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Academic year: 2021

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氏 名 授 与 し た 学 位 専攻分野の名称 学 位 授 与 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

学位論文の題目

論 文 審 査 委 員

田畑 光康 博 士 歯 学

博甲第5708号 平成30年3月23日

医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻

(学位規則第4条第1項該当)

Differential induction of c-Fos and phosphorylated ERK by a noxious stimulus after peripheral nerve injury

(末梢神経損傷後の侵害熱刺激による c-Fosおよびリン酸化型ERK 誘発の変化につ いて)

宮脇 卓也 教授 沢 禎彦 教授 小橋 基 准教授

学位論文内容の要旨

【緒言】

手術や外傷によって末梢神経が損傷を受けると、その神経の支配領域やその周囲で痛覚過敏症やアロディニ アといった痛覚異常が起こることがある。神経損傷によって脊髄後角2次ニューロンでは興奮性の変化が起こ り、このことが神経損傷後の痛覚異常に関与していると考えられている。

末梢部位への侵害刺激により、脊髄後角2次ニューロンでc-Fosタンパクおよびリン酸化型ERK(p-ERK)の発 現がみられることが知られている。これらは発現のピークとなる時間は異なるが、ともに脊髄後角2次ニュー ロンにおける侵害情報伝達の指標として用いられてきている。しかしながら、末梢神経損傷後にこれらの誘 発変化を比較した報告はなされていない。そこで本研究では末梢神経損傷後の脊髄後角におけるc-Fosおよび p-ERKの誘発変化を明らかにすることを目的とした。

【実験方法】

神経損傷手術:深麻酔下でSDラット(6週齢雄)の右側大腿部より脛骨神経を露出し、脛骨神経の腓腹筋への 進入部直前で7-0絹糸を用いて結紮・切断した(脛骨神経損傷群)。神経を露出し、結紮・切断を行いわない ラットを対照群とした(sham手術群)。

後肢への侵害熱刺激によるc-Fosおよびp-ERKの誘発:神経損傷後3、7、14日、およびsham手術群(各群 n=5)

に対し、再度麻酔を行い、右側後肢を55℃の熱水に10秒間浸した(侵害熱刺激)。熱刺激の5分後(p-ERK分 析用)および2時間後(c-Fos分析用)に4%パラホルムアルデヒド溶液を用いて潅流固定し、第4から第5腰髄 を含む脊髄を摘出した。第4から第5腰髄の厚さ50㎛の連続凍結切片から1枚おきに切片を採取し、ウサギ由来 のc-Fosおよびp-ERKタンパクに対する特異的抗体を用いたPAP法による免疫組織化学的染色を行った。

蛍光2重免疫化学染色:神経損傷手術およびsham手術後14日のラット(各群 n=5)に対して潅流固定の2時間 前と5分前に2回の熱刺激を与え、潅流固定を行い、第4から第5腰髄を含む脊髄を摘出した。各髄節を吻尾側 的に2分割し、合計4ブロックにおける10㎛の凍結切片を作製した。ウサギ由来のc-Fosおよびマウス由来のp -ERKタンパクに対する特異的抗体を用いた蛍光2重免疫染色を行った。

MEK1/2 インヒビターの投与:脛骨神経損傷および sham 手術と同時に浸透圧ポンプに接続したカテーテ ルの先端を第 4、第 5 腰髄付近の脊髄背側クモ膜下腔に留置し、MEK 1/2 インヒビター(PD98059)の 持続投与を行った(0、1.2、2.4 ㎍/day)。手術後 14 日で、上述のように侵害熱刺激による c-Fos お よび p-ERK の誘発を検討した。

統計解析:c-Fosとp-ERKの陽性反応の定量的分析は第4/5腰髄移行部から吻側および尾側方向にそれぞれ1.0 mmに含まれる切片から10枚を無作為に抽出し、脊髄後角Ⅰ/Ⅱ層における陽性細胞数を脛骨神経と総腓骨神経

(2)

の中枢投射部位に分けてカウントすることによって行った。それぞれの平均値を個体の代表値とし、さらに 実験グループの平均値および標準誤差を求め、統計的解析を行った。

【結果】

非侵害熱刺激(20℃)ではc-Fos、p-ERKともにほとんど誘発が認められなかったが、侵害熱刺激により多く のc-Fosおよびp-ERK陽性細胞が坐骨神経の投射領域と一致して認められた。Sham手術群において、両者の陽 性細胞の数および分布は類似していた。神経損傷後3日および7日で脊髄後角の内側1/3(脛骨神経領域)でc- Fosおよびp-ERK陽性細胞数の有意な減少が認められた。神経損傷後14日において脛骨神経領域におけるc-Fo s陽性細胞数はsham手術群と同程度にまで増加し、3日 お よ び 7日 と 比 較 し て 有 意 な 増 加 が 認 め ら れ た 。 一 方 p-ERKに 関 し て 、 神経損傷後14日における陽性細胞数の増 加 は 認 め ら れ な か っ た 。 総 腓 骨 神 経 領 域 で は c-Fosお よ び p-ERK陽 性 細 胞 と も に 神 経 損 傷 後 の 変 化 は 認 め ら れ な か っ た 。 蛍 光 2重 免 疫 染 色 を 用 い た 実 験 で は sham手 術 群 で 多 く の 2重 陽 性 細 胞 が 認 め ら れ た が 、脛 骨 神 経 損 傷 群 で は 、 総 腓 骨 神 経 領 域 に 多 く の 2重 陽 性 細 胞 が 認 め ら れ た も の の 、 脛 骨 神 経 領 域 で は 認 め ら れ な か っ た 。PD98059投 与 に よ り 、各 領 域 に お け る p-ERK、お よ び 総 腓 骨 神 経 領 域 に お け る c-Fos誘 発 に 対 す る 抑 制 効 果 は 認 め ら れ た が 、脛 骨 神 経 領 域 で の c-Fos誘 発 に 有 意 な 変 化 は 認 め ら れ な か っ た 。

【 考 察 】

神 経 損 傷 後 3、 7日 で の 脛 骨 神 経 領 域 に お け る c-Fosお よ び p-ERK陽 性 細 胞 数 の 減 少 は 、侵 害 受 容 1次 ニ ュ ー ロ ン か ら の 入 力 が 断 た れ た こ と に よ る も の と 考 え ら れ る 。 神 経 損 傷 後 14日 で は 損 傷 後 3日 お よ び 7日 と 比 較 し て c-Fos陽 性 細 胞 数 の 有 意 な 増 加 が 認 め ら れ た が 、 こ れ に は 周 囲 神 経 か ら の 収 斂 投 射 が 関 与 し て い る こ と が 考 え ら れ た 。一 方 p-ERKに お い て は c-Fosで 認 め ら れ た よ う な 神 経 損 傷 後 14日 お け る 陽 性 細 胞 数 の 増 加 は 認 め ら れ な か っ た 。以 上 の こ と か ら 通 常 の 侵 害 受 容 伝 達 に お け る c-Fosタ ン パ ク の 発 現 に は ERKの リ ン 酸 化 が 関 与 し て い る が 、神 経 損 傷 後 の c- Fosの 過 剰 誘 発 に は 、 別 の 経 路 が 関 与 し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ た 。

これまでの研究で c-Fos および p-ERK の誘発はともに中枢 2 次ニューロンにおける侵害受容伝達の指 標として用いられてきたが、神経損傷後の痛覚異常に関する侵害受容伝達では両者の誘発に違いがあ ることが示唆された。

(3)

論文審査結果の要旨

手術や外傷によって末梢神経が損傷を受けると、その神経の支配領域やその周囲で痛覚過敏症やアロディ ニアなどの痛覚異常が起こることがある。神経損傷によって脊髄後角2次ニューロンでは興奮性の変化が起 こり、このことが神経損傷後の痛覚異常に関与していると考えられている。

末梢部位への侵害刺激により、脊髄後角2次ニューロンでc-Fosタンパクおよびリン酸化型ERK(p-ERK) が発現することが知られている。これらの発現がピークとなる時間は異なるが、ともに脊髄後角2次ニュー ロンにおける侵害情報伝達の指標として用いられてきている。しかしながら、末梢神経損傷後にこれらの発 現の変化を比較した報告はみあたらない。そこで本研究は、末梢神経損傷後、脊髄後角におけるc-Fosとp- ERKの発現の変化を比較検討することを目的としている。研究方法としては、脛骨神経損傷後、後肢足底 部への侵害熱刺激を加え、免疫染色を行い脊髄後角におけるc-Fosとp-ERKの発現を観察し、潅流固定の2 時間前と5分前に2回の侵害熱刺激を加え蛍光2重免疫染色を行い、脊髄後角におけるc-Fosとp-ERKの発 現を観察している。さらに脛骨神経損傷後、侵害熱刺激によるc-Fosの発現に対するMEK1/2インヒビター

(PD98059)投与の効果についても検討している。

研究結果は以下のとおりであった。

・sham手術群では侵害熱刺激により多くのc-Fos、p-ERK陽性細胞が認められた。

・神経損傷後3日および7日で脊髄後角の内側1/3(脛骨神経領域)でc-Fosおよびp-ERK陽性細胞数の有 意な減少が認められた。神経損傷後14日において脛骨神経領域におけるc-Fos陽性細胞数は3日および7 日と比較して有意な増加が認められた。

・p-ERKでは神経損傷後14日における陽性細胞数の増加は認められなかった。

・蛍光2重免疫染色を用いた実験では、脛骨神経損傷群では脛骨神経領域で多くのc-Fos陽性/p-ERK陰性細 胞が認められた。

・PD98059投与により、各領域におけるp-ERK、および総腓骨神経領域におけるc-Fosの発現に対する抑制

効果は認められたが、脛骨神経領域でのc-Fosの発現に有意な変化は認められなかった。

以上の結果から、通常の侵害受容伝達においてはERKのリン酸化はc-Fosの発現に関与しているが、神 経損傷後の中枢2次ニューロンにおけるc-Fosの過剰応答にはERKのリン酸化が関与していない可能性が 示唆された。

本論文は、c-Fosとp-ERKの侵害情報伝達の指標としての位置づけ、および神経障害性疼痛発症の機序に 関する重要な知見を示している。よって、審査委員会は本論文に博士(歯学)の学位論文としての価値を認 める。

参照

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