Title
神経細胞アポトーシス死阻害剤の開発と脳内動態( はしがき
)
Author(s)
鈴木, 正昭
Report No.
平成11年度-平成13年度年度科学研究費補助金 (基盤研究
(A)(2) 課題番号11358011) 研究成果報告書
Issue Date
2001
Type
研究報告書
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/514
研究成果の要約
生体情報機構の失調に起因する脳機能疾患、癌、循環器系疾患などの病態の克服に向けた基礎理論の構築は、生命科学の最重要課題の一つである。本研究では、脳
科学に焦点を絞り、本研究者らが発見したプロスタグランジン(PG)類の新たな脳 機能、特に神経細胞のアポトーシス阻害作用に着目し、全く新しい制御機構による 脳機能改善薬の開発に向けた創薬基礎研究を展開することを目的とした。このため、 PGおよびその受容体の機能探索・制御のための分子ツールの創製を機軸に、生体内 標的分子(受容体)の同定、脳内動態解析、作用発現分子機構の解明、さらには、 これらの知見に基づく新たな受容体機能制御物質の創製をめざした。 本研究者らが創製した脳内中枢型プロスタサイクリン受容体(IP2)特異的探索分 子15尺てICは、高酸素状態で引き起こされる海馬神経細胞のアポトーシスを、低濃度で完全に阻害する抗アポトーシス作用を有する。本研究では、まず、15mIC関
連化合物のinvⅣ0への応用を視野に入れ、15尺11Cの構造を基にした種々の誘導 体を設計・合成し、神経細胞アポトーシスの阻害作用に関する構造活性相関研究を 行った。その結果、化学変換や代謝などに対して安定である構造修飾体として設計 した、W側鎖がより単純化された構造を持う誘導体15-deoxyJTICが、高酸素状態 で引き起こされる海馬神経細胞のアポトーシスを、より低濃度(15尺11Cの1/10) で完全に阻害することを見いだした。対照的に、末梢型プロスタサイクリン受容体 IPlのアゴニストであるイロブロストが全く神経保護作用を示さなかったことから、 中枢型のIP2は高酸素下での脳破壊の制御_に働き、末梢型のIPlにはその作用がない ことが明らかとなった。TIC類の抗アポトーシス作用は、内在性の神経保護因子で あるbFGFの作用を超える強力なものであり、この作用はプロスタサイクリンを除 く他の天然PG類および安定プロスタサイクリン類縁体には見られなかった。続_い て、TIC誘導体のbvⅣ0生物活性評価を行うため、ラット脳虚血モデルを用いた神 経細胞アポトーシスの抑制作用を検討した。その結果、15足11Cを砂ネズミの脳室 内に直接投与することにより、海馬CAlニューロンの虚血性神経細胞破壊が阻止さ れ、invⅣ○においても脳神経に対する顕著な保護作用を示すことを確認した。さら破壊が35%に押さえられることがわかった。15-deoxy-TICメチルエステルは 15mICメチルエステルに比べて脂溶性が高いため、血液一脳関門通過による脳内 到達性が高いものと期待される。実際、ラットやマウスを用いた実験では、 15-deoxyJTICメチルエステルは15尺11Cメチルエステルより脳への移行性が良い ことがわかった。一方、脳内PGI2受容体探索分子15舟TICの陽電子放射断層画像 撮影法(PET法)への適用のため、極限希釈および短時間というPETトレーサー合 成に必須である実験条件下でのパラジウム触媒を用いた高速メチル化反応を開発し、 数百メガベクレル、そして最近、ギガベクレル(GBq)レベルの放射能を持う 15長一[11c]ⅥCメチルエステルの合成プロトコールを確立した。既に、設計・合成し た独自のPETトレーサーを用いて生きた赤毛ザルの脳PET画像の撮影にも成功し ている。得られた画像に描き出された11cラジオリガンドの集積模様から、IP。受容 体が視床および線条体などの中枢神経系に特異的に分布していることが明らかになっ た。本研究では、予備的ではあるが、15-deoxy-[11c]TICメチルエステルの合成に も成功し、ラットおよび赤毛ザルでのPET画像解析を行っている。その結果、ラッ トではPETトレーサーの脳内集積が観測されたものの、赤毛ザルでは集積が弱く、 15長一TICと15-deoxyTICの間で霊長類での脳内移行性に差がある可能性が示唆さ れた。脂溶性分子の脳内移行には血液一脳関門透過性が重要となるが、血液一脳関 門における脂溶性分子の排除には、ある種の薬物輸送タンパク質の関与が考えられ ている。そこで、上述の研究と併行し、薬物輸送タンパク質の制御によるリガンド の血液一脳関門透過性向上を狙う戦略の一環として、まず、代表的薬物輸送タンパ ク質の一つである、MRP/GS-Ⅸポンプの機能探索分子の設計・合成を検討した。得
られた設計分子GIト0019は高いポンプ阻害活性を示し、耐性癌の抗癌剤感受性回
復にも適用できることがわかった。また、抗腫瘍性を示すPG研究の展開の中で、 ある種のシクロペンテノン型PGが酸化ストレスによる神経細胞死を抑制すること を発見し、高活性で毒性の低い人工PG類縁体NEPPllを創製することに成功した。 予備的ではあるが、このNEPPllはinvivoマウス脳梗塞モデルにおいても強い脳 保護作用を示しており、¶C類とともに脳機能改善薬としての開発が期待される。研究目的
21世紀、高齢化社会を迎える我が国において、脳機能疾患、癌、循環器系疾患 など生体情報機構の失調に起因する病態の克服は焦眉の急であり、それら疾患の克 服に向けた基礎理論の構築は生命科学の最重要課題の一つである。ここでは生命現 象の分子レベルでの理解が重要であり、かつ分子レベルから個体レベルに至る生体 機能の制御の新たな方法論の開拓が必要である。本研究は、特に脳科学に焦点を絞 り、化学的および生物学的に安定な機能探索のための分子ツールを独自に創製し、 特異な脳保護作用を示すプロスタサイクリン関連化合物の、脳内動態および標的受 容体の機能の解明とその制御を目指す。本研究は、生体情報機能制御の概念に基づ く新たな化学療法剤の開発に向けた創薬基礎研究の一環として捉えることができる0 生体の恒常性の維持や防御プロセスに深く関与するプロスタグランジン(.PG)類 の中で、プロスタサイクリン(PGI2)は強力な血小板凝集抑制および血管拡張作用 を示し、PG頂点化合物として認識されている。我々はこれまでに、脳内でのPGIコの役割の解明を目指して15舟TICを創製し、その活用により新たな脳内中枢型
PGI2受容体(IP2と命名)が存在することをつきとめた0さらに、脳内海馬神経組 織でのIP2受容体の特異的発現に着目して、15舟¶Cの生物活性を検討したところ、 この15尺11Cが高酸素状態で引き起こされる海馬神経細胞のアポトーシスを低濃度 で完全に阻害する抗アポトーシス作用を有することを発見した。このような脳内生 理に関るPG類の新局面は、単に脳科学の基礎研究としてだけでなく、全く新しい 制御機構による脳機能改善薬の開発の可能性を提供するものである。本研究ではまず15足JnCの活性構造単位左構造/受容体親和性相関により明らかにしたい。さら
に、TIC誘導体の活用により、脳内中枢型PGI2受容体の生理機能とその発現機構を 解明したい。また陽電子放射断層画像撮影法(PET法)によるinvivoでの脳内で の薬物動態解析、さらにはこれらの情報を基にした受容体機能制御物質の創製へと 発展させるつもりである。さらに、PG関連化合物の効果的な脳内移行の実現も本研 究の主要目標の一つであり、血液一脳関門透過特性の高い薬剤の設計を目指した新能分子ツールの開発が研究推進の鍵を握る。本研究は、PGI2および関連化合物の脳 内生理作用に分子レベルでの知見を与えるとともに、神経細胞死阻害を機軸とした 脳機能改善薬の開発の可能性を提供するものであり、化学、生化学、医学、薬学な