ワーカーと異なる増加の傾向を示した。女王が 羽化した日を 0 日としたとき、7 日目で女王単独区と血縁区は急な増加が 見られるのに対し、非血縁区では個体数が少ない傾向であることが分かっ た。また、女王単独区では 35 日目まで増加し続けているのに対し、女王 単独区では14 日目で増加はほぼ止まった。35 日目の女王の数は、女王単 独区で平均 30.0±14.7 匹、血縁区 49.2±9.0 匹、非血縁区 21.2±14.9 匹 で、最も多かったのは血縁区であったが有意差は見られなかった。
(4)ワーカー、雄、新女王が羽化するまでの日数、食卵開始するまでの日 数と産卵期間 産卵した日を0 日として、ワーカー、雄、新女王が羽化するまでの日数 を比較した(図 50)。3 区間においてワーカーが羽化するまでの時間で最 も短かったのは血縁区で24.7±2.6 日(平均±SD)であった。次に女王単 独区の 31.2±4.9 日で、羽化するまでの日数が長かったのが非血縁区の 32.5±5.2 日であった。女王単独区と血縁区、血縁区と非血縁区との間で 有意差が見られ(Streel-Dwass test, P < 0.05)、女王単独区と非血縁区 との間では有意差が見られなかった。 雄が羽化するまでの日数で一番短かったのは非血縁区で 50.2±15.4 日 であった。次に血縁区の69.8±11.3 日で、最も長かったのは女王単独区の 78.8±13.9 日であった。女王単独区と非血縁区との間で有意差が見られ (Streel-Dwass test, P < 0.05)、血縁区と非血縁区との間では有意差は 見られなかった。 新女王が羽化するまでの日数を比較すると、最も短かったのは非血縁区 で 41.0±45.4 日であった。次に短かったのが血縁区の 61.2±15.5 日で、 一番長かったのが女王単独区で100.0±6.8 日であった。女王単独区と血縁 区、女王単独区と非血縁区との間で有意差は見られ(Streel-Dwass test, P < 0.05)、血縁区と非血縁区の間では有意差は見られなかった。 ワーカーポリシングによる食卵行動が開始される日までの日数を調査し たところ、女王単独区、血縁区、非血縁区の間で有意差が見られることが 分かった(図51; Streel-Dwass test, P < 0.05)。女王単独区は食卵が始 まるまでに最も時間がかかり 79.8±7.3 日であった。それに対して引き継 ぎをさせた血縁区では 43.3±7.1 日、非血縁区では 59.7±9.9 日で女王単 独区よりも食卵が始まるのが速い傾向が見られた。 また、女王が産卵するまでの日数を各実験区で比較したところ、産卵す るまでの日数には女王単独区(10.0±1.7)、血縁区(12.2±5.8)、非血縁 区(12.0±5.1)の間では有意差は見られなかったが、繭+女王区(2.8±1.0) では有意差が見られた(図52; Streel-Dwass test, P < 0.05)。 (5)ワーカー、雄、新女王の生産された総個体数の比較 女王単独区、血縁区、非血縁区で生産されたワーカー、雄、新女王の総 個体数を調査した(図53、表 6-8)。ワーカーの総個体数が最も多かった のは女王単独区であった(160.7±26.8 匹)。次に多かったのが非血縁区 (155.2±33.6 匹)で、最も少なかったので血縁区(141.0±36.8 匹)であ
った。雄の生産された総個体数で最も多かったのは血縁区(440.0±117.3 匹)であった。続いて非血縁区(295.5±149.0 匹)、女王単独区(240.5± 124.6 匹)となった。最後に新女王の総個体数は、最も多かったのが血縁 区(46.7±18.5 匹)で、続いて女王単独区(30.0±36.2 匹)、非血縁区(23.2 ±49.3 匹)となった。 (6)コロニーの寿命の比較 女王単独区、血縁区、非血縁区の間で、コロニーの寿命に影響が出るか を調査した(図 54)。産卵した日を 0 日とした時、血縁区(174.7±10.7) が最も長くコロニーの寿命が長いことが分かった。続いて女王単独区 (151.7±17.3)が長く、最も短い期間だったのが非血縁区(131.7±13.0) であった。女王単独区と血縁区、血縁区と非血縁区の間で有意差が見られ (Streel-Dwass test, P < 0.05)、女王単独区と非血縁区の間では有意差 は見られなかった。 (7)女王単独区、血縁区、非血縁区のコロニーの成長の変化 最後に血縁区(図55-63)、非血縁区(図 64-76)、女王単独区(図 77 -89)でのコロニーの成長の違いが見られるか調査を行った。血縁区と非 血縁区ではコロニーに産卵するまでに約1 週間かかった。産み付けられた 卵室は女王とワーカーによって育児されており、ホストワーカーによる食 卵をする様子は見られなかった。血縁区、非血縁区では、共に卵は孵化し て幼虫になり、繭になるところを観察できた。また、女王が次々と卵室を 産み付けていた。引き継いだ女王によって生産されたワーカーが羽化する ところも確認された。羽化した際に、ホストワーカーと争う様子は見られ なかった。さらに飼育を継続し続け、血縁区と非血縁区から雄と新女王が 生産された。血縁区では全コロニーで新女王が生産されたが、非血縁区で は新女王が生産されないコロニーもあった。生産された新女王は交尾をす ることが確認され、正常な新女王が生産されたことが分かった。生殖虫が 生産される時期には食卵が起こっていた。 女王単独区と血縁区・非血縁区での発育の比較をすると、大きな差が見 られた。女王単独区での産卵してからの約4 週間後と血縁区・非血縁区で
によって生産されたワーカーの個体数がホストワーカーよりも多くなった が、ホストワーカーが攻撃される様子は見られなかった。最終的には生殖 虫である雄と新女王の生産が確認された。女王単独区と血縁区ではすべて のコロニーで新女王の生産が見られたが、非血縁区では新女王の生産がさ れていないコロニーも確認された。
図42.同種の繭を選択したクロマルハナバチ女王の個体数. 二項検定, P < 0.01.
選択個体数
(n=10)
図43.クロマルハナバチ女王のいる繭(ホスト:H)を選択した侵入者側 のクロマルハナバチ女王の個体数と行動. 二項検定, P < 0.01.
選択個体数
(n=6)
**
図44.同種間(クロマルハナバチ)での女王同士で団子状態に なって争っている様子
オーナーの女王が巣に侵入してきた女王を噛みついて刺し殺している。
オーナーの女王
図45.産卵経験のないクロマルハナチ女王による初期巣の選択. 二項検定, P < 0.05.
選択個体数
(n=
18
)
*
図46.クロマルハナバチにおける女王単独区(n=6)、血縁区(n=6)、 非血縁区(n=6)での卵室の増加の平均値.
図47.クロマルハナバチにおける女王単独区(n=6)、血縁区(n=6)、 非血縁区(n=6)でのワーカーの増加の平均値.
図48.クロマルハナバチにおける女王単独区(n=6)、血縁区(n=6)、 非血縁区(n=6)での新女王の増加の平均値.
図49.クロマルハナバチにおける女王単独区(n=6)、血縁区(n=6)、 非血縁区(n=6)での雄の増加の平均値.
図50.クロマルハナバチにおける女王単独区(n=6)、血縁区(n=6)、 非血縁区(n=6)でのワーカー、雄、新女王の羽化するまでの日数の比較.
図51.クロマルハナバチにおける女王単独区(n=6)、血縁区(n=6)、 非血縁区(n=6)での食卵が開始するまでの日数の比較.