環境変化と組織適応に関する 基礎的考察
斉 藤 進・鈴木 昭平*
は じ め に
第一章現代における変化の特質 第二章組織とその環境の定義 第三章組織存続の意味 第四章 組織存続のメカニズム 第五章 一時性と適応的組織構造
は じ め に
昭和49年,50年と戦後始めて経験した我が国経済の低成長は,多数の問題を 提起した・個別企業にとって,それは公害,環境問題さらに企業の反社会性な どの形で具現化することになった。これらの問題の因すべてが企業の側に帰因 するとは言えないが,個別企業はこれらの問題になんらかの方法で対応する事 が要請されるに到った。か〜る要請に企業が十分答えたか否か議論が存るとこ ろであり,事実,十分にその要請を満さなかった事例も発見されるのである。
ところで,これら事例の因を資本の増殖メカニズムの必然的結果であるとし て,か〜るメカニズムを正当化する資本主義に帰着させる見解が存在する。し
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かし,資本主義以外の制度を採用している国々においても,公害,環境問題等
が発生している事を考えれば,これらの問題がある種の制度に原因すると即座
に断じる事はできない。それ故,か〜る問題の解明に際しては,制度の差異を
越え共通に存在する要因に従がい分析せねばならない。この共通の要因を組織
と考えれば(企業はその組織の一部である),組織と環境との相互作用の位相
によりこれらの問題が発生する事になる。従ってこの相互作用の諸様相を分析
せねばならない。
また,これまで「組織論」でなされてきた議論は,どちらかと言えば組織内 部の諸問題に関るものであって,組織間(interorganization)に関する議論は十 分になされてこなかった。我々が本論文であつかう組織と環境(環境をルーズ な組織と考える)の問題の研究目的は,この組織間行動(interorganizational
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behav三〇r)の問題解明に到るための基礎的な分析である。
これら時代的・理論上の要請から,我々は,この基礎的研究を行うのであ り,基礎的研究であるから,これらの要請に満足な解答を与えるに到らなかっ たが,我々の研究の礎石は一定程度作られたと思われる。
第一章 現代における変化の特質 〆
最近では,P・F・ドラッカーの『断絶の時代』に代表されるように,「現 代は変化の時代である」と言われることが多い。しかしながら,概ね人類の歴 史が変化の歴史であったことは周知の事実である。変化は過去においても同じ
く経験されているはずなのに,どうして「現代は」という限定が改めて行われ なければならないのであろうか。おそらく,そこで重要視されているのは,私 たちが直面しつつある現代の変化とそれ以前に生じた変化とでは,内容の質が 根本的に異なるということであろう。もしもこのことが妥当するならば,私た ちは決定的に重大な事態に遭遇していると言わなければならない。なぜなら ば,これ迄の様な方法ではこの異質な変化に適応しえず,存続が困難となるか らである。
ところで私は,適応という言葉と存続という言葉とを一つの組合せとして受 けとめることにする。すなわち,存続の前提として適応を考えるのである。人 間自身をも含めた情況において,人間が生存(=存続)を確保するためには,
その情況に何らかの形で適応していかねばならない。つまり,その情況に変化 の生じたことが判明し且つそれが人間の生存を左右すると考えられるのであれ ば,その重要性の程度に従って,その変化を自らの生存にとって不利でないよ うに対処しなければならない。存続を確保するために変化に対処するこのメカ ニズムを「適応のメカニズム」と呼ぶことにしよう。
明らかに推論しうることであるが,現代の変化が過去のそれと本質的に異な
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るのであれば,先人が創造し遺してくれた既存の適応のメカニズムにのみ依存 していたのでは,現代に生きる私たちの生存が保証されなくなる。従って,私 たちは改めて,現代の変化に見合った新しい適応のメカニズムを工夫して行か なければならない。そのためにはまず,この変化の質的相違の理解を必要とす る。そしてその理解がまた,新しい適応のメカニズム創造の手懸りを提供する ものと思われる。
例えば,世界の主要な国々における一人当り実質国民総生産の最近の成長趨 勢を検討してみると,凡そではあるが,この百年の間で少なくとも五倍,多け れば十倍以上の増加のあったことが分かる。おそらく我が柏本はその代表的存 在であり,戦後の三十年間で約十倍の増加を記録している。これらの数字は,
現在に生きる私たちが百年前の人々に比べて,一人当り五倍から十倍あるいは それ以上の物的なものとの関係を有していることを示している。また,私たち の一人一人がその構成員である世界人口の趨勢を検討してみると,1800年に比 ぺて1970年現在の人口は約四倍に増加しているし,1985年推計によればそれは 五倍以上にも達すると言われている。これは,現在に生きる私たちが,約二百 年以前の人々に比較して四倍から五倍の人々と接触する可能性を示している。
地球上全体の実質国民総生産は,一人当りのそれと世界人口とから導き出せ るのであるが,その増加の程度は,人類の歴史のごく最近において絶望的な程 に拡大したと言っても過言ではない。今日の私たちの身辺を通過する物及び人 の量は,百年か二百年以前の人々と比較してさえ数十倍に増大している。しか も,これらの物や人々が混合されて繊りなす情況に注目してみると,その複雑 化の増大は測り知れないものであり,それはまさにミ加速度的ミに増加し続け てきていると言えるのである。
これらの数字的量的に表わされた変化は,質的な変化を生ぜせしめる基礎を 形成している。情況の複雑化は,それに関与する人間にとって,一定の時間の 間に有する「関係」の量が加速度的に増大することを意味している。このこと から当然の結果として,一一つの関係との「継続時間」を極度に減少させねばな
らなくなると考えられる。一方,生物学的存在としての人間は,それ自体とし ては,それ程急速に進化しうることは不可能である。このように考えると,私 たちは現代の変化の重要な特徴として,「関係の継続時間の短縮化」に焦点を 合わせざるを得ないのである。
次に私は,この側面に加えて,既述の数字的量的変化の根底で進行しつつあ
る別の質的変化に注目したい。そのためには,今日の驚異的な経済的発展を可 能にし,それによって人口の増加を支え,且つ「関係の継続時間の短縮化」さ えもたらしたその源泉について考察する必要がある。その源泉として,私たち は一連の技術革新を考えねばならない。技術革新と経済発展とは不則不離の関 係にあるからである。そこで,これらの技術革新の母胎である諸科学,特に自 然科学の領域で生じた科学技術の発展を検討してみよう。未来社会学者である A・トフラーは次のように述べている。「このように驚異的な経済現象の背景 には,猛烈なうなりをあげている変化の大型エンジンー一つまり科学技術一 が存在している。もちろん,社会における変化の源が,ただ科学技術のみであ るというのではない。社会変動は,大気中にある化学物資の構成や,気候の変 化,繁殖力の変化その他多くの要素によってひき起こされる。だが,科学技術
α)
が,加速的推進力の大きなものであることは議論の余地がない。」
この技術革新の母胎である科学の諸分野では,特に今世紀に入ってから,次 々と加速度的に「新奇な発展」が企てられている。例えば,近い将来における生 活空間の開拓を目ざす海洋開発のために,海底で作業する人々に空気を供給す
る人工鯛の研究が,現実に或る電気メーカーの研究所で行われているという。
また,食糧問題と密接な関係を有する気象の分野では,気候の人工的変更が日 常の話題となっており,その可能性は具体化されつつある。医学の分野におい ても,試験管の中での受精を成功させており,これによって人間の性の在り方 や家庭の意味など,それにまつわる一連の問題に疑問が投げ掛けられている。
また,人間以上の確かな記憶能力と計算能力とを有する電子計算機の出現とそ の実用化は,職場の再編成をうながしており,入間の社会的価値に対して微妙 な影響を及ぼしている。さらに,米ソを代表とする一連の宇宙開発計画に象徴 されるように,私たちの生活及び思考は,今や地球から宇宙へと拡大する傾向 を示している。このような科学の諸分野における研究がもたらす新奇性は,技 術革新を通じて産業化され,日常の私たちの身辺に,形を変えて現われてきて いると考えられる。
さて,「関係の継続時間の短縮化」は,確かに情況の変動性を高める原因の 一つとなりうるだろう。しかしながら,次々と生ずる関係を構成するその要素 が共通していれば,それは変化のペースの問題でしかなく,そのペースに合わ せる努力によって過去の適応のメカニズムが利用出来,比較的に安定して情況
を把握することが可能である。けれども,これらの要素に新奇性が侵入してく
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ると,最早そのような期待は許されない。その関係は,過去に少しも経験され ていない新しい関係なのである。すなわち,関係の継続時間の短縮化と新奇性 とが結合した結果,かかる関係から成る情況が連続的に出現すると考えられ る。これらの情況において私たちが持たねばならない関係は,全く「一時的」
で「非恒久的」なものとなる。ゆえに,このような情況の中で生存して行くた めには,それ成りの工夫を講じて行かなければならない。従来の知識や経験に 依存して生存していくことは,この瞬間にも増々困難となりつつあるのであ
る。
以上のことから私は,「現代は変化の時代である」と言われるその理由が,
変化の加速度的増大による関係の継続時間の短縮化と,変化そのものの新奇 性,そしてこの二つの結合によって結果される関係の一時性あるいは非恒久性
とに根ざすものと理解するのである。
第二章 組織とその環境の定義
前章では,現代の社会現象としての変化の特質を検討した。そしてそれは,
変化の加速度的増大と新奇性,さらにそれらの結合的結果としての一時性とし てとらえられた。そこで次に私たちは,組織適応のメカニズムの理解を前提と することにより,かかる情況における効率的適応のメカニズムの必要要件を明 確にしたいと考える。ここで適応という言葉は,ある情況における組織存続の 意味として,取り合えず用いることにする。それゆえ,組織の適応のメカニズ ムの理解は,組織の存続メカニズムの理解に依存することになる。だとすれ ば,私たちに取り合えず必要なことは,組織概念の明確化であり,さらに組織 存続の意味を明らかにすることである。この章では,前者の組織概念の明確化
と,それに結果する環境概念の明確化とを行うこととする。
ところで,人間が社会的存在であるということは,多数の人間集団の中にお いてのみ人間が存在しうるということを意味している。個人は,家庭,友人関 係,学校,職場などにおける経験と,そこから得る知識の蓄積によって社会化 するのである。しかしながら,ここで単に集団が,「二人以上の人々の集り」
といった量的集団として解せられるのであれば,ただ一人の人間の存在と何ら
異なるところはないのであって,その人々の存在は集団行動の分析という点に
おいては意味を持たない。ゆえに,それは不十分な理解でしかないと言える。
重要なのは,集団という言葉が,同時に,それを構成する人々の間に何らかの 相互作用が存在しているということを意味することである。すなわち,集団=
社会は,人々の間に協働的な相互作用が営まれて初めて,本当の意味で成立す るのである。そして,この相互作用の具体的な表出として,社会現象と言われ るものが観察されると考えうるのである。従って,社会現象分析のためには,
「集団」という用語よりも,集団内に存在する協働的な相互作用を重視する意 味から,「協働体系」という用語のほうが適切であり,これに着目することが 大切であるように思われる。
そこで私たちは,この協働体系の相互作用を規定する要因は何かということ を検討しなければならない。そのためにはまず,協働体系が何から構成されて いるかを知る必要がある。協働体系とは集団の別の呼称であり,それは具体的 には,企業や学校や組合や政党などを意味している。従ってそこには,土地建 物,備品機械,工具,そして体重を有し一定の空間を占有する人体などの物的 要素の集りが存在する。また,協働体系に参加している人間は,生物学上は哺 乳類の中の霊長類に属している。ゆえに,いついかなる時でもその生物的性格 に制約されている。人間は,筋肉の能力を越える力を出すことは出来ないし,
労働を継続して行うと生理的に疲労を増す。人間は,一定の濃度の空気,十分 な養分,そして睡眠も欠くことは出来ない。これらは,協働体系に生物的要因 の存在する証拠である。さらに人間は,各自異なる過去の経験と知識を有し,
且つものごとの解釈の仕方も異なる。人間の有するかかる個性を切り離すこと は不可能であるために,協働体系には必ず個人的要素の集合が存在する。最後 に,協働する複数の人間は,そのために一定の言語を用いたり,或る習慣や規 則に従ったりしなければならない。それらは,人間がそれ迄の社会化の過程で 獲得したり,その協働体系における協働の過程で培うものであり,これらは社 会的要素として区分される。このような考察から私たちは,いかなる協働体系 においても,それを構成している諸要素は,上のように区分され,次のような 補助体系を形成すると考える。すなわち,ω物的体系,(2)生物的体系,(3)個人 的体系,(4)社会的体系である。
協働体系とは,このように,物的体系,生物的体系,個人的体系,社会的体
系などの補助体系から成る全体系と考えられるのであるが,これらの補助体系
が全体系になるためには,それらの間に意識的な相互作用が行なわれなければ
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ならない。この相互作用の具体的な表出が社会現象として観察され,先の社会 的体系の構成要素となるのであるから,この相互作用も実は社会的体系に属す る。ところで,C・1。バーナードは,社会的体系に属するこの「意識的な相 互作用」の部分のみを取り出して,特に「組織」と命名した。この組織こそ協 働体系を体系たらしめ,その運営を指導する行動主体と考えられる。それは,
協働体系にとってみれば,社会的体系の部分的体系であり,やはり補助体系に すぎないけれども,それは協働体系にとって決定的に重要な体系なのである。
従って,組織こそ協働体系を分析するための中心的な概念なのであると言え
る。
逆に考えてみれば,組織というのは,協働体系から,物的体系,生物的体 系,個人的体系,そして「意識的な相互作用」以外の社会的体系などに属する 諸要素を全て拾象してしまった残基とも言えるだろう。私たちが日常識別する 多くの具体的な協働体系は,これらの組織以外の補助体系を構成する諸要素が 具体化した結果である。C。1・バーナードは,「組織とは,意識的に調整さ
(2)
れた人間の活動や諸力の体系」と定義したけれども,彼がこのような定義を用 いたのは,この定義によれば,無数の具体的な協働体系にみられる,物的体 系,生物的体系,個人的体系,そして組織を除く社会的体系などの多様性の全 てが,組織にとって考慮する必要のないものとなり,「かくして抽出された組
(3)
織は,あらゆる協働体系の一側件であることが明白となる」からである。
ところで,「人間の活動や諸力」が表われるためには,それらに先立ち,そ (4)
黷轤 規定する、いわゆるH・A・サイモンの言う「行為に導く選択の過程」
が存在しなければならないと考えられる。つまり,諸力諸活動というのは,選 択=意思決定という過程によって規定されるのである。従って,先述したC。
1・バーナードによる組織の定義は,H・A・サイモンの示唆に従うと,「二 入以上の人々の意識的に調整された意思決定の体系」と書き替えられる。
さて,このように組織が定義されると,私たちは容易に,組織に対する環境
という概念を明らかにすることが出来る。それは,組織の定義の補完的定義と
して述べられる。すなわち,「組織にとっての環境とは,その組織が意識的に
調整しえない人々の意思決定の複合体である」と定義される。もしも,特定の
組織が関わる全ての意思決定が意識的に調整しうるのであれば,まったく問題
はない。しかしながら,それは空想であって現実ではない。現実には,どの組
織にとっても意識的に調整しえない部分が存在するのである。
そこで,これらの概念が明確化されたゆえに,私たちは,協働体系一般にお ける存続の問題は,組織とその環境という概念を用いることによって論ずるこ とが出来ると考える。なぜならば,協働体系が存続するということと,その組 織が存続するということは本質的に同義とみなされるからである。そこで,次 章においては,組織存続の意味を明らかにしたい。
第三章 組織存続の意味
私たちは,組織概念の明確化と,それに結果するその環境概念の明確化とを 行った。そこで本章では,まだ扱われていない組織存続の意味を明らかにする ことに努めたい。そのためにはまず,組織が成立するのに必要な条件を検討し ておくことが望ましいと思われる。なぜならば,この条件を明らかにすること によって,組織存続の意味が明確化すると考えられるからである。そして,こ の明確化の後には,組織存続の条件についても検討するつもりである。
定義上,人間を離れて組織を考えることは出来ない。もちろん,組織とは二 人以上の入々の意識的に調整された意思決定の体系と定義されたのであるか
ら,組織を構成するのは人間そのものではなくて,その人々が担う組織の意思 決定である。それゆえ,体系から与えられた意思決定を担うことにより,組織 に対して努力を貢献しようとする意欲がこれらの人々に存在しなければならな いと考えられる。すなわち,組織成立のためにはこの組織への貢献意欲が不可 欠なのであり,もしもその組織に対して努力を貢献しようとする人々がいなけ れば,組織の成立はないのである。
ところで,たとえ貢献意欲を有する人々がいたとしても,この人々の担う意 思決定が体系とならなければ,組織とは言えない。或るものが体系を成すとい
うことは,その構成要素が相互に何らかの関連性を有し,それゆえに一つのま とまった全体として扱いうることを意味している。従って,これらの人々の行 うそれぞれの意思決定が一つの体系となるためには,まず共通目的が存在し,
且つ目的・手段関係に沿って分割されたその下位目的がこれらの意思決定の目 的となることによって関連付けられなければならない。このように,共通目的
というのも,組織成立にとっては不可欠な要素である。共通目的が存在せず,
ゆえに目的の共有が行われなければ,人々の意思決定が体系となることは出来
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ないのであり,従って組織は成立しないのである。
さて,人々に貢献意欲が存在し,且つ共通目的が存在してそれが目的手段・
関係に沿って下位分割されたとしよう。しかしながら,そうしたとしても,こ れらの目的が人々に伝達されてその意思決定の目的とならなければ・人々の意 思決定が意識的に調整されて組織という一つの体系になることは出来ない・そ れゆえに,伝達もやはり組織成立に不可欠な組織要素と言える。伝達とは,共 通目的と貢献意欲との結合において重要な役割を果すのである。
以上から私たちは,少なくとも組織が成立するためには,相互に意思伝達で きる人々がおり,それらの人々が組織の意思決定を担おうとする意欲を持ち,
共通目的の達成を目ざす,ということが必要であると考えるのであり,C・1
・バーナードは,「組織の要素は,(1)伝達,(2)貢献意欲,(3)共通目的である。
これらの要素は組織成立にあたって必要にして十分な条件であり,かようなす
で5)
べての組織にみられるものである」と述ぺている。
それはそうと,前章で明らかになったように,組織はつねに環境の中に存在 している。従って組織が成立するためには,これらの三要素をその時の環境に 適合するように結合することが必要であり,このようにして成立した組織が存 続するためには,その時々の環境に適合するように三要素を再結合しつづけな ければならないのである。すなわち,組織存続とは,その時々の環境に適合す るようにその組織の均衡を維持して行くことを意味している。これは・組織と 環境との間の均衡の問題と考えられる。そこで次に私たちは,この均衡を維持 するための条件を明らかにすることが必要である。ここでは、貢献意欲と共通
目的とを中心にして,この条件を明らかにしてみよう。
組織の定義から,そのエネルギーの源泉が組織に努力を貢献しようとする人
々,すなわち組織構成員にあることは明白である。そこでまず,組織構成員の
貢献意欲の確保について考えてみよう。組織を構成するその意思決定はこの組
織構成員によって担われるのであるから,人々が組織構成員となるということ
は,組織の意思決定を担うことで組織に努力を貢献しようとする意欲が人々に
存在することを意味する。従って,この貢献意欲とは,人々が個人的な自由を
幾分なりとも諦め,組織の目的を達成するために与えられたその非個性的な意
思決定を遂行することに自らを従わせるということであり,その結果としての
個人人格の部分的な放棄を意味している。ところで,人々が自らの自由を少し
でも捨て,非個性的な組織の意思決定を担うには,何らかによってそうするよ
うに動機付けられなければならない。それは,人々が組織に対して支払うとこ ろの犠牲,すなわち非個性的な意思決定を担うことによる貢献以上に,組織が 与えると期待される報酬,すなわち誘因の方が多く,しかもそれと同等の努力 を別の組織に投入する場合に比較して,この組織が与える誘因の方が多いと思 われ,かかる意味で個人的に満足のいく取り引きであると判断されるときに,
人々が組織に努力を貢献しようと動機付けられるのである。そして,その結果 組織構成員となると考えられる。つまり,貢献意欲とは,個人の立場からの誘 因(inducement)と貢献(cont量bution)の差を正に確保することであり,かか る個人的な誘因1と貢献Cとの差が正であることを能率的であるとすれば,そ れは能率の問題でもある。
さて,能率的な組織を維持するためには,1−Cの差を正にすることが必要 なのであるが,その場合,組織の能率を維持するための1の生産において組織 に投入されるものは,組織エネルギーの源泉であるC以外にはない。つまり,
1はCによって生み出されるものと考えられる。従って,組織の能率は,C以 上の1を生み出す具体的なCをいかに構成するかに依存すると言える。ところ で,組織の構成員が担うのは,非個性的な組織の意思決定とされている。ゆえ に,具体的なCがいかに構成されるかということは,共通目的の達成のために 組織が構築する非個性的な意思決定の体系に依存すると考えられる。ここで,
組織の共通目的は組織存続すなわち組織構成員全体の1−Cの差を正にするこ とであるから,かかる目的より規定される非個性的な意思決定は構成員全体に 対して能率的でなければならない。ところで,構成員全体の1−Cの正の維持 が一応の組織目的であるとしたが,かかる抽象的目的では組織は具体的に機能
しえないため,抽象的目的を具体的な目的に解釈し直されねばならない。この 解釈の過程で,組織や環境の諸特性が考慮されることになるのである。以降,
共通目的と言った場合,それは具体的な組織目的を示すこととする。
明らかに,組織を考える場合,その環境を無視することは出来ない。そし て,組織を存続させるということは,共通目的を達成するための非個性的な意 思決定体系が,その環境との均衡を維持することを意味している。ある共通目 的が達成されることにより,その環境との均衡が維持されるわけであるから,
その共通目的は,環境に則して設定されなければならないし,その組織の特性
に合ったものでなければならない。すなわち,能率を反映する組織の共通目的
が,その環境において達成可能なものでなければならないのである。組織の共
斎藤・鈴木:環境変化と組織適応に関する基礎的考察 11
通目的が達成されることを有効的と言い,その達成の程度を有効性という言葉 で表現するならば,組織の非個性的な意思決定体系がその環境において,どの 程度共通目的を達成出来るかというその有効性がつねに検討されなければなら ないのである。
以上の考察から私たちは,組織と環境との均衡を維持することによって組織 を存続させる条件が,組織の能率と組織の有効性であると結論する・それで は,これらの条件を満たす具体的な組織の意思決定体系,すなわち組織存続の メカニズムとはいかなるものであろうか。このメカニズムの要点については次 章で取り上げることにする。
第四章 組織存続のメカニズム
これ迄のところにおいて私たちは,組織とその環境との定義を行い,これら の定義に基づいて組織成立の条件を検討することによって組織存続の意味を明
らかにしてきた。組織存続とは,その時々の環境に適合するように組織の三要 素を結合することであり,組織と環境との均衡を維持することを意味している と解された。この均衡を維持するための条件が組織の能率と組織の有効性であ り,従って組織存続のメカニズムとは,この二条件を満たすことによって組織 とその環境との均衡を維持するメカニズムでなければならない。本章では,こ のメカニズムの要点を理解することに努めたい。ところで,この考察を進める 場合,ここでは組織構成員全体の1が変化しないと仮定しよう。それは,この 全体の1がその時の社会的欲求構造によって規定されると考えられるからであ り,しかも,この社会的欲求構造は例外的な場合を除いて比較的安定している からである。前章で述べたように能率的な組織を維持するためには,全体の1 一Cの差をつねに正にすることが必要である。この1はCによって生み出され るのであるが,具体的な組織の存続のためには,C以上の1を生み出す具体的 なCをその環境や組織特性を考慮して構成しなければならない。そこで,全体 の1を一定とすれば,それが組織存続のメカニズムに及ぼす作用を取り合えず 変えずに考察することが出来るのである。ゆえに,本章で主として扱うべきこ
とは,一定の1を生み出す具体的なCをいかに構成するかということであり,
主として有効性の問題である。
ところで,この一定の1を生み出す具体的なCを構成するためには,環境や 組織の特性を考慮して共通目的を設定し,この共通目的の達成のために組織の 非個性的な意思決定体系を機能させなければならない。つまり,組織存続のメ カニズムを考察するには,少なくともこの二点を検討する必要があると考えら れる。そこでまず,共通目的の設定について考察してみよう。このためにはも ちうん,環境と組織特性についての情報を得なければならないのであるが,か かる情報のサーチや処理や伝達はそれ以前に存在する組織の機能に依存して得 られる。この情報は,組織内の或る一定の経路を処理されながら伝達されるの であり,この経路は伝達経路と呼ばれている。これは,フォーマルには組織の 非個性的な意思決定の包摂関係によって設定されるのであり,必要に応じてイ ンフォーマルにも設定されるのであるが,後者が設定されるのは前者の不足を 補うためであり,そうでない場合でも前者によって相当規定されてくると思わ れる。この伝達経路は,明らかに,新しい共通目的の設定のために作られるの ではなく,それ以前に設定された共通目的の達成のための非個性的な意思決定 体系によって規定されているのである。従って、この伝達経路に基づいた情報 によって目的を設定しようとすると,環境や組織特性の知覚において,一種の 遅れ(lag)を生ずると考えられる。しかしながら,環境や組織特性の変化が 比較的安定している場合には,それ以前の体系の伝達経路でも十分役立つので ある。そこで取り合えず,環境や組織特性が安定的とみなし,共通目的が環境 や組織特性に則して設定されたと仮定し次の考察に進むことにしよう。
このように仮定するならば,一定の1を生み出す具体的なCは,設定された 共通目的の達成を可能にする組織の非個性的な意思決定の体系に依存すると考 えられる。目的を達成するために最適な代替案を選択することを合理的とい い,その程度を合理性という言葉で表わすならば,一定の1を生み出す具体的 なCの構成を目ざす組織存続のメカニズムの問題は,組織の非個性的な意思決 定体系の合理性の問題とみなされる。ところでバー般に意思決定には,大別し て三つの局面が含まれている。H・A・サイモンはそれを,(1)諜報活動の局 面,(2}企画活動の局面,(3)選択活動の局面,と区分している。(1)は環境を探索 することによって目的を設定する局面であり,(2)はその目的を達成しうる代替 案を発明したり開発したり分析する局面であり,(3)はこれらの代替案の結果を 予測し評価することによってその中から特定の代替案を選択する局面である。
これらの局面は,(1)(2)(3)の順に行なわれて1つのサイクルを成すのであるが,
斎藤・鈴木:環境変化と組織適応に関する基礎的考察 13
現実にはずっと複雑な様相を呈する。それは,問題が複雑なために,それ自体 すぐに解決することが出来ないゆえ,それを解決するために問題を下位分割
し,解決しうる程度にその複雑性を引き下げねばならないからである。「すな わち,いかなるレベルの問題も,諜報,企画,選択という諸局面を有する下位
(6)
問題を次々と生ずるのである。」
非個性的な意思決定体系が目的を達成しようとする場合にも,その目的が広 すぎ,且つその目的に関連して識別される環境は非常に複雑で不確実である。
意思決定者は,もちろん,全知全能ではなく,この目的やその環境の複雑性に 対してその意思決定能力は非常に制約されている。J・G・マーチ=H・Aサ イモンは,意思決定者のこの能力の乏しさを, 「合理性における認識上の限
(7)
界」に原因すると述ぺている。この認識上の限界のために,意思決定者は広い 目的を複雑で不確実な環境において,合理性の高い意思決定を行い得ないので
(8)
ある。従って,「目的のたえざる精緻化と事実のますます綿密な識別」を行わ なければならないのである。これは,目的の細分化とそれに伴う環境の細分化 を意味しており,先述した,「いかなるレベルの問題も下位問題を次々と生ず る」ということに相応する。つまり,環境の細分化によって,そこに含まれる 要素とその不確実性の予測とが意思決定者の認識上の限界による意思決定能力 の範囲内に狭まることによって,合理性の高い意思決定が可能になるのであ
る。
さて,このように環境の細分化を行うためには,意思決定者に環境の中の特 定の要素のみを注目させるような,いわゆる判断のよりどころとなる準拠枠を 彼に与えてやることが必要である。組織の構成員が体系から与えられた非個性 的な意思決定を行うということは,その意思決定の準拠枠が個人的に設定され るのではなくて,組織によって与えられ,それに従うということを意味するの である。組織から与えられた準拠枠に基づいた非個性的な意思決定が体系を成
すというのは,共通目的の目的手段分析による下位分割によって,その各々の 】
下位目的が意思決定者の目的となり,意思決定者の諜報活動が体系によって規 定され,その目的から導き出される準拠枠によって,企画活動や選択活動が行 なわれるためである。
このように,非個性的な意思決定の体系は,目的分割による意思決定の分業
化と,その目的から導き出される準拠枠による環境の分割をもたらすのであ
る。また,この体系は,次の共通目的を設定する際の情報のサーチや処理や伝
達をも規定するのであった。従って,組織存続のメカニズムの要点は,共通目 的の設定のために環境と組織特性についての適切な情報をいかにして入手する かということと,設定された共通目的を達成するのにいかに合理性を高めるか ということであるが,これは両者とも,非個性的な意思決定体系の構成の在り 方に依存する問題であると結論される。
第五章 一時性と適応的組織構造
私たちは,適応という言葉をある情況における組織存続の意味として用い,
この組織存続のメカニズムを中心に考察して来た。その結果,このメカニズム の要点が,組織という非個性的な意思決定体系の構成の在り方にあるというこ とを理解した。この非個性的な意思決定体系の構成の在り方とは,意思決定の 包摂関係の在り方のことであり,意思決定の包摂関係を組織構造ということに すれば,組織存続のメカニズムの要点とは,組織構造の在り方にあると考えら れる。組織存続のためには組織全体の1を生み出す具体的なCを構成しなけれ ばならなかったのであるが,それには環境や組織特性に則して具体的な共通目 的を設定し,その達成を目ざして合理性の高い意思決定を体系的に行うことが 必要であった。このためには,複雑で不確実な環境を分割したり,それに伴っ て意思決定を分担したり,さらには情報のサーチやその伝達などを行うことが 不可欠である。そして,これらは非個性的な意思決定体系の構成すなわち組織 構造に依存して規定されると考えられるのである。
ところで,前章では,比較的安定した環境における組織存続を中心に考察し た。しかしながら第一章で指摘したように,現代は変化の時代であり,変化の 加速度的増大と新奇性との結合によってもたらされる一時性をその特質として いる。それゆえ,現代に生きる私たちとしては,かかる情況における効率的適 応のメカニズムの手懸りを求めなければならない。私たちは,適応という言葉
をある情況における組織存続の意味として用いたのであるから,このメカニズ
ムは,一時性の高い環境における組織存続のメカニズムの必要要件を検討する
ことによって明らかになると考えられる。従って,ここでは前章の考察にのっ
とって,かかる環境における,共通目的の設定とその達成のための非個性的な
意思決定体系の二点に注目して検討していくことにする。
斎藤・鈴木:環境変化と組織適応に関する基礎的考察 15
そこでまず,共通目的の設定について考察しよう。この具体的設定には,ど うしても環境や組織特性について正しい知覚を得る必要があるが,ここでは取 り合えず環境についてのみ言及することにする。前章では,環境に関する情報 は,それ以前に存在する意思決定体系の情報のサーチやその伝達といった機能 に依存して得られると考えた。環境が安定しているならば,以前の意思決定体 系によっても十分に環境を正しく知覚しうると思われるけれども,現代のよう に一時性の高い環境においては,そのようなことは期待しえない。以前の意思 決定体系はそれ自体の目的達成のためのものであり,新しい共通目的設定のた めのものではない。ゆえに一時性の高い環境においては,この古い意思決定体 系に基づいて環境の情報を得ても,新しい環境を正しく知覚することは出来な い。従って,新しい共通目的をかかる環境に則して設定するには,情報をサー チし処理し伝達する専門化した組織単位の形成が必要である。さらに,環境変 化に伴う共通目的の連続した設定の必要を考えると,そのような組織単位が継 続して機能することが不可欠になると言える。ここで組織単位とは,一つの具 体的な下位目的をめぐって作られた目的手段構造にその組織の活動が一致する
ような組織を意味する。この場合は,共通目的を設定するというのがその具体 的な下位目的に相当する。
さて,この専門的組織単位は,一時性に富む環境に対処するために作られる のであるから,情報のサーチや処理や伝達も迅速に行なわれなければならな い。かかる情報が最終の共通目的設定の意思決定者に伝達されるのに要する時 間は,その情報伝達における授受の頻度に依存すると考えられるから,この組 織単位の意思決定体系は,上位と下位を連結する中間の意思決定を少なくする ことが必要となる。これは,少数化した中間の意思決定者に対して従来に数倍
する負担を掛けることになり,それを軽減する技術的な工夫が必要となる。し o