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核データニュース,No.112 (2015)

国際原子力機関協同研究( IAEA-CRP )

「高濃縮ウランを利用しない加速器による Mo-99 / Tc-99m の代替製法」

国立研究開発法人放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 永津 弘太郎 [email protected]

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

1. はじめに

核医学診断や画像診断、あるいはより具体的にSPECT検査・PET検査といった単語は 近年、社会的に広く認識され、半減期数分から数日を有する様々な放射性同位元素(以下、

RI とする)が医学的用途に利用されている。本検査が与える客観的な生体内情報は現代 医学を支える大きな診断ツールの一つになっていると共に、視覚に直接訴える機能画像 等は受診者も自らの心身状態を把握するための一助になっていることと推測される。

核医学診断を実施するためには、RIで標識された放射性薬剤と、体内に投与したRI ら発せられる放射線(ガンマ線もしくは511 keVの消滅放射線)を検出するカメラが相補 的に発展する必要がある。特異的な集積や機能評価を与える薬剤、及び検出器の感度や分 解能の向上をそれぞれの目的として、精力的な研究開発が行われている。後者の解説につ いては別の専門家に譲り、本稿では、RI 標識薬剤に関する研究及び臨床の場において非 常に重要な役割を果たしている99mTc(T1/2=6時間,IT=~100%)について、本CRP“高 濃縮ウラン(HEU)を利用しない加速器による99Mo/99mTcの代替製法”の報告及び世界 各国の状況等を紹介してみたい。特に、加速器科学を医学分野へ応用する計画は近年、国 内外で益々盛んになっていることを踏まえ、RI そのものに注目するだけではなく、ヒト へ投与可能なRI標識薬剤、並びに核医学の現場・実運用で求められる諸条件等について、

情報の整理と共有を目的に筆者の考えを述べていきたい。

2. 99mTc 核医学一のworkhorse

放射線利用統計[1]によれば、10種を越える臨床用非密封RIが国内に流通し、その中で

会議のトピックス(I)

(2)

99Mo99mTcの両者を合わせた供給量(放射能)は、現在に至るまでの長い間、総量の約 8割を占めている。この利用を支える大きな理由には、99mTcのもつ物理的特性(半減期、

検知しやすい141 keVの放射線)や化学的特性(複数の価数に基づく標識(キレート)の 多様性)が医学利用に適するほか、99Mo/99mTcジェネレータ1と呼ばれる供給形態の利便 性が挙げられる。特にジェネレータによる線源頒布は、自施設に大掛かりな設備を準備し なくても一定量の99mTcを用時、容易に確保できるため、臨床・研究いずれの利用現場で あっても重要視される実用的・実践的特徴となっている。効果や薬効の低下を意味する RIの物理的減衰、即ち長期保管が出来ないRIを取扱う以上、線源確保の高い利便性は想 像以上の価値を持っている。

このような環境において、2009年から2010年に発生したいわゆるテクネチウムクライ シス(世界需要の約3 割を占めていたカナダ・NRU 炉の緊急停止による99Moの供給障 害)は世界の核医学臨床現場に大きな混乱を引き起こした。特に日本は米国に次ぐ世界第 二の99mTc利用国であることに加え、米国同様、自国で 99mTc(99Mo)を生産していない 輸入・消費国家であるため[2]、その影響は大きかったように記憶している。我が国では、

99Mo を輸入し 99mTc製剤を販売する放射性医薬品企業の努力によってその混乱が最小限 に抑えられたものの、世界各国では原子炉に頼らない99Mo/99mTcの代替製法に関する研 究機運が大いに高まった。このような背景から、本IAEA-CRP2011年に活動が始まっ た[3]。実際、99Mo/99mTcに関する課題や加速器によるRI製造は近年、非常に重要視さ れており、2012年には、同じくIAEA-CRPとして“荷電粒子モニター反応と医療用アイ ソトープ生成のための核データ”に関する共同研究が開始されている[4]。こちらのCRP については永井先生による別の報告を参考にされたい[5]。

3. 加速器による99Mo/99mTc代替製法

現在、世界に流通する大部分の 99Mo は、初臨界から 40~50 年が経過した 10 程度の 国々が有する研究炉によって生産されている。99Mo 供給障害を経験して以降、安定した 供給を維持させるために、いくつかの国々が 99Mo 製造を開始・再開したと報告される。

但し、ほとんどの研究炉が老朽化問題を抱えている以上、安定供給や原子力安全に関する 課題が本質的に解決されているとは言い難い。この状況下、歴史的に99Moの主要生産炉 としての役割を担っていたカナダが、老朽化を理由にNRU炉(135 MWTH、初臨界1957 年 ) の 停 止 を 決 定 す る と 共 に 、 自 国 向 け 需 要 に つ い て は 、 加 速 器 を 利 用 し た

100Mo(p,2n)99mTc 反応で直接得られる 99mTc を供給することを計画した。製造装置として

“原子炉から加速器へ”という大きな方向転換を意味する本計画では、実用的かつ高品位

1 放射平衡を利用したRI供給装置(医薬品として扱われる)。親核種を支持体へ固定化しており、減衰 によって生ずる娘核種を選択的に、また繰返し溶出できる。日々、一定量の娘核種が得られるため、

乳牛になぞらえcow systemと呼ばれることもある。

(3)

な製造法の確立や医薬品としての品質評価・薬事承認取得だけでなく、コスト意識を持っ た生産の運用と最適化、線源頒布のためのロジスティクス構築といった多くの課題があ る。これらの課題はカナダに限ったものではなく、加速器による代替製法を企図する各国 に共通するため、本CRPでは各参加国が課題解決に向けた研究開発を行うと共に、加速 器製99mTcの有効性を示すことを目的としている。

4. 会議の内容

CRPは、2015622日から626日までIAEA本部(ウィーン)で行われた。

参加した国は12カ国(アルメニア、カナダ、ハンガリー、インド、イタリア、日本、サ ウジアラビア、ポーランド、シリア、アメリカ;及びオブザーバーとしてスイス、イギリ ス)であり、我々を含む大多数の参加国が、荷電粒子を濃縮同位体へ照射する100Mo(p,2n) 反応を用いた99mTcの直接製造について報告を行った(唯一、スイス(CERN-MEDICIS)

1 GeVの陽子ビームを238Uに衝突させ、FPとして得られるMoの製造を基礎的に検討

されていた)。本反応は医療用小型加速器で得られる比較的低いエネルギー(Ep≦24 MeV)

で十分な99mTc収量を望むことが出来る特徴を持つ。これ以上の入射エネルギー、例えば Ep≧25 MeVを利用すると、100Mo(p,x)反応から99Moの製造が期待できる一方、その収率 は実用的と見なされておらず、当該チャネルに関する報告は無かった。各国の詳細に関し ては今年中に発行が予定されている報告書に譲り、興味深い主だったものを以下に簡単 に記す。

カナダ:Ep=19 MeV, Ip=100 Aにて製造した99mTcO4(pertechnetate)に関する第一 相治験を終えた現在、本目的のために開発された専用の小型加速器を利用した Ep=24

MeV,Ip=500 Aによる製造に着手。(製法が変化したことを受け)二回目の第一相治験

を準備・実施中。安価・ディスポーザブルなAl製ターゲット支持体へ100Moを熱圧縮し、

薄層状に調製・照射していることが特徴(この結果、製造コストを従来比の1/1000に低 減)。品質検定項目について、従来品(原子炉製)と比較すると、既存の一般的項目はそ の規格値を厳格化し、加速器に特異的な項目では分離しがたい99mTc以外のTc量を規定

(≦0.03%)。米国薬局方(USP)の新項目として収載されることを目的とする。

ハンガリー:励起関数(protons on 100Mo)を精査し、比較的大きなばらつきがある従前 報告との比較検討。ばらつき原因の一つには99Mo・99mTcの崩壊に由来する関心ガンマ線

(141 keV)の扱い方[6]、及びstacked foil methodでは生成した関心核種の一部がターゲッ ト前後のエネルギー吸収材へ反跳し、僅かなマイナス誤差(0.6~1.8%)を与えること等 を報告。

会議の一幕には、参加各国に代替製法の実現可能性を問われる場面があったものの、ポ ジティブな答えはカナダ以外に無かった。医薬品としての承認取得の難しさと、従前の原 子炉製法と比較して製造コストをどこまで受け入れられるレベルに抑えられるかの二点

(4)

が、各国に共通する課題として挙げられた。

5. RI・放射性医薬品の製造と供給に関する日本と諸外国の違い

99Mo99mTcをはじめとするRIあるいは標識化合物について、多少の粗さを恐れずに 表現すると、諸外国ではいわゆる国研に相当する大規模研究所がその製造と供給を担う

“国営型”となっている。一方の日本では、放射性医薬品企業が輸入・製造(製剤化)・

供給を担い、アイソトープ協会がその譲渡譲受を管理する“民営主体型”と見なせるだろ う。我々も実際、共同研究契約の元で行われる特定の数施設を対象とするRI頒布を行っ ているものの、頒布そのものが主目的となるRI生産は行っていない。

国産化がされていないこと=安定供給上のリスクそのものであり、これを是正するた めに現在、我が国では主に国立大学・研究所等が99mTcの代替製法に関する検討を行って いる。但し我々を含む“国営”施設には、上述した社会的背景を理由に、生産から頒布に 至るまでのインフラ・ノウハウだけでなく、運用を行うためのリソースも形成・準備され ていない。従って、出口として何らかの研究成果を市場に反映させる際のハードルは相当 に高いものと判断すべきであろう。その原因の一つに、諸外国と比較して桁を一つ二つ異 にする世界二位の99mTc消費国、日本が必要とする量の多さが考えられる。ある資料では

60 Ci/weekといわれる99mTcを国内で定期的に製造・供給することが我々に求められる

一方、極端な例では自国の検査総数が一日10数例、あるいは見積るための資料が不足し ていると報告する参加国もあり、同じ課題に取り組みながら国の状況によってゴールの 基準が大きく乖離することが印象的であった。

さて著者は、医療用小型加速器を用いた99mTcの製造可能性について報告を行った。そ の詳細は本CRPの報告書並びに別の報告[7]に譲るが、世界に類を見ない日本の加速器環 境-200機を越える加速器が現在稼動し[1]、狭い国土面積と相まって、加速器密度と表現 できる値はおよそ直径50 km円/1機に相当する-が本構想の背景となっている。大多数 の加速器は、後述する日々のPET検査を実施する高品位な製造環境に据え付けられ、加 速性能としても 99mTc 製造に適用可能である。従って、我が国全体で必要となる大量の

99mTc は、多数稼動する加速器台数で補えるのではないかというのが筆者の提案である。

CRPの主題は加速器の利用が前提であったが、一方で、大量のRIを効率良く製造す るためには、自国が所有する研究炉を利用することも確実な出口の一つと筆者は考える。

特に加速器では得難い中性子過剰核、即ち標的アイソトープ治療(あるいは内用療法とも 呼ばれていたが近年では表現が見直されている)と呼ばれるがん治療法に向けた放射性 治療薬の製造を視野に入れると、原子炉によるRIの国産化は極めて効率的かつ魅力的な ものに映る。但し、周知のとおり、日本原子力研究所(現在の日本原子力研究開発機構)

におけるRI製造頒布事業が閣議決定により合理化されて以降(平成72月、[8])、輸 入可能な中長寿命 RI の製造が中止されるという大きな制約があることも事実である。

(5)

様々な理由がこの背景に存在しているものと推測される上、3・11以降、原子炉を取り巻 く社会環境が大きく変化したこともあるため、慎重な扱いが求められることも理解して いる。しかし、我が国が標榜する科学技術立国の形成と先進医療の更なる発展に鑑みれ ば、我々は研究炉の重要性、加速器との適切な棲み分けについても熟慮すべきであろう。

なぜそれぞれの装置が重要なのか。99Mo/99mTc に限らず社会発展に必要不可欠な RI 数多くあることを実例・積極的な社会還元と共に示し、国民の理解を得ながら研究を継続 していくことが従来以上に重要になる。掲題を越えるものかもしれないが、これが本CRP に参加し、得られた筆者の結論である。

6. 医薬品的レギュレーション

上述した医薬品の承認取得、即ち合成したある物質を、医薬品としてヒトへ投与するた めに必要となる近年の動きを、PET検査を例に簡単に触れておきたい。

数年に一機の小型加速器が大学病院等に導入されるような、20~30年以上前のPET 究黎明期では、文字通りの(薄汚い)実験室的環境で化学合成さながらの半手作業でPET 診断薬の調製が行われていたと聞いている。その後の成長期で、有用なトレーサーがもた らす診断例が評価されるに伴い、多くの施設でPET検査を受診出来るようになった。受 診件数の増加、及び被験者の利益を守る観点から、薬剤品質の向上だけでなく、得られる 薬剤が異なる施設間で等しく高品質であることを保証する“標準化”の必要性が唱えられ た。その結果、この10年強の間に合成環境の大幅な改良・改善が図られた。具体的には、

PET 検査用院内製剤は医療機器として厚生労働省により承認された自動合成装置によっ て調製され、ホットラボ内全体が衛生的な管理下に置かれる、いわゆる GMP 基準2で運 用されるようになった。このような動き、即ち標識薬剤の品質を維持・保証する実践は、

当然ながら欧米諸国全体にも及んでおり、ヒトへの応用(臨床)を前提とする製造では現 代の必須条件となっている。具体的な運用においては、全ての作業――ターゲット調製方 法、照射条件、必要とする試薬類の種類・量、化学反応条件・精製方法、品質評価方法等

――が手順書に記載され、この規定を逸脱した製造で得られたものはヒトへ投与可能な 製品として認められない。また、分析機器は定期的な健全性評価が求められる。これが現 在の日本で受診できるPET検査の“標準品質”である。

今回の99mTc製剤のように、既存の医薬品でありながら新しい製法で調製する場合でも、

許認可を与える関係省庁(日本→厚生労働省;米国→米国食品医薬品局;欧州→欧州薬品 品質局、欧州評議会 等)へ、その製法並びに品質・安全性評価結果を提出し、新医薬品 として承認を得る必要がある(日本の場合は,高品質の放射性医薬品を安定的に合成する

2 日本核医学会では、分子イメージング戦略会議がPET臨床研究の質の向上を図っており、ガイドライ ンの策定や施設認証制度の構築などを行っている。現在までにいくつかの文書や通知がなされてお り、閲覧可能となっている[9]。

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設備、つまり医療機器として承認される可能性が高いと筆者は考えている)。承認に至る までの期間は一般に数年を要すことから、新薬開発の律速になっているとも言われてい る。

研究者・技術者が、高品位かつ必要量の99mTcを提供できる何らかの代替製法を確立さ せることはおそらく可能であろう。但し、我々には現代社会で求められる上述の要件を満 たすための経験と訓練が浅いことを認識すべきである。今一度、我が国全体で議論を行 い、研究ゴールの明確化と可能性を評価すべきと考える。これは研究停止を暗に意味する のではなく、熱意を持った関係者の一層の奮起を再確認するための議論である。

7. さいごに

現在の様々な産業や体制が戦後70年の間に発展してきた社会・技術基盤の上に成立し ていることに鑑みれば、例えば世代交代や体制の再構成と表現できる大きな変化が、自発 的あるいは強制的に求められても不思議ではない。特に社会に対して影響が大きいもの には注目が集まり、多くの議論や、あるいは犠牲を経て、多くの人々が望む新体制が動き 出す例は歴史が示している。核医学の世界において、最も重要な価値を持つ99Mo/99mTc 変化の対象に選ばれたことは、このような理由で説明できるのではないかと筆者は感じ ている。この時勢の節目に一当事者、一研究者として課題に直面できることを真摯に受け 止め、より良い解決策を提示できるよう、一層の努力を続けたいと思う。

参考資料

[1] 公益社団法人日本アイソトープ協会,放射線利用統計2013 (2014) [2] J.R.Ballinger J. Label. Compd. Radiopharm. 53, 167–168 (2010)

[3] Accelerator-based alternatives to Non-HEU production of Mo-99/Tc-99m (CRP code F22062) [4] Nuclear data for charged-particle monitor reactions and medical isotope production (CRP code

F41029)

[5] 永井泰樹 国際原子力機関 CRP「荷電粒子モニター反応と医療用アイソトープ生成 のための核データ」 核データニュース110, 7–11 (2015)

[6] S. Takács et al., Nucl. Inst. Meth. Phys. Res. B 347, 26–38 (2015)

[7] 加速器による核医学検査用99Mo/99mTcの安定供給に向けて 原子核研究 601 94–98 (2015)

[8] 日本学術会議 基礎医学委員会・総合工学委員会合同:放射線・放射能の利用に伴う 課題検討分科会 提言「我が国における放射性同位元素の安定供給体制について」

[9] 分子イメージング戦略会議 http://www.jsnm.org/guideline/molecule

PET薬剤の「I. 製造基準」を改定し診療にも適用可能(いわゆる学会GMPの改定)

http://www.jsnm.org/guideline/molecule/011

参照

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