磁気軸受におけるディジタル制御方式の比較
石松 隆和*・下町 多佳志*
田口 喜祥**
Comparisons of Digital Control Laws on Active Magnetic Bearing
by
Takakazu ISHIMATSU*, Takashi SHIMOMACHI*and Nobuyoshi TAGUCHI**
Digital control laws are implemented on an active magnetic bearing system with Digital Signal Processor. Three types of digital controllers are designed to control the horizontal single−axis magnetic bearing;PID controller, PID with second−order derivative controller(PIDD2)and dynamic compensator based on an identity observer. Results of these digital controls implemented with DSP are compared with those of analogue controls implemented with operational amplifier in control−
lability. Comparisons of these experimental results show that while only a little difference between analogue control and digital one on control−lability is observed, the digital dynamiρcompensator proved to have some superiority. And these experimental results agreed with those of numerical simulation.
Key Ward;Application of Control, Magnetic Bearing, Active Magnetic Bearing, Thrust Bearing Numerical Simulation, Impulse Responce
1.緒 言
電磁石の吸引力でロータを非接触支持する能動形磁 気軸受は,十戒的ロスが極めて少ない,超高速回転が 可能,環境を潤滑油で汚染しない,粗悪な環境に強い 等,従来の機械軸受と比較して様々な優れた特徴を 持っている.磁気軸受はその特徴を生かして,主に宇 宙航空機器の分野で実用化されてきた.近年になって,
ターボ分子ポンプ,軸流コンプレッサや送風機,工作 機械等一般工業用にも商品化され,その用途を拡大し
ている1).
磁気軸受システムは本質的に不安定な系であり安定
化するためには,フィードバック制御が不可欠である.
そして,軸受性能を大きく左右する点で制御システム は極めて重要であり2)・3),磁気軸受の高性能化を図るた めには,より高度な制御則の導入が望ましい.
従来から,磁気軸受の制御系はアナログ制御が一般 的であり,より高度な制御の実現のためにはディジタ ル制御が望ましいが,演算速度の点でディジタル制御 を適用するのは実現困難であった.
しかし,近年になって高速・高性能なDSP(Digital Signal Processor)が開発され,磁気軸受のような高速 な制御系を要求する不安定系にもディジタル制御を適
平成3年9月30日受理
・長崎大学工学部(〒852長崎市文教町1−14)
**長崎県工業技術センター(〒857 長崎県大村市池田2−1303−8)
用することが可能になった.
ディジタル制御を適用した研究としてはPID制御や 最少次元オブザーバを適用したもの4)・5》,軸受機能のみ にとどまらずロータの不釣合いによる振れ回りや弾性 振動抑制機能を持つ磁気軸受の研究があるが6)・7),アナ
ログ制御とディジタル制御の両面から各種制御則を採 用した場合の,磁気軸受性能の定量的比較を実験的に 行ったものは見受けられない.
本論文では,磁気軸受システムにディジタル制御を 適用し各種の制御則を用いた場合の軸受性能を比較検 討することを目的に,横形1軸制御のスラスト磁気軸 受実験装置を二三し実験を行った.制御系をDSP
(μPD77230)により構成したディジタル制御系と,オペ アンプにより構成したアナログ制御系を使った制御実 験の結果を報告する.
Table l Main Specifications Mass of Rotor
Gap length
Gain of Power amp.
Bias Coil Current Force Constant Time constant Gap connstant
Gain of Displacement Sensor Scale factor
m=4.4Kg lo=1.Omm b=0.5A/V io=2.OA
KF=170N/A T=6.1msec a4=1600A/N Ky=2.0×104V/m a=1000
2.磁気軸受システム 2.1 システム構成
Fig。1に本論文で使用した磁気軸受のシステム構成 図を示す.Fig.2に実験装置の概要を示す. Table 1に
エ
Cbmputor
Contro:L 工ρgic Feedback Gain Samplinq Frequency
装置の主要諸元を示す.
ロータ①及びステータ②はs25c削り出しのSolid鉄 心である.ステータは定盤に固定され,ロータはラジ アル方向へ振れないようにワイヤーで支持されている.
ロータのスラスト方向の変位は渦電流式変位計③によ り検出され電磁石④の吸引力で制御される.パワーア ンプにはPWM(Pulse Width Modulation)形を用いた.
12h比
A/D
32b比
DSP 12b比 螺A
Sensor
2.2 磁気軸受システムの運動方程式
スラスト磁気軸受系の線形化した運動方程式は平衡 点からの軸の変位量をxとすれば次式で表すことがで
きる8).
X
Controlled Obゴect Power
Amp.
(PWM)
Fig.1 System Diagram
1
4
\ミ ト1ミ
、
\ここ
、〜ぶ
2
支=Acx十Bcu
y=Cx
x=〔Kyx Ky支/a q〕T
…[誌]
C=〔100〕
α=a β=KfKya/m
γ=a2/(TKy)
δ一1/T
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
ここで,qは磁束に対応する変数でありその他の変 数の意味はTable 1に示す.
また,離散系の状態方程式は,△Tをサンプリング時 間として(1)式から容易に求めることができる.零次 ホールダ入力を用いた場合の状態方程式を次に示す.
Fig.2 Thrust Magnetic Bearing
x(k十1)=Ax(k)十Bu(k)
A=exp(A。△T)
(8)
(9)
Bイ域・(Acτ)政d・ (10)
上式において,状態量xは軸変位xとその微分支そし て磁束qから構成されるが,q=(m/KF)文の関係があ り,軸変位を2度微分することですべての状態量を得 ることができる.従って,(1)〜(7)式で表される磁気軸 受システムにおいてノイズが少ない場合,PID制御に 観測量yの2階微分を加えるのとにより,状態フィー
ドバックを実現できることになる.
3.制御方式
ここでは,前節で述べたように観測量yの2階微分 を行うことで状態フィードバックが実現できることに 注目して,従来のPID制御に2階微分を加えた制御と オブザーバを用いた制御の比較検討を行った.また,
比較のためにPID制御の結果についても示す.
3.1 アナログPlD+2階微分制御
(制御方式 1)⑪式に示すような伝達関数を持つ アナログコントローラを製作した.(13)式の最後の項で ある2階微分の項を除けば通常のPID制御の伝達関連 となる.なお,以下では,PID+2階微分制御をPIDD2 制御と呼ぶこととする.2階微分項は近似微分を2度 重ねることにより容易に得られる.
C(S)一門+憲1+T籍旱1 KDDS2
(11)
十
(TDS十1)(TD2S十1)
3.2 ディジタルPlDD2制御
(制御方式2)(ID式に示されるPIDD2制御の伝達関数 を,オイラー法を用いて次のように離散化した.
以下に,制御入力u(k)を示す. 一
u(k)=一[up(k)十u1(k)十uD(k)十uD2(k)] (12)
ここで,u,(k),UI(k), UD(k),UD2(k)は各々,比例,近
似積分,近似微分,近似2階微分項であり,次式で与 えられる.
μp(k)=Kpy(k) (13)
・1(k)一T、畢△T[聴一1)
十△TKIy(k)]
恥(k)一覧呈△T[恥(k−1)
十{y(k)一y(k−1)}KD]
1
(14)
(15)
…(k)=T。、+△T[T・・u・・(k−1)+{・・(k)
一UD(k−1)}KDD]
ただし,KDD=KDKD2 (16)
3.・3 ディジタルオブザーバによる制御
(制御方式3) 全次元オブザーバを次式のように 構成し状能量を推定することで準最適制御を実現し
た4).
父(k十1)=(A二LC)父(k)十Ly(k)十Bu(k)(17)
u(k)=一K父(k) (18)
ここで,ズは状態変数の推定値,Lはオブザーバの設 計パラメータ,Kはフィードバックゲインである.
4.実験結果
4.1 制御パラメータの決定
制御パラメータは次のようにして決定した.すなわ ち,PID及びPIDD2制御については最適応答基準の1 つであるITAE法を9),オブザーバによる制御について・
は,最適レギュレータ理論を用いた.また,オブザー バの設計パラメータLは極の位置を考慮して決定し
た10).
Table 2に以上のようにして決定したフィードバッ クゲインを示す.
Table 2 Feedback Gains
アナログ・ディジタル ディジタル,
制御方式1,2 3 PID PIDD2 Observer
Kp 0.28 0.85 一
K1 3.0 26.0 『
K、(msec) L6 3.3 一
KD2(msec2) 一 2.1 一
T、(sec) 0.48 0.48 一
T、(msec) 0.33 0。33 一
T。,(msec) 一 〇。33 一
k1 1.16
k2 5.34
k3 8.21
11 0.8
12 3.0
13 3.0
4.2 インパルス応答
各制御方式を用いた場合のインパルス応答及びシ ミュレーション結果をFig.3に示す.インパルス応答 は軸端をハンマリングすることにより測定した1
岳0.125
だ 窪 ヨ8 0
房 召一。.1.25
コ ほ ロ ロ ロ コ ロ ニ コ
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匪 8 1 9 1 1 1 零 1
PID Control
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ゼ 窪 需 舞 締
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l l 10KHz l , 1 巳 l l
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l l 聰 1 ク: 1 1 6
コ ロ ロ コ じ ロ コ コ コロコロトロココロロのコ らロ ゐコロロコ コ ロロロづロロロロ コ ロトロロコ
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P工D Conヒrol
巳 0.125 E
甘 露
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Q−0.125 P工DD2Contro1
ロ コ ロ ロ じ ロ ロ
I l l l l o l 10msec
ロ ロ ロ ロ ロ コ コ
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P工DD2Control
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Digital(241くHz》l l l l l ; 1 } , 1 l r ■
Dynamic Compensation of Obse「ve「
E O.125
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サヨロー0.125
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ココロロト のロバ ロロコづココココらロロ コト サロバロロ ロぐロロ コトロロコロトロロコ 5…くHz I I l 8 0 膠 1 1 ロ コ ユ ロ コ コ ロ ロ
i I l 8 I l I l l
Fig.3 1mpulse Responce
Dynamic compensa七ion of observer Fig.4 Effect of Sampling Speed
Fig.3で制御をアナログ回路で実現した場合と,
ディジタル回路で実現した場合を比較するとPID制御 PIDD2制御ともに顕著な差異は見受けられなかった.
また,実験結果と数値シミュレーション結果を比較す るとPID制御を除いて比較的よく一致している. PID 制御において差異が生じているのは,制御ゲインが他 の制御則と比較してかなり小さく,軸ラジアル方向の ワイヤー支持の影響を大きく受けたためと考えられる.
4.3 サンプリング周波数と制御性能
各制御方式の最高サンプリング周波数は,PIDD2制 御方式が38kHz,オブザーバによる制御方式が24kHz であった.Fig.3の比較により磁気軸受の制御に十分 なサンプリング周波数であることが分かる.
Fig.3においてディジタル制御とアナログ制御の応 答に僅かの差異が見受けられた.そこで,サンプリン グ周波数の変化が各制御則の制御性能に与える影響を 調べるために,サンプリング周波数を変えてインパル ス応答実験を行った結果をFig.4に示す.
Fig.4より,本研究で使用した実験装置では約 10kHz以上のサンプリング周波数ではほとんど制御 性能に変化がないということができる.
興味深い事実として,PID制御はサンプリング周波 数が10kHz以下になると顕著な制御性能の劣化が見 受けられたが,PIDD2制御とオブザーバによる制御に おいては,依然十分良好な制御性能を維持しているこ とがわかる.このことを,確認するため各制御系の支 配極をTable 3に示す.ただし,理解を容易にするため
Table 3 Dominant Poles
Sampling Frequency 30 kHz 5kHz
Dominant
@ Poles
Natural Frequency飾
≠獅п@Damping Factorζ
Dominant
@ Poles
Natural Frequency(職
≠獅п@Damping Factorζ
PID Contro1 ●黷Q9±300] 酬;48Hz ト=0.096
o
│16±299コ ω話=48Hz ト=0.053 PIDD2
@ Contro1
・
黷P79±310] ωn=57Hz ト=0.50
●
黷Q38±360] ωn=68Hz ト=0.55 Identity
@ Observer
●
黷Q39±333」 ω。=65Hz ト=0.58
.
黷Q29±338J ωn=64Hz ト=0.56
に,連続系に変換した極を示しているlo).
Table 3よりPIDD2制御とオブザーバによる制御で は,サンプリング周波数の変化による支配極の大きな 変化が見受けられないのに対し,PID制御においては 不安定方向への移動が見受けられることがわかる.
このことは,オブザーバの様な複雑な制御則をディ ジタルで実現する場合,演算時間の増加からサンプリ ング周波数が低下するが,そのことが必ずしも制御性 能の顕著な劣化につながらないことを意味する.
1台のDSPで多軸を制御するような場合に好都合
な点である.
4.4 各制御方式の外力に対する軸剛性比較 ディジタル制御について,軸剛性の点より制御性能 の比較を行った.軸に外力を加えることを想定して制 御信号Uに正弦波状の外乱U。を加算し,外乱U。と軸変位 yとの周波数応答を測定した.Fig,5に磁気軸受系のブ ロック線図を示す.
測定結果をFig.6に示す. PID制御よりもPIDD2制御 やオブザーバによる制御の方が外乱に対するゲインが 低く軸剛性が高いことがわかる.これは,PIDD2制御 と,オブザーバにおいては近似的に状態フィードバッ クを実現しており,フィードバックゲインを高く取る ことが可能になった為である.なお,約20Hz以下でオ
ブザーバによる制御に対して,PIDD2制御の方が優れ ているが,PIDD2制御は状態フィードバックにさらに 積分制御を加えた制御を行っているからである.
4.5 定常軸振動振幅
定常時の軸振動振幅はいずれの制御則についても両 振幅で1.0μm以下であった.
4.6 アナログ方式の問題点
Fig.7にPIDD2制御を用いたときのインパルス応答 の一例を示す.
アナログ制御の場合に,応答の途中に段差が見受け られるが一部の制御回路に電気的飽和が生じたことに よるものである.同じ制御パラメータを用いてもディ ジタル制御系ではアナログ回路のような飽和が生じず 良好な制御性能演得られた.演算回路の飽和は,アナ ログ制御回路の設計の際に問題になりやすい点である.
暑0.125
ぢ 窪
l o
冠 β
Q−0.125
コ ロ ヨ じ コ コ コ ロ ロ
l l 鐸 1 5 1 1 10msec
コ ロ ロ ユ コ コ コ
…†一†…1Anal。gue雪一一「一一一一一一十一→一一一一
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l l l lDigtall ; l l
I 零 1 ! , l l I I
P工DD2Conしro1
Fig.7 1mpulse Response
u.(5}
u(8)4 う
b
← う
馬 F(3} 1 1+Ts ← m5舜 尋 D(8)
X(5) Y(s)
Kコ POWER AMP.&MAGNET ROTQR SE襲SOR
Fig.5 Block Diagram of Magnetic Bering
40
亀
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8 _40 180
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碧 幽
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コ コ コ に コ コ コ ユ
PID llI凶日 匡
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1 l l 幽 5 1 聖 轟噛
10 100 500 Frequency Hz
Fig.6 Rigidity of Rotor
5.結 論
DSPを用いてディジタル制御を実現した.制御則と してはPID制御, PIDD2制御及びオブザーバによる制 御を採用し,各々の制御性をオペアンプで実現したア ナログ制御と比較した.
(1)インパルス応答の比較の結果PID, PIDD2制御の 両者とも,アナログ方式をディジタル方式とすること によって性能の変化はほとんど見受けられなかった.
これは,DSPにより十分高速なディジタル制御が実 現できたことによる.
(2)アナログ回路での実現が難しいオブザーバによる 制御をDSPにより容易に実現し,良好な制御性能を持 つことを確認した.
(3)サンプリング周波数を低くすることによる制御性 能の劣化はオブザーバによる制御が最も少なく,続い てPIDD2制御, PID制御の順番であった.
(4)観測量の微分あるいは2階微分を行って状態量を
推定しフィードバックすることは,一般にノイズの影 響を考慮して行われないことが多い.しかし,本研究 における実験では,2階微分を使用して状態量を推定 し,フィードバックすることで良好な制御性能が得ら れた. .
、(5)外乱に対する軸剛性は,通常のPID制御方式と比 較してフィードバックゲインの大きく取れたPIDD2制 御や,オブザーバによる制御が大きい.また,低周波 数域においては積分制御の効果によってPIDD2制御が 最も優れた制御性能を有した. 、 (6)アナログ回路で制御系を構成する場合,演算回路 の飽和に十分注意して設計しなければならない.
参考文献
1)M.Brunet, ASME COGEN−TURBO(1987),191.
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