奈良教育大学学術リポジトリNEAR
土師器の螢光?線分析 ―纏向遺跡出土土器につい て―
著者 長友 恒人, 芝崎 清治
雑誌名 古文化財教育研究報告
巻 7
ページ 15‑19
発行年 1978‑07
URL http://hdl.handle.net/10105/349
土 師 器 の 螢 光 X線 分 析 一 纏 向遺跡出土土器について一
長 友 恒 人 ・ 芝 崎 清 (奈良教育大学物理教室
土器 の生産地 を自然科学的 手法に よって同定す る研究は主 に須恵器 を試料 として進め られているが,
須恵器 が出現す る以前の組文 ・弥生式土器や土師器についての系統的な研究の報告は極めて少 ない
1)。
その 主 な理 由はこれ らの 上 器 がいずれもせいぜい地面に穴 を穿つ程度で野焼 きす る原始的 な方法 で作 られているため ,須 恵器 における窯跡の ように生産地 を確認できる遺構が現存せず,何らかの形 で考古学的分類の助 けを借 りなければな らないこ とに よる。 また焼成法 が原始的であることに加 えて 粘土 の精選 も比較的 不十分 であるか ら胎土がち密 でな く粗粒 を含む こ とが多いので埋蔵後に周囲の影 響 を受 けやす い とも考 えられ,一土器片 の分析結果がその土器 の特性 を代表す るものであるか どうか 疑 ゎ しぃことも大 きな理 由である。 しか し ,も し上師器の どの部分 を分析 しても分析値の変動が小 さ いな らば,土師器の産地同定 も原理的に須恵器のそれ を踏襲す れば可能で あろ う。元素分析 した場合, 同 じ原料粘土か ら成 る土器の分析結果は焼成条件にほ とん ど依存 しない と考 え られ るか らである。
纏 向遺跡 出土の土師器は器型・胎土か らみて他の地方の遺跡か ら出土す る土器 と類似す るものが特 に多いことが特徴であ り ,産 地同定の試料 としては複雑であるだけに興味深い。 この報告 は纏 向遺跡 出上 の土師器が関連す る地方の遺跡か ら出土す る土器 とどの よ うに結 びつ くかを螢光X線分析に よっ
て明 らかにする研究の第一報である。
2
実 験 方 法土器片は
100〜
200メ ッシュ程度に細粉化 し塩化 ビニル リングを用いて15ト ンプ レスで加圧 成型 した。測定には2次ターゲ ット(Tiタ ーゲッ ト及びMOタ ーゲ ッ ト)の ェネル ギー分散型螢光X線分析器 を用 いた。分析 には
Si,K,∝ ,Ti,Rb,Srの
7元 素の含有量 を採 用 した。各元素 について ピー ク面積 を計算 した後,」 G‑1中
の各元素含有量 との比較でppm濃度 を算出 しその対数 値 を最終的なデータ とした。対数値 を選 んだのは地球化学的 な分析に よ く用い られていることに よる が ,含 有量が極端 に異なる2元素について含有量の分布 を 2次 元表示す るのに便利 な こ とも考慮 した ためである。5
測 定 と 結 果測 定 値 の 個 体 変 動
土師器の場合,土器片の分析値がその土器を特性づけるパラメータにな り 得るか どうかがまず問題になることは前述 した。そこで纏向遺跡出土の土師器の うち完全に復元でき る2個の壷
A,Bを
選び,A個体から9個 ,B個体か ら10個の試料片を分析 して各 々の変動 を調,
治
> 序
た。試料片は個体 中の一部分に偏 らない よ つ切 り取った。各個体中の元素の合有量
(
腹部上半 ,腹 部下半,底部か ら同数ず 1図に示す通 りである。変動係数 は ど うに 日縁部 ,頸 部,
対数値 )の 変動は第
Homogeneity of 01d Potteries‖
}laj i ki‖A‐ 0.5%
B H O.8%
A H 0 8%
A HO.9%
B H O.7%
A 卜■ 1.9%
B H l.7%
3.0
lol concentration
第1図
土 師器1個体中の元素含有量 の変動(%は変動係数)
の元素について も1.9%以下であ り ,標 準偏差か らはずれる分析値 もば らつ きは小 さい。この ことは 土師器の どの部分か ら得 られた分析値 も ,そ の土器の特性 を代表 し得る ものであることを示 している。
ク ラ ス タ ー 解 析
次に纏 向遺跡出土土器66点を分析 して似 か よった特性 を示す土器群 に分類す るため クラス ター解析 を行なった。 クラス ター解析 はサ ンプルの中で似か よった特性 を示す ものか ら
1原
に群分け してい く手法であるか ら,類似 した特性 の土器 を選び出す こ とはで きてもそれのみで産地 同定ができる訳 ではない。 しか し,群 分け。した結果は考古学的な分類 とある程度の対応があって ,後 述の関連地方出土土器 と比較する場合の参考になると考 えられる。計算 はユーク リッ ド距離に よる重 心法 を用いた京都大学大型計算機セ ンターの プ ログラムで実行 した。第2図は
K,∝
,‐ ,Rb,Srの分析値 を適用 した計算の結果である。解析の結果は河 内系統 と 東海系統 を含む グル ープがあることを示 しているが ,そ の他については試料数 が少ないため グル ープ を形成するか どうかは判断できない。大和系統 とされるものは試料数 が多 いにもかかわ らずす群 とし てま とま らない。‑16‑
17s ̲̲̲一 一 ―一―
:::̲̲I}
15o―
一二一 ―一
4i l
】 0△
12▲
34 35
19△38 0
43 o60 57 32 27 65 64 23 50 ●
―
8 54 22 17h 53 21 19 42 39
61丼63 30 46
9+ 4x
18 40 55X
31 62
29 0 16云13△11ム
44
14X45
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考 占学 に よ る産 地 系統
●
河
内
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東海
※
山
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西 瀬 戸 内日
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江
▲
幡
磨
無 印 大
和
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‐C 0 0
第
2図経 向遺 跡 土 師器
66点の ク ラス ター解 析
東海地方出止土師器 との地較
クラスター分析の適用限界 を超 えて,纏向遺跡 出土土器の産地 を 同定す るためには ,関 連す る地方の土器 との比較 が必要 であ り,最終的には関連す る地方以外の土器 の特性 と一致 しないことを確認 しなければな らないだろ う。今回はその第=段階 として纏 向遺跡 出土 の東海系統 とみなされる土器 と考古学的特徴 が類似 している愛知県一官市下渡 ,元 屋敷,南木戸の
3
遺跡 か ら出土 した土師器 (以 下,一宮 の土師器 と称す)100点
余 りの うちか ら任意に選 んだ20点の分析結果 と比較 した。一官の土師器の分析結果 を纏向出土土師器の結果 とともにFe― Rbの分布図 で示 したものが第3図である。図か ら明 らかなように一官の土師器はFeの対数濃度がほぼ4.5以下 であるの が特徴であるが,纏向の東海系統 とされる土器 も同様の特徴 を示 している。 この結果は少な くとも東海系統 とされる土器は東海地方で生産 したもの を運搬 したとみなす ことに肯定的 な結論 を与 えている。
2'o tog pp.
第 3図
纏 向遺 跡 土 師器
(河内 ・大 和 。東 海 系統 )と 東 海 土 師器
(一宮 出土
)のRb― Fe分 布 図
E Q Q 0
〇 一
詢
十
0
+
+
+ °°
O o
0°
0。
+: Klirachi
%
♂①
・ Φ
・ ︒
O υ
%
pO O O
l 沖 ぼ
Yamato Tokai Tokai (r
① INOMIYA)
‑18‑
4
考察
纏 向出土土 器 の うち河 内系統 ,東海系統 とされ る一群 は螢光X線分 析 の結 果 も1グル ープを形 成 し て いるこ とを示 した が ,他 の系統 の ものにつ いては試料 が少なかった為 ,判断 で きなか った。大和系 統 とされ る一群 はそ れ 自体 で グル ープを形成す る よ うな特徴 を示 さな いが ,螢 光X線分析 の結 果 では 河 内系統 グル ー プ と極 め てよ ぃ一致 を示 す ものがあ り ,ま た一官 の土師器 の特徴 を有す るもの もある こ とは注 目される。 この こ とか ら判断 して大和系統 とされ るものの い くつ か は河 内系統 または東海系 統 に帰属す る可能性 が ある。
更 に詳 細 に纏 向遺 跡土 師器 の産地 を同定す るため に ,考 古学的判 定 の産地系統 に対応す る地方の遺 跡 か ら出土 した土 器 を各地方 につ いて数 10点ず つ分析 して比較 す る予定 である。 その場 合 ,地 方 の 遺 跡 としては経 向遺 跡 の よ うに複 雑 な特性 を示 す ものは避 けなけれ ばな らな い。 また各地方 の土師器 が その地 方の地域 特性 を正 し く反 映 して いるもの であるこ とを検証 しなければな らないが ,そ れ は同 じ地 方 か ら出土 した須恵 器 (窯 跡 であれ ば理 想的
)の
分析 値 と比較 す る こ とに よって可能 とな るであ ろ う。試料 を快 く提供 していただいた奈 良県立橿原考古学研究所の石野博信氏,一宮市 市史編纂 室の岩野 見司氏に感謝す る。 また クラス ター解析にあたつては京大理学部地質学鉱物学教室の西脇二一氏に多 大の協 力 をいただいた。
参 考 文 献
1)三
辻利一・赤 阪賀世子・小池進・工藤雅樹・渡辺泰伸 :奈 良教育大学古文化財教育研究報告,
第
6号 ,P17,(1977).
辞 謝