平成29年度 卒業論文
もつれあい光子対生成源の改善
広島大学 先端物質科学研究科 量子物質科学専攻 高エネルギー物理学研究室
B146598 松山 健悟 指導教員 高橋 徹 主査 飯沼 昌隆 副査 島田 賢也
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要旨
偏光のもつれあい光子対とは、偏光測定の基底に依らず常に2つの光子のそれぞれの測定結果に相関 を示す光子対のことを言う。例えば、一方の測定結果が水平偏光なら他方は垂直偏光、一方が左回り円 偏光なら他方は右回り円偏光といったような逆相関を示す場合に対応する。中でも常に最も強い相関を 示す状態を最大のもつれあい状態と呼ぶ。最大のもつれあい状態にある光子対は量子暗号や量子コンピ ュータのコア技術として期待されているが、我々はこの光子対を用いて量子力学の核心部分に迫れるよ うな挑戦的な実験研究の実施を計画している。
既に立ち上げていたもつれあい光子対生成源は、測定基底によって強度や相関が変化してしまう、長 期安定性に欠けるなどの問題点が見られたため、信頼性の高いデータが得られるようにそれらを改善し た生成源を立ち上げることが必要となった。
本研究は、生成源全体の光学系を再設計しアライメント方法を見直すことで改善にとりくんだ。その 結果について、発生原理および生成源を立ち上げる手順と共に報告する。
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目次
第1章 序論
1-1 研究背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 1-2 研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第2章 もつれあい光子対
2-1 偏光のもつれあい状態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 2-2 密度行列による状態の記述・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 2-3 Bloch 球・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 2-4 もつれあい状態の記述・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 第 3 章 生成法とセットアップ
3-1 自発的パラメトリック下方変換・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 3-2 疑似位相整合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 3-3 使用する光学素子・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 3-4 サニャック干渉計による生成法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 3-5 セットアップの変更点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 3-6 偏光測定法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 第4章 光学系の調整
4-1 方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 4-2 ガウシアンビーム伝播・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 4-3 ビーム形状の測定法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 4-4 ファイバー結合器の調整・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 4-5 モードマッチング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 4-6 サニャック干渉計の調整・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 4-7 同時計測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 第5章 まとめ
5-1 ファイバー結合器の調整結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 5-2 光子対検出結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 5-3 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 5-4 今後の展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57 謝辞
参考文献
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第1章 序論
1-1 研究背景
もつれあい光子対とは、測定基底に依らず測定結果にある決まった相関がある光子対のことを言う。
相関が最大のものを最大のもつれあい光子対と呼び、近年、量子暗号や量子計算のコア技術として活発 に研究されている。もつれあい光子対の特徴である測定基底に依らず強い相関を示す性質をうまく利用 すると、一方を測定することで、もう一方の光子の状態を測定結果から定義づけすることが可能となる。
これは状態の概念を使わずに、実験結果を解析することを可能にする。またもつれあい光子対を2つの 非可換な物理量の連続測定装置の校正に利用することによって、測定の不確定性や誤差相関を実験的に 評価することが初めて可能になる。このようなアプローチによって、2つの非可換な物理量の積の期待 値を実験から定義し、測定結果を得ることができる。この方法を利用して量子力学の核心部分に迫れる ような実験的研究を行うことを計画している。
我々の研究室で既に立ち上げているもつれあい光子対生成源は様々な問題点が見つかっている。具体 的には、第一には本来もつれあい光子対は測定基底に依らないはずであるが、基底を変えると相関が変 化してしまう点である。これはもつれ合い光子対の明瞭度が高くないという状況に対応し、セットアッ プのコヒーレンスがうまく制御できていないことを意味する。第二の点としては、もともと使用してい る光学素子が多いために、原因の特定と修復がやりにくいことが挙げられる。第三としてはセットアッ プの都合上光軸の微調が容易でないために、全体的な調整が難しくなり、結果的にもつれあい光子対の 発生を向上できない点にある。そこでこれらを改善できるように基本的なセットアップを変更し、より 信頼性の高い実験データを得られるようなもつれあい光子対生成源を立ち上げなおすことにした。
このような背景により、本論文ではもつれあい光子対を用いた実験に関しては深入りせず、実際にど のような考え、手順に基づいてもつれあい光子対生成源を立ち上げたのかについて報告する。
1-2 研究の目的
本研究の目的は、変更したセットアップに基づいて、もつれ合い光子対発生源を構築し、調整する手 順を確立することにある。もつれ合い光子対の発生原理、基本的なセットアップ、改善に向けての考え 方と変更点、構築にあたり注意すべき箇所や光学系のアライメント方法について、実験結果を踏まえな がら議論する。
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第2章 もつれあい光子対
2-1 偏光のもつれあい状態
偏光のもつれあい光子対を理解するために、次のような状況を考える(Figure1)。光の伝搬方向に対 して垂直な面を考え、その面内で適当に H、V の2次元直交座標を定義する。偏光方向が H 方向なら水 平偏光、V 方向なら垂直偏光というように名前を付ける。Figure1 の中央にある光源の性質として、左 右のそれぞれに対し、ある偏光状態の光子を1つずつ光子対として放出することが分かっているものと する。
Figure1 のように偏光板を A、B の2地点に置き、最初に両方とも垂直方向に向けておく。このとき 光子が偏光板を透過したら光子の偏光は V ということが分かる。偏光板の向きは A、B のそれぞれで水 平方向と垂直方向の2通りあるので、全体で4通りの結果がある。何千何万と測定し、4通りの結果そ れぞれの確率がすべて25%ならば、相関がないと言える。しかし測定した結果、仮に A の光子が V のとき、B の光子が V 方向を 80%、H 方向を 20%透過した確率が得られ、さらに A の光子が H のと き、B の光子が V 方向を 20%、H 方向を 80%通過した確率が得られれば、2つの光子の偏光測定結果 に相関(この場合は正相関)があると言える。しかしながらこの状況だけでは単なる古典的な相関を“確 認”しただけで、A の光子が H 偏光なら B の光子は H 偏光の確率が 80%と測定前から決まっている状 況と区別できない。そこで全く同じ状況の光子対に対して、今度は偏光板の角度を変えて測定を行う。
例えば、A に対する偏光板の方向を H 方向と V 方向の間の中間の角度(45 度、P 方向と呼ぶ)に向け、
B に対する偏光板の方向を A と同じ角度に向けた同時測定を考える。もし二つの光子の偏光方向が測定 前に両方とも H 偏光または両方とも V 偏光になる確率が 80%と決まっていれば、P 偏光に対して A の 測定結果と B の測定結果には相関がないはずである。
A B
Figure 1:もつれあい光子対
中心になる光源は左右に1つずつ光子を放出し、それらの光子の偏光状態を A、B にある偏光板を使って調べ る。
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ところが光子対がもつれあい状態にある場合は、測定前の偏光状態は決まっていないので、A の光子が P 方向の偏光板を通過すれば、B の光子は P 方向の偏光板を 80%の確率で通過するであろう。このよう に A と B の偏光板の方向を変えても“測定結果の間に相関がある”場合、この2つの光子はもつれあいの 状態にあることになり、この光子対の生成源はもつれあい光子対生成源であると言える。
もつれあい光子対の中でも、相関が最大の場合(上記の例でいえば、A が H 方向の偏光板で透過すれ ば、B が H 方向の偏光板で 100%透過)、最大のもつれあい光子対と呼ぶ。特に光子 A が H 方向の偏光 板で透過のとき光子 B は V 方向の偏光板で透過する、かつ光子 B が H 方向の偏光板を透過のとき光子 A が V 方向の偏光板で透過するような結果は逆相関をもつ最大のもつれあい光子対という。以下では単 にもつれあい光子対というと、この逆相関をもつ最大のもつれあい光子対を指すものとする。
2-2 密度行列による状態の記述
最初に、一般的に成り立つ密度行列の性質について述べる。密度行列とは、次の2つの条件を満たす 行列 A のことを指す。
∑ 𝜌𝑛,𝑛
𝑛
= 1 (1)
ρn,n≥ 0 (2)
ここでρn,nは行列ρの n、n成分を表している。(1)、(2)が物理的にどのような意味を成しているのかを 説明する。
まず混合状態とは、状態ベクトルで記述できる状態が古典統計的な確率 Pnで混合している状態のこ とをいう。混合状態におけるオブザーバブル𝐹̂の期待値は、状態|Ψn>を確率 Pnの重みをつけて、次の ように表される。
≪ 𝐹̂ ≫ = ∑ 𝑃𝑛< Ψ𝑛|𝐹̂|Ψ𝑛>
𝑛
(3)
純粋状態の場合には、単一の状態ベクトルで表されるから、重み Pnの和で表す必要はなく
〈𝐹̂〉 = < Ψ|𝐹̂|Ψ > (4)
となる。(3)で<< >>をつけているのは(4)の純粋状態での期待値と区別するためであり、(3)は量子力 学的状態の古典統計的期待値を、(4)は量子力学的期待値のみを表す。ここで後ほど触れるが、混合状 態を表す確率 Pnについてコメントしておく。古典論では方程式を解く場合に、初期条件を代入して解 を求めるが、初期状態が重み Pnで統計的に分布していれば、得られた解も重み Pnで分布していると考 え、その平均値を最終的な解と考える量子論では一般的に初期状態が純粋状態とは限らないので、適当 に確率の重みをつけて、複数の純粋状態が混合していると考えて状態を記述する。このときのは Pnは
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便宜上導入したに過ぎず、一般的には準備した混合状態の具体的な Pnを考えることにあまり意味はな い。密度行列の各要素こそが最も重要であって、状態をどのような純粋状態で展開するかという視点が あって初めて Pnが意味を持つ。
状態|Ψn>は任意の完全正規直交基底{|𝑚⟩}と、それぞれの状態に変化する確率の振幅 Cmの重みをつ けて展開することが出来て
|Ψ𝑛⟩ = ∑ 𝐶𝑛𝑚|𝑚 >
𝑚
(5)
となる。確率振幅の2乗によって求められる確率は、どの基底状態にあるのか”決まっていない”ことに よるものであるのに対して、(3)の Pnは古典統計的な通常の確率であり、それぞれの確率を考えざる負 えない原因は全くの別物である。さて、完全性条件より
∑|𝑚 >< 𝑚| = 𝐼
𝑚
(6)
が成立するので、(3)、(6)より
≪ 𝐹̂ ≫= ∑ < 𝑚| ∑|Ψ𝑛 > 𝑃𝑛< Ψ𝑛|𝐹̂|𝑚 > = ∑ < 𝑚|𝜌̂
𝑚 𝑛
𝑚
𝐹̂|𝑚 > = Tr[𝜌̂𝐹̂] (7)
ここで
𝜌̂ = ∑ |Ψ𝑛> 𝑃𝑛 <
𝑛
Ψn| = ∑ 𝑃𝑛|Ψ𝑛>< Ψ𝑛|
𝑛
(8)
とした。これが状態を記述する密度行列に対応する。(8)は任意の基底ベクトル|m〉、|k〉を用いて
⟨𝑚|𝜌̂|𝑘⟩ = ∑ 𝑃𝑛< 𝑚|Ψ𝑛>< Ψ𝑛|𝑘 > = 𝜌𝑚,𝑘
𝑛
(9)
と成分表示できる。この行列が本当に密度行列の定義(1)、(2)を満たしているのかどうかを確認する。
(9)で m = k の場合
⟨𝑚|𝜌̂|𝑚⟩ = ∑ 𝑃𝑛|< 𝑚|Ψ𝑛> |2 = 𝜌𝑚,𝑚
𝑛
(10)
となる。(10)において、和の部分は、確率 Pn と状態が|m〉になる確率の積であるから、必ず正である。
よって(2)を満たしていることが分かる。次に(10)の和を取ると
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∑ 𝜌𝑚,𝑚=
𝑚
∑ 𝑃𝑛< Ψ𝑛| ∑|𝑚 >< 𝑚|Ψ𝑛 > = ∑ 𝑃𝑛= 1
𝑛 𝑚
𝑛
(11)
となり、(1)を満たす。以上から物理的には(1)は全ての事象が起こる確率の和が1になることを示して おり、(2)はそれぞれの測定結果が実現する確率が正であることを意味する(正値性)。以上の議論は純 粋状態の場合でも同様に成立する。
これまでの議論でも示されたように(1)、(2)のように定義した密度行列は、純粋状態の線形結合で展 開できる。このとき展開に用いた純粋状態は数学的にはヒルベルト空間の基底に対応しているから、同 じ密度行列に対して基底の取り方によってさまざまな展開の仕方がありうる。つまり同じ密度行列を記 述しているにもかかわらず、純粋状態への展開の仕方は一義的ではない。したがって状態ベクトルを使 って密度行列を定義するのはナンセンスであり、(1)、(2)の定義から出発しないと混乱を引き起こす。
例として、|0〉、|1〉という2つの準位を取りうる2準位系について考える。それぞれの状態が実現する 確率が 1/2、1/2 であったとすると、密度行列ρ’の一例として例えば、
ρ′= ( 1
2 0
0 1
2
) (12)
を考えた場合、次に示すようにρ‘を構成する純粋状態の組み合わせは複数存在する。
ρ′=1 2(1 0
0 0) +1 2(0 0
0 1) =1 2(1 1
1 1) +1
2(1 −1
−1 1 ) (13)
(13)で示した例では、2つの純粋状態の和で表しているが、もっと多くの純粋状態の和で表すことも可 能であり、どのような純粋状態が混合しているかは一義的に決まらないことが分かる。
密度行列ρ′は純粋度(purity) Tr[ρ′2]を計算することで、混合の度合いを定量的に示す事が出来る。
純粋度は、密度行列の次元を n として
1
n≤ Tr[ρ′2] ≤ 1 (14)
の値を取り、Tr[ρ′2]=1/n の場合は最大の混合状態、Tr[ρ′2]=1 のときは純粋状態であることが言える [4]。例として(12)の純粋度を計算してみると、
Tr [(
1
2 0
0 1
2 ) (
1
2 0
0 1
2
)] = 𝑇𝑟 [(
1
4 0
0 1
4 )] =1
2 (15)
となり、行列の次元は 2 であるから、(12)で表される状態は最大の混合状態であることが分かる。
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一般的な説明のまとめとして、最後に状態ベクトルではなく密度行列を考えることによって、どのよう なメリットがあるのかを下記に述べる。
1)混合状態、純粋状態を区別なく、一般的な量子状態を同じ表記で記述することが可能であり、ど ちらも(1)の行列の形で表される。なお状態ベクトルは混合状態を表現できない。
2)実験から推定されるのは大抵、密度行列である。密度行列の対角成分はそれぞれの状態が実現す る確率を表し、(7)を計算することによって、期待値を求めることが出来る。
3)密度行列の非対角成分の有無によって、量子コヒーレンスの有無がすぐに分かる。
次に、密度行列による偏光状態の記述について述べる。2-1で定義した 2 次元直交座標(偏光面)を Figure2 に示す。水平偏光の状態ベクトルを|H〉、垂直偏光の状態ベクトルを|V〉と書くと、光子の任 意の偏光の純粋状態は、|H〉とのなす角をθとして
|Ψ〉= cosθ|H〉+ 𝑒𝑖𝜑sinθ|V〉 (16)
と書ける。ここでφは電磁波の水平成分に対する垂直成分の位相を、i は虚数単位を表す。今、2準位 系を考えているので、|H〉と|V〉をそれぞれ
|H〉= (1
0) |V〉= (0
1) (17)
で表記すると、(16)で表される状態ベクトルのテンソル積を行列表現すれば Figure 2:偏光状態
|Ψ〉は任意の偏光状態、θは|Ψ〉の水平偏光に対する角度、|H〉は水平偏光の状態、|V〉は垂直偏光の状態を表す。
古典的な電磁波の偏光と異なる点は、|Ψ〉は状態の重ね合わせを表しているので、古典的な波の重ね合わせとは別物 である点に注意されたい。偏光状態の重ね合わせは、光が単一光子とみなせるレベルまで強度が下がった場合に考え られる。
|H〉
θ
|V〉
|
Ψ〉
- 9 - 𝜌̂ = |Ψ >< Ψ| = 1
2(1 + 𝑐𝑜𝑠𝜃𝐵 𝑒−𝑖𝜑𝑠𝑖𝑛𝜃𝐵
𝑒𝑖𝜑𝑠𝑖𝑛𝜃𝐵 1 − 𝑐𝑜𝑠𝜃𝐵) (18)
となって、純粋状態が記述できる。ここでθBはθ/2 を表す。次に H、V 以外に、以下の4つの状態を 定義する。
|𝑃⟩ ≡ 1
√2(|𝐻⟩ + |𝑉⟩) (19) |𝑀⟩ ≡ 𝟏
√𝟐(|𝐻⟩ − |𝑉⟩) (20) |𝑹⟩ ≡ 𝟏
√𝟐(|𝑯⟩ + 𝐢|𝑽⟩) (21) |𝐿⟩ ≡ 1
√2(|𝐻⟩ − i|𝑉⟩) (22) 上記の偏光状態を表す(16)式での2つのパラメータθ、φの値を Table1 に示す。これら6つの状 態を固有状態としたとき対応する固有値を使えば、偏光物理量を記述する演算子が定義できる。偏光の 固有値は光子のスピン量子数と見なすことができるから、+1、-1の二値を取ればよい。この値を固 有値とし、対応する固有状態がお互い直交する状態であることに注意すれば、
𝑆̂HV= |H >< H| − |V >< V| = (1 0
0 −1) = 𝜎̂z (23)
𝑆̂PM= |P >< P| − |M >< M| = (0 1
1 0) = 𝜎̂x (24)
𝑺̂𝐑𝐋= |𝐑 >< 𝐑| − |𝐋 >< 𝐋| = (𝟎 −𝒊
𝒊 𝟎) = 𝝈̂𝐲 (25)
このとき、+1の固有状態を、|H>、|P>, |R>、-1の固有状態を|V>、|M>、|L>とした。
それぞれの演算子は|H >< H| + |V >< V| = 𝐼̂、 |P >< P| + |M >< M| = 𝐼̂、 |R >< R| + |L >< L| = 𝐼̂ と なって完全性条件を満たし、かつ行列表現としてはパウリ行列と等しくなる。つまり(23)、(24)、(25)
の3つの演算子はそれぞれ、|H>、|V>を固有状態としたときのオブザーバブル、|P>、|M>を固有 状態としたときのオブザーバブル、|R>, |L>を固有状態にしたときのオブサーバブルであることが 分かる。
- 10 - Table 1:6つの偏光状態に対応するパラメータの値
状態 θ φ
H 0° 0°
V 90° 0°
P 45° 0°
M 45° 180°
R 45° 90°
L 45° 270°
2-3 Bloch 球
(23)、(24)、(25)を任意の状態|Ψ〉のブラケットで左右から挟んで、それぞれ純粋状態の期待値を 計算すると
〈ψ|𝑆̂HV|ψ〉=〈𝑆̂HV〉= cos𝜃𝐵 (26)
〈ψ|𝑆̂PM|ψ〉=〈𝑆̂PM〉= sin𝜃𝐵cosφ (27)
〈ψ|𝑆̂RL|ψ〉=〈𝑆̂RL〉= sin𝜃𝐵sinφ (28)
となる。これらは3次元極座標における半径が1の球面上のz、x、y座標値に対応していることが分 かる。上記3つのオブザーバブルの期待値をz、x、y座標値として定義した球を Bloch 球といい、こ れを Figure3に示す。さらに(23)、(24)、(25)を(18)に代入すると、偏光の純粋状態の密度行列 は
𝜌̂ = 1
2( 1 +〈𝑆̂HV〉 〈𝑆̂PM〉− i〈𝑆̂RL〉
〈𝑆̂PM〉+ i〈𝑆̂RL〉 1 −〈𝑆̂HV〉 ) (29)
となる。例として水平偏光の状態|H〉を密度行列で記述すると
𝜌̂H= |H >< H| = (1 0
0 0) (30)
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であるから(29)における3つの期待値の値は 〈𝑆̂HV〉= 1、〈𝑆̂PM〉= 0、〈𝑆̂RL〉= 0、であることが
分かる。〈𝑆̂PM〉、〈𝑆̂RL〉, 〈𝑆̂HV〉の3つの成分を持つベクトルを Bloch ベクトルという。上記の例で の Bloch ベクトルを Bloch 球上に書くと、ちょうどz軸の正の方向を向く長さが1のベクトルとなる。
同じ偏光状態にある複数の光子を用意し、それぞれの集団に対して3つの物理量の期待値を求めるこ とができたとすると、(29)から量子状態を推定することができる。これを量子トモグラフィーという。
2-4 もつれあい状態の記述
もつれあい光子対は定量的にはどのように表すことが出来るか、その状態を導出する。Figure1 の A、B での測定結果に H と V の逆相関がある場合、任意の複素数 C1、C2を係数として重ね合わせ状態を作る と
|ψ⟩ = 𝐶1|𝑯𝑨⟩ ⊗ |𝑽𝑩⟩ + 𝐂𝟐|𝑽𝑨⟩ ⊗ |𝑯𝑩⟩ (31) Figure 3:Bloch 球
(中野 雅之,“偏光のエンタングルメント状態を用いた POVM 測定の不確定性の評価”,広島大学 量子先端物質 科学研究科 修士論文,14,2016 より[2])する。
- 12 -
ここで C1、C2は規格化条件を満たしているものとする。今、基底を変換して P と M でこの|ψ⟩の状態 を表すと
|ψ⟩ =𝐂𝟏+ 𝐂𝟐
𝟐 |𝑷𝑨⟩ ⊗ |𝑷𝑩⟩ +𝐂𝟐− 𝑪𝟏
𝟐 |𝑷𝑨⟩ ⊗ |𝑴𝑩⟩ +𝐂𝟏− 𝑪𝟐
𝟐 |𝑴𝑨⟩ ⊗ |𝑷𝑩⟩ −𝐂𝟏+ 𝑪𝟐
𝟐 |𝑴𝑨⟩ ⊗ |𝑴𝑩⟩ (32)
これは一般的な係数 C1、C2では量子もつれあい状態にはならないことを示している。(31)が完全な逆 相関を持つ(片方が P ならばもう片方が M)ためには、C1、C2の絶対値が同じで、かつ、位相差がπ でなければならない。上述した規格化条件と合わせて考えると𝑪𝟏= 𝟏
√𝟐 , 𝐂𝟐= − 𝟏
√𝟐となるので、完全な逆 相関を持つ最大のもつれあい状態は一般的に
|ψ⟩ = 1
√2(|Ψ𝐴⟩⨂|Ψ⊥B〉− |Ψ⊥A〉⨂|ΨB〉) = 1
√2(|Ψ′𝐴⟩⨂|Ψ′⊥B〉− |Ψ′⊥A〉⨂|Ψ′B〉) (33)
と書ける。ここで|Ψ⊥〉というのは状態|Ψ〉に対して、θBを180°回転させた状態を表し、2つは正 規直交基底をなす。ケットの下添え字は Figure1 の A、B どちらの系であるかを表し、ここではΨ ≠ Ψ‘
とする。|Ψ〉は(16)で示した偏光の状態ベクトルである。(33)は片方の状態が決まれば他方の状態も 確定することを表しており、中辺と右辺の関係は、測定基底を変えても状態が変化していないことから、
まさに測定基底に依らず一定の相関があることを示している。(34)を密度行列で表すと
|ψ⟩⟨𝝍| =𝟏 𝟐(
𝟎 𝟎 𝟎 𝟏
𝟎 𝟎
𝟎 −𝟏 −𝟏 𝟎
𝟎 𝟎
𝟏 𝟎 𝟎 𝟎
) (34)
となる。
- 13 -
第3章 生成法とセットアップ
3-1 自発的パラメトリック下方変換
もつれあい状態を作る前に、光子対を発生させる必要がある。光子対はさまざまな発生方法があるが、
ここでは量子情報技術分野で良く用いられている非線形結晶による方法を用いる。条件にあった非線形 結晶を用いることで、比較的強い光子対強度が得られるのが特徴である。
結晶中に電場が入射すると、その電場の影響を受けて分極𝑃⃑ が生じる。分極は電場の作用を受けて発 生するから、当然電場の関数となっているはずである。今、分極 P を電場で冪級数展開すると
P = 𝜀0∑ 𝜒(𝑖)𝐸𝑖
∞
𝑖=1
(35)
一般的には、線形電気感受率𝜒(1)に比べて非線形電気感受率𝜒(𝑖) (i ≥ 2)は微小であるため、非線形効果 は無視できる。しかしレーザーのように電場強度が十分に大きい場合には、E の冪で効いてくるため非 線形効果が顕著になる。(35)式において、E の2次の項まで考慮すると
P = 𝜀0(𝜒(1)𝐸 + 𝜒(2)𝐸2) (36)
真電荷および電流密度を無視すると、媒質中での波動方程式は以下のようになる。
∆E −εμ0 ∂2
∂t2E = μ0𝜀0χ(2) ∂2
∂t2𝐸2 (37)
ここでε0、μ0はそれぞれ真空の誘電率と真空の透磁率である。左辺第2項目の透磁率は一般的には真空 の透磁率の値ではないが、高周波数の場合には真空のものと考えて差し支えない。この媒質中を伝搬す る3つの平面波の相互作用の効果を考えるために、(37)の E に以下の波の式を代入する。
E(z, t) = ∑1 2
3
𝑗=1
(E0j(z) exp[i(kjz − ωj𝑡)] + c. c) (38)
ここでE0jはj番目の波の振幅を表す。(37)は線形方程式ではないため、波の式としては実数を代入しな ければ正しい解析はできない。よって(38)にあるように波の複素共役 c.c も加えている。(38)を(37)に 代入し、振幅の変化が、波長の範囲では小さいという近似
- 14 - ki|∂
∂zE𝑖| ≪ |∂2
∂z2E𝑖| (39)
の下で式変形をすると、左辺は
∑ 𝑖𝑘𝑖
3
𝑖=1
∂E0𝑖
∂z exp[i(kiz − ωi𝑡)] + c. c (40)
となり、6つの項がでてくる。右辺は
ε0μ0χ(2) 4
∂2
∂t2(∑{E0j(z) exp[i(kjz − ωj𝑡)] + c. c
3
𝑗=1
)
2
(41)
となり、括弧を展開すると±ωi± ωjの波が発生することが分かる。3つの波の周波数の間に
ω3= ω1+ ω2 (42)
の関係が成立する特別な場合を考えると、右辺を展開し時間偏微分演算子を作用させた後に出てくる項 の一部である以下の3つの項
−ω12ε0μ0χ(2)
4 E02∗ E03exp[i({−k2+ k3}z − {−ω2+ 𝜔3}𝑡)] (43)
−ω22ε0μ0χ(2)
4 E01∗ E03exp[i({−k1+ k3}z − {−ω1+ 𝜔3}𝑡)] (44)
−ω32ε0μ0χ(2)
4 E01E02exp[i({k1+ k2}z − {ω1+ 𝜔2}𝑡)] (45)
と左辺の同位相の項を比較することで
ik1
∂E01
∂z = −ω12ε0μ0χ(2)
4 E02∗ E03exp[i(k3− 𝑘2− 𝑘1)𝑧] (46) ik2
∂E02
∂z = −ω22ε0μ0χ(2)
4 E01∗ E03exp[i(k3− 𝑘2− 𝑘1)𝑧] (47) ik3
∂E03
∂z = −ω32ε0μ0χ(2)
4 E01E02exp[i(k3− 𝑘2− 𝑘1)𝑧] (48)
という式を得る。(46)、(47)、(48)の意味するところは、非線形効果が顕著になるような媒質では非線 形項を通じて3つの平面波の間に相互作用が生じることを示しており、これをパラメトリック相互作用 という。右辺を見ると次の条件
- 15 -
k3= k1+ k2 (49)
を満たすとき、相互作用の効果が最も顕著になることが分かる。(49)を位相整合条件といい、3次元の 場合には
𝑘3
⃑⃑⃑⃑ = 𝑘⃑⃑⃑⃑ + 𝑘1 ⃑⃑⃑⃑ 2 (50)
となる。(42)はエネルギー保存則に、(50)は運動量保存則に対応している。以上の議論に沿って言うと、
パラメトリック増幅とはω1、ω2、ω3の3つの角周波数のうち、ω1とω2に比べてω3の光の強度が大きい 場合に、ω3の光(ポンプ光)からω1とω2の光にエネルギーが流れ、ω1とω2の2つの角周波数の光が増 幅される過程のことをいう。エネルギー保存則を満たす範囲での角周波数の変換は非線形結晶にω3の 高強度なコヒーレント光に加えて、パラメトリック相互作用を引き起こさせるための外部光、ω1また はω2を入射するだけで達成される。結晶内で励起された電子による自然放出がある場合には、ω3のポ ンプレーザーを入射するだけでよい。これは自発的パラメトリック下方変換と呼ばれる。ここで問題と なるのは効率よく増幅されるための位相整合条件、増幅された2つの光(シグナル光とアイドラー光)
ω1とω2が同じ角周波数で発生するために必要な条件、
ω1= ω2= ω (51)
さらにもつれあい光子対が逆相関を示すよう、シグナル光とアイドラー光の偏光状態が直交する(H と V のように)結晶の条件を選ぶことである。次の節ではどのようにこれらの問題を達成していくのかを 述べる。
3-2 疑似位相整合
位相整合とは、シグナル光とアイドラー光の強度を大きくするために必要な操作のことであり、定量 的には位相整合条件(49)を達成することが目標となる。 位相整合条件(49)は ki = 2πn/λi の関係式を、
用いると 2λ3 = λ1 =λ2 の場合には n1=n2 であるから
n3=n1+ n2
2 (52)
となる。これは下方変換によって生成した光子対の屈折率が、入射した光に対する屈折率に一致しな ければならないことを示している。一般的に非線形結晶は複屈折であるため、光の偏光方向と進行方向 によって屈折率が異なる。3つの軸全ての方向の屈折率が異なる結晶を双軸結晶、3つの軸のうち2つ の軸方向の屈折率が等しいものを単軸結晶という。後者の場合に屈折率が等しい2つの軸を含む平面を
- 16 -
x-y 平面とし、それに垂直な方向をz軸とする。Figure4 に x-z 面内の任意の方向に光を入射したときの 様子をしめす。入射偏光が y 軸に向いているとき屈折率 noは入射方向のθの値によって変化しないこと が分かる。この光の成分を常光という。一方、入射偏光が x-z 面内にあるときの屈折率 neはθによって 値が変化する。この光の成分を異常光という。no = neを満たすθの方向の軸を光学軸というが、(52)を 満たすためには、この光学軸に平行光を入射することで、位相整合を達成することができる。
次に、位相整合条件を満たすか否かで、下方変換されたω1、ω2の2つの光の強度がどのように変化 するかを示す。E03が十分に大きく、移動距離 z による変化が無視できるという仮定の下で、(46)、(47)、
(48)の連立微分方程式を解くと、位相整合条件(49)を満たしている場合のω1の強度 I1は
𝐼1(𝑧) ∝ (E1(0)ch[√𝑎1𝑎2∗z] + E2∗(0)√𝑎1
𝑎2∗sh[√𝑎1𝑎2∗z])
2
(53)
となる。ここで ai=1
4 ω𝑗2
𝑘𝑗𝜀0𝜇0𝜒(2)𝐸3 であり ch、sh はそれぞれハイパーコサイン、ハイパーサインで ある。位相整合条件を満たしていない場合は、(46)、(47)、(48)にあるように振動部分が消えないため、
一定の周期で増加と減少を繰り返す。理論的には位相整合条件を満たした場合に、もっとももつれあい 光子対の強度を上げることができる。位相整合条件を達成した場合の、光の結晶中の伝搬距離と、強度 の関係を Figure6 に示す。結晶の長さを長くするほど強度を上げることができるが、位相整合の場合、
生成したもつれあい光子対は結晶をある角度φだけ異なる方向に伝搬する。このウォークオフ角φのた めに結晶を長くすることができず、大抵数ミリ程度の長さの結晶が用いられる。
次に疑似位相整合について説明する。実際に実験で用いている非線形結晶は PP(periodically poled)KTP(KTiOPO4)と呼ばれ、周期的に分極方向を反転させた構造をしている。その構造を Figure5 に示す。Figure6 の(a)のように位相不整合の場合には、ある長さの周期で強度が変わるが、減少に転じ
Figure 4:x-z 面内を伝搬する光
noは常光の屈折率、neは異常光の屈折率を表す。⃑ は波数ベクトルを表す。nk oは θ の値によって変化しな いが、neは変化する。
θ
n
e𝑘⃑
n
oz
x
- 17 - Figure 6:強度の伝搬距離依存性
(a)は位相不整合 (b)疑似位相整合 (c)位相整合 (木下 竜二,”量子相関を持った光子対生成源の開発”,広島大学 量子先端物質科学研究科 修士論文,33,2015 より[1])
る点で分極方向が反転するように結晶を作る技術が確立されたことで、Figure6 の(b)に示すような強度 の変化をさせることが可能となった。これを疑似位相整合という。非線形係数の大きさが同じ値の場合 には Figure6 に示すように、位相整合の方が強度は大きくなるが、疑似位相整合は位相整合条件を満た す必要がないため、光を入射させる角度の制限がなく、長い結晶を用いることが可能となる。さらに位 相整合の条件にとらわれる必要がなくなるため、より大きな非線形係数を示す結晶を(作成可能な範囲 で)選択することができる。その結果、PPKTP 結晶は通常の非線形結晶を、位相整合条件を満たすよ うに用いるよりも、多くのもつれあい光子対を得られることが分かっている。ただし入射光強度に制限 があるため、パルスレーザーの場合は1パルスあたりのエネルギーが大きくなり、PPKTP 結晶が使え ない場合が多い。
Figure 5:PPKTP 結晶の模式図
緑の矢印は光学軸の向きを表しており、実際の結晶は無色である。
λ=405nm H 偏光
λ=810nm H 偏光
λ=810nm V 偏光 10mm
1mm
1mm
- 18 - Figure 8:もつれあい光子の同時計測数の偏光依存性
(木下 竜二,”量子相関を持った光子対生成源の開発”,広島大学 量子先端物質科学研究科 修士論文,33,2015 より[1]) Figure 7:もつれあい光子の計測数の結晶温度依存性
(木下 竜二,”量子相関を持った光子対生成源の開発”,広島大学 修士論文,33,2015 より[1])
この PPKTP 結晶を用いる場合、入射光の偏光方向と結晶軸の間の角度の関係、および温度によって 出力する光子数が変化する。以前の研究室での実験結果を Figure7、8 に示す。Figure7 からは結晶の温 度は約 18.5℃に保った場合に、最も多くのもつれあい光子対を検出できることが分かる。疑似位相整合 の場合、結晶構造は温度によって微妙に変化するため、分極反転の長さが変化し、光子対の強度に影響 する。そのため、18.5℃に保った場合、最も効率よく擬似位相整合が達成できていることが分かる。
Figure8 は非線形結晶の結晶軸と同じ偏光方向のレーザーを入射させたとき、発生する光子対が最も多 くなることを示している。これは KTP 結晶の結晶軸に平行な偏光のビームを入射することで、入射偏 光に平行な成分と垂直な成分が強く誘起されるような向きに電気双極子が振動し、お互い偏光が直交す
- 19 -
る2つの光子対が生成するためである。角度が±1.5rad で、もつれあい光子対が全く生成されていない のは、電気双極子が結晶軸に垂直な方向に誘起されにくいためである。光子対の強度を高強度にするに は、PPKTP 結晶のオペレーションに注意する必要がある。
3-3 使用する光学素子
(a)波長板(WP : Wave Plate)
波長板は光の偏光状態を制御する光学素子である。光の振動方向によって、屈折率が異なる結晶の複屈 折性を用いて、ある方向に振動する成分とそれに垂直な振動成分との間に位相差を作り、透過後の偏光 状態を変える。光学素子を通過後、偏光状態がどのように変わるかというのは、数学的には光学素子の 特性によって決まるジョーンズ行列を状態ベクトルに作用させることによって計算することができる。
まずは位相をφ’ずらす波長板の作用を示すジョーンズ行列を導出する。複屈折性を持つ結晶は振動方向 によって屈折率が異なるため、位相伝搬速度が遅くなる軸をスロー軸(S 軸)、S 軸に直交する方向をフ ァスト軸(F 軸)とする。ここで F 軸方向に振動する成分の位相は、S 軸方向に振動する成分の位相より も早く伝搬するものとする。適当に H 方向とそれに直交する V 方向を定義し、H 軸と S 軸のなす角を θ’とする。ここまでの文字の定義を Figure9 に示す。任意の偏光の H 方向に振動する成分を AH、V 方 向に振動する成分を AV、波長板を透過後の H、V 方向の振動の成分を AH’、AV’とすると
( 𝐴𝐻′
𝐴𝑉′ ) = (𝐶𝑜𝑠𝜃′ −𝑆𝑖𝑛𝜃′ 𝑆𝑖𝑛𝜃′ 𝐶𝑜𝑠𝜃′) (𝑒−
𝑖𝜙′
2 0
0 𝑒𝑖𝜙
′ 2
) (𝐶𝑜𝑠𝜃′ 𝑆𝑖𝑛𝜃′
−𝑆𝑖𝑛𝜃′ 𝐶𝑜𝑠𝜃′) ( 𝐴𝐻
𝐴𝑉 ) (54)
Figure 9:HV 軸と SF 軸の関係
青がスロー軸、赤がファスト軸を表す。ファスト軸方向に振動する成分よりも、スロー軸方向に振動する成分の方が、位相が遅れる。
F V
S H
θ’
- 20 -
(54)右辺の左の行列から X、Y、Z とすると、Z は HV 軸を SF 軸に一致させる行列、Y は SF 軸方向の 成分に位相差をつける行列(ここでは対称性をよくするため S 軸がφ’/2 遅れ、F 軸がφ’/2 進むとして いる)、X は SF 軸に一致させた HV 軸をもとに戻す行列を示しており、この XYZ を計算することで、
波長板の作用を表すジョーンズ行列を導ける。実際に計算すると、そのジョーンズ行列𝑈̂𝑊𝑃は
𝑈̂𝑊𝑃= ( 𝑒− 𝑖𝜙
′
2𝑐𝑜𝑠2𝜃′+ 𝑒𝑖𝜙
′
2 𝑠𝑖𝑛2𝜃′ −𝑖𝑠𝑖𝑛𝜙′ 2 𝑠𝑖𝑛2𝜃′
−𝑖𝑠𝑖𝑛𝜙′
2 𝑠𝑖𝑛2𝜃′ 𝑒− 𝑖𝜙
′
2𝑐𝑜𝑠2𝜃′− 𝑒𝑖𝜙
′ 2 𝑠𝑖𝑛2𝜃′
) (55)
となる。この場合の位相2π×m(mは実数)のmが物理的には、どのように決まるのかを説明する。
Figure10 に光が波長板を通過するときの様子を表す。L を波長板の厚み、nSを S 軸方向の屈折率、nF を F 軸方向の屈折率、とする。波長板中を伝搬中の光の波長は 1/n 倍されるので、波数 k’は
k′= n k (56)
となる。よって波長板中に存在する波の数は
k′L = nkL (57)
このことから、波長板を通過後、S 軸方向に振動する波と F 軸方向に振動する波には、入射したところ を位相の基準としてそれぞれ(58)に示す分だけ位相が進む。
e−inS𝑘𝐿 , e−inF𝑘𝐿 (58)
L
Figure 10:光が波長板を通過するときの様子
L は波長板の厚みを表す。屈折率がnの媒質中では波長λは λ/n となる。
- 21 -
マイナスをつけている理由は、物理では慣例的に波の位相を i(kz-ωt)と記述しており、位相のズレが発 生する原因が空間(ここでの原因は屈折率nの波長板中を距離 L だけ伝搬したこと)にある場合には、
位相が進むと k(z-a) のような形になることで位相が進んだという直感に沿った形になる。このこと から進んだ分の位相はマイナスをつけた。さて S 軸、F 軸方向に振動する波をそれぞれ
ESeip , EF𝑒𝑖𝑝 (59)
と定義する。ここで
p = kz − ωt (60)
である。波長板を透過することで
(𝐸𝑆
𝐸𝐹) eip→ (𝐸𝑆 e−inS𝑘𝐿
𝐸𝐹e−inS𝑘𝐿) eip (61)
となる。→は波長板を通過したあとであることを示す。(55)を導出する過程では位相の基準を位相差の 中心としているので e−i(nS−𝑛𝐹)𝑘𝐿2 でくくると
(𝐸𝑆 e−i(nS−𝑛2𝐹)𝑘𝐿 𝐸𝐹 ei(nS−𝑛2𝐹)𝑘𝐿
) e−i(nS+𝑛2𝐹)𝑘𝐿 +𝑖𝑝 (62)
よって(54)で定義した位相のズレφ’に隠れている物理量は
∅′= (nS− nF)kL (63)
となる。このことから、波長板はある決まった波長でなければ、正しく偏光状態を変えることができな いことが分かる。特に、今回のセットアップではφ’=πに対応する HWP(Half Wave Plate)とφ’=π/2 に対応する QWP(Quarter Wave Plate)が用いられており、それぞれのジョーンズ行列は
𝑈̂𝐻𝑊𝑃= −i (𝐶𝑜𝑠2𝜃′ 𝑆𝑖𝑛2𝜃′
𝑆𝑖𝑛2𝜃′ −𝐶𝑜𝑠2𝜃′) (64)
𝑈̂𝑄𝑊𝑃= 1
√2(1 − 𝑖𝐶𝑜𝑠2𝜃′ −𝑖𝑆𝑖𝑛2𝜃′
−𝑖𝑆𝑖𝑛2𝜃′ 1 + 𝐶𝑜𝑠2𝜃′) (65)
となる。波長板に対応するジョーンズ行列はユニタリー演算子であり、理論的には逆過程を辿ること で偏光の量子状態は元に戻る。密度行列を用いて波長板を通した後の状態を記述する場合には、波長板 を表す変換行列(55)は単なるユニタリー行列による変換であるから、変換後の密度行列は
- 22 -
Figure 11:HWP(左)と QWP(右)による Bloch 球上での偏光の量子状態の時間発展
(中野 雅之,“偏光のエンタングルメント状態を用いた POVM 測定の不確定性の評価”,広島 大学 量子先端物質科学研究科 修士論文,14,2016 より[2])
𝜌̂ = 𝑈̂′ 𝑊𝑃𝜌̂𝑈̂𝑊𝑃† (66)
とかける。実際に水平偏光の状態|H >< H|に S 軸の方向を 22.5°(θ’=22.5)に向けた HWP のユニタリ ー演算子(64)を作用させてみると
−i ( 𝐶𝑜𝑠𝜋
4 𝑆𝑖𝑛𝜋 4 𝑆𝑖𝑛𝜋
4 −𝐶𝑜𝑠𝜋 4
) (1 0 0 0) i (
𝐶𝑜𝑠𝜋
4 𝑆𝑖𝑛𝜋 4 𝑆𝑖𝑛𝜋
4 −𝐶𝑜𝑠𝜋 4
) =1 2(1 1
1 1) = |P >< P| (67)
となり、Figure3 でいうと、z軸(赤い矢印)の正の方向を向いていたベクトルがx軸(青い矢印)の 正の方向に向くベクトルに変わることが分かる。ここで Bloch 球上でのz軸からの角度θBは実際の HWP の S 軸の設定角θ’の2倍になることに注意されたい。Figure11 に HWP および QWP による H 偏光状態からの変換を示す。波長板は S 軸方向に右手親指を立てたとき、HWP ならπ、QWP ならπ /2 だけ Bloch ベクトルを回転させるような作用をすることが分かる。
(b)偏光ビームスプリッター(PBS:Polarizing Beam Splitter)
PBS は偏光の H 成分を透過させ V 成分を反射する光学素子である(Figure12)。今回の実験で用いる偏 光選択素子は PBS と2つの波長領域に対応した DPBS(Double Polarizing Beam Splitter)の2つである。
後に実験セットアップを示すが、PBS は波長が 405nm に、DPBS は 405nm と 810nm の二つの波長領 域に対応したものを用いている。なお PBS は後に述べる偏光板とは異なり、理想的にはエネルギーの 損失がないため、変換はユニタリー変換であること付記しておく。
- 23 - Figure 12:PBS の偏光状態|Ψ〉に対する作用
(c)偏光板(PP:Polarizing Plate)
偏光板は偏光選択素子と呼ばれ、ある方向に振動している成分のみ透過させ、それに垂直な成分は吸収 する作用がある。偏光板を表すジョーンズ行列は、(55)を導出したのと同様の方法で導くことができる。
仮に Figure9 の S 軸方向に振動する成分のみ透過させると考えると
( 𝐴𝐻′
𝐴𝑉′ ) = (𝐶𝑜𝑠𝜃′ −𝑆𝑖𝑛𝜃′
𝑆𝑖𝑛𝜃′ 𝐶𝑜𝑠𝜃′ ) (1 0
0 0) (𝐶𝑜𝑠𝜃′ 𝑆𝑖𝑛𝜃′
−𝑆𝑖𝑛𝜃′ 𝐶𝑜𝑠𝜃′) ( 𝐴𝐻
𝐴𝑉 ) (68)
となる。右辺の左から3つの行列の計算結果が偏光板のジョーンズ行列を表しており
Π̂𝑃𝑃=1
2(1 + 𝐶𝑜𝑠2𝜃′ 𝑆𝑖𝑛2𝜃′
𝑆𝑖𝑛2𝜃′ 1 − 𝐶𝑜𝑠2𝜃′) (69)
となる。偏光選択素子は吸収を伴うため、ユニタリー変換ではない。偏光板を通過した後の状態は密度 行列を用いて表すと
𝜌̂ = Π′ ̂𝑃𝑃𝜌̂Π̂𝑃𝑃† (70)
(d)ダイクロイックミラー(DM:Dichroic Mirror)
DM は波長領域によって反射するか透過するかを選択できる素子であり、今回の実験で用いたものは 405nm の光を透過し、810nm の光を反射するものを用いている。
- 24 -
DPBS
ミラー
ミラー
PPKTP 405nm
DHWP
Figure 13:サニャック干渉計
赤い矢印の方向から励起用レーザーを P または M 偏光で入射
(e)バンドパスフィルター(BPF:Band Pass Filter)
BPF は選択した波長領域の光を透過し、それ以外の光をすべて吸収する素子である。同時計測をする際 に、2つの検出器の前に置く。自発的パラメトリック下方変換によって 810nm 以外の波長で発生した 2つの光子は大量のバックグラウンドの原因になってしまうため、それらの光が検出器に入らないよう にするために用いる。
3-4 サニャック干渉計による生成法
サニャック干渉計の構造を Figure13 に示す。本実験のセットアップでなぜ重ね合わせ状態を作ること ができるのかということの本質は全てこのサニャック干渉計にあるといっても過言ではない。Figure13 の左にある赤い矢印の方向から 405nm の励起用レーザーを P または M 偏光の状態で入射させる。どの ように P または M 偏光がきていると判断するかどうかは後の実験セットアップの節で述べる。P また は M 偏光の場合は、50%で透過、50%で反射する。まずは透過した場合を考えてみる。DPBS を 透過するのは水平偏光成分の入射光である。透過後、Figure13 の右側のミラーで反射され、PPKTP に 入射する。PPKTP は H 偏光の光が入射した時、非線形効果によって、H 偏光と V 偏光の2つの光子を 発生させる。2つの光子は Figure13 の下のミラーで反射され、DHWP に入射する。DHWP は(64)式 において、θ’=45°の向きに設定してある。Bloch 球で考える場合には、θB=90°の方向に S 軸があ