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表 1 ICU 患者に対する強化インスリン療法による在院死亡率の改善 症例数 CONV 群 IIT 群 P-value Van den Berghe % 7.2% 0.01 Krinslery % 14.8% Van den Ber

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(1)

はじめに

 高血糖は傷害やストレスなどの侵襲への生体反応であ り、ブドウ糖は脳神経細胞、創傷治癒や炎症に関わる細 胞の重要なエネルギー源として利用される。  しかし、高血糖により高浸透圧利尿をきたし、一方、炎 症反応、免疫機能や凝固系などへの障害をおこす。それら の障害は感染を伴ってさらに増悪し、生体に不利に働くこ とがある。術後感染、心筋虚血、中枢神経障害において、 高血糖は予後不良因子であることが報告されている。  周術期・重症患者において、従来、血糖管理は血糖値 の上限を200mg/dL前後として行なわれてきたが、侵襲 時のインスリン抵抗性などによる耐糖能異常で、血糖管理 には難渋することが多い。

強化インスリン療法

 2001年にVan den Bergheらは、外科ICU患者 を対 象として、上限を110 mg/dLとする厳密な血糖値の管理 (以下:強化インスリン療法)の重要性を示した1)  ICU患者1548例を対象として前向き無作為比較試験 が実施された。インスリン持続投与により、血糖値を180-200mg/dLに維持した群(conventional treatment: CONV)783例と、血糖値を80-110mg/dLに維持した群 (intensive insulin treatment: IIT)765例とで比較検 討された。平均インスリン持続投与量は、CONV群で1(単 位/時間)であったが、IIT群で3(単位/時間)を要した。 平均血糖値は、CONV群で173 mg/dLに、IIT群で 103mg/dLにコントロールされた。   ICU死亡率はCONV群で8.0%からIIT群4.6%と改善 が認められた。5日間の短期の死亡率はCONV群1.8%と

特集:栄養管理のピットフォール –理論と実際のはざま–

周術期・重症患者の血糖コントロール 

—強化インスリン療法はどこまで可能か?—*

keywords:

血糖管理、重症患者、低血糖

中村卓郎 Takuro NAKAMURA ◆群馬大学大学院臓器病態救急学 

Department of Emergency Medicine, Gunma University Graduate School of Medicine

 高血糖は傷害やストレスなどの侵襲への生体反応であるが、術後感染、心筋虚血、中

枢神経障害において、高血糖は予後不良因子であることが報告されている。周術期・重

症患者において、従来、血糖管理は血糖値の上限を200 mg/dL前後として行なわれて

きたが、侵襲時のインスリン抵抗性などによる耐糖能異常で、血糖管理には難渋するこ

とが多い。

 心臓血管外科患者においては、血糖上限値を110 mg/dLとする強化インスリン療法

が臨床的に有用であることが示されていた。外傷、脳損傷、敗血症などの他の対象疾患

では血糖管理の目標値が異なることが考えられ、強化インスリン療法の一律の施行に

ついては疑問視されている。

 重症患者における血糖管理の重要性が薄れたわけでなく、栄養投与量、栄養投与経

路、栄養基質についてのさらなる今後の検討が必要である。

(2)

IIT群1.7%で差を認めなかった。長期入院を必要とした患 者においても、ICU死亡率はCONV群で20.2%からIIT 群10.6%と改善が認められた。また、在院死亡率はCONV 群で10.9%からIIT群7.2%と改善が認められた。長期入 院を必要とした患者においても、在院死亡率はCONV群 で26.3%からIIT群16.8%と改善が認められた(表1)。  対象のおよそ6割が心臓血管外科患者であった。心臓胸 部外科患者において、ICU内死亡率はCONV群で5.1%か らIIT群で2.1%と改善が認められた。しかし、その他の患者 において、ICU内死亡率はCONV群で13.1%でIIT群8.7% と有意な改善が認められなかった。その他の患者、内科疾 患、外傷や一般外科患者での有効性は示されなかった。  死因では敗血症を伴った多臓器不全によるものが、 CONV群に比してIIT群で有意に減少した。急性循環障 害、重症脳傷害、敗血症を伴わない多臓器不全を死因と したものは、両群に差を認めなかった。  CONV群とIIT群とで比較して、強化インスリン療法に よるリスクの有意な減少率は、血流感染で46%、長期抗 生剤使用で35%、血液透析を必要とする急性腎不全で 41%、重症多発性神経炎で44%、長期人工呼吸管理 で37%、長期ICU在室で27%であった。その他の有 用性では、赤血球輸血回数の減少、脂質代謝の改 善、炎症の軽減が認められた2)3)  一方、重症ICU患者への血糖管理において、多量の インスリン投与により死亡率が増加することが報告され ている。生存率の改善の因子としてはインスリンの薬物 効果より血糖管理が重要であると考えられている4)5)

その後の強化インスリン療法

 強化インスリン療法は2001年の報告に続いて、い くつかの臨床研究が行なわれた。Krinsleryらは、 内科と外科ICU患者1600例を対象に、 血糖値目標を140mg/dLとして、在院死 亡率が20.9%から14.8%に有意に減少す ることを報告した(表1)6)。一方、Van den Bergheらは、内科ICU患者1200例を対 象に、血糖値目標を110mg/dLとした前 報と同様のプロとコールで、対象患者全 体では、死亡率の減少は認められなかっ た。しかし、3日以上ICU治療を要した患者では、在院死 亡率が52.5%から43.0%に有意に減少することを報告し た(表1)7)  Pittasらは、重症患者へのインスリン療法に関する35 の試験のメタアナリシスにおいて、短期間の死亡率が15% 低下することを報告した8)。また、Egiらは、7049例の重症 患者での検討で、血糖値の平均値と標準偏差の両方が 個々に低値であることが、死亡率の改善に有意に相関し ていることを報告した9)

強化インスリン療法の多施設治験

(表2)

 強化インスリン療法に関する多施設の無作為対照試験 が3つ報告されている。ドイツにおける重症敗血症患者 537例を対象とした検討(volume substitution and insulin therapy in severe sepsis: VISEP)では、死亡率 は26.0%から24.7%となり、改善は認められなかった10)。ま

た、欧 州に お けるICU患 者1101例を 対 象とした Glucontrol studyでも、死亡率は19.2%から16.2%とな り、改善は認められなかった11)。両試験は、強化インスリン 表1 ICU患者に対する強化インスリン療法による在院死亡率の改善

症例数 CONV群 IIT群 P-value

Van den Berghe 2001 1548 10.9% 7.2% 0.01 Krinslery 2004 1600 20.9% 14.8% 0.002 Van den Berghe 2006 1200 52.5% 43.0% 0.009 (3日以上 ICU 治療) (CONV:conventional glucose management, IIT:intensive insulin therapy) 表2 強化インスリン療法の多施設治験 VISEP trial: severe sepsis, n= 537,17 hospitals in germany 死亡率 26.0% 24.6% p= 0.74 低血糖発生率 2.1% 12.1% p< 0.001 GLUCONTROL trial: ICU, n= 1101,21 hospitals in EU 死亡率 19.2% 16.2% p= 0.19 低血糖発生率 2.7% 9.8% p< 0.001 NICE-SUGAR trial: ICU,n=6022,37hospitals in Australia,New Zealand,and Canada 死亡率 24.9% 27.5% p=0.02 低血糖発生率 0.5% 6.8% p< 0.001

(3)

での検討でも、強化インスリン療法によって、神経学的予後 改善と死亡率の改善のいずれも認められなかった20)。目標 血糖値を80-110mg/dLとする強化インスリン療法では有 用性は認められず、低血糖のリスクを考慮すると、重症脳 損傷患者での至適血糖値は110-180mg/dL が望ましい と考えられている 21)

強化インスリン療法の問題点

 2001年の外科ICUでの最初の報告では、血糖値<40 mg/dLの低血糖の発生頻度が、CONT群で0.8%に比 べ、IIT群で5%と高かった 1)。また、2006年の内科ICUで の報告では、従来の方法に比べて、低血糖の頻度が3倍近 く増加した(CONV群6.2%vsIIT群18%)7)。上述の多施 設での検討でも、高率に低血糖が認められた10)11)12)  検証されたプロトコールに基づいた、頻回の血糖測定によ る管理が必要とされた。強化インスリン療法は、厳重な管理の できるICUなどで施行されるべきである。また、理想的には 人工膵臓を用いた血糖管理が望ましいと考えられている22)  強化インスリン療法施行中に、高カリウム血症により心 停止をきたしたと考えられる症例が報告された23)。また、 Gandhiらによる400例の心臓血管外科手術患者に対す る強化インスリン療法によって、有意に脳卒中が発症した ことが報告された(CONV群1/201 vs IIT群8/199)24)  血糖測定法については、耳や指先を穿刺してえられる毛 細血管血を簡易血糖測定器を用いて測定した血糖値は、 動脈血を血ガス分析装置で測定したものと誤差が大きい ので、強化インスリン療法では用いるべきでないことが報 告されている25)。 

栄養投与下での血糖管理

 救急・集中治療領域において、外傷、熱傷、敗血症時に は、生体は代謝の亢進 状態にあり、エネルギー の需要の亢進により不 足したエネルギーの投 与が必要となる。  しかし、耐糖能異常 により血糖コントロール が困難であるとき、投 療法による高率な低血糖と副作用が認められたため予定 より早期に中止された。一方、オーストラリア、カナダなどの 37施設におけるICU患者6022例を対象とした検討 (Normoglycemia in Intensive Care Evaluation and

Survival Using Glucose Algorithm Regulation: NICE-SUGAR)が行なわれた12)。90日死亡率は24.9% から27.5%と有意な悪化が示された。

外傷・神経疾患における血糖管理

 外傷における高血糖は死亡率と相関することが報告さ れている13)。また、外科ICU患者と比較して、外傷患者では より高血糖による予後不良への相関がより強まることも報 告されている14)。Lairdらによる外傷患者 516例を対象と した検討では、血糖値が 200mg/dL上限で感染合併率 の改善と死亡率の改善を認めた。血糖値が110mg/dL上 限では、感染合併率と死亡率の改善を認めなかった15)。ま た、重度熱傷小児患者58例を対象とした検討では、血糖 値が140mg/dL上限で死亡率の改善を認めた16)  一方、頭部外傷や脳血管障害などの重症脳損傷の患者 でも、高血糖により予後が不良になることが報告されてい る。Aristedisらによる重症頭部外傷患者267例を対象 とした検討では、血糖値が200mg/dL上限で神経学的予 後の改善を認めた17)  重症脳損傷患者に対する強化インスリン療法について、 いくつか報告されている(表3)。Van den Bergheらによ る頭部単独外傷患者63例を対象とした検討では、脳圧上 昇の軽減、痙攣合併率の減少、12 ヶ月後の自立度の割合 の上昇を認めた18)。また、Vespa らによる43例の外傷性脳 損傷患者での検討では、強化インスリン療法によって、神 経学的予後改善と死亡率の改善のいずれも認められな かった19)。一方、Bilottaらよる78例のクモ膜下出血の患者 表3 重症脳損傷患者に対する強化インスリン療法の効果           症例数     神経学的予後改善      死亡率

CONV群 IIT群 P-value CONV群 IIT群 P-value

Van den Berghe 2005 63 50% 81% 0.05 30% 48% 0.3

Vespa 2006 43 60% 43% 0.3 15% 14% 0.9

Bilotta 2007 78 58% 53% 0.7 18% 15% 0.9

(4)

は一定の同意は得られていないが、侵襲時でも投与が可能 なことが多いので、耐糖能異常の症例では検討されるべ きである。中性脂肪のモニタリングが不可欠である。

重症敗血症および敗血症性ショック管理

のためのガイドライン2008

(表4)

29)  最後に敗血症サバイバルキャンペーンの最新版を紹介 する。2004年の初版のガイドラインの改訂が2008年に 行なわれた。血糖コントロールの項目では、エビデンスの質 の評価がDからBまたはCに上昇した。高血糖を呈する 重症敗血症患者において、初期治療終了後の血糖コント ロールの重要性が、より強く推奨されている。目標の血糖 値は150mg/dL未満で変更されなかった。

おわりに

 心臓血管外科患者においては、血糖上限値を110mg/ dLとする強化インスリン療法が臨床的に有用であること が示されていた。しかし、外傷、脳損傷、敗血症などの他の 対象疾患では血糖管理の目標値が異なることが考えら れ、強化インスリン療法の一律の施行については疑問視さ れている。重症患者における血糖管理の重要性が薄れた わけでなく、栄養投与量、栄養投与経路、栄養基質につい ての今後の検討が必要である。 与エネルギー量を減少させざるをえないことがある。欧州 静脈経腸栄養学会のガイドラインでは、重症患者の急性 期には、エネルギー投与量が20-25kcal/kg/dayを越え ないことを推奨している26)  強化インスリン療法において、2001年の外科 ICUでの 最初の報告ではエネルギー投与量は19kcal/kg/dayで あった。2001年の外科ICUと2006年の内科ICUをあ わせた報告ではエネルギー投与量は15kcal/kg/dayであ り、2009年の多施設治験ではエネルギー投与量は11 kcal/kg/dayであった。いずれも投与エネルギーは低値 であった1) 12) 27)  栄養投与経路について、経腸栄養では静脈栄養に比 べ、血糖コントロールが容易であることが多い。2001年の 外科ICUでの最初の報告では、6割をこえる症例で経腸 栄養により投与されていた。静脈栄養のみの群(n=184)と 経腸栄養/静脈栄養の併用群(n=267)の比較では、両群 間に血糖コントロール結果とICU内死亡率の減少に差を 認めなかった 1)  糖質の投与は、グルコースを用いることが原則である が、耐糖能異常の症例ではインスリンの使用を考慮するだ けでなく、他の糖質との併用も念頭にいれる必要がある。 グルコース、フルクトース、キシリトールの比が、4:2:1 で 最も有効であることが報告され、TPN製剤としてGFX輸 液が作成されている28)。   栄養基質の選択について、侵襲時の脂質投与に関して 表4 重症敗血症および敗血症性ショック管理のためのガイドライン2008

血糖コントロール

1. 初期に安定化した後、高血糖を呈する重症敗血症患者には、血糖値を下げる

  ために、インスリンを静脈内投与する(1B)。

2. 検証済みのプロトコールを用いてインスリンを投与して、血糖値を 150mg/dL

  未満にする(2C)。

3. インスリンの静脈内投与を受ける患者のカロリー源をブドウ糖とする。血糖値

  とインスリン注入速度が安定するまでは 12hrs 毎に、その後は 4hr 毎に血糖

  値を測定する(1C)。

4. 毛細血管血を簡易血糖測定器を用いて測定した血糖値は、動脈血を血ガス分

  析装置で測定したものより低値となるので、注意を要する(1B)。

(エビデンスの質:A 高い、B 中、C 低い、D 非常に低い。勧告の強さ:1 強い、2 弱い)

(5)

参考文献

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参照

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