研究報告 :秋 田大学医学部保健学科紀要
11( 1 ):
81‑85,2003在宅高齢者 の Func t i ona lRe a c hTe s t と身体特性,運動機能 との関連
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川
山大
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若要 ヒ E ユ l
本研究 の目的 は在宅高齢者の
FRTと年齢,身体特性,運動機能 との関連 を調べ ることである.
対象 は
14名の女性で,平均年齢 は
74.0±3.0歳
(70‑81歳)であ った.全対象者 は屋外歩行が 自立 して お り, 過去
1年間 に転倒の経験 を有 していなか った.
FRTと身体特性 ( 身長,体重,下肢長,上肢長) ,運動機能 ( 片脚立位時間,
10m最大歩行速度,握力,体重比膝伸展筋力)を測定 し,
FRTとの関連の分析 に
Peason積率相関係数 の検定を行 っ
た.
FRT
は年齢,身体特性,運動機能 のいずれ とも有意 な相関を認めなか った.
対象者数 が少 な く身長幅や年齢幅が狭か ったことか ら,身体特性や年齢の影響が
FRTに反映 されなか った と考 え られた. また
FRTの特性 を静的バ ランス能九 歩行能九 筋力の要素か ら十分 に説明で きなか った ことか ら, 屋外 歩行 自立 レベルにある運動機能 を有す る高齢者 に
FRTを行 う際には,
FRTの解釈 を慎重 に捉 え る ことが望 ま しい
と考 え られた.
は じめに
高齢社会 の進行 に伴 い大腿骨頚部骨折 が増加 してお り,医療財政への負担増大が問題 にな って い る1). ま た大腿骨頚部骨折 は,寝 た きりや要介護 の原因になる ことか ら,予防の必要性が認識 され2), 主 な発生機転 とな る転倒 のハ イ リスク者 を予測す る評価が開発 され て きている3・4)
FunctionalReachTest(以 下FRTとす る) は Duncanら5)によって紹介 され た立位 バ ランス評価 で ある.FRTと転倒 との関連 につ いて は,転倒者 が非 転倒者 に比 べて有意 に低値 を示す とい う報告6)や, 転 倒者 と非転倒者間にはFRTの有意 な差 を認 めず7・8), む しろ握力,下肢筋力 の低下が転倒 リスクファクター となることを示す報告9)もあ る. 現時点 で はFRTと 転倒 との関連が他 の評価 ツールに比べて,必ず しも明 確 には示 されていないと思 われ る. また,FRTと身
体特性 との関連 については,FRTと身 長 との間 に相 関が認 め られることが報告5,10)されてお り,FRTにお ける身長の影響が示唆 されて い る.FRTと運動機能 との関連 は,FRTと歩行速度, 片脚立 位時 間 との相 関4・11)を認 めた とす る報告 が あ る一 方 で,Wernick‑
Robinsonら12)
は
FRTと歩行速度 との間 に相 関 を認 めなか ったと報告 し, さらにFRTとTimedupand goテス ト間に相関 を認 めな い とす る報告13)も見 られる.すなわち, これ ら諸家 の報告 か ら,FRTと運動 機能 との関連 について更 に分析 を進展 し,FRTの特 性を明確 に示 しつつ,転倒の予測指標 と しての妥 当性 を確認す る必要性があることを指摘 で きる.
以上 の背景 を受 けて,本研究では屋外歩行 の自立 レ ベルにある在宅高齢者 におけるFRTと年齢,身 長, 体重,上肢長,下肢長 との関連 お よび,FRTと転 倒 の リスクファクターと して一般的に用 い られている片
1 )秋 田大学医学部保健学科理学療法学専攻
2)秋 田大学医学部保健学科作業療法学専攻 3)弘前大学医学部保健学科理学療法学専攻秋田大学医学部保健学科紀要 第11巻 第1
号
KeyWords:FunctionalReachTest
在宅高齢者
身体特性 運動機能
81
(82)
大津諭樹彦/在宅高齢者の
FRTと身体特性, 運動機能 との関連
脚立位時間,10m最大歩行速度,握力,膝関節伸展筋 力 との関連 について検討 したので報告す る.
対象 と方法
対象 は秋 田県象潟町の象潟 ミニデイサー ビスを利用 している在宅高齢者で,本研究の目的についての説明 後 に同意 の得 られ た女性14名 であ った. 平均年齢 は
74.0±3.0歳 (70‑81歳) であ った. 全対象者 は歩行補 助具 を使用せず に屋外歩行が 自立 してお り,過去1年 間 に転倒 の経験 を有 していなか った. なお,転倒の定 義 は本人 の意思か らで はな く,地面 または低 い面 に身 体が倒れ ること14)とした.
測定項 目は身長,体重,下肢長,上肢長で, これ ら の項 目を身体特性 とした.四肢長の測定 は,下肢長 を 大転子か ら外果 までの距離,上肢長 を肩峰か ら榛骨茎 状突起 までの距離 とした.
運動機能 の測定項 目は片脚立位時間,10m最大歩行 速度,握力,膝関節伸展筋力 とした.片脚立位時間 は
Hurvfitzら15)の報 告 を参考 に, 最大45秒 までの左側 片脚立位時間を測定 した.2回測定 し最大時間を採用 した.握力測定 は立位体側垂下式 にて利 き手で2回行 い,平均 を代表値 とした.全対象者の利 き手 は右側で あ った. 測 定 機 器 に はSmedley'shanddynamo meterを用 いた.10m最大歩行速度 は10mを出来 るだ
82
け速 く歩 いた時の速度を算出 し,2回の測定値 の平均 値を採用 した.膝関節伸展筋力の測定で は,椅座位 に て足底 を床か ら離 し,股関節90度屈曲位,膝関節90度 屈曲位 にて左側膝関節伸展の最大等尺性筋力を2回測 定 し,筋力値の平均値か ら‑体重比膝伸展筋力を算出 し て,代表値 と した. 測定器具 に は ダイナモ メー ター
(Microfet)を用いた.
FRT
測定 は肩幅程度の開脚裸足立位 で, 右側 の肩 関節を90度屈曲,肘関節伸展位 に した時の右側第三指 先端の位置を開始点 に して,検者 の合図で前方 に最大 限上肢 を伸ば した時の右側第三指先端を到達点 として 計測 した.FRT
値 は開始点 か ら到達点 まで の距離 と して,壁 に設置 したメジャーにて値 を確認 した.1回 の練習後 に2
回測定 を行 い,FRT
距離 の最大 値 を代 表値 とした.なお,FRT
測定 中 に産 が床 か ら離 れ る か,足 をステ ップさせた際には中止 させ,再度測定を 行 った.FRT
測定 に先立 ち, 対象者全員 が痔痛 や肩 関節屈曲制限によりFRT
測定 に支障を きた して いな いことを確かめた.FRT
と年齢,身体特性,運動機能 との関連 の分析 にはそれぞれPeason積率相関係数の検定 を行 い, 育 意水準5%未満を有意 と判断 した.表 1.対象者の身体特性
(n=14) mean±SD (min一max) median
身長(cm) 146.0±5.4 (135.2‑152.2) 146.8
体 重
( k g)
51.5±9.2 (36.0‑63.0) 54.5下肢 長(cm) 70.9±3.9 (65J0‑78.0) 71.0
上肢 長(cm) 65.3±2.4 (62.0‑69.7) 65.5
表2.対象者のFRTと年齢,運動機能
(n=14) mean±SD (min一max) median FRT(cm) 23.4±3.8 (17.0‑30.0) 24.0
年齢 (歳 ) 74.0±3.0 (70.0‑81.0) 74.0
片脚 立位 時間
( se c)
22.9±18.9 ( 1.0‑45.0) 21.1 10m最大歩行速 度(m/sec) 1.5±0.3 ( 1.ト1.9 ) 1.5握 力
( kg)
16.4±3.1 (10.5‑21.0) 17.3体 重比膝伸展筋 力
( N/ k g)
301.3±80.0 (200.0‑455.6) 263.7秋田大学医学部保健学科紀要 第
11巻 第
1号
表 3.FRT
と身体特性との相関係数 (n=14) FRT有意性 )
長長長重肢肢身体下上
‑0.19 NS
‑0.36 NS 0.14 NS 0.24 NS Pearson積率相関係数
NS:notsignificant
表
4.FRT
と年齢,運動機能との相関(n=14) FRT 有意性 年齢
片脚 立位 時 間
10m最 大 歩行速度 握力
体 重比膝伸展筋 力
‑0.29 NS 0.19 NS 0.53 NS 0.32 NS 0.48 NS 関係数 NS:notsignificant
結 果
身体特性 の結果 を表1に,FRTと年 齢, 運動機能 の結果 を表2に示 した.
FRTと身体特 性 との相 関係 数 を表 3に示 した.
FRTと身長,体重,下肢長,上肢長 との間 には, い ずれ も有意 な相関 は認 め られなか った.
FRTと年齢,運動機能 との相 関係数 を表4に示 し た.FRTと年齢,片肺立位時間,10m最大歩行速度, 握力,体重比膝関節伸展筋力 との間には, いずれ も有 意 な相関を認 めなか った.
考 察
今回の結果か らFRTは身長,上肢長, 下肢長 との 間に有意 な相関を認 めなか った.FRTは前方 へ の重 心移動 によ って行われ る リーチ動作であるため5), 重 心移動 に必要 なバ ランス能力 に加 えて,身長や四肢の 長 さが影響す るので はないか と予測 した. 今 回FRT
と身長 との間 に相関を認 めなか った理 由は,対象者の 身長幅が17cmと比較的限定 された範囲内であったため, 身長 の影響がFRTに反映 しなか ったので はないか と 考 え られた. しか し,FRTと身長 との間 に相 関 を認
秋田大学医学部保健学科紀要 第11巻 第1
号
めたとす る報告5‑10)が幾つか見 られ ることか ら, 身長 とFRTとの関連 についてはさらに身長 幅 のあ る対象 群で検討 を重ねる必要 かあると考え られた.
また,FRTには加齢 による影響 が反 映 され る と予 測 したが,FRTと年齢 との間 には相 関 を認 めなか っ た.年齢 との間に相関を認 めたとす る大熊 ら10)は31‑ 80歳の者 を対象 に したのに対 して,今回 は70‑81歳 と 年齢の幅が狭か った ことがFRTと年齢 との間 に相 関 を認 めなか った要因 にな った と考え られた.
FRTと運動機能 の関連 で は,Wernick‑Robinson ら12)と同様 にFRTと歩行速度 との間 に有意 な相 関 が 認 め られなか った. また,バ ランス評価 ツール と して 広 く利用 されている片肺立位時間や,転倒の リスクファ クターとして利用 されている10m最大歩行速度,握力, 下肢筋力16)との間に も相関を認 めなか った.
これ らの運動機能の中で も,FRTの安定 した前方 リーチを保障す る要素 として,下肢筋力の影響が大 き いので はないか と考えていた. とりわけ抗重力筋 は全 筋群が関与 していると考えていた. しか し,今回の結 果か ら膝関節伸展筋力 とは関連がそれほど高 くない こ
とが分か った.む しろFRTは足関節底屈筋 力 との関 連8)が示 されてお り,足関節の安定性 が前方 リーチを 保障 していると推察 された.
今回FRTと運動機能 との関連が認 め られ なか った ことか ら,FRTの特性 を静的バ ラ ンス能 力, 歩行能 九 筋力の要素か ら十分 に説明で きなか った. この こ
とか ら,少な くとも屋外歩行 自立 レベルにある高 い運 動機能 を有す る高齢者 にFRTを行 う際 に は,FRT の解釈 を慎重 に捉 え,他 の運動機能評価 との総合的な 判断に基づ き活用す ることが望 ま しいので はない か と 考え られた.
また,臼田 ら17)は70名 の自立在宅高齢者を対象 に し た報告で,FRTを身長補正 す る ことによ り10m最大 歩行速度 との相関が認 め られた ことを示 した.さらに, 今回の結果 で はFRTがDuncanら5)の70‑87歳 の女 性 を対象 に した26.6cmよ り低 い値 を示 した. 彼 らの対 象者 の平均身長が167.1cmと本対象者 に比 べ て21cmも 高か った ことか ら,個体間でのFRTの比較 に は身長 の影響 も考慮す ることが必要であることが示唆された.
この ことか ら,FRTを身長 で補正 したFRT/height の妥当性 について検討す る余地があ ると考え られ,今 後 はFRT/heightと運動機能 との関連 につ いて も分 析 を進 めていきたいと考える.
本研究の限界 は対象者数が少 な く, また年齢の幅が 狭か った こと,対象者が女性 に限 られていた ことによ り,特定 の対象群 を代表す る結果になったことである.
今後 は年齢層の幅を広 げ, さらに性差の検討 も進 めて
83
(84)
大津諭樹彦/在宅高齢者の
FRTと身体特性, 運動機能 との関連
い きたい.
謝 辞
研究 に ご協力頂 いた象潟 ミニデイサ ー ビスの皆様 に 心 か ら感謝致 します.
文 献
1
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11 巻 第
1号
Re l a t i o ns hi po fFunc t i o na lRe a c hTe s tt oPhys I ● C a lCha r a c t e r i s t i c s a ndPhys i c a lPe r f o r ma nc e so fEl d e r l yPe o pl eLi vi ngi nCo mmuni t y
YukihikoOsAWAl)HidekiMoMIYAMAl)shunsukeKUDOl)
HouseiYosHIKAWA2)MasajiKINJO 2)TakashilsHIKAWA2)
Saichi
W
AKAYAMA3)1
)CourseofPhysicalTherapy,SchoolofHealthSciences,AkitaUniversity 2)CourseofOccupationalTherapy,SchoolofHealthSciences,AkitaUniversity 3)DepartmentofPhysicalTherapy,SchoolofHealthSciences,HirosakiUniversityThepurposeofthisstudywastoanalyzetheinfluenceofphysicalcharacteristicsandphysicalperformances onFunctionalReachTest(FRT)inelderlypeoplelivingathome.Fourteenhealthyelderlywomen(70‑81 years)participatedinthisstudy.Wemeasuredphysicalcharacteristics(height,weight,lengthoflowerex‑
tremity,lengthofupperextremity)andphysicalperformances(timeofstandingonone‑foot,gripstrength
,
10mmaximumwalkingspeed,kneeextensionmusclestrength).TheassociationbetweenFRTandage,physi‑ calcharacteristicsandphysicalperformancesweretestedusingpeason'scorrelationcoefficien